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(平20.9.25、裁決事例集No.76 307頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、相続により取得した土地について評価誤りがあったとして行った更正の請求に対してなされた更正処分につき、請求人がその一部の取消しを求めた事案であり、争点は次の2点である。

争点1 埋蔵文化財包蔵地である本件の土地の評価に当たって、埋蔵文化財の発掘調査費用を控除すべきか否か。

争点2 埋蔵文化財包蔵地である本件の土地の評価に当たって、埋蔵文化財の発掘調査期間(請求人主張27年間)を考慮すべきか否か。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成17年3月 ○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したFの相続人であり、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、別表1の「当初申告」欄のとおり記載した申告書(以下「本件申告書」という。)を、他の共同相続人であるGほか2名と共に法定申告期限までに原処分庁へ提出した。
ロ 請求人は、平成18年9月25日、遺産分割が確定したことなどを理由として、課税価格及び納付すべき税額を別表1の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を提出した。
ハ 請求人は、平成19年1月18日、土地の評価額に誤りがあったことを理由として、課税価格及び納付すべき税額を別表1の「更正の請求」欄のとおりとする更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をしたところ、原処分庁は、その一部を認め、同年4月9日付で、別表1の「更正処分」欄のとおりとする減額の更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。
ニ 請求人は、平成19年6月4日、本件更正処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月3日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、平成19年10月2日、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

 別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件審査請求において評価方法が争われている土地の明細は、別表2のとおりである(以下、同表の順号1の土地を「本件A土地」、順号2の土地を「本件B土地」、順号3の土地を「本件C土地」といい、これらの土地を併せて「本件各土地」という。)。
ロ 本件各土地は、○○線H駅から北約200メートルに位置し、都市計画法第8条《地域地区》第1項第1号に規定する第一種中高層住居専用地域にあり、建築基準法上の建ぺい率は60%、同法上の容積率は200%である。
ハ 本件各土地の位置関係は別紙2(省略)のとおりである。
ニ 本件各土地は、評価基本通達に基づき○○国税局長が定めた平成17年分財産評価基準によれば、同通達14−2《地区》に定める路線価地域に所在し、本件各土地に接面する路線に付された平成17年分の路線価(同通達14《路線価》に定める路線価をいう。以下同じ。)は、それぞれ、本件A土地及び本件B土地が77,000円、本件C土地が75,000円であり、本件各土地の所在する地区(同通達14−2に定める地区をいう。)は、「普通住宅地区」である。
ホ 平成18年9月25日付で本件相続に係る遺産分割協議が成立し、本件A土地は請求人が、本件B土地及び本件C土地はGが相続した。

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2 主張

争点1 本件各土地の評価に当たって、埋蔵文化財の発掘調査費用を控除すべきか否か。

請求人 原処分庁
1 市街地山林である本件各土地の評価は、宅地比準方式によることとなるが、宅地比準方式でいう宅地とは、「建物の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要な土地」であり、通常の建物が建築できる土地(宅地開発を必要とする土地)を想定している。
 本件各土地は、埋蔵文化財包蔵地であるから、宅地開発を行うとすれば、発掘調査が不可欠であり、その費用は、開発を行おうとする者が負担することとなるから、相続税の財産評価に当たって、その発掘調査費用は当然に控除されるべきである。
1 本件各土地について、旧文化財保護法第57条第2項に規定する土木工事や宅地開発事業を行う場合には、埋蔵文化財の発掘調査が必要となり、その費用は当該発掘調査を行う者が負担することとなる。
 しかしながら、本件各土地の利用を制限する法令や条例等はなく、また、立木を伐採して砂利などの簡易舗装を施す程度の土木工事の場合には発掘調査の必要がないことからすると、本件各土地は発掘調査を実施しなくとも利用可能な土地であるから発掘調査費用を控除する必要はない。
2 埋蔵文化財の発掘費用の取扱いについて、評価基本通達に定めはないが、埋蔵文化財は「地中に隠れたる瑕疵」という意味で、本件情報の土壌汚染と極めて類似しているから、本件各土地においても、本件情報における土壌汚染地の評価に準じ、発掘調査費用の80%相当額を控除する評価をすべきである。 2 土壌汚染地と異なって、上記1のとおり、埋蔵文化財の発掘調査費用は、必ずしも負担しなければならないものではなく、土壌汚染地とはその費用負担の必要性において大きく相違するので、本件各土地を土壌汚染地の評価に準じて評価することは相当でない。
 ただし、本件各土地については、文化財保護法による法的規制の程度又は利用上の制約等を検討すると、著しく利用価値が低下しているものと認められることから、10%の減額をする。
3 原処分庁は、本件更正処分においては、本件A土地及び本件B土地に係る発掘調査費用は必ずしも負担しなければならない性質のものではないとしているが、他方、本件A土地及び本件B土地の物納申請に対しては、発掘調査が必要だから、発掘調査を行わない場合には管理又は処分するのに不適当な財産に該当するとしており、その判断が矛盾している。 3 本件A土地及び本件B土地の物納申請に対する処分はまだされていないが、仮に、発掘調査費用についての取扱いが、課税価額の算定と管理処分不適格財産に該当するか否かの判断で異なるとしても、前者は本件A土地及び本件B土地の時価すなわち客観的な交換価値を求める観点からの取扱いであるのに対し、後者は、国における管理又は処分の容易性の観点からの取扱いであることから、両者の取扱いは必ず一致するものではない。

争点2 本件各土地の評価に当たって、埋蔵文化財の発掘調査期間(請求人主張27年間)を考慮すべきか否か。

請求人 原処分庁
1 本件各土地の発掘調査には、最低で17年、最長で37年を要し、平均すると27年程度の期間が必要となる。
 発掘調査に要する期間は、本件各土地の売却は困難であり、これは、地上権が設定されている土地と同様の事情(制約)があると認められるから、相続税法第23条の規定を準用して評価すべきである。すると、本件A土地及び本件B土地の価額は、別表3のとおり算定され、本件C土地の価額も同様に算定すべきである。
2 仮に1の主張が認められないとしても、発掘調査に長期間を要するから、著しく利用価値が低下している土地として、10%の減額をすべきである。
 本件各土地は、埋蔵文化財の発掘調査を実施しなくても利用可能な土地であるから、請求人の主張するしんしゃくをする必要性は認められない。
 すると、本件A土地及び本件B土地の価額は、別表4のとおり算定される。

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3 判断

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件各土地の現況
 本件各土地の所在地一帯は、J貝塚として知られており、過去数回にわたり埋蔵文化財の確認調査が行われ、○○時代の○○貝塚及び住居跡等の遺跡の存在が確認されている(P市教育委員会作成の埋蔵文化財調査報告書等)。
 J貝塚は、P市が作成し、一般の閲覧に供されている市内全域の貝塚の分布図に記載されており、文化財保護法第93条に規定されている周知の埋蔵文化財包蔵地に該当するところ、本件各土地は、すべて周知の埋蔵文化財包蔵地に該当するJ貝塚の区域内に所在している(P市教育委員会○○係の職員の当審判所に対する答述。以下「教育委員会職員の答述」という。)。
 K社代表取締役Lに対するP市教育委員会教育長作成の平成19年2月2日付第○○号「埋蔵文化財の所在の確認及びその取扱いについて(回答)」と題する書面(以下「本件回答」という。)には、本件各土地(公簿面積○○○○平方メートル)には、埋蔵文化財「縄文、古墳 貝塚、集落跡」1か所がある旨記載されている。
 本件各土地のうち、P市p町Q1番及びQ3番の一部に貝塚部分が存在する(教育委員会職員の答述)。
ロ 発掘調査費用の要否
 本件各土地において土木工事等を行う場合には文化財保護法第93条第1項に基づく届出を行い、工事に着手する前に発掘調査を実施する必要がある(本件回答)。
 埋蔵文化財は、発掘調査後も現状保存が原則であり、J貝塚は○○時代の貝塚であるので、P市としては現状のまま保存し、後世に残していくべきものと考えているが、現状保存が無理な場合には、発掘調査を行い、記録を残すことになる(本件回答、教育委員会職員の答述)。発掘調査の方法や記録保存等については、文化財保護法第93条第2項に規定のとおり指示を行う(教育委員会職員の答述)。
 文化財保護法第93条規定の発掘調査に係る発掘調査費用は、原則、土地の所有者(事業者)負担となる(教育委員会職員の答述)。
ハ 発掘調査費用の見積額及び調査期間
(イ) 本件回答によれば、本件各土地の発掘調査を要する区域全域について発掘調査を実施した場合の費用と期間は、要旨、下記のとおりである。
 調査費用  概算  ○億円
 調査期間  発掘調査    200月人(※)

※1人の調査職員で対応した場合、調査に200か月かかる。

監理・報告書刊行 240月人

(ロ) 上記(イ)の発掘調査費用は、P県を含む11県及び政令指定都市で構成される「○○ブロック○○会議」において作成された「○○発掘調査基準」(以下「発掘調査基準」という。)に基づき、遺跡の面積・規模等から住居跡1件当たり何人必要か等の人件費を積算したものである。埋蔵文化財が貝塚の場合は、貝層の調査が必要なことから貝塚以外の場合より調査費用は高額になる。概算○億円の内訳は、貝塚部分と特定した○○○○平方メートルの○○○○円及び貝塚部分以外○○○○平方メートルの○○○○円である(以上につき、教育委員会職員の答述)。
(ハ) 上記(イ)の期間は、調査員1人とした場合の予想所要月数である。調査員1人に作業員18人ぐらいで発掘調査を行うのが一般的であり、調査員を増やすことにより、調査期間を短縮することができる。なお、発掘調査後は、発掘調査の記録、整理及び報告書を作成することとなるが、発掘調査が完了すれば記録、整理及び報告書の作成が完了していなくとも土地の開発工事を行うことは可能である(以上につき、教育委員会職員の答述)。
(ニ) 請求人が当審判所に提出した、M社の不動産鑑定士○○○○作成の平成19年9月28日付の簡易査定報告書(以下「本件報告書」という。)は、開発法を適用した本件相続開始日時点の本件A土地及び本件B土地の価額を○○○○円と査定しているところ、その価格査定のための費用として計上した発掘費用○億円についての支出期間は6か月とされている。
ニ 本件B土地の地積
 本件申告書に記載された本件B土地の地積は、別表2のとおり、○○○○平方メートルであるが、当該面積の根拠となったN社作成の現況測量図(以下「本件測量図」という。)及びT地方法務局備付けの「地図に準ずる図面」によれば、本件測量図は、本件B土地とP市p町Q6番の土地(Gの所有する土地で登記簿上の地積は○○○○平方メートル。以下「本件D土地」という。)を一体として測量したものと認められることから、本件B土地の地積を算定すると、別表5のとおりであると認められる。
ホ 本件各土地の周囲の利用状況及び広大地該当性
 本件各土地の周辺の土地は、戸建の住宅地等として利用されているところ、本件A土地及び本件B土地は、その付近の標準的な宅地より著しく大きく、都市計画法に規定する開発行為を行う場合、道路等の公共公益的施設の負担が必要と認められる土地である。
ヘ 本件各土地に接面する路線に付された路線価の価格水準
 本件各土地に接面する路線に付された路線価の価格水準は、J貝塚の区域外で状況が類似する路線の路線価の価格水準に比して低いものとは認められない(当審判所に顕著な事実)。

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(2) 評価の原則及び評価基本通達について

イ 相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、同法に特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しており、ここにいう時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値を示す価額をいうものと解される。
 しかしながら、財産の客観的な交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上は、財産評価の一般的基準が評価基本通達によって定められ、さらに、同通達の定めに基づき、路線価など、土地や土地の上に存する権利の価額の具体的な評価基準が国税局長によって定められており、これらに定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされている。
 また、評価基本通達では、宅地の評価は市街地的形態を形成する地域にある宅地においては路線価方式による旨定めているところ、この路線価は、売買実例価額、地価公示価格及び不動産鑑定士などの地価事情に精通した者の鑑定評価額や意見価格などを基に、評価上の安全性等を考慮して地価公示価格と同水準の価格の80%程度に評定することとされている。
ロ ところで、評価基本通達1の(3)は、財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮する旨定めており、これは相続税法第22条に規定する時価の考え方に照らし相当と解される。そうすると、評価基本通達に基づき路線価方式で土地を評価する場合であっても、その土地の価額に影響を及ぼすべき客観的なその土地固有の事情については、1その事情が、路線価の評定に当たって考慮されているもの及び2その事情が類型的に想定できるとして、評価基本通達上具体的な考慮の方法が定められているもの以外に該当する場合には、その評価に当たって、所要の考慮を検討するのが相当である。

(3) 争点1について

イ そこで、本件各土地に係る埋蔵文化財の発掘調査費用の負担が、評価に当たって、所要の考慮を検討するのが相当と認められる土地の価額に影響を及ぼすべき客観的なその土地固有の事情に該当するかを検討する。
 本件各土地は、上記(1)のホのとおり、宅地として利用される地域に所在し、その相続税の評価においても、市街地山林であることから、評価基本通達においては宅地化を前提として評価される土地であると認められる。
 本件各土地は、上記(1)のイのとおり、周知の埋蔵文化財包蔵地に該当すると認められるJ貝塚の区域内に所在し、実際に本件A土地及び本件B土地の一部に貝塚部分が存在していることから、宅地開発に係る土木工事等を行う場合には、上記(1)のロのとおり、文化財保護法第93条の規定に基づき、埋蔵文化財の発掘調査を行わなければならないことが明らかである。しかも、その発掘調査費用は、その所有者(事業者)が負担することになり、その金額も、上記(1)のハのとおり、発掘調査基準に基づき積算したところ約○億円もの高額になる。
 そうすると、上記の宅地開発における埋蔵文化財の発掘調査費用の負担は、一般的利用が宅地であることを前提として評価される本件各土地において、その価額(時価)に重大な影響を及ぼす本件各土地固有の客観的な事情に該当すると認められる。
 そして、上記(1)のヘのとおり、本件各土地に接面する路線に付されている路線価は、周知の埋蔵文化財包蔵地であることを考慮して評定されたものとは認められず、また、評価基本通達上に発掘調査費用の負担に係る補正方法の定めも認められないことから、本件各土地の評価上、当該事情について、所要の考慮を検討するのが相当である。
ロ 固有の事情の考慮
 本件各土地は、上記(1)のイないしハのとおり、周知の埋蔵文化財包蔵地に該当するため、文化財保護法の規定により、その宅地開発において発掘調査費用の負担が見込まれる土地であるところ、かかる負担は、土壌汚染地について、有害物質の除去、拡散の防止その他の汚染の除去等の措置に要する費用負担が法令によって義務付けられる状況に類似するものと認められる。
 土壌汚染地の評価方法については、課税実務上、別紙1の4のとおり、その土壌汚染がないものとして評価した価額から、浄化・改善費用に相当する金額等を控除した価額による旨の本件情報に基づく取扱いをしているところ、これは、土壌汚染地について、土壌汚染対策法の規定によってその所有者等に有害物質の除去等の措置を講ずる必要が生じその除去等の費用が発生することなどの要因が、当該土壌汚染地の価格形成に影響を及ぼすことを考慮したものであり、この取扱いは当審判所においても相当と認められる。
 そこで、本件各土地に存する固有の事情の考慮は、類似する状況における土地評価方法についての取扱いを明らかにした本件情報に準じて行うことが相当と認められる(本件各土地の評価の基礎となる路線価は、上記(2)のイのとおり、地価公示価格水準の80%程度で評定されているところ、本件情報において評価上控除する「浄化・改善費用に相当する金額」は見積額の80%相当額とされており、価格水準のバランスが取られている。)。
 ただし、土壌汚染地と異なり、使用収益制限による減価及び心理的な嫌悪感から生ずる減価の要因はないと認められるので、発掘調査費用分について考慮すれば足りる。
ハ 原処分庁の評価方法について
 一方、原処分庁は、埋蔵文化財の発掘調査費用の控除は必要なく、文化財保護法による法的規制等を考慮して10%の減額をすれば足りる旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のハのとおり、発掘調査基準に基づき、本件各土地の状況に応じた調査費用が見積もられているところ、原処分庁の減額は当該見積額を大きく下回るという本件各土地の固有事情の下では、固有事情の考慮として不十分というべきであり、原処分庁の評価方法は採用することができない。

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(4) 争点2について

 請求人は、埋蔵文化財の発掘調査に27年程度を要する本件各土地については、地上権が設定されている土地と同様の制約があるから、相続税法第23条の規定を準用して評価すべきである旨主張し、仮に当該主張が認められないとしても、著しく利用価値が低下しているものとして10%の減額をするべきである旨主張する。
 ところで、相続税法第23条は、地上権及び永小作権は、民法に規定されている他人の土地を排他的に使用収益する用益物権についての使用収益価値の評価方法について規定したものである。これに対し、本件各土地における埋蔵文化財の発掘調査は、文化財保護法に基づく負担であって、本件各土地を使用収益できる物権ではないから、用益物権の評価方法を規定した相続税法第23条を準用して評価することはできない。したがって、請求人の主張は理由がない。
 また、埋蔵文化財の発掘調査期間については、上記(1)のハの(ハ)のとおり、調査員を増員することで調査期間を短縮することが可能であり、発掘調査が完了すれば調査の記録及び整理並びに報告書の作成を待つまでもなく発掘調査の対象となった土地の開発工事に着手することは可能とされる。さらに、1別紙1の2の(3)のとおり、開発工事等において新たな遺跡等を発見し、文化庁長官へ届出をした場合において、文化庁長官は、最長6か月を超えて開発工事等の停止又は禁止を命ずることができないこと及び2上記(1)のハの(ニ)のとおり、請求人が当審判所へ提出した本件報告書には、本件各土地における発掘調査期間が6か月と見積もられていることからすると、本件各土地において要する発掘調査期間は6か月程度であると解するのが相当である。したがって、発掘調査期間が27年程度であることを前提とし、著しく利用価値が低下しているとして10%を減額すべき旨の主張も採用できない。

(5) 本件各土地の相続税評価額

イ 本件各土地の評価方法
 本件各土地はいずれも市街地山林に該当するところ、本件A土地及び本件B土地は、上記(1)のホのとおり、広大地に該当する市街地山林と認められることから、評価基本通達49−2の定めにより、本件C土地は、同通達49の定めにより、それぞれ評価することとなる。
ロ 周知の埋蔵文化財包蔵地に該当することの考慮
 本件各土地は、いずれも周知の埋蔵文化財包蔵地に該当するため、その考慮として控除すべき発掘調査費用について検討すると、P市教育委員会は、上記(1)のハの(ロ)のとおり、本件各土地を貝塚部分とそれ以外とに分けてその調査費用を積算し、貝塚部分が○○○○平方メートルで○○○○円、貝塚以外の部分が○○○○平方メートルで○○○○円と算定しており、これら金額は、P市教育委員会において発掘調査基準に基づいて本件各土地の状況に応じて積算されたもので、当審判所においても相当と認められる。
 ただし、上記(1)のイ及びハのとおり、上記見積額を回答した本件回答は公簿面積に基づいているので、P市教育委員会積算の発掘調査費用は本件各土地の登記上の地積を基に積算されていると認められるところ、本件各土地の評価において、本件A土地及び本件C土地は、別表2の本件測量図に基づく地積により、本件B土地は、別表5のとおり認定した地積により評価するのが相当であることから、その評価上控除される発掘調査費用は、別表6のとおりとなる。
ハ 本件各土地の価額
 上記イ及びロに基づき、本件各土地の価額を算定すると、別表7のとおり、本件A土地は○○○○円、本件B土地は○○○○円、本件C土地は○○○○円となる。
ニ 本件更正処分について
 課税価格に算入すべき本件各土地の価額は、上記ハのとおり、本件A土地は○○○○円、本件B土地は○○○○円、本件C土地は○○○○円となる。
 そして、本件更正の請求において添付書類として原処分庁へ提出された「相続税計算書」と題する書面には、取得者をGとする下記(イ)の上場株式並びに下記(ロ)及び(ハ)の普通預金の合計236,356円について、本件相続に係る相続税の課税価格の計算上、算入漏れがあった旨の記載があり、当審判所の調査の結果によれば、本件相続に係る遺産を構成すると認められるこれらの財産及び価額は、本件更正処分において課税価格に算入されていない。
(イ) 銘柄 U社   株数 ○○株  評価額 38,930円
(ロ) V銀行○○支店 普通預金    評価額 33,118円
(ハ) W銀行○○支店 普通預金    評価額 164,308円
 したがって、上記(イ)ないし(ハ)の財産についても、課税価格に算入すべきものと認められる。
 更に、請求人と原処分庁の間に争いのない、これら以外の課税価格に算入すべき財産の価額○○○○円(純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産価額○○○○円を含む。)及び債務控除額○○○○円については、当審判所においても相当と認められる。
 そこで、請求人の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、課税価格は○○○○円、納付すべき税額は○○○○円となり、これらの金額はいずれも本件更正処分の金額を下回るから、本件更正処分は、その一部を取り消すべきである。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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