(平成24年2月7日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、収益事業部門(結婚式場)に係る収支と非収益事業部門(神社)に係る収支を区分経理し、このうち収益事業部門に係る収支のみに基づいて消費税及び地方消費税の確定申告をしたところ、原処分庁が、非収益事業部門に係る収支を合算の上、消費税法第60条《国、地方公共団体等に対する特例》第4項に規定する課税仕入れ等の税額の控除(以下「仕入税額控除」という。)の特例を適用して更正処分等を行ったことから、請求人が、非収益事業部門における初穂料等の収入が収益事業部門における課税仕入れに充てられることはないのであるから、請求人に同項の規定が適用されるべきではないなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人は、平成19年4月1日から平成20年3月31日まで、平成20年4月1日から平成21年3月31日まで及び平成21年4月1日から平成22年3月31日までの各課税期間(以下、順次「平成20年3月課税期間」、「平成21年3月課税期間」及び「平成22年3月課税期間」といい、各課税期間を併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分について、平成23年3月28日に審査請求をした。
 この審査請求に至る経緯は、別表記載のとおりである。

(3) 関係法令

 別紙記載のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、宗教法人であり、神社のほか結婚式場等の事業を営んでいる(以下、請求人の神社に係る事業部門を「非収益事業部門」といい、結婚式場等の事業部門を「収益事業部門」という。)。
ロ 請求人の本件各課税期間の基準期間における課税売上高は、いずれも1,000万円を超えている。
ハ 請求人は、非収益事業部門に係る収支と収益事業部門に係る収支をそれぞれ区分経理しており、本件各課税期間における消費税等について、収益事業部門に係る収支のみに基づいて納付すべき税額を計算し、確定申告をした。
ニ 原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)の調査に基づき、収益事業部門と非収益事業部門における収入及び支出を合算の上、非収益事業部門における初穂料等の収入(以下「本件収入」という。)が消費税法第60条第4項に規定する特定収入に該当するとして、同項の規定による仕入税額控除の特例(以下「本件特例」という。)を適用して原処分を行った。

(5) 争点

 本件収入が消費税法第60条第4項に規定する特定収入に該当するとして本件特例を適用すべきか否か。

トップに戻る

2 主張

(1) 原処分庁

 本件収入は、消費税法施行令第75条第1項に規定する特定収入から除かれる収入のいずれにも該当しないことが明らかであり、消費税法第60条第4項に規定する特定収入に該当する。よって、本件収入が特定収入に該当するとして本件特例を適用した原処分は適法である。

(2) 請求人

イ 本件収入は、次の理由から消費税法第60条第4項に規定する特定収入には該当しない。
(イ) 請求人は、収益事業部門に係る収支と非収益事業部門に係る収支を厳密に区分して経理していることから、本件収入が収益事業部門における食材等の購入に係る課税仕入れに使われることはない。
(ロ) 調査担当職員も認めているように、請求人の課税仕入れのうち仕入税額控除が認められなかった食材等の購入に係る課税仕入れは最終消費的な性格を持つものでない。そうであるにもかかわらず、非収益事業部門における不課税収入が特定収入に該当するとした場合には仕入税額控除の一部が認められないため、預かった消費税から仕入れの際に実際に支払った消費税を差し引いた金額を超える金額について、本来負担すべき立場にない請求人が実質的に負担することとなる。
 この状況は、実質的に消費税の二重取り又は不課税収入への課税というべきもので、最終消費者から預かった消費税から事業者が支払った消費税を納付するという消費税の在り方に反している。
ロ 消費税法上、収益事業部門に係る収支と非収益事業部門に係る収支を合算して消費税の申告をすることとされているものの、両者を厳密に区分して経理しているにもかかわらず、これらの事業について区分して申告することが認められないこと、また、国等からの補助金収入を得ていないにもかかわらず、国等から補助金収入を得ている他の公益法人と同様に扱われることによって消費税法第60条第4項の規定が適用され、結果として、本来負担すべきでない税金を負担しなければならないことは不合理である。
ハ 消費税法第60条第4項の規定は、実質不課税収入への課税となっている事実から、明らかに政教分離の原則に反し、憲法違反である。

トップに戻る

3 判断

(1) 法令解釈

イ 消費税法第60条第4項は、国、地方公共団体又は同法別表第三に掲げる公共・公益法人等が課税仕入れ等を行う場合において、当該課税仕入れ等の日の属する課税期間において特定収入があり、かつ、当該特定収入の合計額が僅少でない場合として政令で定める場合に該当するときは、当該特定収入に係る課税仕入れ等の税額を仕入税額控除の対象としない旨規定しているところ、同項の規定は、まる1対価性のない収入によって賄われる課税仕入れ等は、課税売上げのコストを構成しない、いわば最終消費的な性格を持つものと考えられること、まる2消費税法における仕入税額控除制度は税の累積を排除するためのものであり、対価性のない収入を原資とする課税仕入れ等に係る税額を課税売上げに係る消費税の額から控除することには合理性がないと考えられることから、対価性のない収入によって賄われる課税仕入れ等に係る税額について仕入税額控除の対象から除外することとしたものと解するのが相当である。
ロ また、消費税法第60条第4項の規定を受けた消費税法施行令第75条第1項は、資産の譲渡等の対価以外の収入のうち特定収入から除かれる収入として第1号から第6号までの収入を規定し、第6号イで、法令又は交付要綱等において課税仕入れ等に係る支払対価以外の支出のためにのみ使用することとされている収入を規定しているところ、同号イの規定は、上記イのような本件特例の趣旨からして、法令又は交付要綱等によって使途が課税仕入れ等に係る支払対価以外の支出にのみ限定されているような収入についてまで本件特例の対象とすることは相当でないことから、これを特定収入から除外することとしたものと解するのが相当である。

(2) 判断

イ 以上を前提に本件についてみると、本件収入は、初穂料等の対価性のない収入であるから、資産の譲渡等の対価以外の収入に当たる。そして、本件収入は、特定収入から除かれる収入について規定する消費税法施行令第75条第1項第1号から第5号まで及び第6号ロに掲げる収入のいずれにも当たらず、同号イに規定する法令又は交付要綱等によって課税仕入れ等に係る支払対価以外の支出のために使用することとされている収入にも当たらないから、消費税法第60条第4項に規定する特定収入に該当する。
 したがって、本件収入が特定収入に該当するとして行われた原処分に違法はない。
ロ この点に関し、請求人は、収益事業部門と非収益事業部門における収支を厳密に区分経理しており、本件収入が収益事業部門における課税仕入れに使われることはなく、また、預かった消費税から仕入れの際に実際に支払った消費税を差し引いた金額を超える金額を請求人が実質的に負担することとなり、消費税の在り方に反するなどとして、本件収入が特定収入に該当しない旨主張する。
 しかしながら、上記(1)ロのとおり、消費税法施行令第75条第1項第6号イは、法令又は交付要綱等によって課税仕入れ等に係る支払対価以外の支出のみに使途が限定されている収入を特定収入から除く旨規定しているところ、本件収入は、法令の規定又は交付要綱等によって拘束されることなく請求人が自らその使途を選択できる収入であり、同号イに掲げる収入に該当しないことは明らかであるから、請求人が収益事業部門と非収益事業部門における収支を厳密に区分経理していたとしても、請求人が任意に本件収入の使途を定めているにすぎず、そのことをもって、本件収入が特定収入から除かれる収入に当たるということはできない。
 そして、上記(1)イのとおり、本件特例は、対価性のない収入によって賄われる課税仕入れ等が課税売上げのコストを構成しない、いわば最終消費的な性格を持つものと考えられるため、その性格から、対価性のない収入により賄われる課税仕入れ等に係る税額について仕入税額控除の対象から除外することとしたものである。そうすると、特定収入に該当する本件収入の額に対応する課税仕入れ等については、最終消費的な性格を持つものといえるから、その税額は請求人が本来負担すべきものであって、それが仕入税額控除の対象から除外されても、消費税の在り方に反するなどとはいえない。
 したがって、請求人の主張は採用できない。
ハ また、請求人は、補助金収入を得ていない請求人が国等から補助金収入を得ている他の公益法人と同様に扱われることなどにより、消費税法第60条第4項の規定が適用され、結果として、本来負担すべきでない税金を負担しなければならないことは不合理である旨主張する。
 しかしながら、特定収入から除外される補助金収入等が法令又は交付要綱等によって使途を限定された収入であるのに対し、上記ロのとおり、本件収入が請求人自らその使途を選択できる収入であるという違いがあることからすると、本件収入が特定収入から除外されないことが不合理とはいえない。
 そうすると、本件特例を適用した結果が不合理であるなどということはできないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ なお、請求人は、消費税法第60条第4項の規定が憲法に違反するなどと主張するが、当審判所は、税務署長等が行った処分が国税に関する法令に反する違法、不当な処分であるか否かを判断する機関であって、請求人の憲法違反に関する主張についての判断は当審判所の権限に属さないことであり、審理の限りではない。

(3) 以上のとおり、原処分には、争点についてこれを取り消すべき理由はない。

 また、原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る

トップに戻る