(平成24年2月10日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、勤務先の株式報酬制度に基づいて支給された株式について、当該株式の譲渡が可能となった平成20年9月18日が当該株式に係る給与所得の収入金額の収入すべき日であるとして、同日の当該株式の株価等により給与所得の収入金額を計算して確定申告をしたところ、原処分庁が、当該株式は、平成20年9月8日に受領する権利が確定したものであり、当該株式に係る給与所得の収入金額は、同日の株価等により計算した金額であるとして、所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったことから、請求人が、その収入すべき日の認定に誤りがあるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成20年分の所得税について、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
ロ D税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成23年1月31日付で別表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成23年3月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月13日付でいずれも棄却の異議決定をし、その決定書謄本を請求人に対し同月23日に送達した。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成23年6月21日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

 所得税法第36条《収入金額》第1項は、その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする旨規定し、同条第2項は、前項の金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額は、当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額とする旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成4年8月に日本に入国してから、f国の法人であるE社の関連会社(以下、E社及びその関連会社を併せて「E社グループ」という。)である内国法人に勤務し、平成20年には、F社に勤務しており、平成20年9月時点では、所得税法第2条《定義》第3号に規定する居住者であった。
ロ E社グループでは、主要な役員及び従業員(以下「従業員等」という。)を確保し、その雇用を継続させるとともに、精勤の動機付けとすることを目的として、将来の一定の日にE社の株式を支給する旨の「ストック・ユニット」という株式報酬制度を実施していた。
ハ E社グループの株式報酬制度は、E社の報酬委員会の決定及び報酬証書(AWARD CERTIFICATE)に定める諸条件に従うこととされており、当該報酬証書(2003年版、2004年版、2005年版及び2006年版)によれば、ストック・ユニットの概要は以下のとおりである。
(イ) ストック・ユニットとは、将来の指定された日(コンバート(Convert)日)に、ストック・ユニット1単位に対してE社の普通株式1株を支給する旨の無保証の約束であり、ストック・ユニットを付与された者(以下「被付与者」という。)は、E社に対して無保証の債権者としての権利のみを有する。
(ロ) 被付与者は、ストック・ユニットが株式にコンバート(Convert)するまでは、ストック・ユニットに対応するE社の普通株式の所有者ではない。
(ハ) E社が普通株式の配当を支払う場合、被付与者に対しては、ストック・ユニットが株式にコンバート(Convert)するまでは、配当相当額が支払われる。
(ニ) 被付与者は、付与されたストック・ユニットを売却等して移転することができない。
(ホ) ストック・ユニットは、あらかじめ定められた1回目の確定日(Vesting date)にその50%が確定(Vest)し、2回目の確定日に残りの50%が確定する。
(ヘ) 被付与者が、付与日以降、確定日まで勤務を継続するとストック・ユニットは確定(Vest)するが、途中で退職した場合は、特に定める場合を除いて、未確定のストック・ユニットは取り消される。
(ト) ストック・ユニットは、被付与者に一定の事由(不正行為による解雇、競合行為、情報漏えい等)が生じた場合には、確定後であってもコンバート(Convert)日前においては取り消される。
(チ) ストック・ユニットは、コンバート(Convert)日において、1単位につき1株のE社の普通株式にコンバート(Convert)し、必要に応じて源泉徴収債務等相当額(コンバート(Convert)日の株価で算出)の株式数を差し引いて、被付与者に株式が支給される。
(リ) コンバート(Convert)日後は、上記(ト)の取消条項は適用されない。
(ヌ) 支給された株式は、証券に関する法規制及びE社グループの従業員等に対する金融取引の規制方針による譲渡制限以外の取引制限を受けない。
(ル) 被付与者は、コンバート(Convert)後、E社の普通株式のベネフィシャル・オーナー(Beneficial owner)となり、議決権及び配当の受領権を含む株式の所有者としての権利が与えられる。
ニ E社グループの従業員等取引方針(Global Employee Trading Policy)は、E社グループの全従業員等の金融取引について、要旨以下のとおり定めている。なお、E社グループの各法人は、所在する各国又は地域における取引規制の状況を踏まえてそれぞれ個別の取引方針を定めており、日本の法人においては、E社グループの従業員等取引方針に定められた取引制限のほかに、日本証券取引業協会規則等に即した取引制限が加えられている。
(イ) 従業員等取引方針の目的は、従業員等が短期的かつ投機的な投資を慎むよう要請し、長期的な投資を行うよう奨励するとともに、内部情報の不正利用を防止し、従業員等が不正な個人取引を行っているかのような印象を外部に与えることを回避することにあり、当該取引方針は、E社グループの全ての従業員等の証券等取引口座に適用される。
(ロ) 従業員等は、保有している証券等取引口座を当社に開示しなければならない。
(ハ) 事前承認を受けた場合を除き、従業員等は、全ての取引を当社に開設した証券等取引口座を通して行わなければならない。
(ニ) 従業員等の取引注文の入力は、社内の従業員等取引デスクを通じて行わなければならず、従業員等は、直接、取引注文を入力することはできない。
(ホ) 従業員等は、E社グループの法人が発行する全ての有価証券の取引については、E社が定めた一定期間(以下「ウインドー・ピリオド」という。)内でしか行うことができない。ウインドー・ピリオドは、従業員等の職責により決められており、マネジメント委員会のメンバー等の一定の職責にある者については、四半期ごとの業績発表後20営業日まで、一般の従業員等については、業績発表後各四半期の最終営業日までの間である。
(ヘ) オペレーティング委員会、マネジメント委員会及びコントローラーのメンバーは、E社グループの法人が発行する有価証券の取引を行う場合には、いかなる取引についても法務の最高責任者の事前承認を得なければならない。
(ト) 従業員等取引方針に違反した場合、E社は、違反した取引を従業員等の費用負担で事前通知なしに解約することができ、従業員等は、取引停止や解雇等の処分を受けるとともに、不正取引から発生した損失を負担しなければならず、利益については没収される。
ホ 請求人は、平成15年11月28日、平成16年11月30日、平成17年12月13日及び平成18年12月12日に、E社からストック・ユニットを付与された(以下、請求人に付与されたストック・ユニットを「本件ストック・ユニット」という。)。
ヘ 平成19年12月11日、E社の報酬委員会は、平成16年に付与した全ストック・ユニットのコンバート(Convert)日(当初、平成21年9月8日を予定。)、平成17年に付与した全ストック・ユニットのコンバート(Convert)日(当初、平成22年9月8日を予定。)及び平成18年に付与したストック・ユニットのうち50%のコンバート(Convert)日(当初、平成22年1月2日を予定。)を平成20年9月8日に変更する旨決定した。なお、平成15年に付与したストック・ユニットのコンバート(Convert)日は、平成20年9月8日のままである。
ト 平成19年12月14日に、E社の人事担当者Gから「Important Information Regarding Equity Incentive Compensation」と題するメールにより、上記ヘの報酬委員会の決定事項が請求人に通知された。
チ 本件ストック・ユニットは、平成20年9月8日(コンバート(Convert)日)に、E社の普通株式にコンバート(Convert)し、併せて従業員等の株式報酬に関する情報サイト「○○○○」において、次のとおり、コンバート(Convert)した株式の数及び支給される株式の数が、請求人に開示された(以下、このコンバート(Convert)により支給される株式を「本件株式」という。)。
(イ) 平成15年の付与分につき、コンバート(Convert)数4,583株、支給数2,978株
(ロ) 平成16年の付与分につき、コンバート(Convert)数9,542株、支給数6,202株
(ハ) 平成17年の付与分につき、コンバート(Convert)数10,534株、支給数6,847株
(ニ) 平成18年の付与分につき、コンバート(Convert)数3,819株、支給数2,482株
リ 平成20年9月9日、本件株式18,509株が請求人の証券等取引口座に振り替えられた。
ヌ 平成20年9月8日以降、直近のウインドー・ピリオドの開始日(本件株式の譲渡が可能となった日)は、平成20年9月18日であった。
ル 請求人は、上記リの本件株式18,509株に係る給与所得の収入金額を、H証券取引所における公表されたE社の普通株式の平成20年9月18日の最高値と最安値の平均値(1株当たり18.21f国通貨)を基に計算し、これを、平成20年分の給与所得の収入金額に算入して申告した。
ヲ H証券取引所における公表されたE社の普通株式の平成20年9月8日の最終価格(終値)は、1株当たり43.27f国通貨であった。

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2 争点

 本件株式に係る給与所得の収入金額の収入すべき日は、コンバート(Convert)日(平成20年9月8日)と譲渡が可能となった日(同月18日)のいずれであるか。

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3 主張

(1) 原処分庁

イ 所得税法第36条第1項は、現実の収入がなくても、その収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとして、権利確定の時期の属する年分の課税所得を計算するいわゆる権利確定主義を採用したものと解され、ここにいう収入の原因となる権利が確定する時期は、その権利の特質を考慮し決定されるべきである。
 これを本件についてみると、まる1E社は、本件ストック・ユニットについて、平成20年9月8日を転換(Convert)日とし、同日に株式を引き渡す旨を決定して請求人に通知したこと、まる2平成20年9月8日に本件ストック・ユニットが普通株式に転換(Convert)し、請求人が本件株式に係る議決権及び配当受領権を含む全ての権利を取得したことから、本件株式を受領する権利が確定したのは、平成20年9月8日であり、同日が収入すべき日である。
ロ なお、E社グループの従業員等が、平成20年9月8日から同月17日までの間、従業員等取引方針により本件株式を売却(換価)することができなかったとしても、当該取引方針は、従業員等の違法行為を未然に防止することを目的としてE社グループの株式の取引を一定期間制限する社内規定にすぎないから、その法的拘束力の有無にかかわらず、本件株式の収入すべき時期の判断に影響を与えるものではない。

(2) 請求人

 コンバート(Convert)日の時点では、本件株式が請求人の証券等取引口座に振り替えられていないから、請求人は、本件株式のベネフィシャル・オーナー(Beneficial owner)にはなっておらず、本件ストック・ユニットが付与された時から与えられていた配当相当額を受領する権利のほかには、本件株式に係る権利を何も有していなかった。
 また、本件株式が請求人の証券等取引口座に振り替えられた時点でも、請求人は、従業員等取引方針の取引制限によって、ウインドー・ピリオドが到来する平成20年9月18日までは、本件株式を譲渡し、又は担保に供する等の処分及び用益をする権利を有していなかった。
 以上のことから、請求人が、通常の株主と同等に配当受領権及び議決権のみならず、株式を自由に処分し、又は本件株式を用益する権利を取得して財産の保有者となったのは、請求人の証券等取引口座に本件株式の振替がなされ、かつ、ウインドー・ピリオドが到来して本件株式の譲渡が可能となった平成20年9月18日であり、同日が収入すべき日である。

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4 判断

(1) 法令解釈

 所得税法第36条第1項は、現実の収入がなくても、その収入の原因となる権利が確定した場合には、その時点で所得の実現があったものとしてその権利確定の時期の属する年分の課税所得を計算するという建前(いわゆる権利確定主義)を採用したものと解すべきであり、ここにいう収入の原因となる権利が確定する時期は、その権利の特質を考慮し、決定されるべきものである(最高裁判所昭和53年2月24日第二小法廷判決・民集32巻1号43頁参照)。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 平成19年12月11日、E社の報酬委員会は、上記1の(4)のヘのとおり、本件ストック・ユニットのコンバート(Convert)日を平成20年9月8日に変更するとともに、本件株式を請求人の証券等取引口座への振替によって支給する(Pay by delivery)ことを決定し、上記1の(4)のトのとおり、平成19年12月14日付のメールにより、これらの決定事項及び本件株式の振替日(Delivery date)は平成20年9月8日である旨を請求人に通知した。
ロ 平成20年9月9日に、E社の株式報酬制度を担当しているExecutive Compensation部門から、「Unit to Share Conversion-Confirmation」と題するメールにより、本件ストック・ユニットが同月8日付でコンバート(Convert)したこと、及びE社グループ内の証券等取引口座に振り替える(Deliver)場合には、コンバート(Convert)日から5営業日以内、同グループ外の証券等取引口座に振り替える場合には更に5営業日程度の日数を要する旨が請求人に通知された。
ハ E社は、E社の普通株式を各被付与者の口座に振り替えるため、平成20年9月9日にE社の名義書換代理人であるJ銀行に指示し、K銀行に信託していたE社の普通株式のうち、66,954,684株を同月8日付で「Conversion Plan Sub Custody」と称する自社の口座に振り替えた。

(3) 当てはめ

イ 上記1の(4)のロ及びハによれば、E社グループの株式報酬制度であるストック・ユニットの内容(仕組み)は、従業員等に対して後にE社の株式にコンバート(Convert)するストック・ユニットという権利を付与し(同ハの(イ))、あらかじめ定められた確定日(Vesting date)及び将来の一定の日(コンバート(Convert)日)までの間、当該従業員等が雇用を継続し、精勤に努める等の諸条件を満たした場合には、当該確定日において、付与されたストック・ユニットの数が確定(Vest)し(同(ホ)、(ヘ))、その後、付与されたストック・ユニットは、被付与者に競合行為や情報漏えい等の一定の事由が生じた場合には、確定後であってもコンバート(Convert)日前においては取り消されるが(同(ト))、上記の一定の事由が生じなかった場合には、当該コンバート(Convert)日において、コンバート(Convert)により、付与されたストック・ユニットに対応するE社の普通株式が従業員等に支給され(同(イ) 、(チ))、コンバート(Convert)日後には、上記の取消条項は適用されない(同(リ))、というものである。
 そして、付与されたストック・ユニットに係る権利については、上記1の(4)のハによれば、被付与者は、付与されたストック・ユニットが株式にコンバート(Convert)するまでは、当該ストック・ユニットに対応する普通株式の所有者ではなく(同ハの(ロ))、無保証の約束に係る債権者としての権利のみを有し(同(イ))、E社が配当した場合にも飽くまで配当金相当額の支払を受けるにすぎず(同(ハ))、議決権及び配当の受領権を含む株式の所有者としての権利は与えられないが(同(ル))、他方で、コンバート(Convert)後は、E社の普通株式の所有者となり、当該株式に係る議決権及び配当の受領権を含む株式の所有者としての権利が与えられる(同(ル))こととされている。
 このような制度の内容等を総合すると、被付与者は、付与されたストック・ユニットのコンバート(Convert)日において、コンバート(Convert)により、当該ストック・ユニットに対応する普通株式の支給を受けて、当該株式の株主としての地位を確定的に取得するものと認められる。
ロ 請求人は、上記1の(4)のホのとおり、本件ストック・ユニットを付与されていたところ、E社は、上記1の(4)のへ及びト並びに上記(2)のイのとおり、平成19年12月11日に、当初、平成21年及び平成22年に予定されていた本件ストック・ユニットのコンバート(Convert)日を繰り上げて平成20年9月8日とし、また、本件ストック・ユニットに対応するE社の普通株式を請求人の証券等取引口座への振替によって支給することを決定して、平成19年12月14日付で、これらの決定事項とともに、本件株式の振替日はコンバート(Convert)日と同日である旨を請求人にあらかじめ通知するとともに、その後、上記1の(4)のチ及び上記(2)のロのとおり、請求人に対し、変更後のコンバート(Convert)日である平成20年9月8日付で、本件ストック・ユニットをその数に応じたE社の普通株式にコンバート(Convert)し、併せて当該コンバート(Convert)した株式の数及び支給した株式の数を開示した。
 以上のことからすると、上記イのとおり、請求人は、コンバート(Convert)日(平成20年9月8日)において、コンバート(Convert)により、本件株式の支給を受けて、本件株式に係る株主としての地位を確定的に取得したものと認められる。
ハ そうすると、本件においては、コンバート(Convert)日(平成20年9月8日)に、本件株式の支給を受けて、本件株式に係る株主としての地位を取得し、本件株式に係る所得が実現したというべきであるから、本件株式に係る給与所得の収入金額の収入すべき日は、同日とするのが相当である。
ニ これに対して、請求人は、まる1平成20年9月8日の時点では、本件株式が請求人の証券等取引口座へ振り替えられていないから、本件株式のベネフィシャル・オーナー(Beneficial owner)にはなっておらず、配当受領権や議決権などの株主としての権利を取得していなかったこと、また、まる2本件株式が請求人の証券等取引口座に振り替えられた時点においても、従業員等取引方針の定め(上記1の(4)のニの(ホ)のウインドー・ピリオド以外の期間は、E社グループの法人が発行する株式の譲渡を制限する旨)により本件株式を自由に処分及び用益をする権利を取得していなかったことからすれば、本件株式の譲渡が可能となった同月18日が収入すべき日である旨主張する。
 しかしながら、まる1については、上記(2)のイないしハのとおり、E社が、請求人に対し、本件株式の振替日がコンバート(Convert)日と同日である旨を事前に通知し、実際、同日に本件ストック・ユニットをコンバート(Convert)し、その翌日に、請求人に対して前日のコンバート(Convert)の事実及びコンバート(Convert)により支給される株式が請求人の証券等取引口座に振り替えられるまでに要する日数を通知し、同じく翌9日に、前日のコンバート(Convert)日の日付をもって各被付与者の口座にE社の普通株式を振り替えるための具体的な事務手続を開始したことが明らかである。
 以上のことからすると、請求人に対して本件株式が支給された日は、飽くまでコンバート(Convert)日と同日の平成20年9月8日であり、請求人の証券等取引口座へ本件株式が実際に振り替えられた時点で、本件株式を支給するための事務手続が完了したものと認められる。
 また、まる2については、上記1の(4)のハの(ヌ)のとおり、上記の従業員等取引方針の定めは、ストック・ユニットに係る株式報酬制度に基づいて支給された本件株式について譲渡制限を課すものであり、本件株式の支給要件や権利帰属の条件等を定めるものではない上、上記1の(4)のニのとおり、従業員等取引方針は、従業員等による不正行為の防止等を目的として、被付与者に限らず、E社グループの全ての従業員等による証券等の各種取引(購入・保有・譲渡等)を規制対象とするものであり、また、当該規制の一環としてウインドー・ピリオド以外の期間に譲渡制限を課せられる取引の対象も、コンバート(Convert)により支給された株式だけでなく、E社グループの法人の発行する全ての有価証券の取引に及ぶのであるから、ストック・ユニットに係る株式報酬制度とは、その目的や対象等を異にする別の制度である。
 以上のことからすると、本件株式は、請求人の立場により自由に譲渡できる期間を限定されているとはいえ、市場に流通するE社の普通株式と同じ経済的価値(客観的交換価値)を有するものである。そして、上記ロ及びハのとおり、コンバート(Convert)日(平成20年9月8日)において既に、請求人が、市場に流通するE社の普通株式と同じ経済的価値を有する本件株式の支給を受けて、本件株式に係る株主としての地位を確定的に取得している以上、同日に本件株式に係る所得が実現したというべきである。
 以上のとおり、請求人が主張するまる1証券等取引口座への振替及びまる2従業員等取引方針の定めによる譲渡制限は、本件株式に係る給与所得の収入金額の収入すべき日の判断に、具体的な影響を及ぼすものではないから、請求人の主張は採用できない。

(4) 本件更正処分について

 上記(3)のとおり、本件株式に係る給与所得の収入金額の収入すべき日は平成20年9月8日であり、同日の株価(上記1の(4)のヲ)等を基に請求人の平成20年分の給与所得の金額及び納付すべき税額を計算すると、別表の「異議決定」欄の各金額と同額となる。これらの金額は、いずれも本件更正処分の額を上回るから、本件更正処分は適法である。

(5) 本件賦課決定処分について

 上記(4)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が同処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてなされた本件賦課決定処分は適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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