(平成24年6月7日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が経営するガソリンスタンドに在庫する揮発油税及び地方揮発油税(以下「揮発油税等」という。)が課税された揮発油であるガソリンについて、原処分庁が調査及び成分分析の結果、揮発油税等が免除された揮発油である灯油の混和の事実を認定し、当該混和によって新たな揮発油の製造があったとして、その成分分析に係る検査用の見本(以下「検体」という。)を購入した時点に在庫していたとする当該新たな揮発油の移出について行った揮発油税等の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分に対し、請求人が調査手続等に違法があることなどを理由に全部の取消しを求めた事案であり、争点は次の3点である。

  1. 争点1 原処分庁の調査手続に違法があるか否か。
  2. 争点2 請求人が行った灯油をガソリンに混和する行為は新たな揮発油の製造に当たるか否か。
  3. 争点3 課税標準となる移出数量の算定に合理性が認められるか否か。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成23年7月24日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである。

(3) 関係法令等

 別紙10のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実については、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、a市b町内において、「F社g店」(以下「g店」という。)、「F社d店」(以下「d店」という。)及び「F社e店」(以下「e店」という。)の3給油所(これら3か所の給油所を併せて、以下「本件各給油所」という。)を経営している。
ロ 請求人は、本件各給油所において揮発性の高い危険物であるガソリンを貯蔵するための密閉性の高い構造となっている地下タンクを、g店には2本(30KL及び10KL)、d店には3本(各10KL)、e店には3本(各10KL)設置している。
ハ 請求人は、平成22年頃、ガソリンなどの第1石油類よりも引火性の低い軽油、灯油などの第2石油類を貯蔵する構造となっている1KLタンクを搭載したミニローリー(以下「本件ミニローリー」という。)を所有していた。
ニ 原処分庁は、平成22年1月から同年8月までの間に、本件各給油所において購入したガソリンの検体のうち、灯油成分が検出されたガソリンの検体(以下「本件検体」という。)を購入した時点の属する平成22年1月から同年8月までの各課税期間において当該各課税期間内に本件各給油所から移出された数量を揮発油税等の課税の対象として、平成23年3月9日付で別表1の各「決定処分等」欄のとおり、各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分(以下「各決定処分等」という。)を行った。
ホ 原処分庁は各決定処分等において、別表2のとおり、原処分庁が本件検体を購入した時点の直前のガソリンの仕入時における「荷卸前タンク在庫数量まる1」に、当該荷卸に係る「仕入数量まる2」を加算して荷卸後の在庫数量を算出し、この荷卸後の在庫数量から、原処分庁が情報収集により取得したガソリンの販売記録に基づく荷卸作業開始時から本件検体購入時までの「移出数量まる3」を差し引いて算出した本件検体の購入時における「在庫数量」が、課税対象となる移出数量であるとして、課税標準を算出した。
ヘ 原処分庁は、請求人から平成23年3月29日に異議申立てがされたことに対し、上記ニの各課税期間内に移出された数量は別表3の「原処分による課税標準等」の「まる2移出数量」欄の数量であるとして課税標準を算出し、平成23年6月24日付で別表1の「異議決定」欄のとおり、各決定処分等の一部を取り消す異議決定を行った。

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2 主張

 別紙11のとおりである。

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3 判断

(1) 争点1 原処分庁の調査手続に違法があるか否か。

イ 法令解釈
 揮発油税法第26条第1項第1号及び地方揮発油税法第14条の2第1項第1号は、国税局等の当該職員は揮発油税に関する調査についても必要な範囲内で揮発油の製造業者又は販売業者等に対する質問検査をすることができる旨規定し、また、同項第3号及び地方揮発油税法第14条の2第1項第3号は、国税局等の当該職員は揮発油税に関する調査について必要な範囲内で揮発油の製造業者又は販売業者等の業務に関する揮発油について必要最小限度の分量の見本を採取することができる旨規定しているところ、この場合の質問検査等の範囲、程度、時期、場所等実定法上特段の定めのない実施の細目については、客観的に質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものと解される。
ロ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 原処分庁は、本件各給油所において灯油の混和が疑われる状況がみられたことから、平成22年1月19日から同年8月30日までの期間において、容量3Lのガソリン携帯缶により約3Lずつ合計25回にわたり、本件各給油所から分析用ガソリンとして灯油成分が検出された本件検体を含むガソリンの検体の買上げ(以下「本件買上げ」という。)を実施した。
 なお、本件買上げに際して原処分庁の職員は、その身分及び購入目的を明らかにすることなく本件買上げをした。
(ロ) 本件買上げによる全検体の購入の日時及び数量等については、原処分庁において領収証等の購入記録が保存されている。また、全検体の購入後の現物の管理及び保管状況については、各携帯缶の収容量のうちの一部が保存用の金属製1L缶に移され、当該1L缶には直ちに識別標証等が付され、分析後も原処分庁の冷凍庫にて保存されている。
(ハ) 平成22年9月2日、原処分庁は本件各給油所を国税局が所管する製造場に指定し、同日揮発油税等の調査を実施した。
(ニ) 原処分庁は、請求人に係る揮発油税等の調査における協力依頼として、請求人が採用しているPOSシステムのデータ管理会社(1社)、ガソリンの出荷元である製油所(3社)及び運送業者(6社)から資料の情報収集をした。
ハ 判断
(イ) 検体の買上げについて
 上記ロにおいて認定した事実によれば、本件買上げは、本件各給油所において灯油の混和が疑われる状況がみられたことから、原処分庁が、本件各給油所を国税局が所管する製造場に指定して揮発油税等に関する質問検査を実施するに先立って、必要な情報収集として、本件各給油所から検体を入手して成分の分析を行うために、その所属する職員において、その身分及び購入目的を明らかにすることをせずに、通常の売買契約を締結することにより行ったものであって、揮発油税等に関する税務調査の一環として行われたものと評価することができるところ、その必要性及び態様に鑑みると、本件買上げは、相手方の私的利益との衡量において、社会通念上相当な限度にとどまっていると認められるから、原処分庁が上記認定の態様で本件買上げを行ったことが違法ということはできない。
 請求人は、原処分庁が本件各給油所から行った本件買上げは、まる1携帯缶による購入はガソリン切れ(エンスト)対応や発電機への注入を目的として行われるものであるから揮発油(ガソリン)の成分検査を目的に購入すること自体が違法であること、まる2本件買上げは、原処分庁が請求人に対して揮発油(ガソリン)の購入目的を知らせることなく行った違法な購入行為であり、少なくとも購入目的を告げ請求人の同意を得た上で購入すべきであったこと、まる3本件買上げは、従業員の立会いなしには携帯缶による購入が認められないセルフ式スタンドの場合と比べて公平性を欠いていること、などを主張する。しかしながら、上記認定説示のとおり、原処分庁の実施した本件買上げは、その必要性及び態様に鑑みると、相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまっていると認められ、原処分庁が上記認定の態様で本件買上げを行ったことが違法ということはできないことから、請求人の主張はいずれも採用することができない。
(ロ) 検体分析の信頼性について
 上記ロの(ロ)において認定した事実によれば、本件検体の購入状況及び本件検体の特定性に係る記録等の信ぴょう性は高く、その後の現物管理は適正に行われていると認められるから、本件買上げをした全検体について原処分庁が行った検体分析は信頼すべきものと認められる。
 請求人は、本件検体の出所が不明であり、検査の過程で検体の取り違え等が生じた可能性があり、分析結果は信用できない旨主張するところ、本件検体の現物管理も適正に行われており、取り違えの事実も認められないことから、請求人の主張は採用することができない。
(ハ) 原処分庁の調査手続について
 上記ロの(ニ)のとおり、原処分庁は、請求人に対する揮発油税等の調査の一環としてPOSシステムのデータ管理会社、ガソリンの出荷元である製油所及び運送業者に対して協力を依頼し、その了解を得た上で資料情報収集を行ったと認められるのであり、その必要性及び態様に鑑みると、当該資料情報収集が相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限度にとどまっていると認められるから違法ということはできない。
 請求人は、原処分庁は取引先への不適切な調査により請求人の信用を害し、その調査手続は違法である旨を主張するが、上記認定説示のとおりであって、請求人の主張は採用することができない。
 また、請求人は、本件検体の購入については、憲法第31条の令状主義によることなく違法に収集された証拠であり、これを本件の証拠とすることはできない旨を主張するが、原処分庁が本件買上げを行ったことが違法ということはできないことは、上記(イ)のとおりであるから、請求人の上記主張は前提を欠き、採用することができない。
(ニ) 小括
 以上のとおり、請求人の主張はいずれも採用することができず、原処分庁の調査手続に違法はない。

(2) 争点2 請求人が行った灯油をガソリンに混和する行為は新たな揮発油の製造に当たるか否か。

イ 法令解釈
(イ) 揮発油税法第3条第1項は、揮発油の製造者は、その製造場から移出した揮発油につき、揮発油税を納める義務がある旨規定しているところ、揮発油の製造については明確な定義規定が設けられていないが、社会通念に照らせば「製造」とは、材料又は原料に物理的操作を加え、又は化学的変化を与えることによって一つの物を造り出す行為をいい、この場合、材料又は原料は新品であると中古品であるとを問わず、素材であると製品であるとを問わないものと解される。
(ロ) 基本通達第9条第1項は、揮発油の製造とは、原油、揮発油その他の物に積極的操作を加えて揮発油を造り出す行為をいう旨を、同条第2項では、「積極的操作」とは、蒸留、分解、改質若しくは脱硫をする等の精製操作、揮発油と揮発油以外の物、規格を異にする2種以上の揮発油若しくは2種以上の単一の炭化水素を混和する等のブレンド操作又はこれらの操作を組み合わせた操作をいう旨を定めており、当審判所においてもこれら通達の定めは相当と認める。
(ハ) 課税済みの揮発油であるガソリンに揮発油税が免除された灯油を混和して新たな揮発油を造り出す行為は揮発油税法等にいう揮発油の製造に当たると解するのが相当である。
ロ 認定事実
 原処分庁関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件買上げの状況
 原処分庁の職員は、まる1平成22年8月11日午後0時15分d店において、請求人の代表者が本件ミニローリーのディスペンサーの給油ノズルを給油口に差し込み本件ミニローリーの積載物を地下タンクに投入している現場を目視し、その直後である同日午後0時31分にd店において本件買上げを行い、まる2同月13日午前9時15分にe店において、請求人の代表者の実弟であるKが本件ミニローリーの積載物をディスペンサーのメーターを見ながら地下タンクに荷卸している現場を目視し、その2時間30分後である同日午前11時45分にe店において本件買上げを行い、また、まる3同月14日午後8時2分にg店において請求人の代表者が本件ミニローリーの積載物をディスペンサーのメーターを見ながら地下タンクに荷卸している現場を目視し、直後である同日午後8時16分にg店において本件買上げを行い、本件各給油所から計3個の検体を取得した。
(ロ) 本件買上げによる検体の成分分析
 原処分庁は、平成22年1月19日から同年8月30日までの間に、本件買上げを実施して、上記(イ)のとおり原処分庁が取得した3個の検体を含む合計25個の検体を取得した。そして、これらについて成分分析を行った結果、25個中19個の検体から、灯油の成分として顕著な炭化水素の一つであるノルマル・テトラデカンを検出した。
 なお、ノルマル・テトラデカンを検出した19個の検体には当該3個の検体も含まれている。
(ハ) 本件買上げによる検体の推定混和率
 上記(イ)で原処分庁が取得した3個の検体の灯油の推定混和率は、まる1d店における本件買上げについては17.6%、まる2e店における本件買上げについては2.16%及びまる3g店における本件買上げについては2.69%であった。
(ニ) 本件検体の出荷元のガソリンの成分分析
 原処分庁は、本件検体に係るガソリンの出荷元であるL社f製油所の品質管理課及びM社f工場の製油部試験課に対して調査を行ったところ、本件検体の出荷に係るロット番号のガソリンの成分分析結果では灯油成分であるノルマル・テトラデカンは一切検出されていないことを把握した。
(ホ) 運送会社のタンクローリーの運転手の申述
 上記(ニ)の各製油所から本件各給油所へ輸送した運送会社であるN社、P社、Q社a事業所、R社、S社及びT社の各タンクローリーの運転手は、一様に、輸送過程で停車するのは、製油所等でガソリン等を積み込む時、ガソリンスタンドにおいてガソリン等を荷卸する時、及び休憩を取る時ぐらいであり、また、ガソリンスタンドでガソリン等の荷卸作業をする時は、運転手とガソリンスタンドの従業員の双方でタンク在庫、荷卸油種、荷卸数量を厳重に確認するので荷卸油種を誤って荷卸することはない旨、また、製油所等でガソリン等をタンクローリーに積み込む時の作業は、製油所等でタンクローリーのハッチ内が空の状態であることを確認してから行い、毎回、ガソリンスタンドの荷卸漏れがないように、運転手とガソリンスタンドの従業員とで荷卸前のタンク内の在庫数量と荷卸数量、荷卸後のタンク内側の在庫数量を確認するので、荷卸漏れとなることはない旨、さらに、配管についても、荷卸する油種が変わるごとに、配管を絞ったり車体を傾けたりして油種が残らないようにしているため、輸送過程のタンクローリー内でガソリンと灯油が混和されることはない旨の申述をしている。
(ヘ) ガソリンの融通に関する証拠の不提出
 請求人は、当審判所に対して、本件ミニローリーへガソリンを積載し本件各給油所間で融通した事実に関する具体的な証拠を提出していない。
ハ 判断
(イ) 請求人がした混和について
 上記1の(4)のハのとおり、請求人は、平成22年頃、ガソリンなどの第1石油類よりも引火性の低い軽油、灯油などの第2石油類を貯蔵する構造となっている1KLタンクを搭載した本件ミニローリーを所有していたところ、上記ロの(イ)及び(ロ)のとおり、平成22年8月に、請求人の代表者等が本件ミニローリーのディスペンサーの給油ノズルを給油口に差し込み、本件ミニローリーの積載物を本件各給油所の各地下タンクに投入している現場を原処分庁の職員が目視し、その直後ないし2時間30分後に本件各給油所から買上げを行って取得した検体には、炭化水素の中でも比重が重いことから灯油よりも比重の軽いガソリンには通常は含まれず灯油の成分として顕著な炭化水素の一つであるノルマル・テトラデカンが検出されたのみならず、同年1月から8月にかけて原処分庁が本件買上げを実施して取得した上記3個の検体を含む合計25個の検体のうち19個の検体から同様にノルマル・テトラデカンが検出されている。他方、上記ロの(ニ)のとおり、本件検体の出荷元の成分分析によると、本件検体の出荷に係るロット番号のガソリンからは、ノルマル・テトラデカンは一切検出されておらず、また、上記ロの(ホ)のとおり、各製油所から本件各給油所までガソリンを輸送したタンクローリーの運転手らの申述(その内容に特段不自然な点はなく、信用することができる。)によれば、製油所においてタンクローリーが空の状態であることを確認しているから、ガソリン等の積込みを行い、輸送過程で停車するのは、ガソリン等の積込み時、荷卸時及び休憩時くらいであり、ガソリンスタンドにおける荷卸では、ガソリンスタンドの従業員と荷卸油種及びガソリンタンク内の在庫数量等を確認していることが認められ、このことからすると、輸送過程でガソリンに灯油の混和が生じる可能性はないということができる。
 以上によると、請求人は、本件各給油所において、本件ミニローリーに積載した灯油を直接に本件各給油所の地下タンクに貯蔵されたガソリンに投入することにより灯油を混和したものと認めるのが相当である。そして、上記イの(ハ)に照らせば、請求人がした当該混和は、課税済みの揮発油であるガソリンに揮発油税等の課税が免除された灯油を混和して新たな揮発油を造り出す行為に当たるというべきであり、本件各給油所において行われた揮発油の製造に当たるということができる。
(ロ) 請求人の主張について
A 請求人は、本件ミニローリーを使って本件各給油所間で灯油、軽油及びガソリンを融通しており、本件ミニローリーに灯油を積み込んで灯油を融通した後にガソリンを積み込んでガソリンの融通を行ったところ、本件ミニローリー内で積み込んだガソリンと10Lから25L程度の灯油の残油が混和されたものである旨を主張している。しかしながら、仮に請求人が主張するように、灯油の残油量の最大数量25Lが上記ロの(イ)の各目視の時において各地下タンクに投入されたとすると、d店の地下タンクの灯油混和率は0.098%(平成22年8月11日の検体購入時の在庫数量25,509L分の25L)、e店の地下タンクの灯油混和率は0.388%(平成22年8月13日の検体購入時の在庫数量6,446L分の25L)、g店の地下タンクの灯油混和率は0.112%(平成22年8月14日の検体購入時の在庫数量22,250L分の25L)となり、これらの数値は、原処分庁の職員による目視の直後ないし2時間30分後に買い上げられた本件検体の分析結果である上記ロの(ハ)の灯油の推定混和率とはかけ離れた微小な数値となることからすると、請求人が主張するように本件ミニローリーの灯油残量が地下タンクのガソリンと混和したとは認め難い。
 さらに、まる1上記1の(4)のハのとおり、本件ミニローリーはガソリンなどの第1石油類よりも引火性の低い灯油などの第2石油類を貯蔵する構造となっていること、まる2上記ロの(ヘ)のとおり、請求人は、当審判所に対して、本件ミニローリーへガソリンを積載し本件各給油所間で融通した事実に関する具体的な証拠を提出していないことからすると、本件各給油所間等で本件ミニローリーによるガソリンの融通が行われたと認めることもできない。
 したがって、請求人の上記主張は採用することができない。
B また、請求人は、本件ミニローリーを使って本件各給油所間においてガソリンを融通する際に生ずるガソリンと本件ミニローリーの残油である灯油との混和は、積極的な操作はなく、ブレンド操作には該当せず、灯油の混入が原因の車両トラブル等は1台もなく、灯油の混和率は最高でも1%ぐらいであるから、新たな揮発油の製造には当たらない旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、請求人は、本件ミニローリーに積載した灯油を直接に本件各給油所の各地下タンクに貯蔵されたガソリンに投入し灯油を混和した事実が認められるのであって、請求人の主張はその前提を欠くものであり、採用することができない。

(3) 争点3 課税標準となる移出数量の算定に合理性が認められるか否か。

イ 法令解釈
 揮発油税法第8条第1項及び地方揮発油税法第3条は、揮発油税等の課税標準は、揮発油の製造場から移出した揮発油の数量から、消費者に販売するまでに貯蔵及び輸送により減少すべき揮発油の数量に相当する数量を控除(欠減控除)した数量とされており、いわゆる製造場移出課税制度であって、かつ、従量課税制度を採用している。
 また、課税物件である揮発油の移出という事実は、その原因が売買、交換その他いかなるものであるかを問わず、揮発油が製造場の区域から物理的に搬出されることをいい、揮発油税法第14条第1項による未納税移出等、その移出が一定の免税規定に該当するものでない限り、揮発油の移出に対しては揮発油税等が課税されることとなる。
 したがって、製造場間で揮発油を移出入する場合には、例えば、揮発油税法第14条第1項等の規定により一定の免税手続を履践するか、移入した課税済み揮発油を当該製造場から再度移出する場合として同法第17条第2項に規定する戻し入れの場合の揮発油税の控除等の手続を履践し、課税済み揮発油に係る揮発油税の控除を受けるのでない限り、製造場からの揮発油の移出に対して、揮発油税等が課税されることとなる。
 さらに、揮発油税法第24条は、揮発油の販売業者は、揮発油税法施行令第17条第4項第2号の定めるところにより、揮発油の販売に関する事実として、販売した揮発油の種類、種類ごとの数量、販売の年月日並びに買受人(揮発油の製造者若しくは販売業者又は揮発油を原料とする他の物品の製造業者に限る。)の住所及び氏名又は名称を帳簿に記載しなければならない旨規定している。
ロ 認定事実
 原処分庁関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 在庫(製造)数量について
 原処分庁は、本件各給油所において、灯油の混和数量、日時等を記したメモ等の帳票類の保存がなく、製造数量等の確定につながる事績が残されていないことから、本件検体購入時のガソリンの在庫数量については、荷卸間開差数量を基に前回荷卸と次回荷卸間の時間当たり移出数量を求め、その経過時間当たり移出数量から前回荷卸後から本件検体購入時までの移出数量を算出し、当該移出数量を前回荷卸後の在庫数量から控除することにより算出している。
【計算方法】
 まる1 前回荷卸後から次回荷卸前までの経過時間 ・・・ H
 まる2 荷卸間開差数量 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ x
 まる3 まる1の経過時間当たり移出数量 x/H ・・・・・・・・ v
 まる4 前回荷卸後から本件検体購入時までの経過時間 ・・・ h
 まる5 まる4の経過時間における移出数量 v×h・・・・・・・・ V
 まる6 前回荷卸後の在庫数量 ・・・・・・・・・・・・・・ まるA
 まる7 本件検体購入時の在庫数量 ・・・・・・・・・・・・ まるA−V
(ロ) 移出数量について
 ガソリンスタンドにおける移出数量は、一般的にはディスペンサーを通じて販売される数量であるところ、本件各給油所には日々の販売数量を記録したPOSシステムのデータなどの帳票類は保存がされておらず、また、販売数量等はPOSシステムにより管理されていることから、記録帳票についても最新のもの除き保存されておらず、帳票類による移出数量の把握は困難な状況にあった。
 また、原処分庁は、原処分の課税標準となる移出数量について、POSシステムのデータ管理会社への資料情報収集において把握した本件POSデータによる販売数量が課税標準数量の算出の基となる移出数量(以下、本件POSデータを基に算出された移出数量を「原処分による算定移出数量」という。)であるとして原処分を行っているが、原処分庁は、本件POSデータは請求人以外の第三者に提示することが制限されていることを理由に本件POSデータを当審判所に対して証拠提出せず、本件審査請求に際し、原処分による算定移出数量に替え、荷卸間開差数量を前回荷卸後から次回荷卸前までの移出数量であるとして荷卸時の在庫数量を基に次の計算方法により算出した移出数量が課税対象となるとして別表3の「原処分庁主張の課税標準等」の「移出数量」欄の移出数量を算出している。
 なお、原処分庁が本件審査請求において主張する新たな課税標準となる移出数量の計算方法(以下「原処分庁主張算定方法」という。)は次のとおりである。
【計算方法】
 原則として、本件検体購入時の在庫数量が課税月内に移出した数量であるが、当該在庫数量が課税月内に移出できない場合には、次のとおり越月分の調整を行うことにより課税月内における移出数量を算出する。
 まる1 前回荷卸後から次回荷卸前までの経過時間 ・・・ H
 まる2 荷卸間開差数量 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ x
 まる3 まる1の経過時間当たり移出数量 x/H ・・・・・・・・ v
 まる4 前回荷卸後から本件検体購入までの経過時間 ・・・・ h
 まる5 Hの時間のうち月末までの経過時間 ・・・・・・・・ H’
 まる6 本件検体購入時から月末までの経過時間 H’−h ・・・ h’
 まる7 課税月内における移出数量 ・・・・・・・・・・・・ v×h’
(ハ) 本件各給油所の各地下タンクについて
 平成22年1月4日から同年8月28日までの荷卸作業手順確認書の写し計292件中、その約4分の1に当たる75件について荷卸前在庫数量に荷卸数量を加えた数量又は実在庫数量が規定のタンク容量を超え、その余裕部分は容量の10%の範囲内で記録されており、本件各給油所の地下タンクは、規定容量よりもそれぞれ10%程度の余裕が設けられている。
(ニ) 各地下タンクの連結について
 本件各給油所の各地下タンクについては、その構造図面を調査したが、請求人が主張するような複数の地下タンクが底部で連結され、あるタンクのガソリンが他のタンクと行き来するような構造とはなっておらず、仮に請求人が主張するような構造であれば複数のタンクのガソリンは同一の液面位置に安定するはずであるが、実際には、荷卸作業手順確認書の在庫確認数量も各タンク間でそれぞれ違った液面位置であった。
 なお、d店及びe店については、いずれも販売のためにガソリンをディスペンサーに吸い上げる際にガソリンを各地下タンクから同時に吸い上げる構造となっており、例えばd店については、3本のガソリンの地下タンクから同時に吸い上げられてディスペンサーを経て給油される構造となっており、また、g店については、各地下タンクからディスペンサーにつながる吸油管はディスペンサーに至る過程では連結することなく、ディスペンサー内部において給油に際し合流する構造となっている。
(ホ) 運送会社の運転手の申述
 上記(2)のロの(ホ)の運送会社の各タンクローリーの運転手は、荷卸間開差を算出する前提である前回荷卸後の在庫数量と次回荷卸前の在庫数量は、本件各給油所の各地下タンクの残量計のデジタル表示板又はレベルメーターの実測値であり、荷卸の都度、それに立ち会うタンクローリーの運転手と請求人の代表者又は従業員が各地下タンクの在庫ガソリンの数量を確認し、その間違いのないことの確認としてのサイン等を付した荷卸作業手順確認書を作成している旨申述している。
(ヘ) 荷卸間の経過時間について
 上記(イ)の【計算方法】まる3の前回荷卸後から次回荷卸前までの経過時間当たり移出数量を算出する基になる荷卸間の経過時間は、ガソリンを輸送するタンクローリーの運行管理表及びその運転手が記載した「運転日報」等の記録に基づくものである。なお、経過時間は各地下タンクによって差異はあるものの、最短68時間、最長404時間、平均158時間(約1週間弱)となっている。
ハ 判断
(イ) 製造及び移出数量について
 原処分庁は、製造数量及び移出数量について、いずれもPOSシステムのデータなどの販売記録等によらず、上記ロの(ロ)の原処分庁主張算定方法による荷卸間開差数量が前回荷卸後と次回荷卸前までの移出数量であるとして荷卸時の在庫数量を基に本件検体購入時の在庫数量(製造数量)及び課税標準となる移出数量を算出しているため、原処分庁が行った原処分庁主張算定方法の適否について、以下検討する。
A 移出数量の算出方法について
 上記イのとおり、揮発油税法第24条及び揮発油税法施行令第17条第4項第2号は、揮発油の販売業者は、揮発油の販売に関する事実として販売した揮発油の種類、種類ごとの数量、販売の年月日を帳簿に記載しなければならない旨規定しているが、上記ロの(ロ)のとおり、本件各給油所においてこれらを記録した帳票類は保存がされておらず、また、販売数量等はPOSシステムにより管理されていることから、記録帳票についても最新のものを除き保存されておらず、帳簿記録による移出数量の把握は困難な状況にあった。
 そのため、原処分庁は、その代替方法として、上記ロの(ロ)のとおり、前回荷卸後と次回荷卸前までの荷卸間開差数量、その経過時間及び本件検体購入までの経過時間を基に移出数量を算出し、また、本件検体購入時の在庫数量が課税月内に移出できないと算出される場合には、越月分の調整を行うことにより課税月内における移出数量を算出している。
B 原処分庁主張算定方法の合理性について
(A) 上記1の(4)のロのとおり、ガソリンは危険物であり揮発性の高い液体であるため、密閉性の高い地下タンクに保管されており、本件各給油所において荷卸間開差に相当する数量は、製造場である本件各給油所から移出されたものと合理的に推認することができる。
 そして、上記ロの(ホ)のとおり、荷卸間開差を算出する前提である前回荷卸後の在庫数量と次回荷卸前の在庫数量については、本件各給油所の各地下タンクの残量計のデジタル表示板又はレベルメーターの実測値によるべきところ、各製油所から本件各給油所までガソリンを輸送したタンクローリーの運転手らは、荷卸の都度、それに立ち会うタンクローリーの運転手と請求人の代表者又は従業員が当該実測値により各地下タンクの在庫ガソリンの数量を確認し、その数量に間違いのないことの確認としてのサイン等を付した荷卸作業手順確認書を作成している旨申述しており、この申述は、その内容に特段不自然な点はなく、信用することができるから、荷卸作業手順確認書に記録された確認在庫数量は正確であり、信頼することができるものであると認められる。
 また、上記ロの(イ)の【計算方法】のまる3の経過時間当たり移出数量を算出する基になる荷卸間の経過時間は、上記ロの(ヘ)のとおり、ガソリンを輸送するタンクローリーの運行管理表及びその運転手が記載した「運転日報」等の記録に基づくものであり、当該記録の正確性に疑義を生じさせるべき事情も見当たらないところ、経過時間は各地下タンクによって差異はあるものの、最短68時間、最長404時間、平均158時間(約1週間弱)と課税期間の1か月と比較して短期間であって、当該経過時間を基に算出した移出数量は合理的なものであると認められる。
(B) このように、荷卸間開差数量が正確で、経過時間当たり移出数量の計算が合理的であれば、本件検体購入時の在庫数量及び当該数量の課税月内における移出数量についても、上記ロの(イ)の計算方法で合理的に算出することができるから、原処分庁主張算定方法によって算出された移出数量をもって揮発油税等の課税標準の基となる移出数量と推認することができる。
C 請求人の主張について
 請求人は、原処分庁主張算定方法に対して、その計算の基礎となっている荷卸前後の在庫数量及びそれらを基に算出した本件検体購入時の在庫数量について、次の(A)ないし(C)の3点を理由にその数量は信頼できない旨、また、原処分による算定移出数量については、本件POSデータに反映されないポンプテストカードで移出した数量もあるから、本件POSデータによることもできない旨、さらに、請求人は、原処分庁は本件の課税処分の根拠及び理由を本件審査請求書において変更してきたが、原処分庁が違法な形で収集した本件POSデータに基づく原処分庁による本件の課税処分の根拠や理由を変更するものであり、原処分庁による本件の課税処分が誤りであったことを示すものであって、本件の課税処分は何ら理由と根拠を欠くものとして取り消されなければならない旨主張する。
(A) 本件各給油所の各地下タンクの容量にはそれぞれ約1割の余裕があるので、値動きの関係で安値のガソリンが入手できる場合は、タンクの規定容量を超えて貯蔵能力の一杯に荷卸することがあり、この場合は、規定容量を超えると罰則らしきものがあるため、荷卸の際にタンクローリーの運転手及び請求人の従業員等が作成する荷卸作業手順確認書には、実際の数量を記載しないことがある。
(B) g店及びd店の地下タンクについては、ガソリンの各地下タンクの底部にパイプジョイントがあることから、各地下タンクのガソリンが流出入し、各地下タンクごとの正確な在庫数量の把握は不可能である。
(C) 本件検体購入時の在庫数量については、本件ミニローリーによる本件各給油所間等におけるガソリンの融通によって、製油所からの荷卸以外にガソリンの受入れ及び払出しがあるので、荷卸間開差数量のみでは正確な実在庫数量及びそれを基にした本件検体購入時の在庫数量を計算することは不可能であり、原処分庁主張算定方法による本件検体購入時の在庫数量は信用することができない。
 しかしながら、上記(A)の点についての主張については、上記ロの(ハ)のとおり、本件各給油所の各地下タンクは10%程度の余裕が設けられており、規定容量を超過した容量による記録が相当数認められることからして、実際の数量を記載しないとする請求人の主張とは異なり、記載された「実在庫数量」は、タンクの規定容量の範囲内に抑えることなく実際の数量がそのまま記載されているものとみるのが自然であり、上記ロの(ホ)のタンクローリーの運転手の申述内容を併せ考えると請求人の主張するようなタンク規定容量の範囲内に抑えるために荷卸作業手順確認書に実際と異なる少ない数量を記載するといった事実はなかったものと認められるから、請求人の上記主張は、採用することができない。
 また、上記(B)の点についての主張については、上記ロの(ニ)のとおり、本件各給油所の各地下タンクについては、請求人が主張するような各地下タンクの連結構造であると認めることはできず、d店については、3本のガソリンの地下タンクから同時に吸い上げられてディスペンサーを経て給油される構造となっており、g店についても、各地下タンクからディスペンサーにつながる吸油管は、ディスペンサーに至る過程では連結することなく、ディスペンサー内部において給油に際し合流する構造となっているものと認められることから、請求人が主張するような各地下タンク相互のガソリンの流入又は流出はないものと認められる。したがって、請求人の上記主張は、採用することができない。
 さらに、上記(C)の点についての主張については、上記(2)のハの(ロ)のAで認定説示したとおり、本件各給油所間等で本件ミニローリーによるガソリンの融通が行われたと認めることができず、採用することができない。
 そして、原処分による算定移出数量については、原処分庁は、本件審査請求において、本件POSデータによる数値を主張することなく、前回荷卸後と次回荷卸前の間の開差数量(荷卸間開差数量)を基とした算出方法によることが合理的であるとして原処分庁主張算定方法による移出数量等を主張しているところ、上記Bの(B)のとおり、原処分庁主張算定方法は合理的であり、原処分庁算定方法によって算出された移出数量をもって揮発油税等の課税標準の基となる移出数量と推認することができるから、請求人のその他の上記主張についても、いずれも採用することができない。
D 小括
 以上のとおり、荷卸作業手順確認書に記録された本件各給油所における各地下タンクの荷卸前後の在庫数量及び運転日報等の記録に基づく荷卸間の経過時間は、いずれも正確であると認められることから、本件各給油所において前回荷卸後と次回荷卸前までの間の開差に相当する数量が製造場である本件各給油所から移出された数量であると合理的に推認することができ、本件検体購入時の在庫数量及び当該数量の課税月内における移出数量についても、合理的に推認することができる。
(ロ) 課税標準となる移出数量について
 原処分庁主張算定方法は合理的であり、課税標準の基となる移出数量と推認することができるから、当審判所においても原処分庁主張算定方法により移出数量を認定することとして検討した結果は、次のとおりである。
A 当審判所において、別表4のとおり、原処分庁が主張する本件検体購入時の在庫数量を基に、時間当たり移出数量から逆算し、本件検体購入時の在庫数量が課税月内に移出されたか否かについて検証を行ったところ、原処分庁が算出した移出数量は、本件検体購入時の在庫数量が課税移出月内に払い出しされている月分については当該在庫数量を移出数量とし、本件検体購入時の在庫数量が課税移出月内に移出できなかった月分については当該移出できなかった数量を当該在庫数量から控除することにより、適正に移出数量を算出していることが認められ、このようにして得られた移出数量は、別表4のとおり、当審判所において算出した「課税移出数量」(課税月を越えて移出された課税月分については、「月内の課税移出数量」)とも一致した。
B 次の課税月については、別表5のとおり、当審判所が認定した移出数量に基づいて算出した納付すべき税額は、いずれも原処分における納付すべき税額を上回る税額となる。したがって、原処分による納付すべき税額は審判所が認定した納付すべき税額の範囲内であるから、これらの課税月に係る原処分はいずれも適法である。
まる1 g店 平成22年7月分、8月分
まる2 d店 平成22年7月分、8月分
まる3 e店 平成22年3月分
C これに対し、次の課税月については、別表5のとおり、原処分による納付すべき税額が審判所が認定した納付すべき税額を上回る金額となり、その上回る部分について原処分は取り消されるべきである。
まる1 g店 平成22年1月分、2月分、6月分
まる2 d店 平成22年3月分、4月分
まる3 e店 平成22年2月分、5月分、7月分、8月分
(ハ) 小括
 以上により、原処分は、上記(ロ)のCのとおり、審判所認定による課税標準及び納付すべき税額を超える月分については、別紙1ないし別紙9のとおり、その一部を取り消すべきであり、その他については適法である。

(4) その他の部分について

イ 無申告加算税の各賦課決定処分については、期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。
ロ 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、不相当とする理由は認められない。

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