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(平21.11.27、裁決事例集No.78 397頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、解散による清算所得の金額の計算に当たり、残余財産である取引相場のない株式の価額を配当還元方式により評価し、また、残余財産の価額から控除する「解散の時における資本金等の額と利益積立金額等との合計額」の計算において、利益積立金額等の額がマイナスであったことからその額を零円とするなどとして法人税の清算確定申告書を提出したところ、原処分庁が、当該株式の価額は、「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」を基に算定するのが相当であり、また、残余財産の価額から控除する「解散の時における資本金等の額と利益積立金額等との合計額」の計算に当たり、利益積立金額等がマイナスの場合には、その額をマイナスのまま計算を行うこととなるなどとして、法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人がこれらの処分の違法を理由としてその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成19年3月8日に、残余財産が平成19年2月○日に確定し、同財産を平成19年3月16日に分配するとして、平成18年9月○日解散の青色の法人税の清算確定申告書(以下「本件申告書」という。)に、清算所得金額を○○○○円、納付すべき税額を○○○○円と記載して、P税務署長に提出した。
ロ P税務署長は、これに対し、原処分庁所属の職員の調査に基づき、平成20年3月28日付で、清算所得金額を○○○○円、納付すべき税額を○○○○円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の額を○○○○円とする賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成20年5月23日に審査請求をした。

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(3) 関係法令等

 関係法令等は、別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ D社及びE社(以下、D社と併せて「相手方グループ」という。)と、F社、G社及び請求人(以下、F社及びG社と併せて「請求人グループ」という。)との間で、E社及び請求人の営む○○材料及び○○機器に関する事業の統合(以下「本件分割・統合」という。)について、別紙2記載の条項を内容の一部とする「○○事業分割・統合に関する契約書」(以下「本件契約書」という。)を平成14年3月29日付で取り交わした。
ロ E社と請求人は、商法の「会社の分割」を利用し、平成14年7月○日に、それぞれの○○材料及び○○機器(○○に関する機器を除く。)に関する営業を分割(以下「本件分割」という。)して、H社を設立した。
 なお、この設立に伴い、H社が発行した40,000株の株式は、26,640株がE社へ、また、13,360株が請求人へ割当交付された。
ハ G社は、請求人の株式を、平成17年6月にJ社から○○株、同年9月にK社から○○株買い取り、請求人の発行済株式のすべてを保有することとなった。
ニ 請求人は、平成18年9月○日に、解散した。
 なお、解散時の資本金等の額は○○○○円、利益積立金額はマイナスの○○○○円であった。
ホ 請求人は、本件申告書において、清算所得金額の計算に当たり、本件株式の価額を○○○○円(1株当たり○○○○円)と、また、残余財産の価額から控除する「解散の時における資本金等の額と利益積立金額等との合計額」の資本金等の額を○○○○円、利益積立金額等の額を零円とするなどし、その結果、清算所得金額を○○○○円とした。
ヘ 請求人は、平成19年3月○日に、G社に対し、残余財産の分配として、H社の株式13,360株(以下「本件株式」という。)及び現金○○○○円を交付した。
ト P税務署長は、本件更正処分に当たり、本件株式の価額が過少であった理由を別紙3のとおり付記している。

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2 争点

争点1 本件更正処分の通知書に付記された本件株式の価額についての理由に違法となる不備があるか否か。

争点2 本件株式の価額は「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」を基に算定することとなるか否か。

争点3 清算所得の金額の計算において、利益積立金額等がマイナスの場合には、その額をマイナスのまま計算することとなるか否か。

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3 主張及び判断

(1) 争点1について

イ 主張

原処分庁 請求人
 本件更正処分は、帳簿書類の記載自体を認めないで行ったものでないところ、本件株式の価額について付記した理由には、残余財産確定の日における残余財産である本件株式の価額の算出方法について、本件更正処分の対象となった事実及び本件更正処分を行うに至った原処分庁の判断過程が明確に記載されており、理由付記制度の趣旨目的を充足していることから、適法である。  本件更正処分において、本件株式の価額について付記された理由には、次のとおり判断過程の記載に不備があることから、本件更正処分は違法である。
(イ) 判断の基礎となる法令の根拠及び通達の記載がない。
(ロ) 本件株式の価額を「純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」により算定するのが相当であるとする具体的な理由の記載がない。
(ハ) 本件株式の価額を配当還元方式により評価することに課税上弊害があると判断した理由の記載がない。

ロ 判断
(イ) 法人税法第130条第2項が、青色申告に係る法人税を更正する場合には、更正通知書に更正の理由を付記すべきものとしているのは、青色申告制度の趣旨にかんがみ、原処分庁の判断の慎重、合理性を担保して、そのし意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるとの趣旨によるものと解される。
(ロ) ところで、青色申告に係る更正処分の態様は、1帳簿の記載自体を認めないで更正処分をする場合、2事実に対する法的評価につき納税者と見解を異にして更正処分をする場合など様々であるが、個々の更正処分につき要求される理由付記の程度は、前記(イ)の法人税法第130条第2項の規定の趣旨と当該更正処分の具体的態様に照らし決せられるべきものである。そして、上記1の帳簿の記載自体を認めないで更正処分をする場合はともかく、2の法的評価の相異による更正処分の場合には、それがいかなる事実に対する法的評価であるかを明確に判断することができる程度に理由が表示されていれば足り、それ以上に当該法的評価の根拠を示すことや資料を摘示することは要しないと解するのが相当である。
(ハ) これを本件更正処分についてみると、請求人が同処分の通知書に付記された理由に不備があるとする本件株式の価額に係る更正処分が前記(ロ)の2の更正処分に当たることは明らかであり、また、その理由付記において、更正処分の対象となった事実(本件株式が残余財産に含まれていること)及びそれに対する法的評価(本件株式の価額が過少であるとされる理由)が前記1の(4)のトのとおり記載されていることが認められるから、本件更正処分の通知書に付記された本件株式の価額についての理由に違法となる不備があるとの請求人の主張には理由がない。

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(2) 争点2について

イ 主張
原処分庁 請求人
 本件株式の価額は、次の理由から、「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」を基に算定するのが相当である。  本件株式の価額を「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」を基に算定することが相当であるとする原処分庁の主張には、次の(イ)及び(ロ)のとおり理由がなく、また、本件株式の価額の算定に当たり、配当還元方式を適用することに、仮装隠ぺい等の課税上の弊害はなく、次の(ハ)のとおり、原処分庁が主張する配当還元方式の適用ができないとする理由も存在しないことからすれば、配当還元方式の適用が認められるべきである
(イ) 本件契約書によれば、請求人グループ又は相手方グループがその保有するH社の株式の譲渡を希望する場合には、他に先んじて相手方に譲渡の申入れを行い、当該相手方は優先的に譲り受けることができ、この場合の当該株式の譲渡対価は、譲渡時における時価純資産に基づき両グループ間で協議の上決定することが定められている。 (イ) 本件契約書第10条の定めは、株式の譲渡制限を規定した1項目であり、本件株式の譲渡を前提としたものではなく、また、実際に時価純資産に基づき売買することを保証・確約したものでもないことからすると、このような将来の可能性にすぎない契約事項を、現時点での本件株式の価額の算定の根拠とするべきではない。
(ロ) 請求人からH社に移転した資産及び負債については、本件分割の直前の帳簿価額により譲渡されたとして、土地等の含み益に対する譲渡損益の課税が繰り延べられており、本件株式の価額には、当該土地等の含み益が反映されるべきである。 (ロ) 本件分割により繰り延べられた土地の含み益を本件株式の価額に反映させなければならないとする法人税法の規定はない。
(ハ) 本件株式は、請求人とE社がそれぞれの○○事業を分割し統合するために共同でH社を設立した際に、請求人に割り当てられた株式であり、また、請求人グループは、H社に取締役を派遣し経営に関与していることからすると、請求人が本件株式を保有したことは、単なる配当金目的ではないと認められる。
 そうすると、本件株式の価額の算定に当たり、配当還元方式を基に行うことは、同方式が事業経営への影響力が少なく単に配当を期待するにとどまる株主が保有する株式について適用されるものであることからすると、課税上の弊害があると認められる。
(ハ) 法人税基本通達9−1−14《上場有価証券等以外の株式の価額の特例》では配当還元方式の適用が認められ、この通達が関係会社間等において気配相場のない株式の売買を行う場合の適正取引価額の判定に当たっても準用されると解説されており、本件株式は同通達における要件を充足している。
 なお、請求人が本件株式の価額の算定に当たり斟酌した法人税基本通達9−1−13《上場有価証券等以外の株式の価額》、同通達9−1−14及び財産評価基本通達には経営に関する定めはなく、また、配当還元方式の適用が事業経営への影響力が少なく単に配当を期待するにとどまる株主が保有する配当金目的での株式の保有に限られるとの、特段の定めは存在しない。
 仮に配当還元方式の適用が事業経営への影響力が少なく単に配当を期待するにとどまる株主が保有する配当金目的での株式の保有に限られるとしても、1請求人グループとしてではなく、請求人単体として経営の関与を判断すべきであり、2請求人からの役員の派遣はなく、3株主総会での普通決議については、過半数の賛成を要することから、33.4%の株式の保有では、経営の根幹に係る重要な決定事項について決議することができず、実態としても事業経営への影響力は少なく、また、4H社の設立から現在まで資金面での取引がなく、請求人のH社の株式保有を通じた直接の経済的利益としては配当のみである。

ロ 判断
(イ) 法人税法第92条は、普通法人が解散した場合の清算所得に対する法人税の課税標準は、解散による清算所得の金額である旨、また、同法第93条第1項は、この解散による清算所得の金額は、その残余財産の価額から、その解散の時における資本金等の額と利益積立金額等との合計額を控除した金額である旨規定している。
 そして、残余財産の分配は、金銭、あるいは、解散する法人が有する現物の資産によっても行うことができるが、現物の資産を分配する場合のその資産の価額は、その資産の残余財産確定の時の価額(いわゆる時価)となる。
(ロ) また、有価証券の時価については、法人税基本通達2−3−4《低廉譲渡等の場合の譲渡に係る対価の額》が、その算定に当たっては、同通達4−1−4《上場有価証券等の価額》、4−1−5及び4−1−6の取扱いを準用する旨を定めている。
 そして、法人税基本通達4−1−5を準用し、上場有価証券等以外の株式の価額を算定する場合において、当該株式が、「売買実例のあるもの」、「公開途上にある株式で、当該株式の上場に際して株式の公募又は売出しが行われるもの」及び「売買実例のないものでその株式を発行する法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額があるもの」のいずれにも該当しないときには、株式を評価すべき日又は同日に最も近い日におけるその株式の発行法人の事業年度終了の時における1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額が株式の価額となることとなる。
 もっとも、このような一般的、抽象的な評価方法の定めのみに基づいて株式の価額を算定することは困難であり、他方、財産評価基本通達の定める非上場株式の評価方法は、相続又は贈与における財産評価方法として一般的に合理性を有し、課税実務上も定着しているものであるから、これと著しく異なる評価方法を法人税の課税において導入すると、混乱を招くこととなる。
 このような観点から、法人税基本通達4−1−6が準用される場合には、法人が、上場有価証券等以外の株式(「売買実例のあるもの」及び「公開途上にある株式で、当該株式の上場に際して株式の公募又は売出しが行われるもの」を除く。)の価額につき、財産評価基本通達の178から189−7まで《取引相場のない株式の評価》の例によって算定した価額によっているときは、課税上弊害がない限り、所定の条件を付してこれを認めることとしており、当審判所としてもこの取扱いは相当と認める。
 なお、請求人及び原処分庁は、上場有価証券等以外の株式の価額の算定に係る取扱いとして、それぞれ法人税基本通達9−1−13あるいは9−1−14が適用される旨主張しているところ、残余財産としての株式の価額の算定においては、前述のとおり、法人税基本通達4−1−5及び4−1−6の取扱いを準用すべきであろうが、同通達は、双方が主張する法人税基本通達9−1−13及び9−1−14の取扱いと同趣旨の内容である。
(ハ) これを本件についてみると次のとおりである。
A 上場有価証券等以外の株式の価額の算定については、前記(ロ)のとおり、法人税基本通達4−1−5又は4−1−6に準じて算定することが相当であると認められるところ、H社の株式の持株比率は、E社が66.6%であり、請求人が33.4%であることから、請求人は、いわゆる少数株主に該当し、法人税基本通達4−1−6が適用できる場合には、配当還元方式により算定することが認められることとなる。
 ただし、この配当還元方式は、事業経営への影響の少ない同族株主の一部及び従業員株主などのような少数株主は単に配当を期待するにとどまるという実質のほか、評価手続きの簡便性をも考慮して特例的に採用した方式であることから、このような株主に該当しない場合には、価額の算定方法としても不合理な結果を生じさせ、課税上の弊害をもたらすことになると考えられる。この点、当審判所の調査によれば、1H社は、請求人及びE社が○○材料及び○○機器に関する営業を共同して行うことを目的として、新設分割により設立された法人であること、2H社の取締役に請求人グループから○名が就任し、このうち1名は代表権を有していることからすると、請求人グループがH社の経営方針に与える影響は大きいと認められる。そうすると、H社の発行済株式の33.4%を保有する請求人が、単に配当を期待して本件株式を保有していたと解することは相当ではなく、請求人ひいては請求人グループは、H社の事業経営につき上記保有割合に基づく影響力を有していたと推認するのが相当である。
 しかも、1本件契約書第10条によれば、請求人グループがH社の株式の譲渡を希望する場合には、相手方グループは優先的に譲り受けることができ、その譲渡対価は、譲渡時における時価純資産に基づき双方協議の上決定するとされていること、2G社は、前記1の(4)のハのとおり、平成17年6月及び同年9月に請求人の株式を取得しているところ、その取得価額の算定において、請求人が保有する本件株式を時価純資産方式により評価していることからすると、請求人が本件株式を譲渡する場合には、少なくとも時価純資産に基づき算定される譲渡価額で売買されるものと認められる。
 これらのことからすると、本件株式の価額を配当還元方式により算定すると著しく不合理な結果を生じさせて、課税上の弊害をもたらすということができ、そして、H社の株式は非上場株式であることから、本件株式の価額は、法人税基本通達4−1−5により算定することになる。
 そうすると、H社の株式は、法人税基本通達4−1−5に定める「売買実例のあるもの」、「公開途上にある株式で、当該株式の上場に際して株式の公募又は売出しが行われるもの」及び「売買実例のないものでその株式を発行する法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額があるもの」のいずれにも該当しないことから、本件株式の価額は、「1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額」を基に算定することが相当であるところ、原処分庁は、その価額を、H社の平成18年3月31日現在の貸借対照表に掲げられた資産及び負債を基に算出した1株当たりの純資産価額等を参酌して算定しており、本件株式の価額の算定方法としては、合理的であると認められる。
B 請求人は、法人税基本通達9−1−14(4−1−6)に定める要件を充足していることから、配当還元方式の適用が認められる旨主張する。
 しかしながら、本件において配当還元方式が適用できないことは前記Aのとおりであり、したがって、請求人の主張には理由がない。

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(3) 争点3について

イ 主張
原処分庁 請求人
 解散による清算所得の金額の計算における利益積立金額等は、解散の時における利益積立金額、清算中に受けた受取配当等の額及び清算中に還付等を受けた法人税等の金額の合計額であり、マイナスの場合もあり得る。
 そして、利益積立金額等がマイナスの場合にはその金額を零円として清算所得の金額を算定するとの規定は、法人税法上存在しない。
 利益積立金額等がマイナスの場合にその金額を零円として清算所得の金額を算定しないことは、過年度の損失であるマイナスの利益積立金に対し清算時に課税することといえ、これは、清算前の通常の事業年度でも課税しない損失に対して課税することを意味するものであり、また、資本金に対して課税することと同義であり、所得に対して課税するという法人税の根幹に反するものとなる。
 また、資本積立金額及び利益積立金額については、平成13年法律第6号による改正が行われており、この改正は、株主等が拠出した部分の金額と法人が稼得した部分の金額を峻別し、両者を混同しないという基本的な考え方に基づいて行われていることからすれば、法人が稼得した部分の金額がないマイナスの利益積立金額は、株主等が拠出した部分の金額と峻別し、零円とすべきである。
 なお、清算所得の計算における利益積立金額の取扱いについて、請求人は平成18年6月7日にQ国税局(税務相談室)に対し電話にて確認を行っており、その際の回答は、「解散時の利益積立金額がマイナスの場合は零円として取り扱っている。」とのことであった。

ロ 判断
(イ) 普通法人が解散した場合の清算所得に対する法人税の課税標準は、解散による清算所得の金額であるところ、法人税法第93条は、この解散による清算所得の金額は、その残余財産の価額から、その解散の時における資本金等の額と利益積立金額等との合計額を控除した金額である旨、また、この利益積立金額等とは、解散の時における利益積立金額、清算中に受けた配当等の益金不算入となる額及び清算中に受けた益金不算入となる特定の還付金等の額の合計額である旨規定している。
 そして、上記清算所得の計算要素である資本金等の額及び利益積立金額についてマイナスが生じることが、法人税法第2条《定義》第16号及び第18号において明らかにされていることからすると、解散の時における資本金等の額と利益積立金額との合計額は、解散の時における税務上の資産と負債の差額と同額になり、この金額は、解散の時における税務上の純資産の額とみることができ、清算所得の具体的な金額を残余財産の価額と解散の時における税務上の純資産の額の差額により認識することからすると、法人の清算所得は、あくまで法人の清算中に生じた所得の金額、すなわち清算中に生じた純資産の増加分、換言すれば解散時において会社が保有する資産の含み益が実現化したものと解することができる。
 このことは、法人税が、いわゆる実現主義に立脚し、資産の含み益については当該実現したときに初めて課税することとしているところ、解散の時において会社が保有する資産の含み益は、清算により初めて実現するものであり、清算所得に対する課税の趣旨は、かかるいまだ課税されていない資産の含み益について、会社財産の清算の過程で実現した際に法人税を課するもので上記実現主義に適合するものということができる。
 そして、清算所得の計算において、利益積立金額がマイナスの場合に、その額をないものとして計算すると、正確な清算所得の算出ができないことは明らかであることからすると、利益積立金額がマイナスとなった場合には、その額はマイナスのまま計算することとなり、結果として、利益積立金額等がマイナスとなった場合にも、マイナスのまま計算することとなる。
(ロ) 請求人は、解散時の利益積立金額がマイナスの場合にその金額を零円として清算所得の金額を算定しないことは、清算前の通常の事業年度でも課税しない損失に対して課税することを意味するものであり、また、資本金に対して課税することと同義であり、所得に対して課税するという法人税の根幹に反するものとなる旨主張する。
 しかしながら、清算の過程で実現したいまだ課税されていない資産の含み益のうち、いわゆる累積欠損金に相当する金額について課税するかしないかは制度上の問題であり、現行法人税法上、清算所得の計算において解散の時におけるマイナスの利益積立金額を零円とする特段の規定は存在しないところ、この計算の下で算出された清算所得の金額は、既に述べたように、いわば法人が解散するまでに稼得した部分の金額でいまだ課税されていない資産の含み益にすぎないのであるから、この含み益には株主からの投下資本に相当する部分は含まれていないと解するべきであり、したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ) ところで、信義則の法理の適用により、課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、同法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて同法理の適用の是非を考えるべきものであり、そしてその特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、後に同表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の同表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮が不可欠というべきである。
 しかるところ、納税申告は、本来納税者がその判断と責任において行うべきものであり、税務相談は、国民に対し、その有する知識と経験に基づいて、行政上のサービスとして行われるものにすぎないから、これをもって直ちに税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したとは評価できない。
 そうすると、本件更正処分について、信義則の法理の適用によって、課税処分を取り消すべき場合には当たらないと解するのが相当である。

(4) 過少申告加算税の賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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