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(平19.11.5、裁決事例集No.74 357頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、相続税の課税価格に算入する土地の価額について、原処分庁が、財産評価基本通達に基づく評価額によることが相当であるとして相続税の更正処分等を行ったのに対し、審査請求人らが、土地の評価額の算定について原処分庁の同通達の解釈には誤りがあり過大な評価となっているとして、同処分等の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 審査請求人Q(以下「請求人Q」という。)、同R(以下「請求人R」という。)及び同S(以下「請求人S」といい、これら3名を併せて「請求人ら」という。)は、平成16年3月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したT(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人であり、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、別表1の「当初申告」欄のとおり記載した相続税の申告書を他の共同相続人であるU及びVと共に法定申告期限までに提出した。
ロ 請求人らは、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、請求人Q及び請求人Rは、平成18年2月9日、別表1の「修正申告等」欄のとおり記載した修正申告書を提出したところ、原処分庁は、これに対し、同月22日付で、過少申告加算税の額を同欄のとおりとする各賦課決定処分をした。
ハ 次いで、請求人Rは、平成18年6月5日、別表1の「再修正申告等」欄のとおり記載した修正申告書を提出したところ、原処分庁は、これに対し、同月8日付で、過少申告加算税の額を同欄のとおりとする賦課決定処分をした。
ニ その後、原処分庁は、別表2の各土地の価額に誤りがあるとして、平成18年6月30日付で、請求人らに対し、別表1の「更正処分等」欄のとおりとする各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)をし、また、同日付で、請求人Q及び請求人Rに対し、過少申告加算税の額を同欄のとおりとする各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ホ 請求人らは、平成18年7月6日、上記ニの各処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月6日付で、請求人Q及び請求人Rに対し棄却の異議決定をし、また、同日付で、請求人Sに対し却下の異議決定をした。
ヘ その後、原処分庁は、平成18年10月31日付で、請求人らに対し、別表1の「再更正処分等」欄のとおりとする各再更正処分(以下「本件各再更正処分」という。)をし、また、同日付で、請求人Qに対し、過少申告加算税の額を同欄のとおりとする賦課決定処分をした。
ト 請求人らは、平成18年11月6日、上記ホの異議決定を経た後の本件各更正処分及び本件各賦課決定処分に不服があるとして審査請求をした。
 また、請求人らは、請求人Qを総代として選任し、その旨を当審判所に平成18年11月8日に届け出た。
チ そこで、上記ヘの平成18年10月31日付の本件各再更正処分及び請求人Qに対する過少申告加算税の賦課決定処分についてもあわせ審理する。

(3) 関係法令等の要旨

 別紙1のとおりである。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人らと原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件審査請求の対象となっている土地の明細及び現況は、別表2のとおりである(以下、同表の各土地を、同表の「略号」欄に記載した順に、それぞれ、「本件A土地」、「本件B土地」、「本件C土地」、「本件D土地」、「本件E土地」、「本件F土地」、「本件G土地」、「本件H土地」、「本件I土地」、「本件J土地」、「本件K土地」、「本件L土地」、「本件M土地」、「本件N土地」、「本件O土地」及び「本件P土地」といい、これら各土地を併せて「本件各土地」という。)。
ロ 本件各土地は、相続により次のとおり取得されている。
(イ) 本件A土地は、Uが本件相続により取得した。
(ロ) 本件B土地ないし本件D土地、本件F土地ないし本件H土地、本件J土地及び本件M土地は、請求人Sが本件相続により取得した。
(ハ) 本件E土地、本件I土地、本件L土地及び本件N土地ないし本件P土地は、請求人Qが本件相続により取得した。
(ニ) 本件K土地は、請求人Rが本件相続により取得した。
ハ 本件A土地ないし本件M土地のうち、本件I土地は市街化調整区域内に所在し、他の土地は市街化区域内に所在する。また、これらの各土地を評価基本通達の定めにより評価する場合、本件A土地及び本件K土地ないし本件M土地は路線価方式(同通達13に定める路線価方式をいう。以下同じ。)により評価する地域内に所在し、本件B土地ないし本件J土地は倍率方式(同通達21に定める倍率方式をいう。以下同じ。)により評価する地域内に所在する。
ニ 本件K土地ないし本件M土地は、土地区画整理事業が終了した地域内に所在し、それぞれの土地が接面している路線には、いずれの路線にも平成16年分として110,000円の路線価が設定されており、これらの土地の所在する地区は、いずれも普通住宅地区である。
ホ 本件N土地ないし本件P土地(以下、これらの土地を併せて「本件各山林」という。)は、いずれもW市北部の市街化調整区域内に所在する山林である。
ヘ 原処分庁は、別表2のW市w1町○○番の土地について、5,454平方メートルを1,355平方メートルの部分(以下「本件P1-1土地」という。)と4,099平方メートルの部分(以下「本件P1-2土地」という。)に区分し、本件P1-2土地のみが保安林であるとして本件各更正処分及び本件各再更正処分を行った。
ト 本件各土地に個別に認められる事実
(イ) 本件A土地
A 本件A土地の北側に所在する土地(X市x1町○○番の土地384平方メートルのうち297平方メートルの部分。以下「本件A土地北側土地」という。)は、Uが本件相続により取得したものであり、同土地上には本件相続により同人が取得した建物が存在し、本件被相続人はその建物を○○社に賃貸していた。
B 本件相続開始日まで、本件被相続人は、本件A土地を使用貸借によりUに貸し付け、同土地には同人の所有する建物が存在している。
C 本件A土地北側土地が北側で接面している路線(以下「本件A北路線」という。)には、平成16年分として120,000円の路線価が設定されており、これらの土地の所在する地区は、普通住宅地区である。
D 本件A土地北側土地及び本件A土地は西側で路線価の設定されていない道路に接面している。
E 本件A土地(521平方メートル)のうち本件A土地北側土地に隣接している部分(53.4平方メートル)は容積率200%の地域内に所在し、本件A土地のうちその他の部分(467.6 平方メートル)は容積率80%の地域内に所在する。
(ロ) 本件D土地
 本件D土地は、本件相続開始日において、第三者である○○○○に賃貸されており、同土地に係る土地賃貸借契約書には、同土地は資材置場を目的として当分の間賃貸する旨、賃借人は居住用の建物を建てないこととする旨記載されている。
(ハ) 本件E土地
 本件E土地は、生産緑地に該当し、かつ、本件相続開始日において生産緑地法第10条の規定により市町村長に対し生産緑地を時価で買い取るべき旨の申出をすることができる土地である。
(ニ) 本件I土地
A 本件I土地の平成16年度の固定資産税評価額は4,545,750円である。
B 本件I土地は、本件相続開始日において、○○○社に賃貸されており、同土地に係る土地賃貸借契約書には、同土地は資材置場を目的として当分の間賃貸する旨、賃借人は居住用の建物を建てないこととする旨記載されている。
(ホ) 本件J土地
A 本件J土地は、別表2付表のとおり、J1土地、J2土地、J3土地及びJ4土地に区分され(以下、区分されたこれらの各土地を「本件J1土地」、「本件J2土地」、「本件J3土地」及び「本件J4土地」という。)、それぞれ利用されている。
B 本件J3土地及び本件J4土地は、本件相続開始日において、第三者である○○○○に賃貸されており、これらの土地に係る土地賃貸借契約書には、これらの土地は普通建物所有を目的として当分の間賃貸する旨記載されている。
チ Y国税局長が定めた平成16年分評価基準書には、次のとおり相続税評価倍率及び借地権割合が定められている。
(イ) 本件B土地ないし本件J土地が所在する地域の宅地の相続税評価倍率は、いずれも1.1倍である。
(ロ) 本件J土地が所在する地域の借地権割合は50%である。
(ハ) 本件各山林が所在する地域の中間山林の相続税評価倍率は、本件N土地が所在する地域がa倍、本件O土地が所在する地域がb倍、本件P土地が所在する地域がc倍である。

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2 主張

 請求人らは、本件各更正処分は違法であり、いずれもその一部を取り消すべきである旨、原処分庁は、本件各更正処分は適法である旨主張するところ、主な争点に対する双方の主張は別紙2のとおりであり、本件各土地の個別の評価方法、主張額は別紙3-1ないし別紙3-3のとおりである。

3 判断

(1) 認定事実

 請求人ら提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件各土地の個別の状況等
(イ) 本件A土地
A 上記1の(4)のトの(イ)のDの道路は、幅員2.3メートルないし2.89メートルの舗装された市道(以下「本件A土地西側市道」という。)で、一方が本件A北路線に接続し、残りの一方が本件A土地の南端とほぼ同じ位置までの行き止まり道路である。
B 本件A北路線から本件A土地の北端部分(本件A土地北側土地との境界部分)までの奥行距離は16.5メートル、本件A北路線から本件A土地の南端部分(最深部分)までの奥行距離は45.5メートル、本件A土地が本件A土地西側市道に接面する間口距離は29メートル、本件A土地の本件A土地西側市道からの奥行距離は18.2メートルである。
C 請求人らは、本件相続に係る相続税の申告に当たり、原処分庁に対して、本件A土地を評価するための特定路線価の設定の申出をしていない。
(ロ) 本件B土地
A 本件B土地は、北側で幅員2.42メートルの市道にほぼ等高に接面し、東側で幅員3.64メートルの市道(以下「本件B土地東側市道」という。)にほぼ等高に接面する角地であり、東側間口距離5.7メートル、本件B土地東側市道からの奥行距離29.2メートルの東西に長いおおむね長方形の土地である。
B 本件B土地の地勢は、ほぼ平坦であり、西側で隣接する土地にほぼ等高に接し、南側で隣接する土地に約0.5メートル高く接している。
(ハ) 本件C土地
A 本件C土地は、南側で幅員4.5メートルの市道にほぼ等高に接面する間口距離13.24メートル、奥行距離30.28メートルの南北に長い不整形地である。
B 本件C土地の地勢は、起伏があり、東側で隣接する土地にほぼ等高に、西側で隣接する土地に最大で約0.4メートル低く、北側で隣接する土地に約0.4メートル低く接している。
(ニ) 本件D土地
A 本件D土地は、北西側で幅員5.0メートルの市道(以下「本件D土地北西側市道」という。)に約3メートル高く接面し、間口距離36.80メートル、最大奥行距離49.97メートル、最小奥行距離32.28メートル、平均的な奥行距離39.80メートルの本件D土地北西側市道に斜めに接面する南北に長い不整形地である。
B 本件D土地の地勢は、本件D土地北西側市道からの進入部分を除き、その過半がほぼ平坦であり、周囲に隣接する土地とほぼ等高に接している。
(ホ) 本件E土地
A 本件E土地は、北西側で幅員2.42メートルの市道にほぼ等高に接面する間口距離19.30メートル、奥行距離6.3メートルの扇形の不整形地である。
B 本件E土地の地勢は、中央部分は道路より0.1メートルないし0.2メートルほど低くなっており、東側及び南側で隣接する土地にほぼ等高に接している。
(ヘ) 本件F土地
A 本件F土地は、北側で幅員2.73メートルの市道(以下「本件F土地北側市道」という。)にほぼ等高に接面する間口距離8.10メートル、奥行距離17.20メートルのほぼ長方形の土地である。
B 本件F土地は、東側及び西側で隣接する土地にほぼ等高に、南側で隣接する土地に約0.8メートル高く接している。
C 本件F土地の南端部分は、本件F土地北側市道との接道面より0.4メートル程度低くなっている。
D 本件F土地には、本件相続開始日前に、南側で隣接する土地との境界に土止めが設置されている。
(ト) 本件G土地
A 本件G土地は、東側で幅員4.0メートルの市道(以下「本件G土地東側市道」という。)にほぼ等高に、南側で幅員3.03メートルの市道にほぼ等高に接面する二方路地であり、東側間口距離14.10メートル、本件G土地東側市道からの奥行距離48.45メートルの不整形地である。
B 本件G土地の地勢は、西から東及び北から南に向かってかすかに下りに傾斜(傾斜度3度以下)し、中央部分が0.2メートルほど低くなっている。また、西側及び北側で隣接する土地にほぼ等高に接している。
(チ) 本件H土地
A 本件H土地は、西側で本件G土地東側市道にほぼ等高に接面する間口距離47.50メートル、奥行距離11.60メートルの南北に長い不整形地である。
B 本件H土地は、北側で隣接する土地に最大で0.4メートル低く、東側で隣接する土地にほぼ等高に、南側で隣接する土地にほぼ等高に接している。
C 本件H土地は、本件G土地東側市道に接面する同土地の北端部分を頂点として緩やかに南に向かって下り傾斜になっており、その傾斜度は3度以下である。
(リ) 本件I土地
A 本件I土地は、東側で幅員5.0メートルの市道(以下「本件I土地東側市道」という。)に1.5メートルないし2.0メートル程度高く接面し、南側で幅員5.0メートルの市道に最大で1.5メートル程度高く接面する角地であり、東側間口距離28.78メートル、南側間口距離24.6メートル、東側間口からの平均的な奥行距離9.58メートルの三角形状の不整形地である。
B 本件I土地には、本件I土地東側市道と接する部分に約5.6メートルにわたってよう壁が設置されているが、その他の部分は正規の土止工事は行われておらず、宅地として利用するためには新たな土止工事が必要である。
(ヌ) 本件K土地
A 本件K土地は、北側で幅員6.0メートルの市道にほぼ等高に接面する間口距離9.6メートル、奥行距離18.8メートルの長方形の土地である。
B 本件K土地の地勢は、ほぼ平坦であり、東側及び西側で隣接する土地にほぼ等高に、南側で隣接する土地に約0.7メートル高く接している。
C 本件K土地と南側で隣接する土地との間には、土地区画整理事業が施行された際に本件K土地の敷地内に土止めが設置されている。
(ル) 本件L土地
A 本件L土地は、北側で幅員6.0メートルの市道(以下「本件L土地北側市道」という。)に約0.4メートル高く接面し、東側で幅員6.0メートルの市道(以下「本件L土地東側市道」という。)に約0.4メートルないし0.7メートル高く接面する角地で、北東の角を隅切りされている台形状の土地である。
B 本件L土地の北側間口距離は23.0メートル、東側間口距離は21.0メートルであり、北側間口からの最長奥行距離は20.8メートル、東側間口からの最長奥行距離は26.8メートルである。また、本件L土地の地積を北側間口距離で除して求めた平均的な奥行距離は22.08メートル、東側間口距離で除して求めた平均的な奥行距離は24.19メートルである。
C 本件L土地北側市道の路線価に、上記Bの北側間口からの平均的な奥行距離に基づく奥行価格補正率を乗じて求めた補正後の価額は110,000円であり、本件L土地東側市道の路線価に、上記Bの東側間口からの平均的な奥行距離に基づく奥行価格補正率を乗じて求めた補正後の価額は108,900円である。
D 本件L土地の地勢は、ほぼ平坦であり、西側で隣接する土地にほぼ等高に、南側で隣接する土地に約0.7メートル高く接している。
E 本件L土地と南側で隣接する土地との間には、土地区画整理事業が施行された際に本件L土地の敷地内に土止めが設置されている。
(ヲ) 本件M土地
A 本件M土地は、南側で本件L土地北側市道に約0.3メートル高く接する間口距離31.2メートル、奥行距離22.4メートルの長方形の土地である。
B 本件M土地の地勢は、ほぼ平坦であり、東側及び西側で隣接する土地にほぼ等高に、北側で隣接する土地に0.2メートルないし0.4メートル低く接している。
(ワ) 本件各山林
A 本件各山林の概況
 Z県の西方は、標高1,000メートル級の高い山が連なり、東方へ次第に低い山地となっている。そして、その先端は丘陵となって東方の○○○に接しており、この丘陵は山地からいくつかの半島の形をして台地や平野へ東方に向けて突き出た状態となっている。これらの丘陵はいずれも標高100メートルから200メートルほどで、表面は波状に起伏が見受けられる。このように、丘陵は山林と宅地として開発される台地、平野との境に位置し、一般的に地理的、地形的に見て山地に比べて宅地化の影響を受けやすいということができる。
 本件各山林は、このような丘陵の一つにあり、この丘陵はW市の北部に位置し、東方で○○○に接しており、北方を○○○、南方を○○○に挟まれ、○○○に沿って南東になだらかに連なっている。
 本件各山林は、西から本件O土地の所在するW市w2町、同町の東側に接して本件N土地の所在する同市w3町、同町の北東側に接して本件P土地の所在する同市w1町に並んで位置し、これらの町の北側では、X市と接している。W市w3町と同市w2町のそれぞれの町の中心部を国道○○号線(以下「d街道」という。)が東西に横断しており、d街道は、同市w3町及び同市w2町の主要幹線道となっている。d街道の標高は、W市w3町の東端に当たる○○○付近が135メートル、同町の西端で同市w2町の東端に当たる○○○付近が145メートル、同町の中心部の○○○付近が166メートルで、西に向かうにしたがって標高が高くなっている。
 W市w1町は、○○○の南側に位置し、同町の中心部の標高105メートル付近を県道e号線が南北に縦走しており、同町の主要幹線道となっている。県道e号線の西側が山林で、その大部分が北向きに傾斜しているいわゆる北斜面になっており、県道e号線の東側には○○○との間に農地が広がっている。W市w3町にある山林は、そのほとんどがd街道の北側に位置し、主に南向き斜面のいわゆる南斜面である。W市w2町にある山林のうち、d街道以北の地域にある山林は主に南向き斜面のいわゆる南斜面であり、同町のこれら以外の地域にある山林は、主に北向きの斜面のいわゆる北斜面である。
B 本件各山林の個別の状況
(A) 本件N土地は、d街道の北側に位置し、隣接地には標高180メートル付近に所在する○○○、標高190メートル付近に所在する○○○など宅地開発された施設がある。本件N土地は、これらの施設と同程度の標高にある土地であり、南向きに傾斜しているいわゆる南斜面の土地である。
(B) 本件O土地は、d街道の南側で標高200メートルから230メートル付近に位置し、西側で標高210メートル付近にある○○○、北側で標高200メートル付近にある○○○、東側で標高200メートル付近にある○○○、南側で標高210メートル付近にある○○○等の隣接している施設とほぼ同程度ないしやや標高の高い位置にあり、北向きに傾斜しているいわゆる北斜面の土地である。
(C) 本件P土地は、W市w1町の北部に所在し、県道e号線の西側の斜面に位置している。ここは、W市w3町の北東側と接しており、同町と一体となって、一つの尾根を形成している。この尾根の標高180メートル付近に上記(A)に記述した○○○がある。
(D) 別表2の本件N土地中のpの土地と同表の本件P土地中のdの土地とは隣接しており、いずれも東向き又は東南向きに傾斜する山林である。
C 本件各山林の付近の山林の相続税評価上の区分
 平成16年分評価基準書によると、本件各山林の所在する町の市街化調整区域内に所在する山林は、いずれも中間山林として区分されている。なお、本件各山林に最も近いところで純山林として区分されている地域は、W市w2町の隣にある○○○以西、本件各山林の北西で同町に接する○○○以西に存在する。
ロ X市における固定資産税評価に関する事項
(イ) X市は、平成15年度(基準年度)の固定資産(土地)の評価を地方税法第388条《固定資産税に係る総務大臣の任務》第1項に規定する固定資産評価基準に基づき、本件固定資産評価取扱要領によって実施することとしており(以下、この固定資産評価基準と本件固定資産評価取扱要領とを併せて「固定資産評価基準等」という。)、この本件固定資産評価取扱要領には次の定めがある。
A 市街化区域内に所在する宅地は、固定資産評価基準等による路線価方式により評価し、それ以外の区域内に所在する宅地は標準地比準方式により評価する。
B 市街化区域農地に該当する田及び畑は、宅地の評価法により求めた単位地積当たりの価額から造成費に相当する額を控除して評価する。
C 雑種地のうち、その利用状況が比較的宅地に近いもの(以下「宅地並雑種地」という。)については、市街化区域内に所在する宅地並雑種地は原則として固定資産評価基準等の路線価方式により評価し、市街化調整区域内に所在する宅地並雑種地は宅地の評価法により求めた単位地積当たりの価額に市街化調整区域内の雑種地としての補正率を乗じて評価する。
(ロ) X市課税課土地資産税係の職員は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述した。
A 平成16年度の固定資産税の路線価は、平成15基準年度の路線価に当該路線に係る標準地の時点修正率を乗じて算定される。
B 別表2の本件B土地ないし本件H土地は、いずれも市街化区域内に所在し、本件B土地及び本件D土地は宅地並雑種地、その他の土地は農地である。これらの土地は上記(イ)のとおり、まず宅地としての価額を算定することとなり、それぞれの土地が宅地であるとした場合の平成16年度の固定資産税評価額(1平方メートル当たりの価額)は別紙4の1のとおりとなる。
 また、本件J土地は市街化区域内に所在し、本件J1土地は畑、その他の部分(本件J2土地、本件J3土地及び本件J4土地を併せた部分)は宅地並雑種地の二つに区分して評価している。
C 本件1土地は市街化調整区域内に所在することから、付近の標準宅地の1平方メートル当たりの価額に補正率及び時点修正率を乗じて評価することとなり、具体的な算定方法は別紙4の2のとおりである。
D 従来から、土地評価証明書の交付申請の際、申請者から近傍宅地の価額の開示要望があった場合には、固定資産税の土地評価証明書の「備考」欄に「近傍宅地平方メートル当り」の価額を記入しているが、この金額は、証明対象の土地が接面する道路に設定された固定資産税の路線価(上記Aにより算定された価額)である。
ハ 保安林について
 Z県森林事務所保全課の職員は、当審判所に対し、本件P1-1土地及び本件P1-2土地は1筆の土地であり、この1筆の土地の全体が、主伐に係る伐採種を定めない保安林(評価基本通達123に定める「法令に基づき定められた伐採関係の区分」が「一部皆伐」に該当する保安林)に指定されている旨答述した。

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(2) 評価の原則及び評価基本通達について

 相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しているところ、この時価とは、相続により財産を取得した日において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうものと解されている。
 しかし、財産の客観的な交換価値は必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上は、財産評価の一般的基準が評価基本通達によって定められ、さらに、同通達の定めに基づき、路線価や相続税評価倍率など、土地や土地の上に存する権利の価額の具体的な評価基準が国税局長によって定められており、これらに定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされている(このように相続財産を同通達の定めによって評価した額を、以下「相続税評価額」という。)。これは、相続財産の客観的な交換価値を個別に評価する方法を採ると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることを避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどからして、あらかじめ定められた評価方式によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由に基づくものである。
 したがって、相続税評価額が相続開始時におけるその財産の価額として不適当であるような特別な事情がない限り、評価基本通達に定められた方法に基づき評価することには合理性があるものと認められる。

(3) 主な争点に対する判断

 本件は、本件各土地の価額を算定するに当たり評価基本通達の適用、解釈等に争いがあるので、事実を関係法令等に照らして本件各土地ごとに審理したところ、次のとおりである。
イ 路線価の設定されていない道路に接面する土地の評価方法について
(イ) 請求人らの本件A土地の評価方法について
 請求人らは、本件A北路線に設定された路線価にX市が固定資産の評定に用いる査定率を乗じて評定した価額を本件A土地西側市道の路線価(以下「請求人路線価」という。)として、本件A土地の価額を算定するべきである旨主張する。
 しかしながら、相続財産の評価に当たり、評価基本通達により評価することは、上記(2)のとおり、同通達の定めに該当する場合には、同通達が画一的に適用されることにより納税者間における実質的な租税負担の公平が図られることなどに合理的理由があると解されるところ、請求人路線価に基づく本件A土地の評価方法は、X市における固定資産税の路線価の取扱いを参考としているものの、請求人路線価は、請求人らからの申出等に基づき所轄税務署長が設定する特定路線価ではないし、また、当該特定路線価に等しいことも明らかではないことから、同通達の定めに基づかない独自の評価方法というほかはなく、採用することができない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
(ロ) 原処分庁が主張する評価方法について
 原処分庁は、本件A北路線に設定された路線価を基に評価基本通達20-2に定める無道路地の評価に準じて本件A土地の価額を算定するべきである旨主張する。
 ところで、評価基本通達に従って評価する場合、本件A土地のように路線価の設定されていない道路のみに接している宅地につき、特定路線価を設定することなく、その道路(本件の場合、本件A土地西側市道)に接続する路線(本件の場合、本件A北路線)の路線価を基に、その接続路線と評価対象地である本件A土地との位置関係等に基づき同通達に定める画地調整を行って評価することも不合理とはいえない。なぜなら、一般に、その土地がその接続路線から遠く離れている場合や地区区分が異なる場合などを除き、その接続路線の影響を受けていると解されるからである。
 これを本件についてみると、本件A土地は、1本件A土地と本件A北路線の間に本件A土地北側土地が介在するという本件A北路線と本件A土地の位置関係にあること、2路線価の設定されている本件A北路線から奥行距離が16.5メートルである本件A土地北側土地に接しており、住宅1軒分奥に入っただけの位置にあること、3本件A土地及び本件A土地北側土地は、いずれもUが本件相続により取得していること並びに4本件A土地西側市道に面していることからすると、本件A土地の評価額を算定するに当たり、本件A北路線に設定された路線価を基に評価基本通達20の2に定める同通達20の不整形地の評価方法を採用することが特に不合理とまではいえず、同通達に則った評価方法ということができる。
 そして、原処分庁は、本件A土地について無道路地に準じて評価すべきである旨主張しているが、別紙3-1の「原処分庁」欄の1の本件A土地の主張額のとおり、通路開設部分に係るしんしゃくを行っておらず、実質的には評価基本通達20に基づき、本件A土地が本件A土地北側土地をかげ地とする不整形地であるとして評価しているものと認められ、結論としては不合理とはいえないものと解される。
ロ 倍率方式で評価する地域内に所在する市街地農地及び雑種地の評価方法について(本件B土地ないし本件H土地及び本件J土地)
(イ) 問題の所在
 評価基本通達40において、市街地農地の価額は、その農地が宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額から宅地に転用する場合に通常必要と認められる造成費に相当する金額を控除して評価することとしているが(このように宅地以外の土地を評価する際に、その土地が宅地であるとした場合の価額を基に評価する方法を、以下「宅地比準方式」という。)、倍率方式によって評価する地域内に所在する場合には、その農地が宅地であるとした場合の価額の算定をどのように行うかが問題となる。すなわち、倍率方式によって宅地を評価する場合には、その宅地の固定資産税評価額に相続税評価倍率を乗じて計算した金額によって評価することとされているが、評価対象地が農地である場合には、通常、農地としての固定資産税評価額は評定されているものの、その土地が宅地であるとした場合の固定資産税評価額は評定されていないからである。この点について、評価基本通達では、その農地が宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額は、その付近にある宅地について同通達11に定める方式によって評価した1平方メートル当たりの価額を基とし、その宅地とその農地との位置、形状等の条件の差を考慮して評価するとして実務上の取扱いを定めている。
 なお、雑種地についても、別紙1の25のとおり評価することから、倍率方式で評価する地域内に存する宅地と状況が類似する雑種地の場合にも同様の問題が生じる。
(ロ) X市における固定資産税評価額の算定方法
 一方、X市においては、市街化区域内に所在する田及び畑の固定資産税評価額は、上記(1)のロの(イ)のBのとおり、その農地が宅地であるとした場合の価額から造成費相当額を控除することによって求められている。したがって、原則として、市街化区域内に所在する農地の固定資産税評価額の算出過程においては、評価対象地が宅地であるとした場合の固定資産税評価額そのものが算定されていることになる。また、市街化区域内に所在する宅地並雑種地についても、上記(1)のロの(イ)のCのとおり宅地と同様の評価をすることとされている。
(ハ) 原処分庁が主張する近傍宅地価格について
 原処分庁は、X市から評価対象地の近傍宅地1平方メートル当たりの固定資産税評価額が呈示されていることから、この近傍宅地1平方メートル当たりの固定資産税評価額を基に相続税評価額を算定すべきである旨主張するが、X市が呈示する評価対象地に係る「近傍宅地平方メートル当り」の価額は、X市職員が答述しているとおり、評価対象地を評価する際に基準となる平成15基準年度の固定資産税の路線価に時点修正率を乗じただけのものであり、評価対象地の付近の宅地について、画地調整を行った後の1平方メートル当たりの価額を示すものではない。したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
(ニ) 請求人らが主張する評価額の算定方式について
 請求人らは、倍率方式における宅地比準方式は、まず、評価対象地が宅地であるとした場合の固定資産税評価額を算定する必要があるとするが、評価対象地が宅地であるとした場合の固定資産税評価額は、評価対象地が所在する地域における宅地の固定資産税評価額との権衡上、X市の固定資産税評価額を評定する場合の基準に則って算定するのが相当であるところ、請求人らの主張する固定資産税評価額は、必ずしもX市の固定資産税評価額を評定する場合の基準に従って算定されたものとはいえず、請求人らの主張は認め難い。
(ホ) そうすると、別紙4の1のとおり、X市のように評価対象地が宅地であるとした場合の固定資産税評価額そのものが算定可能である場合には、あえて付近の宅地の価額を基に算定するまでもなく、その固定資産税評価額を基に評価するのが相当である。
ハ 宅地造成費について(本件B土地ないし本件M土地)
(イ) 評価基本通達40では、宅地比準方式によって市街地農地を評価する際に控除する「宅地に転用する場合において通常必要と認められる1平方メートル当たりの造成費に相当する金額」は、整地、土盛り又は土止めに要する費用の額がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長が定めた金額としている。これを受けて、Y国税局長は、別紙1の29のとおり、平坦地と傾斜地に区分して、それぞれ評価造成費を定めている。
(ロ) ところで、農地を宅地に転用するとは、農地を建築物の建築の用に供するためにその地面や地盤の変更を行うことをいうものと解されるが、実際にはその地域、土質、造成規模、造成目的などの条件によってその内容は種々異なることになる。その具体的な内容としては、1宅地以外の土地を宅地化するために土地の形質を変更するために行われる整地、土盛り又は土止めに係る工事と、2造成の目的が、戸建住宅、アパート、マンション、工場、倉庫、構築物の敷地などの各用途の別により必要とされる個別の工事とが考えられる。このうち、2の造成工事については、その土地上にどのような建物等を建築するかの個別事情に左右される部分が大きいことから各建築物に附属する費用とも捕らえることができる。市街地農地を評価するに当たって造成費相当額を控除するのは、市街地農地の価額の形成要因が、農地としての利用ではなく宅地としての利用を前提としたものであり、その要因は近隣の更地である宅地と変わりがなく、また、更地である宅地との比較においては、宅地造成費相当額分だけの格差があるものと認められることによる。そのために通常必要とされる宅地造成費とは、どのような建築物が建築されるかにかかわらず必要とされる整地、土盛り又は土止めに要する金額を指すものと解するのが相当である。
(ハ) この点について、請求人らは、宅地造成費は本件各土地ごとにそれぞれ個別に算定すべきであり、その項目として整地、土盛り又は土止めに要する費用に加えて、給水管等敷設費を見積もって算定している。
 しかしながら、請求人らの主張する給水管等敷設費は、宅地を戸建住宅の敷地として利用するための個別の費用であり、このような費用は上記(ロ)の2の造成工事費に該当すると認められるから、宅地比準方式により土地を評価する上で控除の対象となる「宅地に転用する場合において通常必要と認められる造成費」には当たらないものと認められる。
 なお、宅地造成費を本件各土地ごとにそれぞれ個別に算定すべき事情があるか否かについては、本件各土地ごとに別紙5において検討する。
ニ 市街化調整区域内の雑種地の評価上、造成費を控除するか否かについて(本件I土地)
(イ) 別紙4の2のとおり、本件I土地の固定資産税評価額の算定においては、画地補正として、奥行価格補正、側方加算、高低地補正、不整形地補正、画地規模補正が行われている。このうち高低地補正は、本件固定資産評価取扱要領により、接面している路線からみた高さが1メートル以上2メートル未満の場合に適用される率と認められる。そうすると、この高低地補正は、単に路線との高低差によるものであり、その差があれば一律に認められる補正であって、土止めの必要性の有無など、造成の必要性に対する補正とは認められない。また、その他の補正についても、評価対象地の画地としての立地条件に対する調整と認められる。したがって、本件I土地の相続税評価額の算定に当たっては、造成費を控除するのが相当である。
(ロ) ところで本件I土地の現況は、本件I土地東側市道に1.5メートルから2メートル、本件I土地南側市道に最大で1.5メートル高く接面し、本件I土地東側市道と接する部分には約5.6メートルにわたってよう壁が設置されているものの、そのほかの部分については簡易な土止めが行われていると認められるが正規の土止工事は行われていない。したがって、宅地造成費として土止費の計上を認めるのが相当である。
 しかしながら、本件I土地には賃借権が設定され、賃借人は駐車場及び資材置場として利用しているから、整地の必要性は認められない。また、請求人らの主張する給水管等敷設費については、上記ハの(ハ)のとおり、宅地を戸建住宅の敷地として利用するための個別の費用であるため、本件I土地を宅地に転用する場合において通常必要と認められる造成費とは認められない。
ホ 評価単位について(本件J土地)
(イ) 評価基本通達7及び同通達7-2は、土地の価額は地目別に評価し、その評価単位は、宅地の場合は利用の単位となっている1区画ごと、農地の場合は、耕作の単位となっている1区画ごと、雑種地の場合は利用の単位となっている一団ごとと定めている。
 一方で、市街地に存する農地及び宅地と状況が類似する雑種地(これらの土地を併せて、以下「市街地農地等」という。)は、宅地比準方式により評価することとされている。これは、市街地農地等は、付近の宅地の価額の影響を受け、農地等としての価額よりむしろ宅地の価額に類似する金額で取引されているのが実情であり、この観点から、市街地農地等は宅地比準方式によって評価することとされているものである。そうすると、このような場合に評価単位の原則を貫くと、宅地としての効用を無視した評価単位で評価する場合もあり得ることから、評価基本通達7は、宅地化が進展している地域に介在する市街地農地及び宅地と状況が類似する雑種地が隣接している場合、その規模、形状、位置関係等からこれらが一団の土地として評価することが合理的であると認められる場合には、その一団の土地ごとに評価することとしている。市街地農地等については、事実上、宅地転用に際して農地法の規制はなく、現況にかかわらず宅地としての利用を前提として価額が形成されることとなるため、このような取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
 したがって、市街地農地等は現況の利用状況により評価単位を捕らえるのではなく、宅地としての標準的使用を基準として評価単位を捕らえるのが相当であると認められる。
(ロ) これを本件についてみると、本件J1土地は畑として利用されているものの、1宅地と状況が類似する雑種地である本件J2土地と隣接していること、2道路に面していない土地であることから、宅地としての利用を前提にすると単独で利用するのは合理的ではないものと認められる。このような場合には、宅地としての有効利用を基準とし、隣接する宅地と状況が類似する雑種地である本件J2土地とともに一体利用することを前提として評価するのが相当である。
 したがって、本件J1土地と本件J2土地は区分して評価すべきであるとの請求人の主張には理由がない。
ヘ 中間山林の評価
(イ) 山林の評価単位について
 請求人らは、評価基本通達7-2において、山林の評価単位は1筆と定められているにもかかわらず、原処分庁は本件各山林の所在する町ごとに本件各山林の固定資産税評価額を合計して相続税評価倍率を乗じており、同通達に則って評価していない旨主張する。
 確かに、評価基本通達においては、山林の評価単位は1筆と定められ、また、中間山林の評価は倍率方式によることとされているので、山林の評価は山林1筆ごとの固定資産税評価額に相続税評価倍率を乗じて算定することとなる。したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がある。ただし、本件各山林を1筆ごとにその固定資産税評価額に評価倍率を乗じて評価額を算定したとしても、本件各山林については、相続税評価倍率が町別の地域ごとに定められていたことから、その合計額は結果として原処分庁が採用した方式によって算定した金額と同一となる。
(ロ) 請求人らが主張する評価方法について
 請求人らは、本件各山林の評価方法について、評価する山林の固定資産税評価額に相続税評価倍率を乗じて算定するという評価基本通達に定める方法については争ってはいないが、この評価方法は、固定資産税評価額が正当に評定されていることが前提となるところ、本件各山林に係る固定資産税評価額は、いずれも1平方メートル当たり○○○円として評定されており、固定資産評価基準等に準則していないことから、適正な固定資産税評価額を算定した上で、相続税評価倍率を乗じて相続税評価額を算定すべきである旨主張する。しかしながら、次のとおり、請求人らの主張する評価方法は採用できない。
A 倍率方式とは、相続税の課税上、財産の評価に当たって時価を算定する方法として固定資産税評価額に相続税評価倍率を乗じて算定する方法であるが、固定資産税評価額は固定資産税を課税する目的で各市町村がその課税標準として算定するものであって、相続税の評価に当たっては、その価額を前提に、さらに相続税評価倍率を乗じるという調整をして相続税を課税するための相続税評価額を算定する方法を採っているものであり、その際の固定資産税評価額の評定方法の適否については当審判所の審理の範囲外である。
B 仮に、本件各山林に係る固定資産税評価額が固定資産評価基準等に準則していないとしても、山林の固定資産税評価額の算定方法は標準山林比準方式によることとされているところ、請求人らが主張する固定資産税評価額の修正額の算定方法は、例えば、W市w1町○○番所在の山林を標準山林として選定しているものの、別紙3-3の本件各山林の「評点」は、当該標準山林と比準されたものではないなど、固定資産評価基準等に定めるものとは認められず、採用できない。
(ハ) 山林に係る評価倍率について
 評価基本通達48は、中間山林に係る評価方法について、「中間山林の価額は、その山林の固定資産税評価額に地価事情の類似する地域ごとに、その地域にある山林の売買実例価額、精通者意見価格等を基として国税局長の定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する」旨定めており、本件各山林を評価する場合、本件各山林に係る固定資産税評価額である1平方メートル当たりの価額○○○円に対し乗ずる倍率を、地価事情の類似する地域ごとに、その地域にある山林の売買実例価額、精通者意見価格等を基としてY国税局長が定めている。そして、上記(1)のイの(ワ)のとおり、各町ごとに山林を取り巻く状況が異なることから、それぞれの状況に応じた倍率を算定しているところである。
 ところで、請求人らは、W市w3町に所在する別表2の本件N土地内のpの土地と同市w1町に所在する同表の本件P土地内のdの土地は隣接しており同一の地域にある山林であるにもかかわらず、Y国税局長は町ごとに相続税評価倍率をそれぞれa倍、c倍と異なる評定をしていること自体誤りであるから、同市w3町所在の本件N土地に適用する倍率は同市w1町と同一のc倍とするべきである旨主張する。
 しかしながら、相続税評価倍率は、地価事情の類似する地域ごとに定めたものであることからすると、上記(1)のイの(ワ)のとおり、W市w3町の山林はおおむね南斜面で主要幹線道路はd街道を使用しているのに対し、同市w1町の山林はおおむね北斜面で主要幹線道路は県道e号線を使用しているなど、山林を取り巻く状況が異なることから倍率に差が出ているものと認められる。したがって、W市w3町所在の本件各山林のすべてに対し同市w1町所在の山林と同一の相続税評価倍率を適用すべき理由はない。
 請求人らはW市w3町所在の本件N土地の相続税評価額がその財産の価額として不適当であるような特別の事情については、同市w1町に所在する山林と隣接していることを主張するにすぎず、相続税評価額が時価を超えて不合理であるとの理由を立証せず、当審判所の調査によってもその理由は見当たらないから、請求人らの主張には理由がない。
(ニ) 山林の評価基本通達上の区分について
 請求人らは、本件各山林のうちには、純山林として評価すべき山林が存する旨主張する。
 評価基本通達45は、別紙1の21のとおり、山林の評価区分及び評価方式を定めているところ、同通達に定める純山林とは、主として林業経営のための山林をいい、市街地山林とは、宅地のうちに介在する山林又は市街化区域内にある山林をいい、中間山林とは、純山林及び市街地山林以外の、例えば市街地付近に所在する山林をいうものであると解される。
 したがって、純山林は宅地又は農地等への転用が見込めず、専ら木竹の生育の用に供されることを前提とした価格形成が見込まれる地域にある山林を指し、中間山林は都市近郊や農村付近にある山林で、この地域は宅地化や農地化等の影響を多少なりとも受けている地域であり、純山林より土地の価格水準が高い水準にある地域と考えられることから、両者はその価格形成要因が異なることとなり、そのためそれぞれを同一状況類似地区として一定の範囲で区分すべきこととなる。このように、この両者の区分はある程度広範囲にわたって判断されることとなるところ、平成16年分評価基準書によると、W市において純山林として区分される地域が存する町は、同市内の西側に存する一帯の地域に限られ、その地域は隣接するX市、○○市、○○市のそれぞれの純山林地域とともに広範な純山林地域を構成しているものと認められる。そして、その東側では、市街地との境に当たる地域までの間に所在する山林を中間山林として区分している。このような区分状況からは、純山林と中間山林が狭い地域内で混在することはないものと認められる。
 そこで、本件各山林の地域の状況を見てみると、いずれも傾斜地であること及び市街化調整区域内に所在することなどから開発等に当たって各種の規制があることは認められるものの、上記(1)のイの(ワ)のとおり、市街地付近にあり、また、○○○などの施設がある地域に所在するなどの周辺の状況から、通常の林業経営のための山林とは状況を異にする山林であると認められる。
 したがって、本件各山林のうちに、純山林として評価すべき山林が存するとの主張には理由がない。

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(4) 本件各土地の価額

 上記(3)の判断に基づき、本件各土地を当審判所において評価したところ、別紙5のとおりとなる。

(5) 本件各更正処分及び本件各再更正処分について

 上記(4)に基づき本件相続に係る財産の価額を算出すると、別表3の1のとおり本件各土地の課税価格に算入すべき価額の合計は754,553,692円となるところ、本件各土地以外の課税価格に算入すべき財産の価額○○○○円及び債務控除額○○○○円については、請求人らと原処分庁の間に争いはなく、当審判所においても相当と認められる。
 そこで、請求人らの課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表3の2のとおりであり、次のとおり判断される。
イ 請求人Qの納付すべき税額は、同人に対する更正処分の額を下回るから、同人に対する再更正処分及び更正処分を取り消すべきである。
ロ 請求人Rの納付すべき税額は、同人に対する再更正処分の額を上回るから、同人に対する再更正処分及び更正処分は適法である。
ハ 請求人Sに対する更正処分は納付すべき税額を減少させる処分であり、また、同人に対する再更正処分は納付すべき税額を増額させるものではなく、いずれも同人の権利又は利益を侵害するものとはいえない。したがって、請求人Sは、更正処分の取消しを求める利益はなく、同人の審査請求は請求の利益を欠く不適法なものである。

(6) 過少申告加算税の賦課決定処分について

イ 請求人Qに対する再更正処分及び更正処分は、上記(5)のとおり取り消すべきであり、また、その取り消されることに伴い減額される部分以外の税額の基礎となった事実について、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同人の過少申告加算税の額は別表3の2の「過少申告加算税」欄の金額となり、その金額は、同人に対する平成18年6月30日付でされた賦課決定処分の額を下回るから、当該賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。
 また、請求人Qに対する平成18年10月31日付の過少申告加算税の賦課決定処分は、その全部を取り消すべきである。
ロ 請求人Rに対する更正処分は、上記(5)のとおり適法であり、また、当該更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実について、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同人に対する過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

(7) その他

 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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