別紙2

争点に対する当事者双方の主張


(1) 争点1(本件判決は本件被相続人の遺産の権利関係の帰属についての確定判決と認められるか否か)について
請求人 原処分庁
 次のとおり、原処分は事実の認定や通則法第23条第2項第1号の規定の解釈を誤ったものであり、本件判決は、同号にいう「判決」に該当する。  通則法第23条第2項第1号に規定する「判決」とは、当事者間で所有権等の権利関係の帰属についての争いがあり、申告当時その権利関係の帰属が明確になっていなかった場合に、その権利関係の帰属を明確にするため、当事者の一方から訴訟が提起され、法定申告期限後において、その訴訟の結果としてその権利関係の帰属についてなされた判決を指すものと解される。
 しかしながら、本件判決は、次のことから、通則法第23条第2項第1号に規定する「判決」には該当しない。
イ 当事者間の争いの有無について
 請求人が本件H名義土地及び本件被相続人名義の預金のうち59,055,008円(以下「本件H名義預金」といい、本件H名義土地と併せて「本件H名義資産」という。)について本件被相続人の遺産であるとして相続税の申告をしたのは、古い過去の一事実のみではGの遺産であると判断することは困難であったことなどの理由によるものであり、また、本件H名義資産については、当該相続税の申告直前から開始した本件調停において、請求人及びJとKとの間において、深刻な争いがあった。
イ 当事者間の争いの有無について
 請求人及びJは、本件申告書において本件H名義資産を本件被相続人の遺産として申告しており、Kの本件被相続人に係る相続税の申告内容からも、本件H名義資産が本件被相続人の遺産であることについては、本件共同相続人の間で争いがなかったものと認められる。
ロ 権利関係の帰属についての判決か否かについて
 本件判決は、本件H名義土地について、訴訟において提出された証拠に基づきGの所有であると判断したものであり、また、本件H名義預金について、Kが本件被相続人立会いの下で昭和52年12月12日にGの遺産であることを確認した預金の合計額59,055,008円はGの遺産に属すると判断したものである。
 したがって、本件判決で確認されたのは、本件H名義資産がGの遺産に属することであるのは争う余地のないところである。
ロ 権利関係の帰属についての判決か否かについて
 第3事件については、土地の購入資金及び預金の一部の原資の出えん者がだれであるかを争ったものであり、本件判決は、これが示されたものであるから、本件H名義資産の権利関係の帰属を明確にするためのものではないと認められる。
 なお、仮に本件H名義土地の購入資金の出えん者がGであったとしても、本件被相続人名義で取得した時から第3事件の提訴時まで、その所有権の帰属について何ら争いがなかったことからすると、本件H名義土地の取得時に、その財産又は取得資金をGが本件被相続人に贈与したものとみるのが相当であり、税法上も、財産を取得するときに取得資金の出えん者以外の名義とした場合には、贈与として取り扱うこととしている。
 また、本件H名義預金についても、当該預金の預入時から第3事件の提訴時まで、Gの共同相続人の間で何ら争いがなかったことからすると、本件H名義預金は、Gの共同相続人の合意により、本件被相続人が分割取得したものとみるのが相当である。
ハ 後発的事由の有無について
 通則法第23条第2項第1号は、法定申告期限から1年を経過した後にも更正の請求を認める事由として、課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての「判決等により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」という事由を定めており、申告書の提出時には「瑕疵や減額すべき事由は内在せず、後日、そのような事由が生じたとき」にのみ更正の請求を認めるとしているわけではない。
 また、最高裁判所平成15年4月25日第二小法廷判決によれば「通則法第23条第1項所定の期間内に更正の請求をしなかったことにつきやむを得ない理由がある場合」に、同条第2項第1号の規定の適用があると解しているにもかかわらず、原処分庁は、平成19年4月6日付異議決定書において、同号に規定される課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実について、申告者が「知ることができた」場合や、「知っていた」場合には同号の規定が適用されないなどと、あたかもある事実を知っていたか否か、又は、知ることができたか否かが、同号の規定の適用が受けられるための要件であるかのように主張している。このような原処分庁の判断は、通則法第23条第2項第1号の解釈に、法が定めていない要件を付加するものであり、誤りというほかないものである。
 なお、原処分庁が主張する各事実は、本件H名義資産がだれの所有に帰属するかを決定する上でごく一部の事実にすぎないものであり、その後の長期間の時日の経過の中で、他にもその判断に重要な影響を及ぼす事実が数多く発生しており、次のとおり、請求人が、これら一部の事実を知っていることが、本件H名義資産がだれに帰属するかについて知っていたということにはならないのであり、請求人は、通則法第23条第1項の規定による更正の請求をしなかったことにつきやむを得ない理由があるのであるから、同項に規定する更正の請求をすることが可能であったとの原処分庁の主張には理由がない。
ハ 後発的事由の有無について
 通則法第23条第2項は、納税申告書の提出時には納税申告書の瑕疵や減額すべき事由は内在せず、後日、そのような事由が生じたときに、通則法第23条第1項の規定による法定申告期限から1年以内に更正の請求をすることができない場合があり、そのような後発的事由がある場合に更正の請求を認めないとすると、帰責事由のない納税者に酷な結果となることから、そのような後発的事由が生じてから2月以内に限り、例外的に更正の請求を認めることとしている。
 そして、通則法第23条第2項第1号に規定する判決に基づいて更正の請求をするためには、当該訴訟が基礎事実の存否、効力等を審判の対象とし、判決により基礎事実と異なることが確定されるとともに、申告時において、納税者が基礎事実と異なることを知らなかったことが必要である。
 しかしながら、上記ロのとおり、本件H名義資産については、本件被相続人の遺産であるとみるのが相当であるが、仮に、請求人が、更正の請求を行うとしても、次の事実を前提にすると、本件申告書に記載した税額等の誤りを是正するために、通則法第23条第1項の規定による更正の請求が可能であったのであるから、同条第2項の規定による申告時に予想し得なかったような後発的事由が後日生じた場合の更正の請求をすることはできない。
(イ) 本件H名義土地について
 請求人は、本件H名義土地について、Gから本件被相続人名義で購入した旨聞いただけで、その内容には触れておらず、また実質的な経営もGが行っていたことを認識していた。しかし、これらの事実のみによって本件H名義土地がGの遺産となるものであるか請求人には不明であったし、本件申告書作成に係る関与税理士であるj税理士からも、本件H名義土地については、本件被相続人の遺産として申告するよう指導があったことから、請求人は、それに従い申告を行ったものである。
(イ) 本件H名義土地について
 本件H名義土地については、請求人が、原処分に係る調査担当者に対して、Gが購入した不動産を本件被相続人名義にしたことがあることをGから聞いていた旨申述していることから、その購入資金がGから出えんされていることを請求人は知っていたものと認められる。
(ロ) 本件H名義預金について
 G名義の預金残高が1,542,178円のみしかないことから、本件被相続人名義の預金の一部にGの遺産が含まれている可能性は推測できたとしても、請求人は、本件被相続人の死亡後、Gの遺産を確認するために預金先に問い合わせたが、電算切替えにより記録がなく、残高証明以外は入手できなかったことから、どの金融機関のどの預金のいくらの金額がGの遺産に属するものであるか、全く判断できなかったものである。
(ロ) 本件H名義預金について
 次のことからすると、請求人は、Gの遺産が本件H名義預金に化体していることを知っていたものと認められる。
A 請求人が、原処分に係る調査担当者に対し、請求人はG死亡後、本件被相続人の同意の上で、Gの遺産を整理しGの共同相続人にその内容を知らせた旨申述している。
B Gに係る相続税の申告書及び修正申告書には、上記1の(4)のイの(ロ)及び(ハ)のとおり計上されている。
C 請求人が、原処分及び異議調査に係る調査担当者に対し、Gの遺産は、本件申告書の提出時においても未分割であった旨答述している。
D G名義の預金の平成11年5月○日時点の残高は、1,542,178円であった。

(2) 争点2(本件死因贈与契約公正証書が有効との確定判決は通則法第23条第2項第1号に規定する判決に該当するか否か)について
請求人 原処分庁
 原処分は、第2事件に係る判決について、通則法第23条第2項第1号の規定の解釈を誤ったものであり、本件判決は、同号にいう「判決」に該当する。
 請求人は、本件死因贈与契約公正証書については無効であるものとして平成11年5月○日に本件申告書を提出した。
 また、請求人は、第1回調停期日(平成11年5月○日)直前ころに、請求人の代理人から「Kが遺言など色々なものを所持している。」旨の話を聞いた。しかし、請求人は、本件被相続人がKに対し「遺言書」などを作成したという事実については、本件被相続人の生前においては、本件被相続人やKから全く聞いておらず、Kのいう「遺言書」が存在するかどうかが不明であった上、本件死因贈与契約公正証書の有効性に重大な疑問があり、死因贈与契約は存在しないものとして、本件申告書を提出した。
 そして、Kから本件死因贈与契約公正証書が提出されたのは、その後の第2回調停期日(平成11年6月○日)においてであった。
 これに対し、請求人及びJは、本件調停当初から疑問を有し、この効力を否定する主張を行っているのであるから、本件調停において、本件死因贈与契約公正証書の有効性については当事者の主張はまったく対立していた。
 したがって、法定申告期限から1年以内に本件死因贈与契約公正証書が有効であるとして更正の請求をしなかったことについては、やむを得ない理由があり、請求人が、本件死因贈与契約公正証書が有効であるとの判決に基づき通則法第23条第2項第1号に規定する更正の請求を行うことは許されるべきである。
 なお、本件は、未分割としてなされた相続税の申告について、本件判決によって本件被相続人の遺産の範囲が異なることになり、税額が大幅に減額することとなった事案であるので、原処分庁が主張するように、今後、遺産が分割された際に、相続税法第32条《更正の請求の特則》による更正の請求の機会があるからといって、不利益がないなどといえないことはいうまでもないことである。
 以下のとおり、請求人は、通則法第23条第2項第1号の規定による更正の請求をすることはできないので、請求人の主張には理由がなく、原処分は適法である。
 通則法第23条第2項第1号に規定する判決とは、上記(1)で述べたとおり、権利関係の帰属についてなされた判決をさすものと解されるところ、本件判決は、本件H名義土地及び本件被相続人名義の預金の一部がGの遺産であることを確認する請求の一部を認めるとともに、本件被相続人からKへの死因贈与契約を認めるという内容であることから、本件共同相続人の間における遺産分割争いに関するものであり、死因贈与の有効性について真に争ったものとは認められないので、権利関係の帰属についてなされた判決には該当しない。
 したがって、本件死因贈与契約公正証書が有効と確認されたことに伴う更正の請求は認められない。
 なお、本件判決は、本件H名義預金を除いた本件被相続人名義の預金のみを分割したに過ぎないため、請求人が当初申告において本来納付すべき相続税額よりも過大な相続税額を負担していたかどうかは本件判決だけでは不明であり、通則法第23条第2項第1号の規定により更正の請求をすることはできない。
 また、本件判決において、本件死因贈与契約公正証書が有効であったと認められたとしても、本件死因贈与契約公正証書によって分割が確定した財産以外については、各人の相続割合等について何ら確定しておらず、いまだ未分割の状態と認められる。
 当該財産について、今後、分割が行われ、本件共同相続人が当該分割により取得した財産にかかる課税価格が当該相続分の割合に従って計算された課税価格と異なることとなった場合には、相続税法第32条の規定による更正の請求の手段をとることができるのであるから、請求人に特段の不利益が生じるものでもない。

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