所得計算の特例

譲渡代金の回収不能

  1. 交換の特例
  2. 低額譲渡
  3. 譲渡代金の回収不能(4件)
  4. 保証債務の履行
  5. 事業廃止の場合の必要経費

支払能力・意思のない者に対し、これを知らず、土地を売却し、当該土地の転売後において、残代金の回収不能を知り、売買契約を取り消した上、不法行為による損害賠償の判決を得た場合につき、当該損害賠償請求権は実質的に土地の譲渡の対価と評価されるから、譲渡所得がなかったことにはならず、また、非課税所得にも該当しないが、債務者には弁済能力はなく、回収は事実上不可能と認められるので、所得税法第64条第1項を適用すべきであるとした事例

裁決事例集 No.48 - 100頁

 請求人は、Aとの間で、本件土地につき本件売買契約を締結し、手付金を受領した上、所有権移転登記に必要な登記委任状及び印鑑証書等をAに交付し、同日残代金として白地小切手を受領したが、Aは残代金を支払う意思も能力もなかったにもかかわらず、これを秘し請求人を誤信させたことが認められる。
 Aは、本件土地につき、登記を自己に移転した上、第三者に譲渡し、登記も移転した。請求人は、Aに対し、本件売買契約を取り消す旨の意思表示をし、次いで、損害賠償請求訴訟を提訴した結果、売買残代金相当額の支払(「本件損害賠償請求権」)の判決を得た。
 以上により判断すると、本件売買契約の取消しにより、本件土地の売買はなかったことになるが、本件損害賠償請求権の取得は実質的には本件土地の譲渡の対価と評価されるから、譲渡所得がなかったことにはならず、また、本件損害賠償請求権は、所得税法第9条第1項の非課税所得にも該当しない。
 しかし、Aは、詐欺罪で服役中であり、資産もない等の事実が認められる。資産の譲渡代金が回収不能であるというためには、法律上債権が消滅した場合がそれに当たることは当然であるが、所得税法が実質的な担税力に着目して課税要件を定めていることに照らせば債務者の資産状況、支払能力等からみて債権の回収が事実上不可能である場合もこれに該当するというべきである。
 請求人が、不法行為に基づく損害賠償として取得した売買残代金相当額の本件損害賠償請求権については、請求人が本件損害賠償請求権を放棄していないことから、同請求権は法律上消滅したということはできないが、Aには同請求権を弁済する能力はなく、同請求権の回収は事実上不可能と認めるのが相当である。
 したがって、本件の所得計算においては、所得税法第64条第1項の規定を適用し、当該金額はなかったものとみなし、原処分の一部を取り消すのが相当である。

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所得税法第64条第1項に規定する資産の譲渡代金が回収不能となった事実は、後発的事由を理由とする更正の請求をした日の2か月以上前に生じており、更正の請求は認められないとした事例

裁決事例集 No.57 - 181頁

 請求人は、本件農地を譲渡した相手方であるHが本件覚書に基づく代替農地の提供を履行しないで行方不明になったことから、同人の所在及び所有財産の調査を行い、本件譲渡代金の一部が回収不能となった事実が生じたことを平成9年10月9日に確認したのであるから、更正の請求は、所得税法第152条で規定する期限内に提出されている旨主張する。
 ところで、所得税法第64条第1項で規定する資産の譲渡代金の一部が回収不能となった事実が生じた日がいつであるかの判定は、客観的にみて当該譲渡に係る債権の回収の見込みがないことが確実となった日をもって判定すべきであるから、請求人の行った債務者の調査及び確認の作業が終了した日をもって、本件土地の譲渡代金が回収不能となった事実が生じた日に当たるとすることは相当でなく、本件にあっては、本件契約において請求人の本件譲渡に係る所得税はHが負担することになっていたのを平成9年4月25日に当該所得税を請求人自らが納付せざるを得なくなった段階で、請求人は、Hが請求人に対する債務を履行する資力がないと自認したものと認められるから、同日以前に回収見込みがないことが確実になったというべきである。
 そうすると、本件の更正の請求は、本件譲渡代金の一部が回収不能となった事実が生じた日の翌日から二月を経過してなされたことは明らかであるから所得税法第152条の適用は認められない。

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譲渡の数年後に譲渡代金相当額を請求したが回収できなかった場合において、譲渡代金の回収不能として認めなかった事例

裁決事例集 No.60 - 280頁

 請求人は、相続財産の管理を委託していたJに、同人への債務を返済するため本件土地を譲渡したところ、同人が、相殺後の残代金を支払わないまま死亡し、その相続人も相続放棄をしたため、本件未収金が回収できなくなったから、所得税法第64条第1項の規定(本件特例)を適用すべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人は、相殺後の残代金の決済について何年も具体的な取決めをせず、即時に精算を求めていないことからすれば、本件譲渡代金の残代金についてもJに引き続いて管理を委託していたとみるのが相当である。仮に、Jが、請求人名義で預金を管理していたことを請求人が知らなかったとしても、前記認定を覆すものとはいえず、かえって、請求人は、J及びその請求人に対し、貸付金又は預け金として返済を求めていることが認められる。
 したがって、本件未収金は、譲渡代金そのものが回収不能となったと見ることはできず、請求人がJに対して有する貸付金ないし預け金の返還請求権について、行使不能となったと認めるのが相当であるから、本件特例を適用する余地はない。

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売買代金の回収不能という事実の存否についての認定に基づき、資産の譲渡代金が回収不能になった場合等の所得計算の特例の適用が認められないとした事例

裁決事例集 No.65 - 257頁

 請求人は、請求人が本件土地の売買代金を受領していないから所得税法第64条第1項に規定する特例を認めるべきである旨主張するが、本件売買契約の買主を本件訴訟の被告に加えていないこと、また、買主に対して、本件土地の売買代金の支払を求めて訴訟提起をしていないだけでなく、本件土地の売買代金の請求を一切していないことからすると請求人と買主との間において本件土地の売買代金の決済を終わっているものと認めざるをえない。
 そうすると、請求人の買主に対する土地の売買代金の全部若しくは一部が回収することができない場合に当たらないことは明らかである。
 さらに、請求人は請求人の代理人には売買代金を受領する権限がないのであるから、売買代金の授受行為が民法第478条に規定する債権の準占有者に対する弁済として有効であるとしても、あるいは無効であるとしても請求人が売買代金を受領したことにはならない旨主張する。
 しかしながら、買主から請求人の代理人への支払が有効になるのであれば、請求人の買主に対する売買代金債権は民法第478条の規定により消滅しているのであるから、当該売買代金の回収不能という問題が生じないことは明らかであり、また、代理人への支払が無効になるのであれば、請求人は買主に対する本件売買代金を請求することができるのであるから、いまだ回収不能となっているわけではないことになる。
 結局、本件は請求人と買主との間における本件売買契約の代金決済が終わった後の売買代金の使途に関することであり、所得税法第64条第1項に規定する譲渡代金の回収不能とは異なる問題であるというべきであるから、これらの点に関する請求人の主張には理由がない。

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