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(平6.3.31、裁決事例集No.47 319頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、不動産の売買及び仲介業を営む同族会社であるが、平成2年10月1日から平成3年9月30日までの事業年度(以下「平成3年9月期」という。)の法人税の青色の確定申告書に欠損金額を30,608,720円、納付すべき税額を26,889,800円及び法人臨時特別税申告書に課税標準法人税額を零円、納付すべき税額を零円と記載して、それぞれ法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し平成4年5月29日付で平成3年9月期の法人税の所得金額を50,010,795円、納付すべき税額を44,883,500円とする更正処分(以下「本件法人税更正処分」という。)及び過少申告加算税の額を1,971,000円とする賦課決定処分並びに平成3年9月期の法人臨時特別税の課税標準法人税額を14,993,000円、納付すべき税額を374,800円とする更正処分(以下「本件法人臨時特別税更正処分」という。)及び過少申告加算税の額を37,000円とする賦課決定処分をした。
 請求人は、これらを不服として平成4年6月2日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年8月25日付で、それぞれ棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分について不服があるとして、平成4年9月11日に本件審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分のうち、寄付金損金不算入額が82,126,035円とする部分については、次の理由により違法であるから、これに係る部分の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ) 法人税について
 請求人は、昭和62年1月10日付で株式会社A(以下「A社」という。)との間で、両者間における商取引に起因してA社に生じた一切の損害は、請求人が賠償する旨の契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
 請求人が、本件契約に基づき平成3年9月期においてA社に対して82,783,000円を損失補てん(以下「本件損失補てん」という。)し、雑損失勘定に計上したことは適法である。
 本件損失補てんは、次のとおり適正に行ったものであり、法人税法第37条((寄付金の損金不算入))及び同法第132条((同族会社等の行為又は計算の否認))には該当しない。
A 本件契約は、社会通念上あり得る取引内容であり、同族会社なるがゆえに恣意的に行えるような内容ではない。
 また、法人税を回避するために締結したものでもなく、それに基づいて行った本件損失補てんは適正である。
B 請求人が本件損失補てんを行ったのは、A社が多額な欠損により経営危機に陥ったので、請求人が本件契約に基づいて本件損失補てんをしなければ、A社が信用失墜による混乱から倒産することは明らかであり、また、請求人及びA社が、消費者への社会的責任と信用を取り戻すためには本件損失補てんは不可欠なものであり、請求人の事業遂行上合理的必要性があったためである。
C 請求人がA社との取引のうち損失補てんをしなかった取引があるのは、A社の欠損が多額であり、請求人には損失の全額を補てんする資力がないために請求人の資金能力に応じた範囲内で、本件損失補てんを行って資金援助をしたものである。
 したがって、本件損失補てんは利益調整のためにしたものではない。
D 請求人が、A社以外の取引先と本件契約と同様の契約(以下「損失補てん契約」という。)を締結していないのは、A社以外の取引先に対しては資金援助する立場になかったためである。
 しかし、請求人はA社とは常に連携を保ちながら事業を行っていることから、資金援助をしなければならない立場にあるので、本件契約を締結したものである。
(ロ) 法人臨時特別税について
 上記(1)のイの(イ)のとおり、本件法人税更正処分のうち本件損失補てんに係る部分は違法であり、その部分を取り消すべきであるから、これに伴い本件法人臨時特別税更正処分もその全部を取り消すべきである。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記(1)のイのとおり、本件法人税更正処分及び本件法人臨時特別税更正処分はいずれも取り消されるべきであるから、これらに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 更正処分について
(イ) 法人税について
 本件損失補てんは、対価性のない恣意的な取引であり、次のとおり法人税法第37条に規定する寄付金に該当する。
A 本件契約は、A社が請求人の仲介により他の者と取引する場合にA社の責めに帰すべき事由に基づく損失であっても請求人が補てんするという旨の契約で、通常の経済的合理性を全く無視したものであり、本件損失補てんを損金として認めると、結果として請求人が法人税の負担を不当に免れることになり、かかる行為計算は、非同族会社においては通常なし得ないものである。
B 本件損失補てんは、請求人及び請求人の代表者の妻が代表者であるA社との関連同族会社間で行われた対価性のない単なる贈与にすぎず、通常の取引では成立し得ない、両者間の都合だけで行われたものであり、請求人の事業遂行上合理的必要性はない。
C 請求人は、本件契約締結後においてA社が請求人の仲介で行った取引で、本件損失補てんをした取引以外の取引に損失が発生しているにもかかわらずその損失を補てんしておらず、損失が発生した全部の取引に対しては、損失補てんをしていない。
 このことは、A社への損失補てんを請求人が任意に行うことにより、両者間において利益操作が可能となり、請求人の行った本件損失補てんは、実質上はA社の欠損を利用した租税回避行為にすぎない。
D 請求人は、A社以外の取引先に対して損失補てん契約を締結しておらず、本件契約は通常の経済行為として第三者間にはあり得ない恣意的なものである。
 以上のとおり、本件損失補てんは寄付金に該当し、法人税法第37条第2項の規定に基づき計算された寄付金の損金不算入額82,126,035円を所得金額に加算した原処分は適法である。
(ロ) 法人臨時特別税について
 上記(2)のイの(イ)のとおり、本件法人税更正処分は適法であるから、これに伴い本件法人臨時特別税更正処分をしたことは適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記(2)のイのとおり、本件法人税更正処分及び本件法人臨時特別税更正処分はいずれも適法であり、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条((過少申告加算税))第4項に規定する正当な理由がある場合には該当しないから、同条第1項に基づき過少申告加算税の各賦課決定処分をしたことは適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件損失補てんが、寄付金に該当するか否かにあるので、以下検討する。

(1) 更正処分について

イ 法人税について
(イ) 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当事者双方の各答述並びに当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A A社は、昭和59年11月12日に請求人の代表者及びその親族が中心的な株主になって設立された同族会社で、請求人の代表者の妻が代表者になっていること。
B 請求人は、昭和62年1月10日付でA社との間で本件契約を締結したこと。
 本件契約の第3条によれば、請求人とA社間の取引に伴いA社に生じた損害及びA社の責めに帰すべき損害を請求人が賠償する旨定められていること。
C 請求人は、A社から平成3年7月10日付で提出された次表の損失額の補てんを求める請求書に基づき、同年9月30日に本件損失補てんを行い、当該金額を雑損失勘定に計上して損金処理をしたこと。
 なお、これに伴う代金決済は、請求人がA社に対して有している貸付金と相殺をしていること。

(単位:円)
物件名 販売年月日 販売価額 仕入価額 損失額
1 平成3年1月10日 30,400,000 30,900,000 500,000
2 平成3年1月22日 14,730,000 18,500,000 3,770,000
3 平成3年1月25日 23,490,000 39,403,000 15,913,000
4 平成3年4月25日 29,000,000 48,600,000 19,600,000
5 平成3年4月25日 39,340,000 59,100,000 19,760,000
6 平成3年5月28日 33,760,000 57,000,000 23,240,000
合計   170,720,000 253,503,000 87,783,000

D 請求人は、本件契約締結後において上記Cの本件損失補てんのほかA社に次表のとおり損失が発生しているにもかかわらず、これについては賠償をしていないこと。
 請求人の代理人であるG、Hは、このことについて、請求人が倒産しない範囲内の金額で資金援助をしたものであり、また、A社以外の取引先とは損失補てん契約を締結していないが、これはA社以外の取引先に対して、損失補てんをしなければならない立場になかった旨答述していること。

(単位:円)
物件名 販売年月日 損失額
平成2年10月28日 2,540,000
平成2年11月16日 19,040,000
平成2年12月3日 10,070,000
合計   31,650,000

E 請求人の、昭和61年10月1日から平成3年9月30日までの各決算期の法人税の確定申告等の状況は、別表1のとおりであること。
F A社の、昭和62年1月1日から平成3年12月31日までの各決算期の法人税の確定申告等の状況は、別表2のとおりであること。
(ロ) ところで、法人税法第37条第6項では「寄付金の額は、寄付金、きょ出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。」と規定している。
(ハ) 以上のことを基に総合判断すると、次のとおりである。
A 本件契約の第3条における損害賠償の内容は、A社の責めに帰すべきものについても賠償を行うこととなっており、請求人がA社の損失を一方的に負担する不自然、不合理なもので全く経済的合理性を欠くものであるから、請求人からA社に対して行われた本件損失補てんは、贈与と認めるのが相当である。
B A社が、業績不振となり欠損状況になっていることは認められるものの、請求人から本件損失補てんを受けなければ直ちに休業、倒産等の事態に至ると認めるに足りる資料もなく、また、再起の見込みもないため、その事業を閉鎖あるいは廃止して休業するに至ったとか会社整理、破産和議、強制執行、会社更生等の法的手続に至ったとの事実もない。
 したがって、本件損失補てんは税法上、寄付金に該当する。
 なお、請求人は法人税法第132条に該当しない旨主張するが、本件損失補てんは、上記のとおり法人税法上寄付金に該当するとして更正処分がされたものであり、法人税法第132条を根拠条文としてなされたものでないので、請求人の主張には理由がない。
(ニ) 以上の結果、本件法人税更正処分は適法であり、請求人の主張には理由がない。
ロ 法人臨時特別税について
 上記3の(1)のイの(ニ)のとおり、本件法人税更正処分は適法であり、これに伴う本件法人臨時特別税更正処分も適法である。

(2) 過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、本件法人税更正処分及び本件法人臨時特別税更正処分はいずれも適法であり、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないから、原処分庁が同条第1項に基づいてなした過少申告加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。

(3) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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