ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.73 >> (平19.5.31、裁決事例集No.73 197頁)
(平19.5.31、裁決事例集No.73 197頁)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1) 事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、預託金会員制ゴルフ会員権を譲渡したとして、当該譲渡による損失を他の所得と損益通算して確定申告したところ、原処分庁が、当該ゴルフ会員権の譲渡は、譲渡所得の基因となる資産の譲渡ではないから損益通算は認められないとして、所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)を行ったことから、請求人が、違法を理由としてその全部の取消しを求めた事案である。
争点1 後記本件ゴルフ会員権の譲渡は、譲渡所得の基因となる資産の譲渡に該当するか否か。
争点2 国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するか否か。
(2) 審査請求に至る経緯等
審査請求(平成18年6月6日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。
なお、原処分庁は、本件更正処分等において、請求人に対し、同処分等に不服があるときは異議申立て又は審査請求をすることができる旨の教示をした。請求人は、その教示に従い審査請求をし、当該審査請求は、通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第2号の規定により、適法な審査請求とされた。
(3) 関係法令
イ 所得税法第33条《譲渡所得》第1項は、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨規定している。
ロ 所得税法第69条《損益通算》第1項は、総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除する旨規定している。
ハ 通則法第65条第1項は、期限内申告書が提出された場合において、更正があったときは、当該納税者に対し、その更正に基づき同法第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項の規定により納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨、また、同法第65条第4項は、同条第1項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して、同項の規定を適用する旨それぞれ規定している。
(4) 基礎事実
以下の事実は、請求人及び原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成元年9月20日に入会金3,090,000円を支払い、同年10月2日に資格保証金9,000,000円を預託し(以下、この資格保証金を「預託金」という。)、Dカントリークラブ(以下「本件ゴルフクラブ」という。)のゴルフ会員権(以下「本件ゴルフ会員権」という。)を取得して本件ゴルフクラブの個人正会員となり、一般の利用者に比して有利な条件で継続的にゴルフ場施設を利用できる施設利用権、預託金返還請求権及び年会費納入等の義務からなる契約上の地位を有することとなった。
ロ E社とF社は、以前から経営(管理)委任契約を締結していたが、平成12年7月7日付で新たに要旨次の内容で経営(管理)委任契約(以下「本件委任契約」という。)を締結した。なお、本件委任契約においては、契約の終了原因についての合意はされていない。
(イ) E社は、同社所有のP市Q町a・b・c地区に所在する本件ゴルフクラブの経営並びにこれに関連する業務の一切(管理を含む。)をF社に委託し、同社はこれを受託する。
(ロ) F社は、E社の所有するゴルフ場及び関連資産(建物、車両、カート、什器備品ほか)を、この経営のために無償で使用するものとする。
ただし、E社が第三者(E社の関係会社を含む。)から賃借中の資産(土地、建物、車両、カート、什器備品ほか)に係る賃料は、E社の名義でF社が支払うものとする。
(ハ) E社及びG社(以下、E社と併せて「E社等」という。)名義となっているゴルフ場資産に課される固定資産税等は、それぞれの課税名義でF社が納税するものとする。
(ニ) 本件委任契約の期間は、契約成立の日から満5年間とするが、E社、F社のいずれかが期間満了の3か月前までに相手方に対し、特段の意思表示をしない限り、期間満了の日から更に2年間継続するものとし、以後も同様とする。
ハ H地方裁判所J支部(以下「H地裁J支部」という。)は、債権者の申立てにより、平成14年11月○日にE社等が所有する別表2記載の土地及び建物の担保権の実行としての不動産競売開始決定をし、平成15年12月○日に別表2の番号1ないし13の土地及び建物(以下「本件不動産」という。)につき、K社を買受人とする売却許可決定をした。
なお、E社は、上記売却許可決定の取消しを求めて、平成15年12月○日にL高等裁判所に対して執行抗告をしたが、同裁判所は、平成16年2月○日に同執行抗告を棄却する旨の決定をした。E社は、平成16年4月○日に同決定に対し最高裁判所に特別抗告をしたが、同年6月○日に同特別抗告を棄却する旨の決定を受けた。
ニ 請求人は、平成16年12月5日に本件ゴルフ会員権をMに100,000円で譲渡した。
ホ 本件ゴルフクラブは、N、R及びSの3コース(1コースは各9ホール)で構成されていたが、このうち、N及びRコースは、経営者をT社として、Uゴルフクラブに名称を変更し、Sコースは、経営者をV社として、Wゴルフクラブに名称を変更して、それぞれ平成17年○月に開場した。
2 主張
原処分庁及び請求人の主張は、別紙のとおりである。
3 判断
(1) 争点1 本件ゴルフ会員権の譲渡は、譲渡所得の基因となる資産の譲渡に該当するか否か。
イ 預託金会員制ゴルフ会員権の譲渡に係る所得税法上の取扱い
(イ) 所得税法第33条第1項に規定する譲渡所得に対する課税については、資産それ自体の値上がりによってその資産の所有者に帰属する資産価値の増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転する機会をとらえて、これを清算して課税しようとする趣旨のものと解される。このような趣旨からすれば、資産を譲渡したといえるためには、当該資産の取得時点と譲渡時点で資産の同質性が維持されている必要があると解すべきである。
(ロ) 預託金会員制ゴルフ会員権は、当該ゴルフクラブの会員となる者が当該ゴルフ場の経営会社に資格保証金を預託し、かつ、当該ゴルフ場と入会契約を締結することによって生ずるもので、当該ゴルフ場の施設を一般の利用者に比して有利な条件で継続的に利用できる権利である優先的施設利用権、預託金返還請求権及び年会費納入等の義務からなる契約上の地位を総称するものと解され、このような性質を有する預託金会員制ゴルフ会員権は、譲渡所得の基因となる資産に該当するといえる。
(ハ) したがって、預託金会員制ゴルフ会員権の譲渡が所得税法第33条第1項に規定する資産の譲渡に当たるというためには、取得時点での預託金会員制ゴルフ会員権としての上記性質が譲渡時点においても維持されている必要がある。
ロ 認定事実
原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる(なお、認定に用いた資料は、文末括弧内に記載したものである。)。
(イ) F社は、本件委任契約の締結以前から、E社との間で締結していた経営委任契約に基づき、E社等が所有していた本件不動産、別表3記載の不動産及びその他の関連資産を無償で使用するほか、X森林組合、Y森林組合、Z森林組合及び個人地主との間で土地賃貸借契約を締結して、同組合ら所有の土地(以下「森林組合ら所有地」という。)を使用し、本件ゴルフクラブを運営していた。そして、本件委任契約の締結前後を通じ、このような運営状況に変わりはなかったが、一部の個人地主との間では、平成15年3月15日限り賃貸借契約を解約するとの和解及び同日から平成18年3月15日の間、明渡しを猶予するとの合意がそれぞれ成立していた。
なお、本件ゴルフクラブの敷地部分の大半は森林組合ら所有地上にあり、本件不動産は、Nコースの2ホール(5番・6番ホール)のコースの一部、N及びRコースに隣接するクラブハウス、クラブハウスの敷地、倉庫及び来客用駐車場の一部並びに県道からクラブハウスに至る進入路の一部等に使用されていた。
また、別表3記載の不動産は、Sコース9ホールの敷地及び施設の一部などとして使用されており、同コースは、クラブハウスからマイクロバスで10分程度の場所に位置し、利用者は、県道からクラブハウスに向かう道路とは別の道路を経て同コースに至ることができた(経営(管理)委任契約書及び土地賃貸借契約書の各写し、a地区個人賃貸人等の代理人弁護士の答述、cゴルフ対策委員会委員の答述、V社の代表取締役の答述、H地裁J支部の現況調査報告書の写し、F社の元支配人の答述)。
(ロ) V社は、平成16年5月13日にE社との間で不動産売買契約書を交わして、別表3に記載の不動産(番号1ないし13の土地及び建物がSコースに係るものである。)を同社から取得し、当該不動産につき、同月○日又は同月○日に売買を原因として所有者をV社とする所有権移転登記が経由されたが、F社は、その後もV社が取得した上記不動産を、Sコースの敷地等として使用し、本件ゴルフクラブの営業を続けていた。V社は、そのことを知っていたものの、これを容認しており、その後の当該不動産の使用について、F社との間で本件ゴルフクラブの運営や営業に関することについて話合いをしたことはなく、同社に対し、明渡請求等、当該不動産の使用を差し止めるための措置も採らなかった(同契約書の写し、確認書と題する文書の写し、登記簿謄本、V社の代表取締役の答述)。
(ハ) K社は、平成16年7月○日に上記1の(4)のハの競売に係る買受申出代金を納付し、本件不動産について、同日付受付で同日付担保不動産競売による売却を原因として、所有者をK社とする所有権移転登記が経由された(本件不動産に係る登記簿謄本)。
(ニ) K社は、E社及びF社に対し、本件不動産の引渡しを求めて、平成16年7月○日付でH地裁J支部に不動産引渡命令の申立て(以下「本件不動産引渡命令の申立て」という。)をし、同裁判所は、同月○日付で不動産引渡命令を発した(不動産引渡命令申立書の写し、同庁同年(○)第○号事件不動産引渡命令の写し)。
(ホ) K社の代理人である弁護士は、平成16年10月26日の内容証明郵便により、F社に対して、同年11月末日までに本件不動産から退去し、明け渡すよう催告した(通知書と題する文書の写し)。
(ヘ) 本件ゴルフクラブは、平成17年1月○日の時点では、それまでと同様に通常通り営業を続けていた(ゴルフダイジェスト、ゴルフ会員権ニュース、F社の元支配人の答述)。
(ト) 上記(ホ)の不動産引渡命令は、平成17年1月○日に執行された(K社の代表取締役の答述)。
(チ) Uゴルフクラブ及びWゴルフクラブは、いずれも本件ゴルフクラブの会員の預託金を引き継いでいない(K社の代表取締役の答述、V社の代表取締役の答述)。
(リ) F社は、平成16年8月1日から平成17年3月2日までの事業年度において、年会費を徴収していた(同社の同事業年度の解散申告書の写し)。
ハ 判断
(イ) 優先的施設利用権について
上記1の(4)のロのとおり、F社は、本件委任契約に基づいて本件ゴルフクラブの運営、管理を行っていたのであるから、本件ゴルフ会員権の優先的施設利用権が存続していたというためには、本件ゴルフ会員権の譲渡の時点で、F社による本件ゴルフクラブの運営、管理の法的根拠である本件委任契約が終了していないことが必要であると解される。そして、F社が、現に本件ゴルフクラブの営業を行っており、かつ、会員に対して、社会通念上ゴルフ場施設の利用というゴルフ会員権の目的を達成できる程度にまで、ゴルフ場施設をその利用に供することができていた場合には、本件委任契約は終了していないが、そうでない場合には、本件委任契約の目的であるF社による本件ゴルフクラブの運営が不可能となり、同契約の目的を達成することができなくなるから、同契約は終了するに至ったものと考えられる。そこで、以下、まず、この点について検討する。
A 本件ゴルフクラブの営業状況
上記ロの(イ)ないし(ハ)及び(チ)の事実によれば、請求人が本件ゴルフ会員権を譲渡した平成16年12月5日までの時点において、F社が本件ゴルフクラブの敷地等として使用していた不動産等のうち、別表3の不動産の所有権が平成16年5月13日の売買によりV社に、本件不動産の所有権が、競売により同年7月○日にK社にそれぞれ移転したことが認められるほか、本件ゴルフクラブの閉鎖後に新規開場したUゴルフクラブ及びWゴルフクラブの各経営主体は、本件ゴルフクラブの預託金を引き継いでいないことが認められる。とりわけ、本件不動産については、上記ロの(ニ)、(ホ)及び(ト)の事実によれば、新所有者であるK社は、F社に対し本件不動産からの退去を求めて、平成16年7月○日に本件不動産引渡命令の申立てをし、その後、通知書と題する文書による退去勧告、不動産引渡命令の執行に至るまで、一貫して本件不動産からの退去を求めていることが認められ、K社は、F社に対して本件不動産を使用させないことを客観的に明らかにしていたと認められる。
しかしながら、上記ロの(イ)及び(ロ)によれば、E社からSコースの一部を構成する別表3の不動産を取得したV社は、F社が同不動産をSコースの敷地等として使用して本件ゴルフクラブの営業を続けていることを知りながら、これを容認し、F社に対し、同不動産の使用を差し止める等の措置を採っていなかったものであり、これらの事情によれば、V社がF社に対して同不動産を使用貸借させることの黙示的な合意が成立していたとみることができるのであって、F社は、これに基づいて同不動産を使用することができたと認められる。また、本件不動産及び別表3の不動産を除く本件ゴルフクラブの敷地部分を構成する森林組合ら所有地については、F社が地権者から賃借するなどしてその使用権原を有していたものである。これらの事情に照らすと、F社としては、本件不動産及び別表3の不動産の所有権が第三者に移転し、かつ、本件不動産の使用ができなくなったとしても、別表3の不動産及び森林組合ら所有地を使用し、その構成するコースをRコース及びSコースの2コースとするなどコースの規模を縮小して営業を継続し、これら2コース(18ホール)の利用を会員に提供できたものと認められ、これら2コースを会員の利用に供すれば、社会通念上ゴルフ会員権の目的を達成することができるといえる。
以上の諸点に加え、上記ロの(ヘ)のとおり、本件ゴルフクラブの営業が、平成17年1月○日に閉鎖されるまでの間続けられていたことにも照らすと、本件ゴルフ会員権の譲渡の時点でも、F社は、現に本件ゴルフクラブの営業を行っており、会員に対して、社会通念上ゴルフ場施設の利用というゴルフ会員権の目的を達成できる程度にまで、ゴルフ場施設をその利用に供することができていたと認められる。
B 本件委任契約が終了したかどうか
上記Aで認定したとおり、本件ゴルフクラブの譲渡の時点において、F社は、現に本件ゴルフクラブの営業を行っており、会員に対して、社会通念上ゴルフ場施設の利用というゴルフ会員権の目的を達成できる程度にまで、ゴルフ場施設をその利用に供することができていたと認められる。
また、上記1の(4)のロ及び上記ロの(イ)によれば、F社は、本件委任契約が締結されるまでに森林組合ら所有地の賃貸借契約を締結し、同土地を使用して本件ゴルフクラブの営業を行っており、そのことは本件委任契約締結後もおおむね変わりはなく、また、本件委任契約では、E社が第三者から賃借した資産の賃料をF社が支払うこととされていたのであって、これらの事情によれば、本件委任契約において、F社は、E社等の所有する不動産等だけではなく、自らが賃借した土地を使用して本件ゴルフクラブを経営することが予定されていたと認められ、必ずしもE社等の所有する不動産等のみを使用することが本件ゴルフクラブを経営する前提条件になっていたとは解されない。したがって、本件不動産及び別表3の不動産の所有名義が第三者に移転し、かつ、本件不動産の使用ができなくなったとしても、上記Aで述べたとおり、F社が第三者から不動産等を賃借して本件ゴルフクラブの営業を継続することが可能である以上、本件委任契約の目的を達成することが不可能となったとはいえない。
加えて、上記1の(4)のロのとおり、本件委任契約には、契約の終了に関する特約がなく、かつ、本件においては、民法上の委任契約の終了事由も見当たらない。
以上のことから、本件ゴルフ会員権の譲渡の時点において、本件委任契約が終了したということはできない。以上の認定、判断に反する原処分庁の主張は、採用できない。
C そうすると、本件ゴルフ会員権の譲渡の時点において、請求人が有していた本件ゴルフ会員権に係る優先的施設利用権が消滅していたとは認められない。
(ロ) 預託金返還請求権及び年会費納入等の義務について
本件全証拠資料等によっても、本件ゴルフ会員権上の預託金返還請求権が消滅したとは認められない。また、上記(イ)で判断したとおり、会費等納入義務に対応するものと解される本件ゴルフ会員権に係る優先的施設利用権が消滅したとは認められないこと及び上記ロの(リ)のとおり、F社が年会費を徴収していることを併せ考えると、預託金返還請求権及び年会費納入等の義務のいずれについても、本件ゴルフ会員権を譲渡した時点で消滅したとは認められない。
(ハ) 以上のとおり、本件ゴルフ会員権の譲渡の時点においても、同会員権に係る優先的施設利用権、預託金返還請求権及び年会費納入等の義務のいずれかが消滅し、その同質性を喪失したとは認められないから、当該ゴルフ会員権の譲渡は所得税法第33条第1項に規定する譲渡所得の基因となる資産の譲渡に該当する。
そうすると、当該譲渡による損失は所得税法第33条第1項に規定する譲渡所得の基因となる資産の譲渡による損失と認められるから、同法第69条第1項の規定により、当該損失を他の各種所得と損益通算することができるというべきであり、これを認めなかった原処分は違法であるから、取り消されるべきである。
(2) 争点2 通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当するか否か。
上記(1)のハの(ハ)のとおり、本件更正処分はその全部を取り消すべきであるから、争点2を判断するまでもない。