(平成25年5月28日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人F、同H及び同J(以下、順に「請求人F」、「請求人H」及び「請求人J」といい、これら3名を併せて「請求人ら」という。)が、相続により取得した土地の価額は不動産鑑定士による鑑定評価額であるとして相続税の申告をしたところ、原処分庁が財産評価基本通達に基づく評価額によることが相当であるとして相続税の各更正処分等を行ったのに対し、請求人らがその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人らは、平成20年11月○日に死亡したK(以下「本件被相続人」という。)に係る相続(以下「本件相続」という。)の共同相続人であり、審査請求に至る経緯は、別表1記載のとおりである(以下、別表1「更正処分等」欄記載の各更正処分を「本件各更正処分」といい、過少申告加算税の各賦課決定処分を「本件各賦課決定処分」という。)。
 請求人Fは、平成24年3月9日に、請求人H及び請求人Jは同月13日に、それぞれ異議決定を経た後の原処分に不服があるとして審査請求をした。
 なお、請求人らは、請求人Fを総代として選任し、その旨を審査請求書に併せて届け出た。

(3) 関係法令等

 別紙5のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人らと原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件相続に係る共同相続人は、本件被相続人の子である請求人ら及びL並びに本件被相続人の妻であるMである。
ロ 本件相続に係る取得財産中には、別表2の順号1及び順号2記載の各土地(以下、順号1の土地を「本件1土地」、順号2の土地を「本件2土地」といい、併せて「本件土地」という。)があり、上記イの共同相続人間で、平成21年8月13日に、本件相続に係る遺産分割協議が行われ、同共同相続人のうち、請求人Hを除く4名が本件土地を取得した。なお、本件土地の持分は、Mが10分の1、その他の3名が各10分の3である。
ハ 請求人らが本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の法定申告期限内である平成21年8月25日に(なお、法定申告期限は、所得税法等の一部を改正する法律(平成21年法律第13号)附則第65条《相続税の申告期限等に係る特例》第1項により延長され、平成22年2月1日となる。)原処分庁に提出した相続税申告書(以下「本件申告書」という。)には、本件土地の価額として、N不動産鑑定士作成の平成21年7月13日付不動産鑑定評価書(以下、この評価書に係る鑑定評価を「請求人鑑定評価」という。)の鑑定評価額60,000,000円(以下「請求人鑑定評価額」という。)が記載されている。
 なお、請求人鑑定評価の概要は、別表3記載のとおりである。
ニ 請求人らは、法定申告期限内である平成22年1月25日に、いわゆる名義株式等が本件申告書に記載されていなかったとして本件相続税に係る訂正申告書を原処分庁に提出した。
ホ 原処分庁は、請求人らに対する本件相続税の調査の結果に基づき、本件土地の評価額は、請求人鑑定評価額ではなく、広大地通達による評価額l50,452,114円(以下「本件通達評価額」という。)によるべきであるとして、請求人らに対し、平成23年10月25日付で本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を行った。
 なお、本件通達評価額の算定方法は、別表4記載のとおりである。
ヘ a市では、市街化区域において土地の面積が500平方メートル以上の開発行為を行う場合には、都市計画法の規定により、市長の許可を受けなければならない。
ト 本件相続開始時において適用される、都市計画法第33条《開発許可基準》に関するa市の審査基準(平成○年○月○日改正前のもの。以下、「本件審査基準」という。)の第1《技術基準》の1(2)《道路の配置》イ及び14《省令24条第5号ただし書の道路の基準》によれば、開発区域内に設ける道路は、都市計画法施行規則第24条《道路に関する技術的細目》第5号ただし書の袋路状道路(袋路状とは、一端のみが他の道路(建築基準法第42条《道路の定義》第1項各号に規定する道路)に接続していることをいう。以下「袋路状道路」という。)とはしないとされている。ただし、本件審査基準の第1の14ただし書によれば、まる11,000平方メートル以上3,000平方メートル未満の場合には、開発区域が、既存建築物、河川、崖によって囲まれており、周辺に開発余地が無い場合、まる21,000平方メートル未満の場合には、予定建築物に建築基準法第2条第1項第2号の特殊建築物が含まれない場合に、袋路状道路を1箇所に限り設けることができるとされ、さらに、袋路状道路の基準は、幅員が6メートル以上とされている。
チ a市開発許可の基準に関する条例第10条《建築物の敷地面積の最低限度》によれば、都市計画法第33条第4項の規定に基づき条例で定める開発区域内で予定される建築物の敷地面積の最低限度は100平方メートルとされている。
リ 本件土地付近に所在する平成20年の地価公示地は、本件土地の西方向約240メートルに所在するa市d町の宅地(標準地番号「a−○」)であり、その地積は○平方メートルである。

(5) 争点

 本件土地の本件相続開始時における価額(時価)はいくらか(本件土地の時価を評価するに当たり評価通達の定めにより難い特別な事情があるか否か。)。

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2 主張

(1) 原処分庁

 請求人らが主張する事情は、次のとおり、本件土地の時価を評価するに当たり評価通達の定めにより難い特別な事情には当たらず、本件土地の本件相続開始時における価額は本件通達評価額となる。
イ 本件土地を開発する際に多額の擁壁・造成費用が必要であるとしても、これらの費用は、広大地通達に定める広大地補正率が評価通達15から20−5までに定める各種補正率に代えて乗じられるものであることからすると、広大地補正率により考慮されていると認められる。
ロ 広大地通達に定める広大地補正率は、開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められる宅地を評価するに当たり、実際に開発許可が受けられるか否かにかかわらず適用されるものであるから、仮に、請求人らが主張するような、本件審査基準等による種々の開発制限により、本件土地の本件相続開始時の現況では開発許可が受けられないとしても、これらの制限があることをもって、評価通達の定めにより難い特別な事情があるとは認められない。
ハ 後記(2)イ(ハ)記載の買付証明書等は、単に不動産業者から本件通達評価額に満たない金額で買付けの申込みがあったことの証明書にすぎないから、当該買付証明書等の金額が本件通達評価額より著しく低いということをもって、本件土地に評価通達の定めにより難い特別な事情があると認めることはできない。

(2) 請求人ら

イ 本件土地に存する次の事情は、評価通達の定めにより難い特別な事情に当たることから、本件土地の価額の算定は、鑑定評価の方法によるべきであり、本件土地の本件相続開始時における価額は請求人鑑定評価額となる。このことは、本件通達評価額が請求人鑑定評価額に比して過大であることからしても明らかである。
(イ) 本件土地は、崖地があることから、そもそも開発不能な部分があり、また、地盤が軟弱な部分もあることから、その補強等のために多額の擁壁・造成費用が必要であるが、広大地通達に定める広大地補正率は、公園、道路等の公共公益的施設としての潰れ地しか考慮していないから、同補正率によって、開発不能な部分の潰れ地や擁壁・造成費用を賄うことはできない。
(ロ) 本件土地は、次のとおり、本件相続開始時に本件審査基準により開発許可が受けられない土地であるから、その価値は著しく低い。
A 本件審査基準によれば、本件土地のような袋路状道路の土地の開発は面積が3,000平方メートル未満であることが要件となっており、面積が3,000平方メートル以上である本件土地は、その全体を開発することができず、さらに、開発面積が1,000平方メートル以上3,000平方メートル未満の場合であっても、本件1土地の東側に開発余地があることから開発許可が受けられず、結果として、本件土地のうち宅地として開発できるのは1,000平方メートル未満の部分のみである。
B 本件審査基準によれば、開発道路の幅員は6メートル以上とされているところ、本件1土地の東側で道路と接続する本件2土地には6メートルに満たない部分があるため、本件土地は、開発することができない。
(ハ) 平成○年○月に本件審査基準が改正され、開発余地に関する条件が撤廃されたことで、本件土地のような袋路状道路の土地であっても3,000平方メートルまで開発が可能となったため、請求人らは、本件土地の売却を検討するべく複数の不動産業者に見積りを依頼し、その結果、各業者から交付された買付証明書等の本件土地の売買価格見積り額は、条件が緩和されたこの時点でも最高価格で1億円にとどまっている。
ロ 仮に、請求人鑑定評価額が本件土地の価額として認められないとしても、本件土地の価額は、P不動産鑑定士作成の平成24年4月28日付不動産鑑定評価書の鑑定評価額73,000,000円(以下「P鑑定評価額」という。)を上回ることはない。

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3 判断

(1) 法令解釈等

 相続税法第22条は、相続によって取得した財産の価額は、同法に特別の定めがある場合を除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているところ、ここでいう時価とは、当該財産を取得した日において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値をいうものと解される。
 しかしながら、客観的な交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではないから、課税実務上は、相続財産の評価の一般的基準が評価通達によって定められ、そこに定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされている。これは、相続財産の客観的な交換価値を個別に評価する方法を採ると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることが避け難く、また、回帰的かつ大量に発生する課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどから、あらかじめ定められた評価方式によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由に基づくものと解される。
 そうすると、評価通達に定められた評価方式により財産を評価すべきであるとする趣旨が以上のとおりであることからすれば、例えば、評価通達に定められた評価方式により算定される価額が時価を上回るなど、評価通達に定められた評価方式を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことにより、かえって実質的な租税負担の平等を著しく害することが明らかであるといった特別の事情がある場合には、他の合理的な評価方式によることが許されると解すべきである。

(2) 認定事実

 請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
イ 本件土地は、Q鉄道e線「f」駅の東方約2.1キロメートルに位置し、市街化区域内にあって第一種低層住居専用地域(建ぺい率50%、容積率100%)及び文化財保護法に規定する周知の埋蔵文化財包蔵地に該当する「R遺跡」の区域内に所在している。
ロ 本件土地の周辺地域は、小規模な宅地造成による一団の戸建住宅や低層アパートが数多く見られるなど、一般住宅化が進んでいる地域であり、同地域に存する土地の標準的使用は戸建住宅用地又は低層アパート用地であると認められる。また、当該戸建住宅の敷地面積は100平方メートル程度が標準的である。
ハ 本件土地は南東側でa市道幹線第○号線(以下「本件市道」という。)と接面し、西側でa市道g第○号線(以下「本件西側接面道路」という。)と接面しているが、本件西側接面道路は建築基準法第42条第1項各号に規定する道路には当たらない上、本件西側接面道路との接面部分が下記ニのとおり急な崖地となっているため、本件土地から本件西側接面道路を利用することができず、本件土地は袋地となっている。
 なお、本件土地の位置及び形状等は別図1のとおりである。
ニ 本件1土地の北側から西側全面は、同土地から本件西側接面道路に向かって急傾斜の崖地(以下「本件崖地部分」という。)となっている。本件崖地部分は、隣接する本件西側接面道路との高低差が最大約6メートル程度あり、請求人鑑定評価に添付された法地面積求積図によれば、水平面積は626.25平方メートル(以下「本件崖地部分の水平面積」という。)で、本件土地の約20%を占めている。本件崖地部分には雑木や雑草が密生し、その傾斜が急であることから人が通行できる状態にはない。また、本件崖地部分の外周部分の距離は、請求人鑑定評価に添付された地積測量図から計算すると、100メートル弱である。
 なお、本件1土地の南側は、ほぼ等高で4戸の戸建住宅敷地に接しているところ、同戸建住宅敷地の西側も本件崖地部分から続く崖地(高低差約3メートル)となっており、同戸建住宅敷地においては、同崖地に、同崖地が隣接する本件西側接面道路に対して垂直にコンクリートで固めた擁壁工事を施している。
ホ 本件相続開始時において、本件1土地は未舗装の駐車場となっており、本件2土地は本件市道から本件1土地への未舗装の進入路となっている。
ヘ 当審判所が入手した平成23年12月3日付の現況求積図によれば、本件2土地の幅員は、最も幅の狭い場所で6.01メートルあり、他の本件審査基準を満たせば、開発することは可能である。ただし、本件1土地の東側に隣接する土地は月ぎめ駐車場として利用されているため、本件土地は、本件審査基準に定める周辺に開発余地がある土地に当たる。このため、袋路状道路での開発許可は、開発面積が1,000平方メートル未満の場合に限られ、それ以上の面積を開発する場合には、別に進入路を確保する必要がある。
ト a市の文化財に関する機関での聞き取り調査によれば、本件土地が所在するR遺跡に指定されている区域内では、過去の試掘で発掘調査の対象になった事例はない。

(3) 請求人鑑定評価額の算定方法

 請求人鑑定評価の概要は、別表3記載のとおりであるところ、請求人鑑定評価額は、対象不動産を本件土地、価格時点を本件相続開始時、標準画地を100平方メートル程度の整形中間画地とし、次のとおり、取引事例比較法による比準価格(以下「請求人比準価格」という。)と開発法による価格(以下「請求人開発法価格」という。)を基に算定されている。
イ 請求人比準価格の算定方法
 別表3の2の取引事例1ないし4(取引事例1について、以下「請求人取引事例1」といい、他の取引事例についても同様に表記する。また、これら4件の取引事例を併せて、以下「請求人各取引事例」という。)の土地について、標準化補正(別表3の2の「標準化補正」欄の補正をいい、当該補正を以下「請求人標準化補正」という。)をし、本件土地と個別の差異を補正するため、個別格差補正(別表3の2の「個別格差」欄の補正をいい、当該補正を以下「請求人個別格差補正」という。)として、別表3の2の注3に記載のとおり、本件土地の地積が大きいことによる減価率65%、本件土地が埋蔵文化財包蔵地に該当することによる減価率5%などの補正率を乗じ、請求人各取引事例における取引価格を79%減価させるなどして、別表3の2のとおり請求人比準価格を算定している。
ロ 請求人開発法価格の算定方法
 本件土地を分割して標準的な宅地を造成することについて、別表3の3(1)「開発計画」及び別図2土地利用開発図(請求人鑑定評価)のとおり、開発区域の面積を3,130平方メートルとしつつ、開発区域内の道路を袋路状道路とした上で、本件土地を16区画に区画割する開発計画(以下「請求人開発計画」という。)を採用している。また、別表3の3(2)「事業収支計画」では造成工事費の一部として擁壁工事費93,938,000円(本件崖地部分の水平面積(626.25平方メートル)に1平方メートル当たり150,000円を乗じて計算した額であり、この擁壁工事費を以下「請求人擁壁工事費」という。)を見込んでいる。これらを踏まえて、別表3の3(4)「開発法による価格」のとおり請求人開発法価格を算定している。
 なお、請求人擁壁工事費と関連する別表3の3(2)の注の「土工事」の「体積2,500立方メートル」の算定(本件崖地部分盛土の土の量の算定)については、本件相続税の調査時に請求人らの関与税理士であったS税理士から平成23年8月31日付で原処分庁所属の調査担当者に宛てて提出された請求人鑑定評価に係る「回答書」及び「回答書2」によれば、「簡便に考えた場合、崖地部分にも土が存することから、「幅×奥行×高さ×1/2」相当の盛土が必要になるが、本件崖地部分の場合、木が生い茂っていることから、土の量が『1/2』相当までは存しないものと思われる。そこで、保守的な観点から『幅×奥行×高さ』で計算し、その代わりに高低差最大5.23メートルあるところ、高さを4メートルと低めに設定して、『(本件崖地の水平面積)626.25平方メートル×(高さ)4メートル≒2,500立方メートル』と盛土の土の量を算定した」とされている。

(4) 検討

イ 請求人鑑定評価額について
 請求人らは、本件土地の時価は請求人鑑定評価額である旨主張することから、以下、請求人鑑定評価の合理性について検討する。
(イ) 請求人比準価格について
A 不動産鑑定評価基準によれば、取引事例比較法は、近隣地域又は同一需給圏内の類似地域から収集・選択した取引事例に係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量して対象不動産の価額を求める手法である。同手法には、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行う上で、それぞれの地域における個別要因が標準的な土地を設定して行ういわゆる標準画地方式と、対象不動産と取引事例とを直接比較するいわゆる直接比準方式とがある(不動産鑑定評価基準第1部第7章第1節32(3)《地域要因の比較及び個別的要因の比較》参照)。請求人鑑定評価の算定では、請求人各取引事例について請求人標準化補正を行っていることから、標準画地方式を採っていると認められるところ、鑑定評価手法上、同方式は取引事例比較法による場合に通常用いられる方式であり、請求人鑑定評価の算定において同方式を採用したことに不合理はない。
B 取引事例比較法の適用については、本件土地と状況の類似する土地の取引事例を採用する必要があるところ、請求人取引事例1ないし3の地積は、本件土地の地積と比べ広いものでも約6分の1、狭いものでは約10分の1にすぎないことからすると、請求人鑑定評価が採用した請求人各取引事例は、一画地の面積が著しく過少であるから、類似性を著しく欠く事例を採用している点で不合理である。
C 請求人各取引事例の所在する標準画地は、請求人鑑定評価では近隣地域の標準画地を100平方メートル程度の整形中間画地であるとしていること(別表3の1の「標準画地」欄)からすると、それと同程度のものであると考えられる。そうすると、請求人取引事例1ないし3の地積(298.03平方メートル〜514.00平方メートル)はその整形中間画地の地積の約3倍ないし5倍となっており、また、請求人個別格差補正においては、本件土地の地積がその整形中間画地の地積の約30倍を超え、地積過大であることについて65%もの減価率を計上していることからすると、請求人取引事例1ないし3における標準化補正においても相応の地積過大の減価補正が必要であったと認められる。それにもかかわらず、請求人取引事例1ないし3における請求人標準化補正は、最大のもので減価率3%にすぎず、それをしていないものもあり、地積過大の減価補正を十分に反映させていない点で合理性が認められない。
D 請求人個別格差補正において本件土地が埋蔵文化財包蔵地に該当することによる減価率5%を計上しているが、当審判所の調査の結果によれば、本件土地は、上記(2)イのとおり、埋蔵文化財包蔵地(R遺跡)に該当するが、上記(2)トのとおり、近隣の埋蔵文化財包蔵地の試掘例からすると、発掘調査が必要となるような蓋然性は低いと判断されることから、当該減価率5%には合理性が認められない。
E 本件土地は、上記(2)ハのとおり、袋地となっているところ、本件土地に係る請求人開発計画は、上記(3)ロのとおり、開発区域内の道路を袋路状道路として開発することとしている。しかしながら、本件審査基準では、原則として開発区域の面積が3,000平方メートルを超える場合には、袋路状道路の敷設は認められていない上、上記(2)ヘのとおり、本件土地を袋路状道路で開発する場合には、開発面積は1,000平方メートル未満に限られることになるにもかかわらず、請求人鑑定評価では、この点について請求人個別格差補正において何ら考慮しておらず、合理性が認められない。
(ロ) 請求人開発法価格について
A 本件土地に係る請求人開発計画は、上記(イ)Eのとおり、本件審査基準を満たしていない上、同基準を満たすために必要となる道路用地の買収費用等が請求人開発法価格に何ら考慮されておらず、合理性が認められない。
B 本件土地は、上記(2)ニのとおり、本件崖地部分を含むため、その擁壁工事費用として、請求人擁壁工事費は、上記(3)ロのとおり、本件崖地部分の水平面積(626.25平方メートル)に1平方メートル当たり150,000円を見込んでいる。しかしながら、まる1請求人開発計画では、有効面積(別表3の3(1)「開発計画」の「有効面積(A)−(B)」欄)を算定する上で、本件崖地部分の水平面積を算入していること及び上記(3)ロのなお書のとおり、土工事の体積(2,500立方メートル)は本件崖地部分の水平面積に平均4メートル相当の盛土をすることを想定していることからすると、本件土地の開発工事としては、本件崖地部分の外周に隣地面に対して垂直に約4メートルの高さの擁壁を施し、本件崖地部分の水平面積を隣地面から高さ4メートルのところで平坦地にすることを想定しているものと考えられる(このように隣地面に対して垂直に擁壁を施す方法は、上記(2)ニのとおり、本件1土地の南側に隣接する戸建住宅敷地の西側に同様の擁壁が施されていることからも、現実的かつ合理的な方法であるといえる。)。そうだとすると、本件土地の擁壁工事の壁面面積は、本件崖地部分の外周距離に高さ4メートルの擁壁を設置する場合の面積となるはずであり、上記(2)ニのとおり、本件崖地部分の外周部分の距離は100メートル弱程度の距離であるから、本件土地の擁壁工事の壁面面積は広く見積もっても約400平方メートル程度(外周100メートル×高さ4メートル)と算定されるはずである。にもかかわらず、請求人擁壁工事費の算定においては、これを本件崖地部分の水平面積(626.25平方メートル)と同一面積としている点で、合理性が認められない。また、まる2T国税局長が定める財産評価基準書(以下「評価基準書」という。)における各県別の宅地造成費の金額表の金額は、平坦地、傾斜地ごとに、想定画地等、地質地盤、盛土高、傾斜度、擁壁の種類、土質、盛土の運搬距離などについて、土地造成における平均的な条件を想定の上、土木工事業界関係の専門誌である「建設物価」や「土木コスト情報(建設物価臨時増刊)」、一般社団法人日本建設機械施工協会発行の「建設機械等損料表」、国土交通省発表の「土木工事標準歩掛」の各地域別の人件費、材料費等のコストの数値等を積算することにより算定された通常要する造成費の金額の80%相当額であると認められ、その通常要する造成費の算定には合理性が認められるところ、平成20年分の評価基準書におけるs県の平坦地の宅地造成費の金額表の土止費(1平方メートル当たり37,400円)の金額を80%で割り戻した金額が1平方メートル当たり46,750円(以下、この金額を「s県内における評価基準書に基づく1平方メートル当たりの擁壁工事単価」という。)であることからすると、請求人擁壁工事費の1平方メートル当たりの単価(150,000円)は明らかに過大といえる。
(ハ) まとめ
 以上のとおり、請求人比準価格及び請求人開発法価格は、その算定過程において、いずれも合理性が認められないから、これらの価格を基に算定された請求人鑑定評価額は、本件土地の本件相続開始時における価額(時価)とは認められない。
ロ 当審判所が認定した本件土地の時価について
 請求人鑑定評価額は、上記イ(ハ)のとおり、本件土地の本件相続開始時における価額(時価)とは認められないが、他方、上記イ(ロ)Aのとおり、本件土地の開発に際しては、袋路状道路の敷設は認められないなど特殊な制約が本件相続開始時にあったことから、当審判所において、本件土地の評価に際し、評価通達によらないことが正当と認められる特別な事情があるか否かを検討するため、U社○○支社に対し、本件土地の鑑定評価を依頼した(以下、U社による本件土地の鑑定評価を、「審判所鑑定評価」という。)。審判所鑑定評価の概要は、別表5記載のとおりであり、本件土地の評価額を69,300,000円(以下「審判所鑑定評価額」という。)と算定している。以下、審判所鑑定評価の合理性を検討する。
(イ) 審判所鑑定評価額の算定方法
 審判所鑑定評価額は、標準画地方式によらず直接比準方式を採用し、次のとおり、取引事例比較法による比準価格(以下「審判所比準価格」という。)と開発法による価格(以下「審判所開発法価格」という。)を基に算定されている。
A 審判所比準価格の算定方法
 別表5の2「取引事例比較法の概要」の取引事例1ないし4(取引事例1について、以下「審判所取引事例1」といい、他の取引事例についても同様に表記する。また、これら4件の取引事例を併せて、以下「審判所各取引事例」という。)を基に審判所各取引事例の土地と本件土地との個別の差異を補正するため、個別格差補正(別表5の2の「個別的要因格差」欄の補正をいい、当該補正を以下「審判所個別格差補正」という。)として、同概要の注4に記載のとおり、本件土地が傾斜地であることによる減価率15%、本件土地が開発に当たり取付道路の買収が必要となることによる減価率45%を乗じて、審判所各取引事例における取引価格を53%減価させるなどとして、審判所比準価格を算定している。なお、審判所各取引事例については、いずれも、同一需給圏内の類似地域の取引で、高層利用を目的としたものでなく、分割使用を前提として戸建開発素地として取引されたものであり(取引実態)、かつ、実際に開発が行われ戸建住宅地として利用されているものである(開発状況)。
B 審判所開発法価格の算定方法
 本件土地を分割して標準的な宅地を造成することについて、別表5の3(1)「開発計画」及び別図3土地利用開発図(審判所鑑定評価)のとおり、道路用地332.6平方メートルを買収し、開発区域の面積を3,392.35平方メートルとした上で、本件土地を14区画に区画割りする開発計画(以下「審判所開発計画」という。)を採用している。また、別表5の3(2)「分譲計画の策定等の根拠」では、造成工事費の一部として擁壁工事費18,983,000円(別表5の3(2)の注のとおり計算した擁壁工事費をいい、この擁壁工事費を以下「審判所擁壁工事費」という。)を見込んでいる。これらを踏まえて、別表5の3(4)「開発法による価格」のとおり審判所開発法価格を算定している。
(ロ) 審判所鑑定評価額の合理性について
A 審判所比準価格について
(A) 審判所鑑定評価では、上記(イ)のとおり、直接比準方式を採っているところ、鑑定評価手法上、評価対象不動産の最有効使用が近隣地域における標準的使用と異なる場合などには直接比準方式が用いられており、本件土地が存する地域の土地の標準的使用の一つは、上記(2)ロのとおり、100平方メートル程度の戸建住宅用地であり、その中で本件土地の地積は3,059.75平方メートルと規模が大きく、その最有効使用は同地域の標準的使用と同一とは認められないことからすると、直接比準方式を採ったことに不合理はない。
(B) 上記イ(イ)Bのとおり、取引事例は本件土地と状況の類似する土地の取引事例を採用する必要があるところ、審判所各取引事例のうち、審判所取引事例2については、その地積が429平方メートルであり、本件土地の地積(3,059.75平方メートル)と比べて規模が極めて小さいといえ、また、審判所取引事例3及び4については、本件土地の用途地域は第一種低層住居専用地域(建ぺい率50%、容積率100%)に存するのに対し、審判所取引事例3は第二種住居地域(建ぺい率60%、容積率200%)に、また、審判所取引事例4は第一種住居地域(建ぺい率60%、容積率200%)に存し、本件土地とは用途地域のほか建ぺい率や容積率も異なっている。これらの点について、まず、審判所取引事例2については、その地積が本件土地の地積に比し約7分の1にすぎず、上記(イ)Aの取引実態や開発状況を加味しても、本件土地と状況が類似する土地の取引事例に当たるとはいい難い。次に、審判所取引事例3及び4については、本件土地と用途地域及び建ぺい率や容積率が異なるものの、いずれの事例も取引実態及び開発状況は上記(イ)Aのとおりであり、当審判所の調査の結果によっても、他に審判所取引事例3及び4に優る適当な取引事例が見当たらないことからすると、本件土地と状況が類似する土地の取引事例に当たらないとまではいえない。以上のことから、取引事例の選定として、審判所各取引事例のうち審判所取引事例2は不相当であると認められる。ただし、審判所比準価格の1平方メートル当たりの価格は23,300円であるところ、その基礎の一つとしている審判所取引事例2に係る1平方メートル当たりの比準価格22,700円を除くとしても、審判所各取引事例に係る1平方メートル当たりの比準価格は、審判所取引事例1、3及び4の順に、22,900円、24,800円及び22,700円であるから、審判所比準価格の1平方メートル当たりの価格をそれらの中庸値に近似する23,300円のままとすることに特段の不合理はない。
(C) 審判所個別格差補正は、上記(イ)Aのとおり、開発法の手法により、傾斜地や取付道路買収による減価がない土地を想定し、そこから擁壁工事費や道路取得費を考慮して算定したものであり、擁壁工事費や道路取得費の算定に当っては、審判所開発法価格の算定の基となった審判所擁壁工事費や道路買収費等を基としており、これについては後記Bのとおり相当であると認められることから、補正率に不合理な点は認められない。
B 審判所開発法価格ついて
 本件土地に係る審判所開発計画は、上記(イ)Bのとおり、道路用地を買収し袋路状道路としない開発を想定しており、同計画は本件審査基準を満たしている合理的なものであると認められる。
 審判所開発計画では、別表5の3(2)「分譲計画の策定等の根拠」のとおり、販売単価や道路用地の買収単価について、100平方メートル程度の中間画地の売買実例を基に、公示価格との整合を確認した上で、標準的な戸建住宅の価格を144,000円と算定し、その価格を補正して販売単価等を計算している。また、審判所擁壁工事費は1平方メートル当たり36,000円とs県内における評価基準書に基づく1平方メートル当たりの擁壁工事単価(46,750円)を下回るものの、前者は後者の約77%に相当し、その額(単価)は開発業者からの聞き取り価額を加味するなどした上で算定されており、また、工事を要する面積は、造成工事に必要な外周面積を積算して算定されていることから、この計算結果は相当と認められる。
(ハ) まとめ
 以上の点において、審判所比準価格及び審判所開発法価格は、その算定過程に合理性を疑わせる点は認められず、他の点についても同様である。そして、審判所鑑定評価額(69,300,000円)は、審判所比準価格及び審判所開発法価格を再吟味した上で、いずれの価格も同程度の説得力があり、その差も僅少のため、両価格の中庸値を採用していることから、本件土地の本件相続開始時における価額(時価)として妥当なものと認められる。
ハ 本件土地の本件相続開始時における価額(時価)はいくらか(本件土地の時価を評価するに当たり評価通達の定めにより難い特別な事情があるか否か)について
 上記(1)のとおり、評価通達に定められた評価方法により算定される価額が時価を上回る場合には、評価通達の定めにより難い特別な事情がある場合に該当するといえ、その場合には、評価通達の定めによらず、他の合理的な評価方法により評価することが許されると解されるところ、本件土地につき、広大地通達を適用して算定される価額(150,452,114円)は、本件土地の本件相続開始時における価額(時価)である審判所鑑定評価額(69,300,000円)を上回ることから、本件土地の評価額を評価するに当たっては、評価通達の定めにより難い特別な事情があると認められ、本件土地の評価額は審判所鑑定評価額とするのが相当である。
ニ その他の請求人らの主張について
 請求人らは、上記2(2)ロのとおり、本件土地の本件相続開始時の価額は、請求人鑑定評価額(60,000,000円)が認められない場合であっても、P鑑定評価額(73,000,000円)を上回るものではない旨主張するところ、本件土地の本件相続開始時における価額(時価)は、上記ハのとおり、審判所鑑定評価額(69,300,000円)とするのが相当である。
ホ 本件各更正処分について
 以上の結果、請求人らの取得財産の価額は別表6の「取得財産の価額」の請求人らの各欄記載のとおりとなる。これに基づき請求人らの本件相続に係る相続税の納付すべき税額を計算すると、同表の「納付すべき税額」の請求人らの各欄記載のとおりとなり、これらの金額はいずれも本件各更正処分に係る金額を下回るから、本件各更正処分は、別紙2ないし別紙4の「取消額等計算書」のとおり、いずれもその一部を取り消すべきである。
ヘ 本件各賦課決定処分について
 本件各更正処分は、上記ホのとおり、その一部を取り消すべきであるから、本件各賦課決定処分の基礎となる税額は、請求人Fは○○○○円、請求人Hは○○○○円及び請求人Jは○○○○円となる。また、納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについては、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。したがって、請求人らの過少申告加算税の額は別表6の「過少申告加算税の額」の請求人らの各欄記載のとおりとなり、いずれも本件各賦課決定処分の金額に満たないから、別紙2ないし別紙4の「取消額等計算書」のとおり、いずれもその一部を取り消すべきである。

(5) 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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