(平成23年2月2日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、同族会社の代表取締役である審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成20年分の土地の譲渡所得について、当該同族会社の債務につき連帯保証をし、根抵当権を設定していた土地を保証債務の履行のために譲渡したものであり、その後求償権の行使ができなくなったから所得税法第64条《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》第2項に規定する課税の特例(以下「本件特例」という。)が適用されるなどとして、更正の請求を行ったところ、原処分庁が、請求人は土地の譲渡代金を当該同族会社に貸し付けたもので保証債務の履行には当たらないとして、本件特例を適用せずに納付すべき税額を一部減額する更正処分を行うにとどめたことから、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成20年分の所得税の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ その後、請求人は、平成21年5月20日に平成20年分の所得税について別表1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成21年9月29日付で配偶者控除及び扶養控除について本件更正の請求のとおり適用し、本件特例については適用せずに別表1の「更正処分」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件更正処分を不服として平成21年10月21日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成22年1月18日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成22年2月10日に審査請求をした。

(3) 関係法令等

 関係法令等の要旨は、別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

イ 請求人は、平成12年12月31日に一般土木建築工事業を営むC社の代表取締役に就任して現在に至っている。
ロ D銀行(E支店)との債務保証契約等
(イ) C社は、平成13年9月28日に自社の所有していたa市b町○−○所在の宅地218.57平方メートルほか2筆に、C社を債務者、D銀行を根抵当権者、被担保債権の範囲を銀行取引による債権及び手形上・小切手上の債権、極度額を70,000,000円とする根抵当権を設定した。
(ロ) 請求人は、平成18年10月31日付で、C社がD銀行との取引により現在及び将来負担する一切の債務について、保証極度額を360,000,000円として連帯保証する旨の契約をD銀行との間で締結した。
(ハ) C社は、D銀行から平成19年5月25日に返済期日を同年6月29日とする200,000,000円の手形借入れを行った。その後、当該借入れは、手形書換え等により、平成20年9月30日に、返済期日が同年12月13日、借入金額が188,000,000円にそれぞれ変更されている。
(ニ) 請求人は、上記(イ)の根抵当権の共同担保として、平成19年8月29日に自己の所有していたa市b町○−○所在の宅地152.66平方メートル(以下「本件甲土地」という。)に根抵当権を設定した。
ハ F信用金庫(b支店)との債務保証契約等
(イ) 請求人は、平成17年3月24日に自己の所有していたa市c町○−○所在の山林532平方メートル及び同所○−○所在の山林138平方メートル(平成18年2月24日に土地区画整理法により、2筆併せてa市c町○−○の宅地372.94平方メートルに換地。以下、この換地後の土地を「本件乙土地」といい、本件甲土地と併せて「本件各土地」という。)ほか3筆にC社を債務者、F信用金庫(以下、「F信金」といい、D銀行と併せて「本件各金融機関」という。)を根抵当権者、被担保債権の範囲を信用金庫取引による債権及び手形上・小切手上の債権、極度額を70,000,000円とする根抵当権を設定した。
(ロ) 請求人は、平成19年5月31日付で、C社がF信金との手形貸付取引によって現在及び将来負担する債務について、極度額を120,000,000円として連帯保証する旨の契約をF信金との間で締結した。
(ハ) C社は、F信金から、平成19年12月25日に返済期日を平成20年6月20日とする88,000,000円の手形借入れを行った。
ニ 本件甲土地の譲渡とその代金の流れ
(イ) 請求人は、平成20年11月15日に本件甲土地をGに12,000,000円で譲渡する旨の売買契約を締結し、同年12月17日に本件甲土地を引き渡した。
(ロ) 本件甲土地の譲渡代金は、契約時に手付金1,000,000円、平成20年12月17日に残金11,000,000円が、それぞれ請求人に対して支払われた。
 そして、平成20年12月17日にD銀行E支店のC社名義の普通預金口座(以下「C社甲口座」という。)に11,400,000円が預け入れられ、預入後直ちに同額が同口座から上記ロの(ハ)のC社の手形借入金の返済に充てられた(以下、このD銀行への11,400,000円の返済を「本件弁済甲」という。)。
ホ 本件乙土地の譲渡とその代金の流れ
(イ) 請求人は、平成20年4月29日に本件乙土地をHに18,610,000円で譲渡する旨の売買契約を締結し、同年5月27日に本件乙土地を引き渡した(以下、この本件乙土地の譲渡及び上記ニの本件甲土地の譲渡を併せて「本件各譲渡」という。)。
(ロ) 本件乙土地の譲渡代金は、契約時に手付金1,500,000円が請求人に対して支払われ、平成20年5月27日に残金17,110,000円がF信金b支店の請求人名義の普通預金口座へ振り込まれた。
 そして、平成20年5月27日に当該請求人名義の口座から、2,600,000円がF信金b支店の請求人名義の通知預金に振り替えられるとともに、14,500,000円が同支店のC社名義の普通預金口座(以下「C社乙口座」といい、C社甲口座と併せて「C社各口座」という。)に振替入金された。さらに、C社乙口座からその振替入金後直ちに14,500,000円が上記ハの(ハ)のC社の手形借入金の返済に充てられた(以下、このF信金への14,500,000円の返済を「本件弁済乙」といい、本件弁済甲と併せて「本件各弁済」という。)。
ヘ 本件各弁済に関するC社の会計処理
 C社は、本件各譲渡に係る上記ニの(ロ)及びホの(ロ)のC社各口座の入出金及び本件各弁済に関して、それぞれ次のとおり会計処理を行っている。
(イ) C社甲口座及び本件弁済甲関係(平成20年12月17日)
 (借方) 普通預金(C社甲口座)11,400,000円
/ (貸方) 短期借入金(請求人)11,400,000円
 (借方) 短期借入金(D銀行)11,400,000円
/ (貸方) 普通預金(C社甲口座)11,400,000円
(ロ) C社乙口座及び本件弁済乙関係(平成20年5月27日)
 (借方) 普通預金(C社乙口座)14,500,000円
/ (貸方) 短期借入金(請求人)14,500,000円
 (借方) 短期借入金(F信金)14,500,000円
/ (貸方) 普通預金(C社乙口座)14,500,000円
ト 債務免除通知
 請求人は、C社に対し、平成21年3月27日付で、「債務免除通知書」と題する書面に求償権債権残高25,900,000円を放棄する旨を記載して通知した。
チ 本件更正の請求
 本件更正の請求に当たり、別表2のとおり「譲渡所得のうちないものとみなされる金額」は25,900,000円である旨を記載した「保証債務の履行のための資産の譲渡に関する計算明細書」が、更正の請求書に添付されている。

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2 争点

(1) 争点1

 本件各譲渡は、所得税法第64条第2項に規定する「保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合」の要件に該当するか否か。

(2) 争点2

 争点1の要件に該当する場合、所得税法第64条第2項に規定する「求償権を行使することができないこととなった」のはいつか。

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3 主張

(1) 争点1 本件各譲渡は、所得税法第64条第2項に規定する「保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合」の要件に該当するか否か。

請求人 原処分庁
 次のとおり、物上保証していた本件各土地の譲渡代金がいったんC社の口座を経由しているものの、実質的に請求人が本件各土地の譲渡代金により保証債務を履行したものであるから、本件各譲渡は、保証債務の履行のための資産の譲渡に該当する。  次のとおり、本件各土地の譲渡代金を請求人がC社に貸し付け、その資金でC社が主債務を返済したものであるから、本件各譲渡は、保証債務の履行のための資産の譲渡に該当しない。
1 本件各土地の譲渡代金がC社各口座に入金となった後、直ちに同額が本件各金融機関に返済されており、実質的に請求人が本件各金融機関に返済したものである。 1 請求人とC社とは、別個の人格を有しており、請求人からC社への入金とC社から本件各金融機関への返済とは、それぞれが独立の行為である。
2 本件各金融機関は、口頭で再三所有資産の売却による代位弁済を求めてきた。
 なお、さいたま地方裁判所平成16年4月14日判決からみても、本件特例の適用に当たり、主債務について期限が到来し、あるいは遅滞に陥っていなければならないとする要件はない。
2 本件各金融機関が、請求人に文書で保証債務の履行を請求した事実は認められない。
 なお、F信金からC社への手形貸付の返済期限もまだ到来していない。
3 C社各口座を経由して返済したのは、資金の流れが分かるようにとのC社の経理担当者の判断によるものであり、この経由する方法と請求人の代位弁済によって返済することについて、本件各金融機関にも事前に了解を得ている。 3 資金の流れを明確にするためということが、C社各口座を経由する方法を採ることの合理的な理由とはならない。
4 保証債務の履行に伴い発生した求償権に関し、C社では、限られた会計科目上、「短期借入金」を選択し経理処理したにすぎず、その内容は求償権に係る債務である。 4 C社は、本件各土地の残金決済日における請求人からの入金について、請求人からの短期借入金として経理処理している。
5 請求人は、譲渡代金から譲渡費用や発生するものと誤認識していた納税資金相当額を除いただけで、そのほとんどを本件各弁済に充てている。 5 請求人は、譲渡代金の全額ではなく、仲介手数料、根抵当権抹消登記手続費用、税金相当額を控除した残金をC社各口座に入金しており、任意性が認められる。

(2) 争点2 争点1の要件に該当する場合、所得税法第64条第2項に規定する「求償権を行使することができないこととなった」のはいつか。

請求人 原処分庁
 C社は、少なくとも平成16年9月期以降は実質債務超過が続いており、また、平成20年12月に発生した消費税(○○○○円)が滞納となったことから、求償権を実質的に行使することが不可能な状態であるとの判断に至り、債務免除通知により求償権を放棄した。
 したがって、債務免除を通知した平成21年3月27日が求償権の全部を行使することができなくなった時であり、本件更正の請求は認められるべきである。
 請求人は、「C社は、ここ数年実質債務超過の状態に陥っていた。」旨主張し、また、平成20年4月1日付で請求人とC社が取り交わした確認書において、「請求人は、C社に対する求償権の取得及びその行使については、C社の経営状態、資産等を勘案して債権者である銀行との協議により、その行使をせず、又は放棄するものとする。」旨合意していることから、平成20年中の本件各弁済時点において求償権を行使できない状況にあったと認められ、確定申告書提出後に「求償権を行使することができないこととなった。」のではないから、本件更正の請求は認められない。

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4 判断

(1) 法令解釈

 所得税法第64条第2項は、保証契約を締結して他人の債務の負担をしたところ、その負担を履行するために資産を譲渡し、しかも保証契約締結時の予期に反して求償権を行使することができなくなった場合においては、当該資産の値上り益を現実に享受する機会を失ったものとして当該資産の譲渡による所得に対する課税を免れさせることによって、特に課税上の救済を図ろうとする趣旨の規定であると解される。
 上記趣旨に照らせば、本件特例を適用するためには、納税者が、まる1債権者に対して債務者の債務を保証したこと、まる2上記まる1の保証債務を履行するために資産を譲渡し、保証債務を履行したこと及びまる3上記まる2の保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができなくなったことの3つの実体的要件が必要である。
 そして、形式上保証債務の履行となっていない場合において、上記まる2の要件に該当するためには、実質的にみて保証債務の履行であるということが客観的に明らかであることが必要であると解される。

(2) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ D銀行関係
(イ) C社は、D銀行に対し、事業再建計画の策定に伴い、手形借入金の返済の猶予及び本件甲土地の売却による債務の圧縮を申し出た。
(ロ) D銀行は、上記(イ)の申出に対し、C社に不動産業者を紹介するとともに、本件甲土地の譲渡代金12,000,000円から諸費用を差し引いた11,400,000円の返済を条件として本件甲土地に設定された根抵当権の解除に応じた。
(ハ) 本件甲土地の根抵当権抹消に関する平成20年12月におけるD銀行の稟議資料によれば、D銀行は、C社について、本件甲土地売却後の残る担保土地3筆を約3,400万円と評価し、引き続き破綻懸念先として管理した上で、再建計画についての検討を予定していた。
(ニ) D銀行は、一般的に連帯保証人に代位弁済を求める場合は、主債務者と連帯保証人に対して内容証明郵便で催告し、代位弁済が行われて請求があった場合は、代位弁済の領収書を発行することとしている。
(ホ) 本件弁済甲があった当時のD銀行E支店長K及び支店長補佐Lの当審判所に対する答述によれば、D銀行は、本件弁済甲について、C社及び請求人のいずれにも内容証明郵便による催告をしておらず、代位弁済の領収書も発行していない。
ロ F信金関係
(イ) F信金は、C社に対し、その経営内容が悪化していたことから、本件弁済乙に係る手形貸付の返済期限前から遊休資産である本件乙土地の売却による債務の圧縮の検討をアドバイスしていた。
(ロ) F信金は、C社からの本件乙土地の売却による借入金の圧縮の申出を受け、本件乙土地の譲渡代金から譲渡所得に係る税金や諸費用を差し引いた残額を返済に充てることを条件に本件乙土地に設定された根抵当権の解除に応じた。
(ハ) 本件弁済乙による根抵当権抹消に関する平成20年5月におけるF信金の稟議書によれば、F信金は、C社について、本件乙土地売却後の残る担保土地3筆を約2,400万円として評価の上、引き続き破綻懸念先として管理し、C社が策定中の経営改善計画の検討を予定していた。
(ニ) F信金では、一般的に連帯保証人に代位弁済を求める場合には、内容証明郵便により催告し、代位弁済があった場合には、代位弁済受領書を交付することとしている。
(ホ) 本件弁済乙があった当時のF信金b支店長M及び融資担当Nの当審判所に対する答述によれば、F信金は、本件弁済乙に関しては、返済期限前であり、内容証明郵便による催告はしておらず、請求人に対し代位弁済を求めたことを示す書類もなく、代位弁済受領書も発行していない。
ハ 本件各金融機関のC社に対する手形貸付及びその返済状況は別表3のとおりである。
ニ C社は、平成20年12月に発生した消費税及び地方消費税の滞納について、J国税局に相談の上、平成21年1月16日に○○○○円、同月30日に○○○○円、同年2月26日に○○○○円、同年3月30日に○○○○円、同年4月24日に○○○○円、同年6月25日に○○○○円、同年8月4日に○○○○円、同年9月2日に○○○○円を各々納付し、その後も毎月○○○○円を平成22年3月まで納付している。
ホ C社は、平成19年5月31日から同年8月30日までの間、P省から○○について○○処分を受け、また、同年5月から一定期間、Q県などの地方公共団体からも○○処分を受けている。
ヘ C社の平成16年10月1日から平成17年9月30日まで、平成17年10月1日から平成18年9月30日まで、平成18年10月1日から平成19年9月30日まで、平成19年10月1日から平成20年9月30日まで、平成20年10月1日から平成21年2月28日まで及び平成21年3月1日から平成22年2月28日までの各事業年度(以下、順次「平成17年9月期」、「平成18年9月期」、「平成19年9月期」、「平成20年9月期」、「平成21年2月期」及び「平成22年2月期」という。)の法人税の確定申告書にそれぞれ添付された貸借対照表及び損益計算書の概要は、別表4のとおりである。

(3) 争点1について(本件への当てはめ)

イ 本件各弁済については、上記1の(4)のニ及びホのとおり、C社各口座から本件各金融機関へ返済されており、また、C社が、本件各土地の譲渡代金に係るC社各口座への入金額を請求人からの短期借入金と処理した上で当該入金額により本件各金融機関からの短期借入金を減少させる処理をしていることからすれば、本件各弁済は、形式的には保証債務の履行ではない。
 そこで、本件各弁済が実質的にみて保証債務の履行であることが客観的に明らかどうかを検討したところ、以下のとおりである。
ロ 本件各譲渡の経緯をみると、本件甲土地については、D銀行は、上記(2)のイの(イ)及び(ロ)のとおり再建を図るC社から本件甲土地の売却による借入金の返済の申出を受け、根抵当権の解除に応じ、また、本件乙土地については、F信金は、上記(2)のロの(イ)及び(ロ)のとおり遊休資産である本件乙土地の売却による借入金の圧縮をアドバイスし、C社からの売却の申出を受け、根抵当権の解除に応じたものであると認められ、これらの経緯からすると本件各土地に関して本件各金融機関が担保権の実行を直ちに予定していた状況であったとは認められない。
 また、上記(2)のイの(ホ)及びロの(ホ)のとおり、本件各金融機関は、本件各弁済に当たって、通常、代位弁済の場合に連帯保証人に対して行う内容証明郵便による催告の手続を行っておらず、請求人に対して代位弁済受領書等を発行した事実も認められない。
 さらに、上記(2)のイの(ハ)及びロの(ハ)のとおり、本件各譲渡の後も本件各金融機関は、C社を破綻懸念先として管理していたものの、その再建計画等の検討を予定し、本件各弁済時点において直ちに他の担保土地についての処分を要請している事実も認められない。
 これらのことからすれば、本件各弁済について、請求人による代位弁済が行われるものであったことを示す事実も認められず、請求人が保証債務を履行することが客観的に明らかであったとはいえない。
ハ この点、請求人は、本件各金融機関が口頭で再三所有資産の売却による代位弁済を求めてきた旨主張するが、本件各土地の売却について本件各金融機関から何らかのアドバイス等があったとしても、上記で述べたとおり、本件各金融機関が他の担保物件を含めて直ちに担保権の実行を予定していたとは認められないところ、代位弁済を求める催告の手続もなされておらず、他に請求人に対し代位弁済を求めたと認めるに足る客観的な証拠もない。
 したがって、この点についての請求人の主張は採用できない。
ニ さらに、請求人は、C社の預金口座を経由して本件各金融機関に返済したのは、資金の流れが分かるようにとのC社の経理担当者の判断によるものであり、この経由する方法と請求人の代位弁済によって返済することは本件各金融機関にも事前に了解を得ている旨主張する。
 しかしながら、連帯保証人である請求人が、直接本件各金融機関に返済した場合においては、前述のとおり代位弁済受領書等が発行されるのが通常であり、請求人がこの代位弁済受領書等の発行を受ければ資金の流れは十分に明確となるから、いったん資金をC社の口座を経由させる方法をとらなくてはならないという必要性は認められない。
 また、上記で述べたとおり、本件各金融機関は、請求人による代位弁済を求めていたとまでは認められないから、請求人が主張するように、C社の預金口座を経由したことについて本件各金融機関の了解を得ていたとしても、請求人による代位弁済であることを根拠づける事情とはなり得ない。
 したがって、この点に関する請求人の主張も採用できない。
ホ 次に、本件各弁済前後のC社の経営状況等をみると、上記(2)のホ及びへのとおり、C社は、○○処分を受けた平成19年9月期には完成工事高が急減し営業利益も大幅な赤字となるなど経営状況は悪化しているが、その後、平成20年9月期には完成工事高は平成18年9月期より減少しているものの前期より増加し、さらに、事業年度変更後の平成22年2月期において完成工事高が○○○○円計上されるなど、本件弁済甲の後も当分の間、相当に事業が継続しているものと認められる。また、C社は、平成17年9月期から平成21年2月期までの間、上記1の(4)のロの(イ)のD銀行の根抵当権を設定した土地など330,997千円の土地を引き続き保有していることが認められる。
 さらに、C社は、本件各弁済があった後においても、上記(2)のハのとおり、本件各金融機関に手形借入金の返済を行い、また、上記(2)のニのとおり、滞納となっている消費税及び地方消費税を平成22年3月まで継続して納付している。
 これらのことからすれば、C社は、本件各弁済時点において、本件各金融機関への返済がおよそ困難な状況であったとはいえず、請求人による保証債務の履行の必要性が客観的にみて明らかであったとまでは認められない。
ヘ 以上のとおり、本件各弁済については、本件各譲渡の経緯、譲渡代金の流れ、C社の会計処理、本件各金融機関の処理状況等からみて、請求人が保証債務を履行することが客観的に明らかであったとは認められず、また、上記ホのとおり、C社の資力、債務の返済状況等からすると、請求人が本件各弁済時点において保証債務を履行する必要性が客観的に明らかであったとも認めることはできないから、本件各弁済が実質的にみて請求人による保証債務の履行であることが客観的に明らかであるとは認められない。
 したがって、本件各譲渡は、「保証債務を履行するために資産の譲渡があった場合」の要件には該当しない。

(4) 争点2及び本件特例の適用について

 上記(3)のとおり、本件各譲渡については保証債務を履行するために本件各土地を譲渡したことにはならないのであるから、争点2につき判断するまでもなく、本件各土地の譲渡について、いずれも本件特例の適用はできない。

(5) 本件更正処分について

 本件各譲渡について、上記(4)のとおりいずれも本件特例の適用はできないから、本件特例を適用せずにされた本件更正処分は適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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