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(平19.2.20、裁決事例集No.73 148頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が事業所得の金額の計算上必要経費に算入した開業費に係る償却費について、原処分庁が、当該開業費は繰延資産に該当しないから、その償却費を必要経費に算入することはできないとして所得税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該開業費は繰延資産に該当するとして更正処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人の審査請求(平成18年8月2日)に至る経緯は、別表1のとおりである(以下、平成15年分の更正処分を「本件更正処分」という。)。
ロ なお、請求人は、所得税法第16条《納税地の特例》の規定に基づき、請求人の事業所であるP市Q町○○番地Gビル(以下「本件ビル」という。)2階を納税地としている。

(3) 関係法令の要旨

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件ビル2階において、名称を「Hクリニック」(以下「本件クリニック」という。)とする医院を開設し、診療、健診等を行っている。
ロ 請求人が平成10年分の所得税の確定申告書に添付して提出した青色申告決算書(一般用)の貸借対照表の「開業費」欄には、30,229,105円(内訳は別表2のとおりである。以下「本件費用」という。)と記載されている。
ハ 請求人は、平成15年分の所得税について、本件クリニックの業務に係る事業所得の金額の計算上、本件費用から消費税及び地方消費税の額に相当する金額を除いた28,789,624円を開業費の償却費として必要経費に算入した。
ニ 請求人は、平成9年2月○日に、名称を「Jクリニック」、開設日を「平成9年2月○日」、開設者を「請求人」とする旨の診療所開設届を、また、平成9年3月○日に、名称を「Jクリニック」から「Hクリニック」に変更する旨の変更届を、K保健所にそれぞれ提出した。
ホ L社会保険事務局は、健康保険法第65条《保険医療機関又は保険薬局の指定》の規定に基づき、平成9年5月○日に、請求人を開設者とする本件クリニックを保険医療機関として指定した。
ヘ 本件クリニックに係る社会保険診療報酬及び自由診療収入は、平成10年1月診療分以後、○○銀行○○支店の「Hクリニック○○○○(請求人の氏名)」名義の預金口座(以下「本件預金口座」という。)に入金されている。

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2 主張

(1) 請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件費用について
(イ) 請求人は、平成9年には、Jクリニックの前院長であるM医師から「医院開設者」の地位を引き継いだが、同クリニックの実質的な経営者は、N病院を経営するR医師であり、同人から経営者の地位を引き継いではいない。
 このことは、平成9年分の所得税の確定申告において、事業所得の申告をしていないことからも明らかである。
 したがって、平成9年中に行った各種の届出等は形骸的なものであって、請求人の真の開業時期は平成10年6月ころである。
 なお、平成10年1月から同年5月までの間の本件クリニックに係る収支については、正しくはN病院で計上すべきであったと考えられるが、便宜的に請求人の収支として確定申告したものであり、このことは開業時期が平成10年1月であったとの根拠とはならない。
(ロ) 平成9年まで月額約○○○○円の給与収入を得ていた請求人が、平成10年1月から月額約700万円の家賃の負担の下に事業を開始することを容易に決断することができず、このような経済状況等から、請求人の開業準備に時間がかかった。
 そうすると、本件費用を、請求人が自己の計算と危険において事業を実質的に開始するまでに支出した費用、つまり開業費として申告したことは、公正なる会計慣行に照らして妥当な処理であり、税法上も合理的な処理である。
 また、本件費用は、平成10年分の必要経費と認められるものを、請求人が、将来にわたってその支出の効果が期待され、将来における収益と費用を対応関係に立たせしめることが妥当であると判断して、あえて平成10年分の開業費として計上したものである。
(ハ) したがって、本件費用は、所得税法施行令第7条第1項第1号に規定する開業費に該当する。
ロ 更正の除斥期間について
(イ) 平成10年分の所得税の確定申告書に、本件費用を開業費として貸借対照表の資産の部に計上したのであるから、当該申告書の提出によって、第一次的には開業費として申告した内容が確定している。
 その後、当該申告内容が税務署長の確認行為によって確定するわけであるが、更正の除斥期間である3年を経過したことによって、平成10年分の開業費として申告した内容は、第二次的に確定したものと判断するのが合理的である。
 平成10年分に計上した開業費の是正(繰延資産性の否定及び必要経費算入)をすることなしに、平成15年分の必要経費に計上した開業費に係る償却費を否認することはできないのであるから、本件における除斥期間の始期は平成10年分の所得税の法定申告期限であり、本件更正処分は、その除斥期間を徒過してなされたものである。
 したがって、既に更正の除斥期間を徒過している平成10年分の貸借対照表の資産の部に計上した開業費が、本件更正処分において否認されることは妥当ではない。
(ロ) 本件更正処分により、請求人は、本件費用を必要経費として計上する機会が永久に失われることとなる。
 更正の除斥期間が徒過した後に本件費用の繰延資産性が否定されることは、請求人が確定申告をする当時に全く予期しなかったことであり、かつ、請求人の責めに帰すことができないものであることは明らかであるから、仮に、本件費用が開業費に該当しないのであれば、平成10年分の事業所得の金額の計算上、本件費用を必要経費に算入して純損失の金額を増加させ、それに基づく純損失の繰越控除の額を平成15年分の総所得金額の計算上控除すべきである。
ハ 本件更正処分について
 上記イのとおり、本件費用は、所得税法施行令第7条第1項第1号に規定する開業費(繰延資産)として認められるべきであるから、当該開業費に係る償却費については、平成15年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるべきであり、また、上記ロのとおり、本件更正処分は、除斥期間を徒過してなされたものである。
 したがって、本件更正処分は違法である。

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(2) 原処分庁

 次の理由により、原処分は適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件費用について
(イ) 請求人は、平成9年中にJクリニックの診療所開設届をK保健所に提出し、また、名称変更後の本件クリニックは、同年中にL社会保険事務局から保険医療機関として指定されている。
 また、平成10年1月以後、本件クリニックに係る社会保険診療報酬及び自由診療収入は、本件預金口座に入金され、請求人作成の総勘定元帳にも収入として計上されている。
(ロ) 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員に対し、平成10年1月にJクリニックから本件クリニックに名称を変更し、同月の診療分からは請求人の収入には間違いない旨、及び平成10年6月くらいから患者が増加してきたことにより、その時期に開業したような気がする旨申述している。
(ハ) 以上のことから、少なくとも平成10年1月には、請求人は、本件クリニックに係る事業を開業していたと認められるから、本件費用は、事業所得を生ずべき事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出した費用、すなわち所得税法施行令第7条第1項第1号に規定する開業費であるとは認められない。
ロ 更正の除斥期間について
 平成10年分の所得税の申告が確定したことにより、本件費用に係る平成15年分の償却費の額が確定するものではなく、本件更正処分は、請求人が平成15年分の所得税に関して事業所得の金額の計算上必要経費に算入していた償却費を、必要経費に算入することができないとして行ったものである。
 そして、平成15年分の所得税の法定申告期限は平成16年3月15日であり、本件更正処分は、通則法第70条第1項に規定する法定申告期限から3年を経過した日前の平成18年2月15日に行っているから、更正の除斥期間を徒過して行われたものではない。
 また、本件更正処分が行われたのは平成18年2月15日であり、この時点において、平成10年分の所得税については法定申告期限から5年を経過しているので、当該年分の純損失の金額を増加させる更正をすることはできない。
ハ 本件更正処分について
 上記イのとおり、本件費用は、所得税法施行令第7条第1項第1号に規定する開業費(繰延資産)として認められないから、平成15年分の事業所得の金額の計算上、本件費用に係る償却費を必要経費に算入することはできず、また、上記ロのとおり、本件更正処分は、除斥期間を徒過してなされたものではない。
 したがって、本件更正処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件費用が所得税法施行令第7条第1項第1号に規定する開業費(繰延資産)に該当するか否か、また、本件更正処分が除斥期間を徒過してなされたものであるか否かにあるので、審理したところ、以下のとおりである。

(1) 本件費用について

イ 法令解釈
 所得税法第2条第1項第20号は、繰延資産とは、事業所得を生ずべき業務に関し個人が支出する費用のうち、支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもので政令で定めるものをいう旨規定し、それを受けて同法施行令第7条第1項第1号は、開業費とは、事業所得を生ずべき「事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用」をいう旨規定している。さらに、所得税法施行令第137条第1項及び第3項は、開業費の償却費として事業所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、5年間の均等償却又は任意償却のいずれかの方法により計算された金額とする旨規定している。
 ところで、繰延資産が繰延経理(資産計上)される根拠は、ある支出が行われ役務の提供を受けたにもかかわらず、支出又は役務の有する効果が、当年のみならず翌年以降にわたるものと予想される場合、その効果の及ぶ期間にわたる費用として配分(償却費計上)することにあるとされ、費用収益対応の原則によるものであると解されている。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、平成9年3月19日に、原処分庁に対し、次の申請書等を提出している。
A 所得税の青色申告承認申請書(本件クリニックに係る事業所得の申告を平成9年分以後青色申告書により行う旨)
B 給与支払事務所等の開設届出書(本件クリニックに係る従業員等に給与を支払う事務所を設けた旨)
C 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
(ロ) 本件クリニックに係るホームページ及びパンフレット(総合人間ドックのごあんない)の院長紹介欄には、いずれも1997年(平成9年)に請求人が本件クリニックを開設した旨記載されている。
(ハ) 請求人は、平成9年12月26日、賃貸人であるS社との間で、本件ビル2階の床面積231.45平方メートルの一室を賃貸借物件とする、次の内容の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結した。
A 使用目的:診療所
B 賃貸借期間:平成10年1月1日から平成11年12月31日まで
C 賃料:月額5,670,525円(賃料の起算日は平成10年3月1日とする。)
D 共益費:月額1,504,425円(共益費の起算日は平成10年1月1日とする。)
E 消費税:請求人は、賃料及び共益費に係る消費税額を別途負担する。
F 支払方法:賃料及び共益費は、毎月末日までに翌月分を、賃貸人の指定する方法により賃貸人に支払う。
(ニ) 請求人は、平成10年分の本件クリニックに係る収入金額について、1月分から12月分までの合計額について所得税の確定申告を行っており、その内訳は、別表3のとおり請求人が作成した総勘定元帳に記載されている。
(ホ) 請求人は、平成9年分の所得税について、給与所得の金額を○○○○円(給与の支払者はN病院)とする申告を行っており、本件クリニックに係る申告は行っていない。
(ヘ) 請求人が原処分庁に提出した「申述書」には、要旨次のとおり記載されている。
A 請求人は、医師となって以来いくつかの病院で勤務医として医療に従事した後、平成8年5月ころR医師と知り合い、同人から「今度、Jクリニックを立ち上げるので、手伝ってくれないか。」と言われ、その後勤務医として同クリニックにて医療業務に従事することとなった。
B 平成9年までのJクリニックの経営形態については、実質的な経営者はR医師であり、初代院長のT医師、その後院長となったM医師、そして請求人のいずれも、形式的には同クリニックの開設者であり事業主と位置付けられながら、医療業務に係る収入はすべてN病院に帰属しており、同クリニックの各院長は、N病院から給与が支給される勤務医であり、いわゆる雇われ院長であった。
C 平成9年2月に、M医師がJクリニックの廃止届を強行に提出したことにより、同クリニックが存亡の危機に瀕したため、請求人は、同クリニックの開設者となり、院長を引き受けることとなった。それに伴い、請求人は、開業届等の手続を行ったが、経営形態は相変わらず勤務医のままであった。
D 平成9年の末に、R医師がJクリニックから撤退することになり、請求人は、R医師から同クリニックの事業を引き継がないかと勧められ、勤務医から名実共に事業主として開業するかどうかの迷いが大きかったが、継続して来院する患者もおり、同クリニックに空白期間を作るわけにはいかないことから、本件賃貸借契約の名義をその時点で切り替えることとした。
E R医師は、平成9年11月及び12月診療分の診療報酬(平成10年1月及び2月入金予定)を請求人に運転資金として支払う約束をしたが、結局その約束は履行されることはなかった。
(ト) 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述した。
A R医師は、平成9年末にJクリニックを撤退したが、請求人は、R医師から預金通帳や資産等の引継ぎも受けないまま、それ以前と同様に診療、健診等を行っていた。
B 請求人は、平成9年末に、社会保険診療報酬等が振り込まれる本件預金口座を開設し、本件クリニックの賃貸借、医療機器リース及び光熱費に係る契約を請求人名義に変更するとともに、平成10年1月に、Jクリニックから本件クリニックに看板の付替えを行った。
C 平成10年1月診療分からの報酬等については、本件クリニックに名称変更したことからも、私の収入であることに間違いない。
D 平成10年6月くらいから、ようやく患者が増えてきて、ようやく開業したような気がするという意味で、平成10年6月くらいには開業したと思っている。
ハ 上記1の(4)の基礎事実及び上記ロの認定事実によれば、請求人の開業時期については、次のとおりである。
(イ) 請求人は、平成8年5月ころR医師と知り合い、その後同人の指揮の下に勤務医としてJクリニックにおいて医療業務に従事していたが、平成9年2月に、M医師が同クリニックの廃業届を提出したことから、請求人は、同クリニックの開設者として診療所開設届をK保健所に提出するとともに、同年3月に、名称を本件クリニックに変更する旨の変更届をK保健所に提出した上で、同クリニックの業務に関し、青色申告承認申請書、給与支払事務所等の開設届出書等を原処分庁に提出するに至ったものの、依然としてR医師(N病院)から給与の支給を受けるという勤務医の形態であったことから、平成9年分の所得税の申告は給与所得として行ったものと認められる。
(ロ) その後、平成9年末に、R医師がJクリニックを撤退したことを機に、請求人は、本件賃貸借契約、医療機器のリース契約等の名義を請求人に変更し、平成10年1月以降、請求人は、本件クリニックの看板を付け替えた上で、本件クリニックに係る社会保険診療報酬及び自由診療収入を本件預金口座に入金させるとともに、総勘定元帳等を備え付けて本件クリニックの業務に係る収入及び支出の管理をするなど、名実共に本件クリニックの経営者となったことから、平成10年1月診療分以後の収入及び支出を事業所得として、平成10年分の所得税の申告を行ったものと認められる。
(ハ) 上記(イ)及び(ロ)については、請求人が、平成9年中に本件クリニックに係る各種届出等の手続を行っていること、本件クリニックに係るホームページ及びパンフレットにおいては平成9年に本件クリニックを開業した旨公表していること並びに本件クリニックに係る収入金額について、請求人は、平成10年1月診療分から申告していることからも明らかであり、そうすると、遅くとも平成10年1月には、請求人自身の計算と危険において独立して、本件クリニックに係る事業を実質的に開始したものと認められ、よって、平成10年1月以降に当該事業から発生する所得は、請求人に帰属するものと認められる。
ニ 以上のとおり、請求人は、遅くとも平成10年1月には、本件クリニックに係る事業を開始したと認められ、また、本件費用は、別表2のとおり、いずれも本件クリニックに係る事業を開始した後に発生した費用であるから、本件費用は、所得税法施行令第7条第1項に規定する「事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用」である開業費には該当しない。
 また、本件費用の内訳は、地代家賃、修繕費及び消耗品費であり、その支出の効果が翌年以降に及ぶものであるとは認められず、所得税法施行令第7条第1項に規定する開業費以外の繰延資産にも該当しない。
ホ 請求人の主張
(イ) 請求人は、平成9年中に行った各種の届出等は形骸的なものであって、真の開業の時期は平成10年6月ころであった旨主張する。
 しかしながら、事業所得の基因となる業務とは、自己の計算と危険において独立して、営利性、有償性を有し、かつ、反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められるものをいうと解されるところ、上記ハの(ハ)のとおり、遅くとも平成10年1月には、請求人は、正に事業所得の基因となる業務を行っていると認められ、また、請求人は、平成10年6月くらいから開業したような気がするという主観を申し述べるものの、開業の時期が平成10年6月であったとする主張を認めるに足りる具体的な証拠はない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ロ) また、請求人は、本件費用を開業費として申告したことは会計上も税法上も合理的な処理であり、本件費用は、将来における収益に対応させることが妥当と判断して、あえて平成10年分の開業費として計上した旨主張する。
 しかしながら、本件費用が繰延経理(資産計上)されるのは、本件費用に係る支出が行われ、また、それによって役務の提供を受けたにもかかわらず、支出又は役務の有する効果が、当年のみならず、翌年以降にわたるものと予想される場合に限られるところ、本件費用は、平成10年分の収益に対応する費用であるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(2) 更正の除斥期間について

イ 請求人は、平成10年分の開業費は更正の除斥期間を経過したことによって確定しているのであるから、当該開業費を本件更正処分によって否認することは妥当ではない旨主張する。
 しかしながら、本件更正処分は、平成15年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入していた開業費に係る償却費を、同年分の必要経費に算入することはできないとして行われたものである。
 そして、平成15年分の所得税の法定申告期限は平成16年3月15日であり、本件更正処分は、通則法第70条第1項に規定する法定申告期限から3年を経過する日前の平成18年2月15日になされていることから、本件更正処分は、除斥期間を徒過してなされたものとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ また、請求人は、本件費用に係る償却費が平成15年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができないとしても、本件更正処分により本件費用を平成10年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入する機会が永久に失われたのであるから、本件費用を同年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入して純損失の金額を増加させ、それに基づく純損失の繰越控除の額を平成15年分の総所得金額の計算上控除すべきである旨主張する。
 しかしながら、平成10年分の純損失の金額を増加させる更正は、当該年分の法定申告期限から5年を経過する日までにしなければならないところ、本件更正処分が行われたのは平成18年2月15日であり、この時点において既に平成10年分の純損失の金額を増加させる更正をすることができないことは明らかであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 本件更正処分について

 以上のとおり、本件費用は、所得税法施行令第7条第1項第1号に規定する開業費(繰延資産)に該当するものとは認められず、また、本件更正処分は、更正の除斥期間を徒過してなされたものとは認められないから、平成15年分の事業所得の金額の計算上本件費用に係る償却費を必要経費に算入できないとしてされた本件更正処分は適法である。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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