納付義務の確定

信義誠実の原則

  1. 納付すべき税額の確定方式
  2. 納税申告
  3. 更正の請求
  4. 更正又は決定
    1. 信義誠実の原則(4件)
    2. 調査の範囲、方法
    3. 処分の無効
    4. 更正決定通知
    5. その他

還付金の還付は公的見解の表示に当たらないから、本則課税による確定申告に係る還付金の還付後、簡易課税によるべきであるとした本件更正処分は信義誠実の原則に反せず、また、同申告に正当な理由があるということはできないとした事例

裁決事例集 No.64 - 17頁

 請求人は、関与税理士の事務員が、請求人の消費税の申告方式について原処分庁に確認したところ、原処分庁の職員は本則課税である旨回答し、また、平成8年課税期間から平成11年課税期間の本則課税による確定申告が受理され、平成8年課税期間及び平成10年課税期間については、申告書に記載された還付金が還付されているなど、請求人の消費税の申告方式につき、原処分庁が本則課税であるとの公的見解を表示していたものであるから、本件更正処分は信義誠実の原則に反し、また、平成10年課税期間に係る申告(本件申告)には国税通則法第65条第4項所定の「正当な理由」がある旨主張する。
 しかしながら、原処分庁が請求人に対してその主張するような回答を行ったことは認められず、還付金の還付についても、消費税の申告方式が簡易課税であることを看過してなされたものであり、それをもって、当該申告書の記載内容が適正であるとの公的見解の表示ということはできないため、本件更正処分は信義誠実の原則に反しない。
 また、請求人は、平成元年課税期間から平成3年課税期間まで簡易課税を適用した確定申告書を提出しており、消費税の申告方式を十分熟知していたと推定され、そして、請求人の関与税理士の交代に際し、消費税の申告方式についての確認がされていないことなどからすると、請求人は、平成8年課税期間につき本則課税として申告し、消費税が還付されたことから、直ちにその申告方式が適正と認められたものと誤解し、平成9年課税期間以降も申告方式を誤ったまま申告したものと認めるのが相当であるため、本件申告に国税通則法第65条第4項所定の「正当な理由」があるとは認められない。

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過去に原処分庁所属の職員が指導した事項と異なる内容でされた更正処分は、信義誠実の原則に反しないとした事例

裁決事例集 No.68 - 33頁

 請求人は、前回調査担当者の指導内容に反する本件更正処分は、信義則の適用により取り消されるべき旨を主張する。
 しかしながら、課税処分について、信義則を適用し租税法規に適合する課税処分を違法なものとして取り消すのは、納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしても、納税者の信頼を保護しなければならないという特別な事情がある場合と解すべきところ、[1]本件更正処分は、消費税法に基づいた適正な処分であり、その結果、請求人は正当な税額を負担することになったにすぎないこと、[2]本件更正処分に伴う加算税の賦課決定処分は、前回調査担当者の指導に誤りがあったことを理由に取り消されていること、[3]仮に、本件更正処分を取り消した場合には、請求人だけが正当な課税を免れ、かえって租税平等の原則に反する不当な結果を生ずることとなることからみれば、本件においては、納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしても、納税者の信頼を保護しなければならないという特別な事情があるとは認められず、本件更正処分を、信義則の適用によって取り消すのは相当ではない。

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税務職員の誤指導、その後の誤った申告書の受理は、公の見解の表示に当たらないとして信義則違反を理由とする課税処分の取消しを認めなかった事例

裁決事例集 No.76 - 23頁

 請求人は、昭和62年に調査を受けて、印刷設備の減価償却費の計算誤りがあったなどとして修正申告をしたが、その際、その時点における修正申告のしょうように関する具体的状況は明らかでなく、仮に、請求人の主張するとおりの指導があったとしても、修正申告のしょうようをもって、直ちに納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したとはいえず、また、請求人がその後毎年提出した確定申告書が、原処分庁によって受理され、これまでの調査において中古の印刷設備の耐用年数について何ら是正を求められなかったからといって、原処分庁が請求人の減価償却費の計算方法について積極的に是認したとはいえず、信頼の対象となるべき公的見解が表示されたとも認められない。
 さらに、本件各更正処分は、本件各中古印刷設備の耐用年数の適用誤りがあったことから行われた適正な課税処分であり、その結果、請求人は、法律の規定に従って正当な法人税額を負担することになったにすぎず、請求人が本件各更正処分を受けたことにより、特に経済的不利益を被ったとは認められない。
 以上のことからすれば、本件各更正処分には、信義則に反するとして取り消すような違法は認められない。

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請求人が行った確定申告について原処分庁が所得税を一旦還付した後に更正処分をしたことは信義誠実の原則に反しないとした事例(平成23年分の所得税の更正処分・一部取消し・平成25年11月28日裁決)

平成25年11月28日裁決

《ポイント》
 本事例は、請求人が確定申告書に記載した「還付される税金」を原処分庁が一旦還付した後に更正処分をしたことについて、当該申告書は請求人の妻が作成し、郵送で提出されていること及び税務官庁が当該申告書の作成を指導した事実が確認できないことから、当該申告書の作成について税務官庁が請求人に対して信頼の対象となる公的見解を表示したとは認められず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該更正処分に係る課税を免れしめて請求人の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情はないことから、信義則を適用する余地はないとしたものである。

《要旨》
 請求人は、原処分庁が確定申告書(本件申告書)に記載された「還付される税金」と同額を還付しているなど、本件申告書の記載内容は適正であるとの公的見解を表示したものであるから、原処分庁の行った更正処分(本件更正処分)により新たに納付すべきことになった税額のうち、すでに還付した税額(本件還付金)に係る処分は信義誠実の原則(信義則)に反し違法であり、本件更正処分のうち本件還付金の部分は取り消されるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件申告書は、請求人の妻がパンフレットを見ながら作成し、郵送で提出されていること及び税務官庁が本件申告書の作成を指導した事実が確認できないことから、本件申告書の作成について税務官庁が請求人に対して信頼の対象となる公的見解を表示したとは認められない。また、原処分庁は、所得税法第138条《源泉徴収税額等の還付》第1項及び所得税法施行令第267条《確定申告による還付》第4項の規定に従い本件還付金を還付し、国税収納金整理資金に関する法律の規定に基づき国税還付金振込通知書を送付したに過ぎず、これらの事実をもって、税務官庁が請求人に対し本件申告書の記載内容は適正であるとの公的見解を表示したとは認められない。よって、請求人には、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお本件更正処分に係る課税を免れしめて請求人の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情はなく、信義則を適用する余地はない。

《参照条文等》
  国税通則法70条第1項第1号
  所得税法第138条第1項

《参考判決・裁決》
  最高裁昭和62年10月30日第三小法廷判決(税資160号542頁)

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