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繰延資産
事業開始前に事業の用に供する資産を借入金によって取得した場合において、事業開始前に支出した当該借入金の利子は繰延資産である開業費には該当しないとされた事例
請求人が事業を開始するに当たり借入金を原資として事業用の本件建物等を取得し、事業開始前に支払った当該借入金に係る本件利子について、請求人は、所得税法施行令第126条に規定する付随費用には含まれず、同条に規定する減価償却資産の取得価額を構成しない等の理由から、所得税法施行令第7条第1項かっこ書きに規定する「資産の取得に要した金額とされるべき費用」に該当しないので同項第1号に規定する開業費に該当する旨主張する。
しかしながら、請求人は本件建物等の工事代金の支払のため銀行から借入れを行い、本件利子を支払っており、本件利子は、請求人が本件建物等を取得することを基因として支出したものと認められること、及び固定資産の取得のための借入金の利子で事業開始前の期間に対応するものは、当該固定資産の取得価額に算入するという所得税基本通達38−8の定めは相当と解されることから、本件利子は所得税法施行令第7条に規定する「資産の取得に要した金額とされるべき費用」に該当すると認められので同条に規定する開業費には当たらず、本件建物等の取得価額に算入すべきである。
平成11年6月28日裁決
法人成りにより個人事業を廃業した年分に、繰延資産(医師会の入会金等)の未償却残額を資産損失として必要経費に算入することはできないとした事例
請求人は、繰延資産として償却していた医師会への入会金及び開業時負担金について、償却期間が終了する前に個人事業を廃業(法人成り)した場合の未償却残額は資産損失に該当する旨主張する。
しかしながら、繰延資産の未償却残額に資産損失が生じたか否かは、その繰延資産に係る支出の効果に予定外の減少又は消滅があったかどうかにより判断するのが相当であると解される。
そうすると、請求人は、個人事業を廃業した後も引き続き医師会の会員であり、医師会から従前と同様の各種の教育・サービスを受けていると認められるので、請求人が医師会から受ける便益は変わらないのであるから、個人事業の廃業により入会金及び開業時負担金に係る支出の効果には予定外の消滅や減少があったとは認められず、資産損失が生じたとは認められない。
したがって、入会金及び開業時負担金のうち個人事業の廃業時における未償却残額については、所得税法第51条第1項に規定する「その他の事由により生じた損失の金額には該当せず、事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
平成15年6月24日裁決
請求人が開業費として計上した平成10年1月〜5月の地代家賃等は、平成10年1月の開業後に支出したものであるから、平成15年分の事業所得の計算上当該開業費の償却費を必要経費に算入することはできないとした事例
請求人は、平成9年中に行った各種の届出等は形骸的なものであって、請求人の真の開業時期は平成10年6月ころであるから、本件費用は開業費であり、開業費の償却費として平成15年分の事業所得の計算上必要経費に算入されるべきである旨主張する。
しかしながら、請求人は、平成9年末に、本件クリニックの賃貸借契約、医療機器のリース契約等の名義を請求人に変更し、平成10年1月以降、本件クリニックの看板を付け替えた上で、本件クリニックに係る社会保険診療報酬及び自由診療収入を請求人名義の預金口座に入金させるなどするとともに、平成10年分の所得税について平成10年1月診療分以後の収入及び支出を確定申告していることからすれば、遅くとも平成10年1月には、請求人自身の計算と危険において独立して、本件クリニックに係る事業を実質的に開始したものと認められる。
そうすると、本件費用は、いずれも本件クリニックに係る事業を開始した後に発生した費用であるから、所得税法施行令第7条第1項に規定する「事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用」である開業費には該当せず、また、本件費用の内訳は、地代家賃、修繕費及び消耗品費であり、その支出の効果が翌年以降に及ぶものであるとは認められず、所得税法施行令第7条第1項に規定する開業費以外の繰延資産にも該当しない。
平成19年2月20日裁決