(平成24年3月6日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、産業廃棄物の収集及び運搬等を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、請け負った産業廃棄物焼却炉施設等の保守及び修繕工事のうち代金未回収部分を減価償却資産に計上し、当該資産に係る減価償却費を損金の額に算入して申告をしたところ、原処分庁が、当該工事は売上げに計上すべきものであり減価償却資産ではないなどとして法人税の更正処分等をしたのに対し、請求人が、当該工事は完了及び引渡しがなく、売上げではないなどとして、その一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 平成19年10月1日から平成20年9月30日まで及び平成20年10月1日から平成21年9月30日までの各事業年度(以下、順次「平成20年9月期」及び「平成21年9月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、審査請求(平成23年3月17日請求)に至る経緯及び内容は、別表1記載のとおりである。
 なお、以下、平成22年10月29日付でされた本件各事業年度の法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分(平成20年9月期についてはいずれも平成23年2月17日付でされた異議決定により一部が取り消された後のもの)をそれぞれ「本件法人税各更正処分」及び「本件法人税各賦課決定処分」という。
ロ 平成19年10月1日から平成20年9月30日までの課税期間(以下「平成20年9月課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、審査請求(平成23年3月17日請求)に至る経緯及び内容は、別表2記載のとおりである。
 なお、以下、平成22年10月29日付でされた平成20年9月課税期間の消費税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(いずれも平成23年2月17日付でされた異議決定により一部が取り消された後のもの)をそれぞれ「本件消費税等更正処分」及び「本件消費税等賦課決定処分」という。

(3) 関係法令等

 別紙3のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、当事者間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、G社から、同社が所有する産業廃棄物焼却炉施設並びに当該施設に付属する設備及び構築物(以下「本件焼却施設」という。)の、炉床及び煙道の耐火材であるキャスター関連の工事(以下「本件キャスター工事」という。)並びに本件キャスター工事以外の本件焼却施設の保守及び修繕工事(以下「本件工事」という。)を請け負った。
ロ 請求人は、平成20年4月1日付で、G社との間で、要旨別紙4の内容で業務請負基本契約書(以下「本件請負基本契約書」という。)を作成した。
 請求人は、本件キャスター工事の代金を、平成20年4月1日付、同月15日付及び同月30日付注文請書により、請求人の外注費の額等に管理費1,000,000円を加えた額12,265,300円(消費税等抜き)で同月30日に売上げに計上した。
ハ 請求人は、G社に対し、本件キャスター工事及び本件工事のうち、平成20年7月31日までに行われた工事の原価等の合計額が85,951,772円(消費税等抜き)であり、その明細として、要旨別表3記載のとおりの書面(以下「本件請負工事原価明細書」という。)を同年8月頃に交付した。
ニ 請求人は、本件工事のうち、フィルターの交換工事(以下「本件フィルター工事」という。)に使用するフィルターをH社に平成20年9月16日に本件焼却施設に搬入させた。
ホ 請求人は、平成20年9月にG社から、同社の取引先が経営破綻したため工事代金が支払不能となった旨の申し出があったので、本件工事として予定されていた安全柵の取り付け、塗装仕上げ及び試運転サポートを行うことなく本件工事を中止した。
ヘ 請求人は、本件工事のうち、J社に発注した修繕工事(以下、「本件修繕工事」といい、本件工事のうち、本件修繕工事及び本件フィルター工事以外のその他の工事を「本件その他工事」という。)の代金60,000,000円(消費税等抜き)を、平成20年2月から同年4月までにかけて分割して総勘定元帳の「仮払金」勘定に計上した後、同年9月30日に「機械装置」勘定に振り替えて減価償却資産とし、また、本件フィルター工事の代金10,140,000円(消費税等抜き)を、同月27日に総勘定元帳の「機械装置」勘定に計上して減価償却資産(以下、これらの各資産を「本件各資産」という。)とした。請求人は、別表4記載のとおり、本件各資産に係る減価償却費の額を損金の額に算入して、本件各事業年度の法人税の青色の確定申告書を提出した。
ト 原処分庁は、平成20年9月期の法人税について、本件工事の原価の額が本件各資産の取得価額の合計額70,140,000円と別表3順号14及び16から39までの「支払金額」欄記載の合計額14,686,472円とを合わせた額である84,826,472円であり、本件キャスター工事の利益率が概ね10%であるとし、これらを基礎にして算定した本件工事の売上金額は93,309,119円であり、同金額を益金の額に算入し、また、本件各資産は本件工事の工事原価であるから請求人の減価償却資産ではないので本件各資産に係る減価償却費の額7,711,250円は損金の額に算入されないとし、一方、上記の本件工事の原価とした金額のうち、本件各資産の取得価額の合計額70,140,000円と、別表3順号14、17から26まで、34から37まで及び39の「支払金額」欄記載の合計額10,450,480円とを合わせた額80,590,480円は工事原価に計上されていないことから損金の額に算入するなどとする更正処分、及び、平成21年9月期の法人税について、本件各資産に係る減価償却費の額15,607,187円は損金の額に算入されないなどとする更正処分をした。
 原処分庁は、平成20年9月課税期間の消費税等について、本件工事の売上金額93,309,119円は課税資産の譲渡等の対価の額に含まれるなどとする更正処分をした。
チ 異議審理庁は、平成20年9月期の法人税について、本件工事の原価の額には別表3順号14及び24の「支払金額」欄記載の合計額5,000,000円が含まれないとして同金額を上記トの本件工事の原価として損金の額に算入した額から減額し、また、本件工事の原価の額が79,826,472円であり本件キャスター工事の原価率が95.16%であるとし、これらを基礎にして算定した本件工事の売上金額は83,886,582円とする異議決定をした。
 異議審理庁は、平成20年9月課税期間の消費税等について、課税資産の譲渡等の対価の額に含まれる本件工事の売上金額は83,886,582円とする異議決定をした。

(5) 争点

イ 本件工事について
(イ) 平成20年9月期の売上げに計上すべきか否か。
(ロ) 平成20年9月課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額か否か。
ロ 平成20年9月期の法人税の更正処分において、本件工事の売上金額を同工事の原価の金額を基に算定したことは、法人税法第131条に規定する青色申告書に係る課税標準を推計したことに該当するか否か。

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2 主張

(1) 争点イについて

イ 原処分庁
 本件工事は、G社がその対価の額を支払うことができなくなったという事実により、本件請負基本契約書の第14条に定める重大な背信行為があったとして本件工事の請負契約が平成20年9月末日までに解除されたと解するのが相当であり、本件請負基本契約書等に基づいてなされるべき請求人の役務提供の義務は、契約の解除日をもって将来に向かって消滅する一方、解除日までに請求人が行なった役務提供は同日までに確定し、請求人は、同日に当該役務提供に係る対価の額を得ることが確定したと認めるのが相当である。
 また、請求人が合意に基づいて行うべき工事の内容は、本件請負工事原価明細書に記載の各工事から本件キャスター工事を除いた各工事及び本件フィルター工事であると認められるところ、本件請負工事原価明細書に記載の各工事が平成20年7月まで、及び、本件フィルター工事が同年9月までにそれぞれ終了していること、並びに、G社は同年4月から産業廃棄物焼却炉を使用することができたことからすれば、同年9月末日までには、本件工事の引渡し又は役務提供の全部は完了していたと認められる。
 そして、完成した工事の代金が確定していない場合には、完成して引き渡した日の現況によりその金額を適正に見積もり、収益に計上するのが相当であるから、平成20年9月末日までに契約の解除日において得ることが確定した本件工事に係る対価の額は、平成20年9月期の売上げ及び平成20年9月課税期間の課税資産の譲渡等に計上すべきである。
ロ 請求人
 本件工事の契約は、平成20年9月に解除され、また、本件工事の一部である安全柵の取り付け、塗装仕上げ及び試運転サポートは終了していないから、本件工事は完了せず、G社に引渡しもしていない。
 そして、請求人は、G社に対し本件焼却施設全体の工事について請求人の希望する利益の額を5,000,000円(結果として、本件工事については既に請求した1,000,000円を除く4,000,000円)として本件請負工事原価明細書に管理費として記載し交渉していたが、その後に本件工事の契約は解除されたことから、本件工事の代金は確定していないのであり、その算出も不可能であるから、貨幣性資産の裏付け(債権の発生)がない。
 よって、本件工事は、売上げ及び課税資産の譲渡等にはならない。

(2) 争点ロについて

イ 原処分庁
 本件工事の売上金額について、請求人は適正に見積計上すべき収益の額を見積もっていなかったことから、同工事の原価及び原価率によって売上金額を適正に見積もったことによる実額計算をしたことにほかならず、このことは、法人税法第131条に規定する青色申告書に係る課税標準を推計したことには該当しない。
ロ 請求人
 原処分庁が本件工事の原価及び原価率によって売上金額を推計したことは、青色申告書に係る法人税の課税標準を推計したことになるから、法人税法第131条に規定する青色申告書に係る課税標準を推計したことに該当する。
 よって、本件工事を売上げとした原処分は違法である。

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3 判断

(1) 争点イについて

イ 法令等の解釈
(イ) 法人税法第22条第2項では、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の取引に係る収益の額とするものとされ、同条第4項において当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきものとされているところ、ある収益をどの事業年度に計上すべきかについては、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、収益は、その実現があった時、すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する事業年度の益金に計上すべきものであると解される。
 請負代金を支払う時期については、民法第633条《報酬の支払時期》及び同法第624条《報酬の支払時期》第1項によれば、目的物の引渡しと同時に、引渡しを要しないときにはその約した役務の提供を完了したときとされている。そうすると、請負による収益の額は、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日に請負代金を請求することができ、収入すべき権利が実現又は確定したといえるから、その日の属する事業年度の益金の額に算入すると解するのが相当である。
 また、商法第512条、同法第4条第1項及び会社法第5条によれば、株式会社が事業として行った請負については、具体的な報酬額の合意がなくとも相当な報酬を請求することができる。そして、目的物を完成して引き渡した事業年度又は約した役務の全部を完了した日の属する事業年度の終了の日に、その請負代金の具体的金額が確定していない場合に、法人税基本通達2−1−7及び同通達2−1−4では、その事業年度終了の日の現況により金額を適正に見積もり、その見積額がその後確定した代金の額と異なる場合には、その差額をその確定した日の属する事業年度の益金又は損金の額に算入することとしている。この取扱いは、上記の具体的な報酬額の合意がない場合において相当な報酬額を算定して経理処理をする方法を定めたものであり、相当なものと認められる。
(ロ) 通則法第15条第2項第7号では、消費税の納税義務は、課税資産の譲渡等をした時に成立する旨規定している。そして、消費税法第28条では、課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額であり、同対価の額は、対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的利益の額とする旨規定している。
 消費税法基本通達9−1−5は、請負による資産の譲渡等の時期は、別に定めるものを除き、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日とする旨を、同通達10−1−20は、事業者が資産の譲渡等を行った場合において、その資産の譲渡等をした日の属する課税期間の末日までにその対価の額が確定していないときは、同日の現況によりその金額を適正に見積もり、その後確定した対価の額が見積額と異なるときは、その差額は、その確定した日の属する課税期間における資産の譲渡等の対価の額に加算し、又は当該対価の額から控除するものとする旨定めている。これらの取扱いは、上記(イ)に照らすと、相当なものと認められる。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
(イ) G社は、本件焼却施設の修繕が必要となったが、資金がなかったことから、とりあえず稼動するように修繕を行うこととし、平成19年12月頃にJ社に見積りを依頼したが、同社に代金の分割払いを断られたため、本件焼却施設の修繕を依頼できなかった。これを聞いた請求人は、過去に焼却炉の修繕工事を受注したことがなかったことから実績作りのために、本件キャスター工事及び本件工事をG社から受注し、本件工事のうち本件修繕工事については、J社がG社に対して発行した見積書の金額84,000,000円のうちの63,000,000円(消費税等込み)にてJ社に発注した。
(ロ) 本件修繕工事は、平成20年3月8日に始まり、同年4月13日に終了し、同日頃、本件焼却施設において火が燃やせる状態になったことをG社の代表者が立ち会って確認した。J社は、請け負った修繕工事が終了したとして同年5月までに、請求書を請求人あてに発行した。
(ハ) 本件焼却施設は、平成20年4月から5月の連休頃まで休止したが、それ以降は稼動していた。
(ニ) 請求人は、別表3順号16から23まで及び25から39まで記載の内容を原価とする工事を、平成20年7月31日までに完了した。請求人は、同年8月頃に、本件キャスター工事及び本件工事について、別表3順号14及び24記載のとおり、最低限確保したい利益を管理費として1,000,000円及び4,000,000円と本件請負工事原価明細書に記載し、G社に提示した。なお、別表3記載のうち、順号1から9までが本件修繕工事、順号10から13まで及び15が本件キャスター工事、順号16から23まで及び25から39までが本件その他工事に係る原価である。
(ホ) 請求人は、本件フィルター工事について、平成20年9月16日にH社がフィルターを納入し、本件焼却施設に交換設置したことから、同月30日に代金10,140,000円(消費税等抜き)をH社に支払った。
(ヘ) 請求人は、平成20年9月に、G社の代表者から本件工事の代金の額を支払えない旨の事情説明を受け、G社との間で、本件請負基本契約書のうち確定した工事以外の個別契約を解除するが本件キャスター工事の代金は精算すること、本件焼却施設の使用差し止めの要求はしないがG社の所有する敷地に抵当権を設定すること、請求人はG社に対して廃棄物処理業務、廃棄物の積み替え及び保管業務を安価で委託すること、などの合意をした。
ハ 判断
(イ) 法人税
A 売上計上について
(A) 本件修繕工事は、上記ロ(ロ)のとおり、平成20年3月8日に工事が始まり、同年4月13日に終了して火が燃やせる状態になったことをG社の代表者が立ち会って確認し、J社は同年5月までに請求書を発行していること、また、上記1(4)ヘ及び別表4記載のとおり、請求人の機械装置として資産に計上するにあたって事業供用年月を同年4月としていること、そして、上記ロ(ハ)のとおり、本件焼却施設は同年5月の連休後には稼動していることから、遅くとも、同年5月の末日までには、目的物の引渡し又は約した役務の提供を完了したということができる。
 本件フィルター工事は、上記ロ(ホ)によれば、同年9月16日にはフィルターの交換設置を完了し、G社において使用収益されたと認めることができるから、同日に目的物の引渡し又は約した役務の提供を完了したということができる。
 本件その他工事は、上記ロ(ニ)によれば、本件請負工事原価明細書に記載されたものを原価とする工事が同年7月31日までに完了しており、また、上記ロ(ヘ)のとおり、同年9月に本件その他工事に関する合意が解除されたのであるから、解除時点で完了していない工事については、完了させる義務が将来に向けて消滅する。そうすると、請求人がG社との合意に基づいて行うべき本件その他工事については、遅くとも同月末日時点で、目的物の引渡し又は約した役務の提供を全て完了したということができる。
(B) 以上からすると、本件工事は、平成20年9月末日までに物の引渡し又は約した役務の提供が完了したということができるから、その売上げを計上すべき時期は、平成20年9月期である。
B 売上金額について
(A) 上記ロ(ニ)のとおり、請求人は平成20年9月期の末日時点においては、代金としての希望金額をG社に提示しただけで金額について合意に至っていないから、本件請負工事原価明細書に記載の金額で本件工事の代金の額が確定したとはいえない。また、上記ロ(ヘ)のとおり、本件請負基本契約書に基づく個別契約を解除した際に、本件キャスター工事の代金を精算するとともに請求人に一定の便宜を図る合意がされているものの、本件工事の代金の額を確定する旨の合意はされていないのであるから、本件工事の代金の額が確定したということはできない。
 そこで、本件工事の代金の額を適正に見積もることとなるが、上記ロ(ニ)のとおり、請求人は、本件キャスター工事及び本件工事につき、請求人の人件費等を含めた利益として、5,000,000円を確保したいと考えていたというのであり、上記ロ(イ)のとおり、請求人は、実績作りのために本件キャスター工事及び本件工事を受注したものであって、上記1(4)ロのとおり、本件キャスター工事については、外注費等の金額に請求人の人件費等を含めた利益分1,000,000円を管理費として合算した額を注文請書によってG社との間で確定させた。そして、この確定額に、上記ロ(ニ)のとおり、平成20年8月頃に、本件その他工事に実際にかかった外注費等の原価や請求人の人件費等を含めた利益分である管理費4,000,000円を加えて、同年7月31日時点での本件キャスター工事及び本件工事の代金として、G社に対して本件請負工事原価明細書を提示した。こうした請求人の提示金額算定の経緯に、上記1(4)イ及びニのとおり、本件フィルター工事は本件工事の一部分にすぎないことを併せて考えると、本件フィルター工事を含めた本件工事及び本件キャスター工事における請求人の利益の額が、上記の管理費合計5,000,000円に含まれているものとして見積もることが合理的であると認められる。
 そうすると、請求人の利益も含めて本件工事の原価として本件請負工事原価明細書に記載された別表3順号16から39までの「支払金額」欄記載の合計額13,686,472円に本件各資産の取得価額の合計額70,140,000円を加えた額83,826,472円が本件工事の代金の額の見積額として相当である。
(B) なお、原処分庁は本件キャスター工事の原価率を基準にして本件工事の売上金額を算定しているが、上記(A)のとおり、本件工事の事実関係を前提にすると、本件キャスター工事及び本件工事における請求人の利益の額を上記の管理費合計5,000,000円のほかに存在するものとして見積もることは相当ではないから、この点に関する原処分庁の主張を採用することはできない。
(C) したがって、平成20年9月期の売上げに計上すべき額は、本件工事の代金の見積額である83,826,472円(消費税等抜き)である。
C 請求人の主張について
 請求人は、本件工事の一部である安全柵の取り付け等が終了していないから、本件工事は完了していないし、引渡しもしていない旨、本件工事の契約は平成20年9月に解除されたことから、本件工事の代金の額は確定せず、その算出も不可能である旨などを主張する。
 しかしながら、上記A(A)のとおり、本件工事については、工事が完了し、その後G社が使用収益しているのであるから、目的物の引渡し又は約した役務の提供が完了しているといえる。そして、安全柵の取り付け等の工事については、平成20年9月に契約が解除されたことによりその部分を施工すべき義務が消滅したのであるから、その時点で請求人とG社の合意に基づき請求人が行うべき工事については完了したといえ、請求人の主張するこれらの工事を行っていないことが本件工事を売上げに計上することに影響を与えるものではない。さらに、請求人の主張する代金の確定やその算出の点については、代金が確定しない場合には、適正な見積額で収益に計上し、確定した時点で修正すべきであって、本件工事の代金の額の見積りは上記Bのとおり可能であるから、原処分を取り消すべき理由となるものではない。
 したがって、これらの点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ) 消費税等について
A 上記(イ)Aのとおり、本件工事として請求人とG社との間の合意に基づいて行うべき工事については、遅くとも平成20年9月末日までに、目的物の引渡し又は約した役務の提供を完了しているから、本件工事の課税資産の譲渡等の時期は平成20年9月課税期間である。
B そして、上記ロ(ニ)及び(ヘ)のとおり、平成20年9月課税期間の末日までに本件工事の対価の額が確定していないから、同日の現況によりその金額を適正に見積もると、本件工事について、平成20年9月課税期間の課税資産の譲渡等の対価とすべき額は、上記(イ)Bのとおり、83,826,472円(消費税等抜き)である。

(2) 争点ロについて

 上記(1)ロ(ニ)及び(ヘ)並びに上記1(4)トのとおり、原処分庁は、平成20年9月期の末日において収益計上すべき本件工事の代金の額が未確定であることから、本件工事に関する直接資料である本件請負工事原価明細書を基礎として、本件工事の代金の額を合理的に算定したものであり、また、上記(1)イ(イ)によれば、本件工事の代金の額は、その金額が確定した事業年度において確定した額と見積額との差額を修正することができるものである。
 したがって、本件工事の売上金額を同工事の原価の金額を基に算定したことは、法人税法第131条に規定する青色申告書に係る課税標準を推計したことに該当しない。

(3) 原処分について

イ 本件法人税各更正処分
 本件工事の売上げについては上記(1)ハ(イ)のとおりであり、本件各資産の取得価額は本件工事の完成工事原価であって請求人の減価償却資産とはならず、本件各資産に係る減価償却費の額は本件各事業年度において損金の額に算入されないから、本件工事の完成工事原価は79,826,472円であり、そうすると、平成20年9月期の所得金額は、別表5の「審判所認定額」欄記載のとおりとなり、その法人税の額は、別紙1の「取消額等計算書」の「課税標準等及び税額等の計算」記載のとおりとなり、原処分の額を下回るから、平成20年9月期の法人税の更正処分は、その一部を別紙1のとおり取り消すべきである。
 平成21年9月期の所得金額を計算したところ、その所得金額は別表5の「審判所認定額」欄記載のとおりとなり、原処分の額を上回るから、平成21年9月期の法人税の更正処分は、取り消すべき理由はない。
ロ 本件消費税等更正処分
 本件工事の課税資産の譲渡等の対価とすべき額は、上記(1)ハ(ロ)のとおりであり、控除対象仕入税額は原処分のとおりであるから、平成20年9月課税期間の消費税等の額は、別紙2の「取消額等計算書」の「課税標準額及び税額等の計算」記載のとおりとなり、原処分の額を下回るから、本件消費税等更正処分は、その一部を別紙2のとおり取り消すべきである。
ハ 本件法人税各賦課決定処分
 上記イのとおり、平成20年9月期の法人税の更正処分はその一部を取り消すべきであるから、平成20年9月期の賦課決定処分は、その一部を別紙1のとおり取り消すべきであり、平成21年9月期の賦課決定処分は、これを取り消すべき理由はない。なお、本件法人税各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定により過少申告加算税の賦課決定をしたことは適法である。
ニ 本件消費税等賦課決定処分
 上記ロのとおり、本件消費税等更正処分はその一部を取り消すべきであるから、本件消費税等賦課決定処分は、その一部を別紙2のとおり取り消すべきである。なお、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定により過少申告加算税の賦課決定をしたことは適法である。

(4) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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