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(平20.2.6、裁決事例集No.75 447頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)がE国に設立した外国法人の損益の額を請求人の損益の額と合算して法人税の確定申告をしたことについて、原処分庁が当該外国法人は租税特別措置法(平成16年法律第14号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第66条の6《内国法人に係る特定外国子会社等の留保金額の益金算入》第1項に規定する特定外国子会社等に該当するとして、同項に規定する課税対象留保金額に相当する金額を請求人の所得の金額の計算上益金の額に算入することなどを理由とする更正処分等を行ったことに対して、請求人が同処分は違法であるとしてその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成14年7月1日から平成15年6月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書を法定申告期限までに提出した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成18年8月25日付で別表1の「更正処分等」欄のとおり、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、それぞれ「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成18年10月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は平成19年1月16日付でいずれも棄却する異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成19年2月13日に審査請求をした。

(3) 基礎事実

イ 請求人は、E国に便宜置籍船の所有会社として、1F社、2G社、3H社、4J社、5K社、6L社及び7M社(以下、これら7社を総称して「F社等」という。)を同国の関係法令に基づき合法的に設立し、F社等が所有する船舶の管理、支配及び運営を行い、F社等の資産、負債及び損益の額をそれぞれ合算して経理(以下「合算経理」という。)することにより、請求人に帰属させ本件事業年度の法人税について申告した。
ロ F社等のうちK社、L社及びM社を除く4社は、E国においてそれぞれ自社を所有者として船舶登録した船舶を本件事業年度において所有している。また、K社、L社及びM社は、いずれも本件事業年度においては船舶を所有していないが、これは、本件事業年度が開始する前に当該各法人が所有する船舶を売却したことによるものであり、このため、当該各法人は、本件事業年度においては休業中である。

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(4) 関係法令

イ 措置法第66条の6第1項は、内国法人に係る外国関係会社のうち、本店又は主たる事務所の所在する国又は地域におけるその所得に対して課される税の負担が本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いものとして政令で定める外国関係会社に該当するもの(以下「特定外国子会社等」という。)が、各事業年度において、その未処分所得の金額から留保したものとして、政令で定めるところにより、当該未処分所得の金額につき当該未処分所得の金額に係る税額及び利益の配当又は剰余金の分配の額に関する調整を加えた金額(以下「適用対象留保金額」という。)を有する場合には、その適用対象留保金額のうちその内国法人の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式又は出資(以下「株式等」という。)に対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額(以下「課税対象留保金額」という。)に相当する金額は、その内国法人の収益の額とみなして当該各事業年度終了の日の翌日から2月を経過する日を含むその内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する旨規定している。
 また、措置法第66条の6第1項第1号では、同項の規定が適用される内国法人について、その有する外国関係会社の直接及び間接保有の株式等の当該外国関係会社の発行済株式の総数又は出資金額のうちに占める割合が100分の5以上である内国法人とする旨規定している。
ロ 措置法第66条の6第2項第1号は、同条第1項に規定する外国関係会社とは、外国法人で、その発行済株式の総数又は出資金額のうちに、居住者及び内国法人が有する直接及び間接保有の株式等の総数又は合計額の占める割合が100分の50を超えるものをいう旨規定している。
 また、措置法第66の6第2項第2号では、同条第1項に規定する未処分所得の金額について、特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額につき、所定の基準により計算した金額を基礎として政令で定めるところにより当該各事業年度開始の日前5年以内に開始した各事業年度において生じた欠損の金額に係る調整を加えた金額をいう旨規定している。
ハ 措置法第66条の6第3項は、同条第1項各号に掲げる内国法人に係る特定外国子会社等(株式若しくは債券の保有、工業所有権等若しくは著作権の提供又は船舶若しくは航空機の貸付を主たる事業とするものを除く。)が、その本店又は主たる事務所の所在する国又は地域において、その主たる事業を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の固定施設を有し、かつ、その事業の管理、支配及び運営を自らが行っているものである場合であって、各事業年度においてその行う主たる事業が、同条第3項各号に掲げる事業のいずれに該当するかに応じ当該各号に掲げる場合に該当するときは、当該特定外国子会社等のその該当する事業年度に係る適用対象留保金額については、同条第1項の規定を適用しない旨規定している。
ニ 租税特別措置法施行令(平成17年政令第103号による改正前のもの。)第39条の14《特定外国子会社等の範囲》第1項は、特定外国子会社等について、同項第1号において、法人の所得に対して課される税が存在しない国又は地域に本店又は主たる事務所を有する外国関係会社、同項第2号において、その各事業年度の所得に対して課される租税の額が当該所得の金額の100分の25以下である外国関係会社である旨規定している。
ホ 法人税法(平成16年法律第14号による改正前のもの。以下同じ。)第31条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》第1項は、減価償却費として損金の額に算入する金額を、当該事業年度において有する減価償却資産について、その償却費として損金経理した金額のうち政令で定めるところにより計算した金額に達するまでの金額である旨規定している。
 また、法人税法第2条《定義》第25号は、損金経理について、法人がその確定した決算において費用又は損失として経理することをいう旨規定している。
ヘ 法人税法施行令(平成19年政令第83号による改正前のもの。以下同じ。)第63条《減価償却に関する明細書の添付》は、減価償却資産の当該事業年度の償却限度額その他償却費の計算に関する明細書を当該事業年度の確定申告書に添付しなければならない旨規定している。

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2 主張

 原処分庁及び請求人の主張は、別紙「当事者の主張」のとおりである。

3 判断

(1) 措置法第66条の6の規定の適用の該当性

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人は、船舶を日本船籍にした場合にはコスト面や運行面の問題があるため、法人の設立要件が簡易なE国に○○社を通じてE国の設立代理業者(以下「本件設立代理業者」という。)に依頼し、F社等を設立させ、当該各法人にE国船籍の船舶(以下「本件各船舶」という。)を取得させたものである。
(ロ) E国会社法における株式会社設立の手続は、発起人が定款を作成して公証人に提出し、設立登記が行われた時点で終了し、定款には、資本金額、発行株式数、額面金額、各発起人が引受けに同意した株式数、E国における代理人の住所及び氏名等を記載することとなっているが、資本金の払込みや株券の発行行為は会社設立の要件とはなっていない。
(ハ) F社等の定款には、上記(ロ)の必要記載事項が記載されているが、請求人は本件設立代理業者から資本金の払込みを求められたことはなく、払込みはしていない。また、同様にF社等の設立発起人(以下「本件設立発起人」という。)からの資本金の払込みもなく、J社以外の各社については、株券も発行していない。
 なお、J社の発行した株券の所有者は、請求人であるが、当該株券は、J社が取引銀行から担保の差入れを要求された場合に備えて便宜上発行したものである。
(ニ) 請求人は、会社の設立を依頼した本件設立代理業者から送付された設立関係書類を保管しており、送付を受けた設立関係書類の中には、本件設立発起人が引き受けたF社の株式について、本件設立発起人が当該株式の引受人としての地位を譲渡する旨が記載され、かつ、譲受人の欄が空白となった株式引受権譲渡書が含まれている。
 なお、請求人は、本件設立発起人については、本件設立代理業者が選任しているため、請求人は本件設立発起人がどのような人物であるか把握していない。 
 また、E国で便宜置籍船の所有会社を設立する場合、会社に対する権利関係を明確にするため、設立代理人が発起人として引き受けた各1株の株式について、譲受人の欄を空欄にした譲渡契約証書を徴するのが通例であり、かつ、請求人は、F社以外の法人について本件設立代理人からF社と同様の設立関係書類を受領したと答述していることからすると、株式引受権譲渡書は、F社等のいずれの法人も作成され、請求人が保管しているものと認められる。
(ホ) 請求人は、本件設立代理業者を通じて、F社等のうち会社設立時の取締役が外国人であるF社から請求人の代表取締役であるN及び取締役であるR(平成18年8月○日に代表取締役就任)に対して、会社の経営に関する全権を委任する旨の登記証書の写し(以下「全権委任状」という。)を提出させている。
(ヘ) F社等は、E国に主たる事業を行うに必要と認められる事務所、店舗等の固定施設はなく、現地従業員もいない。
(ト) 定期傭船契約書には、契約の当事者として傭船者及びF社等が船主として記載されており、請求人の名称は記載されていない。
(チ) F社等は、それぞれ所有する船舶につき日本企業との間で傭船契約を締結するなどして収入を得ているところ、E国においては、国際運輸業務から生ずる所得は国外源泉所得となり課税されないこととなっている。
ロ 措置法第66条の6の規定の立法趣旨等
 措置法第66条の6の規定の立法趣旨は、内国法人が法人の所得に対する税負担が全くない国又は地域か、あるいは極端に低い国又は地域に子会社を設立することによる税負担の回避に対して、法人税法第11条に規定する実質所得者課税の原則、又は法人格否認の法理による対処では課税執行の面で不安定なところがあったため、実質的税負担の公平を図るとともに、課税執行の安定を図ることにあると解されている。
 そして、この趣旨から、措置法第66条の6の規定は、特定外国子会社等の法人格を否定することなく、その留保所得が実質的に内国法人に帰属するものとして、どの程度の課税がなされるかを明確な基準で判断できるよう特定外国子会社等や課税対象留保金額といった概念を定めている。
ハ 措置法第66条の6の規定の適用の有無
(イ) 措置法第66条の6第2項においては、外国法人が外国関係会社に該当するか否かの判断基準を当該外国法人の発行済株式の総数等のうち居住者及び内国法人が保有する割合においているところ、上記イの(ハ)のとおり、F社等の定款には資本金額は記載されているが、F社等の7社のうち、J社以外の6社については株券が発行されておらず、株券を発行しているJ社についても当該株券を便宜上発行しただけで、いずれも資本金は払い込まれていない。
 また、F社等を設立するに当たっての設立準拠法であるE国会社法においては、上記イの(ロ)のとおり、株式会社の設立手続は、発起人が定款を作成して公証人に提出し、設立登記が行われた時点で終了し、定款には、資本金額、発行株式数、額面金額、各発起人が引受けに同意した株式数等を記載することとなっているが、資本金の払込みや株券の発行行為は会社設立の要件とはなっていない。
 ところで、措置法第66条の6第2項における外国法人が外国関係会社に該当するか否かは、内国法人の当該外国法人に対する支配関係により判定するものであるから、その支配関係の有無は形式上又は名目上のものではなく、当該外国法人の収益や資産を実質的に支配し得る地位の有無という観点から判定されなければならず、同項における発行済株式等とは、当該外国法人を支配し得る単位化された物的持分としての法的地位を指すものと解するのが相当であり、内国法人がこうした法的地位を取得しているかどうかは、その外国法人の設立準拠法のほか、当該発行済株式等に係る権利の取得者等について具体的事情を個別的に考慮して判断すべきものと解される。
 そうすると、E国会社法における定款の必要記載事項においては、「各発起人が引受けに同意した株式数」と掲げていることから、外国法人を支配し得る単位化された物的持分を有しているか否かは、E国会社法における定款の必要記載事項とされている「同意した株式」に係る権利をだれが所有しているかにより判断すべきこととなり、請求人は、上記イの(ニ)のとおり、本件設立発起人から株式の引受人としての地位を譲渡する株式引受権譲渡書を徴していると認められることから、請求人が当該株式にかかる権利を取得しているとみるのが相当である。さらに、上記イの(ホ)のとおり、会社設立時の取締役が外国人である場合には会社経営に関する全権委任状を徴していることからすると、請求人は、会社を支配し得る物的持分としての法的地位を100%保有していると認められる。
(ロ) 以上のことから、F社等は、措置法第66条の6第1項の規定する請求人に係る外国関連会社に該当し、また、上記イの(チ)のとおり、E国においてはF社等の事業活動から生じる所得に税が課されていないことから同項に規定する特定外国子会社等に該当する。さらに、上記イの(ヘ)のとおり、F社等はE国において設立されているものの事業を行うに必要と認められる固定施設を有さず、かつ、現地従業員もいないことから、同条第3項に規定する適用除外の対象とはならない。
 そうすると、措置法第66条の6第1項の規定を適用し、F社等を請求人に係る特定外国子会社等として、適用対象留保金額を有する法人に係る課税対象留保金額を請求人の益金の額に算入することは適法である。
ニ 措置法第66条の6の規定と法人税法第11条の規定の関係
(イ) 請求人は、上記2の(1)のロのとおり、F社等は、実体を有さず単なる名義人であり、一貫して合算経理して申告していることから、F社等には措置法第66条の6第1項にいう「その未処分所得の金額から留保したもの」は存在しない旨主張し、さらに、上記2の(1)のハのとおり、収益の法的帰属者であるF社等が単なる名義人であり、請求人自ら実質所得者であることを自認して、法人税法第11条の規定に従い申告しており、原処分庁がこれを否定することは許されない旨主張する。
 ところで、法人税法第11条に規定する実質所得者課税の原則とは、法律上の所得の帰属の形式とその実質が異なるときには、実質に従って租税関係が定められるべきであるという租税法上の当然の条理を確認的に定めたものと解される。一方、措置法第66条の6の規定は、特定外国子会社等に関し、その事業として行われた活動に係る個々の損益について、それ自体が当該特定外国子会社等に係る内国法人に帰属するものとせず、当該特定外国子会社等における事業活動に係る損益の計算に基づく未処分所得につき、内国法人が保有する株式数等に応じて所定の範囲で、これを内国法人の益金の額に算入することとした規定であることは文理上明らかであり、法人は、法律により権利義務の帰属主体として設立が認められるものであり、その事業として行われた活動に係る損益は、特別な事情がない限り法律上、その法人に帰属するものであって、その法人が実質的に他の法人の事業部門であるような場合も同様であると解されることを前提に、同条は、法人の事業活動に係る損益の帰属について、特定外国子会社等が外国法人であることをも踏まえて特別の措置を定めた規定と解される。
 これを本件についてみると、上記1の(3)及び上記イの(イ)のとおり、請求人のF社等の設立目的が所有する船舶についてE国船籍を取得し維持することにあったこと及び法律に基づき設立し法人格を有するF社等が当該各船舶を法律上適法に所有していることに加え、上記イの(ト)及び(チ)のとおり、F社等は、所有する船舶に関して定期傭船契約を結び、当該傭船に係る収益を得ていることからすると個々の法人としての実体を有していると認められ、仮に請求人の主張のとおり、F社等においては、人、物、金がなく、また、株主総会等の開催や固有の意思決定がなされたことはなく、船舶等の資産の取得、金融機関からの資金調達及びこれらの管理・運営等はすべて請求人の意思で行われているとしても、措置法第66条の6の規定の上記趣旨からすれば、これらは、法律上F社等の事業活動と認めるべきものであることは明らかであり、この点をもってもF社等が所有する船舶に係る損益が請求人に帰属するものではないというべきである。
 そうすると、F社等が所有する船舶に係る損益の額はF社等に帰属するというべきであり、法人税法第11条に規定する実質課税の原則を適用し、F社等の損益の額を請求人に帰属させ、申告することは認められず、また、F社等のうち適用対象留保金額を有する法人については、措置法第66条の6の規定が適用されることとなる。
 したがって、これらの点に関する請求人の主張は採用することができない。
(ロ) また、請求人は、上記2の(1)のニのとおり、法人税法第11条の規定は収益等の帰属の判断基準を定めた規定であるのに対し、措置法第66条の6の規定は外国法人に収益等が帰属することを前提に適用される規定であると解すべきであり、措置法第66条の6の規定が法人税法の特別法として優先的に適用される関係ではない旨主張するが、上記(イ)のとおり、F社等は個々の法人としての実体を有していると認められるのであるから、法人税法第11条の規定と措置法第66条の6の規定との適用関係を判断するまでもなく、この点に関する請求人の主張は認められない。
ホ 収益及び費用の帰属に係る当事者間の合意
 請求人は、上記2の(1)のホのとおり、F社等の船舶等の資産並びに船舶運航の収益及び費用は請求人に帰属する旨両者で合意があり、これら私的自治の範囲で行われた私法取引を明文の否認規定なしで原処分庁がこれを否認することはできない旨主張する。
 しかしながら、ある収入又は費用が法人税法上いかなる者の収入等に属するかについては、当該収入等に係る権利義務が発生した段階において、その権利義務が契約の相手方との関係から実体法上だれに帰属するかによって決定されるというべきである。そして、ある収入又は費用が実体法上だれに帰属するかは、当該収入又は費用の基礎となる法律関係の当事者間で決せられるものであり、当該法律関係の一方の当事者と当事者以外の第三者との間において、当該第三者が当該収入を受け取る権利又は費用を負担する義務を有するものと合意したとしても、それだけでは、その合意は当該契約の相手方に対して何ら効力を生ずるものではないと解される。
 したがって、仮に請求人が主張する合意の存在が認められたとしても当該合意によってF社等の収益又は費用が実体法上請求人に帰属するとはいえず、当該収入又は費用が税法上請求人に帰属するともいえないのであるからこの点に関する請求人の主張は採用することはできない。
ヘ 措置法第66条の6の規定と同条の立法趣旨との関係
 請求人は、上記2の(1)のイのとおり、F社等を設立した目的は、海外への利益の移転又は留保による税負担の不当な軽減を図るものではないため、措置法第66条の6の規定の立法趣旨から、同条の規定は適用されない旨主張する。
 しかしながら、措置法第66条の6の規定の立法趣旨は、上記ロのとおり、外国法人を利用することによる税負担の回避を防止し、税負担の実質的公平を図るとともに、その適用に当たって明確な基準を設けることにより、課税執行の安定を図りつつ、税負担の安定を図ることにあり、後者の趣旨にかんがみれば、特段の明文の規定がないにもかかわらず、外国法人を設立した目的が税負担の軽減を図る目的であるか否かという困難な要件を同条の適用の要件に加わえるべきではなく、同条の適用の有無は、同条に規定する要件に該当するか否かで判断すべきと解される。
 そうすると、上記ハのとおり、F社等は、措置法第66条の6第1項に規定する特定外国子会社等に該当し、同条第3項に規定する適用除外の要件に該当しないことから、請求人に措置法第66条の6の規定が適用されることとなる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ト 措置法第66条の6の規定と日本国憲法第84条及び法人税法第5条の規定との関係
 請求人は、上記2の(1)のへのとおり、F社等の所得は自己の所得であるとして合算経理して申告してきたにもかかわらず、損失は当該外国法人固有のものとし、利益のみを内国法人の所得として加算することは、本来、請求人に生じていない所得に対して課税することとなり、日本国憲法第84条及び所得課税の原則を規定した法人税法第5条に反する旨主張する。
 しかしながら、請求人の主張は、措置法第66条の6の規定が日本国憲法第84条の規定及び法人税法第5条の規定に反するとの主張と認められるところ、当審判所は、原処分庁が行った処分が違法又は不当なものであるか否かを判断する機関であって、その処分の基となった法令自体の適否又は合理性については、当審判所の審理の限りではない。
 したがって、請求人の主張は、その具体的理由を検討するまでもなく、採用することはできない。

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(2) 行政先例法及び信義誠実の原則の適用の該当性

イ 行政先例法
 請求人は、上記2の(2)のイのとおり、昭和58年にE国に外国法人を設立した以後、合算経理に基づき法人税の確定申告をしてきたが、この間、課税庁から措置法第66条の6の規定の適用についての指導や行政処分を受けたことがないことから、このような場合には、措置法第66条の6の規定を適用しない旨の行政先例法が成立し、これに違反する取扱いは違法である旨、また、原処分庁が行った長年の取扱いに対する信頼が生じており、その取扱いを変更する場合には、法律改正等所要の措置が必要であり、かかる手続を経ずになされた本件更正処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、租税法の分野においては、専ら法律の定めるところに従って課税が行われるべきであるとする租税法律主義の原則が支配するところ、仮に過去の調査で指摘がないとか、他の海運業者が便宜置籍船の所有会社の資産、負債及び損益の額をそれぞれ合算して法人税の確定申告をしている事実があったとしても、そのことをもって行政先例法であるとすることは認められず、慣習法として適用される余地はない。また、原処分庁は、後述ロのとおり、請求人に対して合算経理に基づき法人税の確定申告が適正であるとした見解は表明しておらず、取扱いを変更したものではないから、これらの点に関する請求人の主張はいずれも採用することはできない。
ロ 信義誠実の原則
 請求人は、上記2の(2)のロのとおり、過去数度の税務調査における是認は、原処分庁が実質課税の原則に基づく申告に対して是認する意向を表明していたことを意味し、原処分庁がこれを翻して合算経理による申告を否定するのは信義誠実の原則に反し、違法である旨主張する。
 ところで、租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義誠実の原則の法理により、当該課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、同法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用によって実現されるべき納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて同法理の適用の是非を考えるべきであると解されている。そして、特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、後に当該表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の当該表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかという点の考慮は不可欠のものであるといわねばならないと解されている(最高裁昭和62年10月30日第三小法廷・昭60(行ツ)第125号判決)。
 これを本件についてみると、過去数度の税務調査において原処分庁から何ら指摘を受けていないことをもって、原処分庁が請求人に対して合算経理による法人税の確定申告が法令に照らし適法な処理であるとの公的見解を示したとはいえず、租税法規の適用によって実現されるべき納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてまでも納税者の税務官庁に対する信頼を保護しなければ正義に反するとまでいえるような特別の事情があるとは認められない。
 また、原処分庁が請求人の合算経理による申告について何ら指導を行わなかったとしても、その税務処理について誤りであることが明らかになった段階で是正を求めることは、何ら違法なものとはいえない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

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(3) 請求人及びF社等の所有する船舶の減価償却費の計算

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人が原処分庁に提出した本件事業年度の法人税の確定申告書には、減価償却費明細書等が添付されており、当該明細書等には船舶の減価償却費について、別表3の「確定申告」欄の金額が記載されている。
(ロ) 請求人は、原処分に係る調査において、本件事業年度の法人税の確定申告書に添付した減価償却費明細書等の内容に誤りがあったとして、平成18年3月23日に請求人所有の船舶の減価償却費を別表3の「平18.3提出分」欄のとおり増額するとともに、その同額をJ社所有の船舶の減価償却費から減額した訂正後の減価償却費明細書等を原処分庁に提出した。
(ハ) 請求人は、更に上記(ロ)で提出した訂正後の減価償却費明細書等に誤りがあったとして、再度、平成18年8月11日に請求人所有の船舶の減価償却費を別表3の「平18.8提出分」欄のとおり更に増額し、その同額をJ社所有の船舶の減価償却費から減額した再訂正後の減価償却費明細書等を原処分庁に提出した。
(ニ) 請求人は、本件事業年度後の平成15年7月1日から平成16年6月30日までの事業年度及び平成16年7月1日から平成17年6月30日までの事業年度(以下、これらの事業年度を併せて「本件事業年度後の各事業年度」という。)についても、請求人所有の船舶とJ社所有の船舶の減価償却費を同様に訂正した減価償却費明細書等を平成18年3月23日及び平成18年8月11日にそれぞれ提出した。
 Rは、原処分庁に対し、上記(ハ)の請求人所有の船舶の減価償却費を増額させることについて、更正処分をされるのであれば、当初から減価償却費の計算は熟慮していたことであるから、本件更正処分においては、請求人所有船舶の減価償却費を増額する案を採用してほしい旨申述している。
(ホ) 原処分庁は、本件更正処分において、請求人の主張の一部を認め、別表3の「原処分額」欄のとおり、平成18年3月23日に提出した訂正後の減価償却費明細書等に基づき減価償却費の額を算出して、更正処分をした。
ロ 減価償却費の金額
 請求人は、上記2の(3)のとおり、本件更正処分においては、平成18年8月11日に提出した再訂正後の減価償却費明細書等に基づき請求人及びF社等の減価償却費の金額を算出すべきである旨主張する。
 ところで、法人税法第31条第1項において、上記1の(4)のホのとおり、法人が所有する減価償却資産につき、その償却費として各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、法人が償却費として損金経理した金額のうち、その資産について選定した償却の方法に基づき計算した金額に達するまでの金額とされており、さらに法人が所有する減価償却資産につき、償却費として損金経理した金額がある場合は、法人税法施行令第63条において、上記1の(4)のヘのとおり、個々の減価償却資産について当期償却額、期末帳簿価額等を記載した明細書を確定申告書に添付(総額で明細書を表示した場合には、個々の明細を保管)することが求められている。
 これは、減価償却資産に係る償却費の計上は法人の内部取引であり、償却費として損金に計上する金額は、法人の判断にゆだねられているのであるが、確定決算において損金計上する金額は減価償却資産に係る当期償却額の総額であり、個々の減価償却資産に係る当期償却額、期末の帳簿価額等の金額までは確定決算において明らかにされていない場合が多い。その場合には、個々の減価償却資産を売却又は廃棄した場合の当該減価償却資産の売却益、売却損及び除却損の金額、並びに、定率法における個々の減価償却資産の未償却残高(減価償却資産の取得価額から既に償却費として計上した金額の合計額を控除した税法上の前事業年度末の期末帳簿価額)に対して償却率を乗じて計算する当期償却限度額等について、その適否を課税庁において検討することができないこととなるため、法人が確定決算において損金経理した償却費の合計額にとどまらず、各事業年度における個々の減価償却資産の償却額及び期末帳簿価額を明確にしておく必要があり、そのような要請から確定申告書に明細書を添付することを要件にした規定が設けられているものと解される。
 そうすると、法人税の確定申告書の提出後において、個々の減価償却資産に係る償却費の金額が変更できるとした場合、課税執行面の安定性が図れない場合も生じることとなるため、法人税の確定申告書に添付した明細書自体に記載誤りがある等の場合を除き、そのような変更は許されないものと解される。
 これを本件についてみると、上記イの(イ)のとおり、請求人は、本件事業年度の法人税の確定申告書に償却費として損金経理した金額に関する減価償却費明細書等を添付しており、当該明細書等には、請求人やF社等が所有する各船舶についての損金経理した当期償却額や償却後の期末帳簿価額等が記載されている。
 そして、請求人が提出した本件事業年度後の各事業年度の法人税の各確定申告書に添付された減価償却費明細書等によると、それぞれ前事業年度の期末帳簿価額が当事業年度の期首帳簿価額とされ、当該期首帳簿価額を基に当期償却額が算出されるなど、その連続性が認められる。また、請求人が本件事業年度後の各事業年度の法人税の確定申告書を提出した時点においては、本件事業年度の法人税の確定申告書に添付された減価償却費明細書等の記載内容に誤りはなかったと認められる。
 さらに、請求人が本件事業年度の減価償却費明細書等を訂正し原処分庁に提出したのは、調査において原処分庁から合算経理は認められない旨の指摘を受けた後のことであり、その訂正の内容は、請求人の所有する船舶の当期償却額が過少であったことからこれを増額し、F社等の所有する船舶の当期償却額が過大であったことからこれを減額する内容であるところ、請求人は、上記イの(ロ)及び(ハ)のとおり、減価償却費明細書等の記載誤りがあったとするが、上記イの(ホ)のとおり、請求人は、本件更正処分が行われることを前提に当期償却額の訂正を求めていると認められることからも本件事業年度の法人税の確定申告書に添付された減価償却費明細書等に当初から誤りがあったとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 なお、原処分庁は、上記イの(ヘ)のとおり、原処分において平成18年3月23日に提出された訂正後の減価償却費明細書等に記載された金額に基づき、請求人及びF社等の減価償却費の計算を行っているが、各船舶の減価償却費の計算は、上記のとおり本件事業年度の法人税の確定申告書に添付された減価償却費明細書等に記載された金額に基づき行われるべきことになる。

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(4) 本件更正処分

イ F社等の損益の額
 請求人は、合算経理によりF社等の損益の額を請求人に帰属させて本件事業年度の法人税の確定申告書を提出しているが、上記(1)のニの(イ)のとおり、合算経理によりF社等の損益の額を請求人に帰属させることは認められないことから、請求人の本件事業年度の確定決算において合算されたF社等の損益の額として次により計算した金額は、請求人の損益の額から減算することとなる。
(イ) 請求人の帳簿(総勘定元帳)においては、請求人の損益の額から減算するF社等の損益の額について、F社等の損益の額が各法人ごとに区分して経理されていないため、原処分庁は、次の方法によりF社等の損益の額を算定しているところ、当審判所においても原処分庁が行った当該方法による算定は合理的なものと認める。
A 運賃収入及び雑収入は、船舶別に収入金額を確認し、請求人及びF社等に個別に振り分ける。
 また、賃貸料、事務管理料及び受取手数料(代理店料)の各営業収入金額は、請求人のみに帰属するものである。
B 円換算差益は、運賃収入金額全体に占める請求人及びF社等のそれぞれの運賃収入金額の比率であん分する。
C 受取利息は、上記A及びBに掲げるそれぞれの収入金額の合計金額全体に占める請求人及びF社等のそれぞれの当該収入金額の比率であん分する。
D 経費(船舶の減価償却費を除く。)は、請求人のみに係るもの、F社等のみに係るもの及びどちらにも共通するものに区分し、請求人又はF社等に係るものについてはそれぞれの法人の経費として個別に振り分け、共通する経費のうち船舶管理委託費、船舶保険料、燃料費、船具消耗品費、運航経費及び円換算差損については、運賃収入金額全体に占める請求人及びF社等のそれぞれの運賃収入金額の比率であん分し、それ以外のものについては、収入金額全体に占める請求人及びF社等のそれぞれの収入金額の比率であん分する。
(ロ) F社等の減価償却費の金額は、上記(3)のロのとおり、別表3の「審判所認定額」欄の金額となり、請求人又はF社等に個別に振り分ける。
(ハ) そうすると、F社等の損益の合計額は、別表2のとおり収入の合計額○○○○円及び費用の合計額○○○○円となり、それぞれの金額を請求人の損益の額から控除することとなる。
 したがって、差引金額○○○○円を別表5のとおり請求人の本件事業年度の所得金額から減算することとなる。
ロ F社等の課税対象留保金額
 F社等は、上記(1)のハのとおり、措置法第66条の6第1項に規定する特定外国子会社等に該当し、同条第3項に規定する適用除外の要件に該当しないため、措置法第66条の6の規定が適用されることから、次により計算したF社等の平成13年7月1日から平成14年6月30日までの事業年度の課税対象留保金額に相当する金額は、当該事業年度終了の日の翌日から2月を経過する日を含む請求人の本件事業年度の所得の計算上、益金の額に算入することとなる。
(イ) F社等の平成13年7月1日から平成14年6月30日までの事業年度における所得金額は、原処分庁が平成20年1月11日付で請求人の平成13年7月1日から平成14年6月30日までの事業年度の法人税の更正処分(以下、同日付で行われた平成12年7月1日から平成13年6月30日までの事業年度の法人税の更正処分と併せて「本件再更正処分」という。)において、請求人の損益の額に含まれないF社等の損益の額を別表4-1の「収入」欄及び「費用」欄の「再更正処分額」欄の金額としていることから、当該収入及び費用の額を基に算出することとなり、同表の「所得金額」欄の「審判所認定額」欄の金額となる。
(ロ) F社等の繰越欠損金額は、平成10年7月1日から平成11年6月30日まで及び平成11年7月1日から平成12年6月30日までの事業年度の欠損金額については、当審判所が行った平成16年6月7日付の裁決におけるF社等の所得金額の認定額を基に算出し、平成12年7月1日から平成13年6月30日までの事業年度の欠損金額については本件再更正処分におけるF社等の損益の額から計算した所得金額を基に算出したところ、別表4-2付表の「翌期繰越額」欄の「審判所認定額」欄の金額のとおりとなる。
(ハ) 適用対象留保金額は、上記(イ)のF社等の所得金額から上記(ロ)のF社等の繰越欠損金額を控除して未処分所得の金額(欠損金額は除く。)を算定し、さらに当該未処分所得の金額から平成13年7月1日から平成14年6月30日までの事業年度においてF社等が納付することとなる法人所得税の額を控除した別表4-2の「適用対象留保金額」欄の「審判所認定額」欄の金額となる。
 その結果、適用対象留保金額を有する特定外国子会社等は、F社及びG社となる。
(ニ) 本件事業年度において益金の額に算入すべき課税対象留保金額は、上記(ハ)のF社及びG社の適用対象留保金額にそれぞれF社及びG社の発行済株式の請求人の保有割合を乗じて算定した金額であり、別表4-2の「課税対象留保金額」欄の「審判所認定額」欄の金額となる。
ハ 繰越欠損金額の控除
 請求人は、本件事業年度の法人税の確定申告書において繰越欠損金の当期控除額を○○○○円としているが、請求人の平成13年7月1日から平成14年6月30日までの事業年度において翌期に繰り越した欠損金の金額は、本件再更正処分により○○○○円とされていることから、同金額が本件事業年度における繰越欠損金の当期控除額となり、同金額を超える○○○○円は本件事業年度の所得金額に加算することとなる。
ニ そうすると、請求人の本件事業年度の所得金額は、別表5のとおり○○○○円となり、本件更正処分の所得金額○○○○円を上回ることから、本件更正処分は適法である。

(5) 本件賦課決定処分

 本件更正処分は、上記(4)のとおり適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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