(平成23年6月7日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、医療法人である審査請求人(以下「請求人」という。)が、大学病院から派遣を受けた医師等に対して支払った給与から、所得税として10パーセントの金額を源泉徴収し、納付したところ、原処分庁が、当該給与について徴収すべき所得税の額は、いわゆる日額表に掲げる税額とすべきであるとして行った納税告知処分等に対し、請求人が、月額表に掲げる税額とすべきであるとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、請求人に対し、平成22年4月7日付で、別表1の「当初処分」欄記載のとおり、源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分をした。
ロ 請求人は、これらの処分に不服があるとして、平成22年6月3日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年8月31日付で別表1の「異議決定」欄記載のとおり、平成17年3月分から同年9月分、平成18年11月分から平成21年8月分の源泉所得税の各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分の一部を取り消し、その他の異議申立てを棄却する異議決定をした(以下、平成22年8月31日付でされた異議決定により一部につき取り消された後の各納税告知処分を「本件各納税告知処分」、不納付加算税の各賦課決定処分を「本件各賦課決定処分」といい、本件各納税告知処分と併せて「本件各納税告知処分等」という。)。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の本件各納税告知処分等に不服があるとして、平成22年9月28日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 別紙2のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、昭和62年3月○日に設立された医療法人であり、G病院を経営している。
ロ 請求人は、平成17年3月から平成21年8月までの期間において、H大学医学部から派遣される医師(以下「大学派遣医」という。)及び請求人と医師個人との契約等により勤務する医師(以下「個人契約医」といい、大学派遣医と併せて「本件派遣医」という。)に対して給与(以下「本件給与」という。)を支払っていた。
ハ 請求人は、本件給与の額の10パーセント相当の金額を源泉所得税として徴収し、法定納期限までに納付した。
ニ 本件派遣医の中に、所得税法第194条《給与所得者の扶養控除等申告書》及び同法第195条《従たる給与についての扶養控除等申告書》に規定する扶養控除等申告書(以下「扶養控除等申告書」という。)を請求人に提出した者はいない。

(5) 争点

 本件給与に係る源泉所得税の額は、月額表又は日額表に掲げる税額のいずれとすべきか。

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2 主張

(1) 原処分庁

 本件給与に係る源泉所得税の額は、以下の区分に応じ、日額表の乙欄又は丙欄に掲げる税額とすべきである。
イ 大学派遣医の給与について
 請求人は、大学派遣医に関して、H大学に対し事前に派遣を希望する日時等を記載した派遣要望に係る書面(以下「派遣要望書」という。)を提出し、これに基づいてH大学から医師が派遣されることが原則となっているところ、大学派遣医の給与は、請求人とH大学との間で口頭によって取り決められ、勤務した日ごとに支払われることから、当該給与に係る源泉所得税の額は、所得税法第185条第1項第2号ホの規定に基づき、日額表の乙欄に掲げる税額とすべきである。
 この点について、請求人は、大学派遣医の給与に係る源泉所得税の額は、本件個別通達の「支払基準」のまる1「月間の給与総額をあらかじめ定めておき、これを月ごとに又は派遣を受ける都度分割して支払うこととするもの」に該当するから、月額表の乙欄に掲げる税額とすべきである旨主張するが、大学派遣医の給与は、その勤務した日ごとに支払っているのであって、月間の給与総額があらかじめ定められているという事実は認められない。
ロ 個人契約医の給与について
(イ) J医師の給与
 J医師は、口頭による取決めに基づき毎月特定の日に勤務していたと認められるものの、給与はその勤務した日ごとに支払われていたと認められることから、当該給与に係る源泉所得税の額は、所得税法第185条第1項第2号ホの規定に基づき、日額表の乙欄に掲げる税額とすべきである。
 この点について、請求人は、J医師への給与は、本件個別通達の支払基準のまる1「月間の給与総額をあらかじめ定めておき、これを月ごとに又は派遣を受ける都度分割して支払うこととするもの」に該当するから、月額表の乙欄に掲げる税額を源泉徴収すべきである旨主張するが、J医師への給与は、その勤務した日ごとに支払われているのであって、月間の給与総額があらかじめ定められているという事実は認められない。
(ロ) K医師の給与
 K医師は、あらかじめ定められた日又は時間に勤務するのではなく、必要となった場合に随時勤務するというものであり、また、その給与は、その勤務した日ごとに支払っていることから、K医師に対する給与は、日日雇い入れられる者が支払を受ける給与等に該当するから、所得税法第185条第1項第3号の規定に基づき日額表の丙欄に掲げる税額を源泉徴収すべきである。

(2) 請求人

 本件給与に係る源泉所得税の額は、以下の区分に応じ、いずれも月額表の乙欄に掲げる税額とすべきである。
イ 大学派遣医の給与について
(イ) 大学派遣医は、勤務する月の前月までに、H大学から送付されたシフト表などによって月ごとの勤務回数が確定しており、ほとんどは月1回の勤務である。したがって、大学派遣医の給与の支払については、所得税法第185条第1項第2号イに規定する「給与等の支給期が毎月と定められている場合」に該当すると考えられるから、月額表の乙欄に掲げる税額を源泉徴収すべきである。
 なお、月2回の勤務であっても、これら勤務した日ごとに支払われる給与の実態は、「月に2回勤務することをあらかじめ取り決めたうちの第1回目の勤務に基づく支払と第2回目の勤務に基づく支払」であり、このことは、「給与の支給期が毎月と定められている場合」に該当すると判断できるから、月額表の乙欄に掲げる税額を適用して源泉徴収すべきである。月3回の勤務であっても同様に判断すべきである。
(ロ) 仮に、月2回又は3回の勤務に基づき、勤務した日ごとに支払われる給与が、「給与等の支給期が毎月と定められている場合」に該当しないとしても、月2回の勤務であることは、所得税法第185条第1項第2号ロに規定する「給与等の支給期が毎半月と定められている場合」に該当し、月3回の勤務であることは、同条第1項第2号ハに規定する「給与等の支給期が毎旬と定められている場合」に該当するから、いずれにしても月額表の乙欄に掲げる税額を源泉徴収すべきである。
(ハ) また、上記(イ)のとおり、大学派遣医の給与については、確定した勤務回数に事前に取り決められた勤務1回当たりの給与の額を乗じた金額が、その月の給与総額としてあらかじめ定められていたということができ、本件個別通達の支払基準のまる1「月間の給与総額をあらかじめ定めておき、これを月ごとに又は派遣を受ける都度分割して支払うこととするもの」に該当するから、月額表の乙欄に掲げる税額を源泉徴収すべきである。
ロ 個人契約医の給与について
(イ) J医師の給与
A J医師は、請求人との契約により、毎月第2、第4木曜日の午前9時から午後5時までの月2回、請求人の病院に勤務しており、これら勤務した日ごとに支払われる給与の実態は、「月に2回勤務することをあらかじめ取り決めたうちの第1回目の勤務に基づく支払と第2回目の勤務に基づく支払」であり、このことは、「給与の支給期が毎月と定められている場合」に該当すると認められることから、月額表の乙欄に掲げる税額を源泉徴収すべきである。
B 仮に、月2回の勤務に基づき、勤務した日ごとに支払われる給与が、「給与等の支給期が毎月と定められている場合」に該当しないとしても、月2回の勤務であることは、所得税法第185条第1項第2号ロに規定する「給与等の支給期が毎半月と定められている場合」に該当するから、いずれにしても月額表の乙欄に掲げる税額を源泉徴収すべきである。
C また、J医師の給与については、請求人と契約した際に勤務する月における勤務回数が2回と確定しており、当該勤務回数に事前に取り決められた勤務1回当たりの給与の額を乗じた金額が、その月の給与総額としてあらかじめ定められていたということができる。したがって、当該給与は、本件個別通達の支払基準のまる1「月間の給与総額をあらかじめ定めておき、これを月ごとに又は派遣を受ける都度分割して支払うこととするもの」にも該当することから、月額表の乙欄に掲げる税額を源泉徴収すべきである。
(ロ) K医師の給与
 K医師は、臨時的に医師が必要となった場合に勤務を依頼していたものであり、年に数回勤務を依頼するが、月でみれば1回限りの勤務である。したがって、この給与の支払は、「給与等の支給期が毎月と定められている場合」に該当すると認められることから、月額表の乙欄に掲げる税額を源泉徴収すべきである。

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3 判断

(1) 法令解釈等

イ 所得税法第185条第1項第2号は、扶養控除等申告書を提出していない居住者に対し支払う給与等について源泉徴収すべき所得税額は、支給期が毎月、毎半月、毎旬及び月の整数倍ごとと定められているものは月額表の乙欄、支給期が毎日と定められているものは日額表の乙欄に掲げる税額とする旨規定している。
 また、同項第3号は、労働した日又は時間によって算定され、かつ、労働した日ごとに支払を受ける給与等で政令で定めるものは、日額表の丙欄に掲げる税額とする旨規定し、所得税法施行令第309条は、労働した日ごとに支払を受ける給与等とは日日雇い入れられる者が支払を受ける給与等(一の給与等の支払者から継続して二月をこえて支払を受ける場合におけるその二月をこえて支払を受けるものを除く。)である旨規定している。
ロ 本件個別通達は、派遣医の給与について源泉徴収を行う場合には、当該給与が、まる1月間の給与総額をあらかじめ定めておき、これを月ごとに又は派遣を受ける都度分割して支払うこととするもの、まる2月中に支払うべき給与をまとめて月ごとに支払うこととするもの、との支払基準による場合には、月額表を適用することとして差し支えない旨定めている。
 これは、派遣医に対する給与の支払については、派遣を受ける都度支払うものであっても月間の給与総額をあらかじめ定めておく場合や、その月中に支払うべき給与をまとめて月ごとに支払うという形態をとる給与は、月を基礎として支払われる給与というべきであるから、所得税の源泉徴収に当たっては、月額表を適用できる旨を明らかにしたものであり、この取扱いは、所得税法第185条の規定に沿うものとして、当審判所においても相当と認められる。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 大学派遣医について
(イ) 請求人は、H大学に対し、主に土曜日、日曜日及び祝日などの休日に24時間連続勤務する医師(以下「派遣当直医」という。)については四半期ごとに、主に土曜日の特定の時間帯に勤務する医師(以下「派遣日直医」という。)については半年ごとに、派遣要望書を提出していた。
(ロ) H大学は、派遣要望書を受けて、請求人に派遣する医師の氏名及び派遣日等を記載した書面を作成し、請求人に送付していたが、送付されないこともあった。
(ハ) 医師の派遣予定が、請求人の同意がなくとも関係する医師の間で自由に変更できるという常態にあったため、請求人は、派遣日当日になってはじめて実際に勤務する大学派遣医が誰であるかを知るということがあった。
(ニ) 請求人は、H大学との間で、勤務1回当たり、派遣当直医は、基本給にその他手当を含めた○○○○円、派遣日直医は○○○○円とする旨口頭により給与額を取り決め、当該給与を勤務した日ごとに支払っていた。
ロ 個人契約医について
(イ) J医師
A J医師は、平成10年6月1日付で、契約期間を平成10年6月1日から平成11年5月31日までとして毎週木曜日に勤務する旨の契約を請求人との間で取り交わし、その後も継続して平成17年12月まで勤務していた。なお、同医師の平成17年3月から同年12月までの間の勤務日は、各月第2及び第4木曜日の2日であった。
B 給与の額は、勤務1回当たり○○○○円であり、勤務した日ごとに支払っていた。
(ロ) K医師
A K医師は、請求人が臨時的に医師が必要となった場合に勤務しており、その勤務実績は、平成19年3月に1回、同年7月に1回、同年9月から12月の各月に各1回、平成20年12月に1回であった。
B 給与の額については、依頼する都度取り決めており、勤務する日又は勤務時間等によって異なっていた。なお、その支払は、勤務した日ごとであった。

(3) 本件給与に係る源泉徴収に当たり、適用すべき税額表について

イ 大学派遣医の給与について
 ここでいう大学派遣医の給与とは、特定された大学派遣医個人に対して請求人が支払う給与をいうところ、請求人は、上記(2)イ(ニ)のとおり、H大学との間で勤務1回当たりの額という形で大学派遣医の給与の額を定め、上記(2)イ(イ)及び(ロ)のとおり、大学派遣医の勤務予定については四半期又は半年という期間ごとに一応決定されていたにすぎず、上記(2)イ(ハ)のとおり、実際に勤務する医師が誰であるか勤務直前になるまで分からないのであるから、特定された大学派遣医の勤務回数が毎旬などの一定の期間で何回になるか事前に確定しているとはいえず、事前に特定の大学派遣医の一定期間の給与総額が確定していることにはならない。すなわち、勤務した日ごとに支払っている特定の大学派遣医の給与は、勤務した日ごとに定められているということができる。
 そうすると、大学派遣医の給与は、「給与等の支給期が毎日と定められている場合」に該当するものと認められるから、日額表の乙欄に掲げる税額を源泉徴収すべきである。
 請求人は、月ごとの勤務回数が確定していることや月の勤務回数が1回から3回であることなどから、大学派遣医の給与が、「給与等の支給期が毎月と定められている場合」、「給与等の支給期が毎半月と定められている場合」、「給与等の支給期が毎旬と定められている場合」、又は、本件個別通達の定める場合に該当するから、いずれにしても月額表の乙欄に掲げる税額を源泉徴収すべきである旨主張する。
 しかしながら、上記のとおり、大学派遣医の給与は、勤務した日の給与の日額がその勤務した日ごとに支払われていることが認められるのであって、毎月、毎半月、毎旬などの一定期間ごとという形で支払期を定めたものではないから、偶然に1か月の勤務回数が1回、若しくは2回又は3回になったからといって、月1回の勤務に対しその日に支払われる給与が「給与等の支給期が毎月と定められている場合」に該当するとはいえないし、月2回又は月3回の勤務に対し支払われる給与が「給与等の支給期が毎半月と定められている場合」又は「給与等の支給期が毎旬と定められている場合」に該当するとはいえず、本件個別通達の定める場合にも該当するとはいえないのであるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ロ 個人契約医の給与について
(イ) J医師の給与
 J医師については、上記(2)ロ(イ)のとおり、勤務日を毎週木曜日として1年間継続して請求人に勤務する旨の契約を取り交わし、その後勤務を続け、平成17年3月から同年12月までの間は、継続して第2及び第4木曜日に勤務していたのであるから、請求人とJ医師との間においては、毎月一定日数勤務することをあらかじめ取り決めてあったということができる。そうすると、同医師の給与が勤務1回当たりの金額を基礎に算定されていたとしても、同医師の毎月の給与総額は、あらかじめ確定していたということができるから、勤務した日ごとに定額の給与の支払を受けていても、同医師の給与については、本件個別通達に定める「月間の給与総額をあらかじめ定めておき、これを月ごとに又は派遣を受ける都度分割して支払うこととするもの」との支払基準に該当するものと認められる。したがって、J医師の給与については、所得税法第185条第1項第2号イの規定に基づき、月額表の乙欄に掲げる税額を源泉徴収すべきである。
(ロ) K医師の給与
 K医師については、上記(2)ロ(ロ)のとおり、請求人の病院に継続して勤務する取決めはなく、請求人の依頼に基づいて臨時的に勤務し、勤務1回当たりの給与についてもその都度取り決めていたというのであるから、日日雇い入れられる者に対して労働した日によって算定した額を労働した日ごとに支払っている給与であると認められる。したがって、K医師の給与については、所得税法第185条第1項第3号の規定に基づき、日額表の丙欄に掲げる税額を源泉徴収すべきである。
 この点について、請求人は、K医師の勤務実績は月1回限りであり、月1回限りの勤務という暗黙の了解があったといえるから、「給与等の支給期が毎月と定められている場合」に該当する旨主張するが、上記認定事実に照らせば、月の勤務が1回であることのみをもって、臨時的な勤務につきその勤務した月に支払われる給与が、給与等の支給期が毎月と定められている場合に該当するなどということはできないから、この点に関する請求人の主張は採用できない。

(4) 本件各納税告知処分について

 上記(3)ロ(イ)のとおり、J医師の平成17年3月から平成17年12月までの給与については、月額表の乙欄に掲げる税額を源泉徴収すべきであるから、当審判所において、同期間に対応する給与所得の源泉徴収税額表(月額表)の乙欄を適用して再計算したところ、源泉徴収すべき所得税の額は、別表2の「審判所認定額」欄記載のとおりとなる。
 したがって、本件各納税告知処分のうち平成17年3月から平成17年12月までの各納税告知処分については、別紙1の「取消額等計算書」のとおり、いずれもその一部を取り消すべきである。

(5) 本件各賦課決定処分について

 上記(4)のとおり、本件各納税告知処分のうち平成17年3月から平成17年12月までの各納税告知処分についてはいずれもその一部を取り消すべきであるから、本件各賦課決定処分のうち同期間に係る不納付加算税については、別紙1の「取消額等計算書」のとおり、いずれもその一部を取り消すべきである。

(6) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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