(平成24年5月29日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、社会保険労務士である審査請求人(以下「請求人」という。)が、所得税の確定申告において、社会保険労務士報酬を事業所得の総収入金額と給与所得の収入金額に二重に計上したため、総所得金額が過大であったとして更正の請求を行ったところ、原処分庁が更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたことから、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人は、平成23年10月11日に、平成21年分の所得税の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)について審査請求をした。
 この審査請求に至る経緯は、別表1記載のとおりである。

(3) 関係法令

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人及び原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、社会保険労務士の資格を有し、社会保険労務士名簿に、事務所名を社会保険労務士A事務所、所在地をa市b町○−○として登録を受けている。
 また、請求人は、平成21年5月26日までC会(以下「本件組合」という。)の代表理事を務め、同日から同組合の専務理事を務めている。
ロ 請求人は、所得税の青色の確定申告書に所得の内訳書及び平成21年分所得税青色申告決算書(一般用)(以下「青色決算書」という。)等を添付して、別表1「確定申告」欄記載のとおり申告した。
 なお、所得の内訳書及び青色決算書の記載内容はそれぞれ別表2及び別表3記載のとおりである。
ハ 請求人は、請求人の給与所得に係る収入金額は、本件組合の役員報酬○○○○円と、D社(以下「本件法人」という。)の給料240,000円の合計○○○○円であり、確定申告に当たり、事業所得の総収入金額に計上した本件組合からの社会保険労務士報酬3,360,000円(以下「本件金員」という。)を誤って給与収入に加算した結果、給与所得の金額及び総所得金額が過大になったとして、本件更正の請求をした。

(5) 争点

 請求人が確定申告書に記載した総所得金額は過大であるか否か。

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2 主張

(1) 請求人

 本件金員は事業所得の収入金額であるが、請求人は、本件金員を事業所得の総収入金額と給与所得の収入金額とに二重に計上した誤りがあり、請求人が確定申告書に記載した総所得金額が過大である。

(2) 原処分庁

 請求人が提示した書類等だけでは、本件金員が事業所得に該当すること及び事業所得の総収入金額と給与所得の収入金額とに二重計上されていること並びに請求人の事業所得の金額が幾らであるかを認定することができなかった。
 したがって、請求人が確定申告書に記載した総所得金額が過大であるとは認められない。

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3 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件組合は、昭和48年に任意団体として設立され、平成6年1月にH県知事から協同組合の認可を得た。
ロ 本件組合の主な業務は、まる1組合員の事業に係る記帳代行業務、まる2社会保険関係、労働保険関係、建設業関係、産業廃棄物関係及び運送関係の諸手続の事務代行業務、まる3損害保険、小規模企業共済、中小企業退職金共済及び建設業退職金共済等に関する業務及びまる4従業員の賃金、退職金計算等従業員の管理に関する業務であり、本件組合は組合員から委託を受け、これらの業務を行っている。
ハ 請求人は、平成6年から、本件組合の代表理事又は専務理事として、本件組合職員の労務管理全般を行い、本件組合を代表して同組合の業務を執行した。
ニ 請求人は、本件組合が組合員等から受託した業務のうち、社会保険関係手続、雇用保険関係手続及び労働保険関係手続に関する業務を行い、関係官庁に提出する書類の社会保険労務士欄等に請求人の氏名を記載し、又は社会保険労務士A事務所の印を押印して書類を提出した。
ホ 本件組合は、平成16年1月27日に開催した平成15年4月1日から平成16年3月31日までの事業年度(以下、本件組合の事業年度を「平成15年度」などと略称する。)の第6回理事会において、平成16年度から請求人に社会保険労務士業務を全て委託する旨の議決をした。
 また、本件組合は、上記議決を受け、平成16年4月16日開催の理事会において、請求人に対し、役員報酬として○○○○円、社会保険労務士業務に係る業務委託費として3,360,000円をそれぞれ支給する旨の予算案を決定し、同年5月27日開催の平成16年度通常総会において当該予算案が議決、承認された。
ヘ 本件組合は、平成20年度及び平成21年度の各年度の総会において、請求人に対し、役員報酬として○○○○円、社会保険労務士業務に係る業務委託報酬として3,360,000円をそれぞれ支給した旨の決算を議決、承認した。
ト 本件組合は、平成21年中に請求人に支払った役員報酬○○○○円について、給与所得として所得税法第183条第1項に規定する源泉徴収を行い、同法第226条第1項に規定する給与所得の源泉徴収票を作成し、原処分庁に提出した。
 また、本件組合は、本件金員について、報酬、料金等として所得税法第204条第1項に規定する源泉徴収を行い、本件金員が同項第2号に規定する社会保険労務士の業務に関する報酬であるとして、同法第225条第1項第3号に規定する報酬の支払調書を作成し、原処分庁に提出した。
チ 請求人の作成した総勘定元帳の売上高勘定、雑収入勘定及び兼業売上高勘定に記載された収入の内訳及び合計額は別表4記載のとおりであり、収入の合計額は、請求人が確定申告書に添付した青色決算書の売上金額欄に記載した金額と同額である。また、同表記載のとおり、請求人は事業所得に係る総勘定元帳に本件組合からの収入として3,332,000円を計上しているが、この金額と本件金員との差額28,000円は、源泉所得税の経理処理の誤りによるものである。
リ 請求人が確定申告書に記載した給与所得に係る収入金額○○○○円の内訳は、本件組合からの役員報酬○○○○円、本件金員3,360,000円及び本件法人からの給料240,000円である。

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(2) 判断

イ 本件金員の二重計上について
 上記(1)チ及びリによれば、請求人の確定申告において本件金員が給与所得の収入金額に含まれており、本件金員のうち3,332,000円が事業所得の総収入金額に含まれていることが認められるから、本件金員のうち3,332,000円は、事業所得の総収入金額と給与所得の収入金額とに二重に計上されていると認めるのが相当である。
 この点、原処分庁は、本件金員について、いずれの取引か特定できないなどとして、本件金員が事業所得の総収入金額と給与所得の収入金額とに二重計上されていることが認定できない旨主張している。しかしながら、上記(1)ホ、ヘ及びチのとおり、本件金員が本件組合からの社会保険労務士業務に係る業務委託費であることは明白であり、原処分庁の主張を採用することはできない。
ロ 本件金員の所得区分について
 上記(1)ハ及びニによれば、請求人は本件組合との関係において、本件組合の役員業務と、社会保険労務士業務を行っていることが認められるところ、上記(1)ホ、ヘ及びトのとおり、本件組合は、平成16年度から請求人に社会保険労務士業務を全て委託し、請求人に対し、役員報酬として○○○○円、社会保険労務士業務に係る業務委託費として3,360,000円を支給することとし、平成20年度及び平成21年度においても同様に、請求人に対し、役員報酬として○○○○円、社会保険労務士業務に係る業務委託費として3,360,000円を支給した旨の決算を承認しており、本件金員が社会保険労務士の業務に関する報酬であるとして、報酬の支払調書を作成していることが認められ、これらの事実によれば、本件組合は、平成21年中において請求人に社会保険労務士業務を委託し、請求人に当該委託に係る報酬として本件金員を支払ったと認めるのが相当であり、請求人は、上記(1)ニのとおり、請求人個人の資格に基づいて社会保険労務士業務を行っているから、当該業務の報酬である本件金員は、請求人の事業所得に係る収入金額であると認めるのが相当である。
 この点、原処分庁は、請求人が提示した書類等だけでは、本件金員が事業所得に該当することなどの認定ができない旨主張するが、上記のとおり、当審判所の調査の結果によれば、当該金員が事業所得に係る収入金額であると認めるのが相当であるから、原処分庁の主張は採用することができない。
ハ 総所得金額について
(イ) 事業所得に係る総収入金額
 請求人の総勘定元帳によれば、収入金額に計上すべきでない国税還付金○○○○円が雑収入に計上されており、また、本件金員のうち源泉所得税相当額28,000円及びE保険の売上げに係る口座振替手数料5,148円が計上漏れとなっているから、これらの点を是正すると、請求人の事業所得に係る総収入金額は、別表5「総収入金額」欄記載のとおり○○○○円となる。
(ロ) 事業所得の金額
 請求人が青色決算書に記載した租税公課のうち、本件金員に係る源泉所得税額○○○○円、本件法人からの給与等に係る源泉所得税額○○○○円及び利子所得に係る源泉所得税額○○○○円は必要経費に算入できないから、租税公課の額は56,300円となる。
 また、その他経費489,266円については、上記(イ)の口座振替手数料5,148円を加算するべきであるから494,414円となり、それ以外の経費は請求人の申告どおりであると認められるから、必要経費の合計は3,259,878円となる。
 したがって、事業所得の金額は、別表5記載のとおり、○○○○円である。
(ハ) 給与所得の金額
 請求人の給与所得の収入金額は、本件組合の役員報酬○○○○円及び本件法人の給料240,000円を合計した○○○○円であり、当該収入金額から給与所得控除を控除した残額の○○○○円が給与所得の金額である。
(ニ) 雑所得の金額
 請求人の雑所得の収入金額は、別表2「種目」欄に「年金」と記載の公的年金等の収入金額の合計額○○○○円であり、当該収入金額から公的年金等控除額を控除した残額の○○○○円が雑所得の金額である。
(ホ) 総所得金額
 上記(ロ)、(ハ)及び(ニ)によれば、請求人の総所得金額は○○○○円となるから、請求人が確定申告書に記載した総所得金額は過大であると認められる。
ニ 原処分について
 請求人は、本件更正の請求において、所得から差し引かれる金額のうち社会保険料控除及び小規模企業共済等掛金控除の合計額を766,600円としているものの、確定申告額のとおり796,600円が正当と認められるから、所得控除の合計は1,949,730円となる。
 そうすると、請求人の総所得金額及び還付金の額に相当する税額は別表6「審判所認定額」欄記載のとおりとなり、総所得金額は本件更正の請求の額と同額となり、還付金の額に相当する税額は本件更正の請求の額を上回るから、本件通知処分はその全部を取り消すべきである。

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