(平成25年3月27日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、不動産の賃貸人である審査請求人(以下「請求人」という。)が、国税を滞納している賃借人との間の不動産賃貸借契約を合意により解約した際、当該合意に基づき賃借人から敷金返還請求権の放棄を受けたことは、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》の債務の免除に該当するとして、請求人に対し、第二次納税義務の納付告知処分を行ったのに対し、請求人が、当該賃借人の敷金返還請求権の放棄は同条に規定する債務の免除に該当しないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、H社(以下「本件滞納法人」という。)が滞納していた国税等(別表1記載の国税等で、以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、請求人に対し、平成24年4月20日付で納付すべき金額の限度額を○○○○円とする第二次納税義務の納付告知処分をした。
 以下、平成24年4月20日付でされた第二次納税義務の納付告知処分を「本件告知処分」という。
ロ 請求人は、平成24年5月29日、原処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年6月27日付で棄却の異議決定をしたため、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、同年7月17日に審査請求をした。

(3) 関係法令

 徴収法第39条は、滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産につき行った債務の免除に基因すると認められるときは、これにより義務を免れた者は、当該債務の免除により受けた利益が現に存する限度において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定している。

(4) 基礎事実

 次の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人の概要
 請求人は、昭和59年7月○日に設立され、本店をa市b町○丁目に置き、不動産の賃貸等を目的とする特例有限会社(平成18年5月1日前は有限会社法に規定される有限会社。以下同じ。)であり、平成21年1月30日以降、Fが代表取締役に就任している。
ロ 本件滞納法人の概要
 本件滞納法人は、平成15年9月○日に設立され、本店を平成17年1月26日以降a市d町○丁目に置き、コンビニエンス・ストアの経営等を目的とする特例有限会社であり、設立以降、J及びKが取締役に就任していたが、平成17年1月26日にKが取締役を辞任し、取締役はJのみとなった。
 その後、本件滞納法人は、平成21年8月○日株主総会の決議により解散し、Jが清算人に就任し、同年10月○日、解散の登記及び清算人の登記が経由された。
ハ 不動産の賃貸借契約等
(イ) 請求人は、平成15年9月30日付で、本件滞納法人との間で、請求人を賃貸人、本件滞納法人を賃借人として、別表2の土地(以下「本件土地」という。)及び別表3の建物(以下「本件建物」といい、本件土地と併せて「本件建物等」という。)を賃貸借物件とする賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し、要旨別紙1の約定の賃貸借契約書(以下「本件賃貸借契約書」という。)を取り交わした。
(ロ) 請求人は、平成15年9月30日、本件賃貸借契約に基づき、本件滞納法人から敷金5,830,000円(以下「本件敷金」という。)を受領するとともに、建設協力金10,601,000円(以下「本件協力金」という。)の貸与を受けた。
 そして、本件滞納法人は、本件建物等の引渡しを受け、本件建物等においてコンビニエンス・ストア(L)を経営した。
(ハ) 請求人は、平成17年12月21日付で、本件滞納法人との間で、平成18年1月1日より、本件賃貸借契約について、本件建物等の月額賃料を583,000円から533,000円に減額し、毎月10日までに当月分の賃料から建設協力金の返済額(月額83,000円)を差し引いた450,000円を請求人の指定銀行口座に振り込むことなどを内容とする賃貸借変更契約を締結した。
(ニ) 本件滞納法人は、平成19年12月以降、徐々に本件建物等に係る賃料の支払を遅延するようになったところ、請求人は、本件滞納法人に対して、平成21年2月6日以降、延滞していた賃料の支払を求めて、配達証明、内容証明等による賃料支払請求をした後、同年4月○日、M簡易裁判所に対して、支払督促の申立てをした。
 上記支払督促の手続は、平成21年5月○日までに本件滞納法人による督促異議の申立てがあったことから、X地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされた。
(ホ) 本件滞納法人は、上記(ニ)の訴訟係属中の平成21年5月31日、請求人に対して、本件賃貸借契約の解約の申出をした。
 請求人は、上記申出を受けて、平成21年6月1日、本件滞納法人との間で、本件建物の建築等に関わった、現、N社の代表取締役であるPを立会人として、裁判外で、上記(ハ)の賃料変更後の本件賃貸借契約を中途解約する旨の合意(以下「本件合意」という。)をし、要旨別紙2のとおり記載された賃貸借契約の中途解約合意書(以下「本件合意書」という。)を取り交わした。
 以下、別紙2の1の(3)の本件滞納法人が放棄する本件協力金の残額の返還請求権を「本件協力金返還請求権」といい、別紙2の1の(4)の本件滞納法人が放棄する本件敷金の残額の返還請求権を「本件敷金返還請求権」という。
(ヘ) 請求人は、平成21年6月4日、本件合意に基づき、本件滞納法人から本件建物等の明渡しを受けるとともに、本件敷金返還請求権及び本件協力金返還請求権に係る返還債務の免除を受け、同月5日、上記(ニ)の訴えを取り下げた。
ニ 原処分に至る経緯
(イ) 原処分庁は、本件敷金返還請求権の額を、本件敷金から、本件滞納法人が請求人に対して延滞していた賃料の額○○○○円(別紙2の1の(4)の延滞賃料合計額)及び延滞賃料の取立てに際して請求人が要した督促手続費用等の額○○○○円(請求人が原処分庁に対して提示した金額で、その内訳は別表4の「原処分庁への提示額」欄のとおりである。)を控除した残額○○○○円であると認定した。
(ロ) そして、原処分庁は、平成24年4月20日付で、請求人に対し、本件滞納法人には本件滞納国税があり、本件合意により本件敷金返還請求権の返還債務を免れた請求人は、当該返還債務の免除により○○○○円に相当する利益を受けたとして、徴収法第39条の規定に基づき、その利益が現に存する限度において本件滞納国税に係る第二次納税義務を負うとして、本件滞納国税を同年5月21日までに納付する旨を記載した納付通知書を送達し、本件告知処分を行った。

(5) 争点

 本件敷金返還請求権の放棄は、徴収法第39条に規定する「債務の免除」に該当するか否か。

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2 主張

原処分庁 請求人
 本件敷金返還請求権の放棄は、次のとおり、徴収法第39条に規定する「債務の免除」に該当する。
(1) 本件賃貸借契約の解約は本件合意に基づいて行われているところ、本件合意書によれば、本件合意時点で、請求人が本件敷金から差し引ける債権として有していたのは、延滞していた賃料(○○○○円)及び督促費用等(○○○○円)のみであったのに、本件滞納法人は、本件敷金(5,830,000円)からこれらの合計額を差し引いた本件敷金返還請求権(○○○○円)を放棄する旨合意したのであるから、本件滞納法人は、本件賃貸借契約書の第15条の定めに従って本件敷金の全額を違約金として請求人に支払ったものとはいえない。
(2) 本件賃貸借契約書の第8条から、本件敷金は、賃貸借契約の解約後本件建物等の明渡し時までの延滞賃料その他賃貸人に対する賃借人の債務を担保するものと認められるが、本件建物等の明渡し後の空室に係る賃料減収損失や賃料減額に伴う損失を担保するものではない上、本件合意書において、本件敷金から本件建物等の明渡し時におけるこれらの損失を補填する旨合意されていないことからしても、これらの損失は、本件敷金が担保する債務とはいえない。
(3) 本件合意書によれば、本件滞納法人は、本件敷金返還請求権のほかに本件協力金返還請求権を放棄しているところ、本件建物等の明渡し後、新たな賃借人が入居するまでの賃料相当額はこれにより十分賄うことができたことが認められる。
 また、本件建物の不具合を補修し、新たな賃借人から従前と同様の賃料を得ることもできたと考えられることからすると、請求人は、本件滞納法人に本件協力金返還請求権を放棄させることのみで、本件賃貸借契約を継続するのと同様の利益をあげることが可能であったと認められる。
(4) 以上のとおり、本件敷金返還請求権の放棄は、本件賃貸借契約の中途解約に係る違約金の支払としての性質を有するものではなく、請求人が主張する損失(逸失利益)は、本件協力金返還請求権の放棄により補填されるものであるから、請求人は、本件合意により、本件敷金返還請求権に係る返還債務を免除されたものと認められる。
 本件敷金返還請求権の放棄は、次のとおり、徴収法第39条に規定する「債務の免除」に該当しない。
(1) 本件賃貸借契約書の第15条では、本件滞納法人(賃借人)の自己都合による中途解約の場合には、本件滞納法人は、請求人に対し、敷金を全額違約金として支払い、建設協力金の残額を放棄する旨約定されているところ、本件合意に基づく本件賃貸借契約の中途解約はこれに当たり、本件敷金返還請求権の放棄は実質上違約金の支払に当たる。
(2) 請求人が本件合意によって放棄を受けた、本件滞納法人が本件合意の時点で請求人に対して有していた本件敷金返還請求権及び本件協力金返還請求権の合計額は、別表5のとおり○○○○円となるが、この金額は、別表6のとおり本件賃貸借契約が無事契約期間を満了していた場合に本来請求人が得られたであろう逸失利益の額(損害額相当額)8,647,000円を下回っているから、請求人が何ら利益を受けていないことは明らかである。
(3) 以上のとおり、本件合意による本件敷金返還請求権の放棄は、本件滞納法人から請求人に対する違約金の支払としてされたものであり、請求人は本件賃貸借契約の中途解約により被った損害を上回る利益は受けていないのであるから、徴収法第39条に規定する「債務の免除」に該当しない。

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3 判断

(1) 争点について

イ 法令解釈
 徴収法第39条が規定する第二次納税義務は、形式的には第三者に財産が帰属しているが、実質的には滞納者にその財産が帰属していると認めても公平を失しないような場合に、その形式的な権利の帰属を否認することにより私法秩序を乱すことを避けて、形式的に権利が帰属している者に対して補充的に納税義務を負担させることによって租税徴収の確保を図ろうとする制度である。
 このような第二次納税義務の制度の趣旨に鑑みれば、徴収法第39条にいう債務の免除とは、広く第三者に利益を与えるものをいい、第三者に利益を与える行為である限り、その態様に制限はないと解するのが相当である。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人に対する納付通知書に添付された本件滞納法人の滞納税金目録及び原処分関係資料によれば、本件滞納法人は、平成24年4月20日時点で、別表1のとおり、原処分庁に対して本件滞納国税を滞納していたこと、本件滞納国税は、同日時点において、原処分庁の徴収職員が滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる状況にあったことが認められる。
(ロ) 貸主を請求人、借主をQ社(平成13年6月○日R社に商号変更。以下「Q社」という。)、賃貸物件を本件建物等、賃貸借期間を平成11年5月1日から平成26年4月30日までとする平成11年3月17日付の賃貸借契約書、委託者を請求人、受託者をS社とする平成11年8月7日付「L○○店設計監理委託契約書」、本件建物の不動産登記事項全部証明書及び宛名を請求人、領収金額を10,601,000円、ただし書に建設協力金残金と記載されたQ社作成の平成15年9月30日付の領収書等から、まる1請求人とQ社は、Q社が請求人に建設協力金15,000,000円を貸与し、請求人が本件土地上にLのコンビニエンス・ストアとして使用するために本件建物を建築してこれをQ社に賃貸する旨合意したこと、まる2Q社から請求人に建設協力金15,000,000円が支払われ、Lのコンビニエンス・ストアとして使用するための仕様の建物として本件建物が建築されたこと、まる3Q社は、本件建物でL○○店を経営し、請求人に対して本件建物等の賃料を支払ったこと、まる4Q社の請求人に対する建設協力金返還請求権は、その賃料の一部と相殺する方法で返済され、平成15年9月30日までにその残額は10,601,000円となったことが認められる。
 また、貸主を請求人、借主をQ社とする上記賃貸借契約書、本件賃貸借契約書、宛名を本件滞納法人、領収金額を10,601,000円、ただし書に本件賃貸借契約に基づく建設協力金と記載された請求人作成の平成15年9月30日付の領収書及び宛名を本件滞納法人、領収金額を5,830,000円、ただし書に本件賃貸借契約に基づく敷金と記載された請求人作成の同日付の領収書等から、平成15年9月頃、本件建物等を賃借する法人はQ社から本件滞納法人に変更することになり、そのため、請求人は、Q社との賃貸借契約を解約し、Q社と同様の約定で本件建物等を本件滞納法人に賃貸することにしたこと、そして、上記1の(4)のハの(イ)及び(ロ)のとおり、請求人は、本件滞納法人との間で本件賃貸借契約を締結し、本件滞納法人から本件敷金(5,830,000円)及び本件協力金(10,601,000円)の支払を受けたことが認められる。
(ハ) 本件賃貸借契約書第6条は、賃貸借契約開始日から3年経過ごとに請求人と本件滞納法人が協議して賃料の改定を行う旨定め、上記1の(4)のハの(ハ)のとおり、平成17年12月21日付で行われた賃料変更により、平成18年1月1日以降の本件建物等の賃料は583,000円から533,000円に減額されているところ、当審判所が、まる1平成18年1月から平成24年6月までの期間におけるa市の民間借家の3.3平方メートル当たりの家賃(総務省統計局小売物価統計調査に基づくもの)の推移の状況及びまる2平成19年から平成23年までの期間における本件建物の近隣のコンビニエンス・ストアの賃貸に係る地代家賃の推移の状況を調査した結果、その期間を通して、上記まる1はほぼ横ばいであるが若干上昇していること、上記まる2はほぼ横ばいの状況であったことが認められる。
(ニ) 本件滞納法人が支払を延滞した賃料、そのために請求人が負担した督促費用等は、次のとおりである。
A 請求人の平成20年7月1日から平成21年6月30日までの事業年度に係る総勘定元帳(賃貸収入勘定)の写し及び本件合意書から、本件賃貸借契約が解約された日の前日の同年5月31日時点において、本件滞納法人が支払を延滞した本件賃貸借契約に係る賃料(以下「本件延滞賃料」という。)の総額は○○○○円であったことが認められる。
B 書留・配達記録郵便物等受領証、支払督促申立書(上記1の(4)のハの(ニ)の支払督促の申立てに係るもの)、宛名を請求人とする平成21年5月8日付のX地方裁判所民事第○部○○係書記官Y作成の「補正依頼書」と題する書面(上記1の(4)のハの(ニ)の訴えに係るもの)及び印紙補正書並びにN社作成の請求人宛の平成21年6月26日付の領収証の各写しから、請求人は、本件延滞賃料の督促、上記1の(4)のハの(ニ)の支払督促の申立て及び訴えに係る費用(以下「本件督促費用等」という。)として、別表4の「審判所への提示額」欄の順号1から9までの各費用の合計額○○○○円を支払うとともに、N社に対し、本件延滞賃料の督促、本件合意の立会い、後記(チ)の本件滞納法人の退去後に本件建物を賃借したT社の紹介等の謝礼として、別表4の「審判所への提示額」欄の順号10の金額○○○○円を支払ったことが認められる。
(ホ) 請求人の平成20年7月1日から平成21年6月30日までの事業年度に係る総勘定元帳(雑収入勘定及び預り保証金勘定)の写しから、本件賃貸借契約が解約された日の前日の同年5月31日時点における本件協力金の残高は○○○○円であったこと、したがって、本件合意をした同年6月1日時点において、本件滞納法人が有する本件協力金返還請求権の額は○○○○円であったことが認められる。
(ヘ) F及びU(Jの父)の当審判所に対する各答述から、本件滞納法人からの本件賃貸借契約の解約の申出に対し、Fは、互いに追加の支払をしないで本件賃貸借契約を清算する内心であったが、賃料を延滞されたことなどに対する腹立ちから、本件協力金返還請求権については本件賃貸借契約書第15条第2項の定めに基づきその全額を放棄するとともに、本件敷金については同条第1項の定めに基づきその全額を放棄して違約金として請求人に支払うよう本件滞納法人に求め、更に本件延滞賃料及び本件督促費用等を別途支払う旨求めたこと、これに対し、Uは、請求人に対し、本件滞納法人は本件建物等において経営していたコンビニエンス・ストアを閉店する予定であり、本件協力金返還請求権については同条第2項の定めのとおり全額を放棄し、本件敷金については同条第1項の定めのとおり全額を放棄して違約金として支払うが、その他に本件延滞賃料及び本件督促費用等を別途支払うことは困難である旨申し立てたこと、そして、結局、本件賃貸借契約の解約と本件建物等の明渡しを早期確実に行うため、請求人及び本件滞納法人は、本件滞納法人が本件敷金返還請求権を放棄して互いに追加の支払をしないで契約関係を清算するものとして本件合意をしたことが認められる。
(ト) 請求人が当審判所に提出した平成21年6月24日撮影の本件建物の内部写真、本件建物図面の写し、当審判所の本件建物の検分結果並びにF、U及びPの当審判所に対する各答述から、まる1本件合意に伴う本件建物等の明渡しに際し、本件滞納法人はコンビニエンス・ストアの設備、じゅう器備品等の撤去作業を業者に委託したこと、まる2本件滞納法人がコンビニエンス・ストアの設備、じゅう器備品等を撤去した後の本件建物は、一部の壁が黒ずみ、床材は剥離していたことが認められるが、大きな損傷はなく、後記(チ)のとおり、本件賃貸借契約が解約された日から1か月も経たずに新たな賃貸借契約が締結されていることに照らし、明渡しの時点において、本件建物自体に賃貸物件としての機能を損なうような重大な瑕疵はなかったものと認められる。
(チ) 貸主を請求人、借主をT社とする平成21年6月24日付の建物賃貸借契約書から、請求人は、同日、T社との間で、賃貸借物件を本件建物(敷地内駐車場を含む。)、賃料を1か月400,000円、賃貸借期間を平成21年8月1日から平成26年7月31日までの5年間とする建物賃貸借契約を締結し、本件建物等を賃貸したことが認められる。
ハ 判断
(イ) 争点について
A 別紙1の7のとおり、本件賃貸借契約書は、第15条第1項で、本件滞納法人側から本件賃貸借契約が中途解約された場合に本件滞納法人は本件敷金の全額を違約金として請求人に支払う旨定め、同条第2項で、本件滞納法人は本件協力金の残額を放棄する旨定めているところ、その表現は異なるものの、いずれも、まる1本件賃貸借契約が賃貸借期間の途中で解約される違約があった場合の違約金の支払又は債権の消滅を定めた約定であるから、賃借人である本件滞納法人側の事情によって本件賃貸借契約が賃貸借期間の途中で解約された場合に見込まれる損害賠償の額を本件敷金の額及び本件協力金の残額とする賠償額の予定を定めるとともに、まる2賃借人は本件敷金の返還及び本件協力金の残額の返還を請求することができなくなることから、その損害賠償請求権と本件敷金及び本件協力金の残額の各返還請求権とを消滅させる相殺予約を定めたものと認めるのが相当である。
 そして、上記ロの(ロ)のとおり、本件建物がコンビニエンス・ストアとして使用するために建築されたことから、仮に本件滞納法人側から本件賃貸借契約が解約された場合、請求人が新たな賃借人を確保することが容易ではないことも考えられる上、確保できたとしても、本件建物の改修などが必要となったり、更には、賃料などの面で賃貸人に不利な契約内容になったり、場合によっては、本件建物を取り壊さざるを得ないことも余儀なくされることが考えられること、また、敷金は賃貸建物の明渡し時までに賃貸人が賃借人に対して取得した一切の債権を担保するために差し入れるものであることから、当事者間で、賃借人側の都合により中途解約された場合に生ずる損害賠償の額を予定し、その損害賠償請求権と相殺予約をしておくことは、解約によって賃貸人が被る損害を回避するという意味で一定の合理性があるが、他方、賃貸人がその地位を利用して、賃貸人にとってのみ有利となるおそれもある。
 そこで、このような特約については、社会通念上、当事者間において損害賠償の額を予定し、相殺できることについて合理的な期待を有すると認められる範囲内で有効となるべきものと解するのが相当である。
B そして、本件合意書における本件敷金及び本件協力金の残額に関する合意内容は、本件賃貸借契約書第15条の記載と異なるが、上記ロの(ヘ)で認定した本件合意をした経過に照らせば、いずれも本件賃貸借契約書第15条の定めに基づいた合意であり、本件滞納法人側の事情によって本件賃貸借契約が賃貸借期間の途中で解約された場合の損害賠償の額を本件敷金の額及び本件協力金の残額に相当する額とするとともに、本件建物等の明渡しを条件として、その損害賠償請求権と本件敷金返還請求権及び本件協力金返還請求権とを相殺することを定めたものと認めるのが相当である。
 そうすると、本件合意書における本件敷金及び本件協力金の残額に関する合意も、社会通念上、当事者間において損害賠償の額を予定し、相殺できることについて合理的な期待を有すると認められる範囲内で有効となるべきものと解するのが相当である。
C そこで、本件合意における本件敷金及び本件協力金の残額に関する合意が、社会通念上、当事者間において損害賠償の額を予定し、相殺できることについて合理的な期待を有すると認められる範囲内であるか否かを、以下検討する。
(A) 別紙2の1の(4)のとおり、本件合意において、本件滞納法人は、請求人に対して有する本件敷金に係る返還請求権と請求人に対して負担する本件延滞賃料及び督促費用等に係る債務を相殺して、本件敷金返還請求権を放棄する旨合意しているところ、上記ロの(ニ)のBで認定した請求人が支払った別表4の各費用のうち順号10の費用は、請求人がN社に対する謝礼として支払ったものであり、本件滞納法人が請求人に対して負担すべき債務ということはできないから、本件敷金に係る返還請求権と相殺すべき債務は、本件延滞賃料の額○○○○円と本件督促費用等の額○○○○円とを合計した額○○○○円とするのが相当であり、したがって、本件敷金返還請求権の額は、本件敷金の額5,830,000円から○○○○円を控除した額○○○○円となる。
 また、上記ロの(ホ)のとおり、本件協力金返還請求権の額は○○○○円であるから、本件合意に基づき請求人が負担すべき債務の額は、○○○○円と○○○○円を合計した額○○○○円となる。
(B) 他方、請求人は、上記2の「請求人」欄の(2)のとおり、本件賃貸借契約の中途解約に伴う逸失利益の額(損害額相当額)は、空き店舗に係る賃料減収損失の額1,066,000円(別表6の順号1の金額)と賃料変更後の本件賃貸借契約の中途解約後に新たに締結された賃貸借契約に係る賃料減収損失の額7,581,000円(別表6の順号2の金額)との合計額8,647,000円である旨主張しているところ、前者は、新たな賃借人を確保するまでの賃料減収損失で、後者は、新たに締結した賃貸借契約に係る賃料との差額に係る賃料減収損失であり、これらの損失は、上記Aのとおり、いずれも本件建物がコンビニエンス・ストアとして使用するために建築されたことに起因する損失であると認められること、そして、上記ロの(ト)のとおり、本件合意に基づく本件建物等の明渡しの時点において、本件建物自体に賃貸物件としての機能を損なうような重大な瑕疵はなかったこと、上記ロの(ハ)のとおり、本件建物の近隣のコンビニエンス・ストアの賃貸に係る地代家賃の推移は、ほぼ横ばいであったことから、平成17年12月21日付の賃料変更後に賃料を減額すべき経済的状況の変化はなかったと認められることなどに照らせば、本件賃貸借契約が解約されなければ得られたであろう賃料について請求人が主張する逸失利益の額(合計8,647,000円)は、本件合意の時点における損害賠償相当額として不相当であるということはできない。
(C) そうすると、本件合意に基づいて請求人が本件滞納法人に対して負担しなくなる債務額(○○○○円)は、請求人が失う損害賠償請求権の額(8,647,000円)と比較して不相当なものとは認められないから、請求人と本件滞納法人とが本件合意書において損害賠償の額を本件敷金の額及び本件協力金の残額に相当する額とするとともに、その損害賠償請求権と本件敷金返還請求権及び本件協力金返還請求権とを相殺することを定めた約定は、社会通念上、当事者間において損害賠償の額を予定し、相殺できることについて合理的な期待を有すると認められる範囲内にあり有効であると認められる。
D 以上から、本件合意書における本件滞納法人が本件敷金返還請求権及び本件協力金返還請求権を放棄する旨定めた約定は、有効と認められる。
 そして、上記イのとおり、徴収法第39条にいう債務の免除は、広く第三者に利益を与えるものをいうが、本件において、請求人は、本件合意書に基づく本件敷金及び本件協力金の残額に関する合意により、損害賠償の額が本件敷金及び本件協力金の残額に相当する額に制限された上、その損害賠償請求権と本件敷金返還請求権及び本件協力金返還請求権とが相殺されて消滅するから、本件滞納法人の本件敷金返還請求権の放棄により請求人が利益を受けたということはできない。
 したがって、本件合意書の約定に基づく本件敷金返還請求権の放棄は、徴収法第39条に規定する「債務の免除」には該当しない。
(ロ) 原処分庁の主張について
 原処分庁は、上記2の「原処分庁」欄の(4)のとおり、本件敷金返還請求権の放棄は、本件賃貸借契約書第15条第1項の中途解約に係る違約金の支払としての性質を有するものではない上、敷金の性質からしても、請求人が主張する損失を担保するものではなく、請求人の主張する損失は、本件協力金返還請求権の放棄により補填されるものであるから、請求人は、本件合意により、本件敷金返還請求権に係る返還債務の免除を受けたものと認められ、当該免除は、徴収法第39条に規定する「債務の免除」に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のDのとおり、本件敷金返還請求権の放棄は、徴収法第39条に規定する「債務の免除」には該当しない。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

(2) 本件告知処分について

 以上のとおり、本件告知処分は、徴収法第39条に規定する第二次納税義務の要件を満たさない違法なものと認められるから、その全部を取り消すべきである。

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