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(平6.12.9、裁決事例集No.48 335頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、タクシーによる旅客運送業を営む同族会社であるが、原処分庁は、請求人に対し平成2年6月29日付で、別表1に記載のとおり、昭和62年4月から平成元年12月までの各月分の源泉徴収に係る所得税の納税告知処分及び重加算税の賦課決定処分をした。 請求人は、これらに対し平成2年8月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月21日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成2年12月19日に本件審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 納税告知処分について
 原処分庁は、源泉徴収に係る所得税額(以下「源泉徴収税額」という。)について、請求人がその計算の基礎とした各月分の給与の額(以下「課税済給与の額」という。)には社員として雇用した乗務員(以下「社員乗務員」という。)に支給した休日乗務手当の額及び嘱託として雇用した乗務員(以下「嘱託乗務員」という。)に支給した乗務手当の額(以下、併せて「本件支給額」という。)を除外するという誤りがあるとし、また本件支給額以外にも源泉徴収税額に誤りがあるとして、一方的に源泉徴収税額を計算し納税告知処分をした。
 しかしながら、原処分庁が納税告知処分をした源泉徴収税額について、請求人が次により計算したところ、各月の源泉徴収税額は、別表2の「請求人主張額」欄のとおりとなる。
 したがって、同金額を超える部分の納税告知処分は取り消すべきである。
(イ) 本件支給額
 各月の本件支給額は、請求人が日々作成している納金日報の「貸付(前渡し)」欄に記載した額(以下「本件日報の額」という。)を各人月別に集計したものであり、別表3の「請求人主張額」欄のとおりである。
(ロ) 本件支給額以外の課税対象額
 本件支給額以外の課税対象額は、請求人が社員乗務員との間で、遅刻及び早退並びに事故等にあたる行為があった場合は、その態様に応じて基本給から所定の割合で計算した額(以下「勤退等の額」という。)を控除する旨の協定をしていることから、基本給から勤退等の額を控除した額であり、別表4の「請求人主張額」欄のとおりである。
 なお、本件支給額以外の課税対象額は、課税済給与の額と同額である。
(ハ)税額の計算
A 年末調整の対象者
 社員乗務員のうち1年を通じて雇用していた者で、かつ、年末調整を行うときまでに、給与所得者の扶養控除等申告書(以下「扶養控除等申告書」という。)の提出があった者は、年末調整の対象者(別表5の「請求人主張」の「年末調整」欄に「適」と表示しているもの。)として、これらの者の課税済給与の額について、所得税法(昭和62年1月から同年9月までの各月分については昭和62年法律第96号による改正前のもの、昭和62年10月から昭和63年12月までの各月分については昭和63年法律第109号による改正前のもの、平成元年1月から同年12月までの各月分については平成元年法律第68号による改正前のもの、以下同じ。)第190条((年末調整))の規定により、年末調整を行い、各人ごとの年間の源泉徴収税額(以下「当初年税額」という。)を計算した。
 そこで、年末調整の対象者に支給した本件支給額に対する各月の源泉徴収税額は、各人の各年分の課税済給与の額に各年分の本件支給額を加算し、再度年末調整を行い、各年分の源泉徴収税額を計算し、その源泉徴収税額から当初年税額を控除し、その控除後の額を本件支給額の各月の割合であん分して計算(以下、この計算を「簡易計算」という。)した。
B 年末調整の対象者以外の者
(A) 年末調整の対象者以外の社員乗務員(別表5の「請求人主張」の「月額表」欄に「甲」と表示しているもの。)に支給した本件支給額に対する各月の源泉徴収税額は、各人の各月の課税済給与の額に各月の本件支給額を加算した額から社会保険料の額を控除し、その控除後の額に、所得税法第185条((賞与以外の給与等に係る徴収税額))の規定により、昭和62年1月から昭和63年8月までの各月分については同法別表第四((給与所得の源泉徴収税額表(月額表)))、昭和63年9月から同年12月までの各月分については昭和63年分の所得税の臨時特例に関する法律別表第三((給与所得の源泉徴収税額表(月額表)))、平成元年1月から同年12月までの各月分については所得税法別表第二((給与所得の源泉徴収税額表(月額表)))(以下、併せて「月額表」という。)の甲欄を適用して計算した税額から、課税済給与の額に係る税額を控除して計算した。
(B) 嘱託乗務員(別表5の「請求人主張」の「月額表」欄に「乙」と表示しているもの。)に支給した本件支給額に対する各月の源泉徴収税額は、各人の各月の本件支給額に月額表の乙欄を適用して計算した。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 上記イによる納税告知処分の一部取消しに伴い、重加算税の賦課決定処分も、その一部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法である。
イ 納税告知処分について
 所得税法第183条((源泉徴収義務))第1項の規定によれば、「居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。」とされている。
 ところが、請求人は、上記の給与等にあたる本件支給額を支給する際、源泉徴収税額を徴収せず、納付していない等の事実が認められたので、次のとおり所得税法第185条の規定により、当該給与等に対する源泉徴収税額を計算し、納税告知処分を行ったものである。
(イ) 本件支給額
 各月の本件支給額は、本件日報の額を各人月別に集計したものであり、別表3の「原処分の額」欄のとおりである。
(ロ) 本件支給額以外の課税対象額
 請求人に対する原処分庁の調査(以下「本件調査」という。)において、本件調査を担当した職員(以下「調査担当職員」という。)が、請求人に対し課税済給与の額に対する源泉徴収税額の計算の過程を説明するよう求めたが、請求人は何ら具体的な説明をしなかった。
 したがって、原処分庁は、各月の給与等に対する源泉徴収税額を計算する際、本件支給額以外の課税対象額については、勤退等の額が確認できなかったので、その額を控除しないで計算したものであり、各月の本件支給額以外の課税対象額は、別表4の「原処分の額」欄のとおりである。
(ハ) 税額の計算
 本件調査において、調査担当職員が、請求人に対し源泉徴収税額の計算に必要な書類の提出を求めたが、請求人は一部分しか提出しなかったので、次のとおり計算した。
A 年末調整の対象者
 請求人が提出したC営業所の昭和63年分及び平成元年分の源泉徴収簿により本件支給額を加算して年末調整の再計算を行った。
 なお、C営業所の上記以外の年分とD営業所及びE営業所については、請求人が年末調整のための資料を提出しなかったので年末調整の再計算は行っていない。
B 年末調整の対象者以外の者
 各月の本件支給額に対する源泉徴収税額を、1本件支給額以外の課税対象額があるものについては、各月の当該金額に各月の本件支給額を加算し、その額から社会保険料の額を控除し、その控除後の額に月額表の甲欄を適用して源泉徴収税額を求め、さらに、その源泉徴収税額から課税済給与の額に対する源泉徴収税額を控除して計算し、2本件支給額以外の課税対象額のないものについては、各月の本件支給額に月額表の乙欄を適用して計算した。
 なお、月額表の甲欄を適用する場合の扶養親族等の数は、請求人が各人の課税済給与の額に対する源泉徴収税額を計算する際に適用した人数を用いた。
 以上により計算し、納税告知をした各月の源泉徴収税額は、別表2の「原処分の額」欄のとおりである。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
 請求人は、本件支給額が、所得税法第28条((給与所得))第1項に規定する給与等としての性質を有していることを十分認識しているにもかかわらず、本件支給額を課税対象から除外して源泉徴収税額を計算し、本件支給額に対する源泉徴収税額を納付していなかった。
 このことは、国税通則法第68条((重加算税))第3項に規定する「納税者が事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づきその国税をその法定納期限までに納付しなかったとき」に該当する。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件支給額及び本件支給額以外の課税対象額並びにこれらの額に対する源泉徴収税額の計算の適否にあるので、以下検討する。

(1) 納税告知処分について

イ 請求人及び原処分庁の提出資料及び答述並びに当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件支給額は、社員乗務員が休日に乗務したとき及び嘱託乗務員が乗務したとき、その乗務に対する対価として、その乗務を終了した日にその日の営業収入の額によって計算し、乗務が終了した日ごとに支給されること。
(ロ) 本件支給額以外の課税対象額は、前月の21日から当月の20日までの間に、社員乗務員が勤務したことに対して支給される給与であって、その額に対し所得税法第183条の規定による源泉徴収を行い、当月の28日に支給されること。
(ハ) 社員乗務員及び嘱託乗務員の就労時間は、一乗務当たり16時間以上であること。
(ニ) 嘱託乗務員の雇用期間は、4か月間と定められ、その期間を経過して引き続き雇用される場合は、新たに同期間で更新されること。
 また、嘱託乗務員については、その雇用期間中に本件支給額のみが支給されること。
(ホ) 請求人は、本件支給額については、所得税法第183条の規定による源泉徴収税額を徴収せず、納付していなかったこと。
(ヘ) 納金日報の「貸付(前渡し)」欄には、当日乗務した者に対して支給した金員が各人ごとに記載されていること。
(ト) 社員乗務員及び嘱託乗務員のうちには、年の中途において、嘱託から社員又は社員から嘱託と雇用形態が変更されているもの(別表5の「審判所認定理由及び是正理由」欄に「ある月は本件支給額のみ」と記載したもの。)があること。
(チ) 勤退等については、請求人と社員乗務員との間の協定により自責事故(社員乗務員側にのみ責任がある事故)、自他責事故(社員乗務員側及び相手方双方に責任がある事故)、無届欠勤及び一乗務当たりの営業収入が一定金額に満たない場合について、基本給から所定の額を控除することとし、賃金等台帳等の「勤退」及び「事故」欄に控除した勤退等の額を記載していること。
 また、遅刻及び早退は3回で1回の届出欠勤扱いとし、一乗務当たりの基本給が支給されないこと。
 さらに、一乗務当たりの営業収入が所定の金額未満の場合及び就労時間が16時間未満の場合は、早退扱いとされること。
(リ) 請求人は、社員乗務員に対する各月の課税済給与の額について、賃金等台帳の「繰越」欄及び貸付台帳の「賞与対象額」欄の合計額(C営業所及びE営業所については、個人別賃金明細表の「支給額の合計」欄)から、勤退等の額を控除し、それぞれ各人別に各月の源泉徴収税額を計算していること。
(ヌ) 請求人は、年末調整の対象者について、D営業所では賃金等台帳で、C営業所では源泉徴収簿で、それぞれ年末調整をしていること。
 さらに、各年分について本件支給額を含めて再度年末調整を行い、「入力明細表(年調有り)」を作成していること。
ロ ところで、源泉徴収税額の計算に当たって適用すべき税額表及び年末調整については、次のとおりである。
(イ) 所得税法第183条第1項の規定により徴収すべき所得税の額については、同法第185条第1項第1号において、扶養控除等申告書を提出した居住者に対し、給与等の支給期が毎月、毎半月、毎旬及び月の整数倍の期間ごとと定められている場合は、月額表の甲欄を適用し、また、給与等の支給期が毎日と定められている場合は、昭和62年1月から昭和63年8月までの各月分については所得税法別表第五((給与所得の源泉徴収税額表(日額表)))、昭和63年9月から同年12月までの各月分については昭和63年分の所得税の臨時特例に関する法律別表第四((給与所得の源泉徴収税額表(日額表)))、平成元年1月から同年12月までの各月分については所得税法別表第三((給与所得の源泉徴収税額表(日額表)))(以下、併せて「日額表」という。)のそれぞれの甲欄を適用して計算した税額とする旨定められている。
 また、所得税法第185条第1項第3号において、労働した日又は時間によって算定され、かつ、労働した日ごとに支払を受ける給与等(日々雇い入れられる者が支払を受けるもの(継続して2か月を超えて支払を受けるものを除く。))に対する税額は、日額表の丙欄を適用して計算した税額とし、さらに、同項第2号において、同項第1号及び第3号以外の給与等に対する税額は、給与等の支給期に従って月額表又は日額表の乙欄を適用して計算する旨それぞれ定められている。
(ロ) 所得税法第190条の規定によれば、扶養控除等申告書を提出した居住者で、その年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が 1,500万円以下であるものに対し、その提出の際に経由した給与等の支払者がその年最後に給与等の支払をする場合において、同条第1号に掲げる所得税の額がその年最後に給与等の支払をする時の現況により計算した同条第2号に掲げる税額に比し過不足があるときは、その年最後に給与等の支払をする際に調整すべき旨定められている。
 所得税法第190条第1号に掲げる所得税の額は、扶養控除等申告書を提出した居住者に対しその年中に支払うべきことが確定した給与等(年の中途に入社した者の、入社前に他の給与等の支払者から受給した給与等を含む。)につき、同法第183条第1項の規定により徴収された又は徴収されるべき所得税の額の合計額である。
 また、所得税法第190条第2号に掲げる税額は、昭和62年分及び昭和63年分については同法別表第七((年末調整のための給与所得の源泉徴収税額表))の付表、平成元年分については同法別表第五((年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表))により、その年中にその居住者に対し支払うべきことが確定した給与等の金額に応じて求めた各表の給与所得控除後の給与等の金額から、昭和62年分及び昭和63年分については、同法第74条((社会保険料控除))から同法第84条((扶養控除))(同法第78条((寄付金控除))を除く。)及び同法第86条((基礎控除))に規定する各控除の額の合計額を控除した金額に応じる同法別表第七に掲げる税額(ただし、昭和63年分については昭和63年分の所得税の臨時特例に関する法律第6条((居住者の昭和63年分の所得税に係る年末調整の特例))の規定による読み替え後の税額)、平成元年分については、上記各控除の額の合計額を控除した金額を課税総所得金額とみなして、同法第89条((税率))第1項の規定を適用して計算した場合の税額である。
(ハ) 所得税法第194条((給与所得者の扶養控除等申告書))第1項の規定によれば、国内において給与等の支払を受ける居住者は、その給与等の支払者から毎年最初に給与等の支払を受ける日の前日までに、扶養控除等申告書を、当該給与等の支払者を経由して、源泉徴収に係る所得税の納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
 また、所得税法第195条の2((給与所得者の配偶者特別控除申告書))第1項の規定によれば、国内において給与等の支払を受ける居住者は、同法第190条に規定する過不足の額の計算上、配偶者特別控除の額に相当する金額の控除を受けようとする場合には、その給与等の支払者からその年最後に給与等の支払を受ける日の前日までに、給与所得者の配偶者特別控除申告書(以下「配偶者特別控除申告書」という。)を、当該給与等の支払者を経由して、源泉徴収に係る所得税の納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
 さらに、所得税法第196条((給与所得者の保険料控除申告書))第1項の規定によれば、国内において給与等の支払を受ける居住者は、同法第190条に規定する過不足の額の計算上、社会保険料、小規模企業共済等掛金、生命保険料、個人年金保険料又は損害保険料に係る控除を受けようとする場合には、その給与等の支払者からその年最後に給与等の支払を受ける日の前日までに、給与所得者の保険料控除申告書(以下「保険料控除申告書」という。)を、当該給与等の支払者を経由して、源泉徴収に係る所得税の納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
 そして、所得税法第198条((給与所得者の源泉徴収に関する申告書の提出時期の特例))の規定によって、同法第194条から第196条までの規定による給与所得者の源泉徴収に関する申告書がその提出の際に経由すべき給与等の支払者に受理されたときは、その申告書は、その受理された日に所轄税務署長に提出されたものとみなすこととされている。
ハ 前記イの認定事実に基づき、上記ロに照らして判断すると、次のとおりである。
(イ) 本件支給額
 本件支給額は、前記イの(イ)のとおり、乗務に対する対価として支給されていることから、所得税法第28条第1項に規定する給与等に当たることは明らかであり、請求人もこの点は争わない。
 ところで、請求人は、各月の本件支給額については、本件日報の額を各人月別に集計した額である旨主張し、同日報を当審判所に提出したので、以下検討する。
A 社員乗務員及び嘱託乗務員の各人月別本件支給額は、別表6のとおりであり、請求人が主張する本件支給額には、本件支給額を過大又は過少に計算したものがあることが認められる。これらの者については、是正する必要があるので、別表5の「審判所認定」の「是正」欄に「A」と表示した。
B 請求人が主張する本件支給額の計算期間は、前記イの(ロ)に準じて、前月の21日から当月の20日までの間に支給された額を当月分としていることが認められる。
 しかし、嘱託乗務員は、前記イの(イ)及び(ニ)のとおり、一乗務を終了した日ごとに本件支給額のみが支給されていることから、所得税法第183条第1項の規定に基づき、本件支給額を支給した都度その支給額に対する所得税を源泉徴収し、徴収したものを暦月に集計して納付しなければならない。
 したがって、嘱託乗務員に支給した本件支給額についても暦月に集計して納付することになる。
以上により、計算した各月の本件支給額は、別表3の「審判所認定額」欄のとおりとなる。
(ロ) 本件支給額以外の課税対象額
 請求人は、本件支給額以外の課税対象額については、基本給から勤退等の額を控除した額であり、課税済給与の額と同額である旨主張する。
 確かに、本件支給額以外の課税対象額は、前記イの(チ)及び(リ)のとおり、基本給から勤退等の額を控除した後の額であり、各月の本件支給額以外の課税対象額は、別表4の「審判所認定額」欄のとおりとなり、この点に関する請求人の主張は相当である。
(ハ) 税額の計算
 請求人は、各月の源泉徴収税額については、前記2の(1)のイの(ハ)のとおり計算した額である旨主張し、その計算の資料として、賃金等台帳、貸付台帳、個人別賃金明細表、源泉徴収簿、入力明細表(年調有り)、扶養控除等申告書、配偶者特別控除申告書及び保険料控除申告書を提出したので、以下検討する。
A 年末調整の対象者
(A) 請求人は、別表5の「請求人主張」の「年末調整」欄に「適」と表示しているものについては、年末調整の対象者である旨主張する。
 年末調整の対象者については、前記ロの(ロ)のとおりであり、請求人が年末調整の対象者としたうちには、所得税法第190条に規定する扶養控除等申告書を提出していない者(別表5の「審判所認定理由及び是正理由」欄に「扶養控除等申告書なし」と記載したもの。)が認められる。
 したがって、これらは、年末調整の対象者にあたらない。
 そうすると、年末調整の対象者は、別表5の「審判所認定」の「年末調整」欄に「適」と表示したものとなる。
(B) 請求人は、年末調整の対象者に支給した本件支給額に対する各月の源泉徴収税額は、簡易計算をした旨主張する。
 ところで、給与等の源泉徴収税額については、給与等を支給する際、前記ロの(イ)のとおり計算しなければならないと定められており、年末調整の対象者に支給した本件支給額に対する源泉徴収税額は、課税済給与の額の計算と同様に月別に計算すべきである。
 しかし、本件の納税告知はいずれも年末調整を了した過年分のものであるから、月別に源泉徴収税額の計算を行ったとしても、その税額は、年末調整の再計算によって精算されるものであり、各月の本件支給額に対する源泉徴収税額を簡易計算による方法で各月に配分して計算することは合理的と認められるので、この点に関する請求人の主張は相当である。
(C) 請求人は、前記イの(ヌ)のとおり年末調整を行っているが、請求人提出資料を検討したところ、1給与所得控除後の額を過大又は過少に計算しているもの(別表5の「審判所認定理由及び是正理由」欄に「給与所得控除後の額過大」又は「同過少」と記載したもの。)、2社会保険料控除の額を過大又は過少に計算しているもの(同欄に「社会保険料控除過大」又は「同過少」と記載したもの。)、3生命保険料控除の額を過大又は過少に計算しているもの(同欄に「生命保険料控除過大」又は「同過少」と記載したもの。)、4損害保険料控除の額を過大又は過少に計算しているもの(同欄に「損害保険料控除過大」又は「同過少」と記載したもの。)、5配偶者特別控除の額を控除したもののうち、配偶者特別控除申告書が提出されていないもの(同欄に「配偶者特別控除申告書なし」と記載したもの。)、また、同申告書は提出されているが、同申告書に記載された額より過少に計算しているもの(同欄に「配偶者特別控除過少」と記載したもの。)、6扶養控除の額を扶養控除等申告書の記載内容から求められる額より過大又は過少に計算しているもの(同欄に「扶養控除過大」又は「同過少」と記載したもの。)が認められる。
 これらの者については、いずれも是正する必要があるので、別表5の「審判所認定」の「是正」欄に「*」と表示した。
 なお、これらを原因として生じる年税額の過不足額については、年末調整に固有のものであるから、年末調整が行われる12月分の源泉徴収税額で精算することになる。
B 年末調整の対象者以外の者
(A) 請求人は、年末調整の対象者以外の社員乗務員(別表5の「請求人主張」の「月額表」欄に「甲」と表示しているもの。)については、月額表の甲欄を適用して各月の源泉徴収税額を計算した旨主張する。
 しかし、この社員乗務員の源泉徴収税額を計算するに当たり適用する税額表は、課税済給与の額と前月の21日から当月の20日までの間に支給した本件支給額の合計額から社会保険料の額を控除し、その控除後の額に前記ロの(イ)のとおり、月額表を適用することになるが、請求人が月額表の甲欄を適用している者のうちには、所得税法第185条に規定する扶養控除等申告書を提出していない者があるので、これらの者については月額表の乙欄を適用することになる。
(B) 請求人は、嘱託乗務員(別表5の「請求人主張」の「月額表」欄に「乙」と表示しているもの。)については、月額表の乙欄を適用し各月の源泉徴収税額を計算した旨主張する。
 しかし、嘱託乗務員は、前記イの(ニ)のとおり、雇用期間が4か月間であり、かつ、本件支給額のみが支給されていることから、前記ロの(イ)に従って、日額表の甲欄又は乙欄を適用することになり、扶養控除等申告書を提出している者は甲欄を、同申告書を提出していない者は乙欄を適用することになる。
 なお、前記イの(ハ)のとおり、嘱託乗務員の一乗務当たりの就労時間は、一般の1日当たり就労時間の2倍である16時間以上であり、一乗務の対価である本件支給額は、一般の2日分の給与等に相当するので、一乗務の本件支給額の2分の1相当額に日額表を適用して税額を求め、その税額を2倍して計算した額が一乗務当たりの本件支給額に対する税額となる。
(C) 社員乗務員及び嘱託乗務員のうちには、前記イの(ト)のとおり、雇用形態が嘱託から社員又は社員から嘱託に変更された者があることから、源泉徴収税額の計算に当たっては、その者のその月の雇用形態に応じ、上記(A)又は(B)に記載の税額表を適用することになる。
 これらの者に適用した税額表の適用区分は、別表5の「審判所認定」の「月額表」欄に「甲」若しくは「乙」又は「日額表」欄に「甲」若しくは「乙」と表示した。
 なお、原処分関係資料によれば、請求人が月額表により処理すべき旨主張するもののうちには、原処分の対象とされていないもの(別表5の「審判所認定理由及び是正理由」欄に「原処分対象外」と記載したもの。)が認められ、審理の対象外とした。
 以上により計算した税額から請求人が徴収し、納付した課税済給与の額に係る税額を控除すると、各人の月別の源泉徴収税額は、別表6(省略)の「源泉徴収税額」欄のとおりとなり、請求人が源泉徴収すべき各月分の源泉徴収税額は、別表2の「審判所認定額」欄のとおりとなる。
 その結果、各月分の源泉徴収税額は、いずれも原処分による納税告知処分の額を超えることになるので、これらに対する審査請求は理由がなく、納税告知処分は相当である。

(2) 重加算税の賦課決定処分について

 請求人が、本件支給額を所得税法第28条第1項に規定する給与等に該当することを十分認識しながら、課税対象から本件支給額を除外して源泉徴収税額を計算し、本件支給額に対する源泉徴収税額を納付していなかったことについては当事者間に争いがなく、請求人のその行為は、国税通則法第68条第3項に規定する納税者が事実の一部を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づきその国税をその法定納期限までに納付しなかったときに該当することは明らかであるので、重加算税を賦課することは相当である。
 これらの重加算税の計算の基礎となる各人の月別の重加算税対象税額は、別表6(省略)の「重加算税対象税額」欄のとおりとなり、これを集計した各月別の重加算税対象税額は、別表2の「左のうち重加算税対象税額」欄のとおりとなる。
 その結果、各月分の当該「左のうち重加算税対象税額」に係る重加算税の額は、いずれも原処分による賦課決定の額を超えることになるので、重加算税の賦課決定処分は相当である。

(3) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料等によっても、これを不当とする理由は認められない。

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