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(平21.10.14、裁決事例集No.78 488頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、労働者派遣事業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、外注費として派遣労働者に対して支払った金員について、原処分庁が、当該金員は、所得税法第28条《給与所得》第1項に規定する給与等に該当するから、消費税法第2条《定義》第1項第12号に規定する課税仕入れに係る支払対価には当たらないとして行った消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の更正処分等に対し、請求人が、同処分等の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等

 請求人は、平成18年6月1日から平成19年5月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税等に係る更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)について、平成20年10月30日に審査請求をした。  この審査請求に至る経緯等は、別表のとおりである。

(3) 関係法令

 関係法令の要旨は、別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、平成17年○月○日に厚生労働大臣に対して労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)第16条第1項に規定する特定労働者派遣事業の届出をした。
 その後、請求人は、同大臣から平成19年○月○日付で、同法第5条第1項の許可を受けた。
ロ 請求人は、本件課税期間において、労働者派遣基本契約に基づき、A社等に労働者を派遣し(以下、A社等を「本件派遣先」といい、請求人が本件派遣先へ派遣した労働者を「本件派遣労働者」という。)、本件派遣先から本件派遣労働者の派遣に係る対価を得た。
ハ 請求人は、本件課税期間において、本件派遣労働者に対して支払った金員(以下「本件金員」という。)を外注費として経理し、当該金員を課税仕入れに係る支払対価の額に含めて消費税等の確定申告をした。
ニ 原処分庁は、これに対し、本件金員は所得税法第28条第1項に規定する給与等に当たるので、本件金員を対価とする役務の提供を受けることは消費税法第2条第1項第12号に規定する課税仕入れに該当しないとして、本件更正処分及び本件賦課決定処分を行った。

(5) 争点

 本件金員は、所得税法第28条第1項に規定する給与等に該当するか否か。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである。

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3 判断

(1) 消費税法第2条第1項第12号は、「課税仕入れ」とは、事業者が事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(所得税法第28条第1項に規定する給与等を対価とする役務の提供を除く。)を受けることをいう旨規定している。そして、上記かっこ書により課税仕入れから除かれる給与等とは、給料、賃金、賞与等その名目いかんにかかわらず、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から支給されるものであると解される。

(2) 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

イ 本件就業規則には、要旨次のとおり記載されている。
(イ) 本件就業規則は、請求人の派遣社員の就業に関する事項を定めたものであり、当該規則に定めていない事項は、労働基準法及びその他の関係法令の定めによる(第1条)。
(ロ) 請求人は、派遣社員の雇用に際しては、派遣社員であることを明示するほか、「労働条件通知書」及び「雇用通知書兼就業条件明示書」を交付することにより、当該派遣社員に係る就業条件を明示するとともに、当該通知書等の発行をもってその者を派遣社員として採用する。
 また、請求人は、派遣社員の雇用に関し、派遣先での就業における適正な就業条件の確保を図るため、派遣元責任者を選任する等必要な措置を講ずる(第3条及び第5条)。
(ハ) 派遣社員は、派遣就業に際し、請求人の指揮命令に従うほか、本件派遣先の指揮命令に従わなければならない(第6条)。
(ニ) 勤務時間については、労働時間は1週間40時間以内、休憩時間は80分間とし(第9条)、休日については、原則として1週間を通じて1日以上とする(第10条)。勤務日及び勤務時間の変更については、労働基準法の範囲内で本人の同意を得て行い(第11条)、時間外勤務及び休日勤務については、請求人は業務上必要がある場合に、法令の定める範囲内において本件就業規則に定める勤務時間を超えて、又は休日に勤務を命ずることがあり、この場合に派遣社員は正当な理由なくこれを拒むことはできない(第12条)。
(ホ) 派遣社員が解雇事由に該当する場合は、30日前に予告等して解雇する(第23条)。
(ヘ) 賃金は、基本給、超過勤務手当及び交通費により構成され、毎月末日に締め切って計算し、翌月末に支払う(第26条及び第27条)。
ロ 請求人が、本件派遣労働者に交付した「派遣社員労働条件通知書」と題する書面には、柱書として、「あなたを派遣社員(派遣労働者)として雇い入れます。雇用期間及び雇入れ当初の労働条件等は、次のとおりです。」との記載があり、雇用期間及び労働条件等については、1雇用期間、2就業場所、3業務内容、4始業及び終業時刻、5休日又は勤務日、6時間外・休日労働、7年次有給休暇、8賃金に関する定め(基本賃金(時間給、日給、月給)、通勤手当、時間外・休日・深夜労働に対する割増率)、9社会保険の適用関係、10退職に関する事項の記載があるほか、上記以外の勤務条件等については、本件就業規則による旨記載されている。
ハ 請求人が、本件派遣労働者に交付した「派遣社員就業条件明示書」と題する書面には、柱書として、「下記の内容により、派遣します。本件就業規則を遵守の上勤務してください。」との記載があり、派遣先における勤務条件については、1従事業務の内容、2派遣就業場所、3就業に関する指揮命令者(派遣先)、4派遣就業の期間、5派遣就業日、6始業及び終業時刻、7休憩時間、8時間外勤務の有無、9休日勤務の有無、10派遣元及び派遣先の各責任者名、11福利厚生等の便宜供与、12苦情の処理・申出先、13労働者派遣契約の解除の場合の措置に関する記載があるほか、上記以外の勤務条件については、本件就業規則による旨記載されている。
ニ 請求人が当審判所に提出した「給与明細書」と題する書面には、本件派遣労働者の氏名、「勤怠」欄に出勤日数・出勤時間数及び残業時間等、「支給額」欄に基本給、残業給等の支給額及び「控除額」欄に社会保険料等の控除額が記載されている。
 また、請求人が当審判所に提出した「外注仕切書」と題する書面には、本件派遣労働者の氏名、「工数」欄に稼働日数、「生産量」欄に定時や深夜の従事時間等、「支払」欄に定時や深夜の従事時間等に係る支払額、「控除」欄に駐車場代等の控除額及び「合計」欄に差引支払額等が記載されている。
ホ 請求人の取締役Bは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
(イ) 本件派遣労働者の募集は、主に、新聞に折り込みチラシを入れる方法により行っていた。
 なお、請求人は、チラシ等を見て応募した者と面接した後、本件派遣先へ応募者を連れて行き、本件派遣先において採用することが決まった場合に、請求人が当該応募者を本件派遣労働者として雇用していた。
 また、雇用する際に、請求人は、本件派遣労働者に対して「派遣社員労働条件通知書」及び「派遣社員就業条件明示書」を交付していた。
(ロ) 本件派遣労働者の賃金単価(時間給)は、請求人が決定していた。
 なお、基本給、超過勤務手当及び交通費等の金額は、本件派遣労働者に対し、「派遣社員労働条件通知書」により明示していた。
(ハ) 本件派遣労働者の勤務状況については、請求人の担当者が毎日本件派遣先を巡回して確認していた。
(ニ) 本件派遣労働者の賃金については、毎月本件派遣先から送付されるタイムカードの写しを基に計算を行い、本件派遣労働者の金融機関の口座に振り込む方法で支払っていた。また、本件派遣労働者のうち、社会保険の加入者には上記ニの「給与明細書」を、それ以外の者には同ニの「外注仕切書」を作成し、交付していた。

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(3) 上記(2)の各事実を、上記(1)に照らして判断すると、次のとおりである。

イ 本件金員について
 請求人、本件派遣労働者及び本件派遣先の関係についてみると、1請求人は、上記(2)のイのとおり、本件就業規則を定め、当該規則には、本件派遣労働者は派遣就業に際し、請求人の指揮命令に従うほか、本件派遣先の指揮命令に従わなければならない旨(第6条)、また、請求人は本件派遣労働者が解雇事由に該当する場合には解雇する(第23条)旨などが定められており、2上記(2)のロのとおり、請求人が、本件派遣労働者に交付した「派遣社員労働条件通知書」には、請求人は「あなたを派遣社員(派遣労働者)として雇い入れます。」との文言のほか、雇用期間、就業場所、業務内容、労働時間及び賃金等の労働条件が明記されている。また、3上記(2)のハのとおり、請求人が本件派遣労働者に交付した「派遣社員就業条件明示書」には、従事業務の内容、派遣就業場所、就業に関する指揮命令者(本件派遣先)、派遣就業の期間並びに派遣元及び派遣先の各責任者名などが明記されている。さらに、4上記(2)のニ及び上記(2)のホの(ロ)から同(ニ)までのとおり、請求人は、自ら、本件派遣労働者の勤務状況を確認するとともに、毎月本件派遣先からタイムカードの写しの交付を受け、本件派遣労働者の勤務時間を確認して、本件金員について、請求人が決めた賃金単価等に基づいて支払額を計算し、本件派遣労働者に給与明細書又は外注仕切書を交付して支払っている。
 これらの事実を総合的に考慮すると、請求人と本件派遣労働者との間には雇用関係が成立しており、本件派遣労働者は、請求人との雇用関係の下に、請求人の指揮命令に従うほか、本件派遣先の指揮命令を受けて、当該派遣先のために労働に従事していたものと認められる。
 そうすると、本件金員は、請求人と本件派遣労働者との雇用契約又はこれに類する原因に基づき、請求人の指揮命令に服して提供した労務の対価として請求人から本件派遣労働者に支給されたものであり、所得税法第28条第1項に規定する給与等に該当するものと認めるのが相当である。
ロ したがって、本件金員を対価とする役務の提供を受けることは、消費税法第2条第1項第12号に規定する課税仕入れに当たらないので、同法第30条第1項に規定する課税仕入れに係る消費税額の控除をすることはできないとしてされた本件更正処分は、適法である。
ハ 請求人の主張について
 請求人は、本件派遣労働者に対する業務上の指揮命令権はすべて本件派遣先にゆだねられており、また、労働者派遣法において派遣先にも一定の義務を課しているのは、請求人が本件派遣労働者に対してすべての責任を負うものではないことを裏付けたものであるから、請求人と本件派遣労働者との関係は、雇用として認識するより業務請負と考えるべきであり、本件金員は外注費(本件派遣労働者からのサービスの提供に対する対価)である旨主張する。
 しかしながら、労働者派遣とは、自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために従事させることとされているところ(労働者派遣法第2条)、前記1の(4)の基礎事実及び上記イで認定した事実によると、請求人は、本件課税期間において、この労働者派遣法第2条に則した事業を行っていることが認められ、本件派遣先が本件派遣労働者に対する指揮命令権を持っていたとしても、そのことは、労働者派遣の性質上当然であって、請求人が本件派遣労働者を雇用したという認定を妨げるものではないし、また、雇用契約に基づき労務の対価として支払われる金員を外注費とすることは相当でない。
 したがって、上記の請求人の主張は、独自の見解というべきであって、採用することはできない。
ニ 本件賦課決定処分について
 上記ロのとおり、本件更正処分は適法であり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(4) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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