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(平19.10.16、裁決事例集No.74 226頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の外国子会社であるH社(以下「H社」という。)については、請求人に係る租税特別措置法(平成17年法律第21号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第66条の6《内国法人に係る特定外国子会社等の留保金額の益金算入》第1項(以下、この規定による課税の特例を「外国子会社合算税制」という。)に規定する特定外国子会社等に該当し、かつ、H社の行う主たる事業は製造業であり、同法第66条の6第3項第2号に規定する適用除外の要件を満たしていないなどとして、H社の課税対象留保金額に相当する金額を請求人の所得の金額の計算上益金の額に算入するなどの法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、H社は、特定外国子会社等に該当するが、H社の行う主たる事業は卸売業であり、同法第66条の6第3項に規定する各要件をすべて満たしているなどとして、同処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成14年4月1日から平成15年3月31日まで、平成15年4月1日から平成16年3月31日まで及び平成16年4月1日から平成17年3月31日までの各事業年度(以下、順次「平成15年3月期」、「平成16年3月期」及び「平成17年3月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載し、いずれも提出期限(法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月間延長されたもの)までに提出した。
ロ J税務署長は、これに対し、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成18年1月27日付で別表の「更正処分等」欄のとおりの法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をそれぞれ行った。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第1号の規定により、平成18年2月28日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 別紙1記載のとおりである。

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(4) 当事者間に争いがなく、証拠により容易に認定できる事実等

イ H社は、平成○年5月25日に○○社として設立し、平成○年2月25日に○○社へ商号変更し、平成○年8月12日にH社へ商号変更した。
ロ H社の本店所在地は、同社の2002年(平成14年)1月1日から同年12月31日まで、2003年(平成15年)1月1日から同年12月31日まで及び2004年(平成16年)1月1日から同年12月31日までの各事業年度(以下、順次「H社平成14年12月期」、「H社平成15年12月期」及び「H社平成16年12月期」といい、これらを併せて「H社各事業年度」という。)を通じて、K国L区内であった(2002年(平成14年)1月1日から2004年(平成16年)1月28日までは、○○○○、同月29日からは、○○○○。)。
ハ 請求人は、H社平成14年12月期及びH社平成15年12月期終了の時において、同社の発行済株式の総数の73.4%を直接又は間接に保有し、H社平成16年12月期終了の時において、同社の発行済株式総数の100%を直接に保有していた。
ニ H社は、L区の法人税に関する法令(法人税法第69条《外国税額の控除》第1項に規定する「外国法人税」に関する法令をいう。)により、H社各事業年度の所得について、我が国の法人税に相当する○○税を課されており、措置法施行令第39条の14第2項の規定に従って計算したその課された○○税の額が当該所得の金額に占める割合は、H社各事業年度のいずれについても25%以下であった。
ホ H社各事業年度の課税対象留保金額に相当する金額(H社各事業年度終了の日の翌日から2月を経過する日における電信売買相場の仲値による円換算後)は、H社平成14年12月期 152,130,981円、H社平成15年12月期 124,681,555円及びH社平成16年12月期 781,609,134円であった。
ヘ H社は、K国のP市に所在するM社との間で、1995年(平成7年)5月29日付の要旨別紙2記載のとおりの「協議書」と題する書面(以下「本件協議書」という。)を取り交わし、その後、本件協議書による契約期間は、2000年(平成12年)1月11日付○○続期協議書により、2005年(平成17年)5月29日まで延長された。
ト H社は、K国のP市に所在するN社との間で、2003年(平成15年)3月31日付の「○○○○」と題する書面(以下「本件借用契約書」という。)を取り交わした。
 その後、本件借用契約書は、2005年(平成17年)1月15日付の「○○○○」と題する書面(以下「本件改定借用契約書」という。)で改定され、契約期間は2007年(平成19年)1月14日まで延長された。
 なお、本件借用契約書及び本件改定借用契約書(以下「本件借用契約書等」という。)は、別紙3記載のとおりである。
チ K国工場(以下「本件K国工場」という。)は、K国のP市に所在し、同工場では、H社各事業年度を通じて、H社が販売する○○用金型の加工、○○部品の射出成形、電子部品の組立て及び金属製品の加工が行われていた(以下、本件K国工場で製造し、H社が販売する○○用金型等を「本件製品」という。)。
リ L区内国歳入庁の○○○○によれば、L区の製造業者が、L区以外のK国(以下「本件対象地域」という。)の企業と○○取引(本件対象地域の企業は、加工の責任を負い、工場建物、工場労働者を提供し、製造物をL区の製造業者に輸出し、加工料を請求する。一方、L区の製造業者は、原材料を提供し、本件対象地域で採用された労働者の作業や工場プラント・機械設備等の使用に対し、技術ノウハウやマネジメント、製造技術、企画、熟練工、研修、監督を提供するとともに、製造の企画、技術ノウハウの開発も通常、L区の製造業者において行われる。)の契約を締結し、L区の製造業者が本件対象地域での製造活動に相当程度携わっていると認められる場合、通常、L区の製造業者の○○取引の契約に係る製造販売利益のうち50%を非課税所得(国外源泉所得)として取り扱う措置(以下「50%オフショア」という。)の適用を受けることができ、H社は、H社各事業年度において50%オフショアの適用を受けた。
ヌ H社は、L区の登記所に申請して会社登録をし、同社の「商業登記簿」の「業務性質(Nature of Business)」欄には「○○」(製造業)と記載されている。
ル H社について、H社各事業年度を通じ、次の事実が認められる。
(イ) 株式若しくは債券の保有、工業所有権等若しくは著作権の提供又は船舶若しくは航空機の貸付けのいずれの事業も行っていなかった。
(ロ) L区にH社の事業を行うための事務所を賃借していた。
(ハ) 取締役会及び株主総会をL区又は本件対象地域において開催していた。

(5) 争点

 請求人の特定外国子会社について、外国子会社合算税制の適用除外の要件が該当するか否か。

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2 主張

 争点に対する当事者双方の主張は、別紙4記載のとおりである。

3 判断

(1) 争点について

 本件においては、H社が請求人の特定外国子会社等に該当することについては争いがなく、H社の行う主たる事業が措置法第66条の6第3項第1号に規定する卸売業に該当し、外国子会社合算税制が適用除外になるか否かについて争いがあるので、審理したところ、以下のとおりである。
イ 法令解釈
(イ) 外国子会社合算税制の適用除外要件について
A 外国子会社合算税制は、外国子会社を通じて行われる租税回避に対処するため、所得に対して課される税の負担が我が国における税の負担に比して著しく低い国又は地域に所在する外国法人で、我が国の法人又は居住者により株式又は出資の保有を通じて支配されているとみなされる特定外国子会社等の留保所得を我が国株主の持分に応じてそれらの者の所得に合算して課税するものである。
 ただし、措置法第66条の6第3項は、外国子会社合算税制の適用除外要件について、特定外国子会社等が、1事業基準、2実体基準、3管理支配基準及び4所在地国基準又は非関連者基準のすべてを充足する場合には、外国子会社合算税制を適用しないことを規定している。
 この規定は、特定外国子会社等が独立企業としての実体を備え、かつ、その本店所在地国等で事業活動を行うにつき十分な経済的合理性があると認められる場合にまで外国子会社合算税制を適用することは、我が国企業の正常な海外投資活動を阻害する結果を招くことになるので避けるべきであるとの趣旨で設けられたものと解される。
B 適用除外要件の一つである所在地国基準及び非関連者基準については、特定外国子会社等の行う主たる事業の業種に応じて、いずれかの基準が適用される。これらの基準は、本店所在地国等で事業活動を行うにつき十分な経済的合理性があると認められる一定の場合を業種に即して具体化したものと解される。
(A) 所在地国基準
 所在地国基準は、特定外国子会社等の行う主たる事業が卸売業等の事業以外の事業である場合に適用される基準であり、その事業を主として本店所在地国等において行っていることを適用除外の要件とするものである。
 すなわち、卸売業等の事業以外の事業、例えば、製造業、小売業、サービス業等については、製造、小売、サービス提供等のその事業にとって本質的な行為の行われる物理的な場所が主としてその本店所在地国等であれば、その地に所在する十分な経済的合理性があるとしたものと解される。したがって、所在地国基準は、本店所在地国等において資本投下を行い、その地の経済と密接に関連して事業活動を行っている場合には、その地に所在していることについて十分な経済的合理性が推認し得るとの認識に基づくものであり、外国子会社合算税制の適用を除外する基本的理念に立脚した基準であると解される。
(B) 非関連者基準
 非関連者基準は、特定外国子会社等の行う主たる事業が卸売業等の事業である場合に適用される基準であり、その事業を主として関連者以外の者との間で行っていることを適用除外の要件とするものである。
 卸売業等の事業については、その事業活動が必ずしも本店所在地国等に限定されない国際的なものであるとの観点から、これらの事業を行う特定外国子会社等に対して地場経済との密着性を重視する所在地国基準を適用することには合理的な理由がないと認められるので、その事業の大宗が関連者以外の者との取引から成っている場合には、本店所在地国等で事業活動を行うにつき十分な経済的合理性があるとしたものと認められる。したがって、非関連者基準は、所在地国基準を適用することに合理性がない事業について適用される基準であると解される。
(ロ) 事業の判定について
A 法人税法及び措置法には、卸売業をはじめ、各種事業の定義規定はないから、各種事業の意義については、その用語の一般的な意義及びその用語が使用されている規定の立法趣旨・目的等を勘案して解釈すべきものと解される。
B 措置法通達66の6−14は、特定外国子会社等の行う主たる事業が措置法第66条の6第3項第1号、措置法施行令第39条の17第5項第1号又は同項第2号に掲げる事業のいずれに該当するかどうかは、原則として日本標準産業分類(総務省)の分類を基準として判定する旨定めている。日本標準産業分類は、産業構造の実態を把握するための統計上の必要性から定められたものではあるが、日本における標準産業を体系的に分類しており、ほかにこれに代わり得る普遍的で合理的な産業分類は見当たらないことなどからすれば、上記各規定に掲げる事業のいずれに該当するかどうかの判定に当たって日本標準産業分類の分類を基本とすることに合理性があるから、当審判所においても同通達の取扱いは相当であると認められる。
 ただし、日本標準産業分類の分類は、上記のとおり、統計上の必要性から定められたものであって、上記各規定の適用関係を明らかにすることを目的として定められたものではないから、上記各規定に掲げる事業のいずれに該当するかの判定はすべての場合において日本標準産業分類の分類どおりに判定するものではなく、上記各規定の立法趣旨・目的等も勘案した上で、上記各規定に掲げる卸売業等の事業、不動産業及び物品賃貸業のいずれに当たるかどうかの判定をすべきであり、措置法通達66の6−14が「原則として」としているのも、このような趣旨であると解される。
C 卸売業の一般的な意義は、日本標準産業分類で示しているとおり、有体的商品を購入し、最終消費者以外の事業者に販売する事業であり、販売業務に付随して行う軽度の加工、取付修理は、卸売業の分類に含まれるものと解される。そして、上記(イ)B(B)の非関連者基準の趣旨からしても、措置法第66条の6第3項第1号に規定する卸売業は、その事業活動が必ずしも本店所在地国等に限定されない国際的なものであって、地場経済との密着度を基準としてその地に所在することの経済的合理性を認定することが困難な事業を予定しているものと解されるから、上記の一般的な意義における卸売業はこれに該当するものと解される。
D しかしながら、原材料の加工、組立て等(以下「加工等」という。)を行うなど、販売業務に付随して行う軽度の加工、取付修理の範囲を超えて有体的商品に物理的又は化学的な変化を加え、新製品を製造して、これを販売する事業は、日本標準産業分類においては製造業に区分される事業であって、一般的な意義における卸売業としての事業に該当しないと解される。また、原材料の加工等を行う場合には、そのための工場建物や設備等の購入又は賃借、労働者の雇用、エネルギーや消耗品等の購入などの資本投下が必要となり、その地の経済と密接な関係を有することとなるから、上記(イ)B(B)の非関連者基準の趣旨からしても、原材料の加工等を行う事業を、非関連者基準を適用すべき卸売業に区分する理由はない。そうすると、原材料の加工等を行って新製品を製造し、その製品を最終消費者以外の事業者に販売する事業は、措置法第66条の6第3項第1号に規定する卸売業に含まれないと解される。
E 原材料を購入して、その加工等を外部に委託し、完成品を引き取って自己の名称で最終消費者以外の事業者に販売する事業は、当該完成品を販売する者(以下「販売者」という。)によって購入された原材料である有体的商品について物理的又は化学的変化を加えていることは明らかであるから、有体的商品を販売するという事業ではあっても、上記Cの卸売業と全く同じ事業であるとはいえない。この場合、上記(イ)Aの措置法第66条の6第3項の趣旨からすれば、その事業が措置法第66条の6第3項第1号に規定する卸売業に該当するかどうかの判定に当たっては、上記C及びDの考え方が妥当し、販売者が原材料の加工等を行っているのであれば、その事業は、措置法第66条の6第3項第1号に規定する卸売業には含まれないと解される。そして、加工等の委託には様々な形態があること、特定外国子会社等が行う事業を卸売業等の事業とその他の事業に区分する趣旨は上記(イ)Bのとおりであることからすれば、販売者が加工等の事業を行っているかどうかは、委託加工契約書に加工等を委託する旨の記載があるかどうかのみで判断することは相当ではなく、販売者が加工等のための資本投下を行ったかどうか、販売者が加工等を行うことに伴う経済活動を行っているかどうかなどの観点から判定することが相当である。
F 上記Eの場合において、販売者が原材料の加工等を行っているかどうかは、事業がその事業を行う者の計算において行われる経済活動であることからすれば、販売者がその原材料の加工等を専ら自己の計算において行っているかどうかにより判定することが相当であると解される。そして、この場合、販売者が自己の計算において原材料の加工等を行っているかどうかは、加工等から生じる損益が販売者に直接帰属しているかどうか、すなわち、加工等に要する費用の減少により生じる利益を販売者が享受し、加工等に要する費用の増加、仕損品の発生などにより生じる利益の減少又は損失の発生を販売者が直接負担しているかどうかにより判定することが相当である。
G 上記CからFまでによれば、販売者が購入した原材料の加工等が販売者の計算において行われている場合には、措置法第66条の6第3項の規定の適用上、当該加工等は、外部への委託の形式がとられていても、当該販売者が行う加工等であるといえるから、販売者が原材料を購入して、その加工等を外部に委託し、完成品を引き取って自己の名称で販売する事業で、その加工等が専ら当該販売者の計算において行われるものは、措置法第66条の6第3項第1号に規定する卸売業に該当しないものと解される。
(ハ) 事業を主として行っている場所の判定基準について
A 外国子会社合算税制の適用除外要件における所在地国基準は、上記(イ)B(A)の基本的な考え方を踏まえ、その本店所在地国等において資本投下を行い、その地の経済と密接に関連して事業活動を行っている場合には、その地に所在していることに十分な経済的合理性があるという認識に立つものであり、その事業にとって本質的な行為が本店所在地国等で行われていればそこに存在することの経済的合理性があることを前提としているものと解される。
B また、所在地国基準が適用される不動産業、物品賃貸業については、措置法施行令第39条の17第5項第1号及び第2号において、次のような判定基準が示されている。
(A) 不動産業  主として本店所在地国等にある不動産の売買、賃貸、管理等を行っている場合
(B) 物品賃貸業  主として本店所在地国等において使用に供される物品の貸付けを行っている場合
 すなわち、不動産業であれば、その事業を行うために資本投下した不動産そのものが本店所在地国等にあり、その不動産について売買、貸付け、管理等の行為(不動産業にとっての本質的な行為)を行っている場合、また、物品賃貸業であれば、その事業を行うために資本投下した賃貸物品がその本店所在地国等において使用に供される物品であり、その物品について貸付けの行為(物品賃貸業にとっての本質的な行為)を行っている場合には、所在地国基準が適用されるとしているところ、このことからすれば、所在地国基準が、本店所在地国等の経済と密接に関連して事業活動を行う点に着目して規定されていることは明らかである。
C このような考え方に照らすと、原材料を購入し、加工等を加えて、新製品を製造し、その製品を最終消費者以外の事業者に販売する事業において、新製品の製造及び販売に必要な一連の行為のうち、原材料の加工等の物を作る行為以外の行為(例えば、原材料の調達、工場への生産指示、製品の販売等の行為)は、その行為を行う場所を自由に定めることができるのに対し、原材料の加工等の物を作る行為(以下「製造行為」という。)については、一般に工場や製造設備などの資本投下が必要であり、それによる製造行為はその地の経済と密接に関連したものと認められ、かつ、その製造行為を行う企業がその地に所在することに十分な経済的合理性があると認められる。また、当該事業にとっての本質的な行為は、原材料に加工等を加えて新製品を製造する行為であると認められる。そうすると、当該事業を行う特定外国子会社等が所在地国基準を満たすかどうかは、資本投下を伴い、当該事業にとっての本質的な行為と認められる製造行為が本店所在地国等で行われているかどうかで判定すべきであり、新製品の製造に必要な一連の行為が複数の国又は地域にまたがって行われている場合には、いずれの国又は地域で当該事業にとっての本質的な行為である製造行為が主として行われているかを基準に判断するのが相当である。
ロ H社の事業について
 上記1(4)記載の各事実に加え、請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
(イ) 本件協議書等に基づく委託加工契約について
 本件協議書及び本件借用契約書等の内容は、上記1(4)ヘ及びトのとおりであるところ、請求人は、当審判所に対し、平成18年11月14日付回答書、同年12月11日付回答書及び平成19年5月1日付回答書で、H社は、K国の企業のほかに加工の委託先はなく、本件K国工場においても、H社以外の企業からの加工の委託は受けていない旨回答したほか、同社は、本件K国工場で製品を加工・製造させて、それを引き取って販売する事業以外の事業は行っていない旨回答し、当審判所の調査によってもその各内容は信用し得るものと認められる。
(ロ) H社の年度計画書について
A H社が作成した「年度計画書」と題する書類には、本件K国工場における生産について要旨以下のとおり記載されている。
(A) 生産に関する重点施策として、生産革新、生産体制の確立、技術者の育成及び工場の環境整備等、生産効率及び製品の質的向上に関する項目を掲げている。
(B) 製造に関して、付加価値向上・品質向上等の様々なプロジェクトが策定されている。
(C) 品質の管理及び人材並びに生産プロセスに関する反省事項が記載されている。
(D) 本件K国工場の人員配置計画が策定されている。
B H社が作成した「年度計画書」は、H社各事業年度において、その直前の半期の反省事項を踏まえ、同社の中期的運営方針の下における経営方針を示したものと認められ、その記載内容は、同社の事業全体の戦略に関する事項、財務構造に関する事項をはじめ、商品の開発から生産、販売まで多岐にわたっている。そして、上記Aのとおり、本件K国工場における生産についても、同社の中期的な展望に立った重点施策、各事業年度における経営方針、重点実施事項等を策定していたと認められる。
(ハ) 組織の編成について
 H社の組織図及び人員配置表によれば、同社は、同社の役員であるR長及びS職の下、L区本社及び本件K国工場の2部署から編成され、L区本社は総務及び財務を所掌する部署から、そして、本件K国工場は製造に関する部署から構成されている。
 また、請求人が作成した「○○社及び海外現法一覧表」及び「○○社関係会社内容一覧表」と題する表のH社の所在地欄には、L区本社及び本件K国工場が併記されている。
(ニ) H社の役員及び従業員の職務について
A 請求人は、当審判所に対し、平成18年12月11日付回答書及び平成19年1月25日付回答書で、L区本社での業務に従事している者は、日本人1名を含む7人で、財務・経理及び輸出入業務に係る書類の作成・手続や倉庫の管理業務等を行っている旨回答し、当審判所の調査によってもその各内容は信用し得るものと認められる。
B 2000年(平成12年)3月30日付の「職務分掌」と題する表(以下「本件職務分掌表」という。)、2003年(平成15年)8月15日更新と付記された「L区○○社/K国工場社内電話番号表」と題する表、2005年(平成17年)2月3日付の「海外赴任者リスト」及びH社の組織図の記載からすると、H社のS職及び従業員は、H社各事業年度を通じて、本件K国工場において、S職、T職、各部長職等として責任のある職務に従事していたと認められる。
(ホ) 本件K国工場の人事管理について
A 本件職務分掌表によれば、S職は、本件K国工場の人事及び労務管理を業務内容としている。
B 本件K国工場の「要員採用規定(○○‐3‐○○‐003日本語版(発行日2005年(平成17年)1月1日))」と題する書類によれば、本件K国工場の従業員採用規定は、本件K国工場の総務部が起案し、責任者は同工場の総務部長であるが、その決裁はS職が行い、修正はH社の取締役会が決定する。
 そして、従業員の募集は、S職の許可を得て開始すること、特に、解雇した者の再雇用には、必ずS職の許可を得ることとされている。
C 2004年(平成16年)4月1日制定と付記されたH社の「給与体系・評価基準書」と題する書類に添付された評価基準表、評価手順書及び給与査定表によれば、部長職等の評価の承認者及びすべての評価対象者の評価の最終承認者はS職であり、また、改定給与は、S職の承認後に適用することとされている。
 また、係長以上の役職者を含む従業員の査定には、S職の承認が必要とされている。
D 本件借用契約書等において、H社は、M社から派遣される工場長及び○○員の解雇権を有する旨約定されている。
(ヘ) 本件K国工場の財務管理について
 H社が作成した「H社本件K国工場の会計システム」及び「H社の会計」と題する書類は、本件K国工場及びL区本社の会計担当者の会計上の処理要領を定めたものと認められ、主な記載内容は次のとおりである。
A 本件K国工場において備品を購入する時は部長の認可を要するが、一定金額を超える場合は、S職の認可を要する。
B 本件K国工場の給与を支払う場合は、S職の承認を要する。
C 本件K国工場の現金及び銀行預金残高の確認には、S職の承認を要する。
(ト) H社のL区内国歳入庁に対する回答について
 H社は、1999年(平成11年)4月1日付のL区内国歳入庁に対する回答書(以下「本件回答書」という。)で、要旨次のとおり回答している。
A H社は、L区では卸売業、本件対象地域では製造業の二つの事業を行っている。
B H社は、本件K国工場における操業が円滑に行われるようにするため、機械装置の提供だけでなく、製造技術の提供や設計教育(訓練)、監督も行っており、工場の日々の操業に深く関与している。
C H社の役員が、本件K国工場の操業の管理及び現地従業員の監督について責任を負っている。
(チ) 本件製品の製造に必要な原材料及び製造設備について
A H社は、本件K国工場において本件製品の製造の用に供している機械設備を同社の固定資産として管理していた。
B H社が作成した「H社決算処理状況」と題する書類には、同社の棚卸資産について、評価は本件K国工場の数値を使用する旨記載されている。
C 請求人は、当審判所に対し、平成18年12月11日付回答書で、H社が無償で提供した原材料、本件K国工場にある輸出されていない製品及び半製品の所有権はH社に帰属する旨回答し、当審判所の調査によってもその内容は信用し得るものと認められる。
(リ) 加工費及び本件K国工場の費用の会計上の処理について
A 加工費
 本件協議書及び本件借用契約書等によりH社が本件K国工場に支払うこととされている加工費は、毎月、P市に対する手数料等が控除された後に、その残額が本件K国工場の名義の銀行口座に入金されていた。
 そして、当該入金額は、H社の会計帳簿上、「K国小口現金」勘定で受け入れられ、P市に対する手数料等は、同社の会計帳簿上、手数料として処理されていた。
B 加工費と本件K国工場の必要資金の関係
 本件K国工場は、同工場で必要とする資金について、その内訳を記載した明細表により、毎月、L区本社に対して通知していたことが認められ、当該明細表の欄外には、該当月分の前月分の加工費の金額が記載されている。そして、加工費の本件K国工場で必要とする資金に占める割合は、年間平均20%にも満たなかったと認められる。
C 別途送金資金
 H社が加工費以外に別途送金した資金は、同社の会計帳簿上、現金勘定から「K国小口現金」勘定に振り替えられていた。
D 本件K国工場に係る費用の会計上の処理
(A) H社の決算書及び会計帳簿によれば、H社の売上原価に「Direct labour」として計上された費用の額は、同社の会計帳簿にK国を意味するKと付記された「Direct wages」の総額に一致しているほか、売上原価に「Purchases」として計上された費用の額は、同社の会計帳簿の「Purchase-Materials」、「Pur-Packing Materials」及び「Pur-Subsidiary Materials」等の総額に一致し、「Consumable tools」として計上された費用は、同社の会計帳簿のこの費用の総額に一致し、これらにはKと付記された費用が含まれている。
(B) H社の会計帳簿の「K国小口現金」勘定を通じて支出された「Direct wages」、「Purchase-Materials」、「Pur-Packing Materials」、「Pur-Subsidiary Materials」、「Consumable tools」等の各費用は、本件K国工場に係る費用である。
(C) 上記(A)及び(B)からすると、H社は、同社の「K国小口現金」勘定を通じて支出された本件K国工場に係る各種費用を、同社の決算書上、費用として計上していたと認められる。
(D) 本件K国工場に係る工場宿舎費の金額は、本件借用契約書で定められた工場、従業員宿舎及び倉庫の賃借料の合計額であり、H社は、同社の会計帳簿上、借料として計上していたと認められる。
(ヌ) 本件製品の製造に係る損失負担について
 H社は、本件製品の製造過程で生じた仕損費を同社の原価に計上していた。
(ル) 本件製品の製造へのH社の関与について
 上記(イ)から(ヘ)までによれば、本件K国工場における本件製品の製造は、H社各事業年度を通じて、H社が策定した事業計画に基づき、同社の権限ある役員及び従業員の管理監督の下で行われ、さらに、本件K国工場における人事管理及び財務管理もH社が行っていたと認められる。
 このことは、L区企業の本件対象地域における製造活動への関与がわずかである場合には50%オフショアが適用されないにもかかわらず、上記1(4)リのとおり、H社はH社各事業年度において50%オフショアの適用を受けていたこと、上記(ト)のとおり、本件回答書には、H社が本件K国工場における製造行為を管理監督し、その責任を負っている旨記載されていることからも、裏付けされているといえる。
(ヲ) 本件製品の製造から生じる損益の帰属について
A 本件協議書及び上記(チ)のとおり、H社は、H社各事業年度を通じて、本件製品の製造に必要な原材料及び製造設備を、自己の計算で調達し、H社の所有に属したまま本件K国工場へ持ち込み、本件製品の製造のために使用していたと認められる。
B 上記1(4)ト及び上記(リ)D(D)のとおり、H社は、H社各事業年度を通じて、本件K国工場を賃借しており、本件K国工場は、上記(イ)から(ホ)までのとおり、本件製品の製造のために使用されていたと認められる。
C 本件協議書及び本件借用契約書等並びに上記(リ)によれば、H社は、H社各事業年度を通じて、本件K国工場に対し、実際の生産額とは無関係に加工費名目で一定額の金員を送金していたことが認められる。そして、H社は、本件K国工場に対し、加工費名目の金員のほか、契約とは関係のない金員を別途送金し、いずれの金員についても、同社の会計帳簿上、「K国小口現金」勘定に振り替えていたことが認められる。
 そして、本件K国工場に係る費用については、H社の管理の下、同社が本件K国工場へ送金した加工費名目の金員及び別途送金した金員から支出されていたものと認められる。
 そうすると、本件K国工場に係る費用は、H社の費用と認められる。
D 本件協議書並びに上記(イ)及び(ヌ)によれば、H社が、本件製品の製造過程で生じた仕損品、不良品等に係る損失を負担していたと認められる。
E 上記AからDまでによれば、H社各事業年度を通じて、本件製品の製造に要する費用の減少から生じる利益はH社が享受し、当該費用の増加、仕損品の発生などから生じる利益の減少又は損失の発生もH社が直接負担することになるから、本件K国工場における本件製品の製造から生じる損益は、H社に帰属していたものと認められる。
(ワ) 上記(ル)及び(ヲ)によれば、H社は、H社各事業年度を通じ、自己の計算において原材料を仕入れ、加工等をして本件製品を完成させ、本件製品を最終消費者以外の事業者に販売する事業(以下「本件事業」という。)を行っていたと認められる。
ハ H社の主たる事業について
 上記ロ(イ)によれば、H社は、H社各事業年度を通じて、本件事業以外の事業を行っていなかったと認められる。
 したがって、H社各事業年度においてH社が行う主たる事業は、本件事業であったと認められる。
ニ H社の主たる事業の事業区分について
(イ) 本件事業が措置法第66条の6第3項第1号に規定する卸売業等の事業に該当するかどうかについて検討すると、上記イ(ロ)のとおり、同号に規定する卸売業とは、有体的商品を仕入れ、物理的又は化学的な変化を加えずに、最終消費者以外の事業者に販売する事業をいい、本件事業の内容は、上記ロ(ワ)のとおりであるから、本件事業は、同号に規定する卸売業には該当しないと認められる。
(ロ) そして、本件事業が措置法第66条の6第3項第1号に規定する卸売業以外の事業、すなわち、銀行業、信託業、証券業、保険業、水運業及び航空運送業のいずれかに該当するかどうか検討すると、これらの事業の一般的な意義に照らしても、そのいずれにも該当しないことは明らかである。
(ハ) 上記(イ)及び(ロ)から、H社各事業年度におけるH社の主たる事業は、卸売業等の事業以外の事業であったと認められる。
ホ 所在地国基準の適用について
 上記ニのとおり、H社の主たる事業である本件事業は卸売業等の事業に該当しないから、H社が外国子会社合算税制の適用除外要件を充足しているかどうかの判定に当たっては、非関連者基準ではなく、所在地国基準が適用される。そして、上記ロ(ワ)によれば、本件事業が措置法施行令第39条の17第5項第1号に規定する不動産業及び同項第2号に規定する物品賃貸業のいずれにも該当しないことは明らかであるから、H社が所在地国基準を満たしていたかどうかは、本件事業が主としてH社の本店所在地国等であるL区で行われていたかどうかによることとなる。
 特定外国子会社等の行う事業が主として本店所在地国等において行われていたかどうかは、上記イ(ハ)A及びBのとおり、その事業における本質的な行為が本店所在地国等において行われていたかどうかによるところ、本件事業が、本件製品の原材料を購入し、その原材料を本件K国工場に持ち込んで加工等をして本件製品を製造し、完成した本件製品を最終消費者以外の事業者に販売する事業であることからすると、上記イ(ハ)Cのとおり、本件事業における本質的な行為は、本件製品の製造行為であると認められる。そして、上記ロによれば、H社は、H社各事業年度を通じて、本件製品の製造行為を本件K国工場で行っていたと認められる。
 したがって、H社が、H社各事業年度において、本件事業を主として本店所在地国等であるL区で行っていたとはいえない。
ヘ 適用除外要件該当性について
 上記ホのとおり、H社が、H社各事業年度において、本件事業を主として本店所在地国等で行っていたとはいえないから、H社は、H社各事業年度のいずれにおいても所在地国基準を満たしていないこととなる。
 したがって、H社は、H社各事業年度のいずれにおいても、適用除外要件のすべてを充足していたとはいえない。
ト 請求人の主張について
 請求人は、H社の行う事業は、自ら製造を行わないで、自己の所有に属する原材料をK国の企業に支給して製品を造らせ、これを自己の名称で販売するものであり、これは日本標準産業分類上、卸売業に分類される「製造問屋」であるから、措置法第66条の6第3項第1号に規定する卸売業に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記イ(ロ)のとおり、外国子会社合算税制の適用除外要件を適用するために行う事業区分の判定は、措置法第66条の6第3項各号の立法趣旨・目的等も勘案して判定すべきものであり、必ずしも日本標準産業分類の分類どおりに判定するものではないと解される上、本件事業は、その実態に照らしても、上記ニ(イ)のとおり、措置法第66条の6第3項第1号に規定する卸売業に該当しないと認められるから、請求人の主張は採用できない。

(2) 外国子会社合算税制の適用について

 上記1(4)ロからニまでのとおり、H社は、H社各事業年度においては、請求人の特定外国子会社等に該当すると認められる。また、上記(1)ヘのとおり、H社は、H社各事業年度において適用除外要件を充足していたとはいえない。
 したがって、原処分において、本件各事業年度の所得の金額の計算上、上記1(4)ホの課税対象留保金額に相当する金額を、それぞれ、本件各事業年度の益金の額に算入したことは適法である。

(3) 原処分について

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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