(平成24年4月24日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、請求人名義の有価証券等を相続財産として修正申告したところ、原処分庁が、当該有価証券等を当初申告に含めなかったことは相続税法第19条の2《配偶者に対する相続税額の軽減》第5項に規定する隠ぺい仮装行為に当たるなどとして、更正処分及び重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、請求人名義の財産が相続財産であると認識していなかったために当初申告に含めなかったのであって隠ぺい仮装行為はなかったなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人は、平成20年11月○日に死亡したE(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る共同相続人のうちの一人であり、平成23年2月28日付でされた本件相続に係る相続税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)について、同年7月12日に審査請求をした。
 この審査請求に至る経緯等は、別表1記載のとおりである。

(3) 関係法令

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の配偶者である請求人及び本件被相続人の子であるF(以下「本件共同相続人」という。)の2名であり、請求人は、本件被相続人と同居していたが、本件共同相続人は、高校卒業後、本件被相続人と同居していなかった。また、本件被相続人は、本件相続の開始時において、弁護士業を営んでおり、請求人を扶養していた。
ロ 請求人は、平成21年6月11日に、別表1の「当初申告」欄記載のとおり本件相続に係る相続税の申告(以下「本件申告」といい、本件申告により提出した申告書を「本件申告書」という。)をした。なお、本件申告書の「相続税がかかる財産の明細書(第11表)」には、本件被相続人の相続財産として預貯金37,704,393円、有価証券69,379,920円及び不動産等その他の財産○○○○円の合計○○○○円が記載されている。
ハ 請求人は、本件相続に係る相続税について原処分庁所属の調査担当職員の調査(以下「本件調査」といい、本件調査を担当した職員を「本件調査担当職員」という。)を受け、別表2の順号1から順号39まで記載の各財産(以下、同表の順号1から順号20まで及び順号22から順号39まで記載の各財産を併せて「請求人名義財産」といい、同表の順号21記載の財産を「事務所名義財産」という。また、請求人名義財産及び事務所名義財産を併せて、以下「請求人等名義財産」という。)等が申告漏れであり、請求人等名義財産について請求人が取得し、代償財産として請求人が本件共同相続人に現金39,686,150円を支払うなどとして、平成22年11月25日に、別表1の「修正申告」欄記載のとおり修正申告をした。なお、当該修正申告により納付すべき税額は、相続税法第19条の2第1項に規定する配偶者に対する相続税額の軽減(以下、同項の規定を「配偶者の税額軽減措置」という。)後の金額となっている。

(5) 争点

イ 相続税法第19条の2第5項に規定する隠ぺい仮装行為があったか否か。
ロ 通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。

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2 主張

(1) 争点イについて

イ 原処分庁
 次の事実を総合的に判断すると、請求人は、本件被相続人の財産を原資とする多額の請求人等名義財産が存在すること及び当該財産が本件被相続人の相続財産であることを熟知していながら、本件共同相続人及び本件申告書の作成を依頼したG税理士(以下「本件関与税理士」という。)にそれを伝えず、同税理士に過少な申告額を記載した本件申告書を作成させ、当該申告書を原処分庁に提出したものと認められる。よって、請求人は、当初から相続財産を過少に申告することを意図した上、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたといえるから、請求人等名義財産の申告漏れについて、請求人には相続税法第19条の2第5項に規定する隠ぺい仮装行為があった。
(イ) 請求人名義財産に係る契約、口座開設及び申込み等の手続は、全て請求人が行っているとともに、本件申告書に計上された本件被相続人名義の有価証券のうち、H信託銀行c支店及びJ銀行d支店の投資信託以外の有価証券に係る口座開設手続も、請求人が行っていること、また、K証券c支店、L証券c支店及びH信託銀行c支店の各担当者の申述等からすれば、請求人は、自ら取引金融機関と連絡を取り合い、若しくは出向くなどして、本件被相続人の財産の形成や管理運用に積極的に関与していたほか、請求人名義財産についてもその形成から管理運用に至るまで自ら行っていたことが認められる。
(ロ) 請求人は、本件調査において、本件調査担当職員に対し、まる1請求人には収入がないので、K証券c支店及びJ銀行d支店の請求人名義の証券は、本件被相続人が働いたお金で作っていてくれたということになる旨、まる2請求人は本件被相続人から贈与を受けたことはない旨及びまる3請求人の父親から請求人が相続により取得したのは土地のみであった旨申述していることから、請求人名義財産が存在し、それが本件被相続人の収入等を原資として形成されたものであること等を、本件申告以前から熟知していたことが合理的に推認される。
(ハ) 請求人は、本件調査において、本件調査担当職員に対し、まる1取引金融機関の通帳の一部は金融機関が回収したので手元にない旨不自然な申述をするとともに、まる2平成22年8月4日に別表3記載の資料のみが入ったファイルを本件調査担当職員に提示した後、そのファイルを同年10月8日に再度提示した際に別表4記載の資料も最初から入っていたなどと本件調査担当職員の認識不足であるかのような責任を転嫁するような申述を行い、まる3自ら金融機関との取引に積極的に関与していない旨の虚偽の申述をしながら、まる4後日、合理的な理由もなくその申述を覆すなど、不自然な言動を行ったほか、上記(ロ)のとおり請求人名義財産の存在について本件申告以前から熟知していることが合理的に推認されるにも関わらず、請求人名義財産の存在についてあたかも不知であるかのような申述をするなどして、請求人名義財産の管理等に関する自らの関与を否定する申述を繰り返し、それに係る資料や証書の一部を提示しなかった。
(ニ) 事務所名義財産については、一見してその名義から本件被相続人の事業に係る財産であることが明らかであることに加え、事務所名義財産の通帳に記載されている支払金額のチェックを請求人がしていること、並びに、本件調査担当職員が平成22年7月21日に請求人及び本件関与税理士に対して本件調査を行う旨電話で連絡した後の同月28日に、請求人がJ銀行e支店において事務所名義財産に係る相続手続を行っていることなどからしても、請求人は、当初から事務所名義財産の存在を知っており、それが本件申告書に含まれていない事実を認識していながら、本件調査担当職員に対し、申告内容に誤りがあることについての自らの責任を逃れるかのような申述をした。
ロ 請求人
 請求人が請求人等名義財産を相続財産として申告しなかったのは、次のとおり、隠ぺい又は仮装の意図に基づくものではなく、また、原処分庁が隠ぺい仮装行為と認定する事実は軽微な誤り程度であって、原処分庁は、請求人に隠ぺい又は仮装と評価すべき行為が存在し、請求人が当初から過少に申告することを意図していたことを立証していない。
(イ) 請求人名義財産を本件申告において相続財産に含めなかった理由は、請求人名義財産の総額の把握も十分にできていなかったことに加え、本件関与税理士から、請求人名義財産が本件被相続人に帰属する財産と認められる場合には相続財産に含まれるということについての説明や請求人名義財産に係る残高証明書等の資料の請求もなく、それが相続財産に当たると認識していなかったためであり、隠ぺい又は仮装の意図に基づくものではない。
 なお、原処分庁は、金融機関の担当者の発言を基に、請求人に隠ぺい仮装行為があった旨主張するが、証券会社を含めた金融機関は、法令その他のルールを遵守して募集行為を実施しているとの前提でしか回答できないのであるから、金融機関の担当者の発言を基に隠ぺい仮装行為があったと断定するのは誤りである。
(ロ) 仮に、本件調査担当職員の質問に対する請求人の回答が正確性を欠いていたとしても、それは、請求人が高齢であったことに加え、夫の突然の死亡によって精神的なショックを受け、記憶の混乱や認知能力の減退があり、気も動転していたためである。
 また、原処分庁が主張する本件調査担当職員に対する請求人の申述内容には、例えば、請求人が取引金融機関の通帳の所在について、各種手続に当たり銀行の担当者が自宅に来訪の上、手続書類を作成した上で通帳とともに一旦銀行へ持ち帰り、後日返却することが比較的頻繁に行われていたことから、常に通帳が手元にあるとは限らないという事情について言及したことが異なったニュアンスで残されているなど、事実をわい曲又はねつ造したと考えられる箇所が少なからず認められる。
(ハ) 事務所名義財産が本件申告において相続財産に含まれていなかったのは、本件被相続人の事業に関する事項は本件関与税理士に全面的に任せており、同税理士が事務所名義財産を把握して申告しているものと思っていたため、及び、本件申告の資料として取り寄せたJ銀行e支店の残高証明書に事務所名義財産が記載されていなかったことに気付かなかったためである。

(2) 争点ロについて

イ 原処分庁
 上記(1)イのとおり、請求人は、当初から相続財産を過少に申告することを意図した上、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと認められるから、請求人には通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為があった。
ロ 請求人
 上記(1)ロのとおり、請求人には通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装の行為はなかった。

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3 判断

(1) 争点イについて

イ 法令解釈
 相続税法第19条の2第5項は、相続又は遺贈により財産を取得した者が、隠ぺい仮装行為に基づき相続税の申告書を提出していた場合又は提出していなかった場合で、その相続税について調査があったことにより更正又は決定があるべきことを予知して期限後申告書又は修正申告書を提出するときは、同条第1項の配偶者の税額軽減措置を適用するに当たって、相続税の総額は、課税価格の合計額に配偶者が行った隠ぺい仮装行為による事実に基づく金額を含まないものとして計算し、配偶者の課税価格は、相続又は遺贈により財産を取得した者が行った隠ぺい仮装行為による事実に基づく金額を控除した金額とするなど、隠ぺい仮装行為による事実に基づく金額を配偶者の税額軽減措置の対象から除外する旨規定しているところ、当該規定は、適正な申告を確保し、課税の公平を図るため、納税義務者が過少申告をするについて隠ぺい仮装行為による事実に基づく金額までもが配偶者の税額軽減措置の適用を受けるのは不合理であるとの趣旨から設けられたものと解される。
 そして、上記規定の趣旨からすると、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、相続又は遺贈により財産を取得した者が、当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、相続税法第19条の2第5項の適用要件が満たされるものと解される。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人名義財産に係る取引申込日、口座開設日あるいは契約日については、最も古いものが昭和49年9月2日に口座開設された別表2の順号22記載の○○銀行c支店の普通預金口座であり、最も新しいものは平成20年6月25日に契約された同表の順号30記載のM生命保険の一時払新個人年金保険である。また、請求人名義財産に係る有価証券の取引申込書、預金口座の印鑑票及び保険契約申込書等の筆跡は、いずれも請求人のものである。
(ロ) 本件被相続人名義でK証券c支店及びL証券f支店にそれぞれ平成9年12月12日付及び平成10年11月24日付で提出された証券取引に係る保護預り口座設定申込書の筆跡は、いずれも請求人のものである。なお、K証券c支店には、平成18年7月12日付で本件被相続人に係る有価証券取引の代理人を請求人とする取引代理人届が提出されており、請求人が店頭に赴くなどして、請求人名義の財産と併せて取引を行っていた。
(ハ) J銀行d支店の本件被相続人の普通預金口座(口座番号○○○○)から平成17年10月25日に1,270,000円が引き出され、同日、別表2の順号34記載のM生命保険の一時払新個人年金保険に係る保険料1,271,600円が支払われている。
(ニ) 本件相続の開始時点で存在する請求人名義の預貯金としては、別表2の順号22から順号24まで記載の預金のほか、請求人の年金等を原資とする預貯金がN銀行及びJ銀行d支店にある。
(ホ) 請求人は、本件調査において、本件調査担当職員から請求人等名義財産が申告漏れである旨の指摘を受ける前の平成22年8月4日に、請求人等名義財産に係る取引残高報告書、預金通帳及び保険証券の一部など別表3記載の資料を提示しており、これらの資料は、請求人等名義財産のうち事務所名義財産を含む62,384,545円の財産に係る資料である。
 また、請求人は、本件調査担当職員から請求人等名義財産に係る資料の提示を求められ、平成22年10月8日に別表4記載の資料を提示した。
(ヘ) 本件調査担当職員は、平成22年8月4日、同年10月8日及び同年11月4日の3回、請求人宅へ本件調査のために臨場し、請求人に対し質問調査を行った。
 上記臨場日における質問調査に基づく応答内容を記録した各調査報告書(以下「本件調査報告書」という。)は、いずれも質問調査を行ってから数か月経過した平成23年2月23日付で作成されており、記録された応答内容について請求人に読み聞かせ、請求人から署名なつ印を徴したものではない。また、本件調査報告書の作成の基とした本件調査担当職員のメモ等の書類には、本件調査報告書に記録された応答内容の全部が明らかとなるほど詳細な記録はされていない。
(ト) 請求人は、平成21年1月から同年4月頃まで、事務所名義財産に係る普通預金通帳の金額等の後部に「レ」を表記しチェックしている。
(チ) 本件関与税理士は、本件申告に当たって、請求人に対し、相続人名義での残高証明書等の資料を提出するよう依頼しておらず、相続人名義の財産がどの程度あるのかを確認していない。
(リ) 本件関与税理士は、本件被相続人の弁護士報酬等の事業所得等に係る所得税の確定申告書の作成に平成7年分から関与していたが、年に1度、確定申告の際に本件被相続人及び請求人から必要な書類の提示を受けて申告関係書類を作成する程度の関与度合いであった。
ハ 判断
(イ) 請求人名義財産について
A 請求人は、上記ロ(イ)から(ハ)までのとおり、請求人名義財産に係る取引申込み、口座開設及び契約を長年にわたって自ら行っており、本件被相続人名義の財産の一部についても取引を行っていること、及び、請求人名義財産のうち少なくとも一部の財産が本件被相続人の預金を原資としていることが明らかなことからすれば、請求人は、請求人名義財産の管理運用を自ら行っていたと認められ、請求人名義財産の存在を十分認識していたとともに、請求人名義財産が本件被相続人の財産を原資とするものであることを認識していたと推認できる。
 他方で、請求人は、上記ロ(ニ)のとおり、請求人固有の収入を原資とする請求人名義の財産を保有しており、本件被相続人の財産を原資とする請求人名義財産のみを本件被相続人の指示等を受け別個に管理運用していたと認めるに足りる証拠はないことからすれば、相続財産である請求人名義財産と請求人固有の財産とを一括して管理運用しており、これらの財産の明確な区分ができていなかった可能性を否定できず、また、請求人が自己の名義財産のみならず、本件被相続人名義の一部財産も管理運用していたと認められることからすれば、本件被相続人から請求人へ明確な贈与の意思表示はなかったとしても、請求人及び本件被相続人には、これらの財産が長年の夫婦の共同生活によって蓄えられたものとして、互いの貢献度に応じて財産名義を請求人と本件被相続人とに区分したものという認識を持っていた可能性も否定できないのであって、他に請求人において、請求人名義財産が明らかに本件被相続人に帰属する相続財産であると認識していたとまで認めるに足りる証拠はない。
 そうすると、請求人が請求人名義財産を明らかに相続財産と認識していたとは認められない上、請求人は、上記ロ(チ)のとおり、本件関与税理士から請求人名義財産に係る残高証明書等の資料の提出依頼を受けていなかったのであるから、本件関与税理士に対し請求人名義財産の存在を積極的に説明していなかったとしても、相続財産を過少に申告するという確定的な意図を持って請求人名義財産を本件関与税理士に秘匿したということまではできない。また、上記ロ(ホ)のとおり、請求人が本件調査において本件調査担当職員に対し、請求人等名義財産に係る取引報告書、預金通帳及び保険証書等の一部を自主的に提示していることからしても、相続財産を過少に申告するという確定的な意図を認めることができない。
 したがって、請求人が当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたということはできないから、請求人名義財産の申告漏れについて、相続税法第19条の2第5項に規定する隠ぺい仮装行為があったとは認められない。
B この点に関し、原処分庁は、請求人が本件調査において本件調査担当職員に対し、まる1取引金融機関の通帳の一部は金融機関が回収したので手元にない旨不自然な申述をしたこと、まる2本件調査担当職員に提示したファイルに入っていた資料について、最初から入っていたなどと本件調査担当職員の認識不足であるかのような責任を転嫁するような申述をしたこと、まる3請求人名義財産の管理等に関して自らの積極的な関与を否定する虚偽の申述をしたこと、及び、まる4後日、まる3の申述を覆すなど不自然な言動を取ったこと、さらに、請求人名義財産の存在についてあたかも不知であるかのような申述をするなどして、請求人名義財産の管理等に関する自らの関与を否定する申述を繰り返し、それに係る資料の一部を提示しなかったことなどから、請求人が当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした旨主張する。
 しかしながら、原処分庁が主張する本件調査時の請求人の言動については、その内容について請求人と争いがある上、上記ロ(ヘ)のとおり、原処分庁の主張する応答内容が記録された本件調査報告書は、当該応答があったとされる日から数か月経過した後に作成されたものであり、本件調査報告書を作成する基とされた書類においても本件調査報告書に記録された応答内容を確認することができないことからすれば、請求人に虚偽の申述や調査非協力の事実があったことを直ちに認めることはできない。
 仮に、請求人が原処分庁の主張する内容の申述を行っていたとしても、まる1取引金融機関の通帳の一部は金融機関が回収したので手元にない旨の請求人の申述については、金融機関の担当者が各種取引に際し通帳を一旦預かることも十分考えられることから、不自然な申述とまではいえず、まる2本件調査担当職員に提示したファイルに入っていた資料に関する最初から入っていたなどの請求人の申述については、請求人が2度目に当該ファイルを提示したのは最初に当該ファイルを提示してから2か月ほど後であることから、記憶違いなどによる発言である可能性も否定できず、また、まる3及びまる4の請求人名義財産の管理等に関して請求人が自らの積極的な関与を否定し、後日それを覆す申述をしたことについては、本件調査担当職員がその時々でどの程度具体的に質問し、それに対し請求人がどのような回答をしたのかが明確でなく、請求人の回答の趣旨が取引の詳細の全てを把握しているのではないという程度である可能性も否定できないことなどから、不自然な言動とまではいえない。さらに、請求人名義財産に係る資料の一部を提示しなかったことについては、上記ロ(ホ)のとおり、請求人が請求人名義財産の一部に係る資料しか提示していないことは認められるが、それ以外に請求人が投資信託や債券等に関する資料としてどのようなものを保管していたか明らかではなく、本件調査担当職員に提示を求められた資料が何であるかをどこまで理解したかにも疑義があることから、請求人が別表3記載の財産以外の財産に係る資料について保管していたにも関わらず、それを故意に提示しなかったとまではいえない。
 したがって、上記いずれの点についても、請求人に虚偽の申述や調査非協力等の事実があったとまで解するのは相当ではなく、請求人が当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたと推認できる事実があったとまでは認められないから、この点に関する原処分庁の主張は採用できない。
(ロ) 事務所名義財産について
A 請求人は、上記ロ(ト)のとおり、事務所名義財産に係る通帳の管理を行っていたことなどから、本件被相続人の相続財産として事務所名義財産が存在していることを認識していたものと認められる。
 しかしながら、上記ロ(ホ)及び(リ)のとおり、請求人が本件調査において本件調査担当職員から申告漏れの指摘を受ける前に事務所名義財産に係る通帳を提示していること、及び、本件関与税理士が本件被相続人の事業所得に係る確定申告について平成7年分から関与していたことを併せ考えると、請求人は、本件関与税理士が事務所名義財産を把握しており、事務所名義財産が当然に本件申告書に相続財産として記載されていると考えていた可能性を否定できず、請求人が事務所名義財産を相続財産であると認識していたことのみをもって、事務所名義財産が本件申告書に記載されていない事実を認識していながら、相続財産を過少に申告することを意図して当該事実を本件関与税理士に知らせなかったということまではできない。
 したがって、請求人が当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたということはできないから、事務所名義財産の申告漏れについて、相続税法第19条の2第5項に規定する隠ぺい仮装行為があったとは認められない。
B この点に関し、原処分庁は、事務所名義財産が一見してその名義から本件被相続人の事業に係る財産であることが明らかであることに加え、事務所名義財産の預金通帳の支払金額のチェックを請求人がしていること及び事務所名義財産に係る相続手続を行っていることなどから、請求人は当初から事務所名義財産の存在を知っており、当該財産が本件申告書に含まれていない事実を認識していた旨主張する。
 しかしながら、上記Aのとおり、請求人が事務所名義財産の存在を認識していたことは認められるとしても、事務所名義財産が本件申告書に相続財産として記載されていないことを認識していたとする具体的事実については何の主張もなく、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によっても、その事実を認めるに足りる証拠はない。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張は採用できない。

(2) 本件更正処分について

 上記(1)ハ(イ)A及び(ロ)Aのとおり、請求人等名義財産の申告漏れについて、請求人に相続税法第19条の2第5項に規定する隠ぺい仮装行為がなかったと認めるのが相当であり、また、本件共同相続人は請求人等名義財産の存在を了知しておらず、同項に規定する隠ぺい仮装行為はなかったと認められるから、同項を適用して行った本件更正処分はその全部を取り消すのが相当である。

(3) 本件賦課決定処分について

 上記(2)のとおり、本件更正処分はその全部を取り消すべきであるから、争点ロについて検討するまでもなく、本件賦課決定処分はその全部を取り消すのが相当である。

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