(平成24年1月19日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、不動産販売業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が取得した各建物について、原処分庁が、当該各建物はその取得時において住宅の貸付けの用に供されていたから、これらが販売を目的として取得されたものであるとしても、その取得は、課税仕入れに係る消費税の控除額の計算において、「課税資産の譲渡等と課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ」に該当するとして、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分をしたことに対し、請求人が、当該各建物は請求人が販売することを目的として取得したものであるから、その取得は、「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ」に該当するとして、原処分の全部の取消しを求めた事案であり、争点は、当該各建物の取得が「課税資産の譲渡等と課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ」に該当するか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯

 平成18年10月○日から平成19年8月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税等について、審査請求(平成23年3月22日)に至る経緯は、別表1のとおりである。なお、異議決定書謄本の請求人への送達日は、平成23年2月23日である。
 また、別表1を含め、以下、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項に規定する課税仕入れに係る消費税の控除額を「控除対象仕入税額」といい、控除対象仕入税額の計算につき、同条第2項第1号に規定する計算の方法を「個別対応方式」という。

(3) 関係法令等

 別紙2のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人について
(イ) 請求人は、平成18年10月○日に賃貸マンションの建設、運営及び管理、不動産の管理、賃貸、売買、仲介及びコンサルタント業務並びにこれらに附帯関連する一切の業務を行うことを目的として資本金1,000,000円で設立された法人である。
(ロ) 請求人の設立時の代表取締役はK(以下、個人としてのKのことを「K」という。)であったが、同人は、平成22年1月12日付で辞任し、その後任には、同人の妻であるHが就任して、現在に至っている。
ロ 請求人が取得した建物等について
(イ) 本件の各建物について
 請求人は、本件課税期間において、まる1a市j町○−○、同番○及び同番○の各土地並びに同町○番地○に所在する建物(以下「L建物」といい、これら各土地と併せて「L物件」という。)、まる2a市d町○−○及び同番○の各土地並びに同町○番地○に所在する建物(以下「M建物」といい、これら各土地と併せて「M物件」という。)、まる3a市e町○−○の土地及び同町○番地○に所在する建物(以下「N建物」といい、この土地と併せて「N物件」という。)、まる4a市f町○−○及び同町○番○の各土地並びに同町○番地○及び同町○番地○に所在する建物(以下「P建物」といい、これら各土地と併せて「P物件」という。)をそれぞれ取得した。
 なお、上記各物件の明細は、別表2の「L物件」、「M物件」、「N物件」及び「P物件」の各欄のとおりであり、以下、L建物、M建物、N建物及びP建物を併せて「本件4建物」といい、また、L物件、M物件、N物件及びP物件を併せて「本件4物件」という。
(ロ) 本件4物件の不動産売買契約について
A L物件について
 請求人は、平成19年1月16日付で、L物件の買主として、売主であるKとの間で、要旨次のとおりの不動産売買契約書に係る契約を締結した。
(A) 売主は、L物件を売買代金155,500,000円で買主に売り渡し、買主はこれを買い受ける。(第1条)
(B) 買主は、売買代金155,500,000円を平成19年2月1日までに支払う。(第5条)
(C) L物件の所有権は、買主が売主に売買代金全額を支払った時に、売主から買主に移転する。(第6条)
(D) 売主は、売買代金全額の受領と引換えに、L物件を買主に引き渡す。(第8条)
(E) L物件から生じる収益又は本物件に賦課される公租公課及びガス、水道、電気等の料金については、本物件の引渡しを受ける前日までは売主の帰属又は負担とし、当日以降は買主の帰属又は負担とする。なお、公租公課の起算日は4月1日(以下、買主が負担する未経過固定資産税等の相当額のことを「未経過固定資産税等相当額」という。)とする。(第11条)
(F) 買主は、売主とQ社との間で締結された賃貸借契約を承継するものとする。(特約条項)
B M物件について
 請求人は、平成19年1月16日付で、M物件の買主として、売主であるKとの間で、要旨次のとおりの不動産売買契約書に係る契約を締結した。
(A) 売主は、M物件を売買代金100,000,000円で買主に売り渡し、買主はこれを買い受ける。(第1条)
(B) 買主は、売買代金100,000,000円を平成19年2月1日までに支払う。(第5条)
(C) M物件の所有権は、買主が売主に売買代金全額を支払った時に、売主から買主に移転する。(第6条)
(D) 売主は、売買代金全額の受領と引換えに、M物件を買主に引き渡す。(第8条)
(E) M物件から生じる収益又は本物件に賦課される公租公課及びガス、水道、電気等の料金については、本物件の引渡しを受ける前日までは売主の帰属又は負担とし、当日以降は買主の帰属又は負担とする。なお、公租公課の起算日は4月1日とする。(第11条)
(F) 買主は、売主と入居者との間で締結された賃貸借契約及び売主とR社との間で締結された管理契約を承継するものとする。(特約条項)
C N物件について
 請求人は、平成19年6月5日付で、N物件の買主として、売主であるR社との間で、要旨次のとおりの不動産売買契約書に係る契約を締結した。
(A) 売主は、N物件を売買代金159,000,000円で買主に売り渡し、買主はこれを買い受ける。売買代金の内訳は、土地代金54,000,000円、建物代金100,000,000円及び消費税額5,000,000円とする。(第1条)
(B) 買主は、売買代金159,000,000円を平成18年6月末日(日付は、平成19年6月末日と記載すべきところを誤記したものと認められる。)までに支払う。(第5条)
(C) N物件の所有権は、買主が売主に売買代金全額を支払った時に、売主から買主に移転する。(第6条)
(D) 売主は、売買代金全額の受領と引換えに、N物件を買主に引き渡す。(第8条)
(E) N物件から生じる収益又は本物件に賦課される公租公課及びガス、水道、電気等の料金については、本物件の引渡しを受ける前日までは売主の帰属又は負担とし、当日以降は買主の帰属又は負担とする。なお、公租公課の起算日は4月1日とする。(第11条)
D P物件について
 請求人は、平成19年8月10日付で、P物件の買主として、売主であるS社との間で、要旨次のとおりの不動産売買契約書に係る契約を締結した。
(A) 売主は、P物件を売買代金110,000,000円で買主に売り渡し、買主はこれを買い受ける。売買代金の内訳は、土地代金50,000,000円、建物代金57,142,858円及び消費税額2,857,142円とする。(第1条)
(B) 買主は、売買代金110,000,000円を平成19年8月31日までに支払う。(第5条)
(C) P物件の所有権は、買主が売主に売買代金全額を支払った時に、売主から買主に移転する。(第6条)
(D) 売主は、売買代金全額の受領と引換えに、P物件を買主に引き渡す。(第8条)
(E) P物件から生じる収益又は本物件に賦課される公租公課及びガス、水道、電気等の料金については、本物件の引渡しを受ける前日までは売主の帰属又は負担とし、当日以降は買主の帰属又は負担とする。なお、公租公課の起算日は4月1日とする。(第11条)
(ハ) 本件4物件の取得及び経理処理の状況について
A L物件について
 請求人は、平成19年2月1日に、Kに対して売買代金155,500,000円及び未経過固定資産税等相当額105,116円の合計額155,605,116円を支払ってL物件を取得し、この支払金額を、同物件の土地及び建物の固定資産税評価額を基にしたあん分計算等により、土地仕入高勘定に74,701,743円、建物仕入高勘定に77,050,832円、仮払消費税勘定に3,852,541円それぞれ計上した。
B M物件について
 請求人は、平成19年3月23日に、Kに対して売買代金のうち、76,000,000円を支払い、また残金24,000,000円を未払金勘定に計上してM物件を取得し、この売買代金の合計金額100,000,000円を、同物件の土地及び建物の固定資産税評価額を基にしたあん分計算等により、土地仕入高勘定に44,350,000円、建物仕入高勘定に53,000,000円、仮払消費税勘定に2,650,000円それぞれ計上した。
 また、請求人は、平成19年4月1日に、Kから引き継いだ敷金返還債務1,200,000円を預り敷金勘定に計上するとともに、土地仕入高勘定に546,710円、建物仕入高勘定に622,181円、仮払消費税勘定に31,109円それぞれ計上し、更に、M物件に係る未経過固定資産税等相当額8,344円を仮受金勘定に計上するとともに、土地仕入高勘定に3,801円、建物仕入高勘定に4,327円、仮払消費税勘定に216円それぞれ計上した。
C N物件について
 請求人は、平成19年6月28日に、R社に対して売買代金159,000,000円を支払ってN物件を取得し、この支払金額を、土地仕入高勘定に54,000,000円、建物仕入高勘定に100,000,000円、仮払消費税勘定に5,000,000円それぞれ計上した。また、R社から引き継いだ敷金返還債務1,650,000円を預り敷金勘定に計上するとともに、土地仕入高勘定に578,571円、建物仕入高勘定に1,020,409円、仮払消費税勘定に51,020円それぞれ計上した。
D P物件について
 請求人は、平成19年8月31日に、S社に対して売買代金110,000,000円を支払ってP物件を取得し、この支払金額を、土地仕入高勘定に50,000,000円、建物仕入高勘定に57,142,858円、仮払消費税勘定に2,857,142円それぞれ計上し、また、同物件の土地に係る未経過固定資産税等相当額245,072円を支払い、土地仕入高勘定に計上した。
(ニ) 本件課税期間末日の経理処理の状況について
 請求人は、本件課税期間の末日である平成19年8月31日に、本件4物件について、上記(ハ)のとおり、土地仕入高勘定及び建物仕入高勘定に計上した金額を、それぞれ棚卸土地勘定及び棚卸建物勘定に一括して振り替えた。
ハ 請求人の本件4建物に係る消費税等の申告状況等について
 請求人は、本件課税期間の消費税等に係る確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を別表1の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限内である平成19年10月23日に原処分庁に提出した。
 請求人は、控除対象仕入税額の計算について、課税資産の譲渡等にのみ要するもの、その他の資産の譲渡等にのみ要するもの及び課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものにその区分を明らかにして個別対応方式を適用しており、本件確定申告書において、本件4建物の取得はいずれも「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ」に該当するとして、その取得に係る消費税額の全額を控除した。
 なお、請求人は、平成19年8月31日に、本件課税期間を適用開始課税期間とする消費税課税事業者選択届出書を原処分庁に提出した。
ニ 原処分の内容について
 原処分庁は、本件4建物の取得はいずれも「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ」に該当するとして、平成22年10月29日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

トップに戻る

2 主張

原処分庁 請求人
 以下のとおり、本件4建物の取得は、控除対象仕入税額の計算において、個別対応方式の適用上、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ」に該当する。  以下のとおり、本件4建物の取得は、控除対象仕入税額の計算において、個別対応方式の適用上、「課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ」に該当する。
(1) 基本通達11−2−20において、個別対応方式により控除対象仕入税額を算定する場合、課税仕入れ等の用途区分は、「課税仕入れを行った日の状況により行う」とされているところ、本件4建物のうち、N建物は、その取得日において、住宅及び店舗の貸付けの用に供されていたこと、N建物以外の建物は、住宅の貸付けの用に供されていたこと及び請求人は、本件4物件を販売用不動産として経理して販売広告等を行っていることなどから、本件4建物の取得は、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ」に該当する。 (1) 基本通達11−2−20において、個別対応方式により控除対象仕入税額を算定する場合、課税仕入れ等の用途区分は、「課税仕入れを行った日の状況により行う」とされており、課税仕入れを行った日の状況とは、当該課税仕入れの目的及び当該課税仕入れに対応する資産の譲渡等がある場合にはその資産の譲渡等の内容を勘案して判断すべきであるところ、請求人は、不動産販売業を営む法人であり、本件4建物を販売する目的で取得している。また、その取得に伴って住宅の貸付けによる収入が発生しているが、これは販売用不動産としての商品価値を高めるものであり、その収入を得ることを目的に取得したものではない。
(2) 基本通達11−2−12は、課税資産の譲渡等にのみ要する課税資産として、「そのまま他に譲渡される課税資産」を例示しているが、棚卸資産であれば必ず課税資産の譲渡等にのみ要するものに該当するとしているものではなく、また、本件4建物が棚卸資産であり、その譲渡が課税資産の譲渡等に該当するとしても、本件4建物の取得により、その他の資産の譲渡等に該当する住宅の貸付けによる収入を得る状況であることから、本件4建物は、「そのまま他に譲渡される課税資産」に該当しない。 (2) 基本通達11−2−12は、課税資産の譲渡等にのみ要する課税資産として、「そのまま他に譲渡される課税資産」を例示しているが、この例示は棚卸資産を想定したものであって、請求人は、販売目的で取得した本件4建物を棚卸資産に計上し、その後、用途変更や改修工事をすることなく、そのまま他に譲渡しようとしていたこと、また、本件4建物を譲渡した場合には、課税資産の譲渡等に該当することなどから、本件4建物は、同通達の「そのまま他に譲渡される課税資産」に該当する。

トップに戻る

3 判断

(1) 法令解釈

イ 課税仕入れ等の用途区分の判定時期について
 消費税法第30条第2項第1号は、課税売上割合が100分の95に満たない課税期間中に国内において行った課税仕入れ等について、まる1課税資産の譲渡等にのみ要するもの、まる2その他の資産の譲渡等にのみ要するもの及びまる3課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものにその区分が明らかにされている場合には、当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除される課税仕入れ等に係る消費税額の合計額は、まる1課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ等の税額の合計額に、まる3課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ等の税額の合計額に課税売上割合を乗じて計算した金額を加算する個別対応方式による旨規定している。
 基本通達11−2−20は、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合において、上記まる1ないしまる3の区分は、原則として課税仕入れ等を行った日の状況により行う旨及び課税仕入れ等を行った日において当該区分が明らかにされていない場合でも、その日の属する課税期間の末日までに当該区分が明らかにされたときは、その明らかにされた区分によることを認める旨定めているが、この通達は、消費税法第34条《課税業務用調整対象固定資産を非課税業務用に転用した場合の仕入れに係る消費税額の調整》第1項第1号及び同法第35条《非課税業務用調整対象固定資産を課税業務用に転用した場合の仕入れに係る消費税額の調整》第1項第1号がそれぞれ課税仕入れ等を行った課税期間中に当該課税仕入れ等に係る資産の用途変更をした場合についての仕入れに係る消費税額の調整をあえて規定していることなどに照らせば、当審判所においても相当と認める。
ロ 課税資産の譲渡等にのみ要するものの意義について
 基本通達11−2−12は、上記イの個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合の課税資産の譲渡等にのみ要するものの意義について、課税資産の譲渡等にのみ要するものとは、課税資産の譲渡等を行うためにのみ必要な課税仕入れ等をいうこと、また、そのまま他に譲渡される課税資産は、課税資産の譲渡等を行うためにのみ必要な課税仕入れ等に該当すること、そして、当該課税仕入れ等を行った課税期間において当該課税仕入れ等に対応する課税資産の譲渡等があったかどうかは問わないことなどを定めているが、この通達は、個別対応方式により仕入控除税額を計算する場合の課税資産の譲渡等にのみ要するものとは、規定の文言どおり課税資産の譲渡等を行うためにのみ必要な課税仕入れ等であって、課税資産の譲渡等を行うために要した課税仕入れ等ではなく、その課税期間中に課税資産の譲渡等が行われていないとしても、そのことをもって仕入税額控除が認められないというものではないことを念のために明らかにしたものであり、当審判所においても相当と認める。
ハ 課税仕入れ等を行った日の状況の意義について
 上記イ及びロに照らせば、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合において、上記イのまる1ないしまる3の区分は、当該課税仕入れ等の目的及び当該課税仕入れ等に対応する資産の譲渡等がある場合にはその資産の譲渡等の内容などの課税仕入れ等を行った日の状況を勘案して判断すべきものと解するのが相当である。
ニ 店舗、駐車場及び住宅の貸付けについて
 消費税法第2条第1項第8号、第9号、第4条第1項、第6条第1項及び同法別表第一第13号の規定によれば、店舗又は駐車場を貸付けの用に供することは、原則として、課税資産の譲渡等に該当し、住宅を貸付けの用に供することは、原則として、その他の資産の譲渡等に該当すると解するのが相当である。

(2) 認定事実

 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件4建物の利用状況等について
(イ) L建物について
 L建物は、住宅24戸の共同住宅であるところ、上記1の(4)のロの(ハ)のAのとおり、請求人がL建物を取得した平成19年2月1日から、Q社が居住用転貸事業の目的に使用するため、請求人は同社にL建物を賃貸しており、請求人が同物件を取得した日には、L建物は、住宅の貸付けの用に供されていたものである。
 また、請求人は、別途、R社から8台分の駐車場を賃借しており、当該駐車場をL建物と一括してQ社に賃貸していた。
(ロ) M建物について
 M建物は、住宅10戸の共同住宅であるところ、上記1の(4)のロの(ハ)のBのとおり、請求人がM建物を取得した平成19年3月23日には、全戸が賃貸されており、請求人が同物件を取得した日には、M建物は、住宅の貸付けの用に供されていたものである。
 また、M建物には、1台分の駐車場が設置されており、当該駐車場の貸付けの用にも供されていたものである。
(ハ) N建物について
 N建物は、店舗1戸及び住宅26戸の店舗付の共同住宅であるところ、上記1の(4)のロの(ハ)のCのとおり、請求人がN建物を取得した平成19年6月28日には、店舗1戸及び住宅16戸が賃貸されており、請求人が同物件を取得した日には、N建物は、店舗及び住宅の貸付けの用に供されていたものである。
(ニ) P建物について
 P建物は、住宅6戸の共同住宅であるところ、上記1の(4)のロの(ハ)のDのとおり、請求人がP建物を取得した平成19年8月31日には、住宅5戸が賃貸されており、請求人が同物件を取得した日には、P建物は、住宅の貸付けの用に供されていたものである。
ロ 本件4物件の販売活動の実施状況について
(イ) L物件について
 請求人は、L物件を取得した平成19年2月頃、同物件を他に販売したい旨の意向をQ社の担当者に示していた。
(ロ) M物件について
 請求人は、R社にM物件の販売広告を依頼し、同社は、「不動産投資物件情報M」と題する販売用資料を作成して、請求人が同物件を取得した平成19年3月23日から平成22年2月10日までの間、同物件の販売広告を行った。
(ハ) N物件について
 請求人は、平成19年11月6日付で、N物件の売主として、買主であるTとの間で、同物件を売買代金160,000,000円で売り渡す旨の不動産売買契約を締結して同物件を売却した。
 このことから、請求人は、本件課税期間中に、取得した同物件の販売活動を行っていたものと推認される。
(ニ) P物件について
 請求人は、R社にP物件の販売広告を依頼し、同社は、「不動産投資物件情報P」と題する販売用資料を作成して、請求人が同物件を取得した平成19年8月31日から平成22年2月10日までの間、同物件の販売広告を行った。
ハ 本件4物件以外に取得された物件について
(イ) 物件の取得及び経理処理の状況について
 請求人は、平成19年1月16日付で、g市h町○−○の土地及び同○番地○に所在する建物(以下「U建物」といい、この土地と併せて「U物件」という。なお、当該物件の明細は、別表2の「U物件」欄のとおりである。)の買主として、売主であるKとの間で不動産売買契約を締結し、平成19年2月1日に、Kに対して売買代金100,000,000円及び未経過固定資産税等相当額22,986円の合計額100,022,986円を支払ってU物件を取得し、この支払金額を、同物件の土地及び建物の固定資産税評価額を基にしたあん分計算等により、土地勘定に37,008,767円、建物勘定に48,010,835円、建物附属設備勘定に12,002,708円、仮払消費税勘定に3,000,676円それぞれ計上した。
(ロ) U建物の利用状況等について
 U建物は、住宅20戸の共同住宅であるところ、上記(イ)のとおり、請求人がU建物を取得した平成19年2月1日から、Q社が居住用転貸事業の目的に使用するため、請求人は同社にU建物を賃貸しており、請求人が同物件を取得した日には、U建物は、住宅の貸付けの用に供されていたものである。
 なお、U建物には、9台分(現在、うち2台分は来客用)の駐車場が設置されており、請求人は、この駐車場をU建物と一括してQ社に賃貸していた。

(3) 判断

イ 個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合の本件4建物の区分について
 上記(1)のとおり、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合において、課税資産の譲渡等にのみ要するもの、その他の資産の譲渡等にのみ要するもの及び課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものの区分は、原則として、課税仕入れ等を行った日の状況により行うものと解され、当該区分は、当該課税仕入れ等の目的及び当該課税仕入れ等に対応する資産の譲渡等がある場合にはその資産の譲渡等の内容などを勘案して判断すべきものと解される。
 ところで、請求人は、本件4物件について、上記1の(4)のロの(ハ)のとおり、取得時においては、それぞれ土地仕入高勘定及び建物仕入高勘定に計上し、上記1の(4)のロの(ニ)のとおり、本件課税期間の末日において、いずれも棚卸土地勘定及び棚卸建物勘定に振り替えているが、上記(2)のロのとおり、請求人は、本件課税期間において本件4物件の販売活動をしていたこと及び上記(2)のハの(イ)のとおり、U物件については、請求人は、固定資産として土地勘定、建物勘定及び建物附属設備勘定にそれぞれ計上し、本件4物件とは明らかに異なる経理処理を行っている上その取得後に当該物件の販売活動を行った様子がうかがわれないことに照らせば、請求人は、U物件は、自社所有の賃貸用の固定資産として使用することを目的として取得したのに対し、本件4物件は、いずれも販売することを目的として取得したものと認められる。
 そうであるところ、上記(2)のイのとおり、請求人が本件4建物を取得し課税仕入れを行った日には、本件4建物はいずれも住宅の貸付けの用に供されていたことが認められ、併せて、M建物は駐車場の貸付けの用、N建物は店舗の貸付けの用にも供されていたことが認められる。
 そうであるとすれば、本件4建物は、いずれも販売することを目的として取得されたものであるとしても、本件4建物を取得した時点では、同時に住宅の貸付け等の用にも供されていたのであるから、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合において、本件4建物は、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに区分すべきものと解される。
ロ 請求人の主張について
 請求人は、本件4建物は販売する目的で取得したものであること、また、その取得に伴って住宅の貸付けによる収入が発生しているが、これは販売用不動産としての商品価値を高めるものであってその収入を得ることを目的に取得したものではないことから、本件4建物は、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合において、課税資産の譲渡等にのみ要するものに該当する旨主張する。
 しかしながら、上記イで認定説示したとおり、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合における資産の区分は、課税仕入れ等を行った日における当該課税仕入れ等の目的だけではなく、当該課税仕入れ等に対応する資産の譲渡等がある場合にはその資産の譲渡等の内容などを勘案して判断すべきものであり、請求人が主張するように、本件4建物がいずれも販売することを目的として取得されたものであるとしても、本件4建物は、請求人が同物件を取得した時点で、いずれも住宅の貸付け等の用に供されていたのであるから、課税資産の譲渡等にのみ要するものに該当するということはできない。
 また、請求人は、本件4建物は棚卸資産に計上した後、用途変更や改修工事をすることなく、そのまま他に譲渡しようとしていることなどから、本件4建物は、基本通達11−2−12の「そのまま他に譲渡される課税資産」に該当する旨主張するが、消費税法第2条第1項第8号及び同9号によれば、課税資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供のうち、同法第6条第1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいうところ、上記イのとおり、本件4建物は、課税資産の譲渡等に該当する販売を目的として取得されたものであるだけではなく、取得時において消費税を課さないこととされる資産の譲渡等に該当する住宅の貸付けの用にも供されていたのであるから、基本通達11−2−12の「そのまま他に譲渡される課税資産」には該当しないというべきである。
 したがって、請求人の主張は、いずれも採用することができない。
ハ 原処分の適否について
 上記イ及びロのとおり、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合の本件4建物の区分は、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに区分すべきであり、その限りにおいては、原処分庁の主張は相当であるが、本件課税期間における消費税等についての当審判所の認定額等は、以下のとおりである。
(イ) 本件課税期間の課税売上額等について
A L建物の駐車場の賃貸料について
 原処分庁は、L建物の駐車場の賃貸料月額28,800円を非課税売上げとして計算しているが、上記(1)のニのとおり、当該駐車料は課税売上げに該当するものと認められる。本件課税期間における駐車場の賃貸料の額は、月額28,800円に賃貸期間の7か月を乗じた201,600円(税抜き額191,996円)である。なお、請求人は、本件課税期間の末日に当該駐車場に係る賃借料201,600円を地代家賃勘定に計上している。
B M建物の駐車場の賃貸料について
 原処分庁は、平成19年4月分のM建物の駐車場の賃貸料額10,000円を非課税売上げとして計算しているが、上記(1)のニのとおり、当該駐車料は課税売上げ(税抜き額9,523円)に該当するものと認められる。
C U建物の駐車場の賃貸料について
 原処分庁は、U建物の駐車場の賃貸料月額24,300円を非課税売上げとして計算しているが、上記(1)のニのとおり、当該駐車料は課税売上げに該当するものと認められる。本件課税期間における当該駐車場の賃貸料の額は、月額24,300円に賃貸期間の7か月を乗じた170,100円(税抜き額161,994円)である。
D 小括
 本件課税期間における課税売上額の原処分庁の主張額は、別表3の「原処分庁主張額」欄の「課税売上額」欄のとおりであるが、上記AないしCの各駐車場の賃貸料収入は本件課税期間の課税売上額となるから、本件課税期間の課税売上額は、別表3の「審判所認定額」欄の「課税売上額」欄のとおり、計○○○○円である。
(ロ) 本件課税期間の課税売上割合について
 本件課税期間における課税売上割合の原処分庁の主張額は、別表3の「原処分庁主張額」欄の「課税売上割合」欄のとおりであるが、上記(イ)により課税売上割合を計算すると、本件課税期間の課税売上割合は、別表3の「審判所認定額」欄の「課税売上割合」欄のとおり、○○○○分の○○○○(95%未満)である。
(ハ) 本件4物件及びU物件の土地及び建物の取得価額について
 請求人は、上記1の(4)のロの(ロ)及び(ハ)並びに上記(2)のハの(イ)のとおり、L物件、M物件及びU物件の各売買代金が土地及び建物に区分されていなかったことから、当該各物件の土地及び建物の固定資産税評価額を基にあん分計算をして土地及び建物それぞれの取得価額等を算出しており、原処分庁も、このあん分価額に基づき計算を行っている。この算出方法は、固定資産税評価額が売買実例等を基に算定した正常売買価格を基礎として求められたものであることからも合理性が認められ、当審判所においても、当該算出方法を採用することとする。
 また、請求人は、N物件に係る預り敷金については、土地及び建物の売買代金の割合に応じてあん分計算をして土地及び建物の取得価額に区分するとともに、P物件に係る未経過固定資産税等相当額については、その全額が土地に係るものであることから、土地の取得価額としているが、この算出方法は合理性が認められ、当審判所においても、当該算出方法を採用することとする。
 そうすると、当審判所が認定する本件4物件及びU物件に係る土地及び建物の取得価額は、別表4ないし別表8の「審判所認定額」欄の「取得価額」欄の「土地」欄及び「建物」欄の各「計」欄のとおりであり、同各表の「原処分庁主張額」と同額である。
(ニ) 本件課税期間の控除対象仕入税額について
 本件課税期間の控除対象仕入税額の原処分庁の主張額は、別表9の「原処分庁主張額」欄のとおりであるが、以下のとおり、当審判所の認定額は、上記(イ)ないし(ハ)を含め、別表9の「審判所認定額」欄のとおりである。
A 上記(ロ)のとおり、本件課税期間の課税売上割合は95%未満であり、本件課税期間の控除対象仕入税額は、個別対応方式により計算される。
B 上記(2)のイの(イ)及び上記(イ)のAのとおり、L建物の駐車場の賃借に係る課税仕入れは、「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に該当する。
C 上記イのとおり、本件4建物の取得に係る課税仕入れは、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」に該当する。
D 上記(2)のハの(ロ)のとおり、U建物は住宅及び駐車場の貸付けの用に供されていたものと認められることから、U建物の取得に係る課税仕入れは、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」に該当する。
E 小括
 以上AないしDのとおり、本件課税期間の控除対象仕入税額は、別表9の「審判所認定額」欄の「控除対象仕入税額」欄のとおり、○○○○円である。
(ホ) 還付される消費税等の合計税額について
 本件課税期間の還付される消費税等の合計税額の原処分庁の主張額は、別表10の「原処分庁主張額」欄の「消費税等の合計税額」欄のとおり、○○○○円であるが、本件課税期間の課税売上額は上記(イ)のDのとおりであり、また、本件課税期間の控除対象仕入税額は上記(ニ)のEのとおりであるから、本件課税期間の還付される消費税等の合計税額の当審判所の認定額は、別表10の「審判所認定額」欄の「消費税等の合計税額」欄のとおり、○○○○円の還付金の額に相当する税額となり、別紙1の「取消額等計算書」の「3 課税標準額及び税額等の計算」の「裁決後の額B」の「まる13まる19及びまる20の差引納付する税額又は合計税額」の各欄の金額は、別紙1の「取消額等計算書」の「3 課税標準額及び税額等の計算」の「原処分の額A」の「まる13まる19及びまる20の差引納付する税額又は合計税額」の各欄の金額をいずれも下回るから、本件更正処分は、その一部を別紙1のとおり、取り消すべきである。
(ヘ) 本件賦課決定処分について
 上記(ホ)のとおり、本件更正処分の一部が取り消されることに伴い、本件賦課決定処分については、別紙1の「取消額等計算書」の「加算税の額の計算」及び同付表の「過少申告加算税」の「裁決後の額B」の「加算税の額」の各欄の金額は、別紙1の「取消額等計算書」の「加算税の額の計算」及び同付表の「過少申告加算税」の「原処分の額A」の「加算税の額」の各欄の金額をいずれも下回るから、本件賦課決定処分は、その一部を別紙1のとおり取り消すべきである。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る

トップに戻る