(平成24年2月6日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、印刷業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が工場移転に伴い新工場の用に供するために賃借した建物にエレベーター工事、高圧受電設備工事等を施し、その工事費用を雑損失として損金の額に算入していたことについて、原処分庁が、当該工事費用は、減価償却資産の取得価額に該当し損金の額に算入できないとして法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該工事費用は、移転前の工場と同等の稼動を可能とするための機能復旧工事に係る費用であり、その全額が損金の額に算入されるべきであるなどとして同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成19年7月1日から平成20年6月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成22年12月24日付で、別表1の「更正処分及び賦課決定処分」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成23年2月18日に審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

イ 法人税法第2条《定義》第23号は、減価償却資産とは、建物、構築物、機械及び装置、船舶、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、鉱業権その他の資産で償却をすべきものとして政令で定めるものをいう旨規定し、その政令で定める資産として法人税法施行令第13条《減価償却資産の範囲》第1号は建物及びその附属設備(暖冷房設備、照明設備、通風設備、昇降機その他建物に附属する設備をいう。)、同条第3号は機械及び装置、同条第7号は工具、器具及び備品である旨それぞれ規定している。
ロ 法人税法第31条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》第1項は、内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額のうち、その取得をした日及びその種類の区分に応じ政令で定める償却の方法の中からその内国法人が当該資産について選定した償却の方法に基づき政令で定めるところにより計算した金額に達するまでの金額とする旨規定し、同条第6項は、償却費の計算の基礎となる減価償却資産の取得価額は政令で定める旨規定している。そして、その政令で定める取得価額として法人税法施行令第54条《減価償却資産の取得価額》第1項第1号は、購入した減価償却資産の取得価額は、当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税(附帯税を除く。)その他当該資産の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)と当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額の合計額である旨規定し、また、同項第2号は、自己の建設、製作又は製造(以下「建設等」という。)に係る減価償却資産の取得価額は、当該資産の建設等のために要した原材料費、労務費及び経費の額と当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額との合計額である旨規定している。
ハ 法人税法施行令第133条《少額の減価償却資産の取得価額の損金算入》は、内国法人がその事業の用に供した減価償却資産で、使用可能期間が1年未満であるもの又は取得価額が10万円未満であるものを有する場合において、その内国法人が当該資産の当該取得価額に相当する金額につきその事業の用に供した日の属する事業年度において損金経理をしたときは、その損金経理をした金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する旨規定している。
ニ 減価償却資産の耐用年数等に関する省令(平成20年財務省令第32号による改正前のもの。以下「耐用年数省令」という。)第1条《一般の減価償却資産の耐用年数》第1項第1号は、法人税法施行令第13条第1号、第2号及び第4号から第7号までに掲げる資産の耐用年数は別表第一(機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表)、耐用年数省令第1条第1項第2号は、法人税法施行令第13条第3号に掲げる資産の耐用年数は別表第二(機械及び装置の耐用年数表)に定めるところによる旨規定している。
 そして、耐用年数省令別表第一は、種類を建物附属設備とするものについて、構造又は用途別に、電気設備(照明設備を含む。)、給排水又は衛生設備及びガス設備、昇降機設備等の10に区分(昇降機設備については、さらに細目としてエレベーター及びエスカレーターに区分)して、また、耐用年数省令別表第二は、機械及び装置について、印刷設備、製本設備等の設備の種類ごとに390に区分して、それぞれの資産の区分に応じて耐用年数を規定している。
ホ 法人税基本通達(昭和44年5月1日付直審(法)25国税庁長官通達をいい、以下「基本通達」という。)7−1−11《少額の減価償却資産又は一括償却資産の取得価額の判定》は、法人税法施行令第133条の規定を適用する場合において、取得価額が10万円未満であるかどうかは、通常1単位として取引されるその単位、例えば、機械及び装置については1台又は1基ごとに、工具、器具及び備品については1個、1組又は1そろいごとに判定する旨定めている。
ヘ 基本通達7−8−7《機能復旧補償金による固定資産の取得又は改良》は、法人が、その有する固定資産について電波障害、日照妨害、風害、騒音等による機能の低下があったことによりその原因者からその機能を復旧するための補償金の交付を受けた場合において、当該補償金をもってその交付の目的に適合した固定資産の取得又は改良をしたときは、その取得又は改良に充てた補償金の額のうちその機能復旧のために支出したと認められる部分の金額に相当する金額は、修繕費等として損金の額に算入することができる旨定めている。
ト 耐用年数の適用等に関する取扱通達(昭和45年5月25日付直法4−25ほか1課共同国税庁長官通達をいい、以下「耐用年数通達」という。)1−1−3《他人の建物に対する造作の耐用年数》は、法人が建物を賃借し自己の用に供するため造作した場合(現に使用している用途を他の用途に変えるために造作した場合を含む。)の造作に要した金額は、当該造作が、建物についてされたときは、当該建物の耐用年数、その造作の種類、用途、使用材質等を勘案して、合理的に見積もった耐用年数により、建物附属設備についてされたときは、当該建物附属設備の耐用年数により償却する旨定め、また、注書において、同一の建物(一の区画ごとに用途を異にしている場合には、同一の用途に属する部分)についてした造作は、その全てを一の資産として償却をするのであるから、その耐用年数は、その造作全部を総合して見積もることに留意する旨定めている。
チ 耐用年数通達2−2−2《電気設備》の(2)は、耐用年数省令別表第一の建物附属設備に掲げる電気設備の範囲について、例えば、工場用建物については、電灯用配線施設及び照明設備が該当する旨定めている。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、a県d市e町○−○所在の建物の一部を賃借して本社事務所兼工場(以下「本件旧工場」という。)として使用していた。
ロ 請求人は、平成19年11月6日付で、J社との間において、肩書地所在の建物(以下「本件新工場」という。)を賃貸借物件とし、当該建物を印刷・製本業事務所及び作業所として賃借する旨の建物賃貸借契約を締結した。なお、本件新工場は、鉄筋コンクリート造り5階建ての建物であり、請求人は、1階を製本・印刷工場、2階を製本工場、3階を製版・印刷工場、4階を制作・事務所及び5階を会議室・倉庫として使用している。
ハ 請求人は、平成19年11月9日付で、本件旧工場の賃貸人であるK社との間において、賃貸借契約を同日付で合意解除し、請求人が賃貸借合意解約金の支払を受けることを条件に本件旧工場を明け渡す旨を約した賃貸借合意解約書を取り交わした。そして、請求人に支払われる当該賃貸借合意解約金は100,000,000円(以下「本件解約金」という。)であり、請求人は、本件解約金の一部の40,000,000円を平成19年11月16日に、残金の60,000,000円を平成20年4月7日に受領した。
ニ 請求人は、本件新工場において、請求人が本件旧工場で使用していた印刷設備及び製本設備(以下、これらの設備を併せて「本件印刷製本設備」という。)を移設するなどして本件旧工場と同様に稼動できるよう、別表2に記載した各工事(以下、これらの各工事を併せて「本件各工事」といい、同表に記載した本件各工事に係る各費用の額を併せて「本件各工事費用」という。)を行った。
ホ 請求人は、平成20年3月下旬頃に、本件各工事の終了に合わせて本件印刷製本設備を移設するなどして事業を再開した。
 なお、請求人は、平成20年3月24日に、本店所在地を本件旧工場の所在地から肩書地に移転した。
ヘ 請求人は、本件事業年度の法人税の所得金額の計算に当たり、本件解約金を雑収入として益金の額に算入するとともに、本件各工事費用の合計額○○○○円を雑損失として損金の額に算入した。
ト 原処分庁は、本件各工事費用の合計額○○○○円は減価償却資産の取得価額に該当するから本件事業年度の損金の額に算入されないとして本件更正処分及び本件賦課決定処分をした。

(5) 争点

イ 争点1 本件各工事費用は、基本通達7−8−7の定めにより修繕費等として損金の額に算入することができるか否か。
ロ 争点2 本件各工事費用は、建物、建物附属設備並びに機械及び装置として、その全額が減価償却資産の取得価額に該当し、本件事業年度の損金の額に算入されないこととなるか否か。また、本件各工事費用が減価償却資産の取得価額に該当する場合、法人税法施行令第133条の規定により損金の額に算入されるべき金額があるか否か。
ハ 争点3 請求人が本件旧工場から本件新工場に移設した本件印刷製本設備の帳簿価額に、移転に際して除却損として損金の額に算入されるべき金額が含まれているか否か。

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2 主張及び判断

(1) 争点1(本件各工事費用は、基本通達7−8−7の定めにより修繕費等として損金の額に算入することができるか否か。)について

イ 主張
(イ) 原処分庁
 本件各工事費用が本件新工場の円滑な稼動に必要なものであったとしても、本件解約金は、請求人が賃借していた本件旧工場の賃貸人からその賃貸借契約の解除の際に受領したものであり、基本通達7−8−7に定める、請求人が有する固定資産について電波障害等による機能の低下があったことにより、その原因者からその機能を復旧するための補償金として交付されたものには該当しない。
 したがって、本件各工事費用は、基本通達7−8−7の定めにより修繕費等として損金の額に算入することはできない。
(ロ) 請求人
 本件新工場への移転は、本件旧工場の賃貸人からの立ち退き要求によるものであり、本件解約金は、機能復旧補償金及び損害賠償金として当該賃貸人から受領したものであるから、本件各工事費用の実態は、本件解約金をもって本件旧工場と同等の工場の稼動を可能とするための機能復旧工事に充てた支出である。
 したがって、本件各工事費用は、基本通達7−8−7の定めにより修繕費等として損金の額に算入すべきである。
ロ 判断
(イ) 法令解釈等
 基本通達7−8−7は、法人が、その有する固定資産について電波障害や騒音等による機能の低下があったことによりその原因者からその機能を復旧するための補償金の交付を受けた場合において、その補償金をもってその交付の目的に適合した固定資産の取得又は改良をしたときは、その補償金は収益とされる一方、その補償金で固定資産の取得をしたことになり、法人税の課税関係が生じてしまうことになるが、法人がその有する固定資産の通常の維持管理又は災害等によりき損した固定資産を原状回復するための費用が修繕費として損金算入が認められていることからすると、かかる電波障害や騒音等により機能低下した固定資産についてその機能を従前の状態に復せしめるための費用支出は、たとえ外形上は資本的支出に当たる資産の取得又は改良であったとしても、その固定資産にとっては単なる修繕費又はこれに類する経費にすぎないということができ、このような考え方に立って、かかる場合に受ける補償金のうちその固定資産の機能復旧のために支出した部分の金額につき、税務上は修繕費等として損金算入を認めることとして、結果として課税の生じないように定められているものであり、この取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
(ロ) 認定事実
 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、本件各工事の明細は、別表3−1及び同3−2のとおりであるところ、請求人は、請求人が本件新工場に移転するに当たり、本件新工場において、印刷及び製本設備の稼動に必要な高圧受電設備の設置、紙類等の重量物の運搬に必要なエレベーター設備の設置、その他機械設備等の移設のための本件新工場内の改良等を行った事実が認められる。
(ハ) 当てはめ
 請求人は、上記1の(4)のハのとおり、本件旧工場の賃貸人との間において、本件旧工場の賃貸借契約を合意解除し、請求人が本件解約金を受領することを条件に本件旧工場を明け渡すことを約した賃貸借合意解約書を取り交わして本件解約金を受領しているところ、当該賃貸借合意解約書に、本件解約金が本件旧工場において請求人が有する固定資産について基本通達7−8−7に掲げられているような電波障害や騒音等により機能の低下が生じたことにより支払われるものである旨の記載はなく、また、当審判所の調査の結果によっても、本件旧工場において請求人が有していた固定資産について電波障害や騒音等により機能の低下が生じていた事実を認めるに足りる証拠もないから、本件解約金は、本件旧工場の賃貸人からの立ち退き要請を受け、請求人がこれに合意して本件旧工場に係る賃貸借契約を解約したことにより受領したものと認めるのが相当であり、本件解約金の受領は、基本通達7−8−7に定める「固定資産について電波障害、日照妨害、風害、騒音等による機能の低下があったことによりその原因者からその機能を復旧するための補償金の交付を受けた場合」に当たらないというべきである。
 さらに、本件各工事費用は、上記(ロ)のとおり、高圧受電設備の設置、エレベーター設備の設置、その他機械設備等の移設のための改良等に係るものであり、機能の低下した固定資産を従前の状態に復せしめるために支出したものであるとも認められないから、基本通達7−8−7に定める「その機能復旧のために支出した」金額にも当たらない。
 そうすると、本件各工事費用は、基本通達7−8−7の定めにより修繕費等として損金の額に算入することはできないというべきであるから、この点に関する請求人の主張には理由がなく、採用できない。

(2) 争点2(本件各工事費用は、建物、建物附属設備並びに機械及び装置として、その全額が減価償却資産の取得価額に該当し、本件事業年度の損金の額に算入されないこととなるか否か。また、本件各工事費用が減価償却資産の取得価額に該当する場合、法人税法施行令第133条の規定により損金の額に算入されるべき金額があるか否か。)について

イ 主張
(イ) 原処分庁
 本件各工事費用は、L社が施工した本件各工事費用のうち「給排水設備工事」及び「エレベーター工事」は建物附属設備として、その他の同社が施工した本件各工事費用については建物について行った内部造作となるから建物として、また、M社が施工した本件各工事費用については機械及び装置として、いずれもその全額が減価償却資産の取得価額になるから、損金の額に算入することはできない。
 なお、同一の建物についての造作については、耐用年数通達1−1−3の定めにより、その全てを一の資産として償却することとなるから、本件各工事費用のうち、上記のその他の工事で建物とした内部造作工事費用について、その一部を除外することは認められず、また、本件各工事費用に、法人税法施行令第133条の規定により損金の額に算入されるべき金額はない。
(ロ) 請求人
 本件各工事費用については、その費用の内容を個別に精査して判断すべきであり、例えば別表3−1の解体工事に係る各費用は、工場移転に伴い本件新工場に対して実施したものであり、移転に要した費用であるから、このような移転に要した費用の額は、資産に計上すべきでなく損金の額に算入すべきである。なお、原処分庁は、耐用年数通達1−1−3の定めにより、本件各工事費用をL社の施工工事及びM社の施工工事の各一式として判断しているが、同通達1−1−3は、資産に計上すべきものと判断された資産の耐用年数をどうするかについて定めたものであって、資産に計上すべきか否かの基準を定めたものではない。
 また、本件各工事費用に減価償却資産の取得価額に該当する金額があるとしても、本件各工事費用を細分化すれば、例えば別表3−1の順号14の新規窓のように法人税法施行令第133条に規定する少額の減価償却資産に該当するものが含まれているから、このような少額の減価償却資産の取得価額に該当する金額は、損金の額に算入されるべきである。
ロ 判断
(イ) 法令解釈等
A 耐用年数省令別表第一に掲げる建物は、例えば、工場用、飲食店用、店舗用等のように、建物の主要部分の構造と共にその用途ごとに区分された上で耐用年数が規定されており、当該建物の耐用年数は、建物の用途に応じた一般的な内部造作が施設され一体として使用されることを想定して規定されていると解されることから、減価償却資産の範囲について定めた法人税法施行令第13条第1号に規定する建物においても、建物本体と一体不可分の内部造作が含まれていると解するのが相当である。
 そして、耐用年数通達1−1−3は、賃借建物について自己の用に供するために造作が行われた場合、その造作は、給排水又は衛生設備及びガス設備、エレベーター等の昇降機設備等の建物附属設備に該当するものを除き、建物についてされたものであるから建物についての資本的支出になるが、建物本体と造作とではその所有者が異なり、かつ、建物の耐用年数は、その建物の構造体を基礎として算定されていることから、その造作について建物の構造体を基礎として算定されている耐用年数を適用することは相当でなく、建物についてされた造作の全てを一つの資産として、その所有者においてその造作全部を総合して耐用年数を見積もって、その見積もった耐用年数により減価償却資産の取得価額について償却をすることを定めたものと解され、この取扱いは、当審判所においても相当と認められる。そうすると、建物についてされた造作全部を総合して見積もった耐用年数により減価償却資産の取得価額について償却をするためには、建物についてされた造作の全てを一つの資産として取得価額を算出すべきであると解するのが相当である。
B 基本通達7−1−11は、法人税法施行令第133条の規定を適用する場合の取得価額が10万円未満であるかどうかの判定に当たっては、通常1単位として取引される単位ごとに行うことを明らかにしたものであり、この取扱いは、当審判所においても相当であると認められる。
C 耐用年数通達2−2−2の(2)のロは、工場建物の電気設備のうち、動力用受配電施設、受電設備等が耐用年数省令別表第二の機械及び装置の各設備の耐用年数算定の基礎に含まれており、これらの電気設備も機械及び装置に含めてその耐用年数により償却することとされていることからすれば、工場用建物の電気設備としては電灯用配線施設及び照明設備がこれに該当することを定めたものと解され、この取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
(ロ) 当てはめ
 これを、本件各工事費用について検討すると、以下のとおりである。
A 別表3−1の各工事について
(A) 順号4、5、10から23まで、28から33まで及び36の各工事に係る金額の合計額○○○○円は、いずれも本件新工場の建物の壁、床及び窓に施された内部造作のための支出であり、建物本体と一体不可分のものであると認められるから、これら本件新工場の建物についてされた造作の全てを一つの資産として建物の取得価額とすることが相当である。
(B) 順号24から26まで及び37の各工事に係る金額の合計額○○○○円は、給湯用ミニキッチン、部品洗浄用流し台、配管及び便器設置工事の支出であり、建物附属設備の給排水又は衛生設備及びガス設備の取得価額とすることが相当である。
(C) 順号27、34及び35の各工事に係る金額の合計額○○○○円は、エレベーター設置工事の支出であり、建物附属設備の昇降機設備のエレベーターの取得価額とすることが相当である。
(D) 順号3、6及び7の各工事に係る金額の合計額○○○○円は、本件印刷製本設備を本件旧工場から本件新工場に移設する際に搬入の障害となる部分を撤去した工事に要した費用であり、固定資産の移設に要した費用と認められるから、損金の額に算入するのが相当である。
(E) 順号1、2、8及び9の各工事に係る金額の合計額○○○○円は、別表3−1の各工事に共通する支出であると認められるから、当該合計額を上記(A)から(D)の各工事に係る金額の当該金額の合計金額に占める割合により配賦し、○○○○円を(A)の建物、○○○○円を(B)の建物附属設備の給排水又は衛生設備及びガス設備、○○○○円を(C)の建物附属設備の昇降機設備のエレベーターの各取得価額に加算し、○○○○円を(D)の損金の額に算入する金額に加算するのが相当である。
B 別表3−2の各工事について
(A) 順号1から22までの各工事に係る金額の合計額○○○○円は、印刷及び製本設備を稼動するために導入した高圧受電設備に係る支出であり、機械及び装置の印刷設備又は製本設備の取得価額とすることが相当である。
(B) 順号23の金額○○○○円は、換気扇1台の取得価額であり、また、順号24の金額○○○○円は、テレビアンテナ1台の取得価額であり、それぞれそれ自体で固有の機能を果たし独立して使用されるものと認められるから、器具及び備品の取得価額とすることが相当であるところ、それぞれが通常1台で取引され、その取得価額が10万円未満であり、法人税法施行令第133条に規定する少額の減価償却資産に該当し、いずれも事業の用に供した日の属する本件事業年度において雑損失として損金経理しているから、同条の規定に基づき損金の額に算入するのが相当である。
(C) 順号25の金額○○○○円は、本件新工場内の照明設備の支出であり、建物附属設備の電気設備(照明設備を含む。)の取得価額とすることが相当である。
(D) 順号26の金額○○○○円は、本件新工場の既設照明器具の処分費であり、上記(C)の建物附属設備の取得との関連性を認めるに足りる証拠はないから、損金の額に算入するのが相当である。
C 以上の結果、本件各工事費用○○○○円をそれぞれの工事内容により区分、整理すると別表4のとおりとなる。
(ハ) 当事者の主張について
A 原処分庁は、本件各工事費用の全額が減価償却資産の取得価額に該当する旨主張するが、上記(ロ)のとおり、本件各工事費用のうち、同Aの(D)の合計額○○○○円、同(E)の合計額○○○○円のうち○○○○円、同Bの(B)の○○○○円及び○○○○円並びに同(D)の○○○○円は、損金の額に算入すべきであるから、原処分庁の主張は採用できない。
B 一方、請求人は、本件各工事費用は、その費用の内容を個別に精査して判断すると、減価償却資産の取得価額に該当しない移転に要した費用や少額の減価償却資産の取得価額に該当し損金の額に算入すべき金額がある旨主張する。
 この点、本件各工事費用のうち、損金の額に算入すべき金額は、上記Aのとおりであるところ、これと異なる請求人の主張の部分は、採用できない。
 なお、法人税法第31条第1項は、減価償却費の損金算入について、確定した決算において償却費として損金経理をすることを要件としているが、修繕費、消耗品費等の償却費以外の科目で損金経理をした金額であっても、減価償却資産の費用化の方法として、そのような損金経理の方法が行われたことについて、企業会計上合理性が認められる場合で、償却費の科目による費用計上に相当するものとして税務上特に弊害がないと認められるものについては、その性質上、償却費として損金経理をした金額に含めて差し支えないものと解されるところ、請求人において、本件各工事費用について、このような事情は認められず、償却費として損金経理をした金額に含まれる金額はないから、本件各工事費用のうち減価償却資産の取得価額とする金額(少額の減価償却資産に該当するものを除く。)につき同項の規定により本件事業年度において損金の額に算入する金額はない。
C また、請求人は、耐用年数通達1−1−3は、資産に計上すべきか否かの基準を定めたものではない旨主張するが、上記(イ)のAのとおり、賃借建物の建物についてされた造作の全てを一つの資産として見積もった耐用年数により減価償却資産の取得価額について償却をするためには、当該造作の全てを一つの資産として取得価額を算出すべきであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3(請求人が本件旧工場から本件新工場に移設した本件印刷製本設備の帳簿価額に、移転に際して除却損として損金の額に算入されるべき金額が含まれているか否か。)について

イ 主張
(イ) 請求人
 本件印刷製本設備の帳簿価額には、取得時に本件旧工場で行った電気配線設備等の工事費用として同帳簿価額の15%相当額が含まれているが、当該電気配線設備等は、本件印刷製本設備の移転の際に全て除却しているから、当該15%相当額は、除却損として損金の額に算入されるべきである。
(ロ) 原処分庁
 本件印刷製本設備の帳簿価額の15%相当額を電気配線設備等の工事費用とする根拠が明らかではなく、当該電気配線設備等が除却された事実を確認することはできないから、当該15%相当額を除却損として損金の額に算入すべきとは認められない。
ロ 判断
 請求人は、請求人の主張の根拠となる具体的な証拠を提示しておらず、また、当審判所の調査の結果によっても、請求人が主張する事実を認めるに足りる具体的な証拠はないから、請求人の主張には理由がなく、採用できない。

(4) 本件更正処分について

 本件各工事費用のうち、上記(2)のロの(ロ)のAの(D)及び(E)並びにBの(B)及び(D)の各工事費用の額は損金の額に算入されるから、請求人の所得金額及び納付すべき税額は、それぞれ○○○○円及び○○○○円となり、この金額は、本件更正処分の金額を下回るから、本件更正処分は、その一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(5) 本件賦課決定処分について

 上記(4)のとおり、本件更正処分はその一部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分の基礎となる税額は○○○○円となり、また、この税額の計算の基礎となった事実に、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、本件賦課決定処分は、その一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(6) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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