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(平19.1.23、裁決事例集No.73 110頁)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、原処分庁が、相続税の物納を申請している審査請求人(以下「請求人」という。)について、所得税に係る還付金を当該相続税額に充当し、さらに、延滞税に係る督促をしたのに対し、請求人が、当該充当処分の無効を理由として、同処分及び督促処分の全部の取消しを求めた事案である。
(2) 審査請求に至る経緯等及び基礎事実
以下の事実については、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、A(平成9年7月○日に死亡)の共同相続人の一人であり、当該相続により納付すべき相続税の税額を○○○○円(以下「本件相続税額」という。)とする相続税の申告書を平成10年5月1日に、同税額の全部について物納を求める相続税物納申請書(以下「本件物納申請書」という。)を同月6日にそれぞれ原処分庁に提出した。
ロ 請求人は、別表1記載のとおり、平成11年分ないし平成16年分の所得税の確定申告をし、「還付金の額に相当する税額」欄記載の所得税に係る還付金が生じた。
ハ 原処分庁は、別表2記載のとおり、平成11年分及び平成12年分の所得税に係る還付金を本件相続税額にそれぞれ充当し(以下「本件各充当処分」という。)、請求人に対し、「充当通知書年月日」欄記載の日のころにその旨を通知した。
ニ 原処分庁は、本件各充当処分により納付があったものとみなし、本件相続税額の残額○○○○円について、平成13年5月8日付でB国税局長に徴収の引継ぎをした。
ホ B国税局長は、別表3記載のとおり、平成13年分ないし平成16年分の所得税に係る還付金を本件相続税額にそれぞれ充当し、請求人に対し、「充当通知書年月日」欄記載の日のころにその旨を通知した。
ヘ B国税局長は、請求人に対し、別表4記載のとおり、本件物納申請書に係る物納を許可する旨の相続税物納許可通知書をそれぞれ送付した。また、B国税局長は、請求人に対し、本件各充当処分及びB国税局長がした上記ホの各充当処分の税額に係る延滞税について、その一部を免除し、差引未納額を○○○○円(以下「本件延滞税」という。)とする平成17年6月23日付の延滞税免除通知書を送付した。
ト B国税局長は、原処分庁において本件延滞税の徴収事務を処理するのが相当であると判断して、平成17年8月25日付で徴収の引継返戻をした。
チ 原処分庁は、平成17年9月28日付で本件延滞税の督促処分(以下「本件督促処分」という。)をした。
リ 請求人は、本件各充当処分及び本件督促処分を不服として、平成17年11月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が、平成18年2月24日付で、当該異議申立てのうち、本件各充当処分に対するもの(以下「本件異議申立て」という。)については、不服申立期間経過後にされた不適法なものであるから却下し、本件督促処分に対する異議申立てについては、同処分に違法はないから棄却する旨の決定をしたことから、同年3月16日に審査請求をした。
(3) 争点
争点1 本件異議申立ては、国税通則法(以下「通則法」という。)第77条《不服申立期間》第1項に規定する不服申立期間の制限を受けるか否か。
争点2 本件督促処分に違法があるか否か。
(4) 関係法令
別紙1及び別紙2のとおり。
2 争点1(本件異議申立ては、通則法第77条第1項に規定する不服申立期間の制限を受けるか否か。)に係る主張及び判断
(1) 主張
請求人 | 原処分庁 |
---|---|
瑕疵ある行政処分は、その瑕疵が処分の取消しとなる程度のものであれば時間の経過により治癒されるが、重大かつ明白な瑕疵がある無効の行政処分は、時間が経過しても無効のまま治癒されないから、不服申立期間の制限はない。 本件各充当処分は、重大かつ明白な瑕疵があるから無効である。そうすると、本件異議申立ては、不服申立期間の制限を受けないから、適法なものである。 |
本件各充当処分に係る通知書は、平成12年4月19日又は平成13年4月12日にそれぞれ普通郵便により発送されており、平成14年法律第100号による改正前の通則法第12条《書類の送達》第2項の規定により、それぞれ発送の日の翌日に送達があったものと推定される。そうすると、本件異議申立ては、通則法第77条第1項の規定により、それぞれ平成12年6月20日又は平成13年6月13日までにされなければならないところ、請求人は、平成17年11月26日に本件異議申立てをしているから、いずれも不服申立期間経過後にされた不適法なものである。 |
(2) 判断
イ 請求人は、本件各充当処分には重大かつ明白な瑕疵があって無効であるから、本件異議申立ては、不服申立期間の制限を受けない旨主張する。そして、行訴法は、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟(抗告訴訟)として、処分の取消しの訴えとは別に、処分の無効等確認の訴えを提起することを認めている(同法第3条第1項、第2項、第4項)が、出訴期間の制限の規定(同法第14条)は準用されないから、同訴えの提起は、請求人の主張するように、不服申立期間の制限を受けるものではない。
ロ しかしながら、行訴法上、不服申立て前置に関する規定(同法第8条)は、無効等確認の訴え(同法第36条)には準用されず(同法第38条第1項ないし第3項)、同訴えは、異議申立てや審査請求を経ずに提起できるから、同法は、同訴えの提起に先き立ち審査請求等がされることを予定していないものと解される。そして、行政不服審査法も、審査庁や処分庁に対して処分の存否又はその効力の有無を確認することを求める不服申立てがされることを予定しておらず(同法第40条第3項、第47条第3項参照)、その特別法である通則法にも、国税不服審判所や異議審理庁に対してそのような不服申立てがされることを予定した規定はない(同法第83条第3項、第98条第2項参照)。また、納税者が処分の無効を理由として課税処分や徴収処分の取消しを求めた場合には不服申立期間の制限を受けないと解すると、租税法律関係の早期安定と課税行政の能率を確保するという期間制限の趣旨を没却することにもなる。
ハ このように、通則法上の不服申立てにおいては、納税者が処分の無効を理由として課税処分や徴収処分の取消しを求めた場合であっても、同法の不服申立手続に則っていることが前提となるというべきであるから、同法第77条第1項に規定する不服申立期間を遵守せずにされた異議申立ては、原則として不適法であり、これが適法となるのは、同条第3項に規定する天災その他その不服申立期間内に不服申立てをしなかったことについてやむを得ない理由があり、かつ、その理由がやんだ日から7日以内に審査請求をした場合に限られる。
ニ 上記1の(2)のハ及びリによれば、本件異議申立ては、通則法第77条第1項に規定する不服申立期間経過後にされたことが明らかであり、当審判所の調査によっても、請求人が上記期間内に異議申立てをしなかったことについて、天災その他やむを得ない理由があるとは認められないから、不適法なものである。
したがって、本件審査請求は、適法な異議申立てを経ていないから、本件各充当処分の適否を検討するまでもなく、いずれも不適法である。
3 争点2(本件督促処分に違法があるか否か。)に係る主張及び判断
(1) 主張
請求人 | 原処分庁 |
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イ 物納許可申請は、一定の要件に従って法定申告期限内に申請すれば、適法なものであり、また、物納申請者は、税務官庁からの様々な物納申請に係る補完の指示を受け、これに従って物納を完了させると、物納申請に係る相続税額を法定申告期限内に納税したものとして取り扱われる。これは、物納が完了すれば延滞税が課されないことからみても明らかである。 請求人は、本件相続税額について適法に物納申請をし、その後、物納が許可されているから、既に納付すべき国税を法定申告期限内に納付しているといえ、通則法第57条第1項に規定する「納付すべきこととなっている国税」が存在しないから、請求人の所得税に係る還付金を本件相続税額に充当することはできない。これに反してされた本件各充当処分は、重大かつ明白な瑕疵があるから無効である。 したがって、本件延滞税は発生しないから、本件督促処分は違法である。 |
イ 相続税法第51条第4項は、物納に係る相続税を、納期限内に納付されたものとして取り扱うことを定めた規定ではない。 そして、相続税法第43条第2項の規定によれば、相続税につき物納許可申請を行った場合であっても、当該相続税は、物納の許可後、物納財産につき第三者に対抗することができる要件を充足するまでは、未納の状態にあり、通則法第57条第1項に規定する「納付すべきこととなっている国税」に該当するから、本件各充当処分には、法律の適用誤りはなく、重大かつ明白な瑕疵はない。 そうすると、通則法第37条の規定に基づく本件延滞税に係る本件督促処分も適法である。 |
ロ 請求人が、隣接地との境界線の確定などの税務官庁からの物納申請に係る様々な補完の指示に誠実に応えようと、多大な労力、時間、費用を投下し、努力してきたにもかかわらず、いきなり所得税に係る還付金の充当処分をしたのは、請求人の努力を覆して無駄にするものである。また、物納申請の手続がある程度進行し、物納申請者の利益を著しく阻害するような場合は、もはや充当処分はなし得ない。 したがって、本件各充当処分は、信義誠実の原則及び権利濫用禁止に抵触するから違法であり、本件督促処分も違法である。 |
ロ 請求人が、物納申請に伴って税務官庁の指示で補完に多大な費用と時間を要したとしても、この補完の行為は物納許可の要件を満たすために必要なもので、同人がその負担を負うのは当然のことであるから、本件各充当処分と関連付けるべきものではない。 税務官庁として、納税者間の公平性・均一性を保つには、法令の規定に則した処理をすべきところ、本件各充当処分と物納申請に伴う処理は、いずれも適法に行われている。 したがって、本件各充当処分は、信義誠実の原則及び権利濫用禁止には抵触しない。 |
(2) 判断
イ 相続税法第51条第4項及び同法第43条第2項の各規定を総合すると、当該相続税の法定納期限の翌日から、登記等により第三者に対抗することができる要件を充足し、納付があったものとされた日までの期間に対応する部分の延滞税は、納付することを要しないとされている。これは、相続税の物納の場合には、収納の手続に時間を要することから、これに延滞税を課すべきではないとして、当該期間に発生した延滞税を法律上当然に免除するものであるが、物納に係る相続税額について法定納期限内に遡及して納付があったとするものではないと解される。
ロ 請求人は、本件相続税額について適法に物納申請し、物納が許可されているから、既に納付すべき国税を法定申告期限内に納めているといえ、所得税に係る還付金を充当することができないにもかかわらず、これに反してされた本件各充当処分は、重大かつ明白な瑕疵があるから無効である旨主張する。
しかしながら、相続税の物納の場合における上記延滞税の納付免除は、上記イのとおり、相続税の物納があった場合に、物納に係る相続税額を法定納期限内に遡及して納付があったとするものではないから、請求人の上記主張は理由がない。
ハ 請求人は、本件各充当処分が無効でないとしても、税務官庁の物納申請に係る補完の指示に応えようと努力してきたにもかかわらず、いきなり充当処分をするのは、その努力を覆して無駄にするものであり、物納申請の手続がある程度進行し、物納申請者の利益を著しく阻害するような場合は充当処分はなし得ないから、同処分は、信義誠実の原則及び権利濫用禁止に抵触し違法であり、本件督促処分は違法である旨主張する。
しかしながら、請求人の上記主張は、充当処分の後に物納が許可されたことから、充当処分がなければ延滞税が免除されたはずであるというものであるところ、充当処分は、還付金等が発生した場合、その還付を受ける者に納付すべき国税が別にあるときに、納税者の意思にかかわらず、還付をせずに未納の国税に充てるものであるのに対し、督促処分は、滞納国税に対する納付催告及び差押えの前提要件として行われるものであり、これらは、同一の目的を追求する手段と結果としての関係になく、一つの効果を完成する一連の行為ではない。そうすると、仮に本件充当処分が違法であったとしても、その違法性は、本件督促処分に承継される関係にはないというべきである。しかも、上記2の(2)のニのとおり、本件充当処分は、もはや争えなくなっている。
したがって、請求人の上記主張は、その前提において既に理由がない。