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(平20.5.12、裁決事例集No.75 50頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の納税の猶予申請について、原処分庁が納税の猶予の要件に該当しないとして行った納税の猶予不許可処分に対し、請求人が、同処分の取消しを求めた事案であり、争点は、納税の猶予不許可処分は違法か否かである。

(2) 審査請求に至る経緯及び基礎事実

 以下の事実については、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、P市p町○○番地所在の同人の妻及び同妻の父(以下「義父」という。)の共有建物(以下「本件建物」という。)に家族と共に居住していた。
ロ 本件建物は、平成18年○月○日の火災(以下「本件火災」という。)により全焼し、請求人は、本件建物に収容されていた家財道具等を焼損した。また、請求人と同居していた義父の母(以下「祖母」という。)が本件火災により同日死亡した。
 なお、本件火災について、E消防署長は、義父名義で平成18年○月○日付「り災証明書」を発行しており、同証明書の「り災物件及びり災状況」欄には、「木造瓦葺2階建て延べ約○○平方メートル及び同建物に収容の家財等並びに東側物置の庇部分、南側離れの壁面の一部、南西側カーポートの一部及び軽乗用車1台の一部を焼損」と記載されている。
ハ 請求人は、平成18年5月24日に、平成17年1月1日から平成17年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税について確定申告書を提出するとともに、これにより別表に掲げる納付すべきこととなった金額(以下「本件消費税等」という。)について、上記ロの「り災証明書」を添付して納税の猶予申請書(以下「本件申請書」という。)を提出した(以下「本件申請」という。)。
ニ 原処分庁は、上記ハの本件申請について、国税通則法(以下「通則法」という。)第46条《納税の猶予の要件等》第2項非該当として、平成18年11月22日付で納税の猶予不許可処分(以下「本件不許可処分」という。)をした。
ホ 請求人は、本件不許可処分を不服として、平成19年1月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年4月18日付で棄却の異議決定をした。
ヘ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成19年5月18日に審査請求をした。

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2 争点 本件不許可処分は違法か否か。

(1) 関係法令等

 別紙のとおりである。

(2) 主張

請求人 原処分庁
 本件不許可処分は、以下の理由により、違法である。  本件不許可処分は、以下の理由により、違法ではない。
イ 本件火災により請求人の家財道具等が被害を受けたことは通則法第46条第2項第1号に、祖母が死亡したことは同項第2号に、また、事業を休止せざるを得ない事態となったことは同項第3号にそれぞれ該当する。 イ 本件火災により請求人の家財道具等が被害を受けたことは通則法第46条第2項第1号に該当するが、祖母が死亡したことは同項第2号に該当せず、また、事業を休止せざるを得ない事態となったことは同項第3号に該当しない。
ロ 本件火災により、家財道具等が焼失し、毎日の生活必需品一つ一つまで新調せねばならないような状況である。
 本件申請時において、わずかな現金及び預貯金等はあったものの、生活の維持及び事業の継続にも厳しい状況にあり、とても本件消費税等を一時に納付することができない状況であった。
ロ 平成18年8月3日及び同年11月6日に、請求人の妻を通じて、聴き取りにより現在納付能力調査を実施したが、請求人から聴き取った内容を裏付ける資料の提供がなかったことから、納付困難であるか否かの判断ができなかった。
ハ 原処分庁は、請求人が本件申請書の「納付計画」欄を記載しないことをもって本件不許可処分を行っているが、通則法施行令第15条第2項の規定では、分割納付の方法により同法第46条第2項の規定による納税の猶予を受けようとする場合には、納付計画を記載することになっているのに対し、納付計画の記載が納税猶予申請手続のための絶対条件とはなっていない。 ハ 請求人から提出された本件申請書には、通則法施行令第15条第2項の規定による「納付計画」欄の記載がなく、その後も請求人は納付計画を明示していないので、単に納付すべき国税、猶予申請期間及び猶予申請理由を記載した本件申請書による納税の猶予申請を認めることはできない。

(3) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、同人の妻を通じて、平成18年11月6日に原処分庁に対し、「第11号様式の2(第31条関係)」の様式で本件火災により被害を受けた家財道具等の損失額の明細書(以下「損失額の明細書」という。)を提出した。
ロ F税務署の担当職員(以下「担当職員」という。)は、請求人の妻を通じて、平成18年8月3日に現在納付能力調査を実施した。現在納付能力調査表(その1)によれば、「当座資金の計算」欄の「現金」欄は○○○○円、「預貯金(引出し可能なもの)」欄はG銀行H支店普通預金の記載があり、残高は○○○○円となっている。また、「つなぎ資金 自(平成)18年6月1日至(平成)19年5月31日の計算」欄の「総支出見込金額」欄は、仕入れ○○○○円、経費○○○○円、「総収入見込金額」欄は、売上げ○○○○円となっている。
ハ 担当職員は、請求人の妻を通じて、平成18年11月6日に現在納付能力調査を実施した。現在納付能力調査表(その1)によれば、「当座資金の計算」欄の「現金」欄は○○○○円、「預貯金(引出し可能なもの)」欄はG銀行H支店普通預金の記載があり、残高は○○○○円となっている。また、「つなぎ資金 自(平成)18年10月1日至(平成)18年10月31日の計算」欄の「総支出見込金額」欄は、仕入れ○○○○円、諸経費○○○○円、生活費○○○○円、「総収入見込金額」欄は、売上げ○○○○円となっている。
ニ 請求人は、平成20年3月12日に当審判所に対し、平成18年5月31日現在の預貯金の残高はG銀行H支店普通預金総合口座○○○○円であるとして、普通預金総合口座の通帳の写しを提出した。

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(4) 判断

イ 納税の猶予の趣旨等
 国税の納税者は、国税に関する法律に定めるところにより、法定納期限等までに納付しなければならない(通則法第35条《申告納税方式による国税等の納付》)ところ、同法第46条第2項の規定に基づく納税の猶予は、その法定納期限等を経過している国税について、同項各号に該当する場合にその納税を猶予するものであり、期限内納付の原則に対する特例制度というべきものである。
 したがって、通則法第46条第2項の規定の適用に当たっては、納税者の生活保障に配慮するとともに、租税徴収における公平の実現という観点をも考慮することが必要であり、同項は、納税者の責めに帰せられない事由により生じた事実により、その納税者が国税を一時に納付することができないと認められるときに、納税の猶予を認めることができることを規定したものと解される。
ロ 納税の猶予該当事実の存否
(イ) 請求人は、本件火災により家財道具等について災害を受けており、このことが、通則法第46条第2項第1号に規定する猶予該当事実に該当することについては、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査においても、上記1の(2)のロ及び上記(3)のイのとおり請求人がその財産につき災害を受けたことが認められ、通則法第46条第2項第1号に該当することは明らかである。
(ロ) 請求人は、本件火災により祖母が死亡したことが通則法第46条第2項第2号に該当する旨及び本件火災により事業を休止せざるを得ない事態となったことが同項第3号に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のとおり通則法第46条第2項第1号に該当することは明らかであるから、同項第2号及び第3号に該当するか否かは検討するまでもない。
ハ 猶予該当事実に基づき納付困難であったか否かについて
(イ) 原処分庁は、現在納付能力調査を実施したが、請求人から聴き取った内容を裏付ける資料の提供がなかったことから、納付困難であるか否かの判断ができなかった旨主張する。
 ところで、猶予通達は、1納税の猶予制度が納税緩和措置であること、すなわち一定の事由により納付困難になった納税者に対する救済制度であること、2他の一般の納税者との租税負担の公平を図る必要があることの二面を配慮して定められたものと解され、納税の猶予を規定する通則法第46条第2項の趣旨に沿うものであるから、当審判所も、その取扱いは相当なものと評価できる。
 この猶予通達によれば、納付困難であるかどうかは、現在納付能力調査に基づいて、本件申請書に記載された猶予申請期間の始期の前日である平成18年5月31日を調査日(以下「本件調査日」という。)として判定することになる。ところが、原処分庁は、上記(3)のロ及びハのとおり、現在納付能力調査の調査日を、平成18年8月3日及び同年11月6日として実施していることが認められるから、調査日の選定の点で相当とはいえない。
 そこで、当審判所は、平成18年5月31日現在の納付困難な税額を算定し、請求人において納付困難であるか否かを検討したところ、以下のとおりである。
A 当座資金の計算
 当座資金は、現金○○○○円(本件調査日の金額を直接確認する資料はないところ、本件調査日と原処分庁が現在納付能力調査を実施した上記(3)のロの平成18年8月3日は時期が近接しており、その間の生活状況に大きな変化があったことを示す資料もないから、本件調査日において少なくとも同調査表に記載された金額○○○○円があったものと認める。)、預貯金○○○○円(同ニの平成18年5月31日現在の金額)の合計額○○○○円となる。
B つなぎ資金の計算
 つなぎ資金は、本件調査日である平成18年5月31日からおおむね1か月以内における総資金の収支を見込み、総支出見込金額から総収入見込金額を差し引いた額を基礎として推定することとし、具体的には以下のとおりである。
(A) 総支出見込金額
 請求人の事業に係る1仕入金額○○○○円(上記Aと同様の理由により、上記(3)のロの平成18年8月3日に実施した現在納付能力調査における同調査表に1年分として記載された金額○○○○円を12月で除した金額で認定した。)及び2経費○○○○円(上記と同様の理由により、同調査表に1年分として記載された金額○○○○円を12月で除した金額で認定した。)、そして、生活費○○○○円(上記と同様の理由に加え、上記(3)のロの平成18年8月3日に実施した現在納付能力調査には金額の記載がないことから、次に近接する同ハの平成18年11月6日に実施した現在納付能力調査における同調査表に記載された金額○○○○円をもって認定した。)の合計額 ○○○○円となる。
(B) 総収入見込金額
 請求人の事業に係る売上金額として○○○○円(上記(A)と同様の理由により、上記(3)のロの平成18年8月3日に実施した現在納付能力調査における同調査表に1年分として記載された金額○○○○円を12月で除した金額で認定した。)となる。
(C) つなぎ資金
 上記(A)の総支出見込金額の合計額○○○○円から上記(B)の総収入見込金額の合計額○○○○円を差し引くとマイナス○○○○円となるところ、このように総収入見込金額が総支出見込金額を超える場合には、つなぎ資金は不要である。
C 現在納付可能資金額
 上記Bの(C)で計算したとおりつなぎ資金は不要であるから、本件調査日における納付可能資金額は上記Aの当座資金の合計額である○○○○円となる。
D 納付困難な税額
 本件消費税等○○○○円から上記Cの現在納付可能資金額○○○○円を差し引くと、納付困難な税額は○○○○円となる。
(ロ) 以上のとおり、請求人は、猶予該当事実に基づき○○○○円の税額が納付困難であると認められる。
 なお、原処分庁は、現在納付能力調査を実施したが、請求人から聴き取った内容を裏付ける資料の提供がなかったことから、納付困難であるか否かの判断ができなかった旨主張するが、仮にそうであったとしても、当審判所の調査により、上記のとおり納付困難な税額が算定されるのであるから、原処分庁の上記主張は意味がない。
 したがって、原処分庁がした本件不許可処分は違法であり、取り消すべきである。
ニ 本件申請書の「納付計画」欄の記載がないことについて
 原処分庁は、本件申請書の「納付計画」欄の記載がなく、その後も請求人は納付計画を明示していないことをもって、本件申請を認めることはできない旨主張する。
 しかしながら、通則法施行令第15条第2項第3号は、分割納付の方法により当該猶予を受けようとする場合には、納付計画を記載することとなっているが、本件はそのような場合でないことは明らかであるから、納付計画の記載が本件申請手続の必須条件とはいえない。
 したがって、納付計画の記載がなく、その後も請求人は納付計画を明示していないという理由をもって本件申請を認めないというのは誤っていると言わざるを得ない。
 そうすると、原処分庁の上記主張は理由がない。

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