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(平21.1.28、裁決事例集No.77 518頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、一般区域貨物自動車運送事業を主として営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、1自損事故を起こしたとする車両の売却について、原処分庁が、売却代金の一部除外による隠ぺい・仮装の行為があったとして法人税並びに消費税及び地方消費税(以下、消費税及び地方消費税を併せて「消費税等」という。)の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、事実誤認であるとして、また、2請求人の軽油仕入れに係る取引の一部について、原処分庁が、請求人の帳簿及び請求書等には真実の仕入先の名称が記載されていないから、課税仕入れに係る消費税額の控除(以下「仕入税額控除」という。)は認められないとして消費税等の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、当該仕入先は実在していたなどとして、各処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成20年2月25日)に至る経緯は、別表1のとおりである。
 なお、法人税について、平成16年9月1日から平成17年8月31日までの事業年度を「平成17年8月期」という。また、消費税等について、平成15年9月1日から平成16年8月31日まで、平成16年9月1日から平成17年8月31日まで及び平成17年9月1日から平成18年8月31日までの各課税期間を順次、「平成16年8月課税期間」、「平成17年8月課税期間」及び「平成18年8月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。

(3) 関係法令

 関係法令の要旨は、別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、昭和59年11月○日に有限会社Mとして一般区域貨物自動車運送事業などを営むことを目的に設立され、平成3年12月○日に株式会社へ組織変更した同族会社である。
ロ 請求人は、本件各課税期間において、消費税等を納付する義務がある課税事業者であり、消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》が適用となる事業者ではない。
ハ 請求人は、車台番号が「○○○○○」、型式が「○○−△△」のトラクタ(以下「本件車両」という。)を50,000円で売却したとして、本件車両の帳簿価額との差額を平成17年4月22日付で総勘定元帳の固定資産売却益勘定に計上している。
ニ P運輸支局長発行の本件車両に係る平成16年8月9日付の自動車検査証によれば、本件車両の登録番号は「P○○○○」となっている。
ホ 請求人が作成した平成17年8月期の「資産別固定資産減価償却内訳表」には、本件車両は、平成12年4月に取得され、平成17年4月に売却された旨記載されている。
ヘ 請求人がG社、H社及びJ社(以下、これらを併せて「本件各軽油仕入先」という。)から仕入れた軽油の取引状況は、別表2のとおりであり、本件各軽油仕入先からの軽油仕入高(以下「本件軽油仕入高」という。)に係る消費税額を課税仕入れに係る消費税額として控除している。
ト 請求人は、本件各課税期間の総勘定元帳に本件各軽油仕入先との軽油仕入れに係る取引を記載し、当該各取引に係る請求書又は領収証を保存している。

(5) 争点

争点1 本件車両の売却代金はいくらか。

争点2 本件車両の売却において、隠ぺい又は仮装の事実があったか否か。

争点3 本件軽油仕入高に係る消費税額について、仕入税額控除の適用が認められるか否か。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである

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3 判断

(1) 争点1 本件車両の売却代金はいくらか。

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) P運輸支局長発行の本件車両に係る平成16年8月9日付の自動車検査証によれば、所有者がK社、使用者が請求人となっており、また、Q運輸支局長発行の本件車両に係る平成17年6月2日付の自動車検査証によれば、所有者及び使用者がL社となっている。
(ロ) 本件車両に係る「譲渡証明書」と題する書面によれば、本件車両は、平成17年5月30日にK社からL社に譲渡されている。
(ハ) 本件買取日報には、要旨次のとおり記載又は表示されており、R常務の名刺が貼付されている。
A 「買取先」項目の「社名」欄に「M社」、「担当者」欄に「R」、「電話」欄に「××××(××)××××」、「住所」欄に「P県a市b町○−2」
B 「車輌」項目の「型式」欄に「○○−△△」
C 「金額」項目の「持ち出し金額」欄に「200万円」、「仕入金額」欄に「195万円」、「おつり」欄に「5万円」、「領収書」及び「名刺」欄の「有」にそれぞれ丸印
D 「書類関係」項目の「所有権解除先住所、名称及び担当者」欄に「K社、S」
E 「りんばん」項目の「発地」欄に「P県a市」、「着地」欄に「c」、「341」の番号に丸印
F 「経費」項目の「高速代」欄に「10,150円」、「燃料代」欄に「9,300円」、「電車代」欄に「8,820円」、「タクシー代」欄に「1,350円」
(ニ) L社の平成17年4月22日付の出金伝票には、「支払先」欄に「M社」、「金額」欄に「2,000,000」、「摘要」欄に「△△」とそれぞれ記載されている。
(ホ) L社の平成17年4月22日付の手元現金報告書(営業所名 q)には、「使途詳細」欄に「車両代金としてM社、4 22」、「支払金額」欄に「2,000,000」とそれぞれ記載されている。
(ヘ) L社の平成17年4月30日現在の仕入在庫一覧表(営業所名 q)には、「引取日」欄に「4 22」、「仕入支払先名」欄に「M社」、「金額」欄に「1,950,000」とそれぞれ記載されている。
(ト) 営業担当Tの個人名義の普通預金口座履歴によれば、同口座には平成17年4月22日に2,000,000円の送金(取扱店はd銀行e支店)があり、同日に同口座から1,000,000円が2回出金(取扱店はa市f町○-○に所在するd銀行f支店)されている。
(チ) 営業担当Tは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
A 上司から本件車両の買取りを指示され、平成17年4月22日、請求人の所在地に列車とタクシーを利用して行った。
B R常務と面会し、本件車両の買取りに来たことを話して名刺交換をした。
C 本件車両を見せてもらった後、請求人の乗用車を借り、請求人の所在地から5分ぐらいの所の教えてもらったd銀行に行き、L社から車両の買取資金として自分名義の口座に振り込まれてあった2,000,000円をキャッシュカードで1,000,000円ずつ2回に分けて引き出した。
D R常務との最終的な買取価格の交渉の結果、1,950,000円で買い取ることが決定し、現金をR常務に手渡し、請求人名が記載された領収書を受け取った。
E 本件車両は、持参した「341」という番号の臨時のナンバープレートを付けて高速道路を乗り継ぎ、途中、燃料を補給してL社のg支店まで搬送した。
F 買い取った日の翌日、事務担当者へ本件買取日報、請求人の領収書及び買取資金の残金50,000円等を渡した。
ロ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ) 営業担当Tは、上記イの(チ)のとおり、平成17年4月22日に本件車両の買取りのために請求人の事務所に赴き、R常務と名刺を交換し、買取資金を近くの銀行から引き出し、買取価格の交渉の結果、最終的に1,950,000円で買い取ることが決定したので、その代金を現金でR常務に支払い、本件車両は、持参した臨時のナンバープレートを付けて高速道路を利用して搬送した旨答述しているところ、この答述内容は、具体的かつ詳細である上、上記イの(ハ)ないし(ト)の各事実とも符合するものであり、不自然・不合理な点がないことから信ぴょう性があると認められる。
(ロ) 請求人は、上記1の(4)のホのとおり、本件車両を平成12年4月に取得したものと認められるところ、本件車両の所有者及び使用者の名義等についてみると、上記イの(イ)及び(ロ)のとおり、平成16年8月9日現在の所有者はK社、使用者は請求人であり、平成17年6月2日に所有者名義がK社からL社に、使用者が請求人からL社となっていることが認められる。
(ハ) 以上のことを照らし考えると、請求人は、平成17年4月22日に本件車両を1,950,000円でL社に譲渡したものと推認するのが相当である。
(ニ) 請求人は、本件車両が自損事故により走行不能となったので、名称等は失念したが現地の解体業者に50,000円で売却したものであり、自動車事故受付シート及び運行記録書が走行不能となったこと等を示すものである旨主張する。
 しかしながら、自動車事故受付シート及び運行記録書は、審査請求の段階に至って提出されたものであるところ、これらは請求人が作成したものであり、本件車両について自損事故があったことを裏付けるに足りる交通事故証明書等の客観的な証拠がなく、また、50,000円で売却したとする証拠の提示もなく、他に上記(ハ)の認定を覆し、請求人の主張する事実を認める証拠もないことから、請求人の主張は採用できない。
(ホ) 以上のことから、本件車両の売却代金1,950,000円から50,000円を控除後の金額から消費税等相当額を控除した1,809,523円を法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第2項の規定により益金の額に算入すべきこととなり、この点に係る平成17年8月期の法人税及び平成17年8月課税期間の消費税等の各更正処分は、いずれも適法である。

(2) 争点2 本件車両の売却において、隠ぺい又は仮装の事実があったか否か。

イ 法令解釈
 通則法第68条第1項の規定の趣旨は、納税者が過少申告をするについて、事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われたと判断された場合に、違反者に対して特に重い負担を課することで、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものであるから、重加算税は、隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したという、通則法第68条第1項所定の課税要件を充足することにより成立すると解される。
ロ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ) 本件車両の売却代金は、上記(1)のロの(ハ)のとおり、1,950,000円と認められるところ、請求人は、これを50,000円であるとして売却代金の一部を除外し、また、請求人は、上記1の(4)のハのとおり、固定資産売却益を圧縮して総勘定元帳に記載し、帳簿書類への虚偽記載により仮装経理を行っていた事実が認められる。
 このような請求人の行為は、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件である「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当することは明らかである。
(ロ) したがって、上記(イ)の事実に基づく税額を計算の基礎としてなされた平成17年8月期の法人税及び平成17年8月課税期間の消費税等についての重加算税の各賦課決定処分は、いずれも適法である。

(3) 争点3 本件軽油仕入高に係る消費税額について、仕入税額控除の適用が認められるか否か。

イ 法令解釈
(イ) 消費税法第30条第1項は、事業者が国内において課税仕入れを行った場合には、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中に国内において行った仕入税額を控除する旨規定しているが、同条第7項は、事業者が当該課税期間の課税仕入れに係る帳簿等を保存しない場合には、災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかったことを当該事業者において証明した場合を除き、当該保存がない仕入税額については、同条第1項の仕入税額控除の規定を適用しない旨規定している。
 また、消費税法第30条第8項第1号及び第9項第1号は、同条第7項に規定する保存すべき帳簿等の記載事項として、課税仕入れの相手方の氏名又は名称等を掲げている。
 このように、消費税法が事業者に対し、課税仕入れに係る取引の内容のみならず、その相手方の氏名又は名称を帳簿等に記載することを義務付けている趣旨は、帳簿等によって仕入税額の信頼性、正確性が担保されない限り、その控除を認めないということにあり、事業者においてその仕入れに係る帳簿等を保存させることにより、当該取引が仕入税額控除の対象となる課税仕入取引に係るものであることを立証させることにあると解される。
(ロ) 消費税法施行令第50条第1項は、仕入税額の控除を受けようとする事業者は、消費税法第30条第7項に規定する帳簿等を整理し、それぞれ定められた日から7年間、これを納税地又はその取引に係る事務所などに保存しなければならない旨規定し、課税庁の課税権限が行使される最長の期間にわたって帳簿等の保存を要求している。
(ハ) 上記(イ)及び(ロ)の消費税法の趣旨に照らして考えると、消費者からの預り金的な性格を有する消費税は、特に正確な税額の把握が求められているところ、事業者において保存されている帳簿等については、課税資産の譲渡等の内容等とともに真実の仕入先の氏名又は名称を記載することが要求されており、事業者がその要件を具備した帳簿等を保存していない場合には、当該課税仕入れに係る消費税額の控除は認められないと解される。
 そして、事業者が、取引の相手方から交付された請求書等に記載されている氏名又は名称が真実のものかどうか、社会通念上要求されるところの注意の範囲内で相当程度疑われるにもかかわらず、これを確認せず、漫然と請求書等を保存し、これに基づいて帳簿に記載したにとどまる場合は、保存されている帳簿等に、真実の仕入先の氏名又は名称が記載されているとはいえないというべきである。
 しかし、その反面、たとえ帳簿等に記載された仕入先の氏名又は名称が真実のものでないとしても、事業者がこれを真実と信ずべき相当の理由があり、そのため、当該帳簿等が消費税法第30条第7項の要件を満たす帳簿等として保存されていると認められる場合、又はやむを得ない事情により、同項の要件を満たす帳簿等を保存することができなかったことを当該事業者が証明した場合には、当該仕入税額の控除が認められるものと解される。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) G社について
A 領収証に記載されている「h市i町○−9」において商業登記がない。
B 請求書に記載されている「h市○町○−9」は、住居表示上存在しない。
C U社長が営業担当のVから受領したとする名刺には、「有限会社G」、「P県h市j町○−5」と記載されているが、同所在地は住居表示上存在しない。
(ロ) H社について
A 請求書及び領収証に記載されている「k県○郡m町○−5」において、商業登記がある。
B 請求人との取引以前から、「k県○郡m町○−5」には、H社と関係のない者が居住していた。
C 請求人との取引開始前の平成15年○月○日に、「k県○郡m町○−5」は、k県n市とk県○郡m町の合併により「k県n市m町○−5」に住居表示が変更されている。
(ハ) J社について
 領収証に記載されている「r市s町○−6」は、住居表示上存在しない。
(ニ) N社は、請求人とG社との取引当時、不正軽油の製造及び販売を行っており、その販売の際、G社の名称も使用していた。
(ホ) 貸主をW(住所はh市t町○−1)、借主をN社とする平成16年4月9日付の事業用建物賃貸借契約書によれば、h市i町○−9に所在する○○事務所1階A室を平成16年4月15日から平成18年4月14日まで賃貸借する旨の契約が締結され、この連帯保証人として、X(住所はh市u町○−25)の署名、押印がある。
(ヘ) Wは、原処分庁所属の調査担当職員に対して、G社という会社は昔も今もh市i町○−9に実在しないが、N社という軽油を扱っている様子の会社が一時期実在していた旨申述している。
(ト) Xは、異議担当職員に対して、要旨次のとおり申述している。
A N社の社長から、h市内に新しい事務所を設置したので軽油販売の営業を指示され、請求人とは事務所を設置した当初から、取引を行っていた。
B 取引の際に使用した領収証は、G社の名称を使用していた。
C 事務所には、自分と女性事務員の2名が勤務しており、営業のVという者は知らない。
(チ) U社長は、当審判所に対し、本件各軽油仕入先への連絡先は3社とも同一であると経理担当者から聞いていたが、油業界では仲間内で物を融通し合うことがあると聞いており、確実に物が納入されていたので特に疑問を持たなかった旨答述した。
(リ) 請求人の経理担当者のYは、異議担当職員に対して、本件各軽油仕入先に注文する際は3社とも同じ電話番号に連絡していた旨、また、本件各軽油仕入先の集金担当者が同一人物であった旨申述している。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ) G社の実体について
 N社は、上記ロの(ニ)のとおり、請求人とG社の取引当時、G社の名称も使用して、不正軽油を製造及び販売していたことが認められる。
 また、G社の領収証に記載されている所在地は、上記ロの(イ)のとおり、住居表示上存在するが、G社はその所在地において商業登記がされておらず、G社の請求書及び同社の社員と称する者の名刺に記載された同社の所在地は、いずれも領収証のものと異なることに加え、いずれも住居表示上存在せず、さらに、その名刺にはG社とは異なる商号の有限会社Gと記載されていることが認められる。
 そして、Wは、上記ロの(ヘ)のとおり、G社が領収証に記載されている所在地に実在したことがなく、一時期N社が同所に実在していた旨申述し、Xは、上記ロの(ト)のとおり、N社がh市内に新しい事務所を設置し、当初から請求人と軽油の取引を行い、領収証はG社の名称を使用していた旨申述しているところ、両者の申述は、上記ロの(ホ)の事実と符合するものであり、信ぴょう性があると認められる。
 以上の事実を併せ考えると、G社は、実体のない会社であり、真実の仕入先はN社であると推認される。
(ロ) H社の実体について
 H社は、上記ロの(ロ)のとおり、請求書及び領収証に記載の所在地において商業登記がされているが、同所には、請求人とH社との取引があったとする時期以前からH社とは関係のない者が居住しており、また、同所の住居表示は当該取引当時には既に変更されていることから、実体のない会社であることが認められる。
(ハ) J社の実体について
 J社は、上記ロの(ハ)のとおり、領収証に記載されている所在地が住居表示上存在せず、もとより商業登記がない実体のない会社であることが認められる。
(ニ) そうすると、本件各軽油仕入先は、上記(イ)ないし(ハ)のとおり、いずれも実体のない会社であるから、本件軽油仕入高に係る帳簿等には真実の仕入先の名称が記載されていないこととなる。
(ホ) これに対し、請求人は、本件各軽油仕入先が実在していた会社である旨主張する。
 しかしながら、本件各軽油仕入先がいずれも実体のない会社であることは、上記(イ)ないし(ハ)のとおりであり、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ヘ) また、請求人は、本件各軽油仕入先との取引当時、本件各軽油仕入先が架空の会社と疑う余地は全くなかった旨主張する。
 しかしながら、1軽油をとりまく業界においてはかつてから不正軽油の問題があることは公知の事実であるところ、上記ロの(ニ)のとおり、請求人とG社との取引当時、N社による不正軽油の製造及び販売が行われ、同社は、G社等の架空の名称を使用して不正軽油の販売をしていた事実があったこと、2上記(イ)のとおり、G社の領収証、請求書及び同社の社員と称する者の名刺に記載されている所在地がいずれも異なり、領収証等と名刺に表示されている会社の種類も異なること、3上記ロの(チ)及び(リ)のとおり、本件各軽油仕入先へ注文する際の電話番号が同一であり、仕入代金を集金していた者が同一人物であったことなどを併せかんがみると、本件各軽油仕入先の名称が真実のものかどうか、社会通念上からみて相当程度疑われる状態にあったといえ、加えて、本件各軽油仕入先に係る取引は、別表2のとおり、その回数も多く、一回当たりの取引金額が多額である上、現金決済であることからすると、請求人からみれば、積極的に確認するのが自然であるところ、請求人は、これを確認することなく漫然と請求書等を保存し、帳簿に記載していたといわざるを得ないから、請求人において、本件各軽油仕入先の名称が真実のものと信ずべき相当の理由があったとはいえず、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ト) さらに、請求人は、消費税法第30条は納税者が帳簿等の記載内容の真実性を調査し、確認する義務まで規定していない旨主張する。
 しかしながら、消費税法第30条第1項所定の仕入税額控除の適用を受けるためには、上記イの(ハ)のとおり、事業者において保存されている帳簿等に課税資産の譲渡等の内容とともに真実の仕入先の名称等が記載されていることが要求されているのであり、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(チ) そして、真実の仕入先の名称等を記載した帳簿等の保存をすることができなかったことにつき、やむを得ない事情があり、事業者がこれを証明した場合には消費税法第30条第7項ただし書の適用が検討されるべきであるとしても、請求人からこの点についての主張及び立証もない。
(リ) 以上のことから、本件各軽油仕入先の名称が記載されている請求人の帳簿等は、消費税法第30条第8項及び第9項に規定する記載要件を満たした帳簿等に該当せず、同条第7項に規定する帳簿等の保存がなかったものということになり、本件各軽油仕入先との取引については、同条第1項に規定する仕入税額控除を適用することはできない。
(ヌ) そうすると、原処分庁が本件各軽油仕入先との取引について仕入税額控除の適用を認めなかったことは相当である。

(4) その他

 本件各課税期間の過少申告加算税の各賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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