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(平20.4.15、裁決事例集No.75 260頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、不動産貸付業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成17年分の所得税について、賃借人の申入れに基づく賃貸借契約の中途解約に伴い、賃借人から預託されていた保証金の返還を要しなくなったことから、当該保証金相当額を不動産所得の総収入金額に含め、平均課税を適用せずに確定申告した後、当該保証金相当額が臨時所得に該当するとして、平均課税の適用を求める旨の更正の請求をしたところ、原処分庁が、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったのに対し、請求人が、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成17年分の所得税について、青色の確定申告書(以下「本件申告書」という。)に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに原処分庁へ申告した。
ロ 請求人は、原処分庁に対して平成19年2月27日に、別表の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成19年6月15日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
 なお、原処分庁は、本件通知処分において、請求人に対し、同処分に不服があるときは異議申立て又は審査請求を選択することができる旨の教示をした。
ニ 請求人は、上記ハの教示に従い、本件通知処分を不服として平成19年8月6日に審査請求をし、当該審査請求は、国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項の規定により、適法な審査請求とされた。

(3) 関係法令等

 別紙のとおり。

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(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人の亡夫Dは、平成2年9月22日、Q市R町○丁目○番○号を本店所在地とするE社との間において、亡夫Dを賃貸人、E社を賃借人とする下記(イ)のA及びBの土地建物(以下「本件建物等」という。)に関する賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)の予約契約(以下「本件予約契約」といい、当該契約に係る契約書を「本件予約契約書」という。)を、要旨以下の内容で締結した。
(イ) 賃貸物件(前文)
A 土地

 (A) 所在地 :  S市T町○丁目○番地○
 (B) 敷地面積 :  1,186.74平方メートル
 (C) 付属駐車場 :  アスファルトコンクリート舗装37台

B 建物

 (A) 建物の構造 :  鉄骨2階建日本瓦葺
 (B) 建物の床面積 :  412平方メートル

C 備考
 E社の指定する仕様により建物を建築し、駐車場工事を行う。
(ロ) 予約完結(第2条)
 本件建物等の竣工引渡後に亡夫DからE社へ引き渡した日をもって予約を完結する。
(ハ) 使用目的(第10条)
 E社は、原則として、本件建物等をE社の営業する、レストランEの店舗及びその駐車場として使用し、このほかの用途に使用することはできない。
(ニ) 貸貸借期間(第11条)
A 賃貸借期間は、予約完結の日から15年間とする(第1項)。
B 亡夫D又はE社が期間満了6か月前までに相手方に対し、文書をもって期間更新拒否の意思表示をしないときは、賃貸借は1年間更新されるものとする(第2項)。
(ホ) 賃料(第12条第1項)
 賃料は、1か月2,400,000円とし、毎月末日限りその翌月分を、亡夫D又は同人の指定する者の銀行口座に送金して支払う。
(ヘ) 中途解約(第20条)
 本件賃貸借契約の期間満了前において、E社の一方的事由で中途解約する場合は、E社は、亡夫Dに対し同人が本件建物等の建設のため、金融機関から借り入れた資金の解約時点における残債相当額を損害金として支払わなければならない。かつ保証金の返還請求権も失う。
ロ 亡夫DとE社は、平成2年9月22日、次のとおり、E社が亡夫Dに保証金(以下「本件保証金」という。)を預託する旨合意した。
(イ) E社は亡夫Dの本件建物等の建設計画に協力するため、本件保証金として50,000,000円を、建物等の工事契約締結時、建物上棟時、建物竣工引渡時の3回に分けて、亡夫Dに預託する。
(ロ) 本件保証金は、本件賃貸借契約終了時に無利息にて、一括返済する。
ハ 亡夫DとE社は、平成3年6月28日、同日、予約が完結し、賃貸借が開始したことを確認するとともに、本件予約契約書の第3章(第10条から)以下をもって、本件賃貸借契約に係る契約書に代える旨の合意をした。
ニ 平成9年10月○日、亡夫Dが死亡したことから、請求人が、本件建物等及び本件保証金返還債務を相続し、本件賃貸借契約に係る賃貸人の地位を承継した。
ホ E社は、平成○年○月にQ市R町○丁目○番○号を本店所在地とするF社(以下「本件賃借人」という。)と合併し、本件賃借人を存続会社としたことから、本件賃貸借契約の賃借人の地位は、本件賃借人が承継した。
ヘ 請求人と本件賃借人は、平成17年3月、本件賃借人の申入れに基づき、「建物賃貸借解約及び物件明渡し確認書」と題する書面(以下「本件確認書」という。)を取り交わして、次のとおり、本件賃貸借契約を中途解約(以下、この中途解約を「本件中途解約」という。)する旨の合意をした。
(イ) 請求人と本件賃借人は、本件賃貸借契約を本件賃借人の申入れにより平成17年1月31日をもって解約する。
(ロ) 本件賃貸借契約終了の日 平成17年1月31日
(ハ) 賃料の最終支払 平成16年12月27日支払 平成17年1月分
(ニ) 本件賃借人が請求人に預託している本件保証金50,000,000円については、請求人は本件賃借人に返還しないものとする(以下、返還を要しない保証金を「本件返還不要保証金」という。)。
(ホ) 請求人及び本件賃借人間には、債権債務は一切存在しないことを確認し、本書に定めない事項があったときは、事前に誠意をもって協議をし、解決するものとする。
ト 本件中途解約時における本件建物等の賃貸料は、月額2,100,000円(以下「本件賃貸料月額」という。)である。
チ 本件申告書には、所得税法第90条第1項に規定する平均課税の適用を受ける旨及び同項各号に掲げる金額の合計額の計算に関する明細の記載はない。

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2 主張

(1) 請求人

 次の理由により、原処分の全部の取消しを求める。
イ 本件賃貸料月額にのみ固執し、本件保証金を本件建物等の建築に充て、その後賃料収入の減収に見舞われた請求人に過酷な税負担を強要することは、臨時所得に係る平均課税の立法の趣旨に照らし合理的な解釈とはいえず、所得税法の公平負担の原則に違反するものである
 本件確認書は、上記1の(4)のへの(ニ)のとおり、本件保証金について、請求人は本件賃借人に返還しないものとする旨定めている。また、本件賃貸借契約を解除するに当たって請求人に与えた損害を補償する文言もない。そうすると、本件返還不要保証金の性質は、損害賠償ではなく、民法第519条に定める債務免除益として不動産所得を構成するものと考えられる。
 ところで、所得税基本通達2-37(3)は、臨時所得に該当するものとして、その所得の計算の基礎とされた期間が3年以上であることを条件としている。
 ここにいう「その計算の基礎とされた期間が3年以上であること」の解釈に当たっては、建物の賃貸借契約の中途解約は過去の契約を清算し、将来の収入を喪失することになるのであるから、債務免除益が当該業務の前年以前3年間の不動産所得の金額の平均額の3年以上の額をもってすれば足りると考えられる。原処分庁は、月額賃料の36か月分以上かどうかによって、その所得の計算の基礎とされた期間が3年以上か否かを判定する旨主張するが、このような解釈は、非経常的な所得に対して超過累進税率を適用することによる過大な税負担を軽減するという臨時所得に係る平均課税の立法趣旨を踏まえると相当でない。
 そして、本件保証金の返還を要しなくなった時点における直前3年である平成14年分、平成15年分及び平成16年分の、本件賃貸借契約に係る不動産所得の総収入金額から必要経費を差し引いた各金額の平均額は10,895,718円であるから、その3年分相当額は32,687,154円となるところ、本件返還不要保証金は、3年分相当額を上回るから、その金額の計算の基礎とされた期間が3年以上であるものに該当する。
 したがって、本件返還不要保証金は、所得税法施行令第8条に規定する第1号から第4号に掲げる所得以外の「その他これらに類する所得」に該当する臨時所得である。
ロ 請求人が、本件申告書に平均課税の適用を受ける旨の記載をしなかったのは、本件申告書の提出に先立ち、原処分庁に対して本件返還不要保証金が臨時所得に該当するか否かの照会をし、原処分庁から本件返還不要保証金は臨時所得に該当しない旨の回答を受けて、本件申告書を提出したという事情があることによるものであり、当該事情に照らせば、請求人の場合、上記記載がなかったことについては、所得税法第90条第5項に規定する「やむを得ない事情」があるというべきである。

(2) 原処分庁

 本件通知処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
 イ 所得税法第90条第1項の規定は、確定申告書に同項の規定の適用を受ける旨及び同項各号に掲げる金額の合計額の計算に関する明細書の記載がある場合に限り適用されるところ、本件申告書にはこれらの記載がなく、記載がなかったことについてやむを得ない事情があったとは認められない。そして、請求人が平均課税を適用せずに本件申告書を提出したとしても、そのことは、国税通則法第23条第1項に規定する「国税に関する法律の規定に従っていなかったこと」又は「当該計算に誤りがあったこと」のいずれにも該当しない。
 したがって、平均課税を適用せずに確定申告をしたことを理由とする本件更正の請求には理由がない。
ロ 仮にやむを得ない事情があったとしても、本件返還不要保証金は、次の理由により臨時所得には該当しない。
(イ) 請求人は、本件賃借人の一方的な事由により本件賃貸借契約を解約し、当該契約の定めに従って、本件保証金のすべての返還を要しなくなったのであって、解約によって生ずる損失に対する補償として本件返還不要保証金を得たものである。そして、本件賃貸借契約の残存期間にかかわらず、本件保証金全額の返還を要しない定めからすれば、本件返還不要保証金は、当該補償の金額を具体的に見積もったものではないとしても、得られるはずであった収入に代わる性質を有するものであるから、所得税法施行令第94条《事業所得の収入金額とされる保険金等》第1項第2号の規定により、請求人の不動産所得に係る総収入金額に算入されるべきものである。
(ロ) 返還を要しなくなった保証金が臨時所得とされるためには、当該保証金が業務の全部又は一部の休止、転換又は廃止により当該業務に係る3年以上の期間の不動産所得の補償として受けたものであることが要件とされている。
 しかしながら、本件返還不要保証金は、本件賃貸借契約の解約によって生ずる損失に対する補償金として取得したものであるところ、本件返還不要保証金の額は、本件建物等に係る3年分の賃料相当額に満たないことから、本件返還不要保証金は、所得税法施行令第8条に規定する臨時所得には該当しない。

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3 判断

(1) 法令解釈

 臨時所得に係る不動産所得につき平均課税の適用を受けるためには、別紙の3のとおり、1臨時所得に係る不動産所得の金額が総所得金額の100分の20以上であること及び2確定申告書に所得税法第90条第1項の規定の適用を受ける旨及び同項各号に掲げる金額の合計額の計算に関する明細の記載があることが必要である。そして、上記2の記載がない確定申告書が提出された場合には、3その記載がなかったことについて、やむを得ない事情がある場合に限って、平均課税の適用が認められる。
 ところで、上記1にいう臨時所得とは、所得税法第2条第1項第24号に規定する所得であり、その具体的な範囲は、所得税法施行令第8条に規定されているところ、同条第3号は、一定の場所における業務の休止等により当該業務に係る3年以上の期間の不動産所得等の補償として受ける補償金に係る所得を例示している。
 また、所得税基本通達2-37の(3)が、所得税法施行令第8条第2号に規定する不動産等に係る損害賠償金その他これに類するもので、その金額の計算の基礎とされた期間が3年以上であるものは、臨時所得に該当する旨定めているのは、このような損害賠償金等が同条第3号の補償金に類似し、同条柱書が規定する「その他これらに類する所得」に該当することを明らかにしたものと解され、当審判所においてもこれを相当と認める。
 そして、所得税法施行令第8条第3号にいう3年以上の期間の補償に該当するか否かは、一般的には同号が規定する不動産所得の補償が、業務の休止、転換又は廃止に伴い生じる逸失利益の補償であり、当該不動産貸付業務を継続していれば得られたであろう賃料相当額の補償を意味するものであることから、当該補償に係る契約等において、その算出根拠が3年以上の期間に係るものであることが示され、その内容も相当と認められるような場合を除けば、特段の事情がない限り、当該不動産貸付業務に係る3年分の収入に相当する金額の補償であるか否かをもって判定するのが相当である。すなわち、不動産貸付業務の休止等による補償には、いわゆる収益補償金のほか、経費補償金、固定資産の遊休期間中における減耗補償金や原状回復費用相当額等も含まれると考えられることから、3年以上の期間の補償に該当するか否かは、総収入金額から必要経費を控除した後の金額である不動産所得の金額によるのではなく、当該不動産貸付業務に係る収入金額によって判定するのが相当と解されるのである。
 なお、所得税基本通達2-37の(3)は、所得税法施行令第8条第3号に類似する所得を明らかにしたものであるから、同通達にいう計算の基礎が3年以上であるか否かについても、上記所得税法施行令第8条第3号にいう3年以上の期間の補償の場合と同様に判定するのが相当である。

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(2) 認定事実

 上記1の(4)のロのとおり、本件保証金は、本件予約契約と同時にその預託が合意され、本件建物等の工事代金に充てることを予定して亡夫Dに預託されたものであり、また、その返済期も本件賃貸借契約の終了と同時とされ、本件賃貸借契約と密接に関連するものであった。そして、上記1の(4)のイの(イ)のB及びCのとおり、本件建物等に係る建物は、E社の指定する仕様により建築されたもので汎用性に乏しく、契約終了後に新たな賃借人を見つけることが容易ではないものであり、再賃貸に当たっては賃料その他の契約条件を下げなければならない可能性も予想されるものであった。さらに、本件賃貸借契約終了後には、「レストランE」の容姿を残存させることが禁止されていた(本件予約契約第22条第4項)から、大規模な改装工事が必要となることも予想された。そうすると、E社の都合による中途解約があると、賃貸人には、E社からの定期的な賃料収入が途絶える上に、再賃貸後の賃料の減収などの多額の損害が生ずることが見込まれる一方、本件保証金は本件建物等の工事代金に充てて手元に残っていないので、仮に本件保証金の返還義務を履行すると、賃貸人が多額の改装費を負担することすら困難となる可能性があるものであった。そこで、中途解約によって賃貸人に生じ得る一切の損害等を賠償ないし補償するため、上記1の(4)のイの(ヘ)のとおり、賃借人の一方的事由で中途解約する場合には、契約の残存期間の長短にかかわらず、E社が本件保証金の返還請求権を失うとして、本件保証金に係る返還債務を免除することをあらかじめ合意したと見るのが相当であり、当該合意は、当該債務免除と同一の条項において並列的に定められた、亡夫Dが本件建物等建設のため金融機関から借り入れた資金の残債相当額の損害賠償の予定と同趣旨のものと解される。
 したがって、本件中途解約の際に、上記1の(4)のヘの定めに従い、本件確認書において本件返還不要保証金が確認されたことは、本件賃貸借契約において定められた損害賠償の予定として、実際に請求人に生じた損害の多寡にかかわらず、中途解約に伴い喪失する将来の賃料収入、その他の損害及び費用一切を賠償ないし補償する趣旨で本件返還不要保証金相当額が債務免除されたことを確認したものと認めるのが相当である。

(3) 本件へのあてはめ

イ 以上のとおり、本件返還不要保証金は、本件賃貸借契約で定められた損害賠償の予定の規定に従い、実際に請求人に生じた損害の多寡にかかわらず、中途解約に伴い喪失する将来の賃料収入、その他の損害及び費用一切を賠償ないし補償する趣旨で本件返還不要保証金相当額が債務免除されたものであるから、不動産貸付業務に関して受けた経済的利益として不動産所得の総収入金額に算入されるものである。そして、本件返還不要保証金は、その算出根拠が明らかではないものの、その賠償ないし補償の対象は、1本件賃貸借契約の解約日である平成17年1月31日から本件賃貸借契約の終期である平成18年6月28日(上記1の(4)のイの(ニ)のA及びハのとおり、本件賃貸借契約の始期である平成3年6月28日から15年間の契約期間が満了する日である。)までの約1年5か月分の賃料であることは明らかであるが、この他に、2再賃貸のための改装費の負担の補償など中途解約に伴う一切の損害ないし費用も含まれるものである。
 以上によれば、上記1の損害賠償は、所得税法施行令第8条第3号に規定する業務の休止、転換又は廃止による当該業務に係る所得の補償に該当すると認められ、上記2の補償は、所得税基本通達2-37の(3)の「令第8条第2号に規定する不動産〔中略〕に係る損害賠償金その他これに類するもの」に該当すると認められる。
ロ そこで、本件返還不要保証金が3年以上の期間の補償に該当するかを判断すると、本件返還不要保証金については、その対象期間等の算出根拠が示されておらず、また、上記イのとおり、その1及び2とも補償金ないしこれに類する性質を有しているから、これを一体で臨時所得該当性を判断するのが相当であるところ、本件における事情の下においては、上記(1)のとおり、本件賃貸借契約の3年分の収入に相当するか否かをもって、臨時所得該当性を判断するのが相当である。
 そうすると、本件返還不要保証金50,000,000円を、本件賃貸料月額の1年当たりの収入金額に相当する金額25,200,000円(2,100,000円×12月=25,200,000円)で除し、補償期間を計算すると約2年(50,000,000円÷25,200,000円記号1.98年記号2年)となるから、本件返還不要保証金は、3年以上の期間の不動産所得の補償に当たるとは認められない。
 したがって、本件返還不要保証金は、臨時所得には該当しないことになる。

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(4) 請求人の主張について

イ 請求人は、所得税法施行令第8条第3号が規定する3年以上の期間の不動産所得等の補償として受ける補償金に係る所得に該当するか否かの判断は、非経常的な所得についての税負担を軽減するという臨時所得に対して適用される平均課税の立法趣旨及び中途解約により収入が得られなくなるという実情にかんがみ、過去3年分の不動産所得の金額の平均金額をもって臨時所得該当性を判定すべきである旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のとおり、不動産所得に対する補償は、収入についてなされるものであり、総収入金額から必要経費を控除した後の金額である不動産所得の金額についてなされるものではないから、所得税法施行令第8条第3号にいう不動産貸付業務に係る3年以上の期間の不動産所得の補償として受けたものかどうかは、本件における事情の下においては、上記(3)のとおり、3年分の不動産所得の金額に相当する金額の補償であるかではなく、当該不動産貸付業務に係る3年分の収入に相当する金額の補償であるか否かをもって判定するのが相当であるから、この点についての請求人の主張は採用できない。
ロ なお、請求人は、本件返還不要保証金が、損害賠償ではなく、過去の契約の清算に伴う債務免除益であることから、所得税法施行令第8条各号に掲げる各所得以外の「その他これらに類する所得」に当たり、その臨時所得該当性の判断に当たっては、前年以前3年間の不動産所得の金額の平均額の3年以上の額をもってすれば足りる旨主張するが、上記(3)のイのとおり、そもそも、本件返還不要保証金は、中途解約となった場合に生ずる賃貸人の損害を補償するために債務免除する旨、あらかじめ定められた条項により供された経済的利益と解され、損害賠償の趣旨を含まない単なる債務免除益とは解されないから、この点に関する請求人の主張は、その前提において採用することができない。
(5) 以上によると、本件返還不要保証金は臨時所得に該当しないから、上記(1)の1の要件を欠き、また、本件申告書には平均課税の適用を受ける旨の記載等がないことから、上記(1)の2の要件も欠くところ、当該記載がなかったことについてのやむを得ない事情は、当審判所の調査によっても認められないから、上記(1)の3の要件も欠いている。
 そうすると、請求人の場合、平均課税の適用を受けるために必要な各要件を欠いているから、更正の請求の要件である「申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、同申告書の提出により納付すべき税額が過大である場合」には当たらないことになる。
 したがって、本件更正の請求に対し、更正をすべき理由がない旨の通知をした本件通知処分は適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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