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(平20.2.28、裁決事例集No.75 288頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が行った金融先物取引に係る損益について、原処分庁が前年以前において生じた当該取引に係る損失の繰越控除を認めずに更正処分等を行ったのに対して、請求人がその処分の全部の取消しを求めた事案であり、争点は、請求人が行った金融先物取引について、租税特別措置法(平成19年3月30日法律第6号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第41条の14《先物取引に係る雑所得等の課税の特例》及び同法第41条の15《先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除》の規定を適用して、分離課税及び損失の繰越控除が認められるか否かである。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成19年12月28日請求)に至る経緯は、別表のとおりである(以下、平成17年分及び平成18年分を併せて「各年分」、各年分の所得税の各更正処分を「本件各更正処分」、各年分の過少申告加算税の各賦課決定処分を「本件各賦課決定処分」という。)。

(3) 関係法令

 関係法令は、別紙のとおりである。

(4) 基礎事実 

イ 請求人は、金融商品取引業者であるA社に平成13年5月24日付で外国通貨取引(以下「FX取引」という。)に係る口座開設申込書を提出し、同社との間で相対によりFX取引を行っており、請求人の平成13年分ないし平成18年分のFX取引に係る損益の額は、次のとおりである。

請求人 原処分庁 平成14年分 平成15年分 平成16年分 平成17年分 平成18年分
損益の額
1,712,300

△3,604,350

△6,442,530

△214,590

10,075,890

7,739,850

ロ 請求人が行ったFX取引は、請求人とA社との間で行われる相対取引であり、金融先物取引法第2条第4項に規定する店頭金融先物取引(以下「店頭金融先物取引」という。)に該当する。なお、同社は、金融商品取引業者であるが、金融先物取引法第2条第2項に規定する取引所金融先物取引(以下「取引所金融先物取引」という。)の取扱いを行っていない。

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2 主張

 当事者の主張は、次のとおりである。

原処分庁 請求人
(1) FX取引のうち金融先物取引所の開設する金融先物取引市場において行われる取引所金融先物取引については、措置法第41条の14及び同法第41条の15において、他の所得と区分して所得税を課する旨及び損失の繰越控除ができる旨が規定されているが、請求人がA社との間で行ったFX取引は、取引所金融先物取引ではなく、店頭金融先物取引に該当することから、同法第41条の14及び同法第41条の15の規定は適用されない。 (1) FX取引については、「店頭金融先物取引」も「取引所金融先物取引」と同様に分離課税及び損失の繰越控除を認めるべきである。
(2) 申告納税方式を採る所得税の確定申告は、納税者が自己の判断とその責任において行うものである。 (2) 平成13年5月24日にFX取引に係る口座を開設した時点において、所得税の申告に関し何ら取引業者から説明を受けておらず、国税当局の業者に対する説明・指導の怠慢である。

3 判断

(1) FX取引に係る所得の分離課税及び損失の繰越控除について

 請求人は、自己が行ったFX取引について、店頭金融先物取引に係る雑所得も取引所金融先物取引に係る雑所得と同様に、措置法第41条の14の分離課税の適用及び同法第41条の15の損失の繰越控除の適用が認められるべきである旨主張する。
 ところで、差金等決済に係る先物取引による雑所得等については、平成17年度の税制改正において、措置法第41条の14及び同法第41条の15の規定が改正され、先物取引に係る雑所得等の分離課税の適用及び先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除の適用について、その対象に、平成17年7月1日以後に行う取引所金融先物取引の差金等決済に係る雑所得等が追加されている。
 本件についてみると、上記1の(4)のロのとおり、請求人が行ったFX取引は、金融商品取引業者との間で相対で行った金融先物取引法第2条第4項に規定する店頭金融先物取引であり、金融先物取引所の開設する金融先物市場において行う取引所金融先物取引には該当しないのであるから、措置法第41条の14第1項の規定を適用する余地のないことは、法文に照らし明らかであり、請求人の各年分のFX取引に係る所得は、他の所得と区分して課税されるものではなく、他の所得と総合して課税されることとなるものである。また、同法第41条の15第1項に規定する先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除については、上記1の(3)のロのとおり、同法第41条の14第1項各号に掲げる先物取引の差金等決済に係る損失に限定してその適用を認めているところ、上記のとおり、請求人の行ったFX取引は取引所金融先物取引には該当しないことから、同法第41条の15第1項の規定は適用されない。
 さらに、金融先物取引に係る損失の繰越控除は、上記のとおり、平成17年7月1日以後に行う取引所金融先物取引の差金等決済に係る損失に限られるのであり、請求人の平成14年分ないし平成16年分に生じたFX取引に係る損失は、平成17年7月1日以後に行われた取引に係る損失ではないことから、FX取引が店頭金融先物取引に該当するか取引所金融先物取引に該当するかにかかわらず措置法第41条の15第1項の規定を適用する余地はなく当該損失の繰越控除は認められない。
 なお、措置法第41条の14及び同法第41条の15において金融先物取引のうち取引所金融先物取引を限定して規定しているが、店頭金融先物取引を取引所金融先物取引と同様に扱っていないことの適否又は合理性については、当審判所の審理の限りではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 また、請求人は、取引業者から所得税の申告に関する説明を受けていない旨主張するが、所得税は、納税者自らが法定申告期限までにする期限内申告により納税義務を確定させ、これを法定納期限までに納付する申告納税方式を採用しているところ、この申告納税制度の下では、納税者が、自己の判断と責任において、課税標準等及び税額等を法令の規定に従い計算し、適正な申告をすることが求められていることから、この点に関する請求人の主張には理由はない。

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(2) 本件更正処分について

イ 不動産所得及び給与所得の金額
 各年分の不動産所得及び給与所得の金額は、当審判所の調査によっても、請求人が各年分の所得税の確定申告書に記載した金額である別表の平成17年分不動産所得の金額○○○○円及び給与所得の金額○○○○円、平成18年分不動産所得の金額○○○○円及び給与所得の金額○○○○円が相当と認められる。
ロ 雑所得の金額
(イ) FX取引に係る雑所得の金額
 各年分のFX取引に係る雑所得の金額は、当審判所の調査によっても、上記1の(4)のイのとおりの金額であり、平成17年分10,075,890円、平成18年分7,739,850円が相当と認められる。
(ロ) FX取引以外の雑所得の金額
 各年分のFX取引以外の雑所得の金額は、当審判所の調査によっても、請求人が各年分の所得税の確定申告書に記載した金額である別表の平成17年分○○○○円、平成18年分○○○○円が相当と認められる。
(ハ) そうすると、各年分の雑所得の金額は、別表の「更正処分等」欄の平成17年分○○○○円、平成18年分○○○○円となる。
ハ 株式等に係る譲渡所得の金額
 平成17年分の株式等に係る譲渡所得の金額は、当審判所の調査によっても、請求人が平成17年分の所得税の確定申告書に記載した金額である別表の○○○○円が相当と認められる。
ニ 総所得金額及び株式等に係る譲渡所得の金額
 平成17年分の総所得金額は、別表の「更正処分等」欄の不動産所得、給与所得及び雑所得の金額を合計した金額の○○○○円、同年分の株式等に係る譲渡所得の金額は、別表の「更正処分等」欄の○○○○円となり、平成18年分の総所得金額は不動産所得、給与所得及び雑所得の金額を合計した金額の○○○○円となる。
ホ 本件各更正処分
 各年分の総所得金額等の金額及び平成17年分の株式等の譲渡所得の金額は、上記ニのとおりであり、また、所得控除の金額及び納付すべき税額については、当審判所の調査によってもいずれも原処分の金額と同額となることから、本件各更正処分は適法である。

(3) 本件各賦課決定処分について

 本件各更正処分は、上記(2)のホのとおり適法であり、また、本件各更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定により過少申告加算税の賦課決定処分をした本件各賦課決定処分は適法である。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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