(平22.11.8裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、販売を目的として取得したとする賃貸中のマンションの賃貸料を事業所得の総収入金額に算入して所得税の確定申告書を提出し、また、当該マンションを取得したことは、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当するとして当該取得に係る消費税額の全額を控除した消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告書を提出したところ、原処分庁が、所得税法上、当該賃貸料は不動産所得の総収入金額に算入するべきであるとして所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を、また、消費税法上、当該マンションの取得は、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れに該当するとして、当該取得に係る消費税額の一部の控除のみを認める消費税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対して、請求人が、これらの処分の違法を理由としてその一部の取消しを求めた事案であり、争点は次のとおりである。

争点1 所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「所得税の更正処分等」という。)の取消しを求める請求の利益があるか否か

争点2 当該マンションの取得に係る消費税額の控除の可否

(2) 審査請求に至る経緯

 平成19年分の所得税及び平成19年10月1日から平成19年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税等について、審査請求(平成21年11月30日)に至る経緯は、別表1及び別表2のとおりである。

(3) 関係法令等

 別紙2のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 不動産売買契約について
 請求人は、平成19年9月7日付で売主であるGとの間で、要旨次のとおり記載された不動産売買契約書(以下「本件契約書」という。)に係る売買契約を締結した。
(イ) 売主は、買主に対し、S市T町○−○の宅地495.88平方メートル及び同所に所在する鉄筋コンクリート造スレート葺5階建の床面積合計922.59平方メートルの建物(以下「Hハイツ」といい、土地と併せて「本件不動産」という。)を譲渡する。
(ロ) 本件不動産の売買代金は、160,000,000円(税込み)とし、買主は売主に手付金として契約締結と同時に5,000,000円を支払う。買主は、残代金を平成19年10月1日までに現金又は預金小切手をもって売主に支払う。
(ハ) 売主は本件不動産を賃借人が入居した現状のまま買主に引き渡すものとし、賃借人からの預り保証金返還債務は、買主が引き継ぐものとする。
(ニ) 本件不動産の所有権は、買主が売買代金全額を支払い、売主がこれを受領したときに売主から買主に移転する。売主は、買主に本件不動産を所有権移転と同時に引き渡す。ただし、引渡日を別に定めたときはそれによる。
(ホ) 本件不動産の引渡日は、平成19年10月1日とする。
(ヘ) 売主は、売買代金全額の受領と同時に本件不動産について、買主又は買主の指名するものの名義に、所有権移転登記の申請手続をしなければならない。
(ト) 本件不動産から生じる収益又は本件不動産に係る公租公課及びガス・水道・電気料金等は、引渡日の前日までの分を売主、それ以降の分を買主の収益又は負担とし、引渡日に清算する。
ロ 消費税課税事業者選択届出書及び消費税課税期間特例選択届出書について
 請求人は、平成19年9月28日に原処分庁に対し、消費税課税事業者選択届出書及び平成19年10月1日を適用開始日とする消費税課税期間特例選択届出書(3か月単位のもの)を提出した。
ハ 確定申告書の提出状況について
 請求人は、平成20年3月13日に原処分庁に対し、Hハイツの賃貸料収入を事業所得の総収入金額に算入した平成19年分の所得税の確定申告書及び本件課税期間の消費税等の確定申告書を提出した。当該消費税等の確定申告書においては、消費税法第30条第1項に規定する仕入れに係る消費税額の控除額(以下「控除対象仕入税額」という。)の計算につき、消費税法第30条第2項第1号に規定する方法(以下「個別対応方式」という。)を適用し、その適用上、Hハイツの取得に係る消費税の金額を課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当するとして、全額控除している。
ニ 原処分について
 原処分庁は、平成21年7月6日付で、請求人に対し、平成19年分の所得税につき、本件不動産に係る収入金額を事業所得の総収入金額から差引き不動産所得の総収入金額に算入し、併せて、その必要経費についても同様に処理等して、別表1の「更正処分等」欄のとおりの更正処分及び賦課決定処分をした。 
 原処分庁は、同日付で、本件課税期間の消費税等につき、Hハイツの取得は、控除対象仕入税額の計算において、個別対応方式の適用上、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れに該当し、当該取得に係る消費税額は課税売上割合を乗じた額のみを控除する等として、別表2の「更正処分等」欄のとおりの更正処分及び賦課決定処分をし、その後、異議審理庁は、課税売上割合等の誤りを理由に、別表2の「異議決定」欄のとおり、当該処分の一部を取り消す決定をした。

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2 主張

 別紙3のとおりである。

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3 判断

(1) 争点1 所得税の更正処分等の取消しを求める請求の利益があるか否か

 審査請求において、その請求の利益があるか否かは納付すべき税額を基準として判断すべきところ、請求人が主張する納付すべき税額は、別表1の「審査請求」欄の「納付すべき税額」欄及び「過少申告加算税の額」欄のとおり、それぞれ○○○○円及び○○○○円であるのに対し、所得税の更正処分等により納付すべき税額は、別表1の「更正処分等」欄の「納付すべき税額」欄及び「過少申告加算税の額」欄のとおり、それぞれ○○○○円及び○○○○円であることが認められる。
 したがって、所得税の更正処分等に対する請求人の審査請求において、請求人の主張する納付すべき税額が更正処分及び賦課決定処分に係る納付すべき税額をいずれも上回るから、その余について判断するまでもなく、当該審査請求は請求の利益を欠く不適法なものである。

(2) 争点2 Hハイツの取得に係る消費税額の控除の可否

イ 法令解釈
(イ) 消費税法第30条第1項は、事業者が、国内において課税仕入れ等を行った場合は、当該課税仕入れ等を行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から、当該課税期間中の控除対象仕入税額を控除する旨規定しているが、この課税仕入れを行った日がいつであるかについては、課税仕入れと課税資産の譲渡等が表裏の関係にあることから、資産の譲渡等の時期に準じて判断するのが相当である。そして、この資産の譲渡等の時期は、所得税法又は法人税法における収益の計上基準と異なるとする理由はないから、資産の譲渡等に関する消費税法基本通達9−1−13及び同通達9−1−2の定めは、当審判所においても相当と認められ、また、これらの通達を準用して課税仕入れを行った日を定める同通達11−3−1もまた相当と認めるところである。
 そうすると、課税仕入れを行った資産が不動産である場合の課税仕入れを行った日とは、引渡しのあった日と解するのが相当であり、引渡しの有無については、これに関する具体的な事実を総合して判断するのが相当である。すなわち、登記の有無、代金の支払状況などの客観的な取引実態によって引渡しが完了し、その取引に係る経済的効果が実現しているか否か、言い換えれば、経済的実質からみた支配関係の変化の有無により判定すべきであると解される。
(ロ) 消費税法第30条第2項第1号は、その課税期間中において行った課税仕入れ等について、1課税資産の譲渡等にのみ要するもの、2課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等(その他の資産の譲渡等)にのみ要するもの及び3課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの(以下、上記1ないし3の区分を「用途区分」という。)に、その区分が明らかにされている場合には、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する旨規定している。
 この課税仕入れ等についての用途区分は、その課税仕入れ等がこれらの用途のうちのいずれの用途に要するものであるかを判定するものであり、消費税法第34条及び同法第35条が課税仕入れ等を行った課税期間中に用途変更した場合をその適用の対象とする旨をあえて規定していることからすれば、その課税仕入れ等を行った日の状況によりその判定を行うことが原則であると解され、その旨を明らかにしている消費税法基本通達11−2−20の前段の定めは、当審判所においても相当と認めるところである。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件不動産の登記事項について
A 本件不動産については、平成19年9月28日売買を原因として、Gから請求人に対し同日付で所有権移転の登記がされた。
B 本件不動産の登記事項証明書によると、本件不動産には、平成19年9月28日付で、債権額を165,000,000円、債務者を請求人、抵当権者をL信用金庫とする抵当権が設定された。
(ロ) G名義の銀行預金口座の入出金について
 J信用金庫K支店のG名義の普通預金口座には、平成19年9月7日に5,000,000円が入金されており、また、同月28日にL信用金庫M支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○)から155,000,000円が振込入金された。
(ハ) Gの答述により認められる事実
 Gは、当審判所に対し要旨次のとおり答述した。Gの答述は、上記(イ)及び(ロ)の客観的な事実と整合しており、また、その内容は、格別不自然な点は認められず合理的であって信用できることから、当該答述どおりの事実が認められる。
A Gは、平成19年9月7日に、請求人から本件不動産の売買代金160,000,000円のうち手付金の5,000,000円を小切手で受け取った。
B Gは、平成19年9月28日に、請求人からJ信用金庫K支店の預金口座に本件不動産の売買代金から手付金を差し引いた残代金155,000,000円(なお、Gが請求人に交付した領収証は同年10月1日付である。)の振込みを受けた。また、Gは、同年9月28日に固定資産税の清算金も受け取った。
C Gは、平成19年9月28日に、司法書士に本件不動産の権利証及び印鑑証明書を、また、請求人にHハイツの合鍵を引き渡した。
(ニ) 固定資産税の清算について
 請求人は、本件不動産に係る平成19年度の固定資産税○○○○円のうち、平成19年10月1日から翌年3月31日までを請求人の負担分として、Gに対し、清算金○○○○円を支払った。なお、当該清算金に係る領収証の日付は、平成19年10月1日となっている。
(ホ) 火災保険料について
 N社は、請求人に対し、平成19年9月28日付でHハイツに係る火災保険料56,440円を領収したとして領収証を発行した。なお、当該領収証には、保険期間の始期は、平成19年10月1日と記載されている。
(ヘ) 仲介業者の領収証について
A 本件不動産の売買の仲介を行ったP社は、Gが経営する法人であるQ社宛で、平成19年9月28日付で本件不動産の仲介手数料4,977,000円に係る領収証を発行した。
B 本件不動産の売買の仲介を行ったRは、請求人に対し、平成19年10月1日付で本件不動産の仲介手数料2,370,000円に係る領収証を発行した。
(ト) Hハイツの賃貸状況等について
 Hハイツは、鉄筋コンクリート造スレート葺5階建で、1階が店舗3室、2階が事務所2室、3階から5階が住宅10室であり、平成19年10月1日時点で事務所仕様の202号室のみが空室で、その他はすべて賃貸されていた。
(チ) 請求人の青色申告決算書における本件不動産の計上状況について
 本件不動産は、請求人の平成19年分所得税青色申告決算書(一般用)の平成19年12月31日現在の貸借対照表に事業所得に係る棚卸資産として計上されており、Hハイツに関し、平成19年分の事業所得及び不動産所得の各金額の計算において減価償却費は計上されていない。
(リ) 請求人が作成した「仕入不動産売却時期要綱」について
 請求人が作成した「仕入不動産売却時期要綱」には、「物件名」、「建物構造/階数」、「取得時残年数」、「融資銀行」、「償還年数(回数)」、「当初融資額」、「取得」、「売却時期」、「売却時残年数」、「売却価格(暫定)」等の各欄が設定されており、Hハイツに関し、「売却時期」欄に22年と記載された行には「売却価格(暫定)」欄に166,500,000円と、「売却時期」欄に24年と記載された行には「売却価格(暫定)」欄に156,000,000円と記載されている。
ハ 判断
(イ) Hハイツに係る課税仕入れを行った日について
 本件の消費税等に関する争点は、Hハイツの取得が、控除対象仕入税額の計算において、個別対応方式の適用上、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当するか否かであるところ、消費税法第30条第1項は、事業者が、国内において課税仕入れ等を行った場合は、当該課税仕入れ等を行った日の属する課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除対象仕入税額を控除する旨規定しているから、仕入税額控除の適用においては、まず、一定の課税期間内における課税仕入れ等であることが前提となるので、以下、Hハイツに係る課税仕入れを行った日について検討する。
A 上記イの(イ)のとおり、不動産に係る課税仕入れを行った日については、引渡しのあった日と解するのが相当であり、引渡しの有無については、これに関する具体的な事実を総合して判断するのが相当である。すなわち、登記の有無、代金の支払状況などの客観的な取引実態によって引渡しが完了し、その取引に係る経済的効果が実現しているか否かにより判断すべきである。
 Hハイツについては、上記ロの(イ)のとおり、平成19年9月28日売買を原因としてGから請求人に対し同日付で所有権移転の登記がされ、さらに、同日付で債権額を165,000,000円、債務者を請求人、抵当権者をL信用金庫とする抵当権が設定されている。そして、上記ロの(ロ)並びに(ハ)のA及びBのとおり、請求人は、本件不動産の売買代金のうち、平成19年9月7日に手付金5,000,000円を小切手で支払い、また、同月28日には、手付金を差し引いた残代金155,000,000円をJ信用金庫K支店のG名義の普通預金口座に振り込んで支払っており、請求人は、同日には本件不動産の売却代金の支払を終えたものと認められる。
 以上の事実に加え、上記ロの(ハ)のB、(ニ)及び(ホ)のとおり、請求人は、平成19年9月28日に本件不動産に係る固定資産税の清算金○○○○円及び火災保険料56,440円を支払っていること、上記ロの(ハ)のCのとおり、Gは、同日、本件不動産の売買に係る権利証、印鑑証明書及び合鍵を司法書士ないし請求人に引き渡したこと及び上記ロの(ヘ)のAのとおり、Gは同日に本件不動産売買に係る仲介手数料を支払っていることからすると、本件不動産の引渡しは、同日、すなわち平成19年9月28日に完了し、本件不動産売買に係る経済的効果が実現していると認めるのが相当である。
B 請求人及び原処分庁はいずれも、Hハイツに係る課税仕入れを行った日は平成19年10月1日である旨を主張し、その理由として、本件契約書に定める引渡日、請求人が本件不動産の使用収益を開始した日、固定資産税の負担を清算するための基準日、請求人の本件不動産に係る仲介手数料の支払日及びHハイツに係る火災保険の保険期間の始期がいずれも平成19年10月1日となっていることを主張する。
 しかしながら、上記の理由のうち、請求人が本件不動産の使用収益を開始した日については、本件の全証拠によっても、平成19年10月1日と認めるに足りず、むしろ、上記Aの事実関係によれば、現実の引渡しを完了した同年9月28日と認めるのが相当である。そして、請求人及び原処分庁が主張するその他の理由については、上記ロの(ニ)、(ホ)及び(ヘ)のB並びに1の(4)のイの(ホ)のとおり、各主張に添う事実が認められるものの、上記A及びイの(イ)のとおり、不動産に係る課税仕入れを行った日は客観的な取引実態によって引渡しが完了し、その取引に係る経済的効果が実現しているか否かにより判定すべきであって、本件不動産は、本件契約書が定める引渡日以前の同年9月28日に現実に引渡しが完了しており、同日をもって本件不動産売買に係る経済的効果が実現していると認められるのであるから、請求人や原処分庁の主張する事実関係の存在によっても、上記Aの判断が左右されるものではない。
 以上によれば、これらの点に関する請求人及び原処分庁の主張はいずれも採用することができない。
C したがって、Hハイツに係る課税仕入れを行った日は、本件不動産の引渡しを受けた平成19年9月28日、すなわち、本件課税期間前であると認められることから、Hハイツの取得は、本件課税期間における控除対象仕入税額の計算上、課税仕入れに該当し得ない。
(ロ) Hハイツの取得が、控除対象仕入税額の計算において、個別対応方式の適用上、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当するか否かについて
 なお、請求人及び原処分庁は、いずれも請求人がHハイツの引渡しを受けた日が平成19年10月1日であると主張するので、以下、念のため、この主張を前提に、Hハイツの取得が、控除対象仕入税額の計算において、個別対応方式の適用上、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当するか否かについて検討する。
A 上記イの(ロ)のとおり、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合において、その用途区分については、その課税仕入れ等を行った日の状況により判定されるところ、Hハイツは、上記1の(4)のイの(ハ)のとおり、売買契約締結の時点で、賃借人が入居した状況のままで請求人が引渡しを受けること及び賃借人らの預り保証金債務を請求人が引き継ぐことが定められ、上記ロの(ト)のとおり、請求人及び原処分庁が引渡し時であると主張する平成19年10月1日の時点において、Hハイツ15室中店舗3室、事務所1室及び住宅10室に賃借人が存在していたことから、請求人は、同日においても、Hハイツから店舗、事務所及び住宅の貸付けから生じる賃貸料収入を得る状況にあったものと認められる。
 そして、消費税法第2条第1項第9号、同法第6条第1項及び同法別表第一の第13号の規定によれば、住宅の貸付けは課税資産の譲渡等には該当しないが、店舗ないし事務所の貸付けは課税資産の譲渡等に該当することからすると、本件不動産の取得は、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れに区分され、課税資産の譲渡等のみに要する課税仕入れには該当しない。
B 以上のとおり、請求人がHハイツの引渡しを受けた日が平成19年10月1日であったとしても、同日のHハイツの状況によれば、Hハイツの取得は、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れに当たるから、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに当たらない。
(ハ) 請求人の主張について
A 請求人は、販売を目的とする資産の購入は、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合において、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当する旨主張し、販売目的での購入の根拠として、Hハイツは取得時に棚卸資産として帳簿に計上し減価償却をしていないこと等を挙げ、上記ロの(チ)及び(リ)のとおり、請求人が販売目的で購入したものであることを示す書類も認められる。しかしながら、上記イの(ロ)のとおり、個別対応方式における用途区分については、その課税仕入れ等を行った日の状況により判定されるのであるから、請求人が販売目的での購入の根拠である旨主張する事実関係の存否等を判断するまでもなく、請求人の当該主張を採用することができない。
B また、請求人は、Hハイツの取得が課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに当たらないとすると、Hハイツの売却時点で預かる消費税等については建物に係る消費税等を全額納めることになり、購入時点では課税売上割合により控除対象仕入税額を計算することと比較して不利益を生じ、課税の公平が損なわれる上、課税売上割合は変動的であり課税仕入れ時点での状況により控除対象仕入税額が大きく変わることから妥当でない旨主張する。
 しかしながら、本件不動産のように長期にわたって使用される固定資産等について、その後の課税期間において、課税売上割合が著しく変動した場合には消費税法第33条、また、用途変更した場合には同法第34条及び同法第35条が設けられていることから、Hハイツの購入時と売却時の消費税の取扱いの差のみをもって一概に不利益が生じるとはいえず、また、仕入れに係る消費税額の控除の仕組みをもって、課税の公平が損なわれているともいえない。
 したがって、この点に関する請求人の主張も採用することができない。
(ニ) まとめ
 以上のとおり、Hハイツの取得は、本件課税期間における課税仕入れに該当せず、仮に、Hハイツの引渡しを受けた日が平成19年10月1日であるとの請求人及び原処分庁の主張を前提としても、Hハイツの取得は、控除対象仕入税額の計算において、個別対応方式の適用上、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れに該当するから、課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに該当しない。
 そうすると、本件課税期間における控除対象仕入税額は、別表4の「審判所認定額」欄の「仕入れに係る消費税額の控除額」欄のとおり○○○○円、請求人の消費税等の納付すべき税額は、別表3の「審判所認定額」欄の「8」欄のとおり○○○○円となり、更正処分(平成21年10月30日付でされた異議決定により一部取り消された後のもの)の金額を上回るから、本件課税期間における消費税等の更正処分は適法である。

(3) その他の請求人の主張

 請求人は、当審判所に対し、1日本国憲法第22条職業選択の自由等、2事業所得と不動産所得の区分、3青色申告者に対する更正等及び4販売を目的とした不動産の仕入れの扱いについての質疑に回答すべきである旨主張する。
 しかしながら、審判所は個々の審査請求事件について、原処分庁が行った国税に関する法律に基づく処分が違法又は不当なものであるか否かを判断する機関であり、請求人の質疑に対して個別・具体的に回答する機関ではないから、当該質疑は当審判所の審理の限りでない。

(4) 消費税等の過少申告加算税の賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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