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(平20.8.4、裁決事例集No.76 618頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の滞納国税について、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第153条《滞納処分の停止の要件等》第1項各号に規定する事実(以下「停止の要件」という。)に該当する事実があるとして滞納処分の停止処分を行った後に、停止の要件を欠くに至ったとして滞納処分の停止取消処分を行ったところ、請求人が、資力が回復していないなどとして、当該停止取消処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、平成16年12月20日付で、請求人に対し、別表1記載の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の滞納国税について、滞納処分の停止処分(以下「本件停止処分」という。)をした。
ロ 原処分庁は、平成19年9月14日付で、請求人に対し、本件停止処分を取り消す処分(以下「本件停止取消処分」という。)をした。
ハ 請求人は、平成19年11月5日に本件停止取消処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁が平成20年1月21日付で棄却の異議決定をしたため、当該異議決定を経た後の本件停止取消処分に不服があるとして、同年2月8日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 国税の徴収の所轄庁について
(イ) 請求人は、平成14年8月13日に、住所地をP市p町○番から、肩書地に移動した(以下「本件住所地移動」という。)。
(ロ) 原処分庁は、所得税法第17条第1項、同法第15条、消費税法第20条及び通則法第43条第1項の各規定に基づき、請求人の源泉所得税、源泉所得税以外の所得税、消費税及び地方消費税(以下、源泉所得税以外の所得税、消費税及び地方消費税を併せて「申告所得税等」という。)に係る国税の徴収を所轄していたところ、本件住所地移動により、源泉所得税の納税地については変更がないものの、申告所得税等の納税地は肩書地に移動したことから、請求人の源泉所得税については原処分庁が、同人の申告所得税等についてはG税務署長が、それぞれ国税の徴収の所轄庁となった。
ロ 申告所得税等に係る滞納国税について
(イ) G税務署長は、平成15年12月10日付で、請求人に対し、停止の要件に該当する事実があるとして、申告所得税等に係る滞納国税について滞納処分の停止処分を行った。
(ロ) G税務署長は、平成18年12月18日付で、請求人に対し、上記(イ)の停止処分をした滞納国税に係る納税義務が平成18年12月11日に消滅した旨の通知をした。

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2 争点

 請求人は、滞納処分の停止の要件を具備しているか否か。

3 主張及び判断

(1) 主張

原処分庁 請求人
イ 徴収法第153条第1項第2号に規定する「その生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき」とは、滞納者の財産につき滞納処分を執行することにより、滞納者が生活保護法の適用を受けなければ生活を維持できない程度の状態(徴収法第76条第1項第4号に規定する金額で営まれる生活の程度)になるおそれのある場合であるところ、平成19年9月4日に原処分庁所属の徴収担当職員(以下「本件徴収担当職員」という。)が請求人と面接した時点で、請求人がQ市q町○番に所在するH社から毎月○○○○円の給料等を得ていることが認められ、その状況からみると、請求人は、生活保護法の適用を受けなければ生活を維持できない程度の状態とは認められないから、請求人は資力が回復しており、停止の要件に該当しなくなったものと判断したものである。 イ 請求人は、H社から月々○○○○円の給料等を得ているが、毎月の当該給料等の手取額から、F県での勤務のための新幹線代金○○○○円、F県滞在時のホテル代○○○○円、地方税(滞納分)○○○○円、他の会社の保証人になったための代位弁済金○○○○円を支払う必要があり、これらを支払うと月額約○○○○円しか手もとに残らない状況であるから、徴収法第153条第1項第2号に規定する「滞納処分を執行することによって、その生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき」に該当し、請求人は依然として資力が回復していないのであるから、本件停止取消処分は違法である。
ロ 次のとおり、本件停止取消処分の手続には、違法・不当はなく、同処分は適法に行われている。 ロ 仮に請求人の資力が回復しているとしても、本件停止取消処分は、その手続に違法・不当がある。
 本件住所地移動に伴って、請求人の滞納国税に係る滞納処分の所轄庁が原処分庁とG税務署長に分かれることとなった後、原処分庁及びG税務署長(以下併せて「両税務署長」という。)の所轄の滞納処分に係る面接は、本件徴収担当職員及びG税務署長所属の徴収担当職員の両者の同席によりG税務署において行われ、さらに、生命保険契約に係る差押債権の取立てによる充当処分等の滞納処分も両者の連携により行われてきた経緯があり、請求人の滞納国税に係る滞納処分は、両税務署長が足並みを揃えて行われるべきであるにもかかわらず、次のとおり、原処分庁はそれをしなかった。
(イ) 徴収法第153条第1項は、滞納者につき停止の要件に該当する事実があれば、税務署長の裁量により滞納処分の執行を停止することができる旨規定しているものであり、本件停止処分の時期がG税務署長が行った滞納処分の停止処分の時期と相違しても何ら違法・不当ではない。
(ロ) 徴収法第154条第1項は、税務署長は同法第153条第1項の規定により滞納処分の執行を停止した後3年以内に、その停止に係る滞納者につき停止の要件に該当する事実がないと認めるときは、その執行の停止を取り消さなければならない旨規定している。
 原処分庁は、本件停止処分が行われた平成16年12月20日から3年以内に請求人の資力が回復したと認められたことから、平成19年9月14日付で徴収法第154条第1項の規定に基づき本件停止取消処分を行ったものであり、何ら違法・不当はない。
(イ) 本件停止処分は、合理的な理由もなく、G税務署長が行った滞納処分の停止処分にほぼ1年も遅れた。原処分庁がG税務署長の行った停止処分と同時期に本件停止処分を行っていれば、原処分庁が国税の徴収を行う滞納国税も本件停止取消処分の時点には既に消滅している。
(ロ) 平成17年6月ころ、G税務署において、請求人が本件徴収担当職員とG税務署長所属の徴収担当職員と一緒に面接し、徴収法第153条第1項第2号に該当する事情を両徴収担当職員に説明したところ、本件徴収担当職員はそれに納得し、その後、原処分庁は、G税務署長同様に滞納処分の停止処分を継続したにもかかわらず、G税務署長が国税の徴収を行う滞納国税が消滅した後に及んで本件停止取消処分を行った。

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(2) 判断

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人の給料等の額及び当該給料等から差し引かれた額
 請求人が当審判所に提出した給与明細書、H社がJ市役所に提出した平成20年度(平成19年分)の給与支払報告書及びK銀行E支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)に係る取引明細表によれば、平成19年中における各月のH社からの給料等の額及び当該給料等から差し引かれた社会保険料の額、所得税の額、地方税の額等は、別表2のとおりである。
(ロ) 請求人と生計を一にする親族
 住民票の写し、戸籍謄本の全部事項証明、請求人の当審判所に対する答述によれば、請求人と生計を一にする親族は請求人の妻1名である。
(ハ) 本件停止取消処分に至る調査の経緯
A 本件徴収担当職員は、本件停止処分後における請求人の資力回復の有無を確認するため、J市役所にて請求人の地方税の課税状況を調査したところ、給与支払報告書により、平成18年中にH社から請求人に○○○○円が支払われている事実を把握した。
B 上記Aで把握した事実から請求人の資力が回復していると想定されたため、本件徴収担当職員は、その状況を確認する目的で請求人と面接することとした。
C 本件徴収担当職員は、平成19年9月4日、G税務署において、G税務署長所属の徴収担当職員とともに請求人と面接し、請求人から、H社から支給される毎月の給料等の額は○○○○円である旨を確認した。
ロ 法令等解釈
(イ) 徴収法第153条第1項は、税務署長は、滞納者につき、1滞納処分を執行することができる財産がないとき(第1号)、2滞納処分を執行することによって、その生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき(第2号)、3その所在及び滞納処分を執行することができる財産がともに不明であるとき(第3号)の一に該当する事実があると認めるときは、滞納処分の執行を停止することができる旨規定し、滞納処分の執行を停止するか否かは、権限ある税務署長の裁量によるものと解される。
(ロ) 徴収法第153条第1項第1号に規定する「滞納処分を執行することができる財産がないとき」とは、差押えの対象となる財産がないときを指すものと解され、滞納者に給料等の収入がある場合に、その給料等の金額が徴収法第76条第1項に規定する差し押さえることができない金額を超えるときは、徴収法第153条第1項第1号に規定する「滞納処分を執行することができる財産がないとき」に該当しないこととなる。
 そして、徴収法第76条第1項は、給料等において差し押さえることができない金額とは、1当該給料等から源泉徴収される所得税相当額(第1号)、2当該給料等から特別徴収される地方税相当額(第2号)、3当該給料等から控除される社会保険料(第3号)、4滞納者及び滞納者と生計を一にする親族に対し、それらの者に所得がないものとして、生活保護法に規定する生活扶助の基準となる金額(国税徴収法施行令第34条は、当該金額を1か月当たり「100,000円+生計を一にする親族の数×45,000円」と規定している。)(第4号)及び5その給料等から1ないし4の合計額を控除した金額の100分の20に相当する金額(上限は4の金額の2倍)(第5号)の合計額(以下「給料等に係る差押禁止額」という。)に達するまでの部分の金額とする旨規定している。
(ハ) 徴収法第153条第1項第2号は、滞納処分の執行を停止できる場合の要件の一つとして「滞納処分を執行することによって、その生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき」と規定し、基本通達第153条関係3は、「その生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき」とは、滞納者が生活保護法の適用を受けなければ生活を維持できない程度の状態(徴収法第76条第1項第4号に規定する金額で営まれる生活の程度)になるおそれのある場合をいう旨定めており、当審判所においても、当該通達の取扱いは相当と認められる。
(ニ) 徴収法第154条第1項は、同法第153条第1項各号の規定により滞納処分の執行を停止した後3年以内に、その停止の要件を欠くに至った場合、税務署長はその停止を取り消さなければならない旨規定しており、滞納処分の停止処分後3年以内にその滞納者につき当該停止の要件を具備しなくなったことを把握した税務署長に当該停止の取消しを義務付けている。
ハ 判断
(イ) 滞納処分の停止の要件の該当性及び本件停止取消処分について
A 請求人は、別表2のとおり、平成19年1月以降、H社から毎月○○○○円の給料のほか、同年6月に役員賞与として○○○○円の支給を受けている。
 上記給料等からは、別表2記載の社会保険料の額、所得税の額及び地方税の額が差し引かれており、これらは、上記ロの(ロ)記載の給料等に係る差押禁止額を構成する金額について規定した徴収法第76条第1項各号のうち、第1号ないし第3号の金額に該当する。
 また、上記イの(ロ)のとおり、請求人と生計を一にする親族は請求人の妻1名であることから、徴収法第76条第1項第4号に規定する金額は、145,000円となる。
 さらに、徴収法第76条第1項第5号に規定する金額は、本件停止取消処分が行われた平成19年9月及びその直前である同年8月とも○○○○円となる。
 そうすると、本件停止取消処分が行われた平成19年9月当時において、請求人がH社から支払を受けた月○○○○円の給料のうち、給料等に係る差押禁止額は、別表3のとおり○○○○円となり、給料等に係る差押禁止額を上回る部分については滞納処分を執行することができる財産に該当する。
 したがって、請求人の場合には、上記ロの(ロ)のとおり、徴収法第153条第1項第1号に規定する「滞納処分を執行することができる財産がないとき」に該当しない。
B また、徴収法が規定する「滞納処分を執行することによって、その生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき」とは、上記ロの(ハ)のとおり、基本通達第153条関係3は、滞納者が生活保護法の適用を受けなければ生活を維持できない程度の状態、すなわち、徴収法第76条第1項第4号に規定する金額で営まれる生活の程度としており、上記ロの(ロ)のとおり、同項の給料等に係る差押禁止額の計算をする上で、同号に規定する金額は含まれていることから、滞納者に支払われる給料等のうち、当該給料等に係る差押禁止額を超える金額を差し押さえる場合は、同法第153条第1項第2号が規定する「滞納処分を執行することによって、その生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき」に該当しないと解される。
 したがって、本件において、給料等に係る差押禁止額を超える給料等の支給を受けている請求人は、「滞納処分を執行することによって、その生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき」に該当しない。
C さらに、請求人は、肩書地に住所を有し、所在が不明という事実も認められないから、徴収法第153条第1項第3号に規定する「その所在及び滞納処分を執行することができる財産がともに不明であるとき」にも該当しない。
D 上記AないしCのとおり、本件停止取消処分が行われた平成19年9月当時において、請求人は、停止の要件を具備していないため、徴収法第154条第1項の規定により、原処分庁は、滞納処分の停止を取り消さなければならないのであるから、本件停止取消処分は適法に行われたと認められる。
(ロ) 請求人の主張について
A 請求人は、H社からの給料等の手取額から、F県での勤務のための新幹線代金やホテル代のほか、地方税の滞納分及び代位弁済金を支払う必要があり、これらを支払うと月額約○○○○円しか手もとに残らない状況であるから、徴収法第153条第1項第2号に規定する「滞納処分を執行することによって、その生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき」に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のBのとおり、給料等に係る差押禁止額を超える部分を差し押さえる場合は、徴収法第153条第1項第2号に規定する「その生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき」に該当しないと解されるところ、上記(イ)のAのとおり、請求人に対して支払われた給料等の額が給料等に係る差押禁止額を超えることは明らかであり、また、請求人が主張するような支出を給料等に係る差押禁止額の計算上考慮するとした規定もないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
B また、請求人は、本件停止処分は、合理的な理由もなくG税務署長が行った滞納処分の停止処分に約1年も遅れているから、その手続に違法・不当がある旨主張する。
 しかしながら、請求人の滞納国税に係る滞納処分の所轄庁は、前記1の(4)のイのとおり、本件住所地移動に伴って、原処分庁とG税務署長とに分かれたところ、上記ロの(イ)のとおり、両税務署長は、それぞれ独立して、所轄する請求人の滞納国税の滞納処分に係る権限を有し、その滞納処分の執行の停止を行うか否かの判断もそれぞれの裁量にゆだねられている。そうすると、本件停止処分は、権限を有する原処分庁の裁量において行われたものであり、本件停止処分の時期がG税務署長の裁量において行われた滞納処分の停止処分の時期と異なるからといって、本件停止処分が違法・不当であるということはできず、この点に関する請求人の主張には理由がない。
C さらに、請求人は、原処分庁は、平成17年6月ころに行った請求人の説明に基づいて、G税務署長と同様に滞納処分の停止処分を継続したにもかかわらず、G税務署長所轄の滞納国税が消滅した後に及んで本件停止取消処分を行ったから、その手続に違法・不当がある旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(ニ)のとおり、原処分庁は、徴収法第154条第1項の規定により、本件停止処分後3年以内に請求人につき停止の要件を具備しなくなったことを把握した場合には、当該停止の取消しを義務付けられているのであるから、原処分庁が、上記イの(ハ)の調査により把握した事実を基に請求人が当該停止の要件を具備しなくなったと認め、同項の規定に従って本件停止取消処分を行ったことに違法・不当とすべき点は認められず、また、その判断は、原処分庁以外の税務署長所轄の請求人の滞納国税に係る納税義務が消滅しているか否かに左右されることはないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3) 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、また、原処分のその他の部分については、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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