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(平4.11.18、裁決事例集No.44 234頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 審査請求人(以下「請求人」という。)は、金型製造業を営む同族会社であるが、平成元年4月1日から平成2年3月31日までの事業年度(以下「平成2年3月期」という。)及び平成2年4月1日から平成3年3月31日までの事業年度(以下「平成3年3月期」といい、平成2年3月期と併せて「各事業年度」という。)の法人税について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書をいずれも法定申告期限までに提出した。
(2) 原処分庁は、平成2年3月期について、平成2年7月31日付で別表1の「更正(1)」欄のとおり更正をした。
(3) 請求人は、平成3年3月期について、平成3年11月6日に別表1の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を提出した。
 原処分庁は、この修正申告について平成3年11月29日付で別表1の「賦課決定(1)」欄のとおり賦課決定をした。
(4) 原処分庁は、各事業年度について、平成3年11月29日付で別表1の「更正(2)」欄のとおり更正(以下「本件更正」という。)及び「賦課決定(2)」欄のとおり賦課決定をした。
(5) 原処分庁は、平成3年11月29日付で別表2の「納税告知」欄のとおり、平成元年4月分から平成3年3月分までの源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税告知(以下「本件納税告知」という。)及び不納付加算税の賦課決定をした。
(6) 請求人は、前記(4)及び(5)の各処分を不服として、それぞれ平成4年1月13日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成4年3月11日付で別表1の「異議決定」欄のとおり平成2年3月期の過少申告加算税の賦課決定の取消し並びに別表2の「異議決定」欄のとおり源泉所得税の本税及び不納付加算税の賦課決定の一部の取消しの異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の前記(4)及び(5)の原処分について、なお不服があるとして、それぞれ平成4年4月4日に審査請求をした。
 当審判所は、これらの審査請求について併合審理をする。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部を取り消すべきである。
イ 更正について
 原処分庁は、請求人が、請求人の代表取締役A男(以下「A男」という。)の長男であるB男(以下「B男」という。)に対して支払った給料等の額平成2年3月期2,800,000円及び平成3年3月期2,800,000円の合計5,600,000円(以下「本件金員」という。)をA男の報酬並びに役員賞与であると認定し更正した。
 しかしながら、本件金員は、次のとおり、請求人の従業員であるB男に支払った給料等の額である。
(イ) B男は、請求人の従業員であり、将来は請求人及び同族関係法人のC株式会社(以下「C社」という。)のリーダーとして、従業員の教育指導をするにふさわしい専門技術及び社会学を学ばせるために、請求人の業務命令(以下「社命」という。)によって○○大学へ進学(以下「本件進学」という。)させていること。
(ロ) 請求人は、今後、採用した従業員が優秀であり、かつ、その従業員が進学を希望すれば高校及び大学等へ通学させる方針であること。
(ハ) 請求人は、従業員を大学等に通学させて、給与及び賞与等の額を損金の額に算入している会社が多数あると聞いていること。
(ニ) 請求人が社会保険事務所長に対してB男が社命で通学していることを説明した結果、B男は、従業員として健康保険及び厚生年金の加入が認められていること。
(ホ) B男は、夏休み等で一時帰省した時、請求人の業務であるコンピューター入力事務及びマシン作業等の教育指導を受けており、かつ、請求人の業務が多忙な時、図面作成やその他の雑業務に従事していること。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 前記イのとおり、本件更正は違法であるから、その全部の取消しに伴い過少申告加算税の賦課決定もその全部を取り消すべきである。
ハ 納税告知について
 原処分庁は、本件金員をA男に対する報酬及び賞与と認定して納税告知をしたが、前記イのとおり、B男は、請求人の従業員として社命により本件進学をしたものであり、本件金員はB男に対して支給したものであるから、本件納税告知は違法となるので、その全部を取り消すべきである。
ニ 不納付加算税の賦課決定について
 前記ハのとおり、本件納税告知は違法であるから、その全部の取消しに伴い不納付加算税の賦課決定もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由によりいずれも適法である。
イ 更正について
(イ) 本件金員等について調査したところ、次の事実が認められる。
A A男はC社の発行済株式総数の50パーセント以上を有しており、請求人は、請求人の発行済株式総数の100パーセントをA男及びC社により有される法人税法第2条《定義》第10号に規定するところの同族会社に該当し、かつ、A男が代表取締役として請求人の事業を主宰していること。
B 請求人は、B男を平成元年4月1日付で従業員として採用し、平成元年4月から平成3年3月までの間、月額200,000円の給料と各事業年度に400,000円の賞与を支払っており、本件金員を各事業年度において損金の額に算入していること。
C A男は、前記Bの金額を決定するに当たり、請求人の所得が欠損にならない程度で、かつ、B男の本件進学に係る必要な費用を目やすとしてその額を決めていること。
D 請求人は、B男以外の従業員を社命で高校及び大学等へ通学させている事実はないこと。
E 請求人の社内規定等には、請求人の従業員を高校及び大学等へ進学させる定めがないこと。
F 請求人は、社会保険事務所長に対して、B男を平成元年4月1日に従業員として採用した旨届けているが、同人の採用及び任用に関する書類の作成並びに保管をしていないこと。
G 本件進学のためB男はP県に居住することとなったが、B男のP県での生活費等は、本件金員から、△△信用金庫××支店のB男名義の普通預金へ入金された1,000円未満の端数金額を除いた残金とA男個人から補てんされる現金とを併せて送金した金額によっていること。
H A男は、B男が本件進学に係る入学等のために必要とした入学金等のすべての資金を負担していること。
(ロ) A男は、B男の勤務実態等について次のように申述している。
A B男は、請求人の従業員として採用される以前に、同人の意思で本件進学を決めていたこと。
B 請求人は、今後、社命でB男以外の従業員を高校及び大学等へ進学させる予定はないこと。
C 請求人は、B男を請求人の従業員として採用し、本件進学をさせている事実等を、B男以外の従業員には知らせていないこと。
D 請求人は、B男を一定の選考基準により従業員として採用したものではなく、同人がA男の長男であり、将来請求人及びC社のリーダーになってもらわなければならないとの理由で採用していること。
E A男がB男の本件進学に際して行った指示は、自宅において口頭で「しっかり勉強するように。」と言った程度のものであったこと。
F 請求人は、B男に対して本件進学での学業の履修状況等の報告については、A男が了解すれば足りることから、特に義務付けていないこと。
G B男は、平成元年4月に本件進学をして、現在P県に居住し通学しているが、同人は、一時帰省の間において事務や工場内での業務に従事したことはないこと。また、請求人は、B男に対して具体的な業務指示等を出したことがないこと。
(ハ) 以上(イ)及び(ロ)で述べたことを総合して判断すると、B男は、請求人における勤務実態はなく、請求人の従業員としての認定もできないところから、本件金員の支払は、A男がB男を単に請求人の従業員としての形を整えることによって、A男個人が扶養すべき者に対する個人的費用の支払を請求人に負担させたものと認められる。
 請求人のこれらの行為及び計算は、同族会社であるがゆえになされたものであり、本件金員はA男に支払われた報酬及び賞与と認めるのが相当である。
 なお、請求人は、B男が健康保険及び厚生年金への加入を認められていると主張しているが、このことをもって同人が請求人の従業員であると認定すること及び本件金員がB男の給料等であると認定することはできない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定について
 前記イのとおり、本件更正は適法であり、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められない。
 したがって、同法第65条第1項に規定する過少申告加算税を賦課決定したことは相当である。
ハ 納税告知について
 前記イのとおり、本件金員はA男に対する報酬及び賞与であることから、当該報酬及び賞与に対する源泉所得税額を所得税法第185条《賞与以外の給与等に係る徴収税額》第1項第2号イ及び同法第186条《賞与に係る徴収税額》第1項第2号イの規定により計算すると、2,706,181円となり、当該源泉所得税額が法定納期限までに納付されていないので、国税通則法第36条《納税の告知》の規定により本件納税告知を行ったものである。
ニ 不納付加算税の賦課決定について
 本件納税告知により納付すべき源泉徴収に係る所得税額2,706,181円を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する不納付加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められない。
 したがって、同法第67条第1項に規定する不納付加算税を賦課決定したことは相当である。

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3 判断

(1)本件更正について

 本件金員がA男に支払われた報酬及び賞与であるか否かについて争いがあるので、調査・審理したところ、次のとおりである。
イ 次の事実については、当事者間に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
(イ) 請求人は、A男及びA男が発行済株式総数の50パーセント以上を有するC社の両者によってその発行済株式総数のすべてを有されている同族会社であり、A男が代表取締役としてその事業を主宰していること。
(ロ) 請求人は、本件金員を平成2年3月期に2,800,000円及び平成3年3月期に2,800,000円支出し、これらの金額を各事業年度の損金の額に算入していること。
(ハ) B男は、平成元年4月から本件進学をしていること。
ロ 当審判所が請求人提出資料及び原処分関係資料等を基に調査したところ、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、B男を請求人の従業員として採用及び任用したとする書類の作成並びに保管をしていないこと。
(ロ) 請求人は、B男に社命で本件進学をさせたとする社内りん議書等の作成及び保管をしていないこと。
(ハ) 請求人は、B男の本件進学に係る履修状況等の報告を求める等の管理及び監督をしていないこと。
(ニ) 請求人は、請求人の従業員の勤務時間をタイムカードで管理しているが、B男が出社したとする夏休み等の期間のB男のタイムカードの管理及び保存をしていないこと。
(ホ) 請求人の社内規定には、請求人の従業員を高校及び大学等へ進学させるとする定めがないこと。
(ヘ) 本件金員は次のとおりである。
A 本件金員の支出は、次表のとおりであること。

 

区分\事業年度 平成2年3月期 平成3年3月期
支払年月 金額 支払年月 金額
給料 毎月 各月200,000円 毎月 各月200,000円
給料計1   2,400,000   2,400,000
賞与 1.7 100,000 2.7 200,000
1.12 100,000 2.12 200,000
2.3 200,000
賞与計2   400,000   400,000
合計(12)   2,800,000   2,800,000

 

B 本件金員は、A男の妻であるD女(以下「D女」という。)が受け取り、管理していたこと。
C D女は、本件金員をB男のP県での生活費等に充てるため送金しているが、その金額に不足があるときは、A男の報酬等から支出し、送金していること。
ハ A男は、当審判所に対して、次のとおり答述している。
(イ) 請求人は、B男に対して請求人の従業員としての明確な採用通知及び採用条件を示していないこと。
(ロ) B男は、本件進学を自らの意思で決めたこと。
 また、A男は、本件進学の後、B男に対して、本件進学が社命であると口頭で伝えたこと。
(ハ) B男の本件進学を社命としたのは、C社が建築を業としているので本件進学による専門的技術が将来的に役立つと考えたからであること及びA男が請求人、C社の両社の経営を主宰していることからA男の長男であるB男に将来の両社のリーダーとしてふさわしい社会学を学ばせるためであること。
(ニ) 請求人は、B男が帰省した時、同人に請求人の作業に従事させることは、他の従業員の作業の支障となるため、具体的に業務の指示をしたことは一度もないこと。
(ホ) 請求人は、B男の本件進学に係るレポートや学業の進行度合いの報告書については、A男が了解すれば、他の人の了解の必要がないことから、同人から提出させていないこと。
(ヘ) 請求人は、B男を採用したことを使用人兼務役員の○○、△△及び給与計算を担当する従業員には伝えたが、その他の従業員には伝えていないこと。
(ト) 本件金員は、そのほとんどの金額がB男のP県での生活費等に費消されていること、また、本件進学に係る入学金及び授業料等の費用は、A男の報酬等から支払われていること。
(チ) A男は、B男の給料等の額を、本件進学中のB男の生活費を賄える程度の金額を考慮して、月額200,000円と決めたこと。
(リ) 更に、前記(チ)の金額は、A男の請求人からの報酬月額が200,000円であったので、更に、請求人からB男が月額200,000円を受け取れば、その合計額がA男のC社からの報酬月額400,000円と同額になることを考慮して決めたこと。
ニ そこで、前記イないしハの事実等を基に検討すると、次のとおりである。
(イ) 前記ロの(イ)ないし(ニ)及び前記ハの(ニ)のとおり、1B男の採用及び任用に係る書類の作成並びに保管がないこと、2B男の本件進学の決定に係る社内りん議書等の作成及び保管がないこと、3B男の本件進学に係る履修状況等について、管理及び監督をしていないこと、4B男の勤務時間を管理するタイムカードが作成されていないこと並びに5B男に対して請求人が具体的な業務の指示をした事実がなく、請求人は、B男が夏休み等に勤務したとするタイムカードの管理及び保存をしていないことから、請求人は、B男について従業員としての管理等をしておらず、B男の請求人に対する勤務の事実は認められない。
(ロ) 更に、1前記ロの(ホ)のとおり、請求人の社内規定には、従業員を高校及び大学等へ進学させるための定めがないこと、2前記イの(イ)のとおり、請求人は同族会社であり、3前記ハの(ホ)及び(ヘ)のとおり、請求人のB男に係る意思決定はA男一人にゆだねられていること並びに4前記ロの(ヘ)のC及び前記ハの(ト)のとおり、本件金員はA男の報酬等と併せてB男の生活費等に充てられていることから、請求人は、B男の本件進学に係る生活費等に充てるために、従業員の採用時期とB男の本件進学の時期とが重なったことを奇貨として、本件進学を社命としB男に対して給料等を支給したごとく装い、本件金員を損金に計上したものと認められる。
(ハ) また、A男は、B男の月額給料を200,000円としたことについて、1前記ハの(チ)のとおり、同人の本件進学中の生活費を賄える程度の金額とした旨及び2前記ハの(リ)のとおり、A男の請求人からの報酬月額が200,000円であったので、更に、請求人からB男が月額200,000円を受け取れば、その合計額がA男のC社からの報酬月額400,000円と同額になることを考慮して決めた旨答述していること並びに前記ロの(ヘ)のB及び前記ロの(ヘ)のCのとおり、本件金員は、D女が受け取り、管理し、B男のP県での生活費に充てるためA男の報酬等の支出と併せて送金されていることから、B男に支給されたとする本件金員は、A男に対して支払われたものと認めるのが相当である。
 したがって、本件金員をA男に対する役員報酬と認定した原処分は相当であり、本件金員のうち賞与として支出された800,000円は、法人税法第35条《役員賞与等の損金不算入》第1項に規定する臨時的な給与に該当することから、この金額を損金の額に算入しなかった原処分は相当であり、請求人の主張には理由がない。
 ところで、請求人は、従業員を大学等に通学させて給与及び賞与等の額を損金の額に算入している会社が多数ある旨主張しているが、当審判所が調査したところによれば、従業員を大学に通学させ、従業員にその通学している期間の生活費相当額を給与等として支給し、かつ、損金の額に算入している会社は認められない。
 また、請求人は、B男が従業員として、健康保険及び厚生年金への加入を認められた旨主張するが、これをもって、前記ニの(イ)ないし(ハ)までの認定した事実を妨げるものではなく、請求人の主張はいずれも採用できない。

(2) 過少申告加算税の賦課決定

 前記(1)のとおり、本件更正は適法であり、かつ、各事業年度の本件更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実をその計算の基礎としなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた各事業年度の過少申告加算税の賦課決定は適法である。

(3) 納税告知について

 本件納税告知について争いがあるので、調査・審理したところ、次のとおりである。
イ 請求人は、本件金員はB男に対して支給したものである旨主張するが、前記(1)のニのとおり、本件金員をA男に支払われたものとし、賞与等の額以外の金額については役員報酬とし、賞与等の額を役員賞与とした各事業年度の本件更正は適法であり、これに基づいて所得税法第185条第1項及び同法第186条第1項の規定による源泉所得税の額を徴収するため、原処分庁が本件納税告知をしたことは相当であるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ なお、平成2年3月分の納税告知には、A男に対して賞与と認定した職務手当200,000円について、賞与として税額を算定すべきところ賞与以外の給与等として税額を算定した誤りが認められる。
 当審判所が、所得税法第185条第1項及び第186条第1項を適用し税額を算出すると、A男に係る平成2年3月分の源泉所得税の額は、役員報酬400,000円に係る税額92,300円及び賞与200,000円に係る税額76,000円の合計額168,300円となる。
 そうすると、平成2年3月分の納税告知により納付すべき税額は、168,300円から既に請求人が納付した同人に係る税額18,000円を控除した150,300円となる。
 したがって、平成2年3月分について、原処分庁が納税告知をした額179,681円と上記納付すべき税額150,300円との差額29,381円は、過大な納税告知となるので取り消すべきである。

(4) 不納付加算税の賦課決定について

イ 平成2年3月分については、前記(3)のロのとおり、納税告知が一部取り消されることに伴い、納付すべき税額は減少することとなり、不納付加算税の額が15,000円となるので、その一部を取り消すべきである。
ロ 前記イ以外の納税告知については、前記(3)のロのとおり適法であり、かつ、本件納税告知に係る税額が法定納期限までに納付されなかったことについて、国税通則法第67条第1項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同項の規定に基づいてされた前記イ以外の納税告知に係る不納付加算税の賦課決定は適法である。

(5) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所において調査・審理したところによっても、これを不相当とする理由は認められない。

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