(令和2年12月15日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が元代表取締役に対して支給した退職金の金額を損金の額に算入して法人税等の申告を行ったところ、原処分庁が、元代表取締役は、登記上退任した後も請求人の経営に従事しており、実質的に退職したとは認められないから、当該金額は退職給与として損金の額に算入されないとして、法人税等の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行ったことに対し、請求人が、元代表取締役は形式的にも実質的にも退職したのであるから、当該金額は損金の額に算入されるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

関係法令は、別紙1のとおりである。なお、別紙1で定義した略語については、以下、本文でも使用する。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
 なお、以下では、法人税の事業年度、復興特別法人税及び地方法人税の課税事業年度につき、各個別の終了年月をもって表記する(例えば、平成25年4月1日から平成26年3月31日までの期間は、法人税について「平成26年3月期」といい、復興特別法人税について「平成26年3月課税事業年度」という。また、平成27年4月1日から平成28年3月31日までの期間は、地方法人税について「平成28年3月課税事業年度」という。)。
 また、原処分に係る法人税の各事業年度を併せて「本件各事業年度」といい、地方法人税の各課税事業年度を併せて「本件各課税事業年度」という。

  • イ 請求人は、昭和36年10月○日に設立された不動産の賃貸等を営む株式会社であり、同族会社である。なお、請求人の株式は、平成25年3月期において、全てH及びJが保有していた。
     また、請求人は、本店事務所(以下「本件事務所」という。)をa市b町○−○のK(以下「本店ビル」という。)の○階に置いており、本店以外の事業所はなかった。
  • ロ L(以下「本件元代表者」という。)は、請求人の代表取締役を務めていた者であるが、平成24年11月30日、請求人の代表取締役及び取締役をいずれも辞任し(以下「本件辞任」という。)、同年12月、その旨の登記がされた。
     請求人は、平成24年11月30日、本件元代表者に対して退職慰労金を支給する旨の臨時株主総会の決議に基づき、請求人の役員退職金規程により算出した725,000,000円(以下「本件金員」という。)を役員退職慰労金勘定に計上し、同年12月18日から平成25年9月9日までの間に、本件元代表者に対し、本件金員から源泉所得税額を差し引いた全額を支払った。
     本件元代表者は、平成24年12月1日以降少なくとも平成29年3月31日までの期間において、請求人の登記上役員としての地位を有しておらず、使用人でもなかった。また、請求人が、上記期間において、本件元代表者に対して役員給与及び従業員給与を支給した事実もなかった。
  • ハ 本件元代表者の妻であるFは、平成24年6月30日、請求人の代表取締役に就任し、本件元代表者とFの娘であるMは、平成28年4月5日、請求人の代表取締役に就任し、以後、両名が請求人の代表取締役を務めている。
     また、本件元代表者は、平成24年6月20日に、Fは、平成27年9月1日に、いずれもd県e市f町○−○(以下「本件住所地」という。)からシンガポール共和国へ住所を移転した。また、Mは、原処分がされた令和元年5月30日当時、住民票及び請求人の登記において、本件住所地を住所としていた。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、本件各事業年度の法人税及び本件各課税事業年度の地方法人税について、別表1及び別表3の各「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書を、また、平成26年3月課税事業年度の復興特別法人税について、別表2の「申告」欄のとおり記載した青色の申告書を、いずれも法定申告期限までに、N税務署長に提出した。
  • ロ 原処分庁所属の調査担当職員は、平成30年9月11日、請求人に対する税務調査を開始し(以下、同日に開始された請求人に対する一連の調査を「本件調査」という。)、N税務署長は、令和元年5月30日、本件調査に基づき、請求人に対し、別表1から別表3の各「更正処分等」欄のとおり、平成25年3月期の法人税の更正処分、平成26年3月期から平成29年3月期までの法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分、平成26年3月課税事業年度の復興特別法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分、並びに本件各課税事業年度の地方法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行った。
     なお、平成25年3月期の法人税の更正処分に係る通知書(以下「本件通知書」という。)には、当該処分のうち本件金員に関する部分の理由として、要旨、別紙2のとおり記載されていた。別紙2で定義した略語については、以下、本文でも使用する。
  • ハ 上記ロの原処分庁所属の調査担当職員及びN税務署長所属の担当職員(以下、併せて「調査担当職員」という。)は、令和元年5月30日、上記ロに記載の各処分(原処分)に係る通知書(以下「本件各通知書」という。)につき、本件事務所での送達を試みたものの、本件事務所の状況から送達することができないと判断し、本件住所地に所在する家屋の西側道路に面した門のうちの南側の門(以下「南門」という。)に設置された郵便受け(以下「住所地郵便受け」という。)に本件各通知書を差し置いて送達した(以下「本件差置送達」という。なお、これが適法な送達かについては、争いがある。)。
  • ニ 請求人は、令和元年8月19日、原処分の全部に不服があるとして審査請求をした。

2 争点

(1) 本件差置送達は適法か、また、その送達の効力はいつ生じたか(争点1)。

(2) 本件通知書の理由付記に不備があるか否か(争点2)。

(3) 平成25年3月期の法人税の更正処分に、通則法第70条第2項が適用されるか否か(争点3)。

(4) 本件金員は、退職給与として、平成25年3月期の損金の額に算入されるか否か(争点4)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件差置送達は適法か、また、その送達の効力はいつ生じたか。)について

原処分庁 請求人
イ 本件差置送達の適法性について
 調査担当職員は、令和元年5月30日、次の(イ)のとおり、本件事務所において、本件各通知書を送達することができなかったことから、本件各通知書を請求人に確実かつ速やかに送達するために、次の(ロ)のとおり、請求人の代表取締役のMの住所地である本件住所地において、本件差置送達を行ったのであり、本件差置送達は適法である。なお、次の(イ)のA及びDについては、同月31日も同様の状況であった。
イ 本件差置送達の適法性について
 税務署長が会社に対して書類を送達する場合の送達すべき場所は、原則として、当該会社の本店の所在地であるところ、請求人は、登記された本店所在地にある本件事務所をその営業を統括する中心的な場所として事業を行っており、他にそのような場所を有していないのであるから、送達すべき場所は、本件事務所以外にはない。
 そして、調査担当職員は、次の(イ)のとおり、適切に行動していれば、令和元年5月30日又は同月31日、本件事務所において、適法に本件各通知書を送達することができたにもかかわらず、次の(ロ)のとおり、送達すべき場所に該当しない本件住所地において、信書便よりも確実かつ速やかとはいえない差置送達を行ったのであるから、本件差置送達は違法である。
(イ) 本店ビル等の状況について (イ) 本店ビル等の状況について
A 本店ビルのエレベーターは、本件事務所のある○階に停止しないよう設定されており、当該エレベーター横の非常階段も、○階フロアへの扉が施錠されていたことから、調査担当職員は、本件事務所の入口まで到達することができなかった。なお、非常階段の1階から○階までの間には、立入りを禁止する旨の表示はなかった。 A 本店ビルの非常階段を上った○階フロアの扉の下には隙間があることから、調査担当職員は、本件各通知書を上記隙間から差し入れて送達することが可能であったにもかかわらず、それを行わなかった。
B 本店ビルのエスカレーター横の階段は、4階から○階にかけて、「関係者以外立入禁止」と記載された階段幅の板などが設置され、立入りが禁止されていたことから、調査担当職員は、○階の本件事務所の従業員出入口に到達することができなかった。 B 本店ビルの非常階段の4階から○階の踊り場には立入禁止の表示があり、調査担当職員は、かかる表示がある非常階段を上ったのであるから、同様の表示がされていたエスカレーター横の階段を使用すれば、本件事務所の請求人の従業員出入口に到達し、本件各通知書を送達することができたにもかかわらず、それを行わなかった。
C 調査担当職員は、請求人の代表電話に架電するもつながらず、本件調査において請求人側の窓口を務めていたP社のQ取締役及びR総務課長に対し、電話や税理士を通じて、連絡をしたが、応答がなく、あるいは対応を拒否され、上記の者らを通じても、本件事務所において本件各通知書を送達することができる状況には至らなかった。 C 令和元年5月30日及び同月31日には、請求人の業務委託先であるP社の担当者らが、本件事務所又は本店ビルから徒歩3分のビル内でP社が経営する店舗のいずれかに滞在していたのであるから、調査担当職員は、本件事務所において、同人らに交付送達を行うことが可能であったにもかかわらず、それを行わなかった。
D 本店ビル1階の集合郵便受け(以下「集合郵便受け」という。)には、請求人及び本件法人グループの各法人の名称の表示がなかったことから、請求人の郵便受けを特定することができず、本件事務所において、差置送達もできなかった。 D 令和元年5月30日及び同月31日において、集合郵便受けには請求人宛の郵便物が投かんされていたのであるから、調査担当職員は、集合郵便受けの前で郵便配達員に接触し、請求人の郵便受けを確認の上、本件各通知書を差置送達することが可能であったにもかかわらず、それを行わなかった。
(ロ) 本件住所地の状況等について (ロ) 本件住所地の状況等について
A 原処分庁は、1Mの住民票上及び請求人の登記上のMの住所が本件住所地であったこと、2本件住所地の南門には「○○」と記載された表札があったこと、3Mは、本件調査の開始時に、自らの自宅がe市である旨の発言をしていたことから、Mの住所地が本件住所地であると判断した。 A 仮に本件事務所において本件各通知書を送達できない事情があったとしても、Mの住所は、実家(空き家)のある本件住所地ではなく、本件社宅であって、本件住所地は、請求人の営業も行われていないから、本件各通知書を送達すべき場所に該当しない。なお、調査担当職員は、Mが本件社宅に居住していることを税理士から聴取して知っていたのであり、このことからしても、本件住所地が本件各通知書を送達すべき場所に該当する余地はないというべきである。
B 調査担当職員は、本件住所地の南門の呼鈴を数回押したが、応答がなかったことから、やむなく住所地郵便受けに本件各通知書を差し置いて送達した。
 なお、住所地郵便受けには、Mの祖母であるSの名前は記載されていなかった。

C 原処分庁は、請求人の借上社宅であるg市h町○−○に所在のTの○○○号室(以下「本件社宅」という。)の存在は把握していたが、Mが本件社宅に居住しているとは承知していなかった。
 仮にMの別宅が本件社宅であったとしても、送達可能な場所が2つ存在したというだけであり、そのことをもって、本件差置送達を違法とする理由にはならない。

B 仮に本件住所地が送達すべき場所に該当するとしても、本件各通知書が差し置かれた住所地郵便受けは、Mの実家とは別棟に居住するS宅の郵便受けであって、高齢のSは「相当のわきまえのあるもの」(通則法第12条第5項)に該当しないから、本件差置送達は違法である。
ロ 本件差置送達の効力発生日について
 本件各通知書は、本件差置送達により請求人に到達しているのであるから、送達の効力は令和元年5月30日に生じている。
 したがって、平成26年3月期の法人税及び平成26年3月課税事業年度の復興特別法人税に係る各処分は、更正の期限制限(法定申告期限から5年)を徒過する前に各通知書が送達されたことから、有効である。
ロ 本件差置送達の効力発生日について
 税務署長等が発する書類の送達の効力は、当該書類が社会通念上送達を受けるべき者の支配下に入ったと認められる時に生ずると解されるところ、請求人が本件各通知書を受け取ったのは令和元年6月6日であったから、本件差置送達の効力発生日は、同日である。
 したがって、平成26年3月期の法人税及び平成26年3月課税事業年度の復興特別法人税の各処分は、更正の期間制限後に各通知書が送達されたものであり、無効である。
 そして、上記無効な処分を前提とした平成27年3月期から平成29年3月期までの各処分については、各前事業年度から繰り越された欠損金額及び損金算入された欠損金額に誤りがあるというべきである。

(2) 争点2(本件通知書の理由付記に不備があるか否か。)について

原処分庁 請求人
原処分庁は、本件通知書において、別紙2のとおり、本件元代表者が、本件辞任後においても、1本件経営会議に出席し、報告を受け、指示・決定又は承認していること、2本件法人グループの資金調達や返済方法について決定し、金融機関等と交渉を行っていること、3太陽光発電設備の取得に関して決定し、自ら価格交渉していることなどの具体的事実を摘示した上で、本件元代表者が、本件辞任後においても引き続き本件法人グループの主要な業務執行の意思決定(経営)に参画しており、本件元代表者が請求人を退職した事実はないと認められ、また、退職したのと同様の事情にあるとも認められないことから、本件金員は退職給与に該当しない旨記載し、さらに、適用条文として、法人税法第34条第1項を挙げた上で、同項の規定により損金の額に算入されない旨記載している。
 このように、本件通知書には、理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に不利益処分の根拠を明示しているから、本件通知書の理由付記に不備はない。
本件金員は、請求人の臨時株主総会の決議に基づいて退職金として支払われ、帳簿に記載されたものであるところ、原処分庁は、上記決議を否認することなく、本件元代表者の退職の事実を否認し、本件金員をみなし役員に対する役員給与と認定したことからすると、本件金員に係る更正処分は、本件金員に係る法的評価の相違によるものではなく、請求人の帳簿書類の記載自体を否認するものである。そうすると、本件金員に係る処分に当たっては、帳簿書類以上に信ぴょう力のある資料を摘示して、更正をした根拠を具体的に明示する必要があるところ、本件通知書には、そのような記載がなく、理由付記に不備がある。
 また、仮に平成25年3月期の法人税の更正処分が帳簿書類の記載自体の否認ではなく事実に対する法的評価の相違によるものであるとしても、本件通知書には、本件元代表者に退職の事実はないと判断し、本件金員が役員給与に該当するとの結論に至った判断過程に係る具体的な理由の記載がないことから、本件通知書の理由付記には不備がある。

(3) 争点3(平成25年3月期の法人税の更正処分に、通則法第70条第2項が適用されるか否か。)について

原処分庁 請求人
平成25年3月期の法人税の更正処分は、確定申告書に記載された欠損金額○○○○円を○○○○円に減少させるものであり、通則法第70条第2項に規定する法人税の純損失等の金額に係る更正処分であるから、法定申告期限から9年を経過する日(令和4年5月31日)までに行った上記更正処分は適法である。 原処分庁は、平成25年3月期の法人税の更正処分において、役員退職金の損金不算入額725,000,000円と確定申告書に記載された欠損金額○○○○円との差額○○○○円を損金の額と認定しているが、法人税法には上記差額を損金の額とする旨の規定はない。
 そうすると、平成25年3月期の更正処分は、所得金額を○○○○円増額させる更正となる。
 その場合、通則法第70条第2項ではなく、同条第1項の適用対象となるから、同項が規定する更正の期間制限5年を徒過してされた上記更正処分は、無効である。

(4) 争点4(本件金員は、退職給与として、平成25年3月期の損金の額に算入されるか否か。)について

原処分庁 請求人
次のイからニの各事実に鑑みると、本件元代表者は、本件辞任後においても、従来どおり請求人の経営に従事しており、請求人のみなし役員に該当するのであって、請求人を現実に離脱し、あるいは実質的に退職したとは認められない。
 そうすると、本件金員は、法人税法第34条第1項に規定する退職給与に該当しないから、本件金員の額を平成25年3月期の損金の額に算入することはできない。
本件辞任及び本件金員の支給に係る株主総会決議は有効に成立しており、本件元代表者は、本件辞任後、請求人の財務面、営業面及び人事面に関与しておらず、請求人の意思決定や経営に関与できる状況にもなく、請求人から報酬も受けていない。すなわち、本件元代表者は、本件辞任により、形式的にも実質的にも請求人を退職したのであって、そもそも請求人のみなし役員にも該当しないし、ましてや本件辞任前の地位である代表取締役と同等の地位にあり、同様の職務内容を行っていたものではない。
 他方、原処分庁の指摘する事情は、次のイからニのとおり、いずれも、本件辞任から平成25年3月期の終了の日までにおいて、本件元代表者が請求人の経営に従事していたと認定する根拠とはいえない。
 したがって、請求人の株主総会の決議に基づいて適正に算出され、実際に一時金として支払われた本件金員は、退職給与として、平成25年3月期の損金の額に算入される。
イ 本件経営会議への出席及び指示命令
 請求人は、本件法人グループの一員として、本件経営会議の参加者であったところ、本件元代表者は、本件辞任後も継続して、毎月開催される本件経営会議につき、その開催日時を自ら決定や調整の指示をした上、直接又はスカイプを使用して出席し、本件法人グループの各代表取締役らに対し、売上げや利益、営業活動等経営に係る報告を求め、当該報告に対し、今後の指示をしていた。
 このように、本件元代表者が、本件法人グループの基幹となる会議である本件経営会議において、その各代表取締役らより上位の立場で振る舞い、それに上記各代表取締役らが従っていたことからすると、本件元代表者は、まさに、請求人の経営に従事していたといえる。
 なお、請求人を含む本件法人グループは、P社が各法人の管理業務を行い、P社以外の各法人が事業活動を行うことにより、一体運営されており、本件法人グループの各法人の役員は、本件元代表者の親族が務めていたことからしても、請求人は、本件経営会議の参加者であったというべきである。
イ 本件経営会議への出席及び指示命令について
 本件経営会議は、U社及びU社が株式の全部又は一部を保有する各法人(以下、併せて「U社グループ」という。)により開催されていたところ、請求人は、U社から一切の出資を受けておらず、本件元代表者の父が事業を行っていたものであり、U社グループの各社とは異なる設立経緯であるため、U社グループには属していない。したがって、請求人は、本件経営会議に参加しておらず、本件経営会議において請求人の経営内容が議題に上がることはないから、本件元代表者が本件経営会議において請求人に関する発言をした事実はない。
 他方、原処分庁は、本件元代表者が、いつの本件経営会議において、請求人に関する指示や発言等を行ったのかなど、具体的事実を指摘していない。
ロ 本件経営会議以外での指示命令
 本件元代表者は、本件辞任後も継続して、本件経営会議以外においても、本件法人グループの各代表取締役や社員に対し、スカイプ、メール、○○○○という名称のソーシャルネットワーキングサービス(以下、単に「○○○○」という。)及び電話などにより、随時、各種業務に関する指示命令及び決裁を行っており、その中でも、Vに対しては、本件法人グループに属する各法人間の資金移動に係る指示などもしていた。
ロ 本件経営会議以外での指示命令について
 本件元代表者が、Vから本件法人グループの財務状況等に係る報告を受けていたとしても、それをもって、実質的に請求人の経営に従事していたということはできない。
 しかも、Vは、本件法人グループに対して業務上横領等の不正を行っていたところ、本件元代表者が当該不正に気づかなかったことからすれば、上記の報告は形式的なものにすぎず、むしろ、本件元代表者は請求人の経営に従事していなかったといえる。
ハ 金融機関等との交渉
 本件元代表者は、本件辞任後も継続して、新規融資の申入れ、融資の利率変更及び返済等に係る相談など資金調達や、収益物件の取得及び太陽光発電事業への参入等の新規事業に関して、各金融機関との間で、直接的又は間接的に交渉し、自ら最終的な判断をしていた。
ハ 金融機関等との交渉について
 請求人が本件辞任後に受けた新規融資は平成28年6月であって、それまでの間は、新規融資を受けていない。
 そして、本件元代表者は、上記の新規融資にも関与していないし、原処分庁は、本件元代表者がどのように資金調達等に関与したのかにつき具体的に指摘しておらず、金融機関との交渉は、財務部長等の使用人でも行うことができる業務であるから、仮に本件元代表者が何らかの関与をしていたとしても、そのことをもって、本件元代表者が、本件辞任から平成25年3月期の終了の日までにおいて、請求人の経営に従事していたということはできない。
ニ 新規事業の決定等
 本件元代表者は、本件辞任後においても、従業員に対して太陽光発電事業に係る指示をしたり、税理士に当該事業に係る資金相談をしたりしており、太陽光発電設備の販売業者が、本件元代表者の上記の関与状況から、同者を本件法人グループの人間と認識していたことからすると、本件元代表者は、本件法人グループの新規事業に係る決定等をしていたといえる。
ニ 新規事業の決定等について
 請求人が平成27年3月31日に購入した太陽光発電設備について、本件元代表者は当該購入に関与していないし、そもそも、当該購入は、本件辞任から3年後であるから、仮に本件元代表者が上記設備の取得に何らかの関与をしていたとしても、それをもって、本件元代表者が、本件辞任から平成25年3月期の終了の日までにおいて、請求人の経営に従事していたということはできない。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件差置送達は適法か、また、その送達の効力はいつ生じたか。)について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 通則法は、更正は、税務署長が更正通知書を送達して行うものとし(同法第28条第1項)、国税に関する法律の規定に基づいて税務署長が発する書類は、郵便等による送達又は交付送達により、その送達を受けるべき者の住所又は居所(事務所及び事業所を含む。)に送達する旨定めている(同法第12条第1項本文)。そして、会社法第4条《住所》が会社の住所はその本店の所在地にあるものとする旨定めていることからすれば、税務署長が会社に対して更正通知書を送達する場合の送達すべき場所は、原則として、当該会社の本店の所在地であると解される。
       もっとも、そもそも、通則法が送達に関する規定を設けた趣旨は、国税に関して税務署長が発する書類がその趣旨のものとして名宛人の下に確実に、かつ、速やかに送達され、当該送達によってその後の手続が適正に進行することを確保することにあると解されるから、送達の方法及び場所をいずれにするかの選択に当たっても、このような送達の目的の観点からこれを判断すべきである。
    • (ロ) 通則法第12条第5項第2号に規定する差置送達は、交付送達の一態様であり、同号所定の要件がある場合、すなわち、書類の送達を受けるべき者その他同項第1号に規定する者(書類の送達を受けるべき者の使用人その他の従業者又は同居の者で書類の受領について相当のわきまえのあるもの)が送達すべき場所にいない場合又はこれらの者が正当な理由なく書類の受領を拒んだ場合には、送達すべき場所において送達すべき者に書類を交付するという方法に代えて、送達すべき場所に書類を差し置く方法による送達が認められている。
       そして、差置送達においても、上記の送達の制度の趣旨に照らし、送達すべき書類が、社会通念上、受取人が了知できると認められる客観的状況に置かれることにより、送達の効力が発生すると解すべきである。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、本件各通知書の送達に関し、次の事実が認められる。
    • (イ) 調査担当職員は、令和元年5月30日午前9時30分頃、請求人に対して本件各通知書を送達するため、本店ビルに赴いた。
       本店ビルは、請求人の所有する○階建てのオフィスビルであり、1階から4階には請求人以外の複数のテナントが入居していたが、本店ビルのエレベーターは、本件事務所のある○階に停止しないよう設定されており、調査担当職員が時間を空けて複数回稼働を試みるも動かなかった。また、本店ビルには、正面入口付近にビルの利用者用のエスカレーター(4階まで)及び階段があったが、当該階段には、4階から○階にかけて、「関係者以外立入禁止」と記載された階段幅の板などが設置されていた。さらに、本店ビルには、1階から○階まで通じる非常階段があったが、非常階段を上ったところにある○階フロアの扉は施錠されていた。
       なお、本店ビルには、1階に各テナント用の集合郵便受けがあったが、同郵便受けには、請求人の名称が表示されている郵便受けはなかった。
    • (ロ) 調査担当職員は、令和元年5月30日、請求人の代表番号や本件法人グループのホームページに記載の電話番号に架電したがいずれも応答はなく、さらに、本件調査において請求人側の窓口を務めていたP社の取締役や総務課長に架電したが、対応を拒否され、あるいは、応答がなく、税理士を通じて当該取締役らや他の従業員への連絡も試みたが、結局、同日午後5時頃までに、請求人の関係者と連絡がつくことはなかった。
    • (ハ) そこで、調査担当職員は、本件事務所においては本件各通知書を送達することはできないと判断し、令和元年5月30日午後6時頃、調査担当職員がMの自宅として把握していた本件住所地において本件各通知書を送達するため、同所に赴いた。調査担当職員は、本件住所地の南門のインターホンを数回鳴らしたが、応答がなかったことから、同日、本件各通知書や納付書等が入った封筒を住所地郵便受けに差し置いた(本件差置送達)。なお、本件住所地には、塀で囲まれた同一住所の土地内に複数の建物があり、南門には、「○○」と記載された表札があったが、住所地郵便受けには名称の表示はされていなかった。
    • (ニ) Mは、調査担当職員に対し、本件調査の開始時に、自らの自宅がe市である旨述べていた。
  • ハ 検討
     上記ロの(イ)から(ハ)のとおり、調査担当職員は、本件事務所においては本件各通知書を送達することができないと判断して、請求人の代表取締役であるMが、住民票及び請求人の登記において住所とし、かつ、Mが自らの自宅と発言した場所である本件住所地(上記1の(3)のハ及び上記ロの(ニ))において送達を実施することとしたものの、Mその他の者が本件住所地において誰も応答しなかったことから、本件差置送達をしたものである。
     この点、上記イの(イ)のとおり、会社に対する更正通知書の送達すべき場所は、原則として、当該会社の本店の所在地であるが、送達の方法及び場所の選択は、送達の目的の観点から判断すべきであるところ、上記ロの(イ)及び(ロ)の本店ビル等の状況からすると、本件事務所において、本件各通知書を送達するのは困難であったと認められる。そして、代表取締役は、株式会社を代表し、その業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有しており(会社法第349条《株式会社の代表》第1項、第4項)、また、税務行政庁の行う処分の通知に関しては、毎年回帰的かつ大量に行われるという徴税上の便宜も考慮に入れる必要があることに照らせば、本件の事実関係の下においては、原則的な送達すべき場所である本件事務所以外に、本件住所地も、本件各通知書を送達すべき場所に該当すると認められる。
     また、調査担当職員は、上記ロの(ハ)のとおり、令和元年5月30日、本件各通知書を、本件住所地の「○○」と記載された表札のある南門にある住所地郵便受けに差し置いて本件差置送達をしたところ、その時点で、本件各通知書がMの支配下に入り、Mにおいてその内容を知り得る状態に至ったと認められ、よって、本件各通知書は、社会通念上、請求人が了知できると認められる客観的状況に置かれたといえる。
     したがって、本件差置送達は適法であり、その送達の効力は、令和元年5月30日に発生したと認められる。
  • ニ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイの(イ)のAのとおり、調査担当職員は、本件各通知書を本店ビルの非常階段を上った○階フロアの扉の下の隙間から差し入れて送達することが可能であった旨主張する。
       しかしながら、一般に、郵便受けへの投かん以外に、請求人の主張する方法による書類の受渡しが予定されているとは言い難く、そのような方法をとらなかった調査担当職員の判断は不合理なものではないから、請求人の主張を採用することはできない。
    • (ロ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイの(イ)のBのとおり、調査担当職員は、本店ビルのエスカレーター横の階段を使用すれば、本件事務所の請求人の従業員出入口に到達し、本件各通知書を送達することができた旨主張する。
       しかしながら、上記ロの(イ)のとおり、本店ビルのエスカレーター横の階段は、4階から○階にかけて、「関係者以外立入禁止」と記載された階段幅の板などが設置されており、建物の管理権者がその同意なく立ち入ることを認めない旨明示していたというべきであるから、調査担当職員において、当該階段を使用して本件事務所に到達すべきであったということはできず、請求人の主張を採用することはできない。なお、請求人は、非常階段についても同様に立入禁止の表示をしており、調査担当職員は当該階段は上ったなどと主張するが、本件全証拠をみても、令和元年5月30日において、非常階段に立入禁止の表示があったことを裏付けるに足りる証拠はないから、請求人の主張はその前提を欠く。
    • (ハ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイの(イ)のCのとおり、請求人の業務委託先であるP社の担当者らに交付送達を行うことが可能であった旨主張する。
       しかし、調査担当職員がP社の取締役等に連絡を試みたものの、送達への協力を得られなかったのは、上記ロの(ロ)のとおりであり、これ以上に、調査担当職員において、請求人とは別会社の者に対して協力を要請すべき義務があったということはできず、また、そのような者を通じて送達が可能であったことをうかがわせる証拠もないから、請求人の主張を採用することはできない。
    • (ニ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイの(イ)のDのとおり、集合郵便受けには請求人宛の郵便物が投かんされていたのであるから、調査担当職員は、集合郵便受けの前で郵便配達員に接触し、請求人の郵便受けを確認の上、本件各通知書を差置送達することが可能であった旨主張する。
       しかしながら、上記ロの(イ)のとおり、令和元年5月30日において、集合郵便受けには、請求人の名称が表示された郵便受けはなかった以上、調査担当職員において、郵便配達員に確認することなく、客観的にみて請求人の郵便受けは不明であったと判断し、集合郵便受けへの投かんを行わなかったことは不合理ではなく、請求人の主張を採用することはできない。
    • (ホ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイの(ロ)のAのとおり、Mの住所は、実家(空き家)のある本件住所地ではなく、本件社宅であって、調査担当職員も、Mが本件社宅に居住していることを税理士から聴取して知っていたし、また、本件住所地は、請求人の営業も行われていないから、本件住所地は、本件各通知書を送達すべき場所に該当しない旨主張する。
       しかしながら、本件差置送達当時のMの生活の本拠が本件社宅に完全に移されていたことをうかがわせる客観的な証拠はないところ、仮にMが本件社宅に一定期間居住していたという事実があったとしても、上記ハのとおり、本件住所地は本件各通知書を送達すべき場所と認められるのであるから、請求人の主張は採用することができない。
       また、請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイの(ロ)のBのとおり、住所地郵便受けは、Mの実家とは別棟に居住するS宅の郵便受けであって、高齢のSは「相当のわきまえのあるもの」に該当しないことから、本件差置送達は違法である旨主張する。
       確かに、上記ロの(ハ)のとおり、本件住所地には複数の建物があると認められるものの、いずれも塀で囲まれた同一住所の土地内にあるのであって、住所地郵便受けに名称の表示はなく、その他本件全証拠によっても、S宅のみの郵便受けであると認めることはできないから、請求人の主張は採用することができない。なお、「相当のわきまえのあるもの」に該当するかは、通則法第12条第5項第1号の交付送達の場合に考慮すべき要件であって、同項第2号の差置送達の要件には関係がないから、本件差置送達の有効性の判断に影響しない。
    • (ヘ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のロのとおり、請求人が本件各通知書を受け取ったのが令和元年6月6日であるから、本件差置送達の効力発生日は同日である旨主張する。
       しかしながら、上記ハのとおり、調査担当職員が本件差置送達をした令和元年5月30日の時点で、社会通念上、本件各通知書が請求人の了知できると認められる客観的状況に置かれたといえるのであるから、仮に請求人が本件各通知書に接したのが令和元年6月6日であったとしても、本件差置送達の効力が発生したのは令和元年5月30日であるというべきであり、請求人の主張は採用することができない。
    • (ト) 以上のとおり、請求人の主張は、いずれも上記ハの判断に影響を及ぼすものではない。

(2) 争点2(本件通知書の理由付記に不備があるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     法人税法第130条第2項が青色申告に係る法人税の更正をする場合に更正通知書に更正の理由を付記すべきものとしているのは、法が、青色申告制度を採用し、青色申告に係る所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障した趣旨に鑑み、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものであると解される。
     したがって、青色申告に係る帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合に更正通知書に付記すべき理由としては、単に更正に係る勘定科目とその金額を示すだけではなく、そのような更正をした根拠を帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示することによって具体的に明示することを要するが、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合においては、その更正は納税者による帳簿の記載を覆すものではないから、更正通知書記載の更正の理由が、そのような更正をした根拠について帳簿記載以上に信ぴょう力のある資料を摘示するものでないとしても、更正の根拠を上記の更正処分庁の恣意抑制及び不服申立ての便宜という理由付記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示するものである限り、法の要求する更正理由の付記として欠けるところはないと解される(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号850頁参照)。
  • ロ 検討
     本件についてみると、本件通知書には別紙2のとおり記載されており、これによると、平成25年3月期の法人税の更正処分は、本件金員につき、本件元代表者に対する支払並びにその時期及び金額についての帳簿記載を覆すことなく、これをそのまま肯定した上で、法人税法第34条第1項各号に規定する損金の額に算入される給与のいずれにも該当しないと評価するもの(いわゆる評価否認)であって、帳簿書類の記載自体を否認して更正するもの(いわゆる帳簿否認)ではないと認められる。
     そして、本件通知書には、上記更正処分の根拠や理由として、別紙2の1から4のとおり、原処分庁が認定した事実が列挙され、当該各事実から、本件元代表者は、本件辞任後においても、請求人の主要な業務執行の意思決定(経営)に参画するみなし役員に該当し、請求人を退職した事実はないなどとして、本件金員は上記のとおり評価される旨が記載されている。
     このように、本件通知書には、原処分庁による判断結果とその基礎とされた事実関係が具体的に明示され、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるという法人税法第130条第2項の趣旨目的を充足する程度に更正の根拠が具体的に明示されているものといえるから、同項の要求する更正の理由付記として欠けるところはないというべきである。
     したがって、本件通知書の理由付記に不備はない。
  • ハ 請求人の主張について
     請求人は、原処分庁が、本件金員の支払を決定した株主総会の決議を否認することなく本件元代表者の退職の事実を否認し、帳簿に記載された本件金員を役員給与と認定したことからすると、平成25年3月期の法人税の更正処分は帳簿否認であり、帳簿書類以上に信ぴょう力のある資料を摘示する必要があるし、仮に帳簿否認ではないとしても、本件通知書には、本件元代表者に退職の事実がなく、本件金員が役員給与に該当するとの結論に至った判断過程についての具体的理由の記載がないから、本件通知書の理由付記には不備がある旨主張する。
     しかしながら、上記ロのとおり、平成25年3月期の法人税の更正処分は、請求人の帳簿の記載自体を何ら覆すものではなく、帳簿否認ではないから、帳簿否認を前提とする請求人の主張は理由がない。また、本件通知書には、別紙2の1から4のとおり具体的事実が記載されており、当該各事実により、原処分庁が、本件元代表者には退職の事実がなく、本件金員は役員給与に該当するとの結論に至ったという判断過程が具体的に記載されていると認められる。
     よって、請求人の主張には理由がない。

(3) 争点3(平成25年3月期の法人税の更正処分に、通則法第70条第2項が適用されるか否か。)について

  • イ 検討
     通則法第70条第1項は、更正は、その更正に係る国税の法定申告期限から5年を経過した日以後においてはすることができない旨規定しているところ、同条第2項は、1「法人税に係る純損失等の金額で当該課税期間において生じたもの」を2「増加させ、若しくは減少させる」更正は、同条第1項の規定にかかわらず、同項に定める期限から9年を経過する日まですることができる旨規定しており、同法第2条《定義》第6号ハ(2)は、法人税に係る「純損失等の金額」とは、その事業年度以前において生じた欠損金額のうち翌事業年度以後の事業年度分の所得の金額の計算上順次繰り越して控除等することができるものと規定している。
     そして、請求人の平成25年3月期の確定申告書に記載された純損失等の金額は○○○○円であり、これは全額当該課税期間において生じたものであるから(別表1参照)、この○○○○円が平成25年3月期の1「法人税に係る純損失等の金額で当該課税期間において生じたもの」であるところ、原処分関係資料によれば、平成25年3月期の法人税の更正処分は、本件通知書に記載されているとおり、本件金員(725,000,000円)は法人税法上損金の額に算入できないとした上で、その一部である1請求人の平成25年3月期に生じた純損失等の金額○○○○円を、2○○○○円まで「減少させ」たものであると認められるから、通則法第70条第2項の要件を満たすものである(なお、上記のとおり、平成25年3月期の法人税の更正処分において、損金の額に算入できないとされた金額は725,000,000円であるが、このうち○○○○円を超える金額については同条項の要件を満たさず、よって、同額の限度で更正されたものと認められる。)。
     したがって、平成25年3月期の法人税の更正処分には通則法第70条第2項が適用されるのであり、よって、請求人の平成25年3月期の法人税の確定申告の法定申告期限(平成25年5月31日)から9年(令和4年5月31日)を経過するまでの令和元年5月30日にされた平成25年3月期の法人税の更正処分は、適法である。
  • ロ 請求人の主張について
     請求人は、平成25年3月期の法人税の更正処分について、原処分庁は、役員退職金の損金不算入額とした725,000,000円と確定申告書に記載された欠損金額○○○○円との差額○○○○円を損金の額と認定しているが、法人税法には上記差額を損金の額とする規定はないことから、平成25年3月期の法人税の更正処分は、所得金額を○○○○円増額させる更正となり、その場合には通則法第70条第2項が適用されない旨主張する。
     しかしながら、上記イのとおり、平成25年3月期の法人税の更正処分は、請求人の平成25年3月期に生じた純損失等の金額○○○○円を○○○○円まで減少させる更正であるところ、請求人が原処分庁により損金の額に認定されたと主張する○○○○円は、通則法第70条第2項に則して、当該純損失等の金額を限度とした更正処分を行うために原処分の対象外とした金額であり、当該金額を損金の額と認定したものではないし、平成25年3月期の法人税の更正処分は、欠損金額を○○○○にするもので、所得金額を増額させる更正ではないから、請求人の主張はその前提に誤りがある(なお、本件通知書にも、加算欄に「役員給与の損金不算入額」として725,000,000円と、減算欄に「当事業年度の確定申告書に記載された欠損金額を上回る加算金額」として○○○○円とそれぞれ記載の上、差引加算金額を○○○○円と記載している。)。また、平成25年3月期の法人税の更正処分が通則法第70条第2項の要件を満たしているのは上記イのとおりである。
     したがって、請求人の主張には理由がない。

(4) 争点4(本件金員は、退職給与として、平成25年3月期の損金の額に算入されるか否か。)について

  • イ 検討
     原処分庁は、上記3の(4)の「原処分庁」欄のとおり、同欄のイからニの各事実に鑑みると、本件元代表者は、本件辞任後においても従来どおり請求人の経営に従事しており、請求人のみなし役員に該当するから、請求人を実質的に退職したとは認められないとして、本件金員は退職給与として平成25年3月期の損金の額に算入されない旨主張する。
     ところで、法人税法第2条第15号が取締役等の法的な地位を有していない者でも「法人の経営に従事している者」を法人の役員に含めた趣旨が、取締役等と同様に法人の事業運営上の重要事項に参画することによって法人が行う利益の処分等に対し影響力を有する者も同法上は役員とするところにあることからすると、上記の「法人の経営に従事している」とは、法人の事業運営上の重要事項に参画していることをいうと解される。そこで、本件元代表者が、本件辞任後も継続して、請求人の経営に従事、すなわち、請求人の事業運営上の重要事項に参画しており、実質的に退職していないと認められるかにつき、以下検討する。
    • (イ) 本件経営会議への出席及び指示命令について
       原処分庁は、上記3の(4)の「原処分庁」欄のイのとおり、本件元代表者が、本件辞任後も継続して、毎月開催される本件経営会議に出席し、本件法人グループの各代表取締役らに対し、経営に係る報告を求め、当該報告に対し、今後の指示をしていた旨主張し、本件調査において調査担当職員が作成した申述者をVとする各質問応答記録書(以下、これらの記録書に記載のVの申述を「本件申述」という。)には、これに沿う内容の申述がある。
       ところで、Vは、平成22年頃、本件法人グループの総務・経理事務等を担当していたP社に入社し、平成24年10月頃から平成29年1月31日までの間、P社の登記上、代表取締役の地位にあり、P社以外の本件法人グループのうちの数社についても、その登記上、代表取締役の地位にあった時期がある者である(原処分関係資料及び当審判所の調査の結果)。そして、Vは、本件申述当時、その地位等に関し、VがP社に対して提起した地位確認等請求訴訟や本件元代表者及びU社に対して提起した損害賠償請求訴訟並びに請求人やP社等から提起された損害賠償等請求訴訟がそれぞれ係属中であったものであり(原処分関係資料及び当審判所の調査の結果)、請求人及び本件法人グループや本件元代表者に関する本件申述の信用性については、慎重に検討する必要があるところ、本件元代表者が、本件辞任後に、本件経営会議において、請求人の経営方針・予算・人事等の事業運営上の重要事項につき、具体的な指示や経営に関する決定をしたこと及びその内容や方法を示す客観的証拠はなく、本件申述においても、いつどのような内容の指示や決定を行ったかという具体的な状況については明らかとはいえない。したがって、本件申述をもって、本件辞任後の本件経営会議における、本件元代表者による請求人の事業運営上の重要事項に係る具体的な指示等の存在を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
       なお、本件元代表者の長男であるHが、平成25年当時、請求人の発行済株式総数の8割を超える株式を保有するとともに、本件法人グループの持株会社といえるU社の全株式を保有し、また、本件元代表者が本件法人グループの従業員等から「オーナー」と呼ばれ、さらに、下記(ロ)のとおり、本件元代表者が本件法人グループ間の資金移動などの様々な指示ともとれるような連絡をしていたことなどからすると、本件元代表者が請求人を含む本件法人グループ全体のいわゆる実質的なオーナーといえる立場にあったことがうかがわれ(上記1の(3)のイ、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果)、かかる事実を考慮すれば、仮に、原処分庁が指摘するように、請求人が本件法人グループの一員として本件経営会議の参加者とされ、本件元代表者が、本件経営会議において、本件法人グループの各代表取締役らより上位の立場で振舞っていたという事実があったとしても、そのことをもって、本件元代表者が、本件辞任後も継続して、請求人の経営に従事していたとまで直ちに認めることはできない。
    • (ロ) 本件経営会議以外での指示命令について
       原処分庁は、上記3の(4)の「原処分庁」欄のロのとおり、本件元代表者が、本件辞任後も継続して、本件経営会議以外においても、本件法人グループの各代表取締役や社員に対し、随時、各種業務に関する指示命令及び決裁を行っており、その中でも、Vに対しては、本件法人グループに属する各法人間の資金移動に係る指示などもしていた旨主張し、これに沿う証拠として、本件申述に係る各質問応答記録書のほか、平成26年9月30日から平成29年2月15日の期間におけるVと本件元代表者との間の○○○○の画面を撮影した画像データを出力した資料(以下「本件○○○○」という。)を提出する。
       確かに、本件○○○○には、本件元代表者からVに対する本件法人グループ間の資金移動に係るものなど様々な指示ともとれるようなやりとりがみられ、当該期間に、上記(イ)のとおり、本件元代表者が、本件法人グループ全体のいわゆる実質的なオーナーとして振る舞っていたことはうかがわれるものの、本件法人グループのいずれの法人の業務に係るやりとりなのか不明なものが多くみられ、上記の指示等が請求人の事業運営上の重要事項に係る指示かは不明であるところ、本件辞任の翌日(平成24年12月1日)から本件○○○○の開始日の前日(平成26年9月29日)までの期間において、本件元代表者が 請求人の業務に関して具体的な指示等をしたこと及びその内容や方法を示す客観的な証拠はない。加えて、本件○○○○は、いずれも本件辞任から1年10か月後の平成26年9月30日以降の期間に係るものであることや、本件申述の内容が具体性を欠くものであること(上記(イ))を併せ考慮すると、本件○○○○及び本件申述によって、本件元代表者が、本件辞任後も継続して、請求人の事業運営上の重要事項に係る具体的な指示命令及び決裁をしていたと認めることは困難であり、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
    • (ハ) 金融機関に対する本件元代表者の対応について
       原処分庁は、上記3の(4)の「原処分庁」欄のハのとおり、本件元代表者が、本件辞任後も継続して、新規融資の申入れ等に関して、各金融機関との間で交渉し、自ら最終的な判断をしていた旨主張し、これに沿う証拠として、本件申述に係る質問応答記録書、金融機関の担当者を申述者とする各質問応答記録書や本件○○○○を提出する。
       しかしながら、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、請求人は、本件辞任の日から平成28年3月31日までの期間において、金融機関から新規融資を受けていないと認められ、実際に新規融資に向けた具体的な交渉が行われたことを認めるに足りる証拠もない。
       また、確かに、Vは、本件申述において、本件法人グループの金融機関との交渉や融資決定等は全て本件元代表者が行っていたと申述し、また、金融機関の担当者の中には、本件法人グループの融資等に係る実質的な決定をしていたのは本件元代表者であった旨申述する者もいるほか、本件○○○○には、請求人と金融機関との取引に関する本件元代表者とのやりとりもみられるが、いずれも請求人に係る融資やその交渉等についての具体的な状況を示すものではないか、本件辞任後間もない時期のものではない。
       かえって、請求人のX銀行からの融資につき、本件辞任の約3か月後である平成25年3月7日に、その連帯保証人が本件元代表者から当時の代表取締役であるFに変更されたことが認められるところ、この事実は、本件辞任に対応した措置が金融機関との間で具体的に執られたことを示すものである上、Fが請求人の代表者としての自覚と責任のもとに自ら決定したことを推認させるものといえる。
       そうすると、上記申述や本件○○○○をもって、本件元代表者が、請求人につき、本件辞任後も継続して、金融機関との間で具体的な交渉を行い、自ら最終的な判断をしていたと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
    • (ニ) 新規事業の決定等について
       原処分庁は、上記3の(4)の「原処分庁」欄のニのとおり、本件元代表者が、本件辞任後においても、従業員や税理士に対して太陽光発電事業に係る指示や相談をし、太陽光発電設備の販売業者が本件元代表者を本件法人グループの人間と認識していたことから、本件元代表者は、本件法人グループの新規事業に係る決定等をしていたといえる旨主張する。
       この点、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、請求人は、平成27年3月頃にY社から太陽光発電設備を購入していると認められるところ、当該購入は、本件辞任から約2年4か月後のことであり、そもそも、本件辞任後間もない時期に、請求人が太陽光発電事業を新規に開始することを決定したとは認められず、その他、本件元代表者が、本件辞任後に、請求人の事業運営上重要な新規事業を決定したことを認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、この点に関する原処分庁の主張も採用することはできない。
    • (ホ) 小括
       以上に加え、上記1の(3)のロのとおり、本件元代表者は、本件辞任の日以降少なくとも平成29年3月31日までの間、請求人から役員給与や従業員給与を受領していないと認められること、他方で、本件辞任後に請求人の代表取締役の地位にあったFが、本件辞任直後から、その代表取締役としての職務を全く行っていなかったことを認めるに足りる証拠もないこと、また、上記1の(3)のハのとおり、本件元代表者が本件辞任の約5か月前に海外に住所を移転しており、本件辞任に至った経緯が不自然であるともいえないことからすれば、本件元代表者が、本件辞任後も継続して、請求人の事業運営上の重要事項に参画するみなし役員に該当し、請求人を実質的に退職していなかったと認めることはできない。
  • ロ 結論
     以上のほか、本件金員が退職給与として損金の額に算入されないと判断すべきその他の事情もないことから、本件金員は、退職給与として、請求人の平成25年3月期の損金の額に算入される。

(5) 原処分の適法性について

  • イ 各更正処分について
     上記(4)のとおり、本件金員は、退職給与として、平成25年3月期の損金の額に算入されることから、これを前提に、本件各事業年度の法人税の各所得金額、各納付すべき法人税額及び翌期へ繰り越すべき欠損金額を計算すると、いずれも別表1の「確定申告」欄の各金額と同額になるから、本件各事業年度の各更正処分は、いずれも違法であり、それらの全部を取り消すべきである。
     また、これに基づき、平成26年3月課税事業年度の復興特別法人税及び本件各課税事業年度の地方法人税に係る各課税標準法人税額及び各納付すべき税額を計算すると、いずれも別表2及び別表3の「申告」欄又は「確定申告」欄の各金額と同額になるから、平成26年3月課税事業年度の復興特別法人税及び本件各課税事業年度の地方法人税に係る各更正処分は、いずれも違法であり、それらの全部を取り消すべきである。
  • ロ 過少申告加算税の各賦課決定処分について
     上記イのとおり、原処分のうち各更正処分はいずれも違法であり、それらの全部を取り消すべきであるから、これを前提とする法人税、復興特別法人税及び地方法人税に係る過少申告加算税の各賦課決定処分も、いずれもそれらの全部を取り消すべきである。

(6) 結論

以上によれば、審査請求にはいずれも理由があるから、原処分の全部を取り消すこととする。

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