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(平21.6.25、裁決事例集No.77 383頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が相続税の課税価格に算入した土地及び出資について、原処分庁が、評価額に誤りがあるとして更正処分等を行ったのに対し、請求人が、1土地の評価については、財産評価基本通達(平成18年5月18日付課評2−7による改正前のものをいい、以下「評価基本通達」という。)24−4《広大地の評価》(以下「広大地通達」という。)を適用すべきであり、また、2出資の評価については、計上すべき貸家建付借地権はないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人は、平成17年2月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したK(以下「被相続人」という。)の共同相続人の一人であり、審査請求(平成20年10月22日)に至る経緯は次表のとおりである(以下、次表の「申告」欄及び「修正申告」欄のとおり記載して提出した期限内申告書及び修正申告書を併せて「本件申告書」といい、原処分庁が「更正処分等」欄のとおり行った更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を、それぞれ「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分」という。)。

(単位:円)
区分 年月日 課税価格 納付すべき税額 過少申告加算税
申告 平成17年12月○日 ○○○○ ○○○○
修正申告 平成18年3月31日 ○○○○ ○○○○
更正処分等 平成20年6月27日 ○○○○ ○○○○ ○○○○
異議申立て 平成20年7月25日 修正申告のとおり
異議決定 平成20年9月24日 棄却

(3) 関係法令等

 関係法令等の要旨は、別紙1のとおりである。

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(4) 基礎事実

イ 請求人が、広大地通達を適用すべきと主張する土地は、次のとおりである(以下、これらの土地を併せて「本件各土地」という。)。
(イ) P市p町100番、同所200番及び同所300番所在の各土地(地目:田、原野、現況地目:雑種地、地積:合計3,013平方メートル、以下「本件甲土地」という。)
(ロ) P市p町400番所在の土地(地目:山林、現況地目:雑種地、地積:1,719平方メートル、以下「本件乙土地」という。)
(ハ) P市p町500番及び同所600番所在の各土地(地目:田、原野、現況地目:雑種地、地積:合計1,384平方メートル、以下「本件丙土地」という。)
ロ 本件各土地は、本件相続開始日の現況において、それぞれ一団の未利用地である。
ハ 本件甲土地について
(イ) 評価基本通達14−2《地区》に定める普通住宅地区(以下「普通住宅地区」という。)に属し、別図1記載のA、B及びCの各路線(以下、同図の符号に応じて、それぞれ「A路線」、「B路線」、「C路線」という。)の三方に面しており、各路線には、Q国税局長が作成した平成17年分財産評価基準書(以下「平成17年分財産評価基準書」という。)において、それぞれ48,000円、45,000円、45,000円の路線価が付されている。
(ロ) A路線及びC路線に接する部分の間口距離は、いずれも61.00メートルであり、A路線からの奥行距離及びC路線からの奥行距離は、いずれも49.40メートルである。
ニ 本件乙土地について
(イ) 普通住宅地区に属し、別図1記載のA路線及びC路線の二方に面しており、各路線には、平成17年分財産評価基準書において、それぞれ48,000円、45,000円の路線価が付されている。
(ロ) A路線及びC路線に接する部分の間口距離は、いずれも34.38メートルであり、A路線からの奥行距離及びC路線からの奥行距離は、いずれも50.00メートルである。
ホ 本件丙土地について
(イ) 普通住宅地区に属し、別図2記載のD及びEの各路線(以下、同図の符号に応じて、それぞれ「D路線」、「E路線」という。)の二方に面しており、各路線には、平成17年分財産評価基準書において、いずれも43,000円の路線価が付されている。
(ロ) D路線及びE路線に接する部分の間口距離は、いずれも27.70メートルであり、D路線からの奥行距離及びE路線からの奥行距離は、いずれも50.00メートルである。
ヘ 請求人は、本件申告書において、本件各土地の評価額を別表1の「申告額」欄のとおり計算している。
ト 請求人が、借地権の取引慣行がないと主張する地域に所在する土地は、次のとおりである(以下、これらの土地を併せて「本件賃貸借土地」という。)。
(イ) P市p町1000番、同所1100番及び同所1200番所在の各土地(地目:宅地、地積:合計4,614.22平方メートル、以下「本件丁土地」という。)
(ロ) P市p町1300番及び同所1400番所在の各土地(地目:宅地、地積:合計393.24平方メートル、以下「本件戊土地」という。)
チ 本件丁土地について
(イ) 被相続人とM社は、本件丁土地を普通建物所有の目的をもって賃貸借することを約する平成15年3月25日付の土地賃貸借契約書を作成し、当該契約書に記載された内容に従って、平成15年4月1日から月額465,000円の賃料が、M社から被相続人に支払われている。
(ロ) 本件相続開始日において、M社が所有する家屋3棟の敷地及び駐車場として利用されている。
(ハ) M社は、本件丁土地に存する3棟の家屋を、N社、R社、S社に、それぞれの店舗用として賃貸しているが、駐車場部分については、賃借人の各店舗の共同駐車場として利用されており、これらが一体となって一区画の商業施設を形成している。
(ニ) 普通住宅地区に属し、別図3記載のF、G、H及びIの各路線(以下、同図の符号に応じて、それぞれ「F路線」、「G路線」、「H路線」、「I路線」という。)に面しており、各路線には、平成17年分財産評価基準書において、それぞれ48,000円、44,000円、44,000円、43,000円の路線価が付されている。
(ホ) 間口距離は、F路線に接する部分が56.00メートル、G路線に接する部分が78.00メートル、H路線に接する部分が11.00メートルであり、奥行距離は、F路線から82.39メートル、G路線から59.15メートル、H路線から94.00メートルである。
 なお、I路線に接する部分は、I路線よりも約1メートル高くなっている。
リ 本件戊土地について
(イ) 被相続人とM社は、本件戊土地を普通建物所有の目的をもって賃貸借することを約する平成15年1月11日付の土地賃貸借契約書を作成し、当該契約書に記載された内容に従って、平成15年2月1日から月額29,850円の賃料が、M社から被相続人に支払われている。
(ロ) 本件相続開始日において、M社が所有する家屋の敷地として利用されている。
(ハ) M社は、本件戊土地に存する家屋を、T社に賃貸している。
(ニ) 普通住宅地区に属し、別図4記載のJの路線(以下、同図の符号に応じて、「J路線」という。)に面しており、J路線には、平成17年分財産評価基準書において、43,000円の路線価が付されている。
(ホ) J路線に接する間口距離は19.70メートル、J路線からの奥行距離は19.96メートルである。
ヌ 請求人は、本件申告書において、本件賃貸借土地の評価額を別表2の「申告額」欄のとおり計算している。
ル M社に係る出資(以下「本件出資」という。)の評価について
(イ) 請求人が相続により取得した本件出資の口数は、○○○○口である。
(ロ) M社は、本件相続開始日において、評価基本通達178《取引相場のない株式の評価上の区分》に定める小会社に該当し、同通達189の(1)に定める比準要素数1の会社にも該当する。
(ハ) 本件申告書において、M社の純資産価額は、別表3の「申告額」欄の9「課税時期現在の純資産価額」のとおり、算出金額がマイナスとなることから、本件出資の評価額を零円としている。
(ニ) M社における請求人及び請求人の同族関係者(法人税法施行令第4条《同族関係者の範囲》に定める特殊の関係のある個人又は法人)の有する議決権のある出資口数の割合は、100%である。
ヲ 原処分庁は、本件更正処分において、○○銀行○○支店の定期預金(口座番号○○○○)が過大に申告されているとして○○○○円を減額し、その価額を○○○○円としている。

(5) 争点

争点1 本件各土地は、都市計画法に規定する開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地として道路が必要と認められるものか否か。

争点2 本件出資の評価における純資産価額の算定上、資産の額に加算すべき貸家建付借地権が存しないといえるか否か。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである。

3 判断

(1) 争点1 本件各土地は、都市計画法に規定する開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地として道路が必要と認められるものか否か。

イ 法令解釈
(イ) 相続税法第22条に規定する時価とは、相続等による財産の取得の時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値を示す価額をいうものと解されている。
 しかしながら、客観的な交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではないから、課税実務上、国税庁長官は、相続財産の評価の一般的な基準として評価基本通達を定め、各種財産の時価の評価に関する原則及びその具体的評価方法を明らかにし、さらに、土地の価額については国税局長が具体的に路線価、倍率、借地権割合等を定めて、これを財産評価基準書として公開することによって、納税者の申告・納税の便に供している。
 このような取扱いは、1各種財産の時価を客観的かつ適正に把握することが必ずしも容易でなく、また、相続財産の客観的な交換価値を個別に評価する方法を採ると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることが避け難いこと及び2納税者間で財産の評価方式が異なることは課税の公平の観点から見て好ましいことではなく、また、回帰的かつ大量に発生する課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあること等から、あらかじめ定められた評価方式によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由に基づくものと解される。
 そうすると、相続財産の評価は、評価基本通達に定められた評価方式によらないことが正当として是認されるような特別な事情がある場合を除き、課税の公平の観点から、原則として、評価基本通達の評価方式に基づいて行うことが相当と解される。
(ロ) 評価基本通達は、評価基本通達11《評価の方式》から評価基本通達26−2《区分地上権等の目的となっている貸家建付地の評価》において宅地の評価方式を定め、評価基本通達11において、市街地的形態を形成する地域にある宅地の価額は、原則として、路線価方式により評価した価額をもってその評価額とすべき旨の一般的な評価方法を定めるとともに、他方、不整形地であること、無道路地であること、間口が狭小な宅地であることなど評価の対象となる宅地の価額を減少させるような客観的な個別事情に応じ、路線価方式により評価した価額を減額補正する旨の評価方法を定めている。
 このような定めは、あくまでも評価の対象となる宅地の現況を踏まえ、当該宅地の価額に影響を及ぼすべき客観的な個別事情がある場合には、価値が減少していると認められる範囲で減額の補正を行うものであると解される。
(ハ) 広大地通達について
A 広大地通達を定めた趣旨は、1評価の対象となる宅地の地積が、当該宅地の価額の形成に関して直接に影響を与えるような特性を持つ当該宅地の属する地域の標準的な宅地の地積に比して著しく広大で、2評価時点において、当該宅地を当該地域において経済的に最も合理的な特定の用途に供するためには、公共公益的施設用地の負担が必要な都市計画法に規定する開発行為を行わなければならない土地である場合にあっては、当該開発行為により土地の区画形質の変更をした際に道路、公園等の公共公益的施設用地として、いわゆる「つぶれ地」がかなり生じ、評価基本通達15から評価基本通達20−5による減額の補正では十分とはいえない場合があることから、このような土地の評価に当たっては、つぶれ地が生じることを当該宅地の価額に影響を及ぼすべき客観的な個別事情として、価値が減少すると認められる範囲で減額の補正を行うこととしたものである。
B このような広大地通達を定めた趣旨にかんがみれば、広大地通達でいう評価宅地の属する「その地域」とは、1河川や山などの自然的状況、2行政区域、3都市計画法による土地利用の規制など公法上の規制等、4道路、5鉄道及び公園など、土地の使用状況の連続性及び地域の一体性を分断する場合がある客観的な状況を総合勘案し、利用状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域を指すものと解するのが相当である。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件各土地は本件区画整理地内に所在し、本件土地区画整理事業により、平成11年○月○日に土地区画整理法による換地を受けている。
(ロ) 本件各土地は、都市計画法第7条《区域区分》第2項に規定する市街化区域内に所在し、本件甲土地及び本件乙土地の建築基準法第48条《用途地域等》に規定する用途地域(以下「用途地域」という。)は第一種中高層住居専用地域、本件丙土地の用途地域は第二種中高層住居専用地域で、いずれも建ぺい率が60%、容積率が200%となっている。
(ハ) 本件区画整理地内における建物を建築するために開発許可を受ける必要のある区域面積は、都市計画法第29条《開発行為の許可》第1項の規定により、1,000平方メートル以上となっている。
(ニ) P市は、開発指導事務を円滑に行うために「開発許可制度の手引」を作成し、これを公開し、宅地開発業者等の便宜に供しており、開発許可制度の手引には、戸建住宅用の画地の形状等について「画地計画」として、次に掲げる要件を満たすことが望ましい旨記載されている。
A 画地の1区画の面積は、おおむね200平方メートル以上とする。ただし、開発区域の周辺の土地の地形及び利用の態様等に照らして、これによることが著しく困難と認められる場合で、環境の保全上、災害の防止上、通行の安全上又は事業活動の効率上支障がないと認められる場合は、おおむね150平方メートル以上とする。
B 画地は、建築基準法第43条《敷地等と道路との関係》の規定により、道路に2メートル以上接していること。
(ホ) 本件土地区画整理事業に係る事業計画書等によれば、その目的及び計画の概要は次のとおりとなっており、本件区画整理地内はおおむね事業計画どおり施行され、都市計画法上必要とされる公共公益的施設用地は確保、整備されている。
A 本件土地区画整理事業の施行地区は、W駅から約○キロメートルの至近距離にあり、その東及び南側まで中心市街地からの続きとして市街化が進行し、P市北部の人口集中地区となっているため、本件土地区画整理事業は、当地域のスプロール化(無秩序な住宅化による無計画な発展)を未然に防止し、計画的かつ健全な市街地の造成を図ることを目的とする。
B 本件区画整理地内に計画されている都市計画道路V号線(幅員25メートル・20メートル)を幹線に、補助幹線としてV-1号線(幅員16メートル)、V-2号線(幅員16メートル)及びV-3号線(幅員11メートル)を整備することにより、中心市街地と周辺部を結ぶ交通体系を確立し、併せて、区画街路、公園等の公共施設を適正に配置・配備して、宅地の利用増進を図り、快適で調和の取れたまちづくりを行う。
C 土地の利用に当たっては、本地区の起伏に富んだ地形及び自然環境をできうる限り生かしながら、P市北部におけるベッドタウンとして位置付け、宅地の利用増進を図る。
D 区画街路は、居住区域内の良好な環境の保持又は交通の安全を図るため、都市計画道路により区切られた居住区域内の生活道路は幅員6メートルを標準とし、都市計画道路との接続は幅員9メートルを200メートル間隔で配置して、居住区域への通過交通を遮断するように整備する。
E 公園の総面積は地区面積の3%以上を確保し、誘致距離等を考慮し、地区の中央に近隣公園を1か所、街区公園を居住区域に1か所ずつ6か所配置して、健全な住宅地として整備する。
F 供給処理施設として、上水道を全路線に敷設し、また、地域のコミュニティーの場となる集会施設を整備する。
(ヘ) 本件甲土地について
A 本件土地区画整理事業により造成された土地で、中央部分(A路線から奥行30メートルの位置)の段差(1.0メートルから1.5メートル)により上下2面に分かれている。
B 本件甲土地が面しているA路線の道路は、都市計画道路の補助幹線として整備されたV-2号線(幅員16メートル)であるところ、本件区画整理地内における当該道路沿いは、敷地面積が600平方メートル以上の店舗等の商業施設が連担し、一方、C路線の道路(幅員6メートル)は、生活道路として整備された道路であるところ、当該道路の北側沿いは、本件甲土地を中心として東西約400メートルにわたり敷地面積が150平方メートルから300平方メートルの戸建住宅が連担する住宅地域である。
(ト) 本件乙土地について
A 本件土地区画整理事業により造成された土地で、中央部分(A路線とC路線の間のほぼ中央の位置)の段差(0.7メートルから1.0メートル)により上下2面に分かれている。
B 本件乙土地は、本件甲土地と同様A路線及びC路線に面しており、近隣地域の利用状況は本件甲土地と同様である。
(チ) 本件丙土地について
A 本件土地区画整理事業により造成された土地で、中央部分(E路線とD路線の間のほぼ中央の位置)の段差(1.7メートル〜2.0メートル)により上下2面に分かれている。
B 近隣地域は戸建住宅及び中層の共同住宅が連担する住宅地域であり、一区画当たりの敷地面積は350平方メートルから700平方メートルとなっている。
(リ) 本件土地区画整理事業による仮換地の指定は、昭和61年○月○日から平成元年○月○日にわたって行われているところ、平成元年以降に本件区画整理地内において行われた開発許可を要する開発行為の状況を当審判所が調査した結果、戸建住宅敷地及び店舗等敷地としての開発が認められるが、必ずしも道路の敷設は行われていない。
(ヌ) P市役所建築指導課の担当職員は、当審判所に対して、開発行為を行う際、その土地の上に建築物をどのように建築するかは、もとより、地権者自身の判断にゆだねられており、よって、開発行為を許可するかどうか判断する際には、都市計画法第33条《開発許可の基準》や開発許可制度の手引に則って、当該開発行為が当該基準に反していないかどうかを確認するだけである旨申し述べている。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ) 上記ロの(イ)ないし(ニ)のとおり、本件各土地は、1本件区画整理地内に所在し、かつ、本件土地区画整理事業による換地を受けていること、2都市計画法や建築基準法の規定による区域区分や用途地域などが同一であること、また、3本件区画整理地内における開発許可を要する区域面積は1,000平方メートル以上とされていること、4開発許可制度の手引によれば、開発に当たっての画地1区画の面積はおおむね200平方メートル以上(一定の場合は150平方メートル以上)で、当該画地は道路に2メートル以上接していることが必要とされていることなど、公法上の規制等もおおむね同一と認められることから、本件区画整理地内の地域が、上記イの(ハ)のBのとおり、広大地通達でいう評価宅地の属する「その地域」に当たると認められる。
(ロ) 本件区画整理地内の地域においては、上記ロの(ホ)のとおり、無秩序、無計画な住宅開発を防止するために、計画的かつ健全な市街地の造成を図ることを目的として本件土地区画整理事業が行われ、都市計画法上必要とされる公共公益的施設用地は既に確保、整備されていることが認められる。
(ハ) そして、上記ロの(ヘ)ないし(チ)のとおり、本件各土地は、本件区画整理事業により上下2面に造成され、本件甲土地及び本件乙土地が面しているA路線の道路沿いは、敷地面積が600平方メートル以上の店舗等の商業施設の敷地として、また、C路線の道路沿いは、敷地面積が150平方メートルから300平方メートルの戸建住宅の敷地として、さらに、本件丙土地の地域においては、一区画当たりの敷地面積が350平方メートルから700平方メートルの戸建住宅や中層の共同住宅の敷地として利用されているところ、上記ロの(リ)及び(ヌ)のとおり、本件区画整理地内の開発に当たっては、道路等の敷設が必ずしも求められていないことが認められる。
(ニ) 広大地通達に定める「経済的に最も合理的な」開発については、1その地域の利用状況に合った宅地の地積に分割されること、2当該分割による開発が、都市計画法等の法令に反していないこと、3容積率及び建ぺい率も経済的に利用されることなどを考慮して判断すべきところ、本件甲土地及び本件乙土地のA路線の道路沿いは、一区画が600平方メートル以上の店舗等の商業施設の敷地、C路線の道路沿いは、一区画が150平方メートルから300平方メートル前後の戸建住宅の敷地としての、また、本件丙土地の近隣地域は、一区画が350平方メートルから700平方メートルの戸建住宅や中層の共同住宅の敷地としての利用が、それぞれ本件区画整理地内における経済的に最も合理的であると認めるのが相当である。
(ホ) 次に、本件各土地に、上記(ニ)の「経済的に最も合理的な」開発を行った場合、公共公益的施設用地の負担が必要かどうかについて検討する。
A 請求人は、戸建住宅分譲用地の開発では公共道路の取付けは必要であると主張し、本件各土地の開発を想定した土地利用計画図と題する資料を当審判所に提出している。
 当該資料は、本件各土地について、中央部分に幅員6メートルの道路を取り付け、本件甲土地は地積が3,013平方メートルのところ、一区画の地積217.4平方メートルの12区画で道路敷設地積を404.2平方メートル、また、本件乙土地は地積が1,719平方メートルのところ、一区画の地積177.2平方メートルの8区画で道路敷設地積を301.4平方メートル、さらに、本件丙土地は地積が1,384平方メートルのところ、一区画の地積135.3平方メートルの8区画で道路敷設地積を301.6平方メートルとしたものである。
 しかしながら、このような開発は、上記ロの(ヘ)ないし(チ)のとおりの近隣地域の利用状況に沿ったものであると考えるのは困難であり、また、上記ロの(リ)のとおり、本件区画整理地内には必ずしも道路を敷設しない開発も認められるところ、本件各土地について、道路を敷設し、殊更に細分化して開発する合理的な理由や必然性は見当たらないことから、請求人の主張する利用方法が経済的に最も合理的であると認めることはできない。
B そこで、当審判所において、上記(ニ)の経済的に最も合理的であると認められる利用を前提とし、上記ロの(ニ)に定める1区画の面積及び接道義務の基準、上記ロの(ヘ)ないし(チ)の本件各土地の地形並びに本件区画整理地内の近隣地域の利用状況をしんしゃくして開発想定図を作成すると、別図5のとおり、本件各土地については、公共公益的施設として道路を敷設することなく開発することが経済的に最も合理的であると認められる。
(ヘ) そうすると、本件各土地の開発を行うとした場合に、公共公益的施設用地として道路が必要と認められないので、本件各土地の評価に当たって広大地通達の適用はできないこととなる。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
ニ 本件各土地の評価額
 以上のとおり、本件各土地の評価において広大地通達の適用を認めることはできず、それ以外の評価基本通達の定めに従って本件各土地の評価額を算出すると、別表1の「原処分額」欄と同額となる。

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(2) 争点2 本件出資の評価における純資産価額の算定上、資産の額に加算すべき貸家建付借地権が存しないといえるか否か。

イ 法令解釈
(イ) 取引相場のない株式の評価方法
 相続税法第22条に規定する時価については、上記(1)のイの(イ)のとおりであり、取引相場のない株式についても、評価基本通達において、その評価方法を定めているところ、この評価方法によらないことが正当として是認されるような特別の事情がある場合を除き、課税の公平の観点から、原則として、評価基本通達に基づいて行うことが相当と解される。
 そして、評価基本通達189−2は、いわゆる比準要素数1の会社の株式について、それを同族関係者が取得した場合には、評価基本通達185の本文の定めにより計算した1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)により計算する旨、また、評価基本通達185は、この1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)は、課税時期において評価対象の会社が有する経済的価値のあるすべての資産の価額の合計額から、課税時期における各負債の金額の合計額及び評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除した金額を課税時期における発行済株式数で除して計算した金額とする旨定めているところ、評価基本通達189−2のただし書において、納税義務者の選択により、Lの割合を0.25として、併用方式によって評価することができる旨それぞれ定めている。
 なお、有限会社の出資の価額についても、評価基本通達194《持分会社の出資の評価》により、取引相場のない株式の評価方法に準じて評価することとされているから、3つの比準要素のうち1要素しかない有限会社の出資については、評価基本通達189−2により評価することとなる。
(ロ) 借地権の価額について
 借地権とは、借地借家法第2条《定義》によれば、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいうものとされ、借地借家法によってその存続期間が保証され、借地権を有する者に契約更新請求権と建物買取請求権が付与されるなど、法律上極めて強く保護されていることから、通常の場合、借地権の設定に際して権利金の授受が行われ、また、建物の譲渡に伴ってその借地権も有償で譲渡されるなど、借地権は経済価値を有し、一種の財産権として取引の対象となっている。
 ところで、評価基本通達27は、借地権の価額は、その借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額に、当該価額に対する借地権の売買実例価額、精通者意見価格、地代の額等を基として評定した借地権の価額の割合がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める割合を乗じて計算した金額によって評価する旨、ただし、借地権の設定に際しその設定の対価として通常権利金を支払うなど借地権の取引慣行があると認められる地域以外の地域にある借地権の価額は評価しない旨定めている。
 このただし書の定めは、借地権の設定に際し通常権利金の授受がなく、その土地が借地権とともに売買される場合でも、その対価はすべて土地の所有者が取得するなど借地権の取引慣行がないと認められる地域にある借地権には経済的価値が認められないことから、相続税の課税対象になる財産として評価しない旨を定めているものと、また、「借地権の設定に際しその設定の対価として通常権利金を支払うなど」の文言は、借地権の取引慣行を例示したものであると解すべきであり、この評価基本通達27の定めは、相続税法第22条の趣旨に照らしても合理性を有するものと認められる。
 したがって、評価対象の会社が借地権を有する場合には、当該会社の株式又は出資の評価に際し、純資産価額方式及び併用方式における1株当たり又は1口当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)の算定上、当該借地権の価額を資産の価額に計上すべきであるが、借地権の取引慣行があると認められる地域以外の地域にある借地権については、計上する必要はないこととなる。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) M社は、上記1の(4)のチの(イ)及びリの(イ)のとおり、被相続人から本件賃貸借土地を建物の所有を目的として賃借し、被相続人に賃貸借契約の内容に従った賃料を支払っていることから、本件賃貸借土地の貸借関係は賃貸借契約であると認められる。
 そして、M社は、上記1の(4)のチの(ロ)及びリの(ロ)のとおり、本件賃貸借土地の上に家屋を所有していることから、本件賃貸借土地に係る借地権を有していることとなり、また、上記1の(4)のチの(ハ)及びリの(ハ)のとおり、その所有する家屋を第三者に賃貸していることから、本件貸家建付借地権を有していると認められる。
(ロ) 平成17年分財産評価基準書において、本件賃貸借土地が所在する地域の評価基本通達27に基づく借地権割合は30%、評価基本通達94に基づく借家権割合は30%とされている。
(ハ) 財産評価基準書の作成のための事務手続において、借地権の取引慣行の有無の判定を含む借地権割合の評定に当たっては、評価基本通達27の定めに従って、売買実例価額、精通者意見価格、地代の額等に関する資料を収集、整理して適切に行うこととされている。
(ニ) Q国税局長は、上記(ハ)に基づき、適切に評定事務を実施した上で平成17年分の財産評価基準書を作成していると認められるところ、本件賃貸借土地が所在する地域の借地権割合は、土地取引の精通者としての不動産鑑定士の意見を勘案して30%と評定されている。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ) 請求人は、本件賃貸借土地が所在する地域は、評価基本通達27ただし書に定める通常権利金等を支払う慣行のない地域であるから、本件貸家建付借地権は本件出資の評価額の算定に当たり資産の額に加算すべきではない旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のイの(イ)のとおり、課税実務上、国税庁長官が相続財産評価の一般的な基準として評価基本通達を定め、これに基づき、上記イの(ロ)のとおり、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権、すなわち借地権の評価をすることとし、国税局長が借地権売買の実例や権利金の授受等の地域ごとの実態に即して借地権割合を定めて、納税者の申告・納税の便に供するためにこれを財産評価基準書として公開しているのであるから、これによらないことが正当として是認されるような特別な事情がない限り、評価基本通達の定めに従って評価すべきである。
 そして、その評定方法は、上記ロの(ハ)のとおり、その定められた事務手続に基づき、売買実例価額、精通者意見価格、地代の額等に関する資料を収集、整理して行うこととされ、本件賃貸借土地の所在する地域の借地権割合については、上記ロの(ニ)のとおり、土地取引の精通者としての不動産鑑定士の意見を勘案して評定されていることから、上記ロの(ロ)のとおり、本件賃貸借土地の所在する地域の平成17年分の借地権割合を30%と定めたことは、相当であると認められる。
(ロ) 一方、本件において、請求人からは、本件賃貸借土地の所在する地域が評価基本通達27ただし書に定める「借地権の取引慣行があると認められる地域以外の地域」であること、あるいは、評価基本通達の定めに従った評価をしないことが正当として是認されるような特別な事情について、具体的な主張、立証もなく、また、当審判所の調査、審理においても、そのような事実あるいは事情は認められない。
 したがって、本件賃貸借土地が所在する地域は、評価基本通達27に定める「借地権の取引慣行があると認められる地域」で、その借地権割合は30%と認められることから、本件出資の評価における純資産価額の算定上、本件貸家建付借地権は資産の額に加算すべきであり、請求人の主張には理由がない。
 なお、本件賃貸借土地は、請求人が本件相続により取得した財産であるところ、別表2の「申告額」欄のとおり、その評価に当たっての計算過程をみると、「借地権割合30%」を控除しており、この借地権割合は、上記ロの(ロ)の平成17年分財産評価基準書で定めている借地権割合と同じであり、請求人自身、本件賃貸借土地について、評価基本通達及び平成17年分財産評価基準書に定められた借地権割合に基づいて評価したものと認められる。
ニ 本件出資の評価額
 上記ロの(イ)のとおり、M社は本件貸家建付借地権を有しており、上記ハのとおり、本件賃貸借土地に係る借地権割合は評価基本通達の定めに従い合理的に評定され、その借地権割合は30%とされることから、評価基本通達28の定めに従って本件貸家建付借地権を評価すると、別表4の「審判所認定額」欄のとおり、本件丁土地については36,998,799円、また、本件戊土地については3,550,957円、その合計額は40,549,756円となる。
 そして、本件申告書において本件出資の評価における純資産価額の計算上、請求人が「資産の部」の「相続税評価額」に計上した金額に、本件貸家建付借地権の額を加算して本件出資の1口当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)を計算し、上記1の(4)のルの(ロ)のとおり、M社は、比準要素数1の会社に該当することから、本件の場合においては、Lの割合を0.25とした併用方式により本件出資を評価すると、別表3の「審判所認定額」欄のとおり、1口当たりの価額は○○○○円、その総額は3,330,120円となる。
 なお、原処分庁は、別表3の「原処分額」欄の負債の部の「相続税評価額」欄及び「帳簿価額」欄のとおり、本件出資の純資産価額の計算上の負債の金額に弔慰金の額○○○○円を加算して「○○○○千円」としているが、当該弔慰金の金額は、相続税法基本通達3−20に定める弔慰金等に相当する金額と認められ、相続税法第3条第1項第2号に規定する退職手当金等に該当しないので、評価基本通達186《純資産価額計算上の負債》の(3)に定める負債に含まれないこととなる。

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(3) 異議決定処分について

 異議審理庁は、異議決定書において、上記(1)及び(2)以外の課税財産について、要旨次のとおり記載しているが、その判断は、当審判所においても相当と認められる。
イ 請求人が相続したP市p町1500番の土地の一部及び同所1600番所在の貸家建付地(以下「本件貸家建付地」という。)について、本件申告書において、その面積を841平方メートルとして評価しているところ、当該建物賃貸借契約書によれば、その賃貸面積は889.09平方メートルと認められ、そして、被相続人の妻であるXが相続したP市p町1700番及び同所1800番の土地の一部所在の雑種地(以下「本件雑種地」という。)については、本件貸家建付地と本件雑種地の合計面積1,662.19平方メートルから本件貸家建付地の面積889.09平方メートルを差し引いた773.10平方メートルをその面積とすべきところ、本件申告書において821.00平方メートルとして評価している。
 この事実に基づき、本件貸家建付地及び本件雑種地を評価すると、それぞれ○○○○円、○○○○円となる。
ロ 請求人が未収年金として申告した○○○○円は、被相続人に帰属する相続財産に該当しないことから、取得財産価額から減額する。
ハ 請求人が相続した郵便貯金(記号番号○○○○)については、本件相続開始日現在の残高は○○○○円となる。

(4) 本件更正処分について

 以上のことから、請求人の相続税の課税価格及び相続税額を計算すると、次表のとおりとなり、請求人の相続税の課税価格及び納付すべき税額は、いずれも本件更正処分に係る課税価格○○○○円及び納付すべき税額○○○○円を上回ることから、本件更正処分は適法である。

区分 金額
取得財産の価額 ○○○○円
債務及び葬式費用の金額 ○○○○円
課税価格 ○○○○円
納付すべき税額 ○○○○円

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(5) 本件賦課決定処分について

 本件更正処分は上記(4)のとおり適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定により過少申告加算税の賦課決定処分をした本件賦課決定処分は適法である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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