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(平19.11.29、裁決事例集No.74 88頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、文筆業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、所得税法第90条《変動所得及び臨時所得の平均課税》第1項の規定を適用すれば還付金の額に相当する税額が増加することなどを主な理由として所得税の更正の請求をしたところ、原処分庁が同規定の適用は認められないなどとして行った所得税の更正処分に対し、請求人が同項の規定は適用されるべきであり、原処分は違法であるとして、その一部の取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成17年分の所得税について、次表の「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を平成18年3月15日に提出した。

区分

項目
確定申告 更正の請求 更正処分
年月日 平成18年
3月15日
平成19年
3月15日
平成19年
4月27日
総所得金額 (事業所得の金額)
○○○○

○○○○

○○○○
所得控除の額 794,060 975,260 803,660
還付金の額に相当する税額 ○○○○ ○○○○ ○○○○
平均課税対象金額 ○○○○

ロ 請求人は、本件確定申告書には次の計算誤り等があったとして、平成19年3月15日に上表の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
(イ) 所得税法第90条第1項の規定の適用漏れ
(ロ) 減価償却費の計上漏れ
(ハ) 請求人を納付義務者とする社会保険料の控除漏れ
(ニ) 請求人の父を納付義務者とする社会保険料の控除漏れ
ハ 原処分庁は、本件更正の請求に対し、平成19年4月27日付で、上記ロのうち(ロ)及び(ハ)についてその請求を認め、(イ)及び(ニ)についてはその請求を認めず、上表の更正処分(以下「本件更正処分」という。)を行った。
ニ 請求人は、上記ロの(イ)の所得税法第90条第1項の規定の適用漏れについて、更正の請求を認めるべきであるとして、平成19年6月27日に審査請求をした。

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(3) 関係法令

イ 国税通則法第23条《更正の請求》第1項第3号は、納税申告書を提出した者は、当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書に記載した還付金の額に相当する税額が過少であるときには、当該申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正をすべき旨の請求をすることができる旨規定している。
ロ 所得税法第2条《定義》第1項第23号は、変動所得とは、漁獲から生じる所得、著作権の使用料に係る所得その他の所得で年年の変動の著しいもののうち政令で定めるものをいう旨規定している。
ハ 所得税法施行令第7条の2《変動所得の範囲》は、所得税法第2条第1項第23号に規定する政令で定めるものとは、漁獲若しくはのりの採取から生ずる所得、はまち、まだい、ひらめ、かき、うなぎ、ほたて貝若しくは真珠(真珠貝を含む。)の養殖から生ずる所得、原稿若しくは作曲の報酬に係る所得又は著作権の使用料に係る所得とする旨規定している。
ニ 所得税法第90条第1項は、居住者のその年分の変動所得の金額及び臨時所得の金額の合計額(その年分の変動所得の金額が前年分及び前々年分の変動所得の合計額の2分の1に相当する金額以下である場合には、その年分の臨時所得の金額)がその年分の総所得金額の20%以上である場合には、その者のその年分の課税総所得金額に係る所得税の額は、同項各号に規定する方法により計算した金額の合計額(以下「平均課税による所得税額」という。)となる旨規定している。
ホ 所得税法第90条第4項は、同条第1項の規定は確定申告書に同項の規定の適用を受ける旨及び同条第1項各号に掲げる金額の合計額の計算に関する明細(以下「平均課税の計算明細」という。)の記載がある場合に限り適用する旨規定している。
ヘ 所得税法第90条第5項は、税務署長は、同条第4項の記載がない確定申告書の提出があった場合においても、その記載がなかったことについてやむを得ない事情があると認める場合には、同条第1項の規定を適用することができる旨規定している。

(4) 基礎事実

イ 請求人の平成17年分の総所得金額(本件更正処分後のもの。)は、○○○○円であり、すべて原稿料収入に係るものである。
ロ 本件確定申告書には、所得税法第90条第1項の規定の適用を受ける旨及び平均課税の計算明細の記載はいずれもない。
ハ 請求人は、本件更正の請求をした平成19年3月15日に平成15年分及び平成16年分の所得税の確定申告書を原処分庁に提出しており、平成15年分の確定申告書における総所得金額は○○○○円、そのうち、原稿料収入に係るものが○○○○円で、平成16年分の確定申告書における総所得金額は○○○○円で、そのすべてが原稿料収入に係るものである。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙のとおりである。

3 判断

(1) 更正の請求によって所得税法第90条第1項の規定の適用を求めることができるか否かについて

イ 上記1の(3)のイのとおり、国税通則法第23条の第1項第3号において、納税申告書に記載した還付金の額に相当する税額が過少であるとして更正の請求をすることができるのは、当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことによる場合としている。
 また、上記1の(3)のニ及びホのとおり、所得税法第90条第1項において、その年分の変動所得の金額及び臨時所得の金額の合計額(その年分の変動所得の金額が前年分及び前々年分の変動所得の合計額の2分の1に相当する金額以下である場合には、その年分の臨時所得の金額)がその年分の総所得金額の20%以上である場合には、その者のその年分の課税総所得金額に係る所得税の額を平均課税による所得税額とするとしているが、その適用を受けるに当たっては、同条第4項において、確定申告書に同条第1項の規定の適用を受ける旨及び平均課税の計算明細を記載することを要件としている。
 これを本件についてみると、請求人の原稿料収入に係る所得は、変動所得に該当し、上記1の(4)のイ及びハのとおり、請求人の平成17年分の変動所得の金額は、平成15年分及び平成16年分の変動所得の金額の合計額の2分の1に相当する金額を超え、かつ、平成17年分の総所得金額の20%以上であることから、所得税法第90条第1項の要件を満たしている。
 しかしながら、請求人が提出した本件確定申告書は、上記1の(4)のロのとおり、税額計算について、所得税法第90条第1項の規定を適用せずに計算しており、かつ、同条第4項に規定する同条第1項の適用を受ける旨及び平均課税の計算明細の記載がされていない。
 そうすると、請求人は、所得税法第90条第1項の規定を適用せずに本件確定申告書の提出を行ったということとなり、そのこと自体、法律の規定に反するものではなく、また、その計算に誤りはないと認められることから、当該申告書には、国税通則法第23条第1項第3号に規定する課税標準等若しくは税額等の計算が国税の法律に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったとは認められない。
 したがって、更正の請求によって所得税法第90条第1項の規定の適用を求めることはできない。
ロ 請求人は、上記2の(1)のとおり、更正の請求は確定申告書自体を訂正する意味を持つから、本件確定申告書に所得税法第90条第1項の規定を適用する旨等の記載がないことをもって、本件更正の請求を認めないことは違法である旨主張する。
 しかしながら、上記1の(3)のイのとおり、更正の請求は、確定申告書において記載した税額等の計算が国税に関する法律に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、還付金の額に相当する税額が過少となっているときに納税者からその申告に係る税額等の変更を税務署長に対して請求するものであり、更正の請求自体が税額等を変更し、確定させる意味を持つものではない。
 また、上記イのとおり、本件確定申告書において所得税法第90条第1項の規定を適用せずに税額計算を行ったこと及び本件確定申告書に同項の規定を適用する旨等の記載がないことは、そのこと自体は法律の規定に反するものではなく、また、その計算に誤りはないことから、更正の請求によって、同項の規定の適用を求めることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 請求人は、上記2の(2)のとおり、国税庁が作成した「所得税の更正の請求手続」案内における添付書類の平均課税の計算書に関する記載からすると、更正の請求による所得税法第90条第1項の規定の適用は認められるべきである旨主張する。
 しかしながら、国税通則法第23条第1項第3号に規定する更正の請求は、既に提出されている納税申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、還付金の額に相当する税額が過少であった場合にその請求が認められるとされており、「所得税の更正の請求手続」案内は、この旨を説明しているところ、請求人が主張する添付書類の部分については、確定申告書において所得税法第90条第1項の規定の適用を受けている者がその計算に誤りがある場合などに更正の請求書の添付書類として正当な額を計算した平均課税の計算書が必要である旨を記載していると解すべきであり、確定申告書において同項の規定を適用していない者が同項の規定の適用を更正の請求によって求めることができる旨を記載したものとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ 請求人は、上記2の(3)のとおり、本件確定申告書につき所得税法第90条第1項の規定を適用せずに提出したのは、平成15年分及び平成16年分の所得金額の計算を行っていなかったため、本件確定申告書提出の際に同項の規定の適用について検討できなかったのであり、このことは、同条第5項に規定するやむを得ない事情に該当し、同条第1項の規定は適用されるべきである旨主張する。
 しかしながら、所得税法第90条第5項に規定するやむを得ない事情とは、例えば、災害により申告書を提出できない場合等、客観的にみて納税者の責めに帰すことのできない事情と解されており、これを本件についてみると、本件確定申告書提出時に、請求人が平成15年分及び平成16年分の所得金額の計算を行っていなかったため、同条第1項の規定の適用について検討できなかったことは、納税者の責めに帰すことのできないやむを得ない事情とは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 本件更正処分について

 上記(1)のイ及びニのとおり、本件確定申告書に所得税法第90条第1項の規定の適用を受ける旨及び平均課税の計算明細の記載がなく、かつ、同条第5項に規定するやむを得ない事情もないことから、同条第1項の規定の適用はないとして行った本件更正処分は適法である。

(3) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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