(平成23年10月14日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、夫と共有で既存住宅を取得し、住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の規定を適用して、所得税の確定申告書を提出したところ、原処分庁が、請求人は当該家屋をその取得の日から6月以内に自らの居住の用に供していなかったから住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の適用を受けることができないとして、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったことに対し、請求人が、当該家屋をその取得の日から6月以内に自らの居住の用に供したとして、同処分の全部の取消しを求めた事案であり、争点は、当該家屋の取得の日はいつかである。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成23年2月28日請求)に至る経緯は、別表のとおりである。

(3) 関係法令等

 別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 不動産の取得について
(イ) 請求人及び請求人の夫であるF(以下、請求人と併せて「請求人ら」という。)は、買主として、平成20年5月31日に、売主であるG社との間において、別紙2の物件目録記載の土地建物(以下、当該各建物を併せて「本件建物」、当該各土地と本件建物を併せて「本件不動産」という。)に関し、要旨次のような内容の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。
A 本件不動産の売買代金は207,000,000円とし、買主は売主に本件売買契約締結と同時に手付金として10,000,000円を支払う。また、買主は平成20年7月15日に残代金197,000,000円を支払う。
B 本件不動産の引渡日は、売買代金を全額受領した日とする。
(ロ) 請求人らは、G社に対し、平成20年7月14日に残代金197,000,000円を支払い、G社から本件不動産の引渡しを受けるとともに、本件不動産について、同日付で、売買を原因とする所有権移転登記を経由した。
 なお、本件不動産は、請求人の持分が3分の1、Fの持分が3分の2である。
(ハ) 本件建物は、別紙2のとおり、平成2年7月26日に車庫、平成7年3月31日に居宅及び車庫として新築を原因とする登記がされており、請求人が居住の用に供する以前に居住の用に供されたことがある既存住宅である。
ロ 本件不動産の取得に係る借入金の状況について
 請求人らは、連帯債務者として、平成20年7月14日にH銀行c支店から本件不動産取得のために185,000,000円を借り入れた(以下、この借入金を「本件借入金」という。)。
 なお、平成21年12月31日における本件借入金の残高は、168,434,423円であった。
ハ 本件建物の改装工事について
(イ) Fは、発注者として、平成20年8月31日に、受注者であるJ社との間において、本件建物の改装工事(以下「本件改装工事」という。)に関し、要旨次のような内容の請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結した。
A 本件改装工事はa市b町○−○に所在する本件建物を対象とし、着手時期は平成21年1月15日(予定)、完成期日は同年2月15日(予定)とする。
B 請負代金は、消費税等を含め15,400,000円とする。また、請負代金は、本件請負契約締結時(平成20年8月31日)に1,500,000円、着工時(平成21年1月15日予定)に7,700,000円及び完成時(同年2月15日予定)に6,200,000円に分割して支払う。
(ロ) Fは、J社に対し、平成20年8月31日から平成21年3月29日までの間に、本件改装工事とは別に要旨次のような内容の本件建物の外装工事及び追加変更工事を発注し、J社は、これらを受注した(以下、この各受注に係る工事を「本件各受注工事」という。)。
A 平成20年8月31日付の発注分
(A) 工事名称はF邸外装工事
(B) 工事期間は平成21年2月15日から同年3月15日
(C) 請負代金は5,300,000円
B 平成21年1月19日付の発注分
(A) 工事名称はF邸追加変更工事
(B) 工事期間は平成21年1月19日から同年3月21日
(C) 請負代金は2,700,000円
C 平成21年3月29日付の発注分
(A) 工事名称はF邸追加変更工事
(B) 工事期間は平成21年1月19日から同年3月29日
(C) 請負代金は1,800,000円
(ハ) 本件改装工事及び本件各受注工事(以下、これらを併せて「本件工事」という。)は、平成21年3月29日に完了した。
ニ 居住の事実について
 請求人は、平成21年4月27日に本件建物を居住の用に供し、同日以後、同年12月31日まで引き続き本件建物を自らの居住の用に供していた。
ホ 確定申告書の提出状況について
 請求人は、平成22年3月12日に、本件不動産について租税特別措置法第41条第1項に規定する所得税額の特別控除(以下「住宅借入金等特別控除」という。)を適用し、平成21年分の所得税の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して原処分庁に提出した。
ヘ 原処分について
 原処分庁は、平成22年10月28日付で、請求人の平成21年分の所得税について、別表の「更正処分等」欄のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ト 異議申立て及び異議決定について
 請求人は、平成22年11月24日に、原処分を不服として、別表の「異議申立て」欄のとおり、異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成23年1月18日付で、別表の「異議決定」欄のとおり、棄却の異議決定をした。
 なお、上記異議決定の決定書謄本は、平成23年2月5日に請求人に送達された。

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2 主張

 別紙3のとおりである。

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3 判断

(1) 法令解釈

イ 租税特別措置法第41条の規定は、その創設当時の緊要性の高い住宅問題を背景として、持家取得の促進を図ることによりその解決に資するとともに、そのような住宅投資の活発化を通じて沈滞した景気に刺激を与えることが必要であるとして、昭和47年法律第14号により創設されたものである。
 そして、その適用要件の一つとして、当該規定の創設時から「工事完了の日又は取得の日から6月以内にその者の居住の用に供した場合」が規定されていたところ、この要件は、この条項の上記持家取得の促進を図るとの立法趣旨からして、持家として取得等をした家屋であれば、少なくともその取得等の日から6月の間には入居するとの考えから規定されたものと解するのが相当である。
ロ 住宅借入金等特別控除の適用要件とされる家屋の取得の日とは、上記イの規定の趣旨からすれば、居住の用に供することが可能となったと認められる日、すなわち、その家屋の所有者が住宅としての機能を有する状態でその家屋の引渡しを受けた日を指すものと解するのが相当である。

(2) 認定事実

 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 取得時の本件建物の設備等について
 上記1の(4)のイの(イ)のとおり、請求人らはG社との間で本件売買契約を締結したが、その際、請求人らとG社との間で、物件状況等報告書(土地建物・土地用)及び設備表(土地建物用)が作成されている。その設備表は、本件建物の設備及びその状態を記載した上で、売主であるG社が、引き渡す設備及びその状態を説明し、買主である請求人らが説明を受けたとして、請求人らの署名押印がされている書面であるが、そこには、本件建物には、給湯器が台所・浴室・洗面所にあり、厨房設備としては流し台・コンロ・レンジフード(換気扇)・浄水機・食器洗い機等があり、浴室設備としてはシャワー・サウナ等があり、また、洗面設備、トイレ、冷暖房機、床暖房設備、屋内照明設備、屋外照明設備、TVアンテナ、エレベーター等がある旨が記載されている。
ロ 請求人取得前の本件建物の使用状況について
 本件建物の引渡しを受けた時点では、本件建物は空き家であったが、平成20年3月までは、G社の代表取締役及びその家族が居住していた。

(3) 請求人の答述について

 当審判所が、請求人に対し、請求人らが平成20年7月14日に本件建物を購入した際の事情等について質問したところ、請求人の代理人であるK税理士は、要旨以下のように答述した。
イ 購入時に本件建物に居住できなかった事情及び当時の本件建物の状況等
 本件建物を購入した際に本件建物に居住できなかったのは、既存住宅を購入すると、どのような場合でも、多少の手直しをして入居するものであり、本件建物についても、請求人らが、老後に自立した日常生活を営むことができるよう高齢者居住用に改装した上で入居した。
ロ 本件建物が請求人らが考える快適な高齢者居住用に対応した物件ではなかった旨を示す資料について
 本件建物の購入当時、本件建物が請求人らが考える快適な高齢者居住用に対応した物件でなかった旨を証明できる資料はない。
ハ 高齢者居住用に修繕する必要性について
 配偶者であるFが当時○歳であり、将来を考え修繕する必要があった。
ニ 地震に対する安全性強化、エネルギー使用の合理化等最新の住構造を確保するためのリフォームについて
 地震に対する安全性強化に該当する工事は行っていない。エネルギー使用の合理化等最新の住構造を確保するためのリフォームに該当する工事が分かる書類は持ち合わせていない。

(4) 判断

イ 租税特別措置法第41条第1項は、住宅借入金等特別控除の適用を受ける住宅の取得等について、まる1居住用家屋の新築、まる2居住用家屋で建築後使用されたことのないもの若しくは既存住宅の取得、又はまる3居住の用に供する家屋で政令で定めるものの増改築等と規定している。
 そうすると、請求人が住宅借入金等特別控除の適用を受けようとする本件建物は、上記1の(4)のイの(ハ)のとおり、既存住宅であるから、請求人が住宅借入金等特別控除の適用を受けるためには、本件建物を、その取得の日から6月以内に請求人の居住の用に供していなければならない。
 ところで、租税特別措置法第41条第1項にいう「取得の日」とは、上記(1)のロのとおり、既存住宅等の引渡しを受けた日を指すものと解される。
 そうすると、上記1の(4)のイの(ロ)のとおり、請求人は、平成20年7月14日に、G社から本件建物を含む本件不動産の引渡しを受けたのであるから、住宅借入金等特別控除の適用上、請求人が既存住宅に該当する本件建物を取得した日は、本件工事が完了した平成21年3月29日ではなく、本件建物の引渡しを受けた平成20年7月14日である。
ロ 請求人は、租税特別措置法関係通達41−5において、「新築の日」又は「増改築等の日」を、請負人から当該建物の引渡しを受けた日をいうものと取り扱って差し支えないと定めているのであるから、既存住宅の「取得の日」についても、入居のために通常必要となる修復工事の完成引渡しを受けた日を指すと解すべきであると主張する。
 しかしながら、上記通達は、租税特別措置法第41条第1項にいう居住用家屋の新築及び居住の用に供する家屋で政令で定めるものの増改築等に係る住宅借入金等特別控除の適用要件について、同項に規定する「新築の日」又は「増改築等の日」とは、その者が請負人から当該家屋の引渡しを受けた日をいうものとして取り扱って差し支えない旨を定めたものであるから、既存住宅の取得に係る住宅借入金等特別控除の適用要件として同項が規定する「取得の日」について、当該通達を適用する余地はない。
 したがって、請求人の主張は採用することができない。
ハ 請求人は、本件建物には、請求人らが自立した日常生活を営むための高齢者居住用に対応した修繕及び地震に対する安全性強化やエネルギー使用の合理化等最新の住構造を確保するためのリフォームが必要であったのであり、「取得の日」は、この工事が完成し、本件建物が住宅として機能し実際上居住可能な状態で引渡しを受けた日である平成21年3月29日とすべきである旨主張する。
 しかしながら、上記(3)のとおり、請求人は、代理人税理士を通じて、地震に対する安全性強化に該当する工事は行っていないと答述し、購入当時本件建物が快適な高齢者居住用に対応した機能を有していなかったことを基礎付ける具体的な事実についても、明確な主張も必要な立証もしない。
 そうであるところ、上記(2)のイの本件売買契約当時の本件建物の設備の状況等からすると、本件建物は本件売買契約当時住宅として必要な一応の設備を備えていたと認められる上、上記(2)のロのとおり、本件建物には本件売買契約直前の平成20年3月までG社の代表取締役及びその家族が居住していたことからすると、本件建物は、請求人らがその引渡しを受けた時点において、客観的にみて、住宅としての機能を有せず実際上居住可能な状態のものではなかったとはおよそ認め難い。
 したがって、請求人の主張は採用することができない。
ニ 請求人は、既存住宅においては、通常は入居のために一定の修復工事が必要となることを前提として、本件の場合、既存住宅を購入して居住するためには借入れをしなければならず、借入れをするためには、登記をしなければならず、登記しなければ増改築の見積り、請負契約、工事打合せ、着工、完成引渡しもできないから、借入れ、購入、登記、工事着工、完成引渡しは全て既存住宅取得のための一連の取引であって、本件における「取得」とは、借入れ、購入、登記、工事着工、完成引渡しという既存住宅取得のための一連の取引をいい、「取得の日」とは、完成引渡日と考えるべきであると主張し、また、既存住宅の「取得の日」について所有権を取得した日と解すると、修復工事が大規模になればなるほど、所有権を取得した日から入居の日まで時間を要することとなる結果6月以内に居住できないこととなり、新築住宅又は増改築等工事の場合と比べて、課税の公平が図れないと主張する。
 確かに、既存住宅の取得後これを居住の用に供するまでの間にその取得者において増改築等を行うことも少なくないと考えられるものの、上記(1)のイのとおり、住宅借入金等特別控除の制度は、持家取得の促進を図ることにより住宅問題の解決に資するとともに住宅投資の活発化ひいては景気の浮揚を図るという政策目的で導入された所得税額の軽減措置であって、同条第1項の規定する「取得の日から6月以内にその者の居住の用に供した場合」という適用要件も、上記の立法趣旨に鑑みて、持家として取得した家屋であれば少なくともその取得の日から6月の間には入居するのが通常であるとの考えから、当該特例措置の適用範囲を画するために設けられたものであると解される。そうであるとすれば、請求人が主張するような既存住宅の取得者による増改築等に要する期間等は上記適用要件にいう6月の期間に織り込まれているということができるのであり、仮に当該増改築等が大規模なものになった結果としてその取得者が既存住宅の取得の日から6月以内に居住することができないこととなったとしても、上記のような租税特別措置法第41条第1項の規定の趣旨及び性格等に鑑みると、住宅借入金等特別控除を適用する余地はないものというべきであり、上記適用要件について請求人が主張するような解釈を採用することはできない。
 したがって、請求人の主張は採用することができない。
ホ 以上のとおり、請求人らが本件建物を取得した日は、請求人らが本件建物の引渡しを受けた平成20年7月14日であり、請求人らが本件建物を居住の用に供した日は、上記1の(4)のニのとおり、取得した日から9月を経過した平成21年4月27日であるから、請求人は、本件建物の取得の日から6月以内に本件建物を居住の用に供したとは認められず、住宅借入金等特別控除の規定を適用することはできない。
 したがって、本件更正処分は適法である。

(5) 過少申告加算税の賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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