(平成23年4月1日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人P1、同P2、同P3、同P4、同P5、同P6及び同P7(以下それぞれ「請求人P1」、「請求人P2」、「請求人P3」、「請求人P4」、「請求人P5」、「請求人P6」及び「請求人P7」といい、これら7名を併せて「請求人ら」という。)が相続により取得した土地の価額について実額評価法等により算定し相続税の申告をしたところ、原処分庁が財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。ただし、平成18年10月27日付課評2−27ほかによる改正前のものをいい、以下「評価基本通達」という。)に基づく評価方法等により算定した価額で相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行ったことから、請求人らが評価基本通達によらないで評価すべき特別な事情がある等としてその一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人らは、平成18年7月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したP8(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人であり、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、別表1の「申告」欄のとおり記載した相続税の申告書を法定申告期限までに提出した。
ロ また、請求人P5、請求人P6及び請求人P7は、同人らの相続税額の計算において、相続税法第18条《相続税額の加算》に規定する相続税額の加算をしていなかったなどとして、別表1の「訂正申告」欄のとおり記載した本件相続税の訂正申告書を法定申告期限までに提出した。
ハ 原処分庁は、請求人P1、請求人P2、請求人P3、請求人P4、請求人P5及び請求人P6に対し平成21年11月17日付で、また、請求人P7に対し平成21年11月26日付で課税価格及び納付すべき税額を別表1の「更正処分等」欄のとおりとする本件相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ニ 請求人らは、平成22年1月15日、上記ハの各処分を不服として、異議申立てをした。
ホ これに対し、異議審理庁は、平成22年3月15日付で、一部の土地については広大地として評価すべきである等として、本件相続税について、別表1の「異議決定」欄のとおり、請求人P1及び請求人P5について各更正処分の一部及び過少申告加算税の各賦課決定処分の一部を取り消す旨の、請求人P2、請求人P3、請求人P4、請求人P6及び請求人P7に対する各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分に対する各異議申立てをそれぞれ棄却する旨の各異議決定をした(以下、異議決定後の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を、それぞれ「本件各更正処分」及び「本件各賦課決定処分」という。)。
ヘ 請求人らは、平成22年4月14日、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして審査請求をした。
 なお、請求人らは、同日、請求人P1を総代として選任し、その旨を届け出た。
ト その後、原処分庁は、請求人P2、請求人P3及び請求人P4に対し、平成22年4月28日付で別表1の「再更正処分等」欄のとおりの各更正処分を、請求人P6及び請求人P7に対し、平成22年4月28日付で別表1の「再更正処分等」欄のとおり、各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした(以下、これらの各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を、それぞれ「本件各再更正処分」及び「本件各再賦課決定処分」といい、これらを併せて「本件各再更正処分等」という。)。
チ そこで、国税通則法第104条《併合審理等》第2項の規定に基づき、本件各再更正処分等についてもあわせ審理する。

(3) 関係法令等の要旨

 別紙11のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 相続について
(イ) 本件相続に係る法定相続人は、本件被相続人の妻のP9、同長女の請求人P2、同二女の請求人P3、同三女の請求人P4、同長男の請求人P1、同養子の請求人P5、同養子の請求人P6及び同養子の請求人P7の8名(以下、これら8名を「本件各相続人」という。)である。
(ロ) 本件各相続人間で、遺産分割協議が成立し、土地(以下「本件各土地」という。本件各土地について、別表2のとおり、同表の「略号」欄に記載した順にそれぞれ「本件A土地」、「本件B土地」、「本件C土地」、「本件D土地」、「本件E土地」、「本件F土地」「本件G1土地」、「本件G2土地」、「本件H1土地」、「本件H北側土地」、「本件H南側土地」、「本件I土地」、「本件J土地」、「本件K土地」、「本件L土地」、「本件M土地」、「本件N1土地」、「本件N2土地」、「本件N3土地」、「本件N4土地」、「本件N5土地」及び「本件N6土地」という。なお、「本件H北側土地」と「本件H南側土地」を併せて「本件H2土地」という。)については、後記ロの(イ)のとおり分割された。
 なお、本件F土地及び本件H1土地については、本件審査請求において争いはない。
ロ 本件各土地について
(イ) 本件各土地の取得関係は、別表2「本件相続に係る取得者」欄記載のとおりである。
(ロ) 本件各土地の明細は、別表2の各欄のとおりである。
(ハ) 本件被相続人は、本件N1土地ないし本件N6土地について、別表3のとおり、いずれも借地権の存続期間を50年とする一般定期借地権(借地借家法第22条《定期借地権》)の設定契約を締結している。
(ニ) 本件被相続人は、上記(ハ)の本件N1土地ないし本件N6土地の一般定期借地権の設定に係る保証金を、別表3の「保証金受渡日」欄及び「保証金の額」欄のとおり、それぞれの借地権者から受領した。

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2 争点

 争点は次のとおりである。

(1) 争点1 評価基本通達の定めにより難い特別な事情があるか否か(本件E土地、本件G1土地、本件G2土地、本件H2土地、本件I土地ないし本件M土地)。

(2) 争点2 評価基本通達40−2《広大な市街地農地等の評価》に定める広大な市街地農地として評価することの適否(本件A土地ないし本件D土地)。

(3) 争点3 一般定期借地権の目的となっている宅地の評価(本件N1土地ないし本件N6土地)。

(4) 争点4 一般定期借地権契約に係る預り保証金の評価。

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3 争点1(評価基本通達の定めにより難い特別な事情があるか否か−本件E土地、本件G1土地、本件G2土地、本件H2土地、本件I土地ないし本件M土地)について

(1) 主張

イ 請求人ら
 本件E土地、本件G1土地、本件G2土地、本件H2土地、本件I土地ないし本件M土地については、以下のとおり、いずれも、評価基本通達の定めにより難い特別な事情があるから、下記の方法により評価すべきである。
(イ) 開発を想定した場合に係る造成費用等を控除し評価する方法
A 本件E土地
 水道、ガス、給排水設備、駐車場等の備わっている土地(完成宅地)と備わっていない土地(未完成宅地)には客観的交換価値に差があるところ、未完成宅地である本件E土地の原処分庁による評価額は完成宅地の本件N1土地ないし本件N6土地の評価額の合計額より高額になっている。このような評価は、本件E土地の客観的交換価値に合致しないものであるから、評価基本通達によらないことが正当として是認されるような特別な事情がある。
 したがって、評価対象地を開発するとした場合の想定の利用図を基に土地を分割した上でその分割された区画ごとに、路線価及び各種の補正率を基に土地の評価額を計算し、実際に要すると見込まれる水道、ガス等の給排水等の設備費用及び土地の造成費の見積額を控除する、というそれぞれの土地を開発した場合の想定の利用図及び実額の造成費等を基に算定する評価方法(以下「実額評価法」という。)により本件E土地を評価すべきである。
B 本件H2土地
 財産評価の大原則は、客観的交換価値の的確な評価であり、客観的交換価値を把握するためには、開発経費、特に造成費を考慮する必要がある。そして、本件H2土地は、北側と東側に急傾斜のがけ地があり、多額の宅地造成費が発生すると見込まれるから、評価基本通達によらないことが正当として是認されるような特別な事情がある。
 したがって、本件H2土地は、実額評価法により評価すべきである。
C 本件J土地
 本件J土地は、伐採工事、土留工事、雨水及び汚水工事、水道工事、道路舗装工事並びに車庫工事が必要な土地であり、評価基本通達に定められた宅地造成費だけでは宅地として完成した土地にはならず、その評価額での土地取引は難しいことから、評価基本通達によらないことが正当として是認されるような特別な事情がある。
 したがって、本件J土地は実額評価法により評価すべきである。
D 本件M土地
 本件M土地を宅地として完成した土地にするためには、ブロック積立ての土留工事、雨水工事、水道工事、車庫工事及び公道復旧工事等の工事を必要とすることから、評価基本通達によらないことが正当として是認されるような特別な事情がある。
 したがって、本件M土地は実額評価法により評価すべきである。
(ロ) 実額評価法により求めた金額の50%相当額とする評価方法
A 本件G1土地及び本件G2土地
 本件G1土地及び本件G2土地は、進入通路が狭く通路拡幅のための土地が必要であること、水道及びガス工事並びに新規に道路を敷設する工事費が必要であること、包丁のような形状の不整形地であるため、多額の宅地造成費及び諸経費が発生すること、また、本件G1土地及び本件G2土地は併せて宅地開発するものであり、開発によって私道は潰れ地になるという事情があることから、評価基本通達によらないことが正当として是認されるような特別な事情がある。
 そして、上記のような特殊性にかんがみれば、当該土地の評価の安全性を考慮して、実額評価法により評価した金額の50%相当額で評価すべきである。
 また、本件G1土地及び本件G2土地は一体として評価すべきである。
B 本件I土地
 本件I土地は、平坦部分がなく、南側から北側にかけて2.5メートル傾斜しており、当該土地の北側部分の隣地は急傾斜のがけ地になっていることから、完成宅地とするには、杭打工事、土留工事、盛土工事、更に水道等の設備工事の施工が必要であり、評価基本通達に定められた宅地造成費だけでは完成宅地にはならないから、評価基本通達によらないことが正当として是認されるような特別な事情がある。
 したがって、本件I土地は実額評価法により評価した金額の50%相当額により評価すべきである。
C 本件K土地
 本件K土地は、周囲の土留工事が必要であるほか、雨水及び汚水工事並びに水道工事等が必要であり、多額の宅地造成費が発生することから、評価基本通達によらないことが正当として是認されるような特別な事情があると認められる。
 したがって、本件K土地は実額評価法により評価した金額の50%相当額により評価すべきである。
(ハ) 売買価額を基に評価する方法
 請求人P1及び請求人P5が、本件相続により本件L土地を取得した後、平成22年3月8日に本件L土地を30,000,000円で売却していることから、この売買価額を時点修正した金額から、取得費、譲渡費用及び所得税等を差し引いて求めた金額25,474,608円をもって本件L土地の評価額とすべきである。
ロ 原処分庁
(イ) 本件E土地、本件G1土地、本件G2土地、本件H2土地、本件I土地ないし本件M土地については、いずれも、評価基本通達の定めにより難い特別な事情は認められない。
(ロ) 請求人らが主張する実額評価法は、評価対象地を開発するとした場合の想定による利用図を基に課税時期の現況と異なる独自の区画を創出し、当該区分された区画ごとに個別に評価基本通達による評価を行った後、宅地として完成させるために必要な宅地造成費の見積額を控除するというものであるところ、請求人らの主張する実額評価法が本件各土地の客観的交換価値を表すものであるという客観的な根拠は示されておらず、請求人らの主張する実額評価法により算出される価額は、本件各土地に係る客観的交換価値を反映した価額とは認められないから、請求人らが主張する実額評価法により算出される価額及び実額評価法により評価した金額の50%相当額の価額は、本件各土地に係る客観的交換価値を反映した価額であると認めることはできない。

(2) 認定事実

 請求人らの提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、本件相続開始日における各土地の状況は、次のとおりである。
イ 評価基本通達に基づきR国税局長が定めた平成18年分の財産評価基準によれば、本件E土地、本件G1土地、本件G2土地、本件H2土地、本件I土地ないし本件M土地は、路線価方式(評価基本通達11《評価の方式》に定める路線価方式をいう。以下同じ。)により評価する地域に所在し、いずれの土地も所在する地区(同通達14−2《地区》に定める地区をいう。以下同じ。)は普通住宅地区である。
ロ また、上記イの各土地が属する都市計画法第8条《地域地区》第1項第1号に規定する用途地域(以下「用途地域」という。)は第一種低層住居専用地域であり、建ぺい率は50%、容積率は100%である。
ハ 本件E土地
(イ) 本件E土地は、S鉄道a駅(以下「a駅」という。)の西約1.5キロメートル(道路距離、以下同じ。)に位置している。
(ロ) 本件E土地は、三方が道路と接面する土地であり、東側で接面する道路に付された平成18年分の路線価(評価基本通達14《路線価》に定める路線価をいう。以下同じ。)は100,000円、北側で接面する道路に付された路線価は94,000円、南側で接面する道路に付された路線価は95,000円である。
(ハ) 本件E土地は、月決め駐車場として利用されている。
ニ 本件G1土地及び本件G2土地
(イ) 本件G1土地及び本件G2土地は、a駅の西約2キロメートルに位置している。
(ロ) 本件G1土地に接面する私道に付された、評価基本通達14−3《特定路線価》の定めに基づきY税務署長が設定した平成18年分の路線価(以下「特定路線価」という。)は、69,000円である。
(ハ) 本件G1土地は、アスファルト舗装され、本件G2土地への進入路及び本件G1土地に接する住宅地への進入路として利用されている。
 また、本件G2土地は畑として利用されている。
ホ 本件H2土地
(イ) 本件H2土地は、a駅の西約2.2キロメートルに位置している。
(ロ) 本件H北側土地は道路に接面しない土地である。
 また、本件H南側土地が南側で接面する道路に付された路線価は、73,000円である。
(ハ) 本件H南側土地は、本件被相続人の自宅の敷地として利用され、また、本件H北側土地は、一部は自宅の敷地として利用され、その他は山林である。
ヘ 本件I土地
(イ) 本件I土地は、a駅の西約2.1キロメートルに位置している。
(ロ) 本件I土地が接面する私道に付された特定路線価は73,000円であり、借地権割合は60%である。
(ハ) 本件I土地は平坦な土地であるが、その接する私道から約2メートル高い位置にあり、本件I土地の南側に隣接する宅地は、本件I土地より約1メートル高い位置にある。
(ニ) 本件I土地は、雑草が生い茂る空閑地であり、同土地のうち、6.88平方メートルについては、T社との間で地役権が設定されている。
ト 本件J土地
(イ) 本件J土地は、a駅の西約2.1キロメートルに位置している。
(ロ) 本件J土地が西側で接面する道路に付された路線価は、73,000円である。
(ハ) 本件J土地は、西から東にかけて約3.1度傾斜した土地である。
(ニ) 本件J土地は、山林であり、宅地に転用するに際し、伐採・抜根が必要な土地である。
チ 本件K土地
(イ) 本件K土地は、a駅の西約2.3キロメートルに位置している。
(ロ) 本件K土地は、二方が道路に接面する土地であり、南側で接面する道路に付された路線価及び北東側で接面する道路に付された路線価は、いずれも73,000円である。
(ハ) 本件K土地は、東から西にかけて約6.5度傾斜した土地である。
(ニ) 本件K土地は、建物の建替え時等に建築基準法第42条《道路の定義》の規定に基づき道路敷きとして提供しなければならない部分(以下「セットバック」という。)が必要な土地であり、その面積は22.34平方メートルである。
(ホ) 本件K土地は、果樹畑として利用されている。
リ 本件L土地
(イ) 本件L土地は、a駅の西約2.5キロメートルに位置している。
(ロ) 本件L土地が幅約0.5メートルの水路を挟んで、北側で接面する道路に付された路線価は、73,000円である。
(ハ) 本件L土地は、畑として利用されている。
(ニ) 本件L土地に係る売買は、本件相続の開始から約3年8か月経過した売買である。
(ホ) 本件L土地の近隣の公示地は、3か所(a○○−a市c町○−○・18年価格114,000円、a○○−a市b町○−○・18年価格96,500円及びa○○−a市b町○−○・18年価格91,000円)あり、また、近隣の基準地は、1か所(a○○−a市b町○−○・18年価格94,500円)ある。
ヌ 本件M土地
(イ) 本件M土地は、a駅の西約1.5キロメートルに位置している。
(ロ) 本件M土地が西側で接面する道路に付された路線価は、94,000円である。
(ハ) 本件M土地は、畑として利用されている。

(3) 判断

イ 相続税法第22条《評価の原則》は、相続又は遺贈により取得した財産の価額は、特別の定めがあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているが、すべての財産の客観的交換価値は、必ずしも容易に把握し得るものではないから、課税の実務上は、財産評価の一般的基準が評価基本通達によって定められ、同通達によらないことが正当と是認されるような特別な事情がある場合を除き、これらに定められた画一的な評価方法によって、当該財産の評価をすることとされ、当審判所も、かかる取扱いは、税負担の公平、効率的な租税行政の実現等の観点からみて合理的であると解する。
ロ 請求人らの主張する評価法について
 請求人らは、実額評価法により求めた評価額が時価、すなわち客観的交換価値を示すものである旨主張するが、請求人らが主張する実額評価法は、評価対象地を開発するとした場合の想定の利用図を基に土地を分割した上でその分割された区画ごとに、公示価格のおおむね80%の水準で決定されている評価基本通達に定める路線価及び各種の補正率を基に土地の評価額を計算する一方、実際に要すると見込まれる水道、ガス等の給排水等の設備費用及び土地の造成費の見積額を控除するという一部のみ実額計算を取り入れた一貫性のない方法である。
 さらに、請求人らの主張する実額評価法は、土地の区画の分割の仕方が評価する者により区々となるほか、土地の造成費の見積りについても区々とならざるを得ない。
(イ) また、請求人らは、評価基本通達において土地を評価する場合、水道、ガス、給排水等の設置費用等を考慮していないことが特別な事情に該当する旨主張する。
 しかしながら、水道、ガス、給排水等の設置費用等の工事費用は、土地の上に建築物を設置する際にその建築物の種類、用途等に応じて必要となる費用の一部であるというべきものであり、土地自体の評価額を算定する場合に考慮すべき要素に含めるのは相当ではないから、請求人らの主張には理由がない。
(ロ) したがって、請求人が主張する実額評価法は、土地の客観的交換価値を把握する評価方法として合理性があるとは認められない。
(ハ) 請求人らは、請求人P1及び請求人P5が、本件L土地を本件相続により取得した後、平成22年3月8日に30,000,000円で売却しており、その金額を時点修正した金額から譲渡費用や所得税等を差し引いた金額である25,474,608円を本件L土地の評価額とすべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人の本件L土地の評価方法は、時点修正を行った譲渡金額から土地の譲渡所得の金額の計算における概算取得費、譲渡費用や所得税等を差し引いた可処分所得金額を評価額とするものであるから、土地の客観的交換価値を把握する評価方法として合理性があるとは認められない。
 また、当審判所の調査の結果によれば、まる1本件L土地に係る売買は、本件相続の開始から約3年8か月も経過した売買であり、まる2請求人らの主張する売買価額については、本件L土地の近隣に所在する公示地等の公示価格等に照らしても、その価額が客観的交換価値として適正であるとは認められない。
 したがって、本件L土地について、評価基本通達の定めによらずに当該土地の売買価額を基に評価すべきであるとする請求人らの主張は採用できない。
ハ 以上のとおり、請求人らの主張する評価方法は、土地の客観的交換価値を把握する評価方法として合理性があるとは認められず、本件E土地、本件G1土地、本件G2土地、本件H2土地、本件I土地ないし本件M土地についてはいずれも、評価基本通達の定めにより難い特別な事情があるとは認められないから、上記各土地の価額は評価基本通達の定めに基づき評価するのが相当である。

(4) 本件E土地、本件G1土地、本件G2土地、本件H2土地、本件I土地ないし本件M土地の相続税評価額

 上記(3)の判断に基づき、本件E土地、本件G1土地、本件G2土地、本件H2土地、本件I土地ないし本件M土地を評価すると、別紙12ないし別紙20のとおり、原処分庁が算定した相続税評価額と同額となる。

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4 争点2(評価基本通達40−2に定める広大な市街地農地として評価することの適否−本件A土地ないし本件D土地)について

(1) 主張

イ 請求人ら
 本件A土地ないし本件D土地は、都市計画法第4条《定義》第12項に規定する開発行為(以下「開発行為」という。)を行う場合には、別紙21のとおり、セットバックが必要なほか、道路を開設する必要があり、公共公益的施設用地の負担が生じることになる。
 したがって、本件A土地ないし本件D土地が宅地であるとして評価した場合には広大地に該当するから、評価基本通達40−2に定める広大な市街地農地として評価すべきである。
ロ 原処分庁
 本件A土地ないし本件D土地において路地状部分を有する宅地(以下「路地状敷地」という。)を組み合わせた開発(以下「路地状開発」という。)を行った場合、これを行わなかった場合と比して建ぺい率や容積率及び駐車場のスペースの点から有利であり、また、同一用途地域内には路地状開発の事例もあることから、本件A土地ないし本件D土地について路地状開発を行うことには経済的に合理性がある。そして、標準的な宅地の地積を基礎として、本件A土地ないし本件D土地について開発想定図を作成すると、別紙22のとおり、公共公益的施設用地の負担が不要となる。
 したがって、本件A土地ないし本件D土地が宅地であるとした場合、評価基本通達24−4《広大地の評価》に定める広大地には該当しないから、評価基本通達40−2に定める広大な市街地農地として評価することもできない。

(2) 認定事実

 請求人らの提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件相続開始日における本件A土地ないし本件D土地の状況等
(イ) 本件A土地について
A 本件A土地は、a駅の西約1.8キロメートルに位置している。
B 本件A土地は、二方が道路に接面する土地であり、南側で接面する道路に付された路線価は77,000円、北側で接面する道路に付された路線価は73,000円である。
C 本件A土地は、南北に細長い形状をした不整形な土地であり、平坦な土地である。
D 本件A土地852平方メートルのうち685.65平方メートルの部分には、T社との間で○○の設置を目的とする地役権が設定されており、そのうちセットバックに必要な面積は、7.38平方メートルである。
E 本件A土地のうち、上記Dの地役権が設定されている部分以外のセットバックに必要な面積は12.12平方メートルである。
F 本件A土地は、平成10年4月に生産緑地法第2条《定義》第3号に規定する生産緑地の指定を受けた畑地である。
(ロ) 本件B土地について
A 本件B土地は、a駅の西約2.2キロメートルに位置している。
B 本件B土地は、ほぼ三角形に近い形状をした不整形地であり、北側で接面する道路に付された路線価は73,000円である。
C 本件B土地に接する北側道路は本件B土地の東側から西側に上り傾斜となっており、本件B土地は北側道路より高低差約2メートル低い位置にあり、その最南部から北側道路にかけて約8度傾斜した土地である。
D 本件B土地に接している北側道路の幅員は、おおむね2メートルないし3メートルである。
E 本件B土地は、平成4年11月に生産緑地法第2条第3号に規定する生産緑地の指定を受けた畑地である。
(ハ) 本件C土地について
A 本件C土地は、a駅の西約2.3キロメートルに位置している。
B 本件C土地が接面する道路に付された路線価は、73,000円である。
C 本件C土地は、西側道路から高低差約1.5メートル低い位置にあり、また本件C土地の北から南にかけて約5度ないし10度傾斜した土地である。
D 本件C土地に接している西側道路の幅員は、約2メートルないし3メートルである。
E 本件C土地は、平成4年11月に生産緑地法第2条第3号に規定する生産緑地の指定を受けた畑地である。
(ニ) 本件D土地について
A 本件D土地は、a駅の西約1.5キロメートルに位置している。
B 本件D土地は、二方が道路に接する土地であり、西側で接面する道路に付された路線価は100,000円、南側で接面する道路に付された路線価は95,000円である。
C 本件D土地は、南北に細長い形状をした不整形の土地であり、平坦な土地である。
D 本件D土地は、平成4年11月に生産緑地法第2条第3号に規定する生産緑地の指定を受けた畑地であり、法人Uに賃貸され、同法人の実習農園等の用に供されている。
ロ 本件A土地ないし本件D土地の周辺の状況等
(イ) 本件A土地ないし本件D土地は、市道V号線、国道W号線及び市道X号線の3道路に囲まれた地域のうち、第一種低層住居専用地域に属しており、建ぺい率は50%、容積率は100%であり、当該地域は住宅地及び農地が混在する地域である。
(ロ) 本件A土地ないし本件D土地が属する用途地域内には、以下の順号1ないし3の公示地及び順号4の基準地が存している。

順号 1 2 3 4
番号 a○○ a○○ a○○ a○○
所在地番 a市b町○−○ a市c町○−○ a市b町○−○ a市b町○−○
地積 135平方メートル 136平方メートル 150平方メートル 140平方メートル
周辺の土地の利用状況 中規模一般住宅が多い閑静な住宅地域 中規模一般住宅が建ち並ぶ低地の住宅地域 中規模一般住宅が建ち並ぶ低地の住宅地域 中規模一般住宅が多い郊外の住宅地域

(ハ) 当審判所の調査の結果によれば、平成8年から平成22年にかけて、市道V号線、国道W号線及び市道X号線に囲まれた用途地域が第一種低層住居専用地域である地域において、都市計画法第29条《開発行為の許可》の開発許可(以下「開発許可」という。)を受けて行われた開発行為のうち、戸建住宅用地の開発事例が24件ある。そのうち、新たに道路を開設して開発された事例が19件、既存の道路を拡幅して開発された事例が3件及び路地状開発事例が2件である。また、開発許可を要しないために開発許可を受けないで行われた戸建住宅用地の開発事例は7件あり、それらの開発事例はいずれも路地状開発の事例である。
 そして、これらの開発事例のうち、開発許可を受けて新たに道路を開設して開発された事例19件及び既存の道路を拡幅して開発された事例3件は、開発面積が約650平方メートルないし約5,000平方メートルのものである。
 また、路地状開発の事例9件をみると、開発許可を受けて行われた路地状開発の事例2件における開発土地面積は約850平方メートルないし約900平方メートル程度であり、開発許可を受けないで行われた路地状開発の事例7件における開発土地面積は約450平方メートルないし約950平方メートルである。
 なお、上記の路地状開発の事例において見られる路地状敷地の区画数は、2区画ないし4区画である。
(ニ) 本件A土地ないし本件D土地が属する用途地域内において、平成8年から平成22年にかけて行われた上記(ハ)の開発事例における1区画当たりの土地の面積は、約110平方メートルないし約350平方メートルである。
ハ 本件A土地ないし本件D土地の法的規制等
(イ) d県では、路地状開発を行う場合、路地状敷地が前面道路に2メートル以上接していれば、奥行距離の長短にかかわらず路地状開発が可能である。
(ロ) a市開発行為審査基準は、次のとおり、定めている。
A 袋路状道路を設置した場合、終端に内接円(直径)9メートル以上の転回広場を設けなければならないとされ、偏心した(道路の中心と内接円の中心が一致しない)袋路状道路を設置する場合には、内接円10メートル以上の転回広場を設けなければならない。
B 道路が同一平面で交差又は屈折する場合には、隅切りを設けなければならない。隅切りは、両側に設置するのを原則とし、両側に隅切りを設置する場合の隅切りの長さはそれぞれ3メートル以上としなければならないが、やむを得ない事情により片隅切りとなる場合には、隅切りの長さを5メートル以上にしなければならない。

(3) 判断

イ 評価基本通達24−4の定め
(イ) 評価基本通達24−4は、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で、開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものについて、大規模工場用地、マンション適地等を除き、その評価につき減額の補正を行う旨定めている。
 これは、まる1評価の対象となる宅地の地積が、当該宅地の所在する地域の標準的な宅地の地積に比して著しく広大で、まる2当該宅地を当該地域において経済的に最も合理的な用途に供するために、道路、公園等の公共公益的施設用地の負担が必要な開発行為を行わなければならない土地である場合には、当該開発行為により土地の区画形質の変更をした際に公共公益的施設用地として潰れ地が生じ、評価基本通達15《奥行価格補正》から同20−5《容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価》による減額の補正では十分といえない場合があることから、このような土地の評価に当たっては、潰れ地が生じることを当該宅地の価額に影響を及ぼすべき客観的事情として、価値が減少していると認められる範囲で減額の補正を行うこととしたものである。
(ロ) このような評価基本通達24−4の趣旨にかんがみれば、同通達でいう「その地域」とは、まる1河川や山などの自然的状況、まる2行政区域、まる3都市計画法による土地利用の規制など公法上の規制等、まる4道路、まる5鉄道及び公園など、土地の使用状況の連続性及び地域の一体性を分断する場合がある客観的な状況を総合勘案し、利用状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域を指すものと解するのが相当である。
(ハ) また、評価基本通達24−4に定める「公共公益的施設用地」とは、都市計画法第14条《定義》に規定する道路、公園等の公共施設の用に供される土地及び都市計画法施行令第27条に掲げる教育施設、医療施設の公益的施設の用に供される土地をいい、その負担の必要性は経済的に最も合理的に戸建住宅用地の開発を行った場合の、その開発区域内での道路の開設の必要性により判断するのが相当である。そして、セットバックを必要とする場合の当該土地部分は、開発区域内の道路開設ではないので「公共公益的施設用地」には該当しないと解するのが相当である。
 したがって、路地状開発を行うことが合理的で道路を開設する必要がなければ、評価基本通達24−4に定める広大地には該当しないこととなる。
ロ 当てはめ
(イ) 本件A土地ないし本件D土地の属する「その地域」について
 本件A土地ないし本件D土地の所在する地域は、市道V号線、国道W号線及び市道X号線を境にして、土地の利用状況及び環境が大きく異なっており、これらの道路内の区域においてはおおむね同一の利用状況及び環境にあると認められるから、本件A土地ないし本件D土地が所在する「その地域」は、これらの道路で囲まれた地域(以下「本件地域」という。)であると認めるのが相当である。
(ロ) 当審判所の調査の結果によれば、本件相続開始日現在、本件地域は、戸建住宅用地としての開発が進行している地域であると認められ、上記(2)のロに述べた公示地及び基準地並びに開発事例はいずれも本件地域内に存し、これらの本件地域における公示地及び基準地並びに開発事例における土地の面積から判断すると、本件地域における標準的な宅地の地積は、おおむね135平方メートルないし150平方メートル程度であると認められる。
(ハ) したがって、本件A土地ないし本件D土地は、すべての土地が、本件地域における標準的な宅地の地積(135平方メートルないし150平方メートル)に比し、著しく地積が広大な土地であると認められる。
(ニ) 公共公益的施設用地の負担の要否について
A 本件A土地について
(A) 本件A土地の属する本件地域内では、上記(2)のロの(ハ)のとおり、本件A土地と地積が同規模程度の土地での路地状開発の事例が複数存在すること、路地状開発によって容積率及び建ぺい率の算定に当たって、路地状部分の地積もその算定の基礎とされること、路地状開発を行えば道路を開設する必要はないこと等からすれば、本件A土地については、路地状開発により戸建住宅の分譲を行うことが経済的に最も合理的な開発方法に当たると認めるのが相当である。
 したがって、本件A土地は、宅地として開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地(道路)の負担は必要ないと認められるから、評価基本通達24−4の定める広大地には当たらない。
(B) 請求人らは開発想定図(別紙21)において、袋路状道路を開設した開発を想定しているものの、同想定図においては、転回広場が設置されていないほか、a市開発行為審査基準の要求する道路の隅切りに適合しておらず、当該開発想定図に基づく開発は認められないことからも請求人らの主張は前提を欠き採用できない。
(C) 以上のとおり、本件A土地は、宅地であるとした場合に評価基本通達24−4に定める広大地に当たらず、同通達40−2に定める広大な市街地農地には該当しないことから、請求人らの主張には理由がない。
B 本件B土地及び本件C土地について
(A) 本件B土地及び本件C土地についても、上記本件A土地と同様に、本件地域内に同規模程度の土地での路地状開発の事例が複数存在すること、本件B土地及び本件C土地について本件地域における標準的な宅地の地積である135平方メートルないし150平方メートル程度で区画割りをした場合、路地状敷地を含む4区画程度の路地状開発を行うことが可能であり、その場合、道路を開設する必要がないこと等からすれば、本件B土地及び本件C土地についても、路地状開発により戸建住宅の分譲を行うことが経済的に最も合理的な開発方法に当たると認めるのが相当である。
(B) なお、請求人らは、本件B土地及び本件C土地は、開発に当たりセットバックが必要な土地であり、当該セットバック部分は公共公益的施設用地に該当することから、評価基本通達24−4に定める広大地として評価すべきであると主張する。
 しかしながら、本件B土地及び本件C土地におけるセットバック部分は、上記(3)のイの(ハ)のとおり、開発区域内の道路開設には当たらず、公共公益的施設用地には該当しないことから、セットバック部分があっても、それは本件B土地及び本件C土地が評価基本通達24−4に定める広大地に該当する理由とはならない。
(C) 本件B土地及び本件C土地については、宅地として開発行為を行うとした場合に、上記(A)のとおり、路地状開発が最も経済的に合理的な開発と認められ、公共公益的施設用地の負担が必要ないと認められることからすれば、評価基本通達24−4に定める広大地には当たらないから、本件B土地及び本件C土地は同通達40−2に定める広大な市街地農地に該当しない。
C 本件D土地について
(A) 本件D土地の区画割りについて
 本件地域における標準的な宅地の地積は、上記(ハ)のとおり、おおむね135平方メートルないし150平方メートル程度であると認められ、また、本件D土地の面積が2,534.25平方メートルであることからすれば、道路を開設しないで戸建住宅用地として開発行為を行う場合には、本件D土地は17ないし18の区割りをした上で戸建住宅用地として開発するのが合理的と認められる。
(B) 路地状開発の状況について
 本件地域における戸建住宅用地としての開発状況によれば、本件D土地と地積が同規模程度の土地における戸建住宅用地としての開発事例で路地状開発の事例は全くなく、他の路地状開発の事例では、路地状敷地の区画数は、2区画ないし4区画で、原処分庁が主張する開発想定図のように7つもの連続した路地状敷地を配置した開発事例はない。
 本件地域における路地状開発の事例は本件D土地に比べてはるかに面積が小さい土地の開発事例や土地の形状、他の道路との接続状況及び面積からみて、路地状開発によらざるを得ない開発事例であることが認められる。
(C) 路地状開発の適否について
 本件D土地の形状、他の道路との接続状況及び面積及び上記(B)の本件地域における戸建住宅用地の開発状況等を総合的に勘案して判断すると、本件D土地を標準的な宅地の地積に応じた画地数に区画割りした上で戸建住宅用地として開発する場合、本件D土地は、路地状開発よりも道路を開設し戸建住宅用地として開発する方が経済的に合理的な開発方法であると認めるのが相当である。
(D) したがって、本件D土地は、別紙23の開発想定図のような区画割り及び道路を開設して開発するのが経済的に最も合理的な開発方法であると認められ、宅地であるとした場合には評価基本通達24−4に定める広大地に該当することから、評価基本通達40−2に定める広大な市街地農地として評価するのが相当である。

(4) 本件A土地ないし本件D土地の相続税評価額

 上記の判断に基づき、本件A土地ないし本件C土地についてその相続税評価額を計算すると、別紙24ないし別紙26のとおりであり、原処分庁が算定した相続税評価額と同額である。
 また、本件D土地について相続税評価額を計算すると、別紙27のとおり、58,472,155円となる。

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5 争点3(一般定期借地権の目的となっている宅地の評価−本件N1土地ないし本件N6土地)について

(1) 主張

イ 請求人ら
 減価償却費の計算に複数の償却方法があるのと同様、一般定期借地権の評価方法も論理的に正しければ、複数の方法があって良いはずであり、一般定期借地権の目的となっている土地については、普通借地権割合を基礎として、借地契約の残存期間を賃貸借期間で除した割合を乗ずる方法により簡潔に評価することが認められるべきである。
 本件N1土地ないし本件N6土地については、定期借地権の特異性を考慮しつつ、一般定期借地権を当該各土地の普通借地権に係る借地権割合である60%を基礎として、当該各土地の借地契約の残存期間である40年を賃貸借期間である50年で除した割合を乗ずる方法により簡潔に評価し、更地の金額からその一般定期借地権価額を控除した金額を土地の評価額とすべきである。
ロ 原処分庁
(イ) 本件N1土地ないし本件N6土地は、「一般定期借地権の目的となっている宅地の評価に関する取扱いについて」通達(平成10年8月25日付課評2−8ほかによる国税庁長官通達。以下「本件個別通達」という。)の定めにより評価すべきである。
(ロ) 一般定期借地権の評価方法については、減価償却費の計算方法と異なり、複数の評価方法の選択が認められていない。
(ハ) 請求人らの評価方法は、実際には、普通借地権割合を基礎として、借地契約の残存期間年数を賃貸借期間年数で除した割合を乗ずる方法によるものである。定期借地権は、その種類と設定期間との組み合わせにより多種多様の借地契約の設定が想定され、当該契約内容も極めて個別性が強いこと及び借地契約の更新がなく契約終了により確定的に借地契約が消滅するため、残存期間の長短によって定期借地権等の価額が異なることになるなど、普通借地権とはその法的性質や経済的価値が異なるものであることから、請求人らが主張する評価方法については、一般定期借地権の目的となっている土地の評価方法として妥当なものとは認められない。

(2) 認定事実

 請求人らの提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件N1土地ないし本件N6土地は、a駅の西約1.5キロメートルに位置している。
ロ 本件N1土地ないし本件N6土地が属する用途地域は第一種低層住居専用地域であり、建ぺい率は50%、容積率は100%である。
ハ 本件N1土地ないし本件N6土地における借地権(以下「普通借地権」という。)の借地権割合は、いずれも60%である。
ニ 本件N1土地ないし本件N6土地は、いずれも、一般定期借地権契約が締結されており、本件相続開始日現在、それぞれの契約の残存期間年数は、いずれも40年である。
ホ 本件N1土地は、二方が道路に接面する土地であり、東側で接面する道路に付された路線価は100,000円、南側で接面する道路に付された路線価は94,000円である。
ヘ 本件N2土地が東側で接面する道路に付された路線価は、100,000円である。
ト 本件N3土地は、二方が道路に接面する土地であり、東側で接面する道路に付された路線価は100,000円、北側で接面する道路に付された路線価は94,000円である。
チ 本件N4土地は、二方が道路に接面する土地であり、北側で接面する道路に付された路線価及び西側で接面する道路に付された路線価はいずれも94,000円である。
リ 本件N5土地が西側で接面する道路に付された路線価は、94,000円である。
ヌ 本件N6土地は、二方が道路に接面する土地であり、西側で接面する道路に付された路線価及び南側で接面する道路に付された路線価はいずれも94,000円である。

(3) 判断

イ 法令解釈等
(イ) 定期借地権等の目的となっている宅地の価額は、評価基本通達25《貸宅地の評価》の(2)において、原則として、宅地の自用地としての価額から評価基本通達によって評価した定期借地権等の価額を控除した金額により評価すると定めている。
(ロ) 本件個別通達では、一般定期借地権の目的となっている宅地は、当分の間、自用地としての価額から、課税時期における自用地としての価額に、別紙11の9のまる1に掲げる算式により計算した数値を乗じて計算した「一般定期借地権の価額に相当する金額」を控除した金額によって評価することとしている。そして、算式中の「底地割合」については、評価基本通達27《借地権の評価》に定める借地権割合の地域区分に応じて、普通借地権の借地権割合が区分C(借地権割合70%)ないし区分G(同30%)の地域にある一般定期借地権の目的となっている宅地については、課税上弊害がないものに限り、評価基本通達の評価方法に代えて、本件個別通達に定める一定率の底地割合を基として評価することとしている。
(ハ) 一般的に、定期借地権設定契約においては、契約期間に応じてトータルの利回り計算がなされ、それを基として保証金等と地代率とがトレード・オフの関係において定められることから、評価基本通達は、同通達27−2《定期借地権等の評価》において定期借地権の評価方法を定めているのであるが、実際には、所有権の取引と同じく、利便性の高い地域やグレードの高い地域における保証金等や地代率はいずれも高く、逆の場合にはいずれも低い状況が認められ、普通借地権の借地権割合の地域区分ごとにある程度の傾向といったものがうかがえることから、本件個別通達においては、普通借地権の目的となっている土地の評価とのバランスを考慮し、かつ、評価の安全性にも配慮して、普通借地権と定期借地権の法的性質や経済的価値の相違を前提として、標準的な一般定期借地権の目的となっている土地の財産的価値を課税上弊害がない限り本件個別通達によって算定することとしたものであり、このような取扱いは、当審判所においても相当であると認められる。
ロ 当てはめ
 本件N1土地ないし本件N6土地は、上記1の(4)のロの(ハ)のとおり、一般定期借地権の目的となっている土地であることから、その評価に当たっては、本件個別通達を適用し評価するのが相当であり、評価基本通達及び本件個別通達によらないことが正当として是認されるような特別な事情も認められない。
 請求人らの一般定期借地権の目的となっている土地の評価方法は、評価基本通達及び本件個別通達のいずれとも異なる独自の解釈に基づくものであり、これを採用することはできない。

(4) 本件N1土地ないし本件N6土地の評価額

 本件N1土地ないし本件N6土地について、本件個別通達に基づき評価すると別紙28ないし別紙33のとおりであり、原処分庁が算定した相続税評価額と同額である。

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6 争点4(一般定期借地権契約に係る預り保証金の評価)について

(1) 主張

イ 請求人ら
 本件N1土地ないし本件N6土地の各土地に設定された一般定期借地権の契約に係る預り保証金(以下「本件各保証金」という。)は、借地期間終了後に利息を付さないで全額返還することとなっており、時の経過とともに預かった保証金が減額されることはないから、本件各保証金の金額を相続税の課税価格の計算上控除すべきである。
ロ 原処分庁
(イ) 相続税は、財産の無償取得によって生じた経済的価値の増加に対して課される租税であるから、その課税価格の算出に当たっては、取得財産と控除すべき債務の双方について、相続開始時においてそれぞれ現に有する経済的価値を客観的に評価した金額を基礎とするが、債務には客観的交換価値がないため、その現況により控除すべき金額を評価することとなる。
 そして、無利息で預託されている金銭債務であれば、これを承継した相続人は通常の利率による利息相当額の経済的利益を弁済期が到来するまでの期間享受することとなり、その享受する経済的利益の相続開始時における現在価値に相当する額だけ相続又は遺贈により取得した経済的価値の減殺要因が小さくなるから、上記債務の相続開始時の評価額は、債務者に留保される毎年の経済的利益について、通常の利率と弁済期までの年数から求められる複利現価率によって相続開始日現在の経済的利益の額を計算し、無利息債務の元本からこの経済的利益の額を控除した金額とするのが相当である。これは、債務の額面金額に通常の利率を基に算出した複利現価率を乗ずる方法で算出できる。
(ロ) なお、財産の評価に当たって適用される年利率は、評価基本通達4−4《基準年利率》に定める基準年利率となるが、財産と債務は表裏の関係にあり、債務の評価もその経済的価値の評価という点において財産の評価と異ならないことから、上記の経済的利益を計算する場合における「通常の利率」については、基準年利率によるべきである。したがって、本件各保証金については、保証金の額に本件N1土地ないし本件N6土地の定期借地契約の残存期間年数(40年)についての基準年利率(年2.0%)に係る複利現価率である0.453を乗じて算出した金額を債務の控除すべき金額とするのが相当である。

(2) 認定事実

 請求人らの提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件N1土地ないし本件N6土地の一般定期借地権契約については、別表3のとおりである。
ロ 本件N1土地ないし本件N6土地の一般定期借地権契約において、いずれも利息を付さないとする保証金(合計63,800,000円)の授受があり、その金額の内訳は別表3の「保証金の額」欄のとおりである。

(3) 判断

イ 法令解釈
(イ) 相続税法第22条において、財産から控除すべき債務の金額は当該財産を取得した時の現況による旨規定されていることからすれば、金銭債権につきその権利の具体的内容によって時価を評価するのと同様に、金銭債務についてもその利率や弁済期等の現況によって控除すべき金額を個別的に評価しなければならないと解すべきである。
 そうすると、弁済すべき金額が確定し、かつ、相続開始の時点でいまだ弁済期が到来していない金銭債務の金額については、その債務に通常の利率よりも低い約定利率による利息のあるとき又は利息の全くないときは、相続人において、通常の利率による利息と約定利率による利息との差額に相当する経済的利益又は通常の利率による利息相当額の経済的利益を弁済期が到来するまで毎年留保し得ることとなるのであるから、当該債務は、その留保される毎年の経済的利益の現在価値の総額だけその消極的価値を減じているものと解される。
(ロ) したがって、弁済すべき金額が確定し、かつ、相続開始の時点でいまだ弁済期が到来していない利息の付されない金銭債務の金額については、この留保される毎年の経済的利益について、通常の利率により弁済期までの中間利息を控除して得られたその現在価値を元本金額から差し引いた金額をもって相続開始の時における控除すべき債務の額とするのが相当である。
ロ 無利息債務から控除すべき金額の算定について
 評価基本通達4−4に定める長期金利の年利率の定めは、財産の将来生ずべき収益力等に着目して、課税時期における現在価値を算出しているものであるから、本件各保証金から控除すべき現在価値の算定に当たっては、同通達4−4の定めに基づき、「平成18年分の基準年利率について(平成18年5月18日付課評2−9国税庁長官通達)」において定められた平成18年7月の長期の基準年利率2.0%を基にこれを算定するのが相当である。
ハ 請求人らの主張について
 請求人らは、300万円の1年定期預金の本件相続開始日の利率が0.15%であるから、原処分庁が適用する通常の利率2.0%は高利率であると主張する。
 しかしながら、請求人らが主張する利率は、短期の銀行預金の利息計算に適用される金利であり、また、本件各保証金の債務の弁済期間が40年という長期間にわたるものであることからすると、通常に運用して運用益を生み出す経済的利益の額を算定するのに当たって、300万円の1年定期預金の本件相続開始日の利率を長期金利の指標として選択するのは不合理であり、請求人らの主張には理由がない。
ニ 本件各保証金の相続税の課税価格の計算上控除すべき金額について
 本件各保証金の相続税の課税価格の計算上控除すべき金額は、別表4のとおり評価するのが相当であり、それは原処分庁が算定した金額と同額である。

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7 本件各土地の相続税評価額

 以上のとおり、本件各土地の相続税評価額を計算すると別表5の「審判所認定額」欄記載のとおりである。

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8 本件各更正処分及び本件各再更正処分について

 以上に基づき、請求人らの課税価格及び納付すべき税額を算出すると、別表6の「審判所認定額」欄のとおりであり、請求人らの納付すべき税額は、本件各更正処分及び本件各再更正処分における納付すべき税額を下回るから、請求人らに対する本件各再更正処分の全部及び本件各更正処分の一部をそれぞれ別紙4ないし別紙10のとおり取り消すべきである。

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9 本件各賦課決定処分及び本件各再賦課決定処分について

 上記8のとおり、本件各再更正処分の全部及び本件各更正処分の一部が取り消されることに伴い、請求人らに対する過少申告加算税の金額を計算すると、いずれも本件各賦課決定処分における過少申告加算税の金額を下回ることから、本件各再更正処分に係る過少申告加算税の各賦課決定処分の全部及び本件各更正処分に係る各賦課決定処分の一部をそれぞれ別紙4ないし別紙10のとおり取り消すべきである。

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10 その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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