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(平4.2.20、裁決事例集No.43 15頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社役員であるが、昭和62年分の所得税の確定申告書(分離課税用)(以下「本件当初申告書」という。)に別表の「確定申告」欄のとおり記載し、特例適用条文欄に「措37」と記入の上、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し昭和63年12月26日付で、別表の「更正」欄のとおり更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をした。
 請求人は、これらの処分を不服として平成元年1月25日に異議申立てをし、その後、平成元年3月15日に租税特別措置法(昭和62年法律第96号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第37条の2《特定の事業用資産の買換えの場合の更正の請求、修正申告等》第2項の規定に基づいて、別表の「修正申告」欄のとおり記載し、修正申告(以下「本件修正申告」という。)をした。
 異議審理庁は、上記異議申立てに対し平成元年5月9日付でいずれも却下の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の本件更正及び本件賦課決定になお不服があるとして、平成元年5月25日に審査請求をした。
 また、請求人は、平成元年5月15日に、本件修正申告に対して別表の「更正の請求」欄のとおり記載して、更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をしたところ、原処分庁は、これに対し同年10月31日付で、更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
 請求人は、本件通知処分を不服として平成元年12月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し平成2年2月9日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の本件通知処分になお不服があるとして、平成2年3月8日に審査請求をしたので、本件更正及び本件賦課決定並びに本件通知処分に対する審査請求について併合審理する。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、本件更正及び本件賦課決定についてはその一部の、また本件通知処分についてはその全部の取消しを求める。
イ 更正について
(イ) 審査請求の利益について
 原処分庁は、請求人が平成元年3月15日に本件修正申告をしたことを奇貨として、本件更正に対する審査請求をなす利益がないとしているが、次の理由により不当である。
A 本件修正申告は、措置法第37条の2第2項の規定による「買換資産の取得」と明記してなしたものであって、有価証券の譲渡に係る所得の異動により行ったものではないから、有価証券の譲渡に係る所得についてなされた本件更正を容認するものではない。
 すなわち、納税額を算出して納税義務を完遂するための計算と本件更正の容認とは、納税者の意思においては根本的に異なるものである。
B 本件修正申告において、その修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)の「修正前の課税額」欄に、本件更正に係る該当額を記載したのは、同欄に本件当初申告書に係る該当額を記載すると、措置法第37条の2第2項の規定による修正事項に係る納税額を正確に算出することができないからであって、この場合に生じる納税不足額には延滞税が賦課され、その経済的損失は請求人が負うこととなる。
C 請求人の意思は、平成元年5月15日に本件更正の請求をしていることからも明らかである。
(ロ) 本件更正について
本件更正は、次の理由により違法である。
A 更正の手続等について
(A) 原処分庁は、請求人が青色申告書の提出者であるにもかかわらず、更正通知書に更正の理由を付記しなかった。
(B) 原処分庁は、請求人が本件更正に係る異議申立てをしてから3か月経過したにもかかわらず、異議決定をせず、かつ、国税通則法(以下「通則法」という。)第111条《教示》第1項の規定による教示をしなかった。
B 有価証券の譲渡に係る所得区分について
(A) 請求人が行った有価証券の譲渡のうち、1銘柄20万株式以上の株式(以下「本件株式」という。)の譲渡に係るものについては、措置法第37条の10《有価証券の譲渡による所得の課税の特例》第1項第1号及び措置法施行令(昭和62年政令第333号による改正前のものをいう。以下同じ。)第25条の8《有価証券の譲渡による所得の課税の特例》の規定により譲渡所得に該当するのであって、次の理由から所得税法第33条《譲渡所得》第2項に規定する営利を目的として継続的に行われる譲渡には該当しない。
a 請求人の昭和62年中の株式の売買に係る回数は、37回であること。
b 請求人が総合課税の短期譲渡所得とした本件株式の取引は、「A社」ほか10銘柄であり、これらの取引に係る資金は、土地譲渡代金の範囲内で賄っており、投機的な取引と一線を画していること。
c B証券における株式取引については、資金の利回りを最低銀行金利を上回ることを条件に、同証券に一任する形を取ったことがあったため、短期的に売買が頻繁に行われた時期があったこと。
d 株式の平均保有日数が短いのは、いわゆるブラックマンデーによる株価大暴落に伴い保有株式を譲渡したからであって、これは資金運用の表れであること。
e 株式の取引において、指値及び指値の変更は当然のことであり、これをもって、投機又は営利とかの判定要素にはなり得ないこと。
f 株式の名義変更を行っていないのは、請求人が株式取引に対して未経験であり、証券会社の勧めるままに取引を行い、すべてを任せていたからであり、名義書換えに関する知識がなかったことによること。
g 請求人は、株式の取引に係る何らの人的、物的設備を有していないこと。
h 請求人は、給与等により生計を立てていること。
i 株式の資金量は個人的状況により判断すべきであり、株式取引は、土地譲渡代金1,750,000,000円の一部分にしかすぎない資金量であること。
(B) 以上述べたとおり、請求人は、株式に対して未経験であり十分な知識もないまま、土地譲渡代金の運用のために株式を取得したが、みぞうの大暴落にあい、その目的を果たせぬまま取得した株式を処分してしまったのがその実態であり、それが譲渡損の原因であることから、請求人が行った株式の譲渡は、継続的に株式の売買を行ったものとはいえない。
(C) したがって、本件更正の対象となった株式の譲渡に係る所得区分は、措置法施行令第25条の8第1項の規定により、譲渡所得となるから、本件株式の譲渡により生じた損失額482,967,227円について、他の譲渡益との損益通算を認めるべきである。
ロ 本件賦課決定について
 以上のとおり、更正は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定もその一部を取り消すべきである。
ハ 更正の請求について
 本件修正申告に係る課税標準及び税額は、前記イの(ロ)のBのとおり過大となっているから、本件更正の請求を認めるべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により、いずれも適法である。
イ 更正について
(イ) 審査請求の利益について
 本件更正に対する審査請求は、次の理由により不適法なものである。
A 本件更正の後の平成元年3月15日に、請求人は本件修正申告をしたが、その課税標準及び税額は、いずれも本件更正に係るこれらの額を上回っているから、本件更正の内容は本件修正申告書の提出により修正され、本件更正は独立の存在を失ったものである。
 なお、請求人は、本件修正申告書の提出が本件更正の内容を容認したものではない旨主張するが、本件修正申告書は通則法第19条《修正申告》第4項の規定に従った適式なものであるから、その効果の発生に何らの消長も来さないというべきである。
B したがって、本件更正の取消しを求める審査請求の利益はなく、本件審査請求は不適法なものである。
(ロ) 本件更正について
 本件更正に係る審査請求について、仮にその利益があるとしても、本件更正は、次の理由により適法である。
A 更正の手続等について
(A) 本件更正に係る譲渡所得は、所得税法第143条《青色申告》に規定する青色申告の承認が受けられる所得に該当しないところ、本件のように譲渡所得について誤りがあったことのみに基因する更正については、同法第155条《青色申告書に係る更正》第2項に規定する青色申告書に係る更正に当たらず、その通知書に更正の理由を付記する必要はないから、請求人の主張は失当である。
(B) 異議申立てをしてから3か月を経過するまでに、その決定を行わなければならないとの法令上の規定はない。
 また、通則法第111条第1項の規定による教示がなかったとしても、このことによって、本件更正が違法となるものではない。
B 有価証券の譲渡に係る所得区分について
(A) 所得税法(昭和63年法律第75号による改正前のもの。以下第9条について同じ。)第9条《非課税所得》第1項第11号イにおいて、継続して有価証券を売買することによる所得は、非課税所得から除くとされ、また、措置法第37条の10第1項第1号の本書及び措置法施行令第25条の8の規定により、同一銘柄の株式を20万株以上譲渡した場合の所得は譲渡による所得とされている。ただし、措置法第37条の10第1項第1号のかっこ書では、所得税法第9条第1項第11号イからニまでに掲げる所得は、譲渡による所得から除かれている。
(B) ところで、請求人の全株式の売買取引(以下「全株式取引」という。)に係る資金繰り、取引を行うための施設、売買の回数、態様等は次のとおりである。
a 請求人は、○○株式会社からの給与等経常的に発生する収入により生計を立てていること。
b 全株式取引の資金は、土地の譲渡代金が中心であること。
c 請求人は全株式取引を行うについて、何らの人的物的設備を有していないこと。
d 取引証券会社は○○証券P支店、B証券P支店、△△証券P支店及び××証券本店の計4社であること。
e 全株式取引の取引態様別の取引回数は、買い22回、売り15回の合計37回であること。
f 全株式取引の取引態様別の株数及び金額は次表のとおりであること。

 

区分
取引態様
買い 売り
株数 金額 株数 金額
現物取引
3,430,000

6,517,374,073

3,332,000

5,905,847,333

 

g 全株式取引及び本件株式取引における株式の最高保有期間は77日、最低保有期間は4日であること。
h 全株式取引及び本件株式取引において、指値及び指値の変更を行っていること。
i 全株式取引及び本件株式取引において、株式の名義書換えは行っていないこと。
j 請求人は、本件株式の譲渡を次表のとおり行っていること。

 

区分
 
銘柄
現物取引
買い 売り
約定日 株数 約定日 株数
A社 62.8.12 100,000株 62.9.26 100,000株
62.9.28 99,000 62.10.19 31,000
62.12.2 1,000 62.10.19 68,000
    62.12.10 1,000
小計   200,000   200,000
C社 62.10.14 199,000 62.10.21 199,000
62.12.2 1,000 62.12.10 1,000
小計   200,000   200,000
D社 62.10.14 199,000 62.10.20 74,000
62.12.2 1,000 62.10.21 125,000
    62.12.10 1,000
小計   200,000   200,000
E社 62.10.15 199,000 62.10.21 199,000
62.12.2 1,000 62.12.10 1,000
小計   200,000   200,000
F社 62.10.23 199,000 62.10.26 199,000
62.12.2 1,000 62.12.10 1,000
小計   200,000   200,000
G社 62.10.15 35,000 62.10.21 199,000
62.10.15 164,000 62.12.10 1,000
62.12.2 1,000    
小計   200,000   200,000
H社 62.10.22 199,000 62.10.26 18,000
62.12.2 1,000 62.10.26 49,000
    62.10.26 26,000
    62.10.26 23,000
    62.10.26 10,000
    62.10.26 73,000
    62.12.10 1,000
小計   200,000   200,000
J社 62.10.22 199,000 62.10.26 169,000
62.12.2 1,000 62.10.26 30,000
    62.12.10 1,000
小計   200,000   200,000
K社 62.10.29 52,000 62.11.11 17,000
62.10.29 31,000 62.11.12 182,000
62.10.29 2,000 62.12.10 1,000
62.10.29 1,000    
62.10.29 14,000    
62.10.30 99,000    
62.12.2 1,000    
小計   200,000   200,000
L社 62.10.23 100,000 62.10.26 88,000
62.12.2 41,000 62.10.26 12,000
62.12.2 59,000 62.12.10 90,000
    62.12.10 10,000
小計   200,000   200,000
M社 62.10.14 100,000 62.10.20 100,000
62.12.2 100,000 62.12.10 27,000
    62.12.23 7,000
    62.12.23 65,000
    62.12.23 1,000
小計   200,000   200,000
合計   2,200,000   2,200,000

 

k 本件株式の譲渡の銘柄別取引回数は次表のとおりであること。

 

(単位:回)
区分
銘柄
現物取引
買い 売り
A社 3 3
C社 2 2
D社 2 3
E社 2 2
G社 2 2
F社 2 2
H社 2 2
J社 2 2
L社 2 2
K社 3 3
M社 2 3
合計 24 26

 

l 本件株式の譲渡の銘柄別の保有期間は次表のとおりであること。

 

区分
銘柄
株数 売却年月日 買入年月日 保有期間
A社 100,000株 62.9.26 62.8.12 46日
99,000 62.10.19 62.9.28 22
1,000 62.12.10 62.12.2 9
C社 199,000 62.10.21 62.10.14 8
1,000 62.12.10 62.12.2 9
D社 74,000 62.10.20 62.10.14 7
125,000 62.10.21 62.10.14 8
1,000 62.12.10 62.12.2 9
E社 199,000 62.10.21 62.10.15 7
1,000 62.12.10 62.12.2 9
G社 199,000 62.10.21 62.10.15 7
1,000 62.12.10 62.12.2 9
F社 199,000 62.10.26 62.10.23 4
1,000 62.12.10 62.12.2 9
H社 199,000 62.10.26 62.10.22 5
1,000 62.12.10 62.12.2 9
J社 199,000 62.10.26 62.10.22 5
1,000 62.12.10 62.12.2 9
L社 100,000 62.10.26 62.10.23 4
1,000 62.12.10 62.12.2 9
K社 17,000 62.11.11 62.10.29 14
83,000 62.11.12 62.10.29 15
99,000 62.11.12 62.10.30 14
1,000 62.12.10 62.12.2 9
M社 100,000 62.10.20 62.10.14 7
27,000 62.12.10 62.12.2 9
73,000 62.12.23 62.12.2 22

 

m 本件株式の譲渡の銘柄別の取引金額は次表のとおりであること。

 

(単位:円)
区分
銘柄
現物取引
買い 売り
A社 538,219,175 518,472,720
C社 498,977,920 422,593,150
D社 131,353,538 106,173,336
E社 310,574,200 234,006,060
G社 320,274,200 244,009,420
F社 136,169,450 119,822,861
H社 198,577,920 197,584,494
J社 174,477,760 164,584,825
L社 317,648,180 294,208,550
K社 305,535,900 229,988,910
M社 717,857,000 635,193,690
合計 3,649,635,243 3,166,638,016

 

(C) 以上のことから、請求人の昭和62年中に行った全株式取引の状況は、次のとおりと認められる。
a 全株式取引のうち、請求人が総合課税の短期譲渡所得とした本件株式の売買は、1一般に投機性が強いとされる信用取引であること、2株式の所有期間が短いこと、3売買回数が多いこと、4売買の約定日ごとにみると、同一日に同一銘柄を数回に分けて売られており、その売買が継続的かつ計画的であること等からすれば、本件株式の売買は、信用取引を中心として短期間に売買差益を得ること、すなわち、営利を目的として継続的に行われたものであることが認められる。
b また、請求人の全株式取引の売買回数は43回であり、かつ、総売買株数も3,645,000株という多量の取引数量であるところから、全株式取引は、営利を目的として継続的に行われたものであると認められる。
(D) そうすると、請求人の行った全株式取引及び本件株式の売買は、所得税法第33条第2項に規定する「営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡」に該当するところ、同条の譲渡所得に当たらず、また、請求人の職務、人的・物的設備、資金繰りなどに照らしてみれば、社会通念上いまだ事業とは認められず、同法第35条《雑所得》に規定する雑所得とすべきであるから、当該所得金額の計算上生じた損失額は、同法第69条《損益通算》第1項の規定により、他の各種所得の金額と損益通算することはできない。
C したがって、請求人の課税総所得金額及び措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》に規定する課税長期譲渡所得金額は次表のとおりとなり、それぞれ本件更正と同額となるから、本件更正に違法はない。

 

(単位:円)
項目 金額
課税総所得金額 2,786,000
課税長期譲渡所得金額 1,150,894,000

 

ロ 本件賦課決定について
 以上のとおり、更正は適法に行われており、かつ、請求人には、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてした本件賦課決定は適法である。
ハ 更正の請求について
 請求人の場合、更正の請求を提出することができる期間は、通則法第23条《更正の請求》第1項の規定により法定申告期間である昭和63年3月15日から1年以内(以下「法定期間内」という。)の平成元年3月15日までであるから、請求人から平成元年5月15日に提出された本件更正の請求は、その期限を徒過した不適法なものと認められる。
 したがって、更正をすべき理由がないとした本件通知処分は適法である。

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3 判断

(1) 更正に係る審査請求の利益について

 本件更正の後に本件修正申告をしたことによって、本件更正に対する審査請求の利益が失われたか否かにつき、まず審理する。
イ 請求人は、本件更正に対して異議申立てをし、当該異議申立てに係る決定の前に本件修正申告をしているが、当該修正申告は、措置法第37条の2第2項の規定に基づいてなされたものであることが認められる。
 また、本件更正の後に提出された本件修正申告書は通則法第19条第4項の規定に従った適式なものであること並びに本件修正申告に係る課税標準及び税額が、いずれも本件更正に係るこれらの額を上回っていることが認められる。
ロ 一般に、更正は税務官庁により、修正申告は納税者により、それぞれ行われる別個独立の行為であるところ、いずれも既に成立した一個の租税債務ないしは納税義務をその正当な数額に具体化するための行為であり、具体的にはそれぞれ課税標準等又はこれに基づく税額等を全体として、確認する行為であって、更正の後に修正申告があった場合は、行為それ自体は先行更正によって確定されなかった税額等の脱漏部分だけを追加確認する行為ではなく、先行する更正に係る税額等を含めて全体としての税額を確認する行為と解されている。
 すなわち、申告納税方式をとる所得税にあっては、納付すべき税額は、納税者の申告があれば、特に税務署長において更正する場合を除き、その申告によって確定し、納税者は申告に係る税額を負担することとなり、このことは、先になされた申告税額等を増額してなされる修正申告にもそのまま妥当し、修正申告がなされた場合、納付すべき税額は修正申告によって増額された部分を含む申告額全体が即時に確定するものと解されている。
 そうすると、更正の後にその処分に係る課税標準等又は税額等を上回る適式な修正申告書が提出された場合には、その法的効果として、修正申告前になされた当該更正により一応確定していた税額等はこれに吸収されて一体のものとなり、当該更正は独立の存在を失い、当該修正申告書に記載された額に修正され確定するものと解すべきであり、したがって、当該更正に対して異議申立て等の不服申立てがなされていても、当該更正の後に修正申告書の提出があった場合には、当該更正の取消しを求める不服申立ての利益はなくなるものといわなければならない。
 このことは、措置法第37条の2第2項の規定による修正申告の場合においても同様に解すべきである。すなわち、措置法第37条の2第2項の規定による修正申告も、「同条同項に規定する提出期限内に提出された修正申告書が期限内申告書とみなされる」点を除いては、通則法第19条の規定による修正申告の場合と異なるところがなく、措置法第37条の2第2項の規定による修正申告であることを理由として当該修正申告書の提出によって更正がそれに吸収されないと解するいわれはなく、したがって、当該更正に対して異議申立て等の不服申立てがなされていても、当該更正の後に措置法第37条の2第2項の規定による修正申告があった場合には、同様に、当該更正の取消しを求める不服申立ての利益はなくなるものと解するのが相当である。
ハ 以上のことを本件についてみると、請求人が本件修正申告をしたことにより、本件更正の取消しを求める審査請求の利益は失われたものとなることから、本件審査請求は不適法なものである。
ニ なお、請求人は、本件修正申告書の「修正前の課税額」欄に、本件当初申告書に記載した額を記載すると、措置法第37条の2第2項の規定に基づく修正事項に係る納税額を正確に算出することができず、この場合に生じる納税不足額には、延滞税が賦課され、その経済的負担は請求人が負うこととなる旨主張する。
 しかしながら、措置法第37条の2第2項の規定に基づいて提出されるべき修正申告書に係る延滞税の計算期間の起算日は、同条に規定する修正申告書の提出期限内にそれを提出した場合においても、また、これを提出しないで税務署長の更正を受ける場合においても、等しく同条同項に規定する「修正申告書の提出期限」の翌日とされることから、同項による修正申告書が提出されている場合であると否とによって異なるところはない。そして、修正申告書の提出に当たって、納税者が不服申立てにおいて取消しを求める金額を減額して納付すべき税額を算出する場合、すなわち、請求人の主張するような場合でも、その後になされるであろう更正において増額される納付すべき税額の部分について課される延滞税を納付しなければならないかどうかは、結局のところ、請求人の主張に理由があるか否かによって定まるのであって、請求人がした修正申告が本来あるべき納付すべき税額に足りないものであれば、これにつき延滞税が課されることがあってもやむを得ないものである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 本件賦課決定について

 本件過少申告加算税は本件更正に基づく納付すべき税額を課税標準として賦課されているものであるところ、上記のとおり、本件更正に係る税額等はその後になされた本件修正申告に係る税額等に吸収され独立の存在を失ってはいるものの、本件修正申告に係る税額等の一部として適法に確定しており、また、請求人には、確定申告の税額を計算するに当たり、原処分庁が過少申告加算税の基礎とした税額に係る事実を確定申告の税額の計算の基礎としなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてした本件賦課決定は適法である。

(3) 更正の請求について

 請求人は、本件修正申告に係る税額等を本件更正の請求に係る税額等に減額すべきである旨主張する。
 ところで、措置法第37条の2第2項の規定によれば、買換資産の取得価額が当初の見積額より過大となったときは、当該買換資産の取得をした日から4か月以内に更正の請求をすることができる旨規定されているところ、本件更正の請求は、買換資産の取得価額に係る見積額と何ら関係のないものであるから、同条同項の規定は適用されないこととなる。
 また、通則法第23条第1項の規定によれば、本件更正の請求が適法であるためには、法定期間内の平成元年3月15日までにしなければならないところ、本件更正の請求は、当該法定期間経過後の平成元年5月15日になされていることが認められるから、同条同項の規定は適用されないこととなる。
 更に、通則法第23条第2項の規定によれば、1その申告(本件の場合は本件修正申告、以下同じ。)に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき、2その申告に係る課税標準等又は税額等の計算に当たってその申告をした者に帰属するものとされていた所得その他課税物件が他の者に帰属するものとする当該他の者に係る国税の更正又は決定があったとき、3その他当該国税の法定申告期限後に生じた上記1及び2に類する政令で定めるやむを得ない理由があるときに限って更正の請求をすることができるところ、当審判所の調査によれば、請求人には、上記1又は2に該当する事由があるとは認められず、かつ、当該1又は2に類するやむを得ない理由に該当するとはいえないものと認められるから、同条同項の規定は適用されないこととなる。
 したがって、原処分庁が本件更正の請求に対し、更正をすべき理由がないとした本件通知処分は適法であり、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(4) その他

 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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