損益通算及び損失の繰越控除

損益通算

  1. 損益通算(13件)
  2. 純損失の繰越控除

給与所得者が通勤に使用している自動車の譲渡による損失の金額を給与所得の金額から控除することはできないとした事例

裁決事例集 No.23 - 99頁

 本件自動車は、給与所得である請求人が主として勤務先へ通勤する際に利用していたものであり、それに基づいて通勤手当の支給を受けていたことからすれば、同人にとって生活に通常必要な動産であったと認めるのが相当であり、その譲渡による損失の金額は、所得税法第9条第2項第1号の規定によりないものとみなされ、給与所得の金額から控除することはできない。

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ホテル経営に賃貸している保養地所在の建物に係る不動産所得の計算上生じた損失金額を他の所得と損益通算することは認められないとした事例

裁決事例集 No.27 - 115頁

 本件建物を所有者として優先的に使用する権利を確保した上でホテル経営者に客室用として賃貸することにより損失が生じたとしても、[1]本件建物は保養地に所在し、請求人はこれを自己及び家族の保養のために利用していること、[2]本件の場合は、本件建物を管理してもらうことを兼ねて賃貸されたものであること、[3]本件建物の賃貸に係る収益は、減価償却費等の必要経費をかなり下回ることなどに照し、当該損失の金額は、所得税法第69条第2項の規定により生じなかったものとみなされるから、他の所得金額と損益通算することは認められない。

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ゴルフ場を経営する会社の倒産によるゴルフ会員権の価値の減失損の金額を他の各種所得の金額から控除することはできないとした事例

裁決事例集 No.29 - 49頁

 請求人は、ゴルフ場の倒産に伴うゴルフ会員権の価値の減失損の金額を、ゴルフ会員権の譲渡による損失と同様に他の各種所得の金額から控除すべきであると主張するが、所得税法第69条第1項の規定により他の各種所得の金額から控除することとされている損失は、不動産所得、事業所得、山林所得又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失とされているところ、ゴルフ場の倒産に伴うゴルフ会員権の価値の減失損は会員権の譲渡による損失ではないから、その損失の金額を他の各種所得の金額から控除することはできない。

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個人に対する土地建物の譲渡が、低額譲渡に該当するから、譲渡損失の金額は損益通算によって差し引くことはできないとした事例

裁決事例集 No.41 - 115頁

 譲渡した土地建物のうち、土地の譲渡価額は、地価公示法に規定する公示価格及び国土利用計画法に規定する標準価格を、相続税財産評価基準の路線価で除して求められる、公示価格比準倍率及び標準価格比準倍率を用いて算出した土地の価額の2分の1に満たないから、低額譲渡に該当する。
 したがって、当該土地建物の譲渡によって生じた損失の金額は、所得税法第59条“贈与等の場合の譲渡所得などの特例”第2項の規定により、なかったものとみなされる。

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海外で営業しているレストランの経営主体は、請求人ら個人ではなく、当該国で設立された現地法人であると認められ、請求人がレストランの経営による収入を事業所得の収入金額として申告しているものは、雑所得に係る収入金額に該当すると解されるから、雑所得の金額の計算上生じた損失の額は、他の各種所得の金額から控除することはできないとした事例

裁決事例集 No.49 - 243頁

 請求人は、E国で営業しているレストランの開設のため現地法人を設立したのは、全くの名義のみで、レストランの実質的な経営者は、請求人及び請求人の知人である甲の両人であることは明らかであり、本件所得は事業所得に該当するから、本件所得に係る損失の金額について、所得税法第69条(損益通算)第1項の規定による損益通算を認めないで行った更正処分は違法である旨主張するが、当該現地法人はE国の法令に従って設立された合資会社であり、かつ、レストランの営業を行っている実態を有する法人であると認められるから、レストランの経営主体は現地法人であって請求人らではないといわざるを得ない。
 本件所得については、レストランの営業により生じた所得は、現地法人に帰属するものと認められ、また、請求人が各年分の確定申告においてレストランに係る収入金額として申告(昭和63年分715,000円、平成元年分546,546,757円及び平成2年分零円)をしているものが、請求人の所得に係る収入金額になるとしても、雑所得に係る収入金額に該当するものと解される。
 したがって、雑所得の金額の計算上生じた損失の額は、その存否について判断するまでもなく、所得税法第69条第1項の規定により、他の各種所得の金額から控除することはできないから、本件更正処分は適法である。

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ゴルフ会員権を譲渡した時点において、当該ゴルフ場施設が競売等により他の所有になったことによって当該ゴルフ場施設優先利用権が消滅した場合には、当該ゴルフ会員権の譲渡による損失を他の所得金額と損益通算することはできないとした事例

裁決事例集 No.53 - 205頁

 譲渡所得の基因となるゴルフ会員権は、ゴルフ場施設優先利用権と預託金返還請求権が一体となったものであるとされるところ、請求人が本件ゴルフ会員権を譲渡した時点において、本件ゴルフ場施設が経営会社から競売等により他の所有となるなどし、かつ、新所有者が本件ゴルフ会員権に係る債権債務を引き継いでいないことから、本件ゴルフ会員権に内包されていた施設優先利用権は消滅しており、その実質は、金銭債権である預託金返還請求権のみとなっていたものと認められるから、本件ゴルフ会員権の譲渡による損失は、譲渡所得の金額の計算上生じた損失には該当せず、他の所得金額と損益通算をすることはできない。

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請求人が譲渡したゴルフ会員権の実質は、会員権に内包されているゴルフ場施設の優先利用権が消滅した後の金銭債権である預託金返還請求権と認められ、譲渡所得の基因となる資産には該当しないから、その譲渡による損失の金額は他の所得金額と損益通算することはできないとした事例

裁決事例集 No.61 - 246頁

 請求人は、預託金会員制のゴルフ会員権である本件会員権に係る当該施設の優先利用権は消滅しておらず、請求人が譲渡した本件会員権はゴルフ会員権であるから、その譲渡による損失の金額は他の所得金額と損益通算を認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件ゴルフ場の敷地及び建物は、競売により第三者の所有となり、かつ、本件ゴルフ場経営会社の本件会員権に係る債権債務が新所有者に引き継がれていないこと等からすると、本件ゴルフ場経営会社が本件ゴルフ場の会員に対して、本件ゴルフ場施設を利用させることができなくなった場合には、当該施設の優先利用権は消滅したものと解される。
 そうすると、請求人が譲渡した本件会員権の実質は、本件会員権に内包されている本件ゴルフ場施設の優先利用権が消滅した後の金銭債権である預託金返還請求権と認めるのが相当であり、譲渡所得の基因となる資産には該当しないから、本件損失の金額を他の所得金額と損益通算することはできない。

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預託金返還請求権をその預託先であるゴルフ場経営法人に対して行使した場合には、資産の譲渡には該当しないとした事例

裁決事例集 No.61 - 259頁

 請求人は、本件ゴルフ会員権をゴルフ場経営法人に譲渡したと主張するが、請求人の行った一連の行為は、ゴルフ倶楽部からの退会が承認されたことにより、預託金返還請求権をその預託先であるゴルフ場経営法人に対して行使したにすぎず、資産の譲渡には該当しないから、譲渡損失を前提とした損益通算の規定の適用はないとした本件更正処分は相当である。

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請求人の所有する建物は「生活に通常必要でない資産」に該当し、その資産から生ずる損失の金額は損益通算の対象とはならないとした事例

裁決事例集 No.61 - 268頁

 請求人は、ホテルの一室である本件建物を不動産貸付業の用に供するために購入したものであり、生活に通常必要でない資産には該当しないから、賃貸に係る不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額については、他の各種所得の金額から控除すべきである旨主張する。
 しかしながら、[1]本件建物は、著名なリゾート地に所在し、請求人が別荘等と同様に保養等の用に供し得る性質のものであること、[2]本件分譲案内書によれば、賃貸料収入が得られるほか、ホテルの利用上のメリットや節税対策になることがうたわれていること、[3]請求人は、実質的に一般客に優先して利用することができること及び[4]本件賃貸料の額は、請求人が負担した必要経費の額の2割程度であり、管理費の額にも達しておらず、経済的にみて不合理であること等の事実が認められる。
 そうすると、本件建物を賃貸しているのは、単に、本件建物の管理費等の負担を軽減するために過ぎないものであり、また、本件建物の性質及び状況等の諸般の事情を総合的に勘案し、これを客観的にみれば、本件建物は主として保養等の目的で所有していたものと認めるのが相当であり、生活に通常必要でない資産に該当するから、本件損失金額は損益通算が認められない。

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破産宣告を受けた法人が経営するゴルフ場に係る会員権は、譲渡所得の基因となる資産に該当しないから、その譲渡による損失の金額を他の所得金額と損益通算することはできないとした事例

裁決事例集 No.67 - 401頁

 請求人は、預託金会員制の本件ゴルフクラブは、その経営会社が破産宣告を受けた後も引き続きプレーをすることが可能であり、本件破産宣告によって破産債権に移行するのは預託金返還請求権のみであって、「プレーをする権利」は破産債権とはならず、本件ゴルフ会員権に係る施設利用権は消滅していないから、本件会員権は譲渡所得の基因となる資産に該当する旨主張する。
 しかしながら、預託金会員制のゴルフ会員権は、ゴルフ場の優先的施設利用権と預託金返還請求権とが内在しているものであるところ、ゴルフ場を所有又は経営する法人が破産した場合には、これらの権利は、破産法第15条の規定により破産宣告前の原因に基づいて生じた財産上の請求権たる破産債権として金銭債権に変更されることになるから、破産宣告後に譲渡された本件会員権は、譲渡所得の基因となる資産に該当しない。
 なお、本件ゴルフクラブは、破産宣告後においても営業を継続し、その会員は従前と同様にプレーすることができるとされているが、これは、破産管財人が、破産財団となったゴルフ場を換価するまでの期間その財産的価値の保全を図ることを目的に、破産したゴルフ場の清算のための手段と手続の過程として、本件ゴルフ場を営業し本件ゴルフクラブの会員にプレーを許諾しているものにすぎず、本件会員権に係る優先的施設利用権が存するものとは認められない。

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預託金返還請求権をその預託先であるゴルフ場経営法人に対して行使した場合及び預託金返還請求権を喪失した会員権をゴルフ場経営法人に返却した場合は、いずれも所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡には該当しないとした事例

裁決事例集 No.67 - 412頁

 請求人は、預託金会員制ゴルフ会員権であるG会員権及びJ会員権を、それぞれ各ゴルフ場経営法人に譲渡したと主張するが、[1]G会員権については、請求人はクラブを退会し、預託金の返還を受けているが、この場合、当該ゴルフ会員権がゴルフ場施設の優先利用権を内在した状態でゴルフ場経営法人に移転するものではなく、当該ゴルフ会員権の所有者自らがゴルフ場施設の優先利用権を消滅させ、預託金という金銭債権の回収を行ったというべきであるから、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡には該当せず、また、[2]J会員権については、Jゴルフ場経営法人は会社更生法による更生手続開始決定を受けたため更生債権の届出の催告を行ったが、請求人は更生債権の届出を怠り、その結果、請求人は会員たる地位等を喪失したものであるから、J会員権を譲渡した旨請求人が主張する行為は、J会員権の権利を放棄する意思の下に会員証を返却したものにすぎないため、同条項に規定する資産の譲渡には該当しない。したがって、それぞれのゴルフ会員権で発生した損失の金額を他の所得金額と損益通算することはできない。

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民事再生手続により預託金制ゴルフ会員権の預託金債権が一部切り捨てられた場合は、資産の譲渡損失に該当せず、また各種所得の必要経費に算入することもできないとした事例

裁決事例集 No.69 - 113頁

 請求人は、請求人が所有していた預託金会員制のゴルフ会員権は、ゴルフ場経営会社の民事再生手続により、その営業権が別法人に移り、預託金債権が5%に減額され95%の損失が生じているのであるから、その損失を他の所得から控除すべきであると主張するが、民事再生手続中のゴルフ場経営会社がゴルフ場施設と預託金債務を新経営会社に譲渡した場合は、各会員は新経営会社との間で減額された預託金により契約が継続し、ゴルフ会員権としての性質は、契約の相手方を除き、営業譲渡の前後を通じて維持されることから、各会員には譲渡行為がなく、したがって、所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡には当たらず、また、切り捨てられた預託金債権については各種所得の金額の計算上、必要経費に該当しない。

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本件ゴルフ会員権は、その譲渡の時点において優先的施設利用権が消滅していたとは認められないから、譲渡所得の基因となる資産に該当し、その譲渡による損失は他の各種所得と損益通算ができるとした事例

裁決事例集 No.73 - 197頁

 ゴルフ場経営会社F社は、ゴルフ場施設を所有するE社との間で、本件ゴルフクラブの経営並びにこれに関連する業務の一切を受託すること等を内容とする本件委任契約を締結し、ゴルフ場の経営を行っていたところ、E社が所有するゴルフ場施設用地及び建物の一部(本件競売不動産)について担保権の実行として不動産競売開始決定がなされ、K社を買受人とする売却許可決定がなされ、また、別の一部用地等(本件売却不動産)は、E社からV社に任意に売却された。
 しかし、本件売却不動産についてはF社とV社の間の黙示の使用貸借契約によりF社が引き続き使用することができたと認められ、F社としては、これと森林組合等から借り受けている土地を引き続き使用することにより、本件ゴルフクラブを構成していた3つのコースのうち2コースの利用を会員に提供できたものと認められ、これら2コースを会員の利用に供すれば、社会通念上ゴルフ会員権の目的を達成することができるといえる。
 そして、本件ゴルフクラブの営業は、平成17年1月○日に閉鎖されるまでの間続けられていたとの事実に照らすと、本件ゴルフ会員権の譲渡の時点(平成16年12月5日)でも、F社は、社会通念上ゴルフ場施設の利用というゴルフ会員権の目的を達成できる程度にまでゴルフ場施設をその利用に供することができていたと認められる。
 さらに、本件委任契約において、F社は、E社の所有する不動産等だけではなく、自ら賃借した土地をも使用して本件ゴルフクラブを経営することが予定されていたと認められるから、本件競売不動産及び本件売却不動産の所有名義が第三者に移転し、かつ、F社において本件競売不動産の使用ができなくなったとしても、F社が第三者から土地を賃借して本件ゴルフクラブの営業を経営することが可能である以上、本件委任契約の目的が不可能になったとはいえず、また、本件委任契約には契約の終了に関する特約はなく、民法上の委任契約の終了事由も見当たらない。
 また、本件ゴルフ会員権について、預託金返還請求権及び年会費納入等の義務のいずれもが、譲渡時点で消滅していたとは認められない。
 以上のとおり、本件ゴルフ会員権の譲渡の時点において、預託金会員制ゴルフ会員権の内容である優先的施設利用権、預託金返還請求権及び年会費納入等の義務のいずれかが消滅し、その同質性を喪失したとは認められないから、当該ゴルフ会員権の譲渡は所得税法第33条第1項に規定する譲渡所得の基因となる資産の譲渡に該当する。
 そうすると本件ゴルフ会員権の譲渡により生じた損失は、所得税法第69条第1項の規定により他の所得と通算することができるというべきであり、これを認めなかった原処分は違法であるから取り消されるべきである。

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