(平成24年3月28日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が損金の額に算入した役員給与について、原処分庁が、当該役員給与は支給されておらず架空の役員給与であるなどとして、法人税の青色申告の承認の取消処分及び更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該役員給与は架空ではないほか、当該各処分に係る各通知書には、具体的な事実及び判断に至る過程の記載がなく、当該各処分の理由の付記に不備があるとして、それらの全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人は、平成17年6月1日から平成18年5月31日までの事業年度(以下「平成18年5月期」という。)以後の法人税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色申告承認取消処分」という。)並びに平成15年6月1日から平成16年5月31日まで、平成16年6月1日から平成17年5月31日まで、平成18年6月1日から平成19年5月31日まで、平成19年6月1日から平成20年5月31日まで、平成20年6月1日から平成21年5月31日まで、平成21年6月1日から平成22年5月31日までの各事業年度(以下、順次「平成16年5月期」、「平成17年5月期」、「平成19年5月期」、「平成20年5月期」、「平成21年5月期」、「平成22年5月期」、これらと平成18年5月期を併せて「本件各事業年度」といい、平成16年5月期及び平成17年5月期を併せて「本件第1各事業年度」、平成18年5月期ないし平成22年5月期を併せて「本件第2各事業年度」という。)及び平成18年5月期の法人税の各更正処分(以下、当該各更正処分のうち、本件第1各事業年度の各更正処分を「本件第1各事業年度更正処分」、本件第2各事業年度の各更正処分を「本件第2各事業年度更正処分」という。)及び平成17年5月期、平成18年5月期、平成19年5月期及び平成22年5月期の法人税に係る重加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)を不服として、平成23年7月26日に審査請求をしているが、この審査請求に至る経緯は別表1及び別表2のとおりである。

(3) 関係法令

イ 法人税法第127条《青色申告の承認の取消し》
 第1項第3号は、法人税法第121条《青色申告》第1項の承認を受けた内国法人につき、その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し又は記録し、その他その記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由がある場合には、納税地の所轄税務署長は、当該事業年度まで遡って、その承認を取り消すことができる旨規定し、第2項は、税務署長は、前項の規定による取消しの処分をする場合には、同項の内国法人に対し、書面によりその旨を通知し、当該書面には、その取消しの処分の基因となった事実が同項各号のいずれに該当するかを付記しなければならない旨規定している。
ロ 法人税法第130条《青色申告書等に係る更正》
 第2項は、税務署長は、内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額等の更正をする場合には、その更正に係る国税通則法(以下「通則法」という。)第28条《更正又は決定の手続》第2項(更正通知書の記載事項)に規定する更正通知書にその更正の理由を付記しなければならない旨規定している(以下、当該規定及び上記イの規定に基づく理由等の付記を「理由付記」という。)。
ハ 通則法第68条《重加算税》
 第1項は、過少申告加算税が課される場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によっても認められる事実及び証拠によって容易に認められる事実である。
イ 請求人の概要
 請求人は、昭和48年4月○日に、生コンクリートの製造及び販売等を目的として設立された法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社であり、「L」という名称の○○施設も経営している。
 また、本件各事業年度において、請求人の代表取締役として、M及びMの実弟であるJの2名が就任しており、請求人の取締役として、Mの子であるNが、請求人の監査役として、Mの妻であるPが、それぞれ就任していた(以下、請求人の役員として就任していたJ、N及びPを併せて「本件各役員」という。)。
ロ 請求人の関係会社の概要
 請求人の関係会社であるQ社及びR社は、いずれも土木建築請負業を営む同族会社である。
 また、平成15年6月1日から平成22年5月31日までの間において、Q社の代表取締役としてM及びJの2名が、取締役としてNが、監査役としてPが、それぞれ就任しており、R社の代表取締役としてNが、取締役としてM及びJが、監査役としてPが、それぞれ就任していた。
ハ 役員給与の経理状況
 請求人は、本件各事業年度において、本件各役員の役員給与及びMの役員給与の合計額を総勘定元帳の「役員報酬」勘定に計上し、それぞれ損金の額に算入した。
 なお、請求人が損金の額に算入した本件各役員に対する役員給与の内訳は、別表3のとおりである。
ニ 青色申告の承認申請
 請求人は、昭和48年7月4日に「青色申告の承認申請書」を原処分庁に提出し、昭和48年4月○日から昭和48年11月30日までの事業年度以後の各事業年度について、青色申告の承認を受けた。
ホ 処分の状況
(イ) 本件青色申告承認取消処分
 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)の調査(以下「本件調査」という。)に基づき、本件各役員の役員給与の金額のうち未払金とされた部分の金額を除いた別表4に記載された各金額が、架空の役員給与であり(以下、別表4に記載された各金額のうち、Jに係る部分の金額を「本件J役員給与」、Nに係る部分の金額を「本件N役員給与」、Pに係る部分の金額を「本件P役員給与」といい、これらを併せて「本件各役員給与」という。)、これを帳簿に記載したことが法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当するとして、本件青色申告承認取消処分を行っているが、本件青色申告承認取消処分に係る通知書(以下「本件青色申告承認取消通知書」という。)には、本件各役員給与は、本件各役員に支給されておらず架空の役員報酬である旨、そして以上の事実は、同号に規定する「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し、その他その記載事項の全部についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること」に該当する旨理由付記されている。
(ロ) 法人税の更正処分等
 原処分庁は、本件調査に基づき、本件各役員給与がいずれも損金の額に算入されないなどとして、本件第1各事業年度更正処分及び本件第2各事業年度更正処分を行っており、本件第1各事業年度更正処分に係る各通知書(以下「本件第1各事業年度更正通知書」という。)には、「役員報酬の架空計上」として、本件各役員給与は、本件各役員に支給されておらず架空の役員報酬である旨理由付記されており、「役員報酬の架空計上」の項目以外の記載はない。
 なお、本件第2各事業年度更正処分は、本件青色申告取消処分により青色申告に係る更正処分でなくなったため、本件第2各事業年度更正処分に係る各通知書(以下「本件第2各事業年度更正通知書」という。)には、理由付記されていない。

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2 争点

(1) 争点1 本件各役員給与は架空のものか否か。
(2) 争点2 本件青色申告承認取消処分の理由付記に不備があったか否か。
(3) 争点3 本件第1各事業年度更正通知書の理由付記に不備があったか否か。
(4) 争点4 本件第2各事業年度更正通知書に理由付記されていなかったことが、法人税法第130条第2項に違反するか否か。
(5) 争点5 本件各役員給与を損金の額に算入して確定申告したことについて、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装があるか否か。

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3 主張

(1) 争点1 本件各役員給与は架空のものか否か。

原処分庁 請求人
 次のことから、本件各役員給与は架空のものと認められる。  次のことから、本件各役員給与は架空のものではない。
イ M、J及びNは、それぞれ請求人の代表取締役又は取締役であるところ、請求人の重要な地位にあるこれらの者が、本件調査において、いずれも本件各役員給与について支給された事実はなく、請求人において架空計上されたものであることを認めている。 イ M、J及びNが、本件各役員給与の架空計上を認めたという発言はしていない。
ロ Mは、請求人の代表取締役として請求人の重要な地位を占める者であるとともに、○○グループの実質的な最高権力者と認められるところ、Mが、本件調査において、本件各役員給与に係る資金を受領した上で、当該資金を元請先の現場担当者、外注先及び社内労務者に対する接待に係る支出に充てている旨申し立てている。
 なお、請求人は、本件各役員給与に係る金員が、Mと本件各役員との個人的な貸借である旨主張するが、当該貸借に係る金銭消費貸借契約書の存在、貸借の管理状況、その残高を明らかにしておらず、また、本件各役員給与の使途についても一切明らかにしていない。
ロ Mが、元請先の現場担当者等に心づけの資金を支払っていることは認めるが、その資金の原資は、M個人のポケットマネーであったり、他の役員に協力を求めて拠出してもらったり、他の役員からの個人的な貸借によるものであり、本件各役員給与の全額を受け取っている旨の申立てはしていない。
 なお、親族間での資金の融通や貸借がいちいち契約書等の書面を交わさずに行われることは、ちまたではまま見られることであり、書面等がないことをもって全面的に架空の報酬と断定することは不当である。
ハ Jは、請求人の代表取締役であり、請求人の重要な地位にある者であるとともに、○○グループの経理の総責任者として、給与事務を一手に掌握している者であるところ、Jは、本件調査において、Mから本件各役員給与に係る架空計上の指示を受け、本件各役員給与を架空に計上するとともに本件各役員給与に係る本人交付用の給与明細書を破棄し、本件J役員給与について、受領していないことを認めている。 ハ Jは、本件J役員給与を受領しており、Mに本件各役員給与の全てを渡したことはなく、また、Jは、本件調査において、原処分庁が主張するような内容の発言はしていない。
 なお、Jは、本件調査の当日、持病の○○○○が出た上、風邪をこじらせて通院中の精神不安な状態でありながら無理をして立ち会ったものであり、また、当日の発言は税理士の立会いが認められないまま密室で行われており、今になっては内容はつまびらかではなく、かつ記憶も定かでない。
ニ 請求人の取締役であり、請求人の重要な地位にあるNは、請求人が本件N役員給与を帳簿などの書類に形式的に計上していることだけでは、当該役員給与を受領したことにはならないことを明確に認識した上で、自身が本件N役員給与を受領しておらず、生活資金はR社からの給与収入のみで賄っている旨申し述べ、さらに、本件N役員給与に係る給与明細書及び源泉徴収票を受領したことはなく、その支給金額及び支給金額の決定方法並びに本件N役員給与が自身の所得税の確定申告書に記載されていることも全て知らない旨申し述べている。 ニ Nは、M経由で本件N役員給与を受領しており、具体的に勤務の実績があり当然に報酬を受領する権利があるので、R社からの役員給与を受領していることと本件N役員給与の受領とは関係のないことである。また、税に関して詳しくないことは事実であるが、本件N役員給与に係る給与明細書の受領については、毎月定額の報酬であり、当該給与明細書の受領にこだわっていない。
ホ Pは、本件P役員給与に係る給与明細書及び源泉徴収票を受領したことがなく、自身の所得税の確定申告書に本件P役員給与が記載されていることも承知しておらず、Pは、請求人の監査役の職にあるにも関わらず、取締役会及び定時株主総会に出席したことがなく、請求人の経営に携わったこともない旨申し立てている。
 さらに、本件調査において、Mは、本件調査担当職員がPに対して、本件P役員給与について聴取することを拒否しているところ、Mは、本件P役員給与に係る資金は、Mが受領し、Pは受領しておらず、MからPに交付することもない旨申し述べているほか、本件各役員及び請求人の労務関係を担当していた従業員であるSの申述等並びに本件各役員給与に係る証拠書類に基づき、本件P役員給与が架空に計上されたものと判断したものである。
ホ 本件P役員給与に係る給与明細書の受領については、毎月定額の報酬であり、当該給与明細書の受領にこだわっておらず、また、取締役会等については、職務に関する必要な事項の説明は受けているところ、原処分庁は、田舎の小会社の役員に対し上場会社の役員や従業員のような行動をとらない限り認めないとして、余りにも些細なことを誇大にしている。
 仮に、原処分庁の主張の事実があったとしても、本件の判断に影響を与えることはおかしい。
 なお、Mは、本件P役員給与をPに給与袋ごと渡しているところ、本件調査担当職員が、Pに対する本件P役員給与についての質問を中止したものであり、確認すべきものを確認しないまま認定したことは、いかなる理由があったとしても正当化されるものではない。
ヘ J及びSは、いずれも、本件調査において、Mの役員給与及び本件各役員給与に係る現金支給分の現金が、各役員別の封筒に入れることなく、まとめて一つの封筒に入れてMに渡っていることを認める旨申述等をしており、本件各役員給与に係る資金は、請求人から本件各役員へ渡されることなく、Mの役員給与とともに全てMへ渡されている。 へ J及びSは、いずれも、本件調査において、原処分庁が主張するような発言をしておらず、Sは、本件各役員給与に係る資金を、金融機関から引き出してその全額をそのままJに渡している。
ト N及びPの確定申告書の控え及び当該確定申告書に押印した印章が、請求人の本社事務所又は同事務所でJが使用する机中に保管されていること、Nは、同人の所得税の確定申告書に係る自署欄記載の筆跡がJの筆跡である旨申述等していることから、N及びPの確定申告書の作成を担当するJが、Mからの本件各役員給与に係る架空計上の指示に基づき、その帳尻合わせ又は偽装工作として、本件各役員の所得税の確定申告書に本件各役員給与を記載したにすぎないと認められる。 ト Jが勝手にN及びPの確定申告をしているのではなく、その都度両者に説明しており、確定申告による還付金もN及びPが受領している。代理で確定申告書の手続を行っても何ら架空の役員給与につながるものではなく、Mからの本件各役員給与の架空計上の指示に基づき偽装工作のための確定申告をしたとの主張は荒唐無稽な主張である。
チ 本件各役員の請求人における勤務実態が認められるとしても、そのことをもって、本件各役員給与が架空でないとする理由にはならない。 チ 本件各役員は、法に則り役員に任命され、役員としての責任を果たし具体的な職務を執行している上納税もしていることから、本件各役員給与は架空とはいえない。

(2) 争点2 本件青色申告承認取消処分の理由付記に不備があったか否か。

原処分庁 請求人
 次のことから、本件青色申告承認取消処分の理由付記に不備があったとは認められず、本件青色申告承認取消処分は適法である。  次のことから、本件青色申告承認取消処分の理由付記に不備があり、本件青色申告承認取消処分は違法又は不当である。
イ 本件各役員給与は、本件各役員に支払われておらず、架空の役員給与であり、請求人が、本件各役員給与が本件各役員に対して支給されているかのごとく帳簿書類に虚偽の記載を行った事実は、法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当する。 イ 本件各役員給与は、本件各役員に支払われており、原処分庁の本件各役員給与が架空の役員給与であるとした認定には誤りがあることから、法人税法第127条第1項第3号に規定する青色申告の承認の取消事由に該当する事実はない。
ロ 本件青色申告承認取消通知書には、まる1原処分庁が損金算入を否認する項目が、帳簿上、本件各役員に対してそれぞれ支給したとされている本件各役員給与であること、まる2本件各役員給与に係る支給金額をそれぞれ特定していること、まる3架空の役員給与であると否認した理由が、請求人に対する調査の結果、本件各役員給与は実際には本件各役員に対して支給されていないという事実に基づいたものであること、さらに、まる4請求人は、本件各役員給与について、あたかも本件各役員に支払われたかのごとく計上し、本件各役員給与を仮装していた事実が、法人税法第127条第1項第3号に規定する「帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し、その他その記載事項の全部についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること」に該当することがそれぞれ記載されており、請求人は、不服申立てを行うのに必要な程度に更正処分の理由を具体的に知ることができ、不服申立ての便宜を損なうことのない程度に具体的に摘示されていることから、同条第2項に規定する要件を具備している。 ロ 本件青色申告承認取消通知書には、「報酬が支払われておらず架空の役員報酬である。」旨記載されているのみで、どのような事実があったのか、どのような事実に基づきどう判断したのか、判断に至る過程が付記されておらず、法人税法第127条第2項に規定する「取消しの処分の基因となった事実」の付記に不備があり、このような不備な理由付記では、慎重な判断のもとになされた合理性ある処分であったとは認め難く、加えて不服申立てにおいても何ら便宜が与えられているとはいえない。

(3) 争点3 本件第1各事業年度更正通知書の理由付記に不備があったか否か。

原処分庁 請求人
 次のことから、本件第1各事業年度更正通知書の理由付記に不備があったとは認められず、本件第1各事業年度更正処分は適法である。  次のことから、本件第1各事業年度更正通知書の理由付記に不備があり、本件第1各事業年度更正処分は違法である。
イ 本件各役員給与は、本件各役員に支払われておらず、架空の役員給与であることから、本件第1各事業年度の損金の額に算入できない。 イ 本件各役員給与は、本件各役員に支払われており、原処分庁の本件各役員給与が架空の役員給与であるとした認定には誤りがあることから、本件第1各事業年度の損金の額に算入できる。
ロ 本件第1各事業年度更正通知書には、まる1原処分庁が損金算入を否認する項目が、帳簿上、本件各役員に対してそれぞれ支給したとされている本件各役員給与であること、まる2本件各役員給与に係る支給金額をそれぞれ特定していること、さらに、まる3架空の役員給与であると否認した理由が、請求人に対する調査の結果、本件各役員給与は実際には本件各役員に対して支給されていないという事実に基づいたものであることをそれぞれ記載しており、不服申立ての便宜を損なうことのない程度に具体的に摘示され、請求人は、これにより不服申立てを行うのに必要な程度に更正処分の理由を具体的に知ることができることから、法人税法第130条第2項に規定する要件を具備している。 ロ 本件第1各事業年度更正通知書には、「報酬が支払われておらず架空の役員報酬である」旨記載されているのみで、どのような事実があったのか、どのような事実に基づきどう判断したのか、判断に至る過程が付記されておらず、更正をした根拠を帳簿書類の記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示することによって具体的に明示されたものではないことから、法人税法第130条第2項に違反する不備がある。

(4) 争点4 本件第2各事業年度更正通知書に理由付記されていなかったことが、法人税法第130条第2項に違反するか否か。

原処分庁 請求人
 本件第2各事業年度更正処分は、本件青色申告承認取消処分により、本件第2各事業年度の各確定申告書は青色申告書に当たらないことから、本件第2各事業年度更正通知書に更正の理由が付記されていなくても、違法となるものではない。  本件第2各事業年度更正処分は、本件青色申告承認取消処分が、上記(2)のとおり、違法であり、取り消されるべきであるから、請求人は青色申告者のままであるところ、本件第2各事業年度更正通知書には、法人税法第130条第2項に規定する更正の理由の付記がされていないため、違法である。

(5) 争点5 本件各役員給与を損金の額に算入して確定申告したことについて、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装があるか否か。

原処分庁 請求人
 本件各役員給与は、本件各役員が受領した事実は無く、架空の役員給与であるにも関わらず、請求人の経理担当であるJは、本件各役員給与という虚偽の記載が存在する賃金台帳ほか経理帳簿等を作成し、請求人は、当該帳簿等に基づき作成された総勘定元帳及び決算書類等を基に、本件各役員の役員給与を損金の額に算入して、本件各事業年度の各確定申告書を提出しており、このことは、通則法第68条第1項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。  本件各役員給与は、本件各役員に支払われているため、本件各役員給与の計上に、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の事実はない。

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4 判断

(1) 争点1(本件各役員給与は架空のものか否か。)について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人の役員の勤務実態の有無
 本件各事業年度において、Jは経理事務の総責任者としての業務に、N及びPはLの業務全般に、それぞれ従事しており、いずれも役員として勤務実態がある。
(ロ) 本件各役員の役員給与の金額の決定状況等
A 請求人は、本件各事業年度において、いずれも株主総会を開催し、下記Bのとおり、N及びPの各役員給与に係る各月額が変更された平成20年5月期、及び平成21年5月期の株主総会の議題に役員報酬の決定が議題に取り上げられ、それ以外の事業年度の株主総会の議題に役員報酬の決定が議題に取り上げられることはなかったものの、本件各事業年度における本件各役員の役員給与の金額は、いずれも請求人の取締役会において承認、決定された。
B 本件各事業年度における本件各役員の役員給与の金額は、Jが本件各事業年度を通じて月額600,000円、Nが、平成16年5月期から平成20年5月期までの間は月額577,000円、平成21年5月期から平成22年5月期までの間は月額277,000円、Pが、平成16年5月期から平成20年5月期までの間は月額600,000円、平成21年5月期から平成22年5月期までの間は月額250,000円と定められ、その支給時期は、請求人の従業員と同様に、毎月10日払いとされた。
 なお、架空のものでないとされた場合の平成19年5月期以降の本件各役員の役員給与は、法人税法第34条《役員給与の損金不算入》第1項第1号に掲げる定期同額給与に該当する。
(ハ) 請求人の従業員給与及び役員給与の支給手順
A Jがコンピュータに従業員給与及び役員給与に係る基礎データを入力する。
 なお、源泉所得税については、自動的に所得税法第185条《賞与以外の給与等に係る徴収税額》第1項に規定する給与所得の源泉徴収税額表(月額表)(以下「月額表」という。)の甲欄を適用して計算されている。
B Jが上記Aのコンピュータから「連記式賃金台帳」及び「給与明細書」を出力する。
C Sが上記Bの「給与明細書」を基に「給与明細集計」を作成し、さらに、給与振込支給対象者分を集計して「振込依頼書」を、現金支給対象者分を集計して「現金明細表」をそれぞれ作成して、給与支払日の3日前までに請求人が取引している金融機関に提出する。
 なお、本件各役員給与及びMの役員給与は、現金支給対象者分に含まれる。
D Sが給与支払日(毎月10日)の午前中に上記Cの金融機関へ行き、現金支給対象者分の金額(上記Cの「現金明細表」に記載された合計金額)を「普通預金払戻請求書」に記載して、現金を受領する。
E Sは、金融機関から帰社後、上記Dで受領した現金と「給与明細書」を照合して、当該現金を給与袋に入れた後に、Jに渡す。
 なお、この際には給与袋の封はしない。
F 本件各役員の主たる給与の支払者は、Q社又はR社であることから、従たる給与である本件各役員給与の源泉所得税については、月額表の乙欄を適用して計算すべきところ、上記AないしEのとおり、源泉所得税について月額表の甲欄を適用して計算された「給与明細書」及び「現金明細表」に記載された額の現金を金融機関から受領していることから、Jは、源泉所得税について、自分の手帳で月額表の乙欄を適用して再計算した上で、当該源泉所得税の額と月額表の甲欄を適用して計算した源泉所得税の額の差額の現金を、本件各役員の給与袋から差し引く。
G Jが各従業員に給与袋を手渡す。
ロ 本件各役員の申述内容等
(イ) 本件各役員の本件調査担当職員に対する申述内容
A J
(A) 私は本件J役員給与を受け取っていない。Sが、給料日に金融機関から現金を引き出し、本件各役員給与及びMの役員給与の全てを1つの封筒に現金だけを入れて、私を経由せずに、直接、Mに渡している。
(B) Mに渡した現金は、表に出せない現場経費に使っていると聞いている。
B N
(A) 本件N役員給与は、書類上私がもらったことになっているが、現金そのものはもらっていない。
(B) 私が受け取っていないお金は、会社のために使われているというのをJから聞いた記憶はあるが、実際、何に使っているかは知らない。
(ロ) 本件各役員及びMの当審判所に対する答述内容
A J
(A) 本件J役員給与は私が受け取り、Mの役員給与、本件N役員給与及び本件P役員給与は、別々の袋に入れ、それをまとめてMに渡している。
(B) 私が、Sから、本件各役員給与及びMの役員給与を受け取り、源泉所得税の額の再計算をした上、本件J役員給与を除いて別々の袋に入れ、Mに渡している。
(C) 以前の税務調査での指導により、表に出せない現場経費を役員の個人的な資金から協力したものである。
B M
(A) 私は本件J役員給与を受け取ったことはないが、現場対策の費用や個人的に使用したい資金が不足した場合に、Jに要請して現金をもらったり、借りたりしていた。
(B) 私は本件N役員給与を受け取ったことがあるが、Nには直接渡しておらず、○○○○に充てるために使った。
(C) 本件P役員給与については、私がJから本件P役員給与の袋を受け取った後、原則的には袋ごと、私の妻であるPに渡すことにしており、Q社の報酬と合わせて半分以上の40万円から50万円はPに渡している。
(D) 上記(C)でPに渡しきっていない分は私が受け取ったことになる。現場対策の費用や個人的に使用したい資金が不足した場合に使った。
C N
 本件N役員給与は、Jから受け取らずに給料日後に、Mから現金でもらっているが、そのお金は、○○○○として、○○○○に支払っている。できれば、この事実は隠しておきたかったため、本件調査担当職員には事実と相違する回答をした。
D P
(A) 本件P役員給与は、給料日直後、毎月10日以後に、会社(請求人)か自宅で、娘のT又は夫であるMから、現金(手取額40万円くらい)で、緑色の袋に入った状態でもらっている。
(B) 本件P役員給与に相当する金額をMに渡したことはない。
ハ 結論及び原処分庁の主張について
(イ) 上記ロの(イ)のAの(A)及びBの(A)のとおり、Jは、本件各役員給与及びMの役員給与はMに渡された旨、Nは、本件N役員給与を受け取っていない旨、それぞれ申述し、同(ロ)のAの(A)及びCのとおり、Jは、本件J役員給与は自分が受け取り、Mの役員給与、本件N役員給与及び本件P役員給与は、まとめてMに渡している旨、Nは、本件N役員給与は後日Mから現金でもらっている旨答述しているところ、これらの答述は、当初の申述から変遷している部分が認められるので、その部分を直ちに採用することはできないところ、J及びNの各申述では、本件各役員給与を受け取っていないとされていることからすれば、その意味するところとして、本件各役員の役員給与の金額が取締役会において承認され、本件各役員が役員として登記されているものの、それらが名目上のことであって、支払われたとする本件J役員給与及び本件N役員給与が、実際には支払われておらず、架空のものであるとするものとも解され、原処分庁は、これを根拠として、本件各役員給与が架空のものであるとしているので、当該各申述及び各答述について検証した結果は、次のとおりである。
A 上記ロの(イ)のAの(B)及びBの(B)のJ及びNの各申述によれば、いずれも受け取っていない現金は会社のために使われたとされており、同(ロ)のBの(A)のMの答述は、これと相違しておらず、本件各役員が受け取っていない本件各役員給与に係る金員は、会社のために使われたことが推認される。
B そして、上記ロの(ロ)のBの(B)のとおり、Mは本件N役員給与を受け取り、Nには直接渡さず、○○○○に充てるために使ったとしており、同(ロ)のCのNの答述と大筋で一致し、同(イ)のBの(A)のNの申述とも矛盾しないから、本件N役員給与はNに直接渡されなかっただけであって、Mを通じてNのために使われたことが推認される。
C また、上記ロの(ロ)のBの(C)及び(D)のMの答述と同(ロ)のDのPの答述も、大筋で一致し、本件P役員給与がMの手に渡り、その全部又は一部がPに渡ったことが推認される。
D 上記AないしCによれば、J及びNの各申述によって、本件各役員給与がMに渡され、Mに渡された現金の全部又は一部が会社のために使われたということが推認されるものの、本件各役員給与が架空であることまでは認めることができない。
(ロ) また、原処分庁は、前記3の(1)の「原処分庁」欄のハのとおり、Jは、本件調査において、Mから本件各役員給与に係る架空計上の指示を受け、本件各役員給与を架空に計上したことを認めている旨主張するが、当審判所の調査によれば、Jがそのような趣旨の申述をした事実は認められず、他に、Jが上記のように認めたことをうかがわせる証拠もないから、原処分庁の上記主張を採用することはできない。
(ハ) そうすると、前記1の(4)のイのとおり、本件各事業年度において、請求人の代表取締役としてJ及びMの2名が、請求人の取締役としてNが、請求人の監査役としてPが、それぞれ就任しており、上記イの(イ)のとおり、本件各役員はいずれも役員として勤務実態がある上、同(ロ)のとおり、本件各役員の役員給与の金額が、請求人の取締役会等において承認され、月額でそれぞれ定められ、支給時期等は、請求人の従業員と同様に、毎月10日払いとされており、これらの事実に基づいて、前記1の(4)のハのとおり、請求人は、本件各事業年度において、本件各役員の役員給与及びMの役員給与の合計額を総勘定元帳の「役員報酬」勘定に計上したのであるから、毎月10日の時点で、請求人の本件各役員の役員給与の当月分の支払債務が実際に確定していたとみるのが相当である。
(ニ) そして、上記(ハ)のとおり、支払債務の確定した本件各役員の役員給与は、上記イの(ハ)のとおり、その支給事務が行われたと認められるが、本件各役員給与がどのように本件各役員に渡されたのかは明らかでないところ、上記(イ)のBのとおり、本件N役員給与はNに直接渡されなかっただけであって、Mを通じてNのために使われたとみるのが相当であり、同Cのとおり、本件P役員給与がMの手に渡り、その全部又は一部がPに渡ったとみるのが相当であるから、N及びPは、いずれも、本件N役員給与及び本件P役員給与の支給を受けたというべきである。そして、Jが本件J役員給与を受け取ったとする答述は、上記(イ)のとおり、申述から変遷している部分であるので、直ちに採用することができないが、当初の申述どおり、Jが本件J役員給与を受け取っていないとしても、その金額は、上記(ハ)のとおり、請求人の債務が実際に確定し、上記のとおり、その支給事務が行われた以上、請求人がJの役員給与の支払債務を履行しなかったとは認められず、Jは本件J役員給与を請求人から受領した上で、その金員の貸付け又は贈与を行ったとみるべきであり、上記のPの手元に渡らなかった部分の本件P役員給与についても、同様である。
(ホ) 以上によれば、本件各役員給与は架空のものとは認められないから、J及びNの各申述を根拠とする原処分庁の上記以外の各主張にも、いずれも理由がない。

(2) 争点2(本件青色申告承認取消処分の理由付記に不備があったか否か。)及び本件青色申告承認取消処分について

 上記(1)のハの(ホ)のとおり、本件各役員給与が架空のものとは認められないから、請求人が本件各役員給与を帳簿に記載したことが、法人税法第127条第1項第3号に該当することはなく、本件青色申告承認取消処分の理由付記に不備があったか否かを判断するまでもなく、本件青色申告承認取消処分は、理由がないから、取り消されるべきである。

(3) 争点3(本件第1各事業年度更正通知書の理由付記に不備があったか否か。)及び本件第1各事業年度更正処分について

 上記(1)のハの(ホ)のとおり、本件各役員給与が架空のものとは認められないから、本件第1各事業年度更正通知書の理由付記には不備があったか否かを判断するまでもなく、本件第1各事業年度更正処分は、更正すべき理由がないから、いずれもその全部が取り消されるべきである。

(4) 争点4(本件第2各事業年度更正通知書に理由付記されていなかったことが、法人税法第130条第2項に違反するか否か。)及び本件第2各事業年度更正処分について

 上記(2)のとおり、本件青色申告承認取消処分は取り消されるべきであり、本件第2各事業年度において、請求人は青色申告の承認を受けた者であるから、本件第2各事業年度更正通知書には理由付記されていなければならないにも関わらず、前記1の(4)のホの(ロ)のとおり、本件第2各事業年度更正通知書には理由付記されていないので、本件第2各事業年度更正通知書に理由付記されていなかったことが、法人税法第130条第2項に違反するのは明らかである。
 したがって、本件第2各事業年度更正処分は、いずれもその全部が取り消されるべきである。

(5) 争点5(本件各役員給与を損金の額に算入して確定申告したことについて、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装があるか否か。)及び本件各賦課決定処分について

 上記(1)のハの(ホ)のとおり、本件各役員給与が架空のものとは認められないから、本件各役員給与を損金の額に算入して確定申告したことについて、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装があるとはいえず、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
 また、本件各賦課決定処分は、本件第1各事業年度更正処分及び本件第2各事業年度更正処分の全部の取消しに伴い、いずれもその全部が取り消されるべきである。

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