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(平21.9.17、裁決事例集No.78 473頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、税理士業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、ビジネス専門学校が運営する税理士講座の財務諸表論の講義を行ったことは、消費税法第2条《定義》第1項第8号に規定する「事業として」行ったことには当たらないため、当該講義の対価の額を除くと請求人の基準期間における課税売上高は1,000万円以下になるから、課税期間の納税義務は免除されるとして、その課税期間について更正の請求をしたところ、原処分庁が更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったことから、請求人がその取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成19年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税等について、確定申告書に課税標準額を○○○○円、納付すべき税額を○○○○円及び納付すべき譲渡割額を○○○○円と記載して法定申告期限までに申告した。
ロ その後、請求人は、平成20年5月22日に本件課税期間の消費税等について、課税標準額、納付すべき税額及び納付すべき譲渡割額をすべて零円とする更正の請求をした。
ハ これに対し、原処分庁は、平成20年7月18日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件通知処分を不服として、平成20年7月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月24日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成20年10月2日に審査請求をした。

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(3) 関係法令等

 関係法令等の要旨は、別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、平成14年○月○日付で税理士登録を受け、同年○月から税理士業を開業し、現在に至っている。
ロ Aビジネス専門学校(以下「本件専門学校」という。)は、P県知事認可校として昭和○年○月に設立された専修学校であり、同校は現在、Bが経営している。
 また、本件専門学校は、平成○年にC社の提携校として「D校」を開設し、以降同社の開発した資格講座の開講、運営等を行っている。
ハ 請求人は、平成15年にD校において同校の資格講座である税理士講座における財務諸表論の講師を始めた。
ニ 請求人は、別表の「講義期間」欄の期間における講義等(以下「本件講義」という。)の対価である平成17年1月分から同年12月分までの期間に係る講義料と交通費(以下、これらを併せて「本件講師料」という。)との合計額○○○○円を含めた○○○○円を本件課税期間の基準期間(平成17年1月1日から同年12月31日までの期間をいい、以下「本件基準期間」という。)における課税売上高として、平成18年9月11日に消費税課税事業者届出書を提出した。

(5) 争点

 請求人が本件講義を行ったことは、消費税法第2条第1項第8号に規定する「事業として」行ったことに該当するか否か。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである。

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3 判断

(1) 認定事実

 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ D校代表B名義で請求人と締結された平成17年9月1日付の「契約書」と題する書面(以下「本件契約書」という。)には、要旨次のとおり記載されている。
(イ) 契約書(柱書)
 請求人とD校は、D校が運営する講座について以下の講師契約を締結した。
(ロ) 契約期間 平成17年9月1日から平成18年8月31日まで
(ハ) 講座 税理士講座 財務諸表論
(ニ) 業務内容 1講義、2添削指導、3講義内容に関する質問応答及び4その他担当科目に関する受講生及び受講希望者からの受講相談応答(ただし、4は講座勤務時間内のみ)
(ホ) 講師料 基本報酬は、講義料として1講義当たり○○○○円、交通費として1日当たり1,000円
(ヘ) 留意事項 1報酬の支払は、報酬総額から源泉徴収税額(10%)を差し引いた金額、2本契約期間中はもとより、本契約終了後も、業務上知り得た機密事項は一切外部に漏らしてはならない。
(ト) 備考 本契約書に定めない事項については、請求人とD校が協議の上、誠意をもってこれに対処する。
ロ D校が請求人に発行した「講師料明細」と題する書面(平成17年1月分から同年12月分まで)によれば、別表の「講義回数」欄の合計のとおり、請求人が本件講義を行った回数は99回であった。
ハ 請求人は、平成15年9月からD校との間で締結していた講師契約(以下「本件講師契約」という。)について、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ) 私が、D校において、財務諸表論の講師として勤めていたのは、平成15年9月から平成18年1月までの期間及び平成19年1月から同年8月までの期間である。
(ロ) 本件講師契約は、1年ごとに更改していた。なお、本件講師契約について、本件契約書以外の契約書は保存していないが、講義料の単価を除き、本件契約書に記載されている内容と同一のものであった。
(ハ) 契約期間における講義回数や講義日程は、本件講師契約を締結する際に、講座のパンフレットで確認できた。
(ニ) 講義の内容に対する質問やその他担当科目に関する受講生及び受講希望者からの受講相談については、基本的に私の判断で対応していた。
ニ 本件専門学校の事務局長で、また、D校の事務責任者であるEは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ) 請求人とは、平成15年ころに本件講師契約を締結した。本件講師契約の期間は1年で、1年ごとに契約を更改していた。平成15年ころの契約書は保存していないが、講義料の単価を除き、本件契約書に記載されている内容と同一のものであったと思う。
(ロ) 講義料の単価については、D校の講師との契約更改前に、D校が提示しているが、2年間講師を続けた場合には、職能が備わったとしてとらえ、3年目以降から講義料の単価の引上げ交渉に応じる場合がある。
 税理士講座では、税理士資格を有する講師は、資格を有しない講師より講義料の単価を○○○○円から○○○○円程度高く設定している。また、資格試験の合格率が高かった場合には、講義料の単価を上げる要素になる。
(ハ) 講義を実施する曜日については、税理士講座の開講前にC社の本校が編成した4パターンのカリキュラムに基づき、D校があらかじめ同講座を担当する講師に希望を聞いた上で、時間割の案を作成して講師に示し、講師間で協議・調整の上決定していた。
(ニ) 講義を行うに際して、講師専用の教本やマニュアルはなく、受講生と同様のテキストを使用しているが、請求人には、C社の本校講師の講義を収録したビデオを見てもらい、ビデオと同様の講義をしてもらうように指示していた。
(ホ) 添削指導については、期日の指定は行うが、それ以外については特に指示していなかった。
(ヘ) 受講生からの質問にどのように答えるかは請求人の裁量にゆだねていた。
(ト) D校の講師に関しては、就業規則及び服務規律の定めがない。
(チ) 本件講師料からは、社会保険料を徴収していない。
(リ) 本件講師契約においては、講義回数が決まっており、もし、請求人の都合等で講義ができないときは、別の日に振り替えて講義が行われていたので、講義は間違いなく予定された回数で行われていた。
ホ 請求人は、異議審理庁の担当者に対し、講義料の単価については、当初の契約書に記載された金額で受けざるを得なかったが、その後の契約更改に際し、単価を上げてほしい旨D校に申し出た結果、○○○○円上げてもらった旨申述した。

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(2) 法令等の解釈

 消費税法第2条第1項第9号は、「課税資産の譲渡等」とは、「資産の譲渡等のうち、同法第6条《非課税》第1項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう」とし、同法第2条第1項第8号は、「資産の譲渡等」とは、「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう」と定義している。
 そして、消費税法第2条第1項第8号に規定する「事業として」につき、消費税法基本通達5−1−1は、「対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復、継続、独立して行われることをいう」と定めているところ、消費に広く負担を求める消費税法の趣旨・目的に照らして、当審判所においても、この解釈は妥当と認められる。

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(3) これを本件についてみると、以下のとおりである。

イ 本件講師契約について
 平成17年ころの本件講師契約は、同年9月に締結された上記(1)のイの本件契約書の内容のとおり、D校が運営する税理士講座において、財務諸表論の講義をすることに加えて、受講者の答案に対する添削指導、講義内容に関する質問応答、その他担当科目に関する受講者及び受講希望者からの受講相談に対する応答をすることなどを内容としており、具体的には次のとおりである。
(イ) 上記(1)のニの(ハ)から同(ヘ)までのEの答述によれば、1請求人は、C社の本校講師の講義を収録したビデオを見て、ビデオと同様の講義をすることとなるが、講義を行うための講師専用の教本やマニュアルはなく、受講生からの質問にどのように答えるかは請求人の裁量にゆだねられ、添削指導についても、期日の指定は行うが、それ以外についてはD校から特に指示をされておらず、2講義を実施する曜日は、あらかじめ税理士講座を担当する講師に希望を聞き、D校が時間割の案を作成して講師に示し、講師間の協議・調整を経た上で決定している。また、上記(1)のハの(ニ)の請求人の答述によれば、講義内容に対する質問やその他担当科目に関する受講生及び受講希望者からの受講相談については、基本的に請求人の判断で対応していた。
(ロ) また、上記(1)のニの(リ)のEの答述によれば、本件講師契約では、講義回数が決まっており、請求人の都合等で講義ができない時は、請求人は、別の日に振り替えて講義を行う必要があった。
(ハ) さらに、上記(1)のニの(ロ)のEの答述によれば、講義料の単価については、講師契約更改前にD校が提示しているところ、単価の引上げ交渉に応じる場合があり、現に、上記(1)のホの請求人の申述によれば、請求人がD校に対し、契約更改に際して講義料の単価を引き上げてほしい旨申し出た結果、講義料の単価は○○○○円上がっている。
(ニ) そして、上記(1)のニの(ト)及び同(チ)のEの答述によれば、D校の講師に関しては、就業規則及び服務規律の定めがないこと、本件講師料からは、社会保険料を徴収していないこと、及び同イの(ヘ)によれば、本件契約書には、源泉徴収すべき所得税額は報酬総額の10%とする旨の記載があり、これは、源泉徴収税額の算定に当たり、所得税法第204条《源泉徴収義務》第1項及び同法第205条《徴収税額》に規定する報酬、料金等に適用される税率を記載したものと推認され、同法第185条《賞与以外の給与等に係る徴収税額》による算定方法とは異なっていることが認められる。
ロ 反復・継続性について
 上記イの認定及び上記(1)のハの(イ)から同(ハ)までの請求人の答述によれば、請求人は、本件講師契約時に当該契約期間に係る講義の回数や講義日程を確認することができ、講義は、平成15年9月から平成18年1月までの期間及び平成19年1月から同年8月までの期間継続され、そのうち本件講義の回数は、上記(1)のロのとおり99回にも及んでいることからすると、請求人は、本件講義を反復、継続して行う意思を有し、かつ、実際に反復、継続していたと認めるのが相当である。
ハ 独立性について
 上記イで明らかにしたとおり、1本件講師契約は、税理士講座の財務諸表論という所定の講義等を行うことを目的とし、それに対して報酬を支払うものであること、2当該契約に係る役務の提供に当たっては、上記イの(イ)のとおり、講師である請求人の裁量が相当程度働くものであること、3本件講師契約については、同(ロ)のとおり、請求人が確実に履行する必要があること、また、4同(ハ)のとおり、契約更改時にD校と交渉ができること、さらに、5同(ニ)のとおり、請求人に関しては就業規則等の定めがないことからすれば、本件講師契約は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対して報酬を与えることを約する雇用契約(民法第623条)あるいはそれに類似する契約と見るよりも、むしろ、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する請負契約(民法第632条)あるいはそれに類似する契約と見るべきである。
 なお、本件講師契約が、雇用契約あるいはそれに類似する契約でないことは、上記イの(ニ)に記載したとおり、本件講師料からは社会保険料が控除されず、源泉徴収税額も報酬、料金等に適用されるもので、給与所得に適用されるものではないことからも見て取ることができる。
 以上のとおり、本件講義については、請求人の裁量が広く認められており、本件講師契約の実質が雇用契約あるいはそれに類似するものではなく、請負契約あるいはそれに類似するものであることからすれば、請求人の役務の提供については消費税法における「事業」というに足りる独立性が認められるというべきである。
ニ したがって、請求人が本件講義を行ったことは、消費税法基本通達5−1−1に定める対価を得て行われる役務の提供が反復、継続、独立して行われたことに該当するのであるから、消費税法第2条第1項第8号に規定する「事業として」行ったことに該当する。
ホ 請求人の主張について
(イ) 請求人は、本件講義を行う際、D校の指揮監督を受けていたのであるから、本件講義を行ったことは、消費税法基本通達5−1−1に定める「独立して行われたこと」には当たらず、事業ではない旨主張する。
 しかしながら、本件講師契約は、請求人が対価を得てD校の税理士講座において財務諸表論の講義をするという役務の提供を約する双務契約であるところ、双務契約では契約の当事者間において役務の提供に係るお互いの義務が取り決められるのが一般的であるから、役務の提供の時期、場所、方法及び頻度等の契約条件が役務を提供する側だけの完全に自由な裁量にゆだねられる契約はあり得ず、報酬を支払う側からの種々の条件等が伴うことは当然である。
 そうすると、請求人が、本件講義をD校の指揮監督の下行っていた旨の主張の根拠としている事実は、双務契約における条件であって、本件講義を遂行するに当たっての取決めでしかなく、本件講義を行ったことについて請求人に独立性が認められることは上記ハのとおりであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ) また、請求人は、本件契約書には、本件講師料が「消費税込」であることが示されていないから、請求人が本件講義を行ったことは消費税法に定める「事業として」行ったことに該当しない旨主張する。
 しかしながら、請求人が本件講義を行ったことが消費税法に定める「事業として」行ったことに該当するか否かについては、契約締結時において、請求人とD校との間で消費税相当額の負担についての合意の有無、また、合意に基づく金額が契約書等の文書に示されているか否かにかかわらず、上記(2)のとおり、対価を得て行われる役務の提供が反復、継続、独立して行われたものか否かで判断されるべきであり、上記ニのとおり、本件講義を行ったことは、対価を得て、反復、継続、独立して行われた役務の提供であるから、「事業として」行ったことに該当するので、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヘ 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、上記ニのとおり、本件講義を行ったことは、消費税法第2条第1項第8号に規定する資産の譲渡等に該当する。
 したがって、本件講義の対価である本件講師料は、請求人の本件基準期間における課税売上高に含まれることから、本件課税期間において、請求人は、免税事業者には該当しないため、原処分庁が行った本件通知処分は適法である。

(4) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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