総則

申告と徴収処分

  1. 課税処分と徴収処分との関係
  2. 申告と徴収処分(3件)

他人の依頼を受けて請求人の所得としてした確定申告に係る滞納国税について請求人の財産に対して行った差押えは違法ではないとした事例

裁決事例集 No.42 - 249頁

 請求人は、滞納国税が譲渡所得に起因するものであるところ、本件譲渡所得を請求人の所得として確定申告したのは、本件譲渡所得の真の所得者であるA男からの依頼があったためであり、本件滞納国税はA男から徴収すべきであるから、請求人の財産に対して行った差押えは違法である旨主張するが、所得税は、申告納税方式をとっているところ、申告納税制度における課税標準、税額等の申告は、納税者たる私人のする行為であるが、これに対しては、納付すべき税額の確定等公法上の法律効果が付与されており、したがって、納税義務者が第三者に帰属する所得を自己の名義で納税申告することは法の全く予定していないところであり、納税申告は、外観上一見して当該納税義務者本人のものでないと判断できるような場合でない限り、当該納税義務者本人に対して、納税義務の確定という公法上の法律効果を及ぼすものであって、その他の第三者に納税義務が生じることはないし、また、滞納処分は、それに先行する確定申告に係る行為とは別個独立の行政処分であるから、当該納税義務者に係る税額が確定申告により一応形式的に確定している場合には、確定申告書の記載内容のかしが客観的に明白、かつ、重大である場合を除いては、当該確定申告に、仮にかしが存するとしても、滞納処分が違法となることはないと解するのが相当であるところ、本件滞納国税が本件譲渡所得に起因するものであり、仮に、本件譲渡所得がA男に帰属すべきものであったとしても、本件申告書に重大かつ明白なかしがない以上、請求人以外の第三者であるA男が本件申告書により確定した税額の納税義務者となることはあり得ないのであるから、請求人の財産に対して行った差押えは違法である旨の請求人の主張には理由がない。

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遺産分割協議の無効確認を求めて訴訟中であることを理由に、当該遺産分割に基づく相続税の滞納のためにした請求人の固有財産に対する差押処分の取消しを求めることはできないとした事例

裁決事例集 No.52 - 163頁

  1.  請求人が、本件相続税申告の基礎となった遺産分割協議の無効確認を求めて訴訟を提起していることは認められるが、当該遺産分割に基づきされた相続税の申告と本件差押処分とは、それぞれ別個の法律効果の発生を目的とする独立した手続であり、結合して単一の法律効果を生ずるものではないから、本件申告に外形上客観的に一見して看取し得る程度の重大かつ明白な瑕疵があると認められない以上、差押処分の取消しを求めることはできない。
  2.  請求人は、本件訴訟の判決確定まで本件差押処分を看過すれば請求人の固有財産が公売に付されることとなり、本件訴訟の実益を確保できなくなるばかりか、回復不可能な損害を被ることになると主張する。
     しかしながら、差押処分は租税債権の強制履行を目的とする滞納処分の一環であるが、その執行に当たっては、超過差押え及び無益な差押えの禁止の規定(国税徴収法第48条)、相続があった場合の差押えに関する規定(国税徴収法第51条)、滞納処分による財産の換価の猶予の規定(国税徴収法第151条)等により、差押処分が滞納者に過酷にならないように措置されていることが認められる。
     一方、相続税の滞納により滞納者の固有財産に対する差押処分を禁止し又は猶予する旨の規定は存在しないから、原処分庁が本件差押処分をしたこと及びこれを維持していることに違法、不当な点があるとは認められない。

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請求人の被相続人が提出した確定申告書は、被相続人が現処分庁所属の担当職員の言われるままに署名押印し、その内容について納得せずに提出したものであり無効であるから、無効な確定申告により確定した滞納国税を徴収するため行われた差押処分も違法であるとの主張を排斥した事例

裁決事例集 No.62 - 505頁

 請求人は、請求人の被相続人が原処分庁へ提出した確定申告書は、請求人の被相続人が原処分庁所属の担当職員に言われるままに署名押印し、その内容について納得せずに提出したものであり、無効であるから、無効な確定申告書に係る滞納国税を徴収するため行われた差押処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、担当職員が、被相続人の申立てに基づき確定申告書の金額欄に記載し、被相続人本人が確定申告書に署名押印した事実は認められるものの、担当職員が請求人の被相続人の意思に反して確定申告書の提出を強要したとする事実は認められない。
 また、請求人の被相続人は当時年齢82歳と高齢ではあるものの、原処分庁所属の徴収担当職員と再三にわたり滞納国税の納付について相談を行い、納付の意思を示していたことなどから、確定申告書の内容について納得していたと認めるのが相当である。
 なお、確定申告書の記載内容の過誤の是正については、錯誤が客観的に明白かつ重大であって、法が定めた方法以外に是正を許さないならば納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ錯誤の主張が許されないと解されているところ、本件についてはこれに該当する事実は無いと認められるから、その是正は更正の請求により行うべきである。
 以上のとおり、請求人の主張には理由がなく、差押処分は適法に行われていると認められるから、原処分は適法である。

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