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(平6.12.21、裁決事例集No.48 424頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、絵画等美術品販売業を営む同族会社であるが、平成元年8月1日から平成2年7月31日まで及び平成2年8月1日から平成3年7月31日までの課税期間(以下順次、「平成2年7月期」、「平成3年7月期」といい、これらを併せて「各課税期間」という。)の消費税について、次表の「確定申告」欄のとおり記載した確定申告書をいずれも法定申告期限までに提出した。
 原処分庁は、平成4年7月8日付で次表の「更正処分」欄のとおり更正処分及び「賦課決定処分」欄のとおり賦課決定処分をした。

(単位:円)
区分
課税期間
項目
平成2年7月期 平成3年7月期
確定申告 課税標準額 957,250,000 588,248,000
課税標準額に対する消費税額 28,717,500 17,647,440
消費税からの控除税額 20,260,676 14,996,505
納付すべき税額 8,456,800 2,650,900
更正処分 課税標準額 957,250,000 588,248,000
課税標準額に対する消費税額 28,717,500 17,647,440
消費税からの控除税額 13,190,881 8,555,489
納付すべき税額 15,526,600 9,091,900
賦課決定処分 過少申告加算税の額 - 833,500

 請求人は、これらの処分を不服として平成4年8月21日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成4年11月19日付で、いずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成4年12月11日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
 請求人は、消費税法第30条((仕入れに係る消費税額の控除))第1項の規定により、各課税期間の課税標準額に対する消費税額から、同条第8項及び第9項に規定された要件を具備している帳簿又は請求書等に基づいて算出した各課税期間の課税仕入れに係る消費税額の合計額を控除して、各課税期間の消費税の確定申告をした。
 これに対し、原処分庁は、各課税期間の請求人の仕入商品である絵画等美術品の取引には、仕入先の実在が確認できない取引及び仕入先を特定できない取引が含まれており、別表1ないし別表3の取引(以下「本件取引」という。)に係る帳簿及び請求書等は、消費税法第30条第8項及び第9項に規定する要件を具備していないと認められ、同条第7項に規定する「課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合」に該当し、本件取引の課税仕入れに係る消費税額の控除は認められないとして各課税期間の消費税につき更正処分をした。
 しかしながら、本件取引に係る請求人の帳簿及び請求書等には、原処分庁も認めるように、消費税法第30条第8項又は第9項の定める事項のすべてが記載されているにもかかわらず、原処分庁において仕入先の実在の確認とその特定が当該帳簿及び請求書等自体によって可能でない限り、本件取引の課税仕入れに係る消費税額の控除は認められないとする原処分は、法令の規定によらない処分であることは明らかである。
 原処分庁の主張によれば、請求人は、一般的な商取引において取引の相手先から交付された領収証に記載された氏名等が真正なものであるか否かを、相手先にその都度確認しなければならないことになり、仮に真正なものでないと推認された場合でも、請求人には、その相手先に真正な氏名等を問いただす法律上の権限は付与されておらず、また、請求人の取引先は、遠隔地に所在する取引先も多いことから、請求人は、仕入先の実在の確認も特定も行い得る環境にはないというべきである。
 さらに、原処分庁は、請求人が各課税期間の請求人の仕入商品である絵画等美術品の真実の所有者を知っているにもかかわらず、原処分庁の請求人に対する消費税の調査(以下「本件調査」という。)において、その氏名等を本件調査の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)に明らかにしなかった旨主張するが、上記のとおり、現行法制下においては、請求人は仕入先の実在の確認もその特定も行い得る手段を有しておらず、また、請求人は、仕入れにおける後日のトラブルに備えて、1当該絵画等美術品の真実の所有者と推認される者の氏名等及び2当該絵画等美術品を持ち込んだ者と受領した領収証等の氏名等が相違する場合、当該持ち込んだ者の氏名等を記録した手帳(以下「本件手帳」という。)を保有しているにすぎないものであり、この点に関する原処分庁の主張は事実誤認に基づくものである。
 なお、法人税に関するものであって税目こそ異なるものの、昭和43年9月24日広島地裁判決が、仕入先の真正な氏名の記載がないことをもって、当該仕入れを否定した原処分は相当でないと判示していることからも、本件取引を否認することは出来ない。
ロ 賦課決定処分について
 上記イのとおり、各課税期間の消費税に係る更正処分は違法であるから、その全部の取消しに伴い、平成3年7月期の過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により、いずれも適法である。
イ 更正処分について
(イ) 請求人が保存している本件取引に係る帳簿及び請求書等が消費税法第30条第7項ないし第9項に規定する帳簿及び請求書等に該当するか否かについて調査したところ、次の事実が認められる。
A 請求人は、消費税法第30条第7項に規定する課税仕入れ等に係る消費税額の控除に係る帳簿として仕入先元帳(以下「本件仕入先元帳」という。)を提示したが、当該元帳には、外観上同条第8項第1号イないしニの事項についての記載が一応されていること。
B 本件仕入先元帳には、「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」として記載されているもののうち、その一部については実在する者か否かの確認ができないこと。
C 請求人が保存する消費税法第30条第7項に規定する課税仕入れ等に係る消費税額の控除に係る請求書等(以下「本件請求書等」という。)には、外観上同条第9項第1号イないしホの事項についての記載が一応されていること。
D 本件請求書等のうち一部については「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」のみが記載されており、住所等の記載がないことから、課税仕入れの相手方として特定ができない者があること。
E 前記B及びDで述べた、実在する者か否かの確認又は相手方の特定をすることができないものについて、調査担当職員が請求人の代表取締役M(以下「代表取締役M」という。)に対し、真実の氏名又は名称及び住所等が明確にされなければ、当該取引に係る消費税額の控除は認められない旨を説明し、再三にわたり、真実の氏名又は名称及び住所等を明らかにするよう求めたにもかかわらず、代表取締役Mは請求人の事業継続に支障がある旨主張し、これらを明らかにしなかったこと。
F 代表取締役Mは、1絵画等美術品の真実の所有者と推認される者の氏名等及び2当該絵画等美術品を持ち込んだ者と受領した領収証等の氏名等が相違する場合、当該持ち込んだ者の氏名等を記録した本件手帳を保存している旨を本件調査の際に申述していること。
G 平成4年7月1日に、調査担当職員が代表取締役Mに対し本件手帳の提示を求めたにもかかわらず、同人は、これを提示しなかったこと。
(ロ) ところで、消費税法第30条第7項は、課税仕入れに係る消費税額を課税標準額に対する消費税額から控除する要件として、課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等の保存を規定しているが、これは課税標準額に対する消費税額から課税仕入れに係る消費税額の合計額を控除して納付税額を算出する仕組みとされていることに基因するものであり、課税の累積を排除する方式、すなわち、前段階の消費税額を控除する方式を採用していることにより、この前段階の消費税額として、課税仕入れに係る消費税額を把握する必要がある。
 また、消費税法は帳簿方式を採っているから、帳簿により、その取引が課税対象取引であって、しかも課税仕入れの相手方が当該取引を課税売上げに計上していることが確認され、課税仕入れを行った者が課税仕入れに係る消費税額の控除に関するデータを保存し、申告や調査の際に正しい税額控除の計算に資することを求めているのは当然のことであり、その記載内容が真実であって、かつ、「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」についても、住所等を記載するなどの方法により、相手方を具体的に特定できる状態におくことが不可欠である。
(ハ) 前記(イ)及び(ロ)の事実等から判断すると、本件仕入先元帳及び本件請求書等のうち、本件取引については、取引の相手方の実在すら確認ができず、課税仕入れの相手方の真正な氏名又は名称が記載されているとは認められないことから、消費税法第30条第8項及び第9項に規定する記載要件を具備していないと認められ、同条第7項に規定する「課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合」に該当することになるので、本件取引の課税仕入れに係る消費税額については、課税標準額に対する消費税額から控除することはできない。
(ニ) 納付すべき税額について
A 課税標準額
 各課税期間の課税標準額は請求人の申告額のとおり、平成2年7月期は957,250,000円及び平成3年7月期は588,248,000円である。
B 課税標準額に対する消費税額
 各課税期間の課税標準額に対する消費税額は、上記Aの課税標準額に100分の3を乗じた平成2年7月期28,717,500円及び平成3年7月期17,647,440円となる。
C 消費税額からの控除税額
 各課税期間の消費税額からの控除税額は、請求人が申告した控除対象仕入税額から、本件取引に係る消費税額を減算し、請求人の申告による売上に係る対価の返還等の金額に係る消費税額を加算した次表の金額となる。

(単位:円)
課税期間
項目
平成2年7月期 平成3年7月期
控除対象仕入税額1 20,250,841 14,995,013
本件取引に係る消費税額2 7,069,795 6,441,016
売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額3 9,835 1,492
消費税からの控除税額(123 13,190,881 8,555,489

D 納付すべき税額
 各課税期間の納付すべき税額は、前記Bの課税標準額に対する消費税額から、上記Cの消費税額からの控除税額を差し引いた次表の金額となる。

(単位:円)
課税期間
項目
平成2年7月期 平成3年7月期
課税標準額に対する消費税額1 28,717,500 17,647,440
消費税からの控除税額2 13,190,881 8,555,489
納付すべき税額(12)(百円未満の端数切り捨て) 15,526,600 9,091,900

 したがって、この金額と同額でした各課税期間の消費税に係る更正処分は適法である。
ロ 賦課決定処分について
 上記イのとおり、各課税期間の消費税に係る更正処分は適法であり、かつ、請求人が過少申告したことについて、国税通則法第65条((過少申告加算税))第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないから、平成3年7月期の過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。

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3 判断

(1) 更正処分について

 本件取引に係る消費税額を控除することができるかどうかについて争いがあるので、以下調査、審理する。
イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の間で争いがなく、当審判所の調査によっても認めることができる。
(イ) 本件調査において、請求人は、調査担当職員に対し、本件仕入先元帳及び本件請求書等を提示したこと。
(ロ) 本件仕入先元帳には、外観上消費税法第30条第8項第1号イないしニの事項について一応の記載があること。
(ハ) 本件請求書等には、外観上消費税法第30条第9項第1号イないしホの事項について一応の記載があること。
ロ 当審判所において、原処分関係資料を調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件仕入先元帳には、仕入先とされる者の氏名又は名称の記載はあるが、その住所又は所在地の記載はないこと。
(ロ) 本件請求書等については、仕入先とされる者の住所又は所在地の記載がないものが大部分であること。
(ハ) 本件調査の経緯は、次のとおりであること。
A 調査担当職員は、平成4年3月24日、請求人に対して、平成3年7月期の課税仕入れに係る仕入先の氏名又は名称及び住所等を明らかにするよう依頼し、請求人は、同年4月2日、本件仕入先元帳を提示したこと。
B 平成4年4月6日、請求人は、調査担当職員の求めにより、17件の仕入先について、氏名又は名称並びに郵便番号及び住所等を記載したリストを、郵送により、提出したこと。
C 調査担当職員は、平成4年5月6日、請求人の事務所に臨場し、本件仕入先元帳及び本件請求書等を調査したこと。
 また、調査担当職員は、同日、代表取締役Mらに対し、仕入先を明らかにしなければ当該仕入れに係る消費税額の控除は認められない旨説明し、仕入先が特定されないと認めた466件の取引を記載した書面を請求人に提示し、仕入先を特定するため、住所等を明らかにするよう求めたこと。
D 請求人は、平成4年5月7日、再度請求人の事務所に臨場した調査担当職員に対し、上記Cの466件のうち120件の仕入先について、氏名又は名称並びに郵便番号及び住所等を記載したリストを提出したこと。
 これに対し、調査担当職員は、再度、上記Cと同様の説明をし、同様に残余の者についても住所等を明らかにするよう求めたこと。
E 請求人は、平成4年5月11日、17件の仕入先について、上記Dと同様のリストを調査担当職員に提出したこと。
F 平成4年6月1日、P税務署に来訪した代表取締役Mらに対し、調査担当職員は、120件の仕入先につき、住所等が明らかでないとして、一覧表を提示し、住所等を明らかにしなければ、これらの仕入れに係る仕入税額控除は認められないと説明するとともに、修正申告書の提出をしょうようしたこと。
G 平成4年6月10日付で、請求人の関与税理士であるN(以下「N税理士」という。)は、意見書(以下「本件意見書」という。)を原処分庁に提出した。
 本件意見書中には、次のように記している。
 なお、本件意見書中の「当法人」又は「当社」とは、請求人のことを指すものと認められる。
(A) 「当法人の如き業種では、絵画等美術品の真正の収蔵家(所有者と言っても良い。)と、画廊(当法人もそのひとつである。)へこれらを持ち込み買取を要求する者、あるいは画廊側から所有者と思われる者に接触して、当該絵画等美術品の譲り渡しを求める場合の当該所有者と思われる者(以下「持込人等」という。)とは、一致しない事例が多多存在する。」
 「それゆえ、当法人は、絵画等美術品の仕入に際しては、物品相当額の金銭と引きかえに、当該絵画等美術品と仕入先関係者作成の領収証を、その記載事項が真実であると信じて受領する以外に手段はない。」
(B) 「しかしながら、当法人は転売した絵画等美術品に、隠された瑕疵が存在した場合の損害賠償請求に備えて、当該物品の持込人等とその持込人等が作成した領収証の名義人の関連が、明瞭でないと推認し得た場合に限って(これについては一定の基準があるわけでなく文字どおり当事者の主観的判断によっている。)、当該絵画等美術品の持込人等の真正な住所および氏名を秘かに記録の上保管している。」
(C) 「しかしながら、こういった事例における物品持込人等が当該物品の買取を求める際、自身の真正な住所氏名の秘匿を強く相手に求めるのが通例であり、これを拒めば貴重な、そして転売することによって大きな利潤を会社にもたらすであろう取引の機会を失うことになるので、当社を含めた業界ではやむなくこれを容認せざるを得ないというのが実状である。」
(D) 「御署側の事情として、当法人の仕入の一部について、絵画等美術品譲り渡し人の真正の住所氏名の確認を求めんとする事情は理解できるものの、これを開示することは、結果として間違いなく当法人の経営上の死命を制せられることになるので、御署の要望に応えることは出来ないとの当法人からの申し出がある以上、今回の御署による修正申告のしょうようには応ずることは出来ない。」
(E) 「本件については、法曹と相談の上、行政争訟の場において、当該絵画等美術品持込人等の真正な住所氏名を開示することに決定したことを申し添える。」
H 本件意見書に添付された「質問応答書」と称する書面(N税理士の事務所の職員Sが質問し、代表取締役Mが回答したこととして記載されており、代表取締役M及びSの署名及び押印とされるものがある。以下「本件質問応答書」という。)には、次のとおり記されている。
 なお、当審判所として、本件質問応答書が真正に作成されたものであることを疑う理由は認められない。
(A) 「問題は、その絵画などが、持込んできた人や収蔵家など、その人達自身が所有するものなのか、それともさらに別に収蔵家が居て、その人に売却をたのまれて代理をしているのかが全々わからないし、確認のしょうがないということなのです。」(「答」のうち)
(B) 「問:その領収証に書かれた氏名が真正なものかどうか確認はしませんか。
答: しません。そんなことを言うと二度と品物を持って来なくなります。
問: ということは、領収証に嘘の氏名が書いてあるということですか。
答: 違います。ほんとうの氏名かどうか確認する方法がないと言っているんです。」
(C) 「問: 絵などその品物を持ってきた人と領収証の氏名が違っていたとき、絵を持ってきた人について何か記録していますか。
答: 絵など美術品は売ってから「きず」があったとクレームが付いたり、真正の所有者からのクレームの申し出があることが間々ありますので、そういった場合には、ほとんどの場合で現にその品物を持っている人の本当の名前が推察できていますので、それをこっそり記録して持っています。
問: 今も持っていますか。
答: ちゃんとあります。」
(D) 「問: この問題は多分行政訴訟にならないと結着しないと思いますが、裁判の場でその記録が見せられますか。
答: やむを得ませんが、裁判官にだけ見せます。」
I 平成4年6月24日、N税理士は調査担当職員と電話で応答したが、その際、次のような応答があったこと。
(A) 調査担当職員が、代表取締役Mに会いたいとして、N税理士の立会いを求め、さらに、修正申告しょうようの時点では実在する者と思われた者の一部に、実在を確認することができない者が含まれているので、その確認をとりたいとしたところ、N税理士は、代表取締役Mはこれ以上相手先を明らかにしないと言っていると答えた。
(B) 調査担当職員が、本件意見書の記述(前記Gの(E)の部分をいうと認められる。)からみると、課税庁に開示できない帳票類があるということかと問うたところ、あると答え、これ以上の帳票類を開示する必要はないと考えていると答えた。
J 平成4年7月1日、請求人の事務所に臨場した調査担当職員と代表取締役Mとの間で、次のような応答があったこと。
(A) 調査担当職員が、調査において、住所が記載されていることを確認した領収証のうち2名分については、当該相手先の実在を確認することができないことが判明したと述べたところ、代表取締役Mは、商品を持ち込んだ人が、持込人か所有者かはわからない、領収証に記載された住所、氏名が正しいものかどうかを確認すれば、商取引はなくなると述べた。
(B) 代表取締役Mは、持込人と所有者が違うケースがあり、こういうケースのときに、真実の所有者を控えた手帳があると述べ、客先に尋ねないという文書をもらえたら提示すると述べたので、調査担当職員がこれを拒否すると、代表取締役Mは、それでは提示しないと述べた。
K 原処分庁は、請求人の各課税期間の課税仕入れのうち、本件請求書等に仕入先の住所又は所在地が記載されていず、請求人が住所又は所在地を明らかにしなかったもの(以下「本件甲取引」という。)として、平成2年7月期84件、平成3年7月期135件、計219件及び本件請求書等に仕入先の住所又は所在地が記載されていたが、仕入先の実在を確認することができないもの(以下「本件乙取引」という。)として、平成2年7月期1件、平成3年7月期1件、計2件について、消費税法第30条第1項の仕入税額控除を認めず、各課税期間の消費税につき更正処分をしたものであること。
ハ 当審判所において、異議審理関係資料を調査したところによれば、請求人に対する消費税の異議調査(以下「本件異議調査」という。)において、代表取締役Mは、本件異議調査の異議担当職員(以下「異議担当職員」という。)に対して、次のように申述していることが認められる。
 なお、代表取締役Mは、質問てん末書に署名押印をしていないが、上記ロに記載した本件意見書、本件質問応答書その他の資料に照らし、この申述は真正なものであると認められる。
(イ) 持ち込んだ本人はわかるようにしてあること、ただし、真正の所有者まではわからないものもあること。
(ロ) 相手先に迷惑をかけないという保証があれば、今でも持込人がわかるものを提出すること。
ニ 請求人は、異議担当職員に対し、前記ハの(ロ)の持込人がわかる資料を提出していないことが認められる。
ホ 代表取締役Mは、当審判所に対して、次のとおり答述した。
(イ) 本件審査請求においては、消費税法が氏名又は名称とのみ規定しているのにもかかわらず、仕入先の実在確認義務まで負わしているかどうかを争うものであり、持込人等の住所・氏名を記載した手帳を審判所に提出することはしない。
(ロ) 当該手帳には、住所・氏名が記載してあるが、中には、氏名のみ記載してあるものもある。
 ただし、それらの者の住所は自分の頭に入っている。
(ハ) 持込人とは、ビジネス上のつながりがあり、トラブルを起こしたくないので、税務署の人から相手先のところへ行って確かめることをしないという文書をもらえるというならば、手帳をお見せすると税務署の人に言った。
(ニ) 原処分庁の答弁書中に、仕入税額控除が認められなかった仕入先名の表(別表1ないし3と同じ。)があるが、当該表の中には、原処分庁に見せた領収書に住所の書いてあるものがあり、また、W工房というのは、現在は解散した法人であり、原処分庁の調査結果には、おかしい点がある。
(ホ) 上記(ニ)の領収書については、裁判で争うことになれば提出することもあり得るが、審判所に提出することはしない。
ヘ 当審判所が原処分関係資料を調査したところ、前記ホの(ニ)の「領収書に住所の書いてあるもの」とは、前記ロの(ハ)のKの本件乙取引であると認められ、これらは、具体的には次表の取引である。

仕入先氏名 仕入先の住所
仕入年月日 仕入金額 作者名 作品名
A R市T町3−7
平成2年4月11日 50,000,000円 C ××
B U市○○
平成3年1月28日 25,000,000円 D △△

(イ) 本件乙取引について、原処分庁は、領収書に記載された住所地に実在が確認できなかったことから、本件乙取引に係る仕入先として記載された相手先の氏名は虚偽記載であると認定していることが認められる。
(ロ) 当審判所において上記仕入先について調査したところ、A及びBは、いずれも、昭和64年1月1日から平成5年2月16日までの間、上表の住所とされる地域(Bについては、この表示に該当し得る地域)の住民基本台帳に記録がない。
 なお、R市T町3ー7には、通常の住居のほかEコーポと称するアパートがあるが、いずれにもAの居住は確認されない。
 また、「U市○○」という表示は、俗称に係るものであるから、どこまでの地域が含まれるかは明らかでないが、通常はF通による表示でG町、H町、I町、J町及びK町を指し、当該住所地のいずれにもBの居住は確認されない。
(ハ) 請求人は、前記ホのとおり、領収書及び本件手帳を提示しないので、当審判所として、これ以上の調査をすることができない。
ト W工房について、原処分庁は、請求人が住所等を明らかにしないため、帳簿等に記載された取引の相手方の実在を確認することができないことから、課税仕入れの真正な氏名が記載されたものではないと認定していることが認められる。
チ 消費税法第30条の適用に関し、原処分庁は、「課税仕入れの相手方の氏名又は名称についても、住所等を記載するなどの方法により、相手方を具体的に特定できる状態にしておくことが不可欠である」とし、「本件取引は、取引の相手方の実在すら確認ができず、課税仕入れの相手方の真正な氏名又は名称が記載されているとは認められない」から、同条第8項及び第9項に規定する記載要件を具備していず、同条第7項に規定する「課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合」に該当すると主張する。
 これに対して、請求人は、このような原処分庁の主張は、法令の規定によらないものであり、請求人には相手方に真正な氏名等を問いただす法律上の権利は付与されていない等として、消費税法第30条第8項又は第9項に規定する事項のすべてが記載されている以上、仕入税額控除が認められるべきであると主張する。
 この点については、次のとおりである。
(イ) 消費税法第30条は、第1項において、事業者が国内において課税仕入れを行った場合には、当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から、課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定するとともに、第7項において、事業者が当該課税仕入れにつき法定の要件を具備した帳簿又は請求書等を保存しない場合には、仕入税額控除に関する第1項の規定を適用しないものとしている。
 そして、消費税法第30条第8項によれば、上記帳簿には課税仕入れの相手方の氏名又は名称が記載されていることを要し、また、同条第9項によれば、上記請求書等とは、当該課税仕入れの相手方が仕入れをする事業者に交付する請求書、納品書その他これらに類する書類であって、その書類の作成者の氏名又は名称が記載されているものであることを要する。
 したがって、仕入税額控除に関する消費税法第30条第1項の規定が適用されるためには、保存されている帳簿又は請求書等に、真実の課税仕入れの相手方の氏名又は名称が記載されていることを要し、ただ単に課税仕入れの相手方ないし書類作成者の氏名又は名称として何らかの氏名又は名称と覚しきものが形式的に記載されていれば足りるというものではないことは、明らかである。
 この点に関連して、請求人は、取引の相手方に真正の氏名又は名称を問いただす法律上の権限がないこと、消費税法は、事業者に対し、かかる氏名又は名称を確認すべき義務を課していないことを根拠として、当該課税仕入れにつき、売主側に立って取引の交渉、売買物件の引渡し、代金の受領、領収証の交付等の行為を実際に行なった者から、取引の相手方の氏名又は名称として示されたものを記載しておけば、それで足りると主張するもののようであるが、そもそも請求人は、当該課税仕入れについては、その取引の一方の当事者であって、特段の事情がない限り、その相手方が何人であるかを当然に知り得る立場にあるというべきであり、請求人がその主張の根拠とする上記事由をもって、このことが否定されるものではない。
 もっとも、商取引においては、取引の相手側に立って交渉その他の取引に関連する行為を実際に行う者が、相手方本人なのか、あるいは、相手方本人は別にいて、実際に行動する者はその代理人に過ぎないのかが判然としない場合もあることは、否定し得ないところである。
 かかる場合においても、事業者としては、実際に行動する者が相手方本人であるか否かを確認した上、真実の取引の相手方の氏名又は名称を帳簿又は請求書等に記載することが望ましいことは、いうまでもないが、当該取引をめぐる事情から、それを期待し難い場合等においては、取引の相手側に立って実際に行動する者の氏名又は名称の記載をもって、消費税法第30条第8項又は同条第9項の要件を満たすものと解し得ると認められる。
 商行為の代理については、たとえ代理人が本人のためにすることを示さない場合であっても、その行為の本人に対して効力を生じ、相手方が本人のためにすることを知らなかったときは、本人のほか代理人に対しても履行の請求をすることを妨げないものとされている(商法第504条)うえ、また上記のように解しても、消費税法の上記条項の立法趣旨を損なうものとはいえないからである。
(ロ) ところで、消費税法第30条第1項の規定の適用除外事由である法定の要件を具備した帳簿又は請求書等を保存していないという事実については、事業者は当該課税仕入れに係る取引の当事者として取引に関する資料を保持していること、課税庁は取引と直接関係がない者であることなどを考慮すると、事業者側において、まず、帳簿又は請求書等に課税仕入れの相手方の氏名又は名称として記載されているものが、真実の相手方のそれであることを、相当の根拠、資料に基づいて明らかにする必要があり、事業者がこれを果たさない場合には、当該課税仕入れにつき法定の要件を具備した帳簿又は請求書等を保存していないことが、事実上推認されるというべきである。
 そして、取引の経緯等から、相手側に立って実際に行動する者から交付される請求書等に、真実の取引の相手の氏名又は名称が記載されているか否か、社会通念上要求されるところの注意の範囲内で相当程度疑われるにもかかわらず、あえて、これを確認しようとせず、漫然と当該請求書等を保存し、あるいは、当該請求書等に基づいて帳簿に記載するにとどまるときは、いまだ事業者において、帳簿又は請求書等に記載された氏名又は名称が、真実の相手方のそれであることを明らかにする必要を果たしたということはできないところである。
(ハ) 他方、原処分庁の主張が、帳簿又は請求書等自体あるいはその記載のみから、課税庁において、取引の相手方が実在する(あるいは実在した)特定人であることを確認し得るものでなければならず、その関係で、相手方の氏名又は名称のみならずその住所又は所在地も帳簿又は請求書等自体に記載されていない限り、消費税法第30条第8項又は同条第9項の要件を充足しないというものであるとすれば、これは、明文の規定に反する解釈といわなければならない。
 確かに、仕入税額控除に関する同条第1項が適用されるためには、上述のとおり、保存されている帳簿又は請求書等に真実の相手方の氏名又は名称が記載されていることを要するが、そのことは、帳簿又は請求書等以外の資料によっても明らかにし得るものであるからである。
(ニ) また、上記の保存には、権限ある税務職員から、税法の規定に基づき、帳簿又は請求書等の提示を求められた場合には、これに応じて提示することを含むものと解されるから、事業者が、同税務職員の提示の求めにもかかわらず、これに応じなかったときには、当該帳簿等は、その時点において保存を継続していなかったこととなるというべきである。
 すなわち、消費税法第30条第7項によれば、仕入税額控除に関する同条第1項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合には、災害その他やむを得ない事情により当該保存をすることができなかったことを当該事業者において証明した場合を除き、当該保存がない課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しないこととされている。
 また、消費税法施行令第50条((課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の保存期間等))第1項によれば、同法第30条第1項の規定の適用を受けようとする事業者は、同条第7項に規定する帳簿又は請求書等を整理し、帳簿についてはその閉鎖の日の属する課税期間の末日の翌日から、請求書等についてはその受領した日の属する課税期間の末日の翌日から、それぞれ2月(清算中の法人について残余財産が確定した場合には1月)を経過した日から7年間、これを納税地又はその取引に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地に保存しなければならないこととされている。
 これらの規定内容を通観すれば、帳簿等の保存年限が、商法では10年とされているのに対し、消費税法では税務当局において課税権限を行使し得る最長の期限である7年とされていること、その保存場所も納税地等に限られていることからみて、消費税法第30条第7項が、帳簿等の保存がなければ原則として同条第1項の規定を適用しないとしているのは、適法な税務調査がなされる際には当然に保存されている帳簿等が提示され、これに基づいて課税仕入れ等に係る消費税額が算出され得ることを予定し、このような確実な資料が保存されていない場合には、仕入税額を控除しないこととするという趣旨によるものと解される。
 そうすると、消費税法第30条第7項にいう帳簿等の保存とは、ただ単に帳簿等が事業者の支配下に存在するということのみをいうのではなく、権限ある税務職員からその提示を求められた場合には、適法な事由がない限りこれに応じ、当該職員においてこれを確認し得る状態に置くべきことをも含むものであり、このことを含めて、上記の7年間保存が継続されなければならないと解される。
リ 本件甲取引について、これをみると、前記イの(ロ)及び(ハ)並びに前記ロの(イ)及び(ロ)のとおり、本件仕入先元帳には氏名又は名称の記載はあるが、住所等の記載はなく、本件請求書等にも住所等の記載がないと認められる。
 また、請求人は、前記ロの(ハ)のとおり、調査担当職員が再三にわたり、住所等を明らかにするよう要求したにもかかわらず、その知・不知はともかく、結果的には、住所等を明らかにしていないものと認められる。
(イ) 前記ロの(ハ)のG、H及びJ並びに前記ハ、ニ及びホによれば、請求人は、その取引について、1直接請求人と接触して売買の手続を行う者(以下「本件持込人等」という。)が取引対象物件の真正の所有者である場合とない場合とが混在しており、必ずしもすべての取引において、本件持込人等が真正の所有者でないことを認識しており、また、2本件持込人等が記載した又は既に記載して持参した領収証等の書類により、取引の相手方の氏名又は住所を本件仕入先元帳に記載していることを自認しているものと認められる。
(ロ) そうすると、請求人は、当該事業の運営に当たり、社会通念上要求されるところの注意の範囲内で、本件仕入先元帳又は本件請求書等に記載された相手方の氏名又は名称が、必ずしも真正なものでないことを認識していたものといわざるを得ない。
(ハ) 他方、前記ロの(ハ)のGの(B)及び(E)、前記ロの(ハ)のHの(C)及び(D)、前記ハ並びにホの(ロ)及び(ハ)に照らし、請求人は、本件持込人等については、その氏名又は名称及び住所等を承知していたものと認められる。
(ニ) このような取引における帳簿又は請求書等に記載すべき「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」としては、実際の取引上の交渉の相手方であり、売買物件及び代金の受渡し等の当事者である本件持込人等の氏名又は名称を記載した場合には、これをもって足りると解すべきである。
(ホ) 他方、本件持込人等が記載した氏名等又は持参した書面に記載されていた氏名等を相手方の氏名又は名称として記載した場合においては、当該記載された氏名又は名称が真正なものでないと認定されたときには、消費税法第30条第7項にいう帳簿又は請求書等を保存しない場合に該当し、仕入税額控除を受けられないものというべきである。
(ヘ) もっとも、上記の本件持込人等が記載した氏名等又は持参した書面に記載されていた氏名等を、一応真正な取引の相手方の氏名等として帳簿に記載等をしていた場合でも、これが、必ずしも真正でない可能性があることを考慮して、本件持込人等の氏名又は名称を記載した書類を別途作成し、保存していた(権限ある税務職員の求めに応じて提示することを含む。)ときには、当該書類は、一種の補助帳簿(消費税法第30条第8項の帳簿の一部)として位置づけられ、帳簿(上記の補助帳簿を除く。)に記載等をした氏名等が真正のものでないと認定された場合でも、当該書類の保存によって、仕入税額控除の適用をすることができるというべきである。
(ト) ところで、前記ロの(ハ)のGの(B)及び(D)、ロの(ハ)のHの(C)、ロの(ハ)のI及びJ、ハの(ロ)、ニ並びにホの(イ)ないし(ハ)及び(ホ)から、請求人は、本件持込人等の氏名等と本件持込人等から受領した領収証等の氏名が異なった場合には、本件持込人等の氏名等を記すとともに、当該取引対象物件の真正の所有者と推認される者の氏名等を記載したメモ(「本件手帳」)を作成し、保管していることが認められ、かつ、請求人は、調査担当職員、異議担当職員及び当審判所のいずれにも、本件手帳を提出しないとしていることが認められる。
(チ) 本件甲取引において本件仕入先元帳及び本件請求書等に記載されている住所等については、1前記(ロ)のとおり、請求人も、これが真正なものであるか否か不明であると認識しており、かつ、2前記ロの(ハ)のGの(C)及びホの(ハ)のとおり、本件持込人等自身が氏名等を明らかにされることを回避しようとしている以上、経験則上、本件持込人等が記載した氏名等又は持参した書類に記載された氏名等が真正の所有者ないし売却者の真正な氏名又は名称であることは考え難いところであり、加えて、3上記(ト)のとおりの事情が認められるのであるから、これは、真正の取引の相手先の氏名又は名称ではないと推定され、かつ、本件持込人等の真正の氏名又は名称でもないと推定される。
(リ) もとより、請求人は、当審判所に対し、本件手帳を示し、さらに当該取引に係る本件持込人等の答述等を示すことにより、上記の各推定を覆すことは可能であるが、請求人は、これらの行為を一切しようとしないのであるから、当審判所としては、本件仕入先元帳及び本件請求書等に記載されていた相手先の氏名又は名称は虚偽のものと認定せざるを得ない。
(ヌ) なお、上記(リ)にいう本件手帳の当審判所への提示については、単に本件仕入先元帳等に記載された相手方の氏名等が真正なものであるかどうかの判断の証拠資料としてのみ認められるものであり、本件手帳に上記の記載された相手方の氏名等以外の氏名が真正の所有者たる取引の相手先又は本件持込人等の氏名又は名称として記載されており、かつ、これが正確であるとしても、前記(ヘ)及びチの(ニ)に照らし、本件手帳は、請求人が調査担当職員の提示の要求を拒否した時点において、既に帳簿等としての保存を継続していないと認められるから、これによって、消費税法第30条第7項の要件を満たすものでないということはいうまでもない。
(ル) そうすると、本件甲取引については、1請求人は、当該事業を営む上で社会通念上要求されるところの相当の注意の範囲で、当該相手方の氏名等が必ずしも真正なものでないことを認識していたにもかかわらず、2請求人の確認し得る本件持込人等の氏名を本件仕入先元帳に記載することなく、3本件持込人等が記載等した氏名等を本件仕入先元帳に記載し、4本件持込人等の氏名等を記載した本件手帳を調査担当職員の要求にもかかわらず提示せず、かつ、5上記3の氏名等は虚偽と認定されるのであるから、当該氏名等は、消費税法第30条第8項第1号イ又は同条第9項第1号イの「氏名又は名称」ということはできないところであり、したがって、同条第7項の「課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等を保存していない場合」に該当し、同条第1項の規定による仕入税額控除をすることはできない。
ヌ 次いで、本件乙取引について検討する。
(イ) 本件乙取引については、前記ヘのとおりであり、かつ、前記リの(チ)及び(リ)に記するところは、ここでも同様に妥当すると認められるから、当審判所としては、本件乙取引につき、本件請求書等に記載された氏名は虚偽のものと認定せざるを得ない。
(ロ) そうすると、本件乙取引についても、前記リの(ル)の1ないし4の認定事実は全く同様であるから、前記リの(ル)に記したところと同様、消費税法第30条第7項の「課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等を保存しない場合」に該当し、同条第1項の規定による仕入税額控除をすることはできない。
ル ところで、請求人は、審査請求書に、昭和43年9月24日広島地方裁判所判決を添付し、仕入先の真正な氏名の記載がないことをもって、当該仕入れを否認することはできないと主張する。
(イ) しかし、当審判所の上記の判断は、本件仕入先元帳等に記載された氏名等が真正でないことをもって、当該仕入れを否定するものではなく、上記の各認定事実の下で、虚偽の氏名等の記載された本件仕入先元帳又は本件請求書等は、消費税法第30条第7項ないし第9項の規定による「課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿又は請求書等」に該当しないと判断したものであり、当該仕入れが同条第1項の課税仕入れに当たらないと判断したものではない。
 なお、消費税法においては、同法第30条第1項に規定する課税仕入れの税額控除は、同条第7項の要件を満たしている場合にのみすることができるのであるから、たとえ同条第1項の課税仕入れに当たっても、同条第7項の要件を満たさなければ課税仕入れに係る消費税額の控除ができないものである。
(ロ) しかし、たとえ帳簿等に記載された相手方の氏名又は名称が虚偽の場合であっても、1当該事業者がこれを真正と信ずべき相当な理由があり、そのため、当該帳簿等が消費税法第30条第7項の要件を満たす帳簿又は請求書等として保存されていると認められる場合、又は、2やむを得ない事情により、同条第7項の要件を満たす帳簿又は請求書等を保存することができなかったことを、当該事業者において証明した場合には、同条第1項の仕入税額控除は適用されるのであり、その際には、上記(イ)のとおり、氏名等が真正でないことをもって当該仕入税額控除ができなくなるものではないというべきである。
(ハ) 本件においては、上記(ロ)の1の場合に該当しないことは、上記のとおり明らかである。
 上記(ロ)の2の「やむを得ない事情」については、請求人において積極的な主張及び証明がみられない。
 しかし、仮に、1相手先に真正な氏名等を問いただす法律上の権限がない、仕入先の実在の確認も特定も行い得る現状にないとの主張、また、2本件持込人等はビジネス上のつながりがあり、トラブルを起こしたくないとの当審判所への答述(前記ホの(ハ))、及び本件意見書における前記ロの(ハ)のGの(C)の記載をもって、「やむを得ない事情」を主張し、また、証明しようとしていると解したとしても、上記1については、既に記載したとおり、「やむを得ない事情」を主張するところの前提を欠くものであり、また、上記2については、課税仕入れの相手方の氏名又は名称を記載した帳簿等を保存することを求める消費税法第30条第7項ないし第9項の規定の趣旨と全く相いれないところであるから、そもそも「やむを得ない事情」に当たることはあり得ないというべきである。
ヲ 以上のとおりであるから、本件取引については、消費税法第30条第7項の規定により、同条第1項の規定は適用することができないので、同項に規定する課税仕入れの存否及びその支払対価の額につき検討するまでもなく、同項の仕入税額控除をすることはできず、これを認めないとした原処分の判断は相当であり、請求人の主張は採用することができない。
ワ そこで、各課税期間における納付すべき税額について、以下、検討する。
(イ) 課税標準額
 各課税期間の課税標準額が、平成2年7月期は957,250,000円、また、平成3年7月期は588,248,000円であることについては、当事者間に争いはなく、当審判所の調査によっても相当と認められる。
(ロ) 課税標準額に対する消費税額
 各課税期間の課税標準額に対する消費税額は、上記(イ)の課税標準額に100分の3を乗じた平成2年7月期28,717,500円及び平成3年7月期17,647,440円となる。
(ハ) 消費税額からの控除税額
 各課税期間の課税仕入れに係る支払対価の額は、請求人が控除対象仕入税額の対象とした課税仕入れに係る支払対価の額の合計額平成2年7月期695,278,875円及び平成3年7月期514,828,780円から、本件取引に係る支払対価の額平成2年7月期242,729,578円及び平成3年7月期221,141,500円を減算した平成2年7月期452,549,297円及び平成3年7月期293,687,280円となる。
 各課税期間の控除対象仕入税額は、上記の課税仕入れに係る支払対価の額に100分の3を乗じて算出した金額平成2年7月期13,181,047円及び平成3年7月期8,553,998円となる。
 各課税期間の消費税額からの控除税額は、上記の控除対象仕入税額に、売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額を加算した次表の金額となる。

(単位:円)
課税期間
項目
平成2年7月期 平成3年7月期
控除対象仕入税額1 13,181,047 8,553,998
売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額2 9,835 1,492
消費税からの控除税額(12 13,190,882 8,555,490

(ニ) 納付すべき税額
 各課税期間の納付すべき税額は、前記(ロ)の課税標準額に対する消費税額から、上記(ハ)の消費税額からの控除税額を差し引いた次表の金額となる。

(単位:円)
課税期間
項目
平成2年7月期 平成3年7月期
課税標準額に対する消費税額1 28,717,500 17,647,440
消費税からの控除税額2 13,190,882 9,555,490
納付すべき税額(12) (百円未満の端数切り捨て) 15,526,600 9,091,900

 したがって、この金額と同額でされた各課税期の消費税に係る更正処分は適法である。

(2) 賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、各課税期間の消費税に係る更正処分は適法であり、かつ、平成3年7月期の更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が更正前の税額の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた平成3年7月期の過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。

(3) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所において調査、審理したところによっても、これを不相当とする理由は認められない。

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