(平22.9.2裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が損金の額に算入した使用人に対する未払の決算賞与について、原処分庁が、当該決算賞与は実際に支払った日の属する事業年度において損金の額に算入すべきであるとして法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該決算賞与はその対象とした事業年度の利益に対応した費用として事業年度末日に債務が確定するから当該各事業年度において損金の額に算入すべきである等として、その処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成17年2月1日から平成18年1月31日まで、平成18年2月1日から平成19年1月31日まで、平成19年2月1日から平成20年1月31日まで及び平成20年2月1日から平成21年1月31日までの各事業年度(以下、順次「平成18年1月期」、「平成19年1月期」、「平成20年1月期」及び「平成21年1月期」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成21年11月30日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり、上記イの各事業年度の各更正処分並びに平成18年1月期、平成20年1月期及び平成21年1月期の過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
 なお、上記の各更正処分のうち、平成19年1月期の更正処分を除いた各更正処分を併せて、以下「本件各更正処分」という。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として平成22年1月27日に審査請求をした。

(3) 関係法令の要旨

 平成22年政令第51号による改正前の法人税法施行令第72条の5《使用人賞与の損金算入時期》(平成18年1月期については平成18年政令第125号による改正前の第134条の2。以下「本件施行令」という。)は、法人がその使用人に対して支給する賞与について、下記イないしハに掲げる賞与の区分に応じ、それぞれに定める事業年度において支給されたものとして、その法人の各事業年度の所得の金額を計算する旨規定している。
イ 労働協約又は就業規則により定められる支給予定日が到来している賞与(使用人にその支給額が通知されているもので、かつ、当該支給予定日又は当該通知をした日の属する事業年度においてその支給額につき損金経理をしているものに限る。以下、この賞与を「第1号賞与」という。)については、当該支給予定日又は当該通知をした日のいずれか遅い日の属する事業年度
ロ 次に掲げる要件のすべてを満たす賞与(以下、この賞与を「第2号賞与」という。)については、使用人にその支給額の通知をした日の属する事業年度
(イ) その支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受けるすべての使用人に対して通知をしていること。
(ロ) 上記(イ)の通知をした金額を当該通知をしたすべての使用人に対し当該通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1月以内に支払っていること。
(ハ) その支給額につき上記(イ)の通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること。
ハ 上記イ及びロに掲げる賞与以外の賞与(以下、この賞与を「第3号賞与」という。)については、当該賞与が支払われた日の属する事業年度

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成18年1月期、平成20年1月期及び平成21年1月期の各事業年度(以下、これらの各事業年度を併せて「本件各事業年度」という。)において、使用人に対する決算賞与につき、別表2の「計上日(相手科目)」欄の各日付で同表の「計上金額」欄の各金額を損金の額に算入した(以下、請求人が本件各事業年度において計上した決算賞与を「本件各決算賞与」という。)。
ロ 本件各決算賞与の支給総額は、本件各事業年度の税引前純利益に11.5パーセントの割合を乗じた金額を基に算出され、各人に対する支給割合は、別表2の「各人に対する支給割合」欄の各割合のとおりとなっている。
ハ 本件各決算賞与は、いずれも計算の対象とした本件各事業年度終了の日において支給されておらず、別表2の「計上日(相手科目)」欄の各科目のとおり、未払金又は未払費用として経理され、同表の「支給日」欄の各日付に支給されている。
ニ 請求人における就業規則(平成18年4月1日現在のもの。以下「本件就業規則」という。)には、12月(上半期)及び6月(下半期)に支給する賞与についての定めはあるが、決算賞与についての定めはない。

(5) 争点

 本件の争点は、本件各決算賞与が本件各事業年度の損金の額に算入できるか否かである。

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2 主張

(1) 請求人

 原処分は、次の理由により違法である。
イ 本件施行令については法令の委任にあたる法文上の規定がなく、法令の委任を受けているとはいえない。また、法人税法第65条《各事業年度の所得の金額の計算の細目》による委任を受けた規定であるとしても同条は委任の範囲・限界が明らかでないから白紙委任に等しく、このような包括的な委任は許されない。したがって、本件施行令は、日本国憲法(以下「憲法」という。)第41条《国会の地位》、同法第73条《内閣の職務権限》第6号及び同法第84条《課税の要件》に反するものであり、本件施行令に基づく原処分は違法である。
ロ 仮に、本件施行令が違法でないとしても、本件施行令の制定趣旨は法人の利益調整を防止する要請からなされているものであるから、利益調整でないことが明らかな本件各決算賞与については本件施行令によらず損金の帰属年度を判断すべきである。請求人の場合、事業年度終了の日において税引前利益が生じることにより決算賞与に係る債務が自動的に確定するから、本件各決算賞与は本件各事業年度の損金の額に算入されるべきである。

(2) 原処分庁

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件施行令は、法人税法第65条の委任を受けた規定である。本件施行令は、使用人賞与の支給実態にかんがみ、所得金額の計算の明確及び課税の公平を確保するため、使用人賞与の損金算入時期を定めたものと解されるから、本件各決算賞与の額を各事業年度の損金の額に算入することができるか否かは本件施行令によって判断するのが相当である。
ロ 本件各決算賞与は、就業規則により定められる支給予定日が到来している賞与ではないから、第1号賞与には該当せず、また、請求人が本件各決算賞与の使用人ごとの支給額を請求人の各使用人に通知したか否かは明らかでないものの、本件各決算賞与は、本件各事業年度終了の日の翌日から1月を経過した日後に支払われていることから、第2号賞与にも該当しない。
 したがって、本件各決算賞与は第3号賞与に該当し、本件各決算賞与が実際に支払われた日の属する事業年度の損金の額に算入することとなる。

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3 判断

(1) 本件各決算賞与が本件各事業年度の損金の額に算入できるか否かについて

イ 法令解釈
 本件施行令は、上記1の(3)のとおり規定しており、使用人賞与については、原則として、実際に支給をした日の属する事業年度の損金の額に算入する(第3号賞与)こととしつつ、その例外として、法人が資金繰りが悪化している等の事情で賞与が未払状態になっている場合には、たとい未払いであっても損金の額に算入することとし(第1号賞与)、また、一般に、賞与はその支給額を通知するとほぼ同時に支給されるのが慣例になっているものの、事業年度終了の日において各人別に支給額が通知され、たまたま支給が遅れているような場合にまで一切損金算入を認めないのは適当ではないことから、一定範囲で通知をした日の属する事業年度においても損金の額に算入することを認めた上で、取扱いの統一性を確保しし意性を排除する観点から、各人別に、かつ、同時期に支給を受けるすべての使用人に対して支給額を通知していること、1月以内の支給及び損金経理を要件として規定した(第2号賞与)ものと解される。
 上記のとおり、本件施行令は、使用人賞与の実情や支給実態にかんがみ、使用人賞与の損金算入時期を具体的に定めるとともに、これを使用人賞与一般についての統一的な基準として規定することにより、課税の明確性及び統一性を図ったものであり、使用人賞与の損金算入に関し、法人税法第22条第3項第1号及び第2号について、その施行のために必要な技術的、細目的事項を定めたものであると解されるから、使用人賞与の損金算入時期については、本件施行令の規定に従って判断することとなる。
ロ あてはめ
(イ) 第1号賞与又は第2号賞与の該当性
 第1号賞与に該当するためには、賞与について労働協約又は就業規則により定められる支給予定日が到来していることが要件とされている。
 本件各決算賞与については、上記1の(4)のニのとおり、本件就業規則に基づく賞与規定において具体的な決算賞与の支給予定日は定められていないことから、本件各事業年度終了の日において、労働協約又は就業規則で定められた支給予定日が到来しているとは認められず、第1号賞与には該当しない。
 また、請求人は、本件各決算賞与について、上記1の(4)のハのとおり、本件各事業年度終了の日の翌日から1月以内に使用人へ支払っていないことから、本件各決算賞与は第2号賞与にも該当しない。
(ロ) 本件各事業年度における損金算入の適否
 本件各決算賞与は、上記(イ)のとおり、第1号賞与又は第2号賞与のいずれにも該当せず、第3号賞与に該当することとなる。
 したがって、本件各決算賞与は、上記1の(3)のハのとおり、実際に支払われた日の属する事業年度において損金の額に算入されることとなるから、本件各事業年度の損金の額に算入することはできない。

(2) 請求人の主張について

イ 請求人は、本件施行令は憲法第41条、同法第73条第6号及び同法第84条に反しており、本件施行令に基づく原処分は違法である旨主張する。
 当審判所は、原処分庁の行った処分が国税に関する法令に反する違法又は不当な処分であるかを判断する機関であって、その処分の基となった法令自体の合憲又は違憲を判断することは、その権限に属さないことであるので、この点に関する請求人の主張については当審判所の審理の限りではない。
ロ 請求人は、仮に、本件施行令が違法でないとしても、本件施行令の制定趣旨は法人の利益調整を防止する要請からなされているものであるから、利益調整でないことが明らかな本件各決算賞与については本件施行令によらず損金の帰属年度を判断すべきである旨主張する。
 しかしながら、本件施行令の趣旨は、上記(1)のイのとおり、使用人賞与の実情や支給実態にかんがみ、使用人賞与の損金算入時期を具体的に定めるとともに、これを使用人賞与一般についての統一的な基準として規定することにより、課税の明確性及び統一性を図ったものであり、本件施行令が、使用人賞与の損金算入に関し、法人税法第22条第3項第1号及び第2号について、その施行のために必要な技術的、細目的事項を定めたものであると解されることからすれば、本件各決算賞与の損金算入の時期についても、本件施行令の規定に従って判断すべきであるから、請求人の主張は採用できない。

(3) 本件各更正処分について

 上記(1)のとおり、本件各決算賞与は、本件各事業年度の損金の額に算入できず、別表2の「支給日」欄の日の属する事業年度において損金の額に算入されるべきであるから、本件各更正処分はいずれも適法である。

(4) 平成19年1月期の更正処分について

 請求人は、平成19年1月期の更正処分についても全部の取消しを求めているが、当該更正処分は、別表1記載のとおり、当該事業年度の欠損金額を増額させる更正処分であり、請求人の権利又は利益を侵害するものとはいえない。
 したがって、請求人には、平成19年1月期の更正処分の取消しを求める利益はなく、当該更正処分に対する審査請求は、請求の利益を欠く不適法なものである。

(5) 本件各賦課決定処分について

 上記(3)のとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、本件各事業年度については、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実がその各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条第1項の規定による本件各賦課決定処分は適法である。

(6) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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