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(平21.11.27、裁決事例集No.78 365頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が民事再生法(以下「再生法」という。)上の再生計画において切り捨てられた債務について、連帯保証人である請求人の代表者らが保証債務を履行したことから、履行された金額については当然請求人に支払義務が生ずるとして当該金額を法人所得の計算上損金の額に算入したところ、原処分庁が、当該金額については再生法の適用により既に免責を受けており、支払義務は生じないから損金の額には算入できないとして更正処分等を行ったのに対し、請求人は、損金の額に算入されるべきであるとして同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成21年3月23日)に至る経緯は別表のとおりである。なお、原処分庁は、審査請求後の平成21年4月9日付で別表の「再更正処分等」欄のとおりの再更正処分及び加算税の変更決定処分をした。

(3) 関係法令

 関係法令の要旨は、別紙1のとおりである。

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(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 金銭消費貸借契約及び連帯保証契約の締結
(イ) 請求人は、昭和41年○月○日に設立された同族会社である。
(ロ) 請求人は、平成9年11月19日、C銀行との間で金銭消費貸借契約を締結して171,000,000円を借り受け、請求人の代表取締役であるDは、同日、当該債務の連帯保証人となった。
(ハ) 請求人は、平成14年4月25日、E銀行との間で金銭消費貸借契約を締結して5,000,000円を借り受け、D及びF社の従業員であるG(以下、Dと併せて「Dら」という。)は、同日、当該債務の連帯保証人となった。
ロ 民事再生手続について
(イ) 請求人は、平成15年1月○日、H裁判所に対して再生法による再生手続開始の申立てをし、同裁判所は同年5月○日に再生手続開始の決定をした(以下、この再生手続を「本件再生手続」という。)。
(ロ) 請求人は、平成15年10月17日、再生債権に対する権利の変更についてはAのとおり、また、元本100万円以上の再生債権の弁済方法についてはBのとおり、それぞれ記載した再生計画案をH裁判所へ提出した。
A 再生債権については、元本の75%、開始決定日の前日までの利息・遅延損害金の75%、及び開始決定日以降の利息・遅延損害金の全額について免除を受ける。
B 元本100万円以上の再生債権について、上記Aによる免除後の金額は、次のとおり分割して支払う。
 第1回 再生計画認可決定が確定した日から1か月以内に、免除後の金額の12.5%に相当する額。
 第2回以降 平成17年から23年までの毎年2月末日までに、それぞれ免除後の金額の12.5%に相当する額。
(ハ) H裁判所は、上記(ロ)の再生計画案を平成16年3月10日の債権者集会の決議に付した結果、法定の要件を満たす賛成により当該再生計画案が可決されたことを受けて、同月○日に再生計画認可の決定をし、当該再生計画は同年4月○日に確定した(以下、この再生計画を「本件再生計画」という。)。
(ニ) 請求人は、本件再生計画の確定により、C銀行に対する債務34,525,670円の75%相当額である25,894,252円及びE銀行に対する債務1,433,619円の75%相当額である1,075,214円について、責任を免れた。
(ホ) H裁判所は、本件再生手続について、平成16年6月○日に終結の決定をした。
ハ 免責後の処理並びにC銀行及びE銀行に対する債務の弁済及び連帯保証債務の履行
(イ) 請求人は、本件再生手続において責任を免れた、C銀行に対する債務25,894,252円については平成17年9月30日に、また、E銀行に対する債務1,075,214円については平成18年4月30日に、いずれも雑収入勘定に計上し、平成17年5月1日から平成18年4月30日までの事業年度(以下「平成18年4月期」という。)の所得金額の計算上、益金の額に算入した。
(ロ) Dは、請求人の連帯保証人として、平成18年1月23日及び同月31日に合計25,894,252円をC銀行に支払い、保証債務を履行した。
(ハ) Dらは、請求人の連帯保証人として、平成19年12月27日から平成20年3月7日にかけて合計1,381,395円をE銀行に支払い、保証債務を履行した。
(ニ) 請求人は、本件再生計画に基づきC銀行に弁済すべき8,631,418円について、再生計画どおりに弁済しており、平成19年5月1日から平成20年4月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)末までに5,394,637円を弁済し、残高は3,236,781円となっている。
 また、請求人は、本件再生計画に基づきE銀行に弁済すべき358,405円について、本件事業年度末までに全額弁済した。
(ホ) 請求人は、Dらが上記(ロ)及び(ハ)により履行した保証債務(以下、これらを「本件保証債務」という。)の合計金額27,275,647円について、平成20年4月30日に、相手科目を「短期借入金(D弁済)」として雑損失勘定に計上し、本件事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入した。

(5) 争点

 本件保証債務の金額は、請求人の所得金額の計算上、損金の額に算入されるか否か。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである。

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3 判断

(1) 法令解釈

イ 再生法等
 平成16年法律第76号による改正前の再生法(以下「改正前再生法」という。)第86条第2項は、再生手続が開始された場合における再生債権者の権利の行使について、平成16年法律第75号による廃止前の破産法(以下「旧破産法」という。)第24条から第29条までの数人が各自全部の履行を為す義務を負う場合に関する規定を準用する。
 そして、最高裁判所昭和62年6月2日判決(民集41巻4号769頁)は、旧破産法第24条によれば、数人の全部義務者の全員又は一部の者が破産宣告を受けたときは、債権者は破産宣告の時に有した債権の全額について、各破産財団に対して破産債権者としての権利を行うことができるのであるから、破産宣告の債権の全額を破産債権として届け出た債権者は、破産宣告後に全部義務者から当該債権の一部の弁済を受けても、届出債権全部の満足を得ない限り、なお右債権の全額について破産債権者としての権利を行使することができるものと解されると判示し、さらに、最高裁判所平成7年1月20日判決(民集49巻1号1頁)は、再生法の前身である和議法に関する事案について、連帯保証人の1人について和議認可決定が確定した場合において、和議開始決定の後に弁済したことにより、和議債務者に対して求償権を有するに至った連帯保証人は、債権者が債権全部の弁済を受けたときに限り、弁済による代位によって取得する債権者の和議債権(和議条件により変更されたもの)の限度で、求償権を行使し得るにすぎないと解すべきであると判示している。
 そして、前記最高裁判所平成7年1月20日判決は、その理由として、債権者は、債権全部の弁済を受けない限り、和議債務者に対し、和議開始決定当時における和議債権全額について和議条件に従った権利行使ができる地位にあることからすれば、連帯保証人は、債権者が債権全部の弁済を受けるまでの間は、一部の弁済を理由として和議債務者に求償することはできないというべきであり、また、和議制度の趣旨にかんがみても、和議債務者に対し、和議条件により変更された和議債権以上の権利行使を認めるのは、不合理だからであるとしている。
 したがって、上記各最高裁判所判決の趣旨は民事再生においても妥当するところ、再生手続開始決定の後に弁済したことにより、再生債務者に対して求償権を有するに至った連帯保証人は、債権者が債権全部の弁済を受けたときに限り、弁済による代位によって取得する債権者の再生債権(再生計画により変更されたもの)の限度で、求償権を行使し得るにすぎないと解するのが相当である。
ロ 法人税法
 法人税法第22条第3項第3号は、内国法人の各事業年度の所得金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額として、当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものと規定し、また、同条第4項は、同号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする旨規定しているところ、損失とは、収益の獲得に役立たなかった経済的価値の減少であり、費用収益対応の原則によっては捉えられないものであることから、損失は、その発生の事実によって捉えるとするのが、一般に公正妥当な会計処理の基準であると解される。

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(2) これを本件についてみると、次のとおりである。

イ 改正前再生法第86条第2項は破産法の規定を準用する旨規定しているところ、旧破産法は廃止され、新たに制定された現行破産法が平成17年1月1日から施行され、それに伴い改正後の再生法も施行されているが、請求人の場合、改正前再生法第178条の規定により平成16年4月○日に再生計画認可決定が確定し、この時に再生債権の免責の効果が発生していることから、この時に施行されていた旧破産法が適用されることになる。
ロ C銀行に対する本件保証債務に係る求償権について
 上記1の(4)の事実関係によれば、請求人が、本件再生計画に基づき責任を免れたC銀行に対する債務34,525,670円の75%相当額である25,894,252円(1の(4)のロの(ニ))については、連帯保証人であるDが保証債務を履行した(1の(4)のハの(ロ))が、請求人は、C銀行に対する債務34,525,670円の残り25%相当額である8,631,418円については、上記1の(4)のハの(ニ)のとおり、その一部を弁済するにとどまっており、C銀行は、債権全額について満足を得ていない。
 したがって、上記(1)のイで述べたとおり、債権者であるC銀行が債権全部の弁済を受けていないことから、C銀行に対する本件保証債務に係る求償権については、いまだ行使できないことになる。
ハ E銀行に対する本件保証債務に係る求償権について
 上記1の(4)の事実関係によれば、請求人が、本件再生計画に基づき責任を免れたE銀行に対する債務1,433,619円の75%相当額である1,075,214円(1の(4)のロの(ニ))については、連帯保証人であるDらが、上記1,075,214円及び延滞利息相当額306,181円の合計1,381,395円について、保証債務を履行し(1の(4)のハの(ハ))、E銀行に対する債務1,433,619円の残り25%相当額である358,405円について、請求人はその全額を弁済した(1の(4)のハの(ニ))。
 以上によれば、再生債権者であるE銀行は、自らが有する債権の全額の満足を得たこととなり、自らの出えんによって、E銀行に満足を得させたDらは求償権を行使し得ることとなるが、上記最高裁判所平成7年1月20日判決によれば、弁済による代位によって取得する債権者たるE銀行が有する再生債権(本件再生計画により変更されたもの)の限度で、求償権を行使し得ることとなり、弁済による代位の対象となる請求人に対してE銀行が有する再生債権(本件再生計画により変更されたもの)については請求人自らがE銀行に対して弁済したことにより消滅しているから、連帯保証人であるDらにおいて代位行使できる再生債権は存在せず、E銀行に対する本件保証債務の履行により、Dらが請求人に対して求償権を行使することはできない。
ニ 請求人は、本件再生計画に基づき免責されたC銀行及びE銀行からの債務については、上記1の(4)のハの(イ)のとおり、既に債務免除益として請求人の所得金額の計算上、益金の額に算入しており、この債務免除益と裏腹な関係にある本件求償債務について、請求人の損失と認識し、損金の額に算入することは当然のことである旨主張する。
 しかしながら、Dらは、上記ロ及びハのとおり、C銀行に対する本件保証債務及びE銀行に対する本件保証債務のいずれに係る求償権についても、それを行使することはできないのであり、請求人において、その求償債務自体が発生していないところ、本件求償債務の存在を前提とする請求人の上記主張は、その前提において誤っており、その主張には理由がない。
ホ 以上述べたとおり、本件事業年度において、本件保証債務の履行に基づき、損金として認識すべき本件求償債務の発生はなく、請求人の所得金額の計算上、本件保証債務の金額は損金の額には算入されない。

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(3) 上記(2)のことから、本件事業年度の更正処分は適法であり、また、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行われた本件事業年度の過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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