所得計算の特例

低額譲渡

  1. 交換の特例
  2. 低額譲渡(2件)
  3. 譲渡代金の回収不能
  4. 保証債務の履行
  5. 事業廃止の場合の必要経費

請求人らが限定承認により相続した不動産を債務弁済のために譲渡したところ、原処分庁が所得税法第59条第1項の規定を適用して被相続人についてみなし譲渡所得の課税を行った処分が適法なものとされた事例

裁決事例集 No.58 - 97頁

 請求人らは、限定承認により相続した不動産を債務弁済のために譲渡したところ、原処分庁は、所得税法第59条第1項の規定を適用し、被相続人についてみなし譲渡所得の課税を行った。
 請求人らは、本件においては、本件譲渡に係る譲渡所得課税のみを行うこととするほうが本件共同相続人の利益になることから、相続人の保護という限定承認の趣旨に立ち返って本件法規定を解釈し、被相続人に係るみなし譲渡所得課税は行われるべきではない旨主張する。
 しかしながら、本件法規定は、被相続人の所有期間中における資産の値上がり益を被相続人の所得として課税し、これに係る所得税額を債務として清算することにより、限定承認をした相続人が相続財産を超えて負担することがないように規定されているものであり、本件法規定にいう限定承認の意義については民法の規定と同義に解することが相当であって、請求人らは限定承認によって本件不動産を取得しているのであるから、被相続人についてみなし譲渡所得課税が行われたのである。
 なお、請求人らは、本件法規定が適用される結果、適用されない場合よりも納付すべき税額の点で不利益となり、限定承認により保護される相続人の利益が保護されないこととなるとも主張するが、限定承認の制度は、被相続人の債務等の額自体を縮減することによってではなく、相続によって得た財産の限度において当該債務等の弁済の責任を負わせることにより、相続人の保護を図ろうとするものであって、納付すべき税額の多寡は限定承認の機能とは別個のものであるから、請求人らの主張には理由がない。
 次に、請求人らは、仮に本件法規定が文言のとおり適用されるとしても、本件譲渡は、相続債権者への公告及び催告もせず、また、民法が定める換価手続である競売にもよらずに譲渡している上、譲渡代金のうち債務弁済後の残額を自己のために消費しているので、民法第921条第3項に規定する「私にこれを消費」に該当し、単純承認したものと見なされるから本件法規定を適用することはできない旨主張する。
 しかしながら、競売によらずに任意売却等したとしても、これらは単に手続違反にとどまり、限定承認の効力には影響を及ぼさないものと解されており、また、本件譲渡は債務弁済のために行った正当なものであって、債務弁済後の残額を共同相続人間で分配したものであるから、「私にこれを消費」したことには該当しないと解され、請求人らの主張は採用することができない。

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法人に対して譲渡した本件土地の価額は、その近傍の土地の売買実例価格の2分の1を超えているので低額譲渡に当たらないとする請求人の主張に対し、当該近傍の土地は本件土地と立地条件等が大きく異なり、その売買実例価格は本件土地の時価を示すものとはいえず、請求人は本件土地を時価の2分の1に満たない金額で法人に譲渡したものと認められるとした事例

裁決事例集 No.67 - 350頁

  1.  請求人は、本件土地の法人に対する譲渡について、譲渡者である請求人と譲受法人とは、恣意的に利益を得ることを目的として譲渡価額を決定したものではないので、所得税法第59条の低額譲渡に該当しない旨主張する。
     しかしながら、低額譲渡に該当するか否かは、譲渡価額が時価の2分の1に満たないか否かによって判断すべきであるから、当事者の具体的な意図、目的及び恣意性の有無を問わず、この規定が適用されるものである。
  2.  請求人は、本件土地と譲受法人が別途譲渡した近傍土地とは、所在する区域、利用価値、形状等の条件に差異はなく、また、当該近傍土地は第三者である仲介業者が複数介在して取引されたものであるから、その売買実例価額が本件土地周辺の時価を示しているものである旨主張する。
     しかしながら、本件土地と近傍土地とは、同じ市街化調整区域内に所在し、国道を隔てた極めて至近距離に存することが認められるものの、本件土地はそのすべてが既存宅地の確認を受けているのに対して、近傍土地は、その一部は宅地であるものの、他は宅地化の許可が受けられていない雑種地及び原野であり、また、国道に面する間口距離が相異するなど、その立地条件、利用価値、区画形状等が大きく異なるので、近傍土地の売買実例価額は本件土地周辺の時価を示すものとはいえない。
  3.  請求人らは、原処分庁提示の売買実例は、具体的な所在も不明で本件土地周辺の時価を適正に示しているとはいえず、譲受法人が近傍土地を売買した経緯等を参考にすると、原処分庁が依頼した不動産鑑定士が評価した価額では本件土地は売買できず、また、本件土地は賃貸されていており、自用地より地価が安くなるので、低額譲渡には該当しない旨主張する。
     しかしながら、原処分庁は、本件土地と時間的、場所的及び物件的、用途的同一性の点で類似した物件の売買実例3件を採用し、各種格差を考慮の上、1平方メートル当たりの価額を算出しており、当審判所においても相当と認められる。
     また、不動産鑑定士による鑑定評価額について、その鑑定方法及び価額は当審判所においても相当と認められる。さらに、本件土地はその地代等の状況から借地権の設定のある土地とは認められず、更地としての価額を減ずるべき理由はないと認められる。
     以上のとおり、本件土地の時価の算定に当たり、原処分庁が採用した売買実例に基づいて算定した価額と鑑定評価額が同程度の価額であること、原処分庁が買い進みや売り急ぎの事情や安全性を考慮し、鑑定評価額をもって本件土地の価額と認定したことは相当であり、請求人は、本件土地を時価の2分の1に満たない価額で法人に譲渡したと認められるから、請求人の主張は採用できない。

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