(平成26年11月10日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)及び請求人の取引業者によって行われた行事は、請求人及び請求人の取引業者が組織した親睦団体が主催しているとは認められず、請求人の業務に関連して開催されたものであるから、当該行事に係る損益は請求人に帰属するとして法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該行事に係る損益は親睦団体に帰属し、請求人に帰属するものではないとして、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成18年3月1日から平成19年2月28日まで、平成19年3月1日から平成20年2月29日まで、平成20年3月1日から平成21年2月28日まで、平成21年3月1日から平成22年2月28日まで、平成22年3月1日から平成23年2月28日まで及び平成23年3月1日から平成24年2月29日までの各事業年度(以下、順次「平成19年2月期」、「平成20年2月期」、「平成21年2月期」、「平成22年2月期」、「平成23年2月期」及び「平成24年2月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも提出期限(法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月間延長されたもの)までに申告した。
 また、請求人は、平成22年に原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、平成22年11月30日に、平成20年2月期、平成21年2月期及び平成22年2月期の法人税について、別表1の「修正申告」欄のとおり修正申告をした。
ロ G税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員が平成24年9月から行った調査に基づき、平成25年6月26日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり、各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分をしたところ、請求人は、当該処分を不服として、平成25年8月12日に異議申立てをした。
ハ G税務署長は、平成25年8月27日付で、平成24年2月期の法人税及び重加算税を別表1の「減額更正処分等」欄のとおり、減額更正処分及び重加算税の変更決定処分をした。
ニ 異議審理庁は、平成25年11月8日付で、別表1の「異議決定」欄のとおり、本件各事業年度(平成24年2月期を除く。)の法人税の各更正処分及び本件各事業年度(平成23年2月期及び平成24年2月期を除く。)の法人税の重加算税の各賦課決定処分については棄却し、平成24年2月期の法人税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分については、上記ハで取り消された部分を却下し、その余の部分を棄却する異議決定をした。
 また、請求人は、異議決定を経た後の本件各事業年度の法人税の各更正処分(平成24年2月期は減額更正処分後のもの)及び本件各事業年度(平成23年2月期を除く。)の法人税の重加算税の各賦課決定処分(平成24年2月期は変更決定処分後のもの)に不服があるとして、平成25年12月5日に審査請求をした(以下、本件各事業年度の法人税の各更正処分(平成24年2月期は減額更正処分後のもの)を「本件各更正処分」といい、本件各事業年度(平成23年2月期を除く。)の法人税の重加算税の各賦課決定処分(平成24年2月期は変更決定処分後のもの)を「本件各賦課決定処分」という。)。

(3) 関係法令の要旨

 関係法令の要旨は、別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。 イ 請求人の概要
 請求人は、昭和○年○月○日に設立された、○○を主たる目的とする特定同族会社である。
ロ 「○○の会」の概要
(イ) 「○○の会」は、平成13年6月に請求人及び請求人の取引先により組織された親睦団体であり、別紙2のとおり、○○の会会則を定めている。
(ロ) ○○の会会員の年会費○○○○円は、○○の会会則第9条の規定により、J銀行e支店の○○の会K名義の普通預金口座(口座番号○○○○)への振込みとなっていた(以下、当該預金を「○○の会預金」といい、当該預金口座を「○○の会預金口座」という。)。
 なお、○○の会預金口座の名義人であるKは、平成13年7月○日の○○の会預金口座開設時に請求人の○○部長であり、平成24年2月期まで引き続き当該役職にあった。
ハ 懇親会及び新年会
(イ) 本件各事業年度において、請求人及び請求人の取引業者が一堂に会し、○と○には懇親会が、1月には新年会が開催されていた(以下、懇親会と新年会を併せて「懇親会等」という。)。
 なお、平成○年の秋には、請求人の○○祝賀会(以下「祝賀会」という。)が開催され、懇親会は開催されなかった。
(ロ) 本件各事業年度において開催された懇親会等の開催案内及び参加会費の領収証は、全て請求人名で発行され、当該開催案内には、懇親会等の開催日時、場所及び一人当たりの参加会費の記載があり、また、受付は、請求人の従業員が行っていた。
ニ 懇親会等の会費収入及び開催費用
 本件各更正処分の更正通知書の更正の理由欄には、懇親会等の会費収入及び開催費用の金額が別表2のとおり記載され、会費収入は、懇親会等の出席見込人数に一人当たりの参加会費を乗じた金額であり、また、開催費用は、開催したホテル及び講演会の講師へ支払った金額等である旨記載されていた。
ホ 祝賀会
(イ) 平成○年○月○日に、ホテルLにおいて、祝賀会が開催された。
(ロ) 祝賀会の案内文書(以下「招待状」という。)に開催日時及び場所の記載はあるが、一人当たりの参加会費の記載はなかった。
 祝賀会が開催されたホテルLの会場の看板には「D社○○祝賀会」と表示されていた。
 また、祝賀会の出席者に配付された式次第の表紙にも、「D社○○祝賀会」と記載されていた。

(5) 争点

 争点1 懇親会等及び祝賀会の損益は、請求人に帰属するか否か。
 争点2 懇親会等及び祝賀会に関し、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。
 争点3 懇親会等及び祝賀会に関し、請求人は偽りその他不正の行為により税額を免れたか否か。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙3のとおりである。

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3 判断

(1) 争点1(懇親会等及び祝賀会の損益は、請求人に帰属するか否か。)について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人の○○部長の役職にあり、○○の会の会計担当役員であったMは、平成26年3月4日に、当審判所に対して、○○の会預金の通帳の写しを基に、○○の会の年会費の納入に係る既未済の管理及び○○の会の収支報告書を作成した旨答述し、請求人の○○部長であったKは、平成26年4月8日に、当審判所に対して、○○の会預金の通帳及び印鑑は、口座開設時から、請求人の○○部の金庫の中に保管されていた旨答述した。
 上記内容は、特に不自然不合理な点は認められず、これに反する証拠もないことから、信用できるものと認められる。
(ロ) 本件各事業年度における○○の会預金口座の集計管理は、上記(イ)のとおり、Mによって行われており、○○の会預金口座の入出金は、請求人の事務所内に置かれた○○の会の事務に従事する請求人の従業員が行っていたと認められる。
 また、請求人名義の預金通帳及び印鑑は、請求人の代表取締役であるEが自ら管理している旨自認しているところ、これとは別に、○○の会預金の通帳及び印鑑は、上記(イ)のとおり、請求人の○○部の金庫において管理されていたと認められる。
 さらに、別紙2のとおり、○○の会会則第9条には、○○の会預金が開設されている金融機関及び支店名、口座名義、預金の種類及び口座番号が明記されているところ、本件各事業年度においては、会員の年会費は全て○○の会預金口座に振り込まれていたことから、全ての会員は、○○の会預金がJ銀行e支店に開設されていたことを承知していたと認められる。
 加えて、○○の会預金の入出金状況からみても、請求人が、○○の会預金を管理し自由に入出金していたと認められる事実はないことから、○○の会預金については、○○の会により管理されていたものと認めるのが相当である。
(ハ) 本件各事業年度において懇親会等が開催されたホテルに保存のあった次第によると、懇親会等の具体的な行事の内容は、講演会及び懇親会である。
(ニ) 平成19年11月以降に開催された懇親会等及び祝賀会における○○の会預金口座への入出金については、別表3の「預入金額」欄及び「払出金額」欄のとおりであり、「入出金差額」欄のとおり差額が発生し、当該差額は○○の会預金として預けられていた(以下、○○の会預金となった差額を「入出金差額金」という。)。
(ホ) Mが保管していた平成19年3月1日から平成20年2月29日まで、平成21年3月1日から平成22年2月28日まで及び平成23年3月1日から平成24年2月29日までの各会計年度における○○の会の各収支決算報告書は、○○の会預金の通帳を基に作成されており、収入欄には、前期繰越金、年会費、懇親会等の会費及び利息などの各収入金額が、支出欄には、懇親会等の開催費用、雑費、次期繰越金などの各支出金額がそれぞれ記載されていた。
(ヘ) 差出人が請求人である招待状の内容は、請求人が○○を迎えたことに対する感謝の意と饗宴出席を案内したものであり、文面には○○の会に関する記載はなかった。
 また、祝賀会終了後に送付された差出人が請求人であるお礼状の内容は、祝賀会出席及びご厚志などに対する請求人からの感謝及び御礼の意を表すものであり、文面には○○の会に関する記載はなかった。
(ト) 祝賀会の式次第の内容は、請求人の代表者挨拶、来賓祝辞、乾杯、祝宴、祝電披露、テーブルスピーチ及び中締めとなっており、○○の会の役員の挨拶などはなかった。
(チ) 祝賀会に伴う祝金は、別表4の「祝金合計」欄のとおりであり、現金のほか、1社○○○○円の祝金については、小切手によるものであった。
ロ 判断
(イ) 懇親会等について
A 懇親会等については、上記1の(4)のハの(ロ)のとおり、開催案内及び領収証は請求人名となっていたこと、また、懇親会等の受付を請求人の従業員が行っていたことは確認されるものの、上記イの(ハ)のとおり、懇親会等の具体的な内容は講演会及び懇親会であり、これは○○の会会則第3条及び第4条に掲げる○○の会の目的及び事業内容に沿った行事であると認めることもできるから、これらの事実だけで懇親会等が、○○の会によって開催されたものであるか、請求人によって開催されたものであるかは明らかでない。
 一方、入出金差額金については、上記イの(ニ)のとおり、○○の会預金に預け入れられ、上記1の(4)のロの(ロ)及び上記イの(ロ)のとおり、○○の会の年会費とともに○○の会により管理されており、上記イの(ホ)のとおり、収支決算報告書は、○○の会預金に基づき作成されていることからすれば、懇親会等の損益は、請求人に帰属するとは認められない。
B この点に関して原処分庁は、懇親会等は請求人の意思決定により開催され、会費収入及び開催費用を含むその使途も請求人が決定していることから、請求人の業務に関連した行為として開催されたものであり、懇親会等に伴う利益金は、請求人に帰属する旨主張する。
 しかしながら、上記Aのとおり、懇親会等については、請求人か○○の会のいずれが主催しているか明らかでなく、原処分庁の主張を裏付ける証拠もないことから、原処分庁の主張には理由がない。
(ロ) 祝賀会について
A 上記1の(4)のホの(ロ)並びに上記イの(ヘ)及び(ト)のとおり、招待状及びお礼状が請求人名で送付され、その文面には○○の会に関する記載はなく、祝賀会会場の看板の表示及び式次第の表紙は、「D社○○祝賀会」となっており、式次第の内容からも○○の会の役員挨拶がなく、○○の会に関する記載もなかったことからすると、請求人が祝賀会の主催者であると認めるのが相当である。
 加えて、別表4のとおり、祝賀会の祝金は、持参のない招待客がいた一方、上記イの(チ)のとおり、○○○○円を持参した招待客がいたなど金額にばらつきが認められ、上記1の(4)のホの(ロ)のとおり、招待状に祝賀会の参加会費の記載がなかったことからすれば、これらの金員は、招待客が請求人の○○の祝金として任意に持参したものであると認めるのが相当であり、かつ、祝金は、お祝いをする者からお祝いをされる者に贈呈されるものであるから、祝金は請求人が受領すべきものと認められる。
 また、祝賀会に伴う支出金については、祝賀会を主催した請求人が負担するのが相当と認められる。
 よって、祝賀会の損益は、請求人に帰属するものと判断するのが相当である。
B 請求人は、祝賀会は、○○の会の役員によって企画から実施までを取り仕切り開催されたものであるから、○○の会の主催によるものであり、祝賀会の収支は請求人に帰属しない旨主張するが、祝賀会の主催者は請求人であり、祝賀会の損益が請求人に帰属することは上記Aで述べたとおりであり、また、請求人の主張を裏付ける証拠もないことから、請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(懇親会等及び祝賀会に関し、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為があったか否か。)について

イ 法令解釈
 通則法第68条第1項は、過少申告した納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、重加算税を課す旨規定している。
 この重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるということだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものであると解される。
 そして、ここでいう隠ぺいとは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実を隠ぺいしあるいは故意に脱漏したことをいい、また、仮装とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装うなど、故意に事実をわい曲したことをいうと解するのが相当である。
ロ 当てはめ
 懇親会等の損益については、上記(1)のロの(イ)のAのとおり、請求人に帰属するとは認められないから、判断する前提を欠くこととなる。
 一方、祝賀会に関する請求人の行為に対して、重加算税を課するためには、上記イのとおり、請求人のした過少申告行為そのものとは別に隠ぺい又は仮装と評価すべき行為が存在しなければならないところ、原処分庁は、1 祝金が請求人の収入であることを認識していながら、その収支について帳簿に記載していないこと、2祝賀会に伴う支出予定金額に相当する金額を○○の会預金口座に入金し、○○の会名義でホテル等へ支出したことは、隠ぺい、仮装の行為に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記1の(4)のハの(イ)のとおり、平成○年の秋には祝賀会が開催され、定期的に開催されていた懇親会が開催されなかったことからすると、○○の会及び請求人が、祝賀会を○○の会の主催であると認識していたとしてもやむを得ず、また、祝賀会の収支について、請求人の帳簿に記載されていないことが単なる経理誤りではなく、故意によるものであることを裏付ける証拠もない。
 さらに、祝賀会における○○の会預金口座への入出金については、別表3のとおり、懇親会等と同様、その入出金差額金は、○○の会の年会費とともに○○の会預金として管理されていることからすれば、祝賀会により生じた入出金差額金を、請求人が取得又は自由に処分したと認めることができない。
 以上のことからすれば、懇親会等及び祝賀会に関して、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為があったとは認めることができないので、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

(3) 争点3(懇親会等及び祝賀会に関し、請求人は偽りその他不正の行為により税額を免れたか否か。)について

イ 法令解釈
 通則法第70条第4項は、「偽りその他不正の行為」によりその全部若しくは一部の税額を免れた法人税についての更正は、その更正に係る法人税の法定申告期限から7年を経過する日まで、することができる旨規定している。
 ここでいう「偽りその他不正の行為」とは、単なる不申告ないし過少申告では足らず、税額を免れる意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能又は著しく困難ならしめるような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行うことをいうものと解するのが相当である。
ロ 当てはめ
 原処分庁は、請求人が、懇親会等に伴う利益金を帳簿に記載せず隠ぺいし、これに基づき法人税の確定申告書を提出して税額を免れていると主張するが、懇親会等の損益は、上記(1)のロの(イ)のAのとおり、請求人に帰属するとは認められない。
 また、祝賀会に関しては、上記(2)のロで述べたとおり、請求人に事実の隠ぺい又は仮装の行為は認められず、他に偽りその他不正の行為があったとする証拠も認められない。
 そうすると、懇親会等及び祝賀会に関し、請求人は、偽りその他不正の行為により税額を免れたとは認められず、原処分庁の主張には理由がない。

(4) 本件各更正処分について

 上記(1)のロのとおり、懇親会等の損益は、請求人に帰属するとは認められず、また、祝賀会の損益は、請求人に帰属すると認められるものの、上記(3)のロのとおり、通則法第70条第4項に規定する偽りその他不正の行為があったとは認められないことから、同条第1項の規定により、平成20年2月期の更正処分はすることができない。
 したがって、本件各更正処分は、その全部を取り消すべきである。

(5) 本件各賦課決定処分について

 本件各賦課決定処分は、本件各更正処分の全部の取消しに伴い、その全部を取り消すべきである。

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