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(平18.12.15、裁決事例集No.72 218頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が行った平成15年分の贈与税の更正の請求に対してされた平成17年7月8日付の更正処分並びに同年12月9日付でされた平成15年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分について、違法を理由にその全部の取消しが求められた事案であり、争点は、住宅ローン契約において、連帯債務者の間で請求人の負担割合を零とする合意(特約)があったか否か並びに団体信用生命保険契約(以下「団信保険契約」という。)により、被保険者の死亡を事由に支払われた保険金が住宅ローンの債務に充当され、債務全額が消滅した場合の被保険者以外の連帯債務者に係る債務の消滅部分に対する課税の適否及び所得区分である。

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(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成15年分の贈与税について、別表1の「申告」欄のとおり記載した申告書を法定申告期限までに提出した。
ロ その後、請求人は、平成15年分の贈与税については、負担付贈与であったとして、平成17年3月2日に別表1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求をした。
ハ これに対し、原処分庁は、平成17年7月8日付で別表1の「更正の請求に対する更正処分」欄のとおりとする更正処分(以下「本件贈与税更正処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件贈与税更正処分を不服として、平成17年8月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年11月24日付で棄却の異議決定をしたことから、同年12月20日に審査請求をした。
ホ 請求人は、平成15年分の所得税について、別表2の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書を法定申告期限までに提出した。
ヘ 原処分庁は、平成17年12月9日付で請求人に対し、借入金の債務免除を受けたときは一時所得に該当することを理由として、別表2の「更正処分等」欄のとおりとする更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、これらを併せて「本件所得税更正処分等」という。)をした。
ト 請求人は、本件所得税更正処分等を不服として、平成18年2月10日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年4月25日付で棄却の異議決定をしたことから、同年5月12日に審査請求をした。
チ 上記ニ及びトの各審査請求は、併合して審理された。

(3) 関係法令等

イ 相続税法第7条は、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があった時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があった時における当該財産の時価との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与により取得したものとみなす旨規定している。
ロ 相続税法基本通達21の2−4《負担付贈与の課税価格》は、負担付贈与に係る贈与財産の価額は、負担がないものとした場合における当該贈与財産の価額から当該負担額を控除した価額によるものとする旨定めている。
ハ 「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について」(平成元年3月29日付直評5、直資2−204国税庁長官通達。以下「負担付贈与通達」という。)は、土地及び土地の上に存する権利(以下「土地等」という。)並びに家屋及びその附属設備又は構築物(以下「家屋等」という。)のうち、負担付贈与又は個人間の対価を伴う取引により取得したものの価額は、当該取得時における通常の取引価額に相当する金額によって評価する旨定め、ただし書きにおいて、贈与者又は譲渡者が取得又は新築した当該土地等又は当該家屋等に係る取得価額が当該課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該取得価額に相当する金額によって評価することができる旨定めている。なお、当該通達は、注書きにおいて、「取得価額」とは、当該財産の取得に要した金額並びに改良費及び設備費の額の合計額をいい、家屋等については、当該合計金額から、財産評価基本通達130《償却費の額等の計算》の定めによって計算した当該取得の時から課税時期までの期間の償却費の額の合計額又は減価の額を控除した金額をいう旨定めている。
ニ 所得税法第34条《一時所得》第1項は、一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう旨規定し、同条第2項は、一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため、又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し、その残額から一時所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定している。

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(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人の父Eは、平成3年6月21日にF社との間で、同社が所有するP市Q町○−○の土地(以下「本件土地」という。)を97,449,000円で譲り受ける旨の売買契約を締結した。
ロ E及び請求人(以下「請求人ら」という。)は、平成3年7月17日にG銀行H支店との間で、請求人らを連帯債務者として住宅ローン契約(ローン口座番号○○○○、同○○○○)を(以下「本件ローン契約」といい、同契約に係る契約書を「本件ローン契約書」という。)締結し、70,000,000円を借り受けた。
 なお、本件ロ−ン契約書には、連帯債務者である請求人らの負担割合に関する定めはない。
ハ G銀行は、平成3年7月17日にJ生命保険相互会社(以下「J生命」という。)を幹事会社とし、G銀行を保険契約者兼保険金受取人、Eを被保険者とする内容で団信保険契約(以下「本件団信保険契約」という。)に加入した。
ニ 本件土地は、平成3年7月17日に売買を原因として、共有者及び持分をそれぞれE10分の5、同人の妻K10分の3及び請求人10分の2とする所有権移転登記が経由された。
ホ Eは、本件土地上に建物(家屋番号○○。以下「本件建物」という。)を新築し、平成6年2月1日に平成5年1月22日新築を原因として、所有権保存登記を経由した。
ヘ 請求人らは、平成15年5月22日に要旨以下の内容の負担付贈与契約(以下「本件負担付贈与契約」という。)を締結した。
(イ) Eは、本件土地の持分10分の5及び本件建物(以下、これらを併せて「本件贈与物件」という。)を請求人に贈与する(第1条)。
(ロ) 請求人は、本件贈与物件の贈与を受けた負担として、Eの債務(G銀行H支店の住宅ローン債務)45,507,162円(以下「本件ローン債務残高」という。)の返済義務を負う(第3条)。
(ハ) Eは、本件贈与物件の時価と本件ロ−ン債務残高との差額○○○○円(以下「本件清算金」という。)を請求人に支払う(第3条)。
ト Eは、本件清算金を平成15年5月23日にL銀行M支店の○○食品E名義の当座預金口座(口座番号○○○○)から出金し、同日、N銀行R支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)に振り込んだ。
チ 請求人は、本件贈与物件について、平成15年5月22日贈与を原因として、所有権移転登記を経由した。
リ Eは、平成15年6月○日に死亡した。同時点における本件ローン契約の残債務は、○○○○円(以下「本件債務」という。)であった。
ヌ Eの相続人である請求人は、○○家庭裁判所に相続放棄の申述をし、同裁判所は、平成15年10月○日にこれを受理した。

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2 主張

(1) 争点1 本件ローン契約において、連帯債務者の間で請求人の負担割合を零とする合意(特約)があったか否か。

請求人 原処分庁
 連帯債務者間の負担割合は、第一に特約があればそれにより定まり、特約がない場合に受益割合に従うとされている。本件においては、請求人らの連帯債務の割合は、以下のとおり、それぞれEが10分の10、請求人が10分の零であるとする暗黙の合意(特約)があったものといえる。
イ Eは、G銀行と本件ローン契約を締結する際、既に○歳と高齢で、長期融資が難しい状況であったため、G銀行のロ−ン担当者から二世代ロ−ンの方法を教示され、請求人を形式上の従たる債務者として融資申込みを行った結果、Eに対して本件ローン契約が締結された。
 したがって、本件ローン契約については、請求人は単なる名義人にすぎず、必然的に、その全部がEの債務であることは明白である。
ロ このことは、1本件ロ−ン契約による借入金は、Eの口座に全額振り込まれていること、2その返済は、約12年間にわたってEの口座から引き落とされ、請求人は、一切返済していないこと、3請求人らは、本件負担付贈与契約時において、本件ローン債務残高の全額の返済義務がEにあると認識していたこと、4Eの死亡により本件団信保険契約で清算された本件債務は、Eの相続人であるKが相続し、請求人は、当該金額の全額を返済することを確約していることからも明らかである。
 連帯債務者間の負担割合は、債務者間の特約又は連帯債務を負担することによって受ける利益の割合によって定まり、これら特別の事情がないときは平等の割合になると解されているが、本件においては合意(特約)はなく、以下のとおり各債務者の受ける利益の割合が定まっている。
イ 本件においては、1本件ローン契約書に請求人らが連帯債務を負う旨が記載されていること、2本件ローン契約に係る融資が実行された平成3年7月17日に連帯債務者を請求人らとする抵当権が設定されていること、3本件土地の残金決済も同日付で行われていることからすると、請求人らは、本件ローン契約により連帯債務を負ったと認められる。
ロ 本件ロ−ン契約に係る請求人らの連帯債務の割合は、具体的に定められていないが、請求人らは、本件ロ−ン契約により連帯債務を負担することにより、それぞれ本件土地の持分10分の5と10分の2を取得することとなるから、当該持分の割合(受ける利益の割合)により定めるのが相当である。
 そうすると、本件負担付贈与契約により請求人が負担すべきEの債務の額は、本件ローン債務残高に、本件土地の持分10分の5と10分の2の合計に占めるEの持分10分の5の割合を乗じて計算した額32,505,116円となる。

(2) 争点2 団信保険契約により、被保険者の死亡を事由に支払われた保険金が住宅ローンの債務に充当され、債務全額が消滅した場合の被保険者以外の連帯債務者に係る債務の消滅部分に対する課税の適否及び所得区分。

請求人 原処分庁
 平成15年6月○日にEが死亡したため、本件団信保険契約により、本件ローン契約に係る債務は消滅したが、上記(1)のとおり、請求人が負担すべき債務は一切存在しないから、請求人は、このことに関して経済的利益は全くないというべきであり、一時所得は発生しない。  上記(1)のとおり、請求人には負担すべき債務があり、また、団体信用生命保険制度は、死亡事故を基因として、死亡時における賦払償還債務相当額の保険金が保険会社から債権者である金融機関に対して直接支払われるものであり、債務者が一旦保険金を受領し、これを債務の返済に充てるものではないから、当該債務の消滅は、債務の返済によるものではなく、金融機関から債務免除を受けたものと解される。
 そして、当該債務が連帯債務である場合には、所得税の課税上、被保険者を除く各連帯債務者が実質的に債務を負っている部分について、債務免除を受けたことによる経済的利益(債務免除益)が生じたものとみるのが相当である。
 そうすると、請求人がG銀行から受けた債務免除益相当額は、本件債務に、本件土地の持分10分の5と10分の2の合計に占める請求人の持分10分の2の割合を乗じて計算した額○○○○円となり、これは、法人からの贈与により取得したものであるから、一時所得に該当する。

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3 判断

(1) 争点1 本件ローン契約において、連帯債務者の間で請求人の負担割合を零とする合意(特約)があったか否か。

イ 法令解釈等
(イ) 連帯債務とは、数人の債務者が同一内容の給付について、各自が独立に全部の給付をすべき債務を負担し、しかも、そのうちの1人の給付があれば他の債務者の債務もすべて消滅する多数当事者の債務をいうものとされている。
 また、連帯債務者は、債権者に対し、各自独立に全額の弁済義務を負うが、連帯債務者間の負担部分は、固定的な一定額ではなく、一定の割合であり、その割合は、債務者間に特約がある場合には、当該特約によって、特約がなければ連帯債務の成立により、各債務者が実際に受けた利益の割合によって、それぞれ定まり、特約がなく、かつ、受けた利益の割合が明らかでない場合には、各自平等の割合になると解されている。
(ロ) 相続税法第7条は、上記1の(3)のイのとおり規定しているところ、これは、財産の移転が贈与という法律行為に該当すれば贈与税が課されることを予想して、有償で、しかも僅少の対価をもって財産の移転を図ることによって贈与税の租税回避を図るとともに、相続財産の生前処分による相続税の負担を軽減させることを防止する目的をもって定められたものと解される。
(ハ) 負担付贈与通達は、土地等及び家屋等のうち、負担付贈与により取得したものの価額は、当該取得時における通常の取引価額に相当する金額によって評価する旨定めている。
 これは、負担付贈与の場合は、一般の相続や遺贈のような偶発的な無償取得の場合とは異なり、財産の移転が、自由な取引として、かつ、対象とする財産の時価を認識した上で、双方の合意に基づいてできることから、通常の取引価額を認識した上での経済取引と同一視できることにかんがみ、贈与税の課税に当たっては、評価上の安全性に配慮した路線価方式等による相続税評価額をそのまま適用することは適切でなく、通常の取引価額によって評価することとしたものと解される。
 このような負担付贈与通達の定めは、上記(ロ)の相続税法第7条の立法趣旨に合致するものであるから、当審判所も、同条に規定する時価の解釈として相当であると認める。
(ニ) そして、負担付贈与通達でいう通常の取引価額、いわゆる時価とは、一般に当該資産につき不特定多数の当事者における自由な取引において通常成立すると認められる取引価額、すなわち、客観的交換価値をいうものと解される。
 したがって、贈与税の課税に当たっては、贈与があったとされる当時における当該課税の対象となる資産の現況を考慮し、最も合理的かつ適切な評価方法により当時の時価を見いだすべきである。
A 本件土地の時価の評価
 公示価格とは、一般の土地の取引価格に対しての指標として、地価公示法(平成16年法律第66号による改正前のもの。以下同じ。)第2条《標準地の価格の判定等》の規定に基づき、土地鑑定委員会が毎年1回、都市計画区域内の標準地について、2人以上の不動産鑑定士等の鑑定評価を求め、その結果を審査し、必要な調整を行って判定されたものであり、また、不動産鑑定士等が鑑定評価を行う場合においては、公示価格を規準としなければならないとされている(同法第8条)ことなどからすれば、自由な取引が行われるとした場合に通常成立すると認められる価格、すなわち客観的な交換価値をいうものと解される。
 したがって、本件土地の評価は、公示価格に基づいて算出する方法が、最も合理的かつ適切な評価方法と認めるのが相当である。
B 本件建物の時価の評価
 本件建物は、平成5年1月22日に新築されたものであるところ、評価の対象となる建物が中古物件の場合には、近隣の取引事例の把握が困難な場合が多いことにかんがみ、再建築価格(評価の対象となった建物と同一のものを、評価の時点においてその場所に新築するものとした場合に必要とされる建築費)を基準として、これに建物の建築時からその経過年数に応じ減価又は償却費の額を控除して評価する方法も客観的な交換価値を算出するための方法の一つであると解される。
 したがって、本件建物の評価は、再建築価格に基づいて算出する方法が最も合理的かつ適切な評価方法であると認めるのが相当である。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる(なお、認定に用いた資料は文末括弧内に記載したものである。)。
(イ) Eは、本件土地の売買において、契約手付金として平成3年6月21日に9,700,000円を、また、同年7月17日に契約の中間金及び決済金として合計87,749,000円をそれぞれF社に支払った(平成3年6月21日付及び同年7月17日付の領収証)。
 本件土地の購入代金97,449,000円、仲介手数料3,000,000円及び登記費用1,030,500円の合計101,479,500円と本件ローン契約で借り受けた70,000,000円との差額金は、Eが支払い、請求人は出捐していない(平成18年8月8日の請求人の答述)。
(ロ) 本件ローン契約書に記載されている請求人の署名は、請求人自身の筆跡である(平成18年8月8日の請求人の答述)。
(ハ) G銀行の住宅ローンの決済口座は、当該契約者が契約書の決済科目欄に記載した口座であり、連帯債務の場合であっても指定できる口座は1口座に限られる(平成18年9月6日のG銀行H支店支店長代理の答述)。
(ニ) 請求人らは、本件ローン契約の決済口座をG銀行H支店のE名義の普通預金口座(口座番号○○○○)に指定し、毎月の返済日を27日とした(本件ローン契約書)。
(ホ) 借入当初の「G銀行ローンご明細書」の写しには、本件ローン契約に係る返済等について次のような記載がある(原処分関係資料)。
「A 10,000,000+60,000,000+30,000,000=100,000,000
 B 69,922+419,529+210,549=700,000 返済・利息
 C 第1回 144,000 96,000
 D 第2回より K210,000 請求人140,000」
(ヘ) 平成7年1月から平成9年6月末まで(ただし、平成8年10月、11月及び平成9年4月、5月を除く。平成7年1月より前のものは確認できない。)の間、毎月25日前後に、請求人名義のG銀行H支店の普通預金口座(口座番号○○○○)からE名義の同支店の普通預金口座(口座番号○○○○)に140,000円が送金されている(普通預金元帳の写し)。
(ト) 本件土地の地目は宅地、面積は97.63平方メートル、間口は5.4メートル、奥行は18.08メートル、平成15年の路線価は230,000円、地区区分は普通住宅地区、利用区分は自用地である(登記事項証明書、地積測量図、平成15年分財産評価基準書路線価図)。
(チ) 本件建物の構造は、鉄骨造陸屋根3階建、合計床面積は214.36平方メートルであり、使用されている骨格材の肉厚は4ミリメートル以上である。その取得費は、Eが既に死亡しており、当初建築を依頼した工務店も倒産したため不明である(登記事項証明書、本件建物の設計会社の代表取締役に対する電話聴取書、請求人の答述)。
ハ 判断
(イ) 上記1の(4)のロのとおり、本件ローン契約には、連帯債務者である請求人らの負担割合に関する定めはなく、また、請求人は、当審判所に対し、連帯債務に関する負担割合について合意(特約)があったことを証する書類はない旨答述するところ、当審判所の調査によっても、請求人の連帯債務の負担割合を零とすべき合意(特約)を認めるに足る証拠はない。
 そして、上記1の(4)のイ及びロ並びに上記ロの(イ)によれば、本件ローン契約に係る借入金はすべて、平成3年6月21日に締結した本件土地の売買契約に係る売買代金として、同年7月17日にF社に支払われ、その結果、請求人ら及びKは、上記1の(4)のニのとおり、本件土地の持分をそれぞれ取得したことが認められる。また、上記1の(4)のロ及び上記ロの(ロ)によれば、請求人は、本件ローン契約の締結時点において、連帯債務者となることを了解していたことが認められる。さらに、上記ロの(ホ)の記載内容は、それが記載されている用紙及び記載内容からみて、請求人らが、本件土地の取得に要した金額及び本件土地に対する各持分に応じた月々のローン返済金額を記載したものと認められるところ、上記ロの(ヘ)によれば、請求人は、少なくとも平成7年1月から平成9年6月までの間、自ら負担すべき金額140,000円を毎月E名義の口座に送金していたものと認められる。
 以上によれば、Eと請求人との間で請求人の負担割合を零とする合意があったとは認められず、むしろ、請求人らは、本件ローン契約を締結するとともに請求人が本件土地の持分を取得した平成3年7月17日までには、本件土地の取得に関し、それぞれが実際に受ける利益の割合である本件土地の持分10分の5と10分の2に相当する負担割合で連帯債務を負うことを認識していたと認めるのが相当である。
 そうすると、本件負担付贈与契約により請求人が負担すべきEの債務の額は、本件ローン債務残高に、本件土地に対する請求人らの持分である10分の5と10分の2の合計に占めるEの持分10分の5の割合を乗じて計算した32,505,l16円となる。
(ロ) 請求人は、1本件ロ−ン契約による借入金はEの口座に全額振り込まれていること、2その返済は、約12年間にわたってEの口座から引き落とされ、請求人は一切返済していないことから、本件ローン契約における連帯債務について請求人の負担を零とする暗黙の合意(特約)があり、請求人らの連帯債務の割合は、それぞれEが10分の10、請求人が10分の零である旨主張し、請求人の平成18年8月8日の当審判所に対する答述中には、これに沿う部分がある。
 しかしながら、上記ロの(ハ)及び(ニ)のとおり、G銀行の住宅ローンの決済口座は、連帯債務の場合であっても指定できる口座は1口座に限られ、本件ローン契約締結時に、請求人らが当該ローンの決済口座をE名義の普通預金口座(口座番号○○○○)に指定していることからすれば、E名義の口座に借入金が入金され、当該借入金の返済が当該口座から引き落とされることは当然である。そうすると、これらの事実をもって、請求人の主張する暗黙の合意(特約)の存在を裏付ける証拠とはなり得ない。また、上記(イ)で示したとおり、請求人らは、それぞれが実際に受ける利益の割合である本件土地の持分10分の5と10分の2に相当する負担割合で連帯債務を負うことを認識していたと認められる。これらによれば、請求人の上記答述は、にわかに信用することができず、他に請求人の主張を裏付ける証拠はない。
 したがって、請求人の上記主張はいずれも採用できない。
(ハ) また、請求人は、本件負担付贈与契約時において当事者は、本件ローン債務残高全額の返済義務がEにあると認識していたことから、本件ローン契約における連帯債務について請求人の負担を零とする暗黙の合意(特約)があり、請求人らの連帯債務の割合は、それぞれEが10分の10、請求人が10分の零である旨主張する。なるほど、本件負担付贈与契約第3条には、請求人は、本件贈与物件の贈与を受けた負担として、Eの債務(G銀行H支店の住宅ローン債務)45,507,162円の返済義務を負う旨の記載がある。
 しかしながら、上記ロの(イ)の認定事実からすれば、請求人らは、本件土地の持分10分の5と10分の2に相当する負担割合で連帯債務を負うことを認識していたと認められる。本件負担付贈与契約第3条の規定は、このことを前提に、負担付贈与後は請求人が本件ローン債務残高全額の支払義務を負うことを確認したものにすぎないとみるべきであるから、同契約第3条の記載をもって、当初から本件ローン契約における連帯債務について請求人の負担を零とする暗黙の合意(特約)があったと認めることはできない。そして、他に請求人の主張を裏付ける証拠はない。
 したがって、請求人の上記主張は採用できない。
(ニ) さらに、請求人は、Eの死亡により本件団信保険契約により清算された本件債務は、平成16年3月15日付の「確約書」と題する書面により、Eの相続人であるKが相続し、請求人は、同金額を全額返済することを確約していることからも、請求人の負担割合は零である旨主張する。
 しかしながら、上記(ハ)のとおり、請求人は、本件負担付贈与契約により本件ローン債務残高全額の支払義務を負うこととなっているところ、上記「確約書」は、この支払義務を前提として、本件団信保険契約により本件債務が清算されたことにより、Kが本件債務について請求人に対する債権を取得したことを、請求人とKとの間で確認したものにすぎないとみるべきであるから、当該書面があることをもって、本件ローン契約における連帯債務について、当初から請求人の負担割合が零であったことを証する証拠とはなり得ない。
 したがって、請求人の上記主張は採用できない。
(ホ) 本件土地及び本件建物の評価について
 請求人及び原処分庁は、本件土地及び本件建物の評価について、路線価方式による相続税評価額等を基に、それぞれ別表3の「更正の請求額」欄及び「異議決定額」欄のとおり主張する。
 しかしながら、上記イの(ハ)の法令解釈等で示したとおり、負担付贈与の場合の贈与税の課税に当たっては、評価上の安全性に配慮した路線価方式による相続税評価額等をそのまま適用することは適切でないと解されるから、請求人及び原処分庁が主張する評価方式は、いずれも採用できない。そして、本件土地の評価は公示価格に基づいて算出する方法が、本件建物の評価は再建築価格に基づいて算出する方法が、それぞれ最も合理的かつ適切な評価方法であると認められるから、本件土地及び本件建物を当該方式により評価すると、以下のとおりとなる。
A 本件土地の所在するP市Q町に存する地価公示法の規定に基づく標準地2か所(P市−○、○)の平成15年の公示価格と路線価とをそれぞれ対比し、その平均値を算出したところ、比準倍率の平均値は1.25倍であり、この数値をもって本件土地の時価を算出したところ、12,664,563円となる。
 そして、上記公示価格及び路線価は、平成15年1月1日を基準日としているところ、本件土地の負担付贈与は上記1の(4)のホのとおり、同年5月22日に行われているので、同年1月1日の公示価格と平成16年1月1日の公示価格を対比して対前年比を算出し、それを基に贈与時点である平成15年5月22日までの時点修正を行ったところ、本件土地の時価は別表4のとおり12,375,810円となる。
B 本件建物の時価は、平成15年のS県の鉄骨造、居住専用建築物の1平方メートル当たりの工事費予定額に補正率1.04を乗じて算出した172,600円を採用し、これに合計床面積214.36平方メートルを乗じた金額から、建物の建築時から本件建物の贈与時までの期間の減価の額を控除すると(減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和40年大蔵省令第15号)に規定する、骨格材の肉厚4ミリメートル以上の金属造の建物の耐用年数34年により減価償却を行ったところ)、別表5のとおり18,177,871円となる。
C そうすると、本件贈与物件の負担付贈与に係る請求人の平成15年分の贈与税の課税価格は、別表3の「審判所認定額」欄のとおり、贈与が行われた日における本件贈与物件の時価額30,553,681円(本件土地12,375,810円及び本件建物18,177,871円)及び本件清算金の額○○○○円の合計額から上記ハの(イ)で求めた請求人が負担すべきEの債務の額32,505,116円を控除した○○○○円となり、この金額は、本件贈与税更正処分に係る課税価格を下回るので、本件贈与税更正処分はその一部を取り消すべきである。

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(2) 争点2 団信保険契約により、被保険者の死亡を事由に支払われた保険金が住宅ローンの債務に充当され、債務全額が消滅した場合の被保険者以外の連帯債務者に係る債務の消滅部分に対する課税の適否及び所得区分。

イ 法令解釈
 所得税法第34条に規定する一時所得とは、上記1の(3)のニのとおり、利子所得ないし譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質をもたないものをいう旨規定しているところ、同条第1項が労務その他役務の対価としての性質を有する所得を一時所得から除くこととしているのは、その所得が一時的なものであっても、役務の対価としての性質を有するものである限り、偶発的に発生した所得ではないからであると解される。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる(なお、認定に用いた資料は、文末括弧内に記載したものである。)。
(イ) G銀行は、幹事会社であるJ生命との間で、G銀行を保険契約者兼保険金受取人、G銀行から住宅ローン等の各種ローンを借り入れた賦払債務者を被保険者とし、被保険者が保険期間中に死亡した時などに、J生命が所定の保険金(賦払債務者の死亡時点における残債務相当額)をG銀行に支払い、その保険金をもって被保険者の債務の返済に充当することを目的とした団信保険契約を締結していた(団信保険契約の申込書兼告知書、説明書等)。
(ロ) G銀行との間で住宅ローン契約を締結しようとする契約者(契約者が複数の場合は主債務者1名)は、上記(イ)の団信保険契約に加入することが住宅ローン締結の必須条件となっている(平成18年9月6日のG銀行H支店支店長代理の答述)。
(ハ) 団信保険契約に係る申込書兼告知書は、被保険者の氏名、生年月日、被保険者の健康に関する告知事項等を記載するとともに、「ご契約内容(契約概要)」、「特に重要なお知らせ(注意喚起情報)」の内容を確認・了知した上で、幹事会社であるJ生命あてに提出することとなっている(団信保険契約の申込書兼告知書の写し)。
(ニ) 「ご契約内容(契約概要)」の内容は、要旨以下のとおりである(「団体信用生命保険のご説明」と題する文書の写し)。
A この保険は、G銀行を保険契約者、同行から住宅ローン等の各種ローンを借り入れた賦払債務者を被保険者とする保険契約で、被保険者が保険期間中に死亡した時などに、生命保険会社が所定の保険金(賦払債務者の死亡時点における残債務相当額)をG銀行に支払い、同行は、その保険金をもって被保険者の債務の返済に充当するものであり、J生命を幹事会社とする生命保険契約である。
B 保険期間は、原則として融資の返済期間と同一であり、保険料は、保険契約者が負担する。
C 被保険者が死亡した場合に保険会社から支払われる保険金額は、被保険者の債務金額に応じて定まり、債務の返済に応じて逓減する。なお、保険金額には、保険金の支払事由(被保険者の死亡等)が発生した日の直前の約定返済日時点の債務元本及びその日から保険金が支払われる日までにおける所定の利息が含まれる。
D 保険金は、保険期間中に被保険者が死亡した場合などに支払われる。保険金の受取人は、保険契約者(G銀行)であり、支払われた保険金は、全額被保険者の債務の返済に充当する。
(ホ) 「特に重要なお知らせ(注意喚起情報)」の内容は、要旨以下のとおりである(上記(ニ)の文書の写し)。
A 「申込書兼告知書」による申込みを引受保険会社が承諾した場合、引受保険会社は、「引受保険会社が承諾した日」又は、被保険者が「G銀行から融資を受けられた日」のいずれか遅い日から保険契約上の保障責任を負う。
B 被保険者が、「申込書兼告知書」で事実を告げなかったか、又は事実でないことを告げ、契約が解除された場合及び被保険者が債務を完済した場合等は、保険金は支払われない。
(ヘ) Eは、上記(イ)の団信保険契約に加入するため、幹事会社であるJ生命あてに団信保険契約に係る申込書兼告知書を提出し、同社が当該申込みを承諾したことから、G銀行は、平成3年7月17日に本件団信保険契約に加入した。
(ト) 本件団信保険契約に係る保険料は、債権保全費用としてG銀行が負担していた(平成18年9月6日のG銀行H支店支店長代理の答述、団体信用生命保険普通保険約款)。
(チ) J生命は、Eが平成15年6月○日に死亡したことから、本件団信保険契約に基づき同年7月2日にG銀行に対し、Eが死亡したことに伴う保険金を支払った。
(リ) G銀行は、平成15年7月8日に本件団信保険契約に基づきJ生命から受け取った保険金を本件債務に充当することにより、これを消滅させた。その後、G銀行は、Eの相続人に対して本件債務が消滅したことを通知した(平成18年9月6日のG銀行H支店支店長代理の答述)。
(ヌ) なお、G銀行は、請求人とEとの間で締結された上記1の(4)のへの本件負担付贈与契約を了知していない。
ハ 判断
(イ) 経済的利益の有無
A 上記ロの(ロ)のとおり、当該契約者(契約者が複数の場合は主債務者1名)は、団信保険契約への加入がG銀行の住宅ローン契約を締結するに当たっての必須条件となっていたことが認められ、上記ロの(ハ)及び(ニ)によれば、Eは、団信保険契約が、G銀行を保険契約者兼保険金受取人、Eを被保険者として、同人が死亡した時は、G銀行が受け取る保険金をもって、本件ローン契約に係る債務の返済に充当することを目的としたものであることを了解した上で、当該保険に加入するため、幹事会社であるJ生命あてに団信保険契約に係る申込書兼告知書を提出し、本件団信保険契約に加入したことが認められる。
B ところで、本件負担付贈与契約は、上記1の(4)のへのとおり、本件ローン契約に係る連帯債務者である請求人とEとの間で債務の負担割合を変更する合意であるが、このような合意が連帯債務者間での変更にすぎないか、それとも免責的債務引受に当たるかは、債権者が上記変更を同意したかどうかによって決せられるものと解される。
 これを本件についてみると、上記ロの(ヌ)のとおり、債権者であるG銀行は、本件負担付贈与契約を了知していない。そうすると、本件負担付贈与契約は、免責的債務引受とみることはできず、飽くまでも、請求人らの間におけるローン債務の負担割合を変更したにとどまるものと認められる。したがって、請求人らは、本件負担付贈与契約の締結以後も、本件ローン契約に係る賦払債務の連帯債務者たる地位には、何ら変更は生じなかったものと認められる。
C また、上記ロの(イ)、(ヘ)及び(ト)のとおり、本件団信保険契約は、保険契約者となっているG銀行が保険料を被保険者に転嫁せず全額負担していること、G銀行は保険金を受け取る権利を有しているが、受け取った保険金は、必ず被保険者の債務に充当するとしていること、被保険者は保険料を負担せず、死亡による保険金を受け取る権利を有していないこと並びに本件団信保険契約は、被保険者の債務が完済されれば、保険金は支払われないことが認められるが、これらによれば、本件団信保険契約は、飽くまでもG銀行の確実な債権回収を目的とした保険であると認めるのが相当である。
D 以上によれば、被保険者であるEの死亡により本件団信保険契約に基づく保険金の支払が行われ、本件債務が消滅することによって、請求人をはじめとする相続人が上記死亡時点において受けた、本件債務全額に相当する経済的利益は、連帯債務であるという当該債務の性質により、各連帯債務者間における負担割合に応じて生じると解される。
 原処分庁は、本件債務の消滅は、本件ローン契約に基づく賦払償還債務相当額の保険金が保険会社から債権者であるG銀行に対して直接支払われるものであるから、請求人がG銀行から債務免除を受けたものと解される旨主張する一方、請求人は、自身が負担すべき債務は一切存在しないから、経済的利益は全くない旨主張する。
 しかしながら、上述のとおり、被保険者の死亡時点における本件債務全額に相当する経済的利益は、当該債務の性質により、各連帯債務者間における負担割合に応じて生じるものであって、債務免除によるものではない。また、上記(1)のハの(ハ)及び上記Bによれば、請求人は、被保険者の死亡時点において10分の10の負担割合を有する連帯債務者であったと認められるから、同負担割合に応じた経済的利益を享受したといえる。
 したがって、原処分庁及び請求人の主張は、いずれも採用できない。
(ロ) 請求人が受けた経済的利益の額及び当該経済的利益の所得区分
A 上記1の(4)のへのとおり、請求人は、平成15年5月22日に本件負担付贈与契約を締結したことにより、本件ローン契約に基づく債務全額を負担することになったことから、本件債務の額○○○○円に相当する経済的利益は、請求人がEの死亡により当該死亡時点で受けたものとして、課税関係が生じると認めるのが相当である。
B 上記(イ)及び上記Aを併せ考えれば、請求人が受けた経済的利益の額○○○○円は、営利を目的とする継続的行為から生じたものではない一時的なものであること及び労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質をもたないことは明らかであるから、一時所得に該当するというべきである。
C 以上の結果、一時所得の金額は○○○○円、総所得金額に算入されるべき金額は上記金額の2分の1の○○○○円となるから、この金額の範囲でされた原処分は適法である。

(3) 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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